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JP7710751B2 - 原子の電子状態スプリッター、原子干渉計、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータおよび原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法 - Google Patents
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JP7710751B2 - 原子の電子状態スプリッター、原子干渉計、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータおよび原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法 - Google Patents

原子の電子状態スプリッター、原子干渉計、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータおよび原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法

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Description

本発明は、原子の電子状態スプリッター、原子干渉計、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータおよび原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法に関する。
本出願は、米国仮特許出願第63153434号および特願2021‐116217を基礎とする優先権を主張する。当該出願の明細書は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
原子遷移周波数を高精度に測定する手法として、ラビ分光、ラムゼー分光が知られている(例えば、非特許文献1参照)。なお本明細書では、原子、分子、イオンも含めた状態の遷移を「原子遷移」と呼ぶ。
これらの分光法では、原子にコヒーレントな励起光(プローブ光)をパルス的に照射することにより原子を励起する。原子の遷移確率は、プローブ光の周波数に応じてが鋭敏に変化する。従って遷移確率を測定することにより、遷移周波数を高い精度で観測することができる。
また原子を光格子の格子点付近にトラップし、これを原子移動経路上で移動させて運ぶ「移動光格子」が提案されている(例えば、特許文献1参照)
国際公開第2014/027637号
F. Riehle, "Frequency standards: basics and applications" John Wiley & Sons (2006), ISBN: 978-3-527-60595-8 G. Santarelli, C. Audoin, A. Makdissi, P. Laurent, G.J. Dick, A. Clairon, Frequency stability degradation of an oscillator slaved to a periodically interrogated atomic resonator, IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, 45 (1998) 887-894. A.V. Taichenachev, V.I. Yudin, C.W. Oates, C.W. Hoyt, Z.W. Barber, L. Hollberg, Magnetic Field-Induced Spectroscopy of Forbidden Optical Transitions with Application to Lattice-Based Optical Atomic Clocks, Physical Review Letters, 96 (2006) 083001. T. Kishimoto, H. Hachisu, J. Fujiki, K. Nagato, M. Yasuda, H. Katori, Electrodynamic trapping of spinless neutral atoms with an atom chip, Physical Review Letters, 96 (2006) 123001. M. Schioppo, R. C. Brown, W. F. McGrew, N. Hinkley, R. J. Fasano, K. Beloy, T. H. Yoon, G. Milani, D. Nicolodi, and J. Sherman, "Ultrastable optical clock with two cold-atom ensembles", Nat. Photon. 11, 48 (2017) W. Bowden, A. Vianello, I. R. Hill, M. Schioppo, and R. Hobson, "Improving the Q factor of an optical atomic clock using quantum nondemolition measurement", Phys. Rev. X 10, 041052 (2020) S. Dorscher, A. Al-Masoudi, M. Bober, R. Schwarz, R. Hobson, U. Sterr, and C. Lisdat, "Dynamical decoupling of laser phase noise in compound atomic clocks", Commun. Phys. 3, 1 (2020) M. Takamoto, I. Ushijima, N. Ohmae, T.Yahagi, K. Kokado, H. Shinkai, and H.Katori, "Test of general relativity by a pair of transportable optical lattice clocks", Nat. Photon. (2020)
ラムゼー分光では、原子が励起光と2回相互作用する。このとき励起光と相互作用する時間的または空間的間隔が大きいほど、分光計測の測定精度は高くなる。しかしながら励起光を空間的に隔てる場合は、光を分割、反射させるミラーの機械的安定度に起因して、励起光のコヒーレンスが劣化する。このため、精度を上げようとして間隔を広げれば広げるほど、ミラーの機械的安定度を高めなければならない。この場合、コヒーレンスの維持が困難となる。一方、励起光を時間的に隔てる場合は、ミラーの機械的安定度の問題からは解放される。しかしその一方で、ラムゼー分光と原子の状態検出とを時間的に分けることが必要となる。この場合、連続的な周波数測定ができないことに起因して、光の位相敏感に安定化を行うことができない。極低温原子の生成と捕獲および状態検出に要する時間はラムゼー分光に対して無駄な時間となるため、Dick限界と呼ばれる安定度の限界が生じることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。このように、ラビ分光やラムゼー分光を用いる従来の方式では、高精度の周波数測定を連続的に行うことが難しい。さらに、測定精度を上げる目的で原子とレーザー光との相互作用時間を長くするほど、レーザー光には高い周波数安定度が要求される。このようなレーザー光の生成には、数10cm7の長さの光共振器の参照が不可欠なため、装置が大型化する原因となる。すなわち従来の分光手法では、コンパクトな装置で高精度な原子遷移周波数測定をすることが困難である。
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンパクトな装置を用いて、高精度な分光計測を実現することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様の原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場生成部と、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。プローブレーザー光源は、原子移動経路内に、原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給する。磁場生成部は、原子移動経路に原子移動経路と直交する磁場を生成することで電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合し、プローブレーザーによる時計遷移の励起を可能にする。
この態様によれば、時間・空間的に一様なプローブレーザーを用いて任意のパルス面積の励起を実現できる。従って、原子の内部状態を任意の重ね合わせ状態に分岐可能な、原子の電子状態スプリッターを実現することができる。この態様の原子の電子状態スプリッターは、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータ、など様々な用途に応用することができる。
ある実施の形態では、原子の電子状態スプリッターは、第1の光格子レーザー光源と、第2の光格子レーザー光源と、を備えてもよい。第1の光格子レーザー光源および第2の光格子レーザー光源は、原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対を供給することにより、定在波のなす光格子を形成する。光格子レーザーの対は、各光格子レーザーの周波数が互いにシフトされている。こうして形成される光格子は、原子移動経路に沿って移動する移動光格子となっている。移動光格子は、原子を原子移動経路に沿って運ぶ。
ある実施の形態では、各光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定されてもよい。
ある実施の形態では、磁場は、魔法周波数のAC磁場(例えば、魔法周波数に合わせたレーザー光の磁場成分を有する磁場)であってもよい。
