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JP7709178B2 - リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法 - Google Patents
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JP7709178B2 - リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法 - Google Patents

リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法

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Description

本発明は、リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する方法に関する。
本願は、2021年12月9日にアメリカ合衆国に出願された63/287,534号に基づく優先権を主張し、その内容をここに援用する。
獣医臨床において、犬のリンパ腫は、発生頻度が高い重要な疾患である。具体的には、犬のリンパ腫の発生率は107/100,000dog-yearsであり、ヒトと比べて5倍以上も高い。好発犬種として、ゴールデンレトリーバーやボクサーがあげられる。犬のリンパ腫は、全腫瘍の24%、血液腫瘍の>80%を占める。犬のリンパ腫では、治療を行わない場合、多くは3か月以内に死亡するが、大部分は、現在の多剤併用化学療法の発展により、臨床的寛解へと達することができる。
犬の悪性リンパ腫の代表的な化学療法として、CHOP(チョップ)療法が挙げられる。CHOP療法は、3種類の抗がん剤(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン)に副腎皮質ホルモン(プレドニゾロン)を組み合わせた治療である。特に、ウィスコンシン大学(UW)プロトコールと呼ばれるリンパ腫に対する現在最も標準的とされるプロトコールが使用されており、当該プロトコールでは、初めの2ヶ月は毎週、その後4ヶ月は2週に1回の治療を行う、つまり、全部で6ヶ月間の治療である。犬のリンパ腫は、CHOP療法に良好に反応する。ただし、化学療法で臨床的寛解となっても、最終的には再発を免れずに死に至る状況にあり、寛解率は>85%、中央生存期間は1年間とされている。通常は、治療終了後3~4ヶ月で再燃し、1年生存率50%、2年生存率20%、3年生存率10%弱である。
現在、犬のリンパ腫における予後因子としては、解剖学的発生部位やリンパ球の表現型、臨床ステージなどの大まかな分類によるものの報告が主である。犬のリンパ腫における予後因子として報告されているものを表1に示す。
これらの予後因子は、犬の様々なリンパ腫全てにおける予後因子である場合もあり、各タイプのリンパ腫をさらに細分化する予後パラメータに乏しい。例えば、多中心型リンパ腫という均一な集団における予後因子は、未だ確立されていない。この背景として、多中心型リンパ腫の発生メカニズムや治療反応メカニズムの解明がなされていないことが挙げられる。
CpG配列(C(シトシン)とG(グアニン)が連続する塩基配列)は、その単純な確率よりも出現頻度は低く、その多くがメチル化されている。DNAメチル化とは、シトシンの5位への炭素のメチル基転移の修飾である。CpGが密に存在する場所はCpGアイランドと呼ばれており、哺乳類の遺伝子の約半数がプロモーター領域にCpGアイランドを持つと考えられている。プロモーター領域のCpGアイランド中のシトシンのメチル化は、プロモーター領域のクロマチン構造の変化をもたらすことにより、近傍遺伝子の遺伝子発現の低下と相関する。正常な細胞におけるゲノムでは、プロモーター領域のCpGアイランドではメチル化が起こっていないことが多いが、腫瘍細胞ではこれらの性質が劇的に変化し、CpGアイランドではメチル化の増加、Non-CpGアイランドでは逆にメチル化の減少(メチル化率の低下)が多く見受けられることが知られている。すなわち、DNAメチル化は、腫瘍の発症やその悪性度のバイオマーカーとなり得る。
イヌのリンパ腫においても、異常なDNAメチル化が報告されている。例えば、ゲノム全体のメチル化量の定量値が、健常な細胞よりも少ないことが報告されている(非特許文献1)。また、FHIT遺伝子(非特許文献2)、DLC1遺伝子(非特許文献3)、TFPI-2遺伝子(非特許文献4)、ABCB1遺伝子(非特許文献5)、p16遺伝子(非特許文献6)及びDAPK1遺伝子(非特許文献7)のDNAメチル化率も、リンパ腫においてメチル化量の定量値が、健常な細胞と異なっていることが報告されている。しかしながら、これらのDNAメチル化には、リンパ腫の化学療法の予後との関連を示す明確なものはない。
Pelham et al., Research in Veterinary Science, 2003, vol.74, p.101-104. Hiraoka et al., Journal of Veterinary Medical Science, 2009, vol.71(6) p.769-777. Bryan et al., BMC Genetics, 2009, 10:73. Ferraresso et al., PLOS ONE, 2014, vol.9(4), e92707. Tomiyasu et al., The Veterinary Journal, 2014, vol.199, p.103-109. Fujiwara-Igarashi et al., Research in Veterinary Science, 2014, vol.97, p.60-63. Sato et al., Veterinary and Comparative Oncology, 2018, vol.16, p.409-415. Yamazaki et al., Veterinary Journal, 2018, vol.231, p.48-54.
本発明は、リンパ腫に罹患したイヌについて、化学療法後の予後が良好であるか否かの可能性を予測する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、犬の多中心型リンパ腫症例について、DNAメチル化変化部位を定量解析したところ、化学療法後の予後が良好であった群と予後が不良であった群においてメチル化率に顕著な差がある2種のCpGサイトを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する方法であって、
予測対象のイヌから採取された生体試料から回収されたDNA中の、Chr4:29559893及びChr1:14232692からなる群より選択される1種以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された基準値に基づいて、前記リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する予測工程と、
を有し、
前記基準値が、各CpGサイトのメチル化率に対してそれぞれ設定された、化学療法後の予後が良好であったイヌと、化学療法後の予後が不良であったイヌとを識別するための値である、
リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法。
[2] 前記リンパ腫が、多中心型である、前記[1]の予後予測方法。
[3] 前記リンパ腫のサブステージが、a又はbである、前記[2]の予後予測方法。
[4] 前記化学療法が、CHOP療法である、前記[1]~[3]のいずれかの予後予測方法。
[5] 前記予測工程において、Chr4:29559893のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、前記リンパ腫に罹患したイヌが前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する、前記[1]~[4]のいずれかの予後予測方法。
[6] 前記予め設定された基準値が45%である、前記[5]の予後予測方法。
[7] 前記予測工程において、Chr1:14232692のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、前記リンパ腫に罹患したイヌが前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する、前記[1]~[6]のいずれかの予後予測方法。
[8] 前記予め設定された基準値が10%である、前記[7]の予後予測方法。
[9] 前記測定工程において、前記CpGサイトのメチル化率の測定を、バイサルファイトパイロシークエンス法により行う、前記[1]~[8]のいずれかの予後予測方法。
本発明に係るリンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法により、被検動物であるリンパ腫に罹患したイヌから採取された生体試料について、ゲノムDNA中の特定のCpGサイトのメチル化率を調べることによって、化学療法後の予後を予測することができる。
図1は、実施例1において、イヌDLBCL24症例におけるゲノムワイドなDNAメチル化解析を行い、予後不良群でメチル化が高いCpGサイトとして同定された45のCpGサイトの正常血液でのメチル化率(%)をX軸に、予後良好群及び予後不良群のメチル化率(%)をY軸にプロットした図である。 図2Aは、実施例2において、イヌDLBCL14症例におけるバイサルファイトパイロシークエンスにより求めたChr4:29559893のメチル化率(%)を示した図である。43%を境界値として、高メチル化群とメチル化群に分類した。 図2Bは、実施例2において、Chr4:29559893の高メチル化群と低メチル化群の生存曲線を示した図である。 図2Cは、実施例2において、Chr4:29559893の高メチル化群と低メチル化群の無増悪期間曲線を示した図である。 図3Aは、実施例3において、イヌDLBCL96症例のChr4:29559893及びChr1:14232692のメチル化率(%)を示した図である。 図3Bは、実施例3において、Chr4:29559893及びChr1:14232692の高メチル化群と低メチル化群の生存曲線を示した図である。 図4Aは、実施例3において、イヌDLBCL96症例のうち、Chr4:29559893とChr1:14232692が両方とも低メチル化群である群(低メチル化群1)と、Chr4:29559893とChr1:14232692のいずれか一方が低メチル化群で、他方が高メチル化群である群(低メチル化群2)と、Chr4:29559893とChr1:14232692が両方とも高メチル化群である群(高メチル化群)の生存曲線を示した図である。 図4Bは、実施例3において、低メチル化群1と低メチル化群2における、寛解した症例と寛解していない(非寛解)症例が、全症例数(96症例)に占める割合(%)を示した図である。