本発明の別の態様は、原子干渉計である。この原子干渉計は、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、第1の磁場生成部と、第2の磁場生成部と、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。プローブレーザー光源は、原子移動経路内に、原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給する。第1の磁場生成部および第2の磁場生成部は、原子移動経路に原子移動経路と直交しかつプローブ光の電場と平行な磁場を生成することにより、電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合し、プローブレーザー光による励起を可能にする原子の電子状態スプリッターを複数設置する。
この態様によれば、コンパクトかつ高精度な原子干渉計を実現することができる。
ある実施の形態では、原子干渉計は、電子状態スプリッターによる電子状態操作の後の原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給する検出用レーザー光源を備え、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部は、原子とプローブレーザーとの相互作用長に相当する間隔を空けて配置されてもよい。このとき、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部はそれぞれ、磁場とプローブレーザーとの組み合わせにより、原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現してもよい。
ある実施の形態では、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部は、間隔を空けずに互いに隣接して配置されてもよい。このとき、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部とプローブレーザーはそれぞれ、原子にπ/2のパルス面積を持つパルスを与えることにより、パルス面積は合わせてπとなり、ラビ分光が実現される。
本発明のさらに別の態様は、原子遷移周波数測定装置である。この装置は、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、第1の磁場生成部と、第2の磁場生成部と、検出用レーザー光源と、検出器と、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。プローブレーザー光源は、原子移動経路内に、原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給する。第1の磁場生成部および第2の磁場生成部は、原子とプローブレーザーとの相互作用長に相当する間隔を空けて配置される。第1の磁場生成部および第2の磁場生成部は、原子移動経路に原子移動経路と直交しかつプローブ光の電場と平行な磁場を生成することにより、電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合し、プローブレーザー光による励起を可能にする。第1の磁場生成部および第2の磁場生成部はそれぞれ、磁場とプローブレーザーとの組み合わせにより、原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現する。検出用レーザー光源は、パルス照射を受けた後の原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給する。検出器は、原子のある電子状態の占有数に比例する蛍光強度を測定する。
この態様によれば、コンパクトかつ高精度な原子遷移周波数測定装置を実現することができる。
ある実施の形態では、原子遷移周波数測定装置は、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部の前段または後段にラビスペクトル測定用磁場生成部を備えてもよい。第1の磁場生成部と第2の磁場生成部との間隔は、ラビスペクトル測定用磁場生成部の相互作用長より長い。
ある実施の形態では、原子遷移周波数測定装置は、互いに長さの異なる複数の磁場生成部の対を備えてもよい。
ある実施の形態では、原子遷移周波数測定装置は、第1の磁場生成部および第2の磁場生成部の前段または後段にラビスペクトル測定用磁場生成部を備えてもよい。このとき、第1の磁場生成部と第2の磁場生成部との間隔は、ラビスペクトル測定用磁場生成部の相互作用長より長い。
ある実施の形態では、原子移動経路は、中空コアファイバーの導波路であってもよい。
ある実施の形態では、原子は、移動光格子により原子移動経路に沿って運ばれてもよい。
ある実施の形態では、原子をトラップした光格子が原子移動経路内に固定されてもよい。このとき、磁場生成部の対によって生成された磁場が原子移動経路を移動する。
本発明のさらに別の態様は、光格子時計および原子発振器である。この光格子時計および原子発振器は、前述の原子の電子状態スプリッターと、原子状態検出器と、その出力に応じた周波数制御回路と、を備える。
ある実施の形態では、光格子時計および原子発振器は、リング共振器と、ビート周波数検出器と、第1のDDS(Direct Digital Synthesizer)と、第2のDDSと、第3のDDSと、第1の光周波数変調器と、第2の光周波数変調器と、第3の光周波数変調器と、を備えたドップラーシフト補償部を備えてもよい。
この態様によれば、コンパクトかつ高精度な光格子時計および原子発振器を実現することができる。
本発明のさらに別の態様は、量子コンピュータである。この量子コンピュータは、前述の原子の電子状態スプリッターを備える。
この態様によれば、コンパクトかつ大規模な量子コンピュータを実現することができる。
本発明のさらに別の態様は、原子の電子状態スプリッターを用いた原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法である。原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場生成部と、を備える。この方法は、原子供給部を用いて、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップと、プローブレーザー光源を用いて、原子移動経路内に、原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給するステップと、磁場生成部を用いて、原子移動経路に原子移動経路と直交する磁場を生成することにより、電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合し、プローブレーザー光による励起を可能にするステップと、を備える。
この態様によれば、一様なプローブレーザーを用いて任意のパルス面積を実現することができる。従って、原子の内部状態を任意の重ね合わせ状態に分岐可能な、原子の電子状態を実現することができる。この態様の原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法は、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータなど様々な用途に応用することができる。
本発明のさらに別の態様は、非ゼロの全角運動量(F≠0)を持つ原子に対する電子状態スプリッターである。この原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、磁気シールドと、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。磁気シールドは、原子移動経路を取り囲んで構成される。この磁気シールドは、取り囲んだ部分のシールド内で外部の磁場を低減する。プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを原子移動経路内に供給する。これにより、シールド位置で原子を励起させることができる。
この態様によれば、原子の電子状態スプリッターにおいて、
・1次のゼーマンシフトで励起の制御が可能
・正負の磁気副準位(±m状態)に対応するゼーマンシフト±fの計測を行い、その平均を取ることで1次ゼーマンシフトの補償が可能
・また1次ゼーマンシフトから磁場を推定し、その結果から2次ゼーマンシフトの補償が可能
・この結果、磁場や駆動電源の較正が不要
・磁場誘起型の手法に比べ、2次ゼーマンシフトおよび光格子光シフトを1/1000程度に低減可能
とすることができる。
本発明のさらに別の態様は、原子干渉計である。この原子干渉計は、非ゼロの全角運動量(F≠0)を持つ原子に対する電子状態スプリッターを複数備える。すなわちこの原子干渉計は、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、第1の磁気シールドと、第2の磁気シールドと、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、原子移動経路を取り囲んで構成される。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、それぞれが取り囲んだ部分の第1シールド位置および第2シールド位置で外部の磁場を低減する。プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを原子移動経路内に供給する。これにより、第1シールド位置および第2シールド位置で原子を励起させることができる。
この態様によれば、原子干渉計において、
・1次のゼーマンシフトで励起の制御が可能
・正負の磁気副準位(±m状態)に対応するゼーマンシフト±fの計測を行い、その平均を取ることで1次ゼーマンシフトの補償が可能
・また1次ゼーマンシフトから磁場を推定し、その結果から2次ゼーマンシフトの補償が可能
・磁場誘起型の手法に比べ、2次ゼーマンシフトおよび光格子光シフトを1/1000程度に低減可能
とすることができる。