ゲノムDNA中のCpGサイトのシトシン塩基は、5位の炭素がメチル化修飾を受け得る。本発明及び本願明細書において、CpGサイトのメチル化率とは、一つの生物個体から採取された生体試料中のCpGサイトのうち、メチル化されているシトシン塩基(メチル化シトシン)量とメチル化されていないシトシン塩基(非メチル化シトシン)量とを測定し、両者の和に対するメチル化シトシン量の割合(%)を意味する。
本発明に係るリンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法(以下、「本発明に係る予後予測方法」ということがある。)は、リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する方法であって、下記の測定工程と予測工程を有する。
予測対象のイヌから採取された生体試料から回収されたDNA中の、Chr4:29559893及びChr1:14232692からなる群より選択される1種以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された基準値に基づいて、前記リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する予測工程。
本発明に係る予後予測方法は、犬の多中心型リンパ腫症例の予後と相関するDNAメチル化変化部位を特定し、これをバイオマーカーとして、当該DNAメチル化変化部位のメチル化率の定量解析によって、化学療法の予後を予測する方法である。当該方法を、リンパ腫の診断時、又は診断後化学療法開始前に実施することにより、診断時に化学療法の予後良好群を特定することができる。
本発明に係る予後予測方法において、予後予測する対象のリンパ腫は、リンパ球細胞のいずれかが腫瘍化した疾患であればよく、特に限定されるものではない。イヌのリンパ腫としては、例えば、体表にあるリンパ節が腫大する多中心型リンパ腫、消化器やこれに付随するリンパ節が腫大する消化器型リンパ腫、胸腺や縦隔が腫大する胸腺型(縦隔型)リンパ腫、皮膚や口腔粘膜が腫大する皮膚型リンパ腫、これら以外の生体部位が腫大する節外型リンパ腫等が挙げられる。本発明に係る予後予測方法において、予後予測する対象のリンパ腫としては、イヌのリンパ腫の8割を占める多中心型リンパ腫が好ましい。多中心型リンパ腫は、主に、下顎リンパ節、浅頸リンパ節、腋窩リンパ節、膝窩リンパ節が腫大するが、本発明に係る予後予測方法における予測対象の多中心型リンパ腫は、いずれのリンパ節が腫大するものであってもよい。また、本発明に係る予後予測方法における予測対象のリンパ腫は、原発性であってもよく、転移性であってもよい。
本発明に係る予後予測方法において、予後予測する対象のリンパ腫の悪性度は、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る予後予測方法は、サブステージがa(臨床兆候が見られない状態)であるリンパ腫に罹患した被験イヌの化学療法の予後予測をしてもよく、サブステージがb(明らかな臨床兆候が見られる状態)であるリンパ腫に罹患した被験イヌの化学療法の予後予測をしてもよい。
本発明に係る予後予測方法において、予後予測する対象の化学療法は、リンパ腫に罹患したイヌに対してなされる化学療法であれば、特に限定されるものではない。本発明においては、リンパ腫に罹患したイヌの標準的な化学療法であることから、CHOP療法の予後予測を行うことが好ましい。CHOP療法は、常法により行うことができる(<on line> https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/chop-regimen)。
本発明に係る予後予測方法において、予測対象のイヌ(被験イヌ)の犬種は、特に限定されるものではない。被験イヌの犬種としては、例えば、アメリカンコッカースパニエル、ウェルシュコーギーペンブローク、エアデールテリア、キャバリアキングチャールズスパニエル、ゴールデンレトリーバー、シーズー、ジャーマンシェパード、ジャックラッセルテリア、スタンダードプードル、スピッツ、チャイニーズクレステッドドッグ、チワワ、トイプードル、バーニーズマウンテンドッグ、バセンジー、ビーグル、ブルテリア、フレンチブルドッグ、ボクサー、ボーダーコリー、ポメラニアン、マスチフ、マルチーズ、ミニチュアシュナウザー、ミニチュアダックスフンド、ミニチュアピンシャー、ヨークシャーテリア、ラブラドールレトリバー、ワイヤーヘアードフォックステリア、柴等が挙げられる。また、雑種でもよい。本発明に係る予後予測方法における被験イヌとしては、リンパ腫の好発犬種である、ゴールデンレトリーバーやボクサー等が好ましい。