本発明のさらに別の態様は、原子遷移周波数測定装置である。この原子遷移周波数測定装置は、原子供給部と、原子移動経路と、第1の磁気シールドと、第2の磁気シールドと、プローブレーザー光源と、磁場源と、検出用レーザー光源と、検出器と、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、原子移動経路を取り囲んで構成される。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、それぞれが取り囲んだ部分の第1シールド位置および第2シールド位置で外部の磁場を低減する。プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを原子移動経路内に供給することにより、第1シールド位置および第2シールド位置で当該原子を励起させる。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、第1シールド位置および第2シールド位置で原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現する。検出用レーザー光源は、パルス照射を受けた後の原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給する。検出器は、原子の電子状態の占有数に比例する信号を測定する。
この態様によれば、ラムゼー分光において、
・1次のゼーマンシフトで励起の制御が可能
・正負の磁気副準位(±m状態)に対応するゼーマンシフト±fの計測を行い、その平均を取ることで1次ゼーマンシフトの補償が可能
・また1次ゼーマンシフトから磁場を推定し、その結果から2次ゼーマンシフトの補償が可能
・磁場誘起型の手法に比べ、2次ゼーマンシフトおよび光格子光シフトを1/1000程度に低減可能
とすることができる。
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、コンパクトな装置を用いて、高精度な原子遷移周波数測定を実現することができる。
従来手法のラムゼー分光による原子遷移周波数測定装置の模式図である。 第1の実施の形態に係る原子の電子状態スプリッターの模式図である。 第2の実施の形態に係る原子の電子状態スプリッターの模式図である。 第3の実施の形態に係る原子干渉計の模式図である。 第5の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の模式図である。 図5の原子遷移周波数測定装置の一部の拡大図である。 図6の構成におけるx方向の磁場Bの分布と2次のゼーマンシフトを示すグラフである。 図6の構成における原子の励起状態占有数の時間変化を示すグラフである。 図6の構成における原子の励起状態占有数を周波数離調の関数で示すグラフである。 第6の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の模式図である。 図7の構成におけるラムゼースペクトルとラムスペクトルとを示すグラフである。 第6の実施の形態による効果を確認するためのシミュレーション結果を示すグラフである。 第7の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の模式図である。 第8の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の模式図である。 第9の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の原子移動経路の模式図である。 第10の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の原子移動経路の模式図である。 第11の実施の形態に係る光格子時計の模式図である。 第12の実施の形態に係る量子コンピュータの模式図である。 第14の実施の形態に係る原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法のフローチャートである。 第15の実施の形態に係るドップラーシフト補償装置の模式図である。 図20のドップラーシフト補償装置における光学測定系の模式図である。 第16の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の模式図である。 図22の分光領域におけるゼーマンシフトを示す図である。 m=±Iの磁気副準位の状態占有数を測定する原理を示す模式図である。 図22の構成における原子の励起状態占有数とゼーマンシフトの時間変化を示す図である。 図22の構成におけるm=-9/2とm=+9/2のラムゼースペクトルを示す図である。 図26の拡大図である。
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項の中で「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するだけのためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
具体的な実施の形態を説明する前に、基礎となる知見を述べる。図1は、従来手法のラムゼー分光による原子遷移周波数測定装置100の模式図である。原子遷移周波数測定装置100は、原子を加熱するためのオーブン101と、4本の平行なプローブレーザー102a、102b、102cおよび102dと、検出器103と、を備える。オーブン101で加熱された原子ビームは、紙面の右向きに速度vで運動する。プローブレーザー102aおよび102bは紙面の上向き、プローブレーザー102cおよび102dは紙面の下向きであるが、これらはいずれも原子の運動方向と直交する。基底状態の原子は、プローブレーザー102aと相互作用し、基底状態と励起状態の重ね合わせ状態に遷移する。このうち励起状態に遷移する際には、プローブ光子の運動量が付与される結果、原子の軌道も2つに分岐する。同様の電子状態と運動状態の遷移が102b-cで起こる結果、2つの閉じた原子軌道Tr1およびTr2が形成される(図1では2つの台形で示されている)。これらは2つの独立な干渉計となっている。この干渉計を用いて、原子遷移の周波数を測定することができる。このとき原子とプローブレーザーとの相互作用時間が長ければ長いほど測定精度は向上するが、その反面プローブレーザー照射の機械的安定性が損なわれる。その結果、計測精度が劣化するという問題がある。すなわち、測定精度を上げようとするほど、4本のプローブレーザー間の位相制御を機械的に行うことが難しいというトレードオフが発生する。これにより測定精度の向上には限界が発生する。さらにこうした干渉計を原子時計に使う場合、干渉計が有限な面積を囲むため、サニャック効果による回転加速度が検出される。これは原子干渉計にとってノイズとなる。
[第1の実施の形態]
図2は、第1の実施の形態に係る原子の電子状態スプリッター1の模式図である。原子の電子状態スプリッター1は、原子供給部11と、原子移動経路12と、プローブレーザー光源13と、磁場生成部Mと、を備える。
原子供給部11は、原子供給源と、レーザー冷却用のレーザー光源と、を備える。原子供給源は、原子移動経路12を一定速度で移動する原子(例えば88Sr)を供給する。具体的には、原子は、原子供給部11内のレーザー冷却用のレーザー光源と相互作用して冷却された後、原子移動経路12に送られる。この原子は、原子移動経路12を一定速度vで移動する。
原子移動経路12は、原子が移動するガイドとして機能する。原子移動経路12は、例えば、自由空間中の移動定在波、光共振器中の移動定在波、あるいは光導波路中の移動定在波などを用いて形成することができる。これらの定在波を構成する光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定してもよい。あるいは、原子ガイドは、2次元の磁場トラップ、2次元の電場トラップによって形成してもよい(例えば、非特許文献4参照)。
プローブレーザー光源13は、原子移動経路12内に、原子移動経路12と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給する。すなわちプローブレーザーの伝播方向は、原子の運動方向と平行または反平行である。図2では、一例として、原子の運動と逆向きに(すなわち、原子の運動方向と半平行に)伝播するプローブレーザーを示している。
磁場生成部Mは、原子移動経路12を取り囲んで構成される。磁場生成部Mは、原子移動経路12内に、原子移動経路12と直交し、かつプローブレーザー電場と平行な磁場Bを生成する。原子移動経路12を一定速度vで移動する原子は、磁場生成部Mの箇所で電気双極子遷移許容となる。これにより、原子移動経路12の同軸上に一様に照射されたプローブレーザーは、原子に対して任意のパルス面積を与えることができる。
磁場生成部Mは、例えば、永久磁石、電磁石またはこれらの組み合わせを用いて形成することができる。
プローブレーザーの強度をIとし、プローブレーザー電場と平行な磁場の大きさBが与えられたとした場合のラビ周波数Ωは、以下で表される。
Ω=2πα√I |B|・・・(1)
ここでパラメータαは、カップリング係数と呼ばれる。プローブレーザーの偏光と磁場Bとが平行であると仮定すると、ストロンチウム原子に対するカップリング係数αは、α=198Hz/(√(mW/cm))である(例えば、非特許文献3参照)。
状態1(基底状態)にある原子が、時間tの間、共鳴なプローブ光を照射されたとする。このとき当該原子が状態1に見出される確率P(t)および状態2(励起状態)に見出される確率P(t)は、パルス面積Ω・tを用いてそれぞれ、
(t)=|a=1/2(1+cos Ω・t)・・・(2)
(t)=|a=1/2(1-cos Ω・t)・・・(3)
と表される。ここでaおよびaはそれぞれ、状態1および状態2の確率振幅である。
このように原子移動経路12を一定速度vで移動した原子は、磁場生成部Mの箇所で、量子力学的重ね合わせ状態になる。言い換えれば本装置は、原子の内部状態を量子力学的重ね合わせ状態に分岐させる状態スプリッターとして機能する。さらに本装置は、原子の移動速度v、励起光強度I、磁場形状によって、(2)式および(3)式に示されるパルス面積Ω・tを任意に変えることができる。
本実施の形態によれば、一様なプローブレーザーを用いて任意のパルス面積を実現することができる。従って、原子の内部状態を任意の重ね合わせ状態に分岐可能な、原子の電子状態スプリッターを実現することができる。この原子の電子状態スプリッターは、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータなど様々な用途に応用することができる。