測定工程においては、被験イヌから採取された生体試料から回収されたDNA中の、Chr4:29559893及びChr1:14232692からなる群より選択される1種以上のCpGサイトのメチル化率を測定する。すなわち、本発明においては、Chr4:29559893とChr1:14232692の少なくとも一方のCpGサイトのメチル化率を、リンパ腫罹患イヌの化学療法の予後に対するバイオマーカーとする。各CpGサイトの塩基配列を表2に示す。表の塩基配列中、下線が引かれたシトシンが、対象のCpGサイトである。
Chr4:29559893とChr1:14232692は、いずれも、ゲノムDNA中のCpGサイトのうち、メチル化率が、リンパ腫に罹患して化学療法がなされたイヌのうち、化学療法後の予後が良好であったイヌ群と、化学療法後の予後が不良であったイヌ群とで、有意差があったものである。
本発明に係る予後予測方法に供される生体試料は、被験イヌから採取された生体試料であって、当該被験イヌのゲノムDNAが含まれているものであれば特に限定されるものではなく、リンパ液、血液、血漿、血清、涙液、唾液等であってもよく、消化管粘膜や、肝臓等のその他の組織から採取された組織片であってもよい。本発明に係る予後予測方法に供される生体試料としては、リンパ腫の状態をより強く反映していることから、リンパ液であることが好ましく、腫大しているリンパ節から採取されたリンパ液であることがより好ましい。その他、低侵襲であり被験イヌへの負担が抑えられる点から、血液、血漿、血清、涙液、唾液等であることも好ましい。前記リンパ液などの体液や組織片等の生体試料を採取する場合、それぞれの生体試料に応じた採取具を用いて採取すればよい。
また、当該生体試料は、DNAが抽出可能な状態であればよく、各種前処理が施されているものであってもよい。例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織であってもよい。生体試料からのDNAの抽出は常法により行うことができ、各種市販のDNA抽出・精製キットを使用することもできる。
CpGサイトのメチル化率を測定する方法としては、特定のCpGサイトについてメチル化シトシン塩基とメチル化されていないシトシン塩基を区別して定量可能な方法であれば、特に限定されるものではない。当該技術分野において公知の方法をそのまま又は必要に応じて適宜改変することによりCpGサイトのメチル化率を測定できる。CpGサイトのメチル化率の測定方法としては、例えば、バイサルファイトシークエンス法や、メチル化特異的PCR(MSP:Methylation Specific polymerase chain reaction)等が挙げられる。
本発明に係る予後予測方法では、予測工程として、前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された基準値に基づいて、前記リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する。当該基準値は、Chr4:29559893及びChr1:14232692の各CpGサイトのメチル化率に対してそれぞれ設定された、化学療法後の予後が良好であったイヌと、化学療法後の予後が不良であったイヌとを識別するための値である。各CpGサイトのメチル化率が基準値以下のイヌを低メチル化群、基準値超のイヌを高メチル化群ということがある。
本発明に係る予後予測方法では、前記予測工程において、Chr4:29559893のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、被験イヌは、低メチル化群であり、前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する。同様に、前記予測工程において、Chr1:14232692のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、被験イヌは、低メチル化群であり、前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する。
各CpGサイトのメチル化率の基準値は、例えば、リンパ腫に罹患しており、化学療法が施されたイヌのうち、少なくとも一度は寛解して予後が良好であった群のバイオマーカーとするCpGサイトのメチル化率と、一度も寛解せず予後が不良であった群の当該CpGサイトのメチル化率とを比較し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。
例えば、Chr4:29559893のメチル化率の基準値としては、25~55%の範囲内で設定することができる。例えば、当該基準値を45%とした場合、被験イヌのChr4:29559893のメチル化率が45%以下である場合に、当該被験イヌが化学療法を受けた場合に予後は良好である可能性が高いと判定する。被験イヌのChr4:29559893のメチル化率が45%超である場合に、当該被験イヌが化学療法を受けた場合に予後は良好でない可能性が高いと判定する。
例えば、Chr1:14232692のメチル化率の基準値としては、5~30%の範囲内で設定することができる。例えば、当該基準値を10%とした場合、被験イヌのChr1:14232692のメチル化率が10%以下である場合に、当該被験イヌが化学療法を受けた場合に予後は良好である可能性が高いと判定する。被験イヌのChr1:14232692のメチル化率が10%超である場合に、当該被験イヌが化学療法を受けた場合に予後は良好でない可能性が高いと判定する。
本発明に係る予後予測方法の予測工程においては、被験イヌの化学療法の予後について、Chr4:29559893のメチル化率のみから予測してもよく、Chr1:14232692のメチル化率のみから予測してもよいが、Chr4:29559893のメチル化率とChr1:14232692のメチル化率の両方に基づいて予測するほうが、より信頼性の高い予測が可能となる。例えば、Chr4:29559893のメチル化率が基準値超であり、かつChr1:14232692のメチル化率が基準値超である場合、当該被験イヌは化学療法を行っても予後は不良となると予測される。また、Chr4:29559893のメチル化率が基準値以下であり、かつChr1:14232692のメチル化率が基準値以下である場合、当該被験イヌは化学療法を行っても予後は良好になると予測される。
本発明に係る予後予測方法は、獣医師による、リンパ腫に罹患したイヌに対して化学療法を行うかどうかの判断を補助するための重要な情報を提供することができる。このため、本発明に係る予後予測方法を、リンパ腫に罹患しているイヌに対して、化学療法を行う前に行うことが好ましい。本発明に係る予後予測方法によって予後が良好であると予測された被験イヌに対しては化学療法を行い、予後が不良であると予測された被験イヌに対しては化学療法を行わないことで、治療効率をより高めることができる。
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
本発明の発明者自身が樹立したDNAメチル化のゲノムワイドな解析法であるCanine DREAM(非特許文献8)によって、プロモーター領域だけではなく、遺伝子内のエクソンやイントロン、遺伝子外部分のCpGサイトをも含むイヌゲノムにおける網羅的かつ多数(約100,000)のCpG配列の解析を、犬の多中心型リンパ腫24症例を対象に行ったところ、予後良好群と予後不良群を識別することが可能なCpG配列を2箇所特定した(Test cohort)。
(1)被験イヌ
自然発症イヌ多中心型高悪性度リンパ腫(MHGL)の24症例を被験イヌとした。MHGLは、病理学専門医が細胞診検査の所見(高分裂速度及び中から大型細胞)に基づき診断し、WHO家畜リンパ腫臨床グレーディングシステムよりグレーディングを行った。全ての症例は、最低限1回のCHOP抗がん剤治療を治療された。
(2)ゲノムDNAの抽出
DNA抽出用キット「DNeasy Blood & Tissue Kit」(Qiagen社製)を用いて、各症例の細胞診検査スライドからゲノムDNAを抽出した。
(3)イヌDREAM法
ゲノムワイドDNAメチル化は、次世代シークエンシングで解析を行った。サンプルから抽出したゲノムDNA(2μg)を2pgの人工キャリブレータ(メチル化レベル0、25、50、75、100%)に混合した。得られた混合物を、100UのSmaI酵素で25℃、3時間を処理して切断させ、次いで50UのXmaI酵素で37℃、16時間反応させた。切断されたDNAは、磁力ビーズ「Agencourt AMPure XP」(Beckman Coulter社製)で精製した。XmaIで切断されたDNAの3’突出末端に、dCTP、dGTP、及びdATPを0.4mMずつ加え、制限断片に3’-5’エキソヌクレアーゼ活性欠乏KlenowDNAポリメラーゼ(New England Biolabs社製)で3’dA末端を添加した。