図1に示される従来手法のラムゼー分光では、プローブレーザーの伝播方向と、原子の運動方向とが直交している。これにより、原子は「横励起」される。上で説明したように、このような場合には、装置的な位相関係が固定された複数のプローブレーザーを与える必要があった。これに対し本実施の形態では、プローブレーザーの伝播方向と原子の運動方向とが同軸上にある。これにより、原子は「縦励起」される。このように本実施の形態では、原子が縦励起されることから、1本のプローブレーザーで原子ビーム全域をカバーできるという顕著な特徴がある。従って、従来手法のような複数のプローブレーザー間における位相関係を確定させるための機械的安定度を不要とすることができる。
[第2の実施の形態]
図3は、第2の実施の形態に係る原子の電子状態スプリッター2の模式図である。原子の電子状態スプリッター2は、原子供給部11と、原子移動経路12と、プローブレーザー光源13と、磁場生成部Mと、第1の光格子レーザー光源161と、第2の光格子レーザー光源162と、を備える。すなわち原子の電子状態スプリッター2は、図2の原子の電子状態スプリッター1の構成に追加して、第1の光格子レーザー光源161と、第2の光格子レーザー光源162と、を備える。原子の電子状態スプリッター2のその他の構成は、原子の電子状態スプリッター1の構成と共通する。
第1の光格子レーザー光源161および第2の光格子レーザー光源162は、互いに逆向きに進む光格子レーザーの対(光格子レーザー1および光格子レーザー2)を供給することにより、原子移動経路12に、定在波のなす光格子を形成する。光格子レーザーの周波数は、魔法周波数からドップラーシフト分ずれた周波数に設定してもよい。
光格子レーザー1および光格子レーザー2は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、原子移動経路12に沿って移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、前述の原子を、原子移動経路12に沿って一定速度で運ぶ。
この実施の形態によれば、原子を移動する光格子に閉じ込めることにより、当該原子を一定速度vで運ぶことができる。このとき相互作用長をlとすると、観測時間Tはl/vで与えられる。周波数の測定精度は、観測時間Tの-1乗に比例して向上する。
この場合、各光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定されてもよい。
本実施の形態によって得られるさらなる効果として、原子がラム・ディッケ(Lamb Dicke)領域に閉じ込められるため、ドップラー効果が消失するということがある。これにより、励起箇所は2箇所で十分となり、従来の光領域のラムゼー分光のように3箇所以上で励起を行う必要がなくなる。
移動光格子を利用した上記の実施の形態から得られるさらなる効果として、プローブを横方向から入射させるための開口が不要となるので、外場(黒体輻射、電場、磁場等)からのシールドをより完全にできるということがある。
[第3の実施の形態]
図4は、第3の実施の形態に係る原子干渉計3の模式図である。この原子干渉計3は、前述の実施の形態の原子の電子状態スプリッターを複数個組み合わせることによって、原子の電子状態のスプリット(分岐)とコンバイン(結合)を行う。具体的には、原子干渉計3は、原子供給部11と、原子移動経路12と、プローブレーザー光源13と、第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2と、を備える。第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2とのペアをMPと書く。図2の原子の電子状態スプリッター1が1つの磁場生成部Mを備えるのに対し、原子干渉計3は、2つの磁場生成部(すなわち、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2)を備える点で異なる。
本実施の形態によれば、コンパクトかつ高精度な原子干渉計を実現することができる。
第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2とは、互いにlの間隔を空けて配置される。lは、原子とプローブレーザーとの相互作用長を与える。第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2は、原子移動経路12内に、原子移動経路12と直交し、プローブレーザーの電場と平行な磁場Bを生成する。原子移動経路12を一定速度vで移動する原子は、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の箇所で双極子遷移許容となる。第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2におけるパルス面積Ω・tは任意に与えることができる。特に本例では、このパルス面積はπ/2である。
[第4の実施の形態]
図4の原子干渉計3では、第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2とは、互いにlの間隔を空けて配置された。しかしこれに限られず、第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2とは、間隔を空けずに互いに隣接して配置されてもよい。この場合も、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2におけるパルス面積Ω・tは任意に与えることができる。特に本例では、第2の実施の形態と同様に、このパルス面積はπ/2である。この場合もプローブレーザーは、原子に対し、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2でπ/2パルスを与える。その結果原子は、実質的に1箇所において、時間間隔を空けずに連続してπ/2パルスを照射される。これは、原子がπパルスを1回照射されることに相当する。これにより本実施の形態は、ラビ分光を実現することができる。
[第5の実施の形態]
図5は、第5の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置4の模式図である。原子遷移周波数測定装置4は、原子供給部11と、原子移動経路12と、プローブレーザー光源13と、第1の磁場生成部M1と、第2の磁場生成部M2と、検出用レーザー光源14と、検出器15と、を備える。すなわち原子遷移周波数測定装置4は、図3の原子干渉計3の構成に追加して、検出用レーザー光源14と、検出器15と、を備える。原子遷移周波数測定装置4のその他の構成は、原子干渉計3の構成と共通する。
検出用レーザー光源14は、パルス照射を受けた後の原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給する。この検出用レーザーの伝播方向は、原子移動経路12に直交する(図5の例では、検出用レーザーは、紙面の奥から手前に向けて伝搬するものとしている)。
検出器15は、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2における原子遷移の確率振幅の干渉の結果生じる原子の励起状態占有数を測定する。
以下、88Srの禁制遷移を基に、原子遷移周波数測定装置4を用いた原子遷移周波数測定を説明する。図6は、図5の原子遷移周波数測定装置4の一部(第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の近辺)を拡大したものである。原子供給部11は原子(本例では、88Sr)を供給する。第1の磁場生成部M1と第2の磁場生成部M2との間隔lは30mmである。原子は、紙面の右向き(x方向)に速度v=40mm/sで移動する。第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2が生成する磁場Bの大きさ(磁束密度)は1mTである。ここで第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2はそれぞれ、2つの略正方形のコイルで構成してもよい(一辺の長さb=2mm、間隔d=0.54・b≒1.1mm)。光格子レーザー1および光格子レーザー2は、直径2・w=320μm、レイリー長=100mmである。
図7に、図6の構成におけるx方向の磁場Bの分布と2次のゼーマンシフトを示す。磁場Bは、実質的に、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の近辺にのみ存在することが分かる。磁場Bは、強度I=900mW/cmのプローブレーザーに関し、π/2パルスを与える。2次のゼーマンシフトΔ(t)は、磁場Bと対応して空間的に変化し、最大で-23.3Hzの値をとる。
図8に、図6の構成における原子の励起状態占有数の時間変化を示す。ただし、原子の共鳴周波数からのプローブ離調Δは-21.3Hzとする。移動光格子にトラップされた原子は、第1の磁場生成部M1でのπ/2パルスにより、基底状態と励起状態の電子状態の重ね合わせが生じる。T=l/v=750msの時間経過後、当該原子は第2の磁場生成部M2に到達する。ここでのπ/2パルスにより、励起状態占有数はほぼ100%となる。これは、プローブレーザー周波数がゼーマンシフトした電子状態と共鳴のときのラムゼー干渉に相当する。また、π/2パルスによる量子状態の重ね合わせは、例えば量子コンピュータのアダマールゲートとして使うこともできる。
図6に示すように、検出用レーザーの直径を1mm、第2の磁場生成部M2と検出用レーザーとの距離lを1mmとする。このとき検出器15の光検出効率は10%になる。この結果、遷移を励起して蛍光観測をうとき、1原子あたり10光子以上が観測できるため、原子数をショットノイズ限界で観測することができる。この一方、M2領域にいる原子の1S0-3P1遷移はその自然幅7.5kHzに対して大きくゼーマンシフトしているため、検出光とは非共鳴である。従って、この蛍光による原子の光シフトは、10-18レベルにまで抑えることができる。