その後、イルミナPaired-endシークエンシングアダプターを、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs社製) にて結合させた。ライゲーションミックスのサイズは、Agencourt AMPure XPを用いてDual-SPRIサイズセレクションを行い、250から450塩基対(bp)のDNA断片を抽出した。精製したDNAは、イルミナpair-end PCRプライマーとKAPA Hifi Hotstart Ready Mix(Kapa Biosystems)で、11サイクル数にて増幅した。増幅したシークエンスライブラリーを前記磁力ビーズで精製し、イルミナHiSeq 2000(Illumina社製)でシークエンスを行った。シークエンスしたリードを、犬のゲノム(canFam3.1)のSmaI/XmaIサイトにマッピングし、SmaI/XmaIサイトにおいてメチル化及び非メチル化CpGのシグネチャーを計算した。その後、単独のSmaI/XmaIサイトのメチル化頻度を計算した。メチル比はCCGGGから始まるタグの数をSmaI/XmaIサイトにマップしたタグの総数を割った。
DREAMによる計算されたメチル化レベルは、スタンダードのスパイクに基づいて補正した。スタンダード毎にログ比ln(m/u)とln(sm/u)を計算し、m/uは予想したメチル化と非メチル化比であり、smとuはそれぞれ、観察したメチル化と非メチル化比である。スタンダード毎に「予測」から「観察」のログ比を引いて計算した。補正係数(c)の計算は、log([予測]-[観察])の平均のアンチログで行い、個々のCpGサイトの補正したメチル値を、100% ×[c×sm/(c×[sm + u])]で計算した。
最低限20シークエンシングリードを用いて、単一のSmaI/XmaIサイトのメチル化レベルを解析した。
(4)統計学的解析
ゲノムワイドDNAメチル化解析では、群の間のDNAメチルレベルは、t-testで解析した。多重検定の補正は、Benjamini―Hochberg法を用いてFDR10%でメチル化差を確認した。Test cohortの生存曲線は、Kaplan-Meier法で描出した。MHGL症例においてCpGサイトのDNAメチル化パターンが異なる症例群の平均生存期間を比較した。生存曲線間の有意差をlog rank testで比較した。MHGLと関係のない死亡の症例、追跡不可能の症例又は生きている症例のデータを打ち切りして除外した。
対照として、3種の正常末梢血液由来のゲノムDNAについても、同様にしてCpGメチル化率を測定した。
(6)結果
本実験では、24症例の全てのサンプルにおいて共通してデータの得られた40,128個のCpGサイトを解析に用いた。CpGアイランドにおける16,992個のCpGサイトを用いてクラスタリング解析を行ったところ、症例が複数群に分かれることが判明した。
この複数群について、生存曲線と寛解期間を描いたところ、各群で有意な差が得られた。これらの結果から、CpGアイランドのゲノムワイドDNAメチル化パターンにより、化学療法の予後良好群が抽出されることが判明した。
次に、この予後良好群を規定するCpGサイトを探索するために、ボルケーノプロット解析を行い、予後良好群、予後不良群の直接の比較を行った。ボルケーノプロット解析では、その検出力を上げるために、24症例の80%以上である20症例以上において共通して比較解析が可能であったCpGアイランド38,693サイトにおける予後良好群9症例、その他予後不良群15症例のそれぞれの平均をとり、その差とp値を示した。
20%以上のメチル化の差、及び0.01以下の統計的有意差を示したCpGサイトの数は、予後不良群でメチル化が高いCpGサイトが520個、予後良好群でメチル化が高いCpGサイトが414個と、計934CpGサイトが同定された。これらのうち、近傍に遺伝子が存在し、そのプロモーター領域に存在すると考えられるCpGサイトから関連遺伝子数を算出したところ、予後不良群でメチル化が高いCpGサイトは45遺伝子であるのに対し、逆の傾向を示すCpGサイトが5遺伝子であり、予後不良群で高メチル化を示す遺伝子が多いことが判明した。
次に、この45遺伝子及び45CpGサイトの解析を行った。図1は、これら45CpGサイトの正常血液でのメチル化率(%)をX軸に、予後良好群及び予後不良群のメチル化率(%)をY軸にプロットした図である。図1に示すように、これらのほとんどのCpGサイトは、正常血液においてメチル化率が20%以下と低く、予後良好群においてもほとんどが20%以下だが、予後不良群だけが20%を超え、一部は40~60%のメチル化率を示した。また、Gene ontology解析によって、これらの45遺伝子の中には、BMP、WNTなどのシグナル伝達及び分化成熟に重要な遺伝子が多いことが判明した(表3)。
[実施例2]
実施例1において化学療法の予後マーカーとして同定された候補CpGサイトのDNAメチル化解析によって、新たな症例グループにおける予後の状態の予測が可能であるかを検討した。具体的には、実施例1と症例とは異なる14症例の新たなDLBCL症例に対し、今度は局所解析に関して信頼性が高く、またDREAMに比べ安価かつ迅速、簡易な解析が可能なバイサルファイトパイロシークエンスを用いて解析した。対象CpGサイトとしては、実施例1のDREAM解析によって、予後良好群と予後不良群のメチル化率の差及び有意差ともにトップランクのCpGサイト(Chr4:29559893)を選抜した。
図2Aに、14症例のChr4:29559893のバイサルファイトパイロシークエンスにより求めたメチル化率(%)を示した。DREAM解析における予後良好群のこのCpGサイトの平均メチル化率+SD値である43%を境界値として、今回の14症例を分類したところ、高メチル化群8例、低メチル化群6例に分けられた。次いで、高メチル化群と低メチル化群について、図2Bに生存曲線を、図2Cに無増悪期間曲線を描いた。この結果、生存期間、無増悪期間ともに予後良好群における低メチル化と相関することが再確認され、DREAM解析によって予後と関連するCpGサイトの同定が可能であることが確認された。
[実施例3]
実施例1のイヌDREAM法よりゲノムワイドDNAメチル化解析から特定した、予後良好群と予後不良群のメチル化率の差及び有意差ともにトップランクの2個のCpGサイトであるChr4:29559893とChr1:14232692について、確証実験として、犬の多中心型リンパ腫と診断された96症例の細胞標本スライドからDNAを抽出し、当該CpG配列を対象にバイサルファイトパイロシークエンス法(バイサルファイト処理及びパイロシークエンシング法)を用いてDNAメチル化レベルを定量した(Validation cohort)。
(1)被験イヌ
実施例1とは異なるMHGLの96症例を被験イヌとした。MHGLは、病理学専門医が細胞診検査の所見(高分裂速度及び中から大型細胞)に基づき診断し、WHO家畜リンパ腫臨床グレーディングシステムよりグレーディングを行った。全ての症例は、最低限1回のCHOP抗がん剤治療を治療された。
96症例中、サブステージa(臨床兆候が見られない状態)が67症例(70%)、サブステージb(明らかな臨床兆候が見られる状態)が29症例(30%)であった。また、被験イヌ96症例の犬種を表4に示す。
(2)ゲノムDNAの抽出
各症例の細胞診検査スライドからのゲノムDNAの抽出は、実施例1と同様にして行った。
(3)バイサルファイト処理及びパイロシークエンシング
バイサルファイトパイロシークエンシング法により、特定したターゲットCpGサイト(Chr4:29559893とChr1:14232692)のDNAメチル化率を、定量化して評価した。ゲノムDNAを、「EZ DNA Methylation-Lightning Kit」(Zymo Research社製)を用いて、バイサルファイト処理を行った。次に、前記ターゲットCpGサイトに特異的なプライマーを用いて、two-step PCRにより当該CpGサイトを含む領域を増幅した。CpGサイトのDNAメチル化率は、PSQ24システムのPyro-Gold Reagent Kit(QIAGEN社製)を用い、パイロシークエンシングによってDNAメチル化レベルのパーセンテージ(CpGメチル化率)を測定した。
(4)統計学的解析
ゲノムワイドDNAメチル化解析では、群の間のDNAメチルレベルは、t-testで解析した。多重検定の補正は、Benjamini―Hochberg法を用いてFDR10%でメチル化差を確認した。Validation cohortの生存曲線は、Kaplan-Meier法で描出した。Validation cohortのMHGL症例において、特定したターゲットCpGサイトのDNAメチル化パターンが異なる症例群の平均生存期間を比較した。生存曲線間の有意差をlog rank testで比較した。MHGLと関係のない死亡の症例、追跡不可能の症例又は生きている症例のデータを打ち切りして除外した。
(5)結果
図3Aに、96症例のChr4:29559893及びChr1:14232692のメチル化率(%)を示した。図3Aに示すように、どちらのCpGサイトも、DNAメチル化レベルは不均一性を示した(症例によって様々なDNAメチル化レベルを示した)。また、両CpGサイトもDNAメチル化レベルの測定に関する成功率は97%以上であった。