図9に、図6の構成における原子の励起状態占有数を周波数離調(光周波数と共鳴周波数との差)の関数で示す。第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2でπ/2パルスを照射された原子の励起状態占有数は、ラムゼースペクトルにより示される。図示されるように、ラムゼースペクトルの幅1/Tは1.33Hzであり、中心周波数はゼーマンシフトによりΔ=-21.3Hz離調している。一方、第1の磁場生成部M1でπ/2パルスを照射された励起状態占有数は、ラビスペクトルにより示される。原子が第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2を通過するときの遷移時間δtは、δt=b/v=50msと見積もられる。従って、線幅は1/δt=20Hzと見積もられる。
前述のように、ラムゼースペクトルはΔ=-21.3Hzゼーマンシフトしている。実際にはこの値は、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の空間的形状に依存する。しかしながらこの周波数シフトは、磁場を制御することにより、10-18の精度で安定化することができる。磁場の変化δBに対する周波数の感度ξは、-3.2Hz/mTと見積もられる。この値の大きさは、2次のゼーマンシフトから予想される値δν/δB≒-46.6Hz/mTより1桁小さい。これは、原子が特定箇所(第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の箇所)でのみ、磁場にさらされることによる結果である。すなわちこの特定箇所の長さは、全相互作用長に比べ概ね1桁程度小さい。この感度の低さにより、サブμTあるいは100ppmの磁場制御を用いて、10-18の精度を実現することができる。
本実施の形態によれば、磁場Bが原子移動経路12の全体ではなく、特定箇所(すなわち、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2の箇所)に限定されて存在する。従ってラムゼー分光のための空間的間隔は、相互作用長lを変えることにより任意に設計できる。例えば、相互作用長lを大きくとることにより相互作用時間T=l/vが延びる結果、周波数分解能が1/Tに向上する。また、原子励起領域と状態観測領域が空間的に分離されているため、原子遷移の連続的な観測が可能となる。前述のようにプローブが1本なので、相互作用長lを大きくしてもプローブレーザーのコヒーレンスが劣化せず、高精度の周波数測定を連続的に行うことができるという効果が得られる。ただし現実的には相互作用長lは、光格子を構成するレーザーのレイリー長またはプローブレーザーのコヒーレンス時間に制限される点に注意する。
上記の説明は、原子として88Srを用いた例について行った。しかし本手法に用いる原子はこれに限定されない。磁場の印加による状態混合によって遷移が許容になる禁制遷移を持つ原子に適用される。例えば本手法は、MgやCaなどのSr以外のIIA族元素、Zn、Cd、HgなどのIIB族元素あるいはYbなどに対しても適用可能である。
[第6の実施の形態]
図10は、第6の実施の形態に係る光格子時計もしくは原子発振器5の模式図である(図5に対し、プローブレーザーの周波数制御回路が付加されている)。光格子時計もしくは原子発振器5は、図5の原子遷移周波数測定装置4の構成に追加して、磁場生成部の対MPの前段または後段に、第3の磁場生成部M3を備える。後述するように第3の磁場生成部M3は、ラビスペクトル測定用の磁場生成部である。第3の磁場生成部M3は、原子移動経路12内に原子移動経路12と直交する磁場Bを生成する。ここで原子と磁場Bに関する相互作用長lは、4mmである。第1の磁場生成部M1と第2の磁場生成部M2とは、互いに間隔を空けて配置することにより構成される。これに対し第3の磁場生成部M3は、第1の磁場生成部M1および第2の磁場生成部M2を間隔を空けずに隣接して配置することにより構成される。
図11に、相互作用長l(第1の磁場生成部M1と第2の磁場生成部M2との間)に関するラムゼースペクトルと、相互作用長l(第3の磁場生成部M3)に関するラビスペクトルと、を示す。プローブレーザーの軸上を速度v=40mm/sで移動する原子は、T=l/v=0.1sの間、磁場Bの領域でプローブレーザーによりπパルスが与えられる。従ってラビスペクトルの線幅は、1/T≒10Hzとなる。このときの磁場の変化δBに対する周波数の感度ξは、-35.6Hz/mTと見積もられる。この値は、ラムゼースペクトルの場合の感度ξ=-3.2Hz/mTに比べて1桁大きい。磁場B=0.99mTを与えることにより、ラビ励起スペクトルのショルダーを周波数ロック点Δ=-21.59Hzに合わせることができる。ただしこの周波数ロック点は、励起確率pが0.5となるラムゼースペクトルによって定める。磁場の大きさ|B|は、ラビ励起の確率pが0.5となるように磁場の長期ドリフトを補償することにより制御できる。このようにラムゼースペクトルとラビスペクトルとを同時測定することにより、ラムゼースペクトルの測定領域を拡張することができる。図11は、この手法を用いることにより、0.66Hzであったラムゼースペクトルの測定領域を約3倍に拡張する場合の例を示す。この拡張範囲はラビスペクトルの線幅できまる10Hzまで可能である。
図11に示されるように、ラムゼースペクトルでは測定時間Tの累積位相
が|θ|≦π/2の範囲では周波数変化に比例した励起状態占有数pが得られるが、この範囲を超えると比例関係が反転し振動的にふるまう。このため、ラムゼースペクトルが有効に使える範囲が制限され、図11では0.66Hzである。ラビスペクトルを同時測定することによりレーザー周波数の時間的なゆらぎν(t)の情報を得ることができる。これを使うことにより、ラムゼー分光中のレーザー周波数変動による累積位相を|θ|>π/2に対しても推定可能となる。この結果を用いて、π/2≦θ≦3π/2ならp=2-p、―3π/2<θ<―π/2ならp=-pとすることにより、ラムゼースペクトルの測定領域を拡張することができる。図11は、この手法を用いることにより、0.66Hzであったラムゼースペクトルの測定領域を約3倍に拡張した場合の例を示す。この手法の適用により、拡張範囲は、ラビスペクトルの線幅できまる10Hzまで可能となる。
図12に、本実施の形態による効果を確認するためのシミュレーション結果を示す。横軸は平均時間、縦軸はアラン分散を表す。白抜きのプロット(□、○、△)は、使用するレーザーの安定度を示す。塗りつぶしたプロット(■、●、▲)は、本実施の形態により得られる原子時計の安定度のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、毎秒10000個の原子による測定を仮定した。ラムゼースペクトルによる測定領域の拡張と連続計測の結果、フリッカフロア1×10-15のレーザー(□)に対し、約1000秒の平均時間で19桁の安定度に到達していることが分かる(■)。この結果は、従来、極めて高精度なレーザー(●、▲)を使って得られる結果に匹敵する。
本実施の形態によれば、ラムゼースペクトルの測定領域を拡張することができる。
[第7の実施の形態]
図13は、第7の実施の形態に係る光格子時計もしくは原子発振器6の模式図である(図5に対し、プローブレーザーの周波数制御回路が付加されている)。図5の原子遷移周波数測定装置4が磁場生成部の対MPを1つ備えるものだったのに対し、光格子時計もしくは原子発振器6は、3つの磁場生成部の対MP1と、MP2と、MP3と、を備える。磁場生成部の対MP1、MP2およびMP3は、それぞれ2つの磁場生成部を含んで構成される。磁場生成部の対MP1の相互作用長L1と、磁場生成部の対MP2の相互作用長L2と、磁場生成部の対MP3の相互作用長L3とは、互いに異なる。この例ではL1<L2<L3である。
周波数計測の不確定性Δνと観測時間Δtとの間には、Δν・Δt=1の不確定性関係が成り立つ。従って、相互作用長が短い磁場生成部の対(MP1)では、励起確率の測定時間が短い(Δtが小さい)が、測定精度は低い(Δνが大きい)。逆に相互作用長が長い磁場生成部の対(MP3)では、測定精度が高い(Δνが小さい)が、励起確率の測定時間は長い(Δtが大きい)。MP1~MP3の測定結果をフィードバックの周波数帯域ごとに選択可能とすることで、フィードバック帯域とフィードバックの精度とをバランスさせることができる。なおこの実施の形態では、1つの原子に対して複数回の測定が必要になるので、原子を加熱することなく光格子内に維持したまま測定するのが好適である。その一例は、前述の遷移を励起して、レーザー冷却しながら蛍光観測を行うという方法である。
本実施の形態によれば、測定精度と測定時間とをバランスさせ、フィードバック制御のダイナミックレンジを広げることができる。
[第8の実施の形態]
図14は、第8の実施の形態に係る光格子時計もしくは原子発振器7の模式図である(図5に対し、プローブレーザーの周波数制御回路が付加されている)。光格子時計もしくは原子発振器7は、図5の原子遷移周波数測定装置4の構成に追加して、磁場生成部の対MPの前段または後段に、第4の磁場生成部M4を備える。光格子時計もしくは原子発振器7は、プローブ光が単一周波数ではなく、サイドバンドを含むことを特徴とする。すなわちこの実施の形態では、原子遷移周波数測定にサイドバンドも利用する。M4で強い磁場Bを発生することで磁場による混合を大きくすることにより、遷移双極子モーメントを増大させる。このとき2次のゼーマンシフトも大きくなるため、この原子遷移をプローブするために、プローブ光に対して電気光学素子等を用いてサイドバンドを立てる。このサイドバンドを用いて、主バンドの時計遷移とは独立にこの遷移を測定することができる。
本実施の形態によれば、観測時間を短くして、高速のフィードバック制御を行うことで光格子時計の高安定度化が可能になる。
[第9の実施の形態]
図15は、第9の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の原子移動経路の模式図である。この原子移動経路は、中空コアファイバーを用いた光導波路により構成される。この実施の形態は、磁場を固定し、光格子を移動させる。すなわち光格子は、中空コアファイバー中を移動し、原子を運搬する。磁場は、磁気ディスク、磁気テープ、プリント基板のループ電流、等で実現することができる。原子の動径方向の分布は10μm程度の領域に限定することができるので、動径方向の磁場の一様性は10μm程度をカバーできればよい。