図3Aの結果から、便宜的に、高メチル化群と低メチル化群を分ける基準値を、Chr4:29559893は45%、Chr1:14232692は10%とし、高メチル化群と低メチル化群について、図3Bに生存曲線を描いた。この結果、両CpGサイトはいずれも、高メチル化群の予後が、低メチル化群に比較して悪いこと、言い換えると、低メチル化群のほうが予後が良好であることが示された。これらの結果は、実施例1及び2における結果とも一致していた。
また、図3Aの結果を用いて、Chr4:29559893とChr1:14232692の両方のメチル化率を組み合わせて予後予測を行った。イヌDLBCL96症例のうち、Chr4:29559893とChr1:14232692が両方とも低メチル化群である群(低メチル化群1)は17症例であり、Chr4:29559893とChr1:14232692のいずれか一方が低メチル化群で、他方が高メチル化群である群(低メチル化群2)は74症例であり、Chr4:29559893とChr1:14232692が両方とも高メチル化群である群(高メチル化群)は31症例であった。Chr4:29559893とChr1:14232692の少なくとも一方が低メチル化群である群のうち、両方が低メチル化群である低メチル化群1は18%であり、82%がいずれか一方のみが低メチル化群である低メチル化群2であった。
図4Aに、低メチル化群1、低メチル化群2、及び高メチル化群の生存曲線を示した。低メチル化群1は、低メチル化群2や高メチル化群に比べて、格段に良好な予後を示した。低メチル化群1の2年生存率は50%であり、現在の標準的な予後よりも大幅に良好な予後が見込めた。
図4Bに、低メチル化群1と低メチル化群2における、寛解した症例と寛解していない(非寛解)症例が、全症例数(96症例)に占める割合(%)を示す。この結果、低メチル化群1では、17症例(18%)中14症例(15%)が寛解しており、82%といった高い寛解率を示した。
本結果は、臨床的に応用が容易なリスク評価、予後判定、治療反応性の予測などバイオマーカーとしての有用性を示唆している。この際、個々の部位のDNAメチル化解析において最も信頼性の高いパイロシークエンス法を用いることで、特定領域のDNAメチル化解析を多数の症例サンプルに適用可能であった。このため、コストを抑えた疾患特異的DNAメチル化候補領域の検討が可能であり、多数の症例に対する普遍性を重点的に検証することが可能である。

Claims (9)

  1. リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する方法であって、
    予測対象のイヌから採取された生体試料から回収されたDNA中の、Chr4:29559893及びChr1:14232692からなる群より選択される1種以上のCpGサイトのメチル化率を測定する測定工程と、
    前記測定工程において測定されたメチル化率と、予め設定された基準値に基づいて、前記リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後を予測する予測工程と、
    を有し、
    前記基準値が、各CpGサイトのメチル化率に対してそれぞれ設定された、化学療法後の予後が良好であったイヌと、化学療法後の予後が不良であったイヌとを識別するための値である、
    リンパ腫に罹患したイヌの化学療法後の予後予測方法。
  2. 前記リンパ腫が、多中心型である、請求項1に記載の予後予測方法。
  3. 前記リンパ腫のサブステージが、a又はbである、請求項2に記載の予後予測方法。
  4. 前記化学療法が、CHOP療法である、請求項1に記載の予後予測方法。
  5. 前記予測工程において、Chr4:29559893のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、前記リンパ腫に罹患したイヌが前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する、請求項1に記載の予後予測方法。
  6. 前記予め設定された基準値が45%である、請求項5に記載の予後予測方法。
  7. 前記予測工程において、Chr1:14232692のメチル化率が、予め設定された基準値以下である場合に、前記リンパ腫に罹患したイヌが前記化学療法を受けた後の予後は良好である可能性が高いと判定する、請求項1に記載の予後予測方法。
  8. 前記予め設定された基準値が10%である、請求項7に記載の予後予測方法。
  9. 前記測定工程において、前記CpGサイトのメチル化率の測定を、バイサルファイトパイロシークエンス法により行う、請求項1に記載の予後予測方法。
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