本実施の形態によれば、装置全体を小型化できる。
[第10の実施の形態]
図16は、第10の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置の原子移動経路の模式図である。この原子移動経路も、中空コアファイバーを用いた光導波路により構成される。この実施の形態は、第9の実施の形態とは逆に、光格子を固定し、磁場を移動させる。磁場は、磁気ディスク、磁気テープ、等で実現することができる。原子の動径方向の分布は10μm程度の領域に限定することができるので、動径方向の磁場の一様性は10μm程度をカバーできればよい。
本実施の形態によれば、装置全体を小型化できる。
[第11の実施の形態]
図17は、第11の実施の形態に係る光格子時計20の模式図である。光格子時計20は、前述のいずれかの実施の形態の原子の電子状態スプリッターを備える。光格子時計そのものは既存の技術を用いてよく(例えば、非特許文献8参照)、原子遷移周波数測定を行う部分を前述の実施の形態の構成に置き換えてもよい。この場合、磁場は2個の磁石または2組のヘルムホルツコイルで生成することができる。
本実施の形態によれば、コンパクトかつ高精度な光格子時計を実現することができる。
[第12の実施の形態]
図18は、第12の実施の形態に係る量子コンピュータ30の一部を拡大した模式図である。量子コンピュータ30は、移動光格子に捕獲された原子と、前述のいずれかの実施の形態の原子の電子状態スプリッターを備える。すなわち原子の電子状態スプリッターのπ/2パルスによる量子状態の重ね合わせを、量子コンピュータ30のアダマールゲートとして使うことができる。光格子に捕獲された各原子がそれぞれ量子ビットとして機能する。なお量子コンピュータを構成するためには量子ビットに対する基本演算機能を実現する必要があるが、本実施の形態の構成を用いると次のように実現できる。
・原子が基底状態か励起状態かで量子ビットを表す。
・各原子は速度vで移動する飛行量子ビットで、移動する過程で空間的に量子演算を受ける。
・各移動光格子にプローブレーザーを配置し、局所磁場を利用して、原子の状態操作を行う。
・パルス面積π/2の励起を利用して、ビット0とビット1との重ね合わせ状態を生成する。
・パルス面積πの励起を利用して、原子の励起状態を反転させ、すなわちビットを反転する。
・磁場を印加する位置と大きさによってゼーマンシフト量を変えることで、プローブレーザーの周波数によって量子ビットの個別アドレスを行う。
・共振器量子電磁力学(CQED)の手法によって、同一の移動光格子で隣接する原子間に量子もつれの状態を形成する。
・原子が捕獲された移動光格子と対応するプローブレーザーをN列に拡張できる。
・列を異にする原子間に共振器量子電磁力学(CQED)の手法によって量子もつれの状態を形成することができる。これによって、2次元の量子もつれ状態を形成できる。
・各プローブ光、局所磁場は時間的に変化させることができる。
・一連の量子演算の後、各原子の状態は射影測定によって測定される。
本実施の形態によれば、コンパクトかつ量子ビットの拡張性が高い量子コンピュータを実現することができる。
[第13の実施の形態]
第13の実施の形態は、電圧/電流制御の原子発振器である。この原子発振器は、前述のいずれかの実施の形態の原子遷移周波数測定装置を備える。磁場の発生にはヘルムホルツコイルを用いる。例としてヘルムホルツコイルの半径を0.5mmとすると、電流に応じて磁束密度1.9mT/Aの磁場を生成できる。5μAの電流ノイズが約0.4mHzの周波数誤差に相当するので、電流ノイズを5μA程度以下(十分に実用可能な精度である)に抑制することにより、10-18の相対不確かさを持つ電圧制御可能な原子発振器が実現できる。
本実施の形態によれば、コンパクトかつ高精度な原子発振器を実現することができる。
[第14の実施の形態]
図19は、第14の実施の形態に係る原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法のフローチャートである。この原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法は、前述の実施の形態の原子の電子状態スプリッターを用いる。すなわち当該原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場生成部と、を備える。原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法は、原子供給部を用いて、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップS1と、プローブレーザー光源を用いて、原子移動経路内に、原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給するステップS2と、磁場生成部を用いて、原子移動経路に原子移動経路と直交する磁場を生成し電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合するステップS3と、を備える。図19に示されるように、これら3つのステップは、空間に展開される結果、並行して進行する。
本方法は、原子を観測して、プローブレーザー周波数をフィードバック制御するステップをさらに備えてもよい。
本実施の形態によれば、一様なプローブレーザーを用いて任意のパルス面積を実現することができる。従って、原子の内部状態を任意の重ね合わせ状態に分岐可能な、原子の電子状態スプリッターを実現することができる。この態様の原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法は、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータなど様々な用途に応用することができる。
[第15の実施の形態]
本発明の実施の形態において、ドップラー効果に起因する周波数変化(以下、ドップラーシフトという)の補償は重要な課題である。例えば光格子の移動速度が40mm/sのとき、ドップラー効果は57kHzとなる。このとき18桁の測定精度を得るためには、ドップラー効果の補償を0.4mHzまで行う必要がある。この補償は、高精度な縦励起ラムゼー時計の実現で極めて重要である。第15の実施の形態の装置は、ドップラーシフト補償装置を備える。
図20は、第15の実施の形態に係るドップラーシフト補償装置40の模式図である。図21は、図20のドップラーシフト補償装置40における光学測定系42の模式図である。ドップラーシフト補償装置40は、第2の実施の形態ので説明した原子の電子状態スプリッター2の構成(すなわち、縦励起ラムゼー領域401と、プローブレーザーを供給するプローブレーザー光源402と、光格子レーザー1を供給する第1の光格子レーザー光源403と、光格子レーザー2を供給する第2の光格子レーザー光源404)に加えて、プローブレーザーおよび光格子レーザーに対するリング共振器405と、光格子レーザー1および2のビート周波数検出器406と、第1のDDS407と、第2のDDS408と、第3のDDS409と、第1の光周波数変調器410と、第2の光周波数変調器411と、第3の光周波数変調器412と、を備える。ここでDDSは、ダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer)のことをいう。
ドップラーシフトの補償は、同一の基準クロックにリファレンスを取る3つのDDS(すなわち、第1のDDS407、第2のDDS408および第3のDDS409)によって行う。第1のDDS407の周波数ν1、第2のDDS408の周波数ν2および第3のDDS409の周波数ν3は、それぞれ以下の通りである。
ν1=2・(v/c)・f1
ν2:光周波数変調器の駆動周波数(任意)
ν3=ν2+(v/c)・f2
ここでf1は魔法周波数として知られる光格子レーザーの周波数であり、この周波数は9桁で既知の値である。f2はプローブレーザーの周波数であり、この周波数は15桁で既知の値である。vは移動光格子の速度(任意の設定値)である。cは光速である。なお、光格子レーザー1の周波数は、f1(1)=f1(1+v/c)、光格子レーザー2の周波数は、f1(2)=f1(1―v/c)でそれぞれ与えられる。
ドップラーシフト補償装置40の動作手順は、以下の通りである(図20および図21参照)。
(1)ν1によって移動速度vを決定する。
(2)光周波数変調器の周波数ν2を設定する。
(3)第1のDDS407の周波数ν1、第2のDDS408の周波数ν2を使って、第3のDDS409の周波数ν3を、ν3=ν2+(ν1/2)・(f2/f1)の関係により設定する。
本実施の形態によれば、ドップラーシフトを効果的に補償することができる。
以上説明した実施の形態でDC磁場であったものは、AC磁場であってもよい。特に、魔法周波数のAC磁場(例えば、魔法周波数に合わせたレーザー光の磁場成分を有する磁場)は、有効な実施の形態である。
第1~15の実施の形態では、魔法波長の移動光格子によって等速運動する原子を局所磁場と相互作用させる。この局所磁場による許容遷移との状態混合を利用して、連続的なラビまたはラムゼー分光が可能となる。ただしこの手法には、
・原子スペクトルが、大きな2次のゼーマンシフトの摂動を受ける
・この2次ゼーマンシフトの値を決めるのに、磁場の校正が必要
・磁場発生用のコイルの発熱が不均一な黒体輻射を生じさせる
といった課題がある。
[第16の実施の形態]
こうした課題を解決するために、以下で説明する実施の形態では、核スピンを持つアルカリ土類様原子(アルカリ土類金属原子に加え、Yb原子を含む)の同位体で生じる超微細混合によって生じる時計遷移を利用する。以下、前述の第1~15の実施の形態のような、局所磁場による状態混合で遷移を誘起する手法を「磁場誘起型」と呼ぶことがある。これに対し、以下の超微細混合によって生じる時計遷移を用いて、磁場の遮蔽によって空間的に変化する1次ゼーマンシフトを利用して局所的な励起を行う手法を「磁場遮蔽型」と呼ぶことがある。
図22は、第16の実施の形態に係る原子遷移周波数測定装置8の模式図である。原子遷移周波数測定装置8は、原子供給部11と、x方向に延びる原子移動経路12と、プローブレーザー光源13と、磁場源17と、第1の磁気シールドSh1と、第2の磁気シールドSh2と、検出用レーザー光源14と、検出器15と、ポンプ光光源16と、を備える。分光領域は、第1の磁気シールドSh1と第2の磁気シールドSh2との間に定義される。分光領域には、磁場源17を用いて、原子移動経路12と直交する向きのバイアス磁場Bをかけておく。図22のバイアス磁場Bは、約2mTで、z方向を向く一様磁場である。しかしバイアス磁場Bはこれに限られない。すなわちバイアス磁場Bは、強さが2mTでなくてもよく、一様でなくてもよい。
上でも説明したが、原子供給部11は、移動光格子として原子移動経路12をx方向に運動する原子を供給する。ただしここでの原子は、核スピンIを持つアルカリ土類様原子(この例ではI=9/2の87Sr)である。原子供給部11により供給された87Srの移動光格子は、原子移動経路12を一定速度v(例えばv=40mm/s)で移動する。
プローブレーザー光源13は、原子移動経路12内に、原子移動経路12と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに(すなわち-x方向または+x方向)伝播するプローブレーザーを供給する。すなわちプローブレーザーの伝播方向は、原子の運動方向と平行または反平行である。図22の例では、87Srの運動と逆向きに伝播するプローブレーザーを示す。プローブレーザーは、I=9/2の87Srにおいてゼーマンシフトした時計遷移と共鳴する。図22の例では、プローブレーザーとして、(m=±I)→(m=±I)の遷移に対応する2周波数を持つものを入射する。
第1の磁気シールドSh1および第2の磁気シールドSh2は、原子移動経路12を取り囲んで構成される。図22の例では、第1の磁気シールドSh1および第2の磁気シールドSh2は、例えばパーマロイ製の円環で構成される。その寸法は例えば、外径10mm、内径(開口部径)1mm、厚さ2mmである(これらの数値に限定されないことはいうまでもない)。原子移動経路12は、第1の磁気シールドSh1および第2の磁気シールドSh2の開口部を貫通する。第1の磁気シールドSh1および第2の磁気シールドSh2で取り囲まれた内部(以下「磁気シールド位置」ともいう)では磁場が低減されている。磁気シールド位置にも弱い磁場(例えば図22の構成では最小32μT程度)が存在し、それによって磁気副準位mに依存したゼーマンシフトが生じることを利用する。
検出用レーザー光源14は、87Srの(F=I、m=±I)→(F=I+1、m=±(I+1))を励起する検出レーザーを検出位置に入射する。遷移の自然幅約7.5kHzに対して、ゼーマンシフトを十分大きくすることによって、m=±Iの状態にある原子をゼーマンシフトにより分離して計測することができる。図22の例では、検出位置は第2の磁気シールドSh2から距離l離れている。
検出器15は、磁気シールドSh1および第2の磁気シールドShにおける原子遷移の励起によって生じる、確率振幅の干渉を原子の励起状態占有数として測定する。ここでは衝突シフトの低減のため、1光子あたりの原子占有数は1以下とする。
ポンプ光光源16は、ポンプ光入射位置にポンプ光を入射する。これにより、F=I→I-1遷移のπ遷移を励起し、m=±Iの2つの磁気副準位に光ポンプを行う。図22の構成では、ゼーマン広がりが励起の飽和幅程度となるように磁場を遮蔽している(磁気シールドSh0)。
図23に、図22の分光領域におけるゼーマンシフトを示す(ゼーマン副準位m=9/2)。ただしバイアス磁場Bは、強さが2mTの一様磁場とする。原子移動経路を移動する原子は、核スピンI=9/2を持つ87Srである。原子の移動速度は約40mm/sで、第1の磁気シールドSh1および第2の磁気シールドSh2は互いに約30mm離れている。従って、原子が第1の磁気シールドSh1から第2の磁気シールドSh2まで移動するのに約750msかかる。磁気シールド位置にも弱い磁場(例えば図22の構成では最小32μT程度)が存在する結果、磁気副準位mに依存したゼーマンシフトが生じることを利用する。この1次ゼーマンシフトは、m×1.06×10Hz/Tで換算すると、m=9/2の場合約150Hzとなる。図23に示すように、磁気シールドの外側の位置では大きなゼーマンシフトが発生し、プローブレーザーの光に対して原子は非共鳴になっている。
図24に、m=±Iの磁気副準位の各状態の状態占有数を測定する原理を模式的に示す。上図は、87Srの(F=I、m=±I)→(F=I+1、m=±(I+1))遷移におけるエネルギー準位を示す。ここでは、バイアス磁場Bに直交する直線偏光を持つ(すなわち、バイアス磁場Bの向きに取った量子化軸に対しては右回り円偏光と左回り円偏光の重ね合わせである)検出レーザーのレーザー周波数を±νで変調し(周期T)、これに同期した蛍光測定を行う。B=2mTのとき、右回り円偏光と左回り円偏光とによって励起される隣接する磁気副準位のゼーマンシフトは16MHz(>>7kHz、自然幅)となることに注意する。この結果、検出中の基底状態に磁気副準位を光ポンピングを引き起こすような検出光による励起は十分小さくすることができる。
図25に、図22の構成における原子の励起状態占有数とゼーマンシフトの時間変化を示す。前述のように第1シールド位置ではゼーマンシフトは32μT程度であり、プローブレーザーとの共鳴条件が満たされるため、励起状態占有数は0から50%に上がる(π/2パルス)。第1シールド位置を抜けると、大きなゼーマンシフトによりプローブ光と非共鳴になるために励起状態占有数が50%のまま系は自由発展する。第2シールド位置では再びゼーマンシフトは32μT程度となり、再びπ/2パルスにより励起状態占有数は50%から100%に上がる
図26に、図22の構成におけるm=-9/2(図の左側)とm=9/2(図の右側)のラムゼースペクトルを示す。図示されるように、スペクトル波形は周波数0を中心としてほぼ左右対照になっている。従って、m=-9/2とm=9/2の観測結果から平均を取ることにより、1次ゼーマンシフトの値をキャンセルするラムゼー分光が可能となる。
図27は図26の拡大図である。図示されるように、-m磁気副準位のスペクトルと+m磁気副準位のスペクトルは、ゼーマンシフトがないときのスペクトル中心に対して正負対称にゼーマンシフトするので、この平均を取ることにより周波数0となる点を求めることができる。一方、-m磁気副準位のスペクトルと+m磁気副準位のスペクトルの差の周波数から、原子が感じた実効的な磁場を推定することができる。この値を使って、微小な2次ゼーマンシフトを推定し、補償することができる。
以上説明したように、第16の実施の形態(磁場遮蔽型)によれば、核スピンを持つアルカリ土類様金属を用いて、磁気シールドされた位置でπ/2パルス励起を行うラムゼー分光では、
・正負の磁気副準位m=±I状態のスペクトルの観測により1次ゼーマンシフトの計測、補償が可能
・この値を使って2次ゼーマンの推定と補償が可能
・この結果、詳細な磁場の設定が不要になる
・磁場誘起型の手法に比べ、2次ゼーマンシフトおよび光格子光シフトを1/1000程度に低減可能
といった効果を得ることができる。
なお第16の実施の形態は原子遷移周波数測定装置であったが、同じ原理を用いて以下のように、原子の電子状態スプリッターや原子干渉計を実現することもできる。
[第17の実施の形態]
第17の実施の形態は、非ゼロの全角運動量(F≠0)を持つ原子に対する電子状態スプリッターである。この原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、磁気シールドと、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。磁気シールドは、原子移動経路を取り囲んで構成される。この磁気シールドは、取り囲んだ部分のシールド内で外部の磁場を低減する。プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを原子移動経路内に供給する。これにより、シールド位置で原子を励起させることができる。
[第18の実施の形態]
第19の実施の形態は、原子干渉計である。この原子干渉計は、非ゼロの全角運動量(F≠0)を持つ原子に対する電子状態スプリッターを複数備える。すなわちこの原子干渉計は、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、第1の磁気シールドと、第2の磁気シールドと、を備える。原子供給部は、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、原子移動経路を取り囲んで構成される。第1の磁気シールドおよび第2の磁気シールドは、それぞれが取り囲んだ部分のシールド内で外部の磁場を低減する。プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを原子移動経路内に供給する。これにより、第1シールド位置および第2シールド位置で原子を励起させることができる。
上記の説明で用いた様々な数値は、すべて例示を目的としたものであり、本発明の範囲を限定するものではないことに注意する。
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明は、原子の電子状態スプリッター、原子干渉計、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータおよび原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法に関する。
本出願は、米国仮特許出願第63153434号を基礎とする優先権を主張する。当該仮出願の明細書は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
1・・原子の電子状態スプリッター。
2・・原子の電子状態スプリッター。
3・・原子干渉計。
4・・原子遷移周波数測定装置。
5・・原子遷移周波数測定装置。
6・・原子遷移周波数測定装置。
7・・原子遷移周波数測定装置。
8・・原子遷移周波数測定装置。
11・・原子供給部。
12・・原子移動経路。
13・・プローブレーザー光源。
14・・検出用レーザー光源。
15・・検出器。
16・・ポンプ光光源。
17・・磁場源。
161・・第1の光格子レーザー光源。
162・・第2の光格子レーザー光源。
20・・光格子時計。
30・・量子コンピュータ。
40・・ドップラーシフト補償装置。
42・・ドップラーシフト補償装置の測定系。
401・・縦励起ラムゼー領域。
402・・プローブレーザー光源。
403・・第1の光格子レーザー光源。
404・・第2の光格子レーザー光源。
405・・リング共振器。
406・・ビート周波数検出器。
407・・第1のDDS。
408・・第2のDDS。
409・・第3のDDS。
410・・第1の光周波数変調器。
411・・第2の光周波数変調器。
412・・第3の光周波数変調器。
M・・磁場生成部。
M1・・第1の磁場生成部。
M2・・第2の磁場生成部。
M3・・第3の磁場生成部。
M4・・第4の磁場生成部。
MP・・磁場生成部の対。
MP1・・磁場生成部の対。
MP2・・磁場生成部の対。
MP3・・磁場生成部の対。
Sh1・・第1の磁気シールド。
Sh2・・第2の磁気シールド。
S0・・磁気シールド。

Claims (14)

  1. 原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場生成部と、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記プローブレーザー光源は、前記原子移動経路内に、前記原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給し、
    前記磁場生成部は、前記原子移動経路に前記原子移動経路と直交する磁場を生成し、電気双極子遷移許容な電子状態との波動関数の混合を引き起こすことにより、プローブレーザーによる時計遷移の励起を可能にすることを特徴とする原子の電子状態スプリッター。
  2. 第1の光格子レーザー光源と、第2の光格子レーザー光源と、を備え、
    前記第1の光格子レーザー光源および前記第2の光格子レーザー光源は、前記原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対を供給することにより、定在波のなす光格子を形成し、
    前記光格子レーザーの対は、各光格子レーザーの周波数が互いにシフトされており、
    前記光格子は、前記原子移動経路に沿って移動する移動光格子となっており、
    前記移動光格子は、前記原子を前記原子移動経路に沿って運ぶことを特徴とする請求項1に記載の原子の電子状態スプリッター。
  3. 前記各光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定されることを特徴とする請求項2に記載の原子の電子状態スプリッター。
  4. 原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、第1の磁場生成部と、第2の磁場生成部と、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記プローブレーザー光源は、前記原子移動経路内に、前記原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給し、
    前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部は、前記原子移動経路に前記原子移動経路と直交する磁場を生成し、電気双極子遷移許容な電子状態との波動関数の混合を引き起こすことにより、プローブレーザーによる時計遷移の励起を可能にする原子の電子状態スプリッターを複数設置することを特徴とする原子干渉計。
  5. 前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部は、前記原子と前記プローブレーザーとの相互作用長に相当する間隔を空けて配置されることを特徴とする請求項4に記載の原子干渉計。
  6. 前記電子状態スプリッターによる電子状態操作の後の前記原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給する検出用レーザー光源を備え、
    前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部はそれぞれ、磁場とプローブレーザーとの組み合わせにより、前記原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現することを特徴とする請求項5に記載の原子干渉計。
  7. 原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、第1の磁場生成部と、第2の磁場生成部と、検出用レーザー光源と、検出器と、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記プローブレーザー光源は、前記原子移動経路内に、前記原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給し、
    前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部は、前記原子と前記プローブレーザーとの相互作用長に相当する間隔を空けて配置され、
    前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部は、前記原子移動経路に前記原子移動経路と直交する磁場を生成し、電気双極子遷移許容な電子状態との波動関数の混合を引き起こすことにより、前記原子をプローブレーザーにより励起可能にし、
    前記第1の磁場生成部および前記第2の磁場生成部はそれぞれ、磁場とプローブレーザーとの組み合わせにより、前記原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現し、
    前記検出用レーザー光源は、パルス照射を受けた後の前記原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給し、
    前記検出器は、前記原子の電子状態の占有数に比例する信号を測定することを特徴とする原子遷移周波数測定装置。
  8. 請求項1から3のいずれかに記載の原子の電子状態スプリッターを備えることを特徴とする原子発振器。
  9. 請求項1から3のいずれかに記載の原子の電子状態スプリッターを備えることを特徴とする光格子時計。
  10. 請求項1から3のいずれかに記載の原子の電子状態スプリッターを備えることを特徴とする量子コンピュータ。
  11. 原子の電子状態スプリッターを用いた原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法であって、
    前記原子の電子状態スプリッターは、原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場生成部と、を備え、
    前記原子供給部を用いて、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップと、
    前記プローブレーザー光源を用いて、前記原子移動経路内に、前記原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するプローブレーザーを供給するステップと、
    前記磁場生成部を用いて、前記原子移動経路に前記原子移動経路と直交する磁場を生成することにより電気双極子遷移許容な電子状態と波動関数を混合するステップと、を備えることを特徴とする原子の電子状態重ね合わせ状態の生成方法。
  12. 原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、磁気シールドと、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記磁気シールドは、前記原子移動経路を取り囲んで構成され、取り囲んだ部分のシールド内で外部の磁場を低減し、
    前記プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを前記原子移動経路内に供給することにより、シールド位置で前記原子を励起させることを特徴とする原子の電子状態スプリッター。
  13. 原子供給部と、原子移動経路と、プローブレーザー光源と、磁場源と、第1の磁気シールドと、第2の磁気シールドと、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記第1の磁気シールドおよび前記第2の磁気シールドは、前記原子移動経路を取り囲んで構成され、それぞれが取り囲んだ部分の第1シールド位置および第2シールド位置で外部の磁場を低減し、
    前記プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを前記原子移動経路内に供給することにより、前記第1シールド位置および前記第2シールド位置で前記原子を励起させる原子の電子状態スプリッターを複数設置することを特徴とする原子干渉計。
  14. 原子供給部と、原子移動経路と、第1の磁気シールドと、第2の磁気シールドと、プローブレーザー光源と、磁場源と、検出用レーザー光源と、検出器と、を備え、
    前記原子供給部は、前記原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
    前記第1の磁気シールドおよび前記第2の磁気シールドは、前記原子移動経路を取り囲んで構成され、それぞれが取り囲んだ部分の第1シールド位置および第2シールド位置で外部の磁場を低減し、
    前記プローブレーザー光源は、シールド内でゼーマンシフトした原子遷移と共鳴するプローブレーザーを前記原子移動経路内に供給することにより、前記第1シールド位置および前記第2シールド位置で時計遷移の励起を生じさせ、
    前記第1の磁気シールドおよび前記第2の磁気シールドは、前記第1シールド位置および前記第2シールド位置で前記原子にπ/2のパルス面積を持つ励起を生じさせることにより、ラムゼー分光を実現し、
    前記検出用レーザー光源は、パルス照射を受けた後の前記原子の電子状態を射影測定するための検出用レーザーを供給し、
    前記検出器は、前記原子の電子状態の占有数に比例する信号を測定することを特徴とする原子遷移周波数測定装置。
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