本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
〔1.大動脈瘤を診断するためのデータの取得方法〕
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤を診断するためのデータの取得方法は、被検体から採取した試料において、ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を検出する工程を含む。
上記工程にて、ヌクレオレドキシンの発現の低下が検出されれば、大動脈瘤が将来に形成される、大動脈瘤が形成されつつある、大動脈瘤が既に形成されている、大動脈瘤が将来に形成される可能性がある、大動脈瘤が形成されつつある可能性がある、または、大動脈瘤が既に形成されている可能性がある、と判定(判定1)することができる。
ヌクレオレドキシンの発現の低下の程度は、限定されない。比較対象である試料(例えば、被検体における正常組織)におけるヌクレオレドキシンの発現量をAとし、被検体から採取した試料(例えば、被検体における異常が疑われる組織)におけるヌクレオレドキシンの発現量をBとする。例えば、「A>B」、「0.9×A≧B」、「0.8×A≧B」、「0.7×A≧B」、「0.6×A≧B」、「0.5×A≧B」、「0.4×A≧B」、「0.3×A≧B」、「0.2×A≧B」、「0.1×A≧B」、または、「0.01×A≧B」である場合に、上述した判定1のように判定することができる。
上記工程にて、Dishevelledの発現の上昇が検出されれば、大動脈瘤が将来に形成される、大動脈瘤が形成されつつある、大動脈瘤が既に形成されている、大動脈瘤が将来に形成される可能性がある、大動脈瘤が形成されつつある可能性がある、または、大動脈瘤が既に形成されている可能性がある、と判定(判定2)することができる。
Dishevelledの発現の上昇の程度は、限定されない。比較対象である試料(例えば、被検体における正常組織)におけるDishevelledの発現量をCとし、被検体から採取した試料(例えば、被検体における異常が疑われる組織)におけるDishevelledの発現量をDとする。例えば、「D>C」、「D≧1.1×C」、「D≧1.2×C」、「D≧1.3×C」、「D≧1.4×C」、「D≧1.5×C」、「D≧1.6×C」、「D≧1.7×C」、「D≧1.8×C」、「D≧1.9×C」、「D≧2.0×C」、「D≧5.0×C」、「D≧10×C」、または、「D≧100×C」である場合に、上述した判定2のように判定することができる。
上記工程では、(i)ヌクレオレドキシン、および、DishevelledのmRNAを検出してもよいし、(ii)ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledのタンパク質を検出してもよいし、(iii)ヌクレオレドキシン、および、DishevelledのmRNAおよびタンパク質の両方を検出してもよい。
mRNAからタンパク質への翻訳過程は、負に制御、および/または、正に制御される場合がある。それ故に、上記工程では、最終産物であって、かつ、機能を発揮する主体であると考えられる、ヌクレオレドキシンおよびDishevelledのタンパク質を検出することが好ましい。当該構成であれば、大動脈瘤を診断するためのより良いデータを取得することができる。
ヌクレオレドキシン、および、DishevelledのmRNAを検出する方法としては、限定されず、例えば、in situ ハイブリダイゼーション法、PCR法、ノザンブロット法、および、マイクロアレイ法を挙げることができる。なお、これらの方法自体は周知である。したがって、これらの方法を用いてDishevelledのmRNAを検出する場合には、周知の方法にしたがえばよい。
ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledのタンパク質を検出する方法としては、限定されず、例えば、免疫染色法、免疫組織染色法、ウエスタンブロット法、および、ELISA法を挙げることができる。なお、これらの方法自体は周知である。したがって、これらの方法を用いてDishevelledのタンパク質を検出する場合には、周知の方法にしたがえばよい。
上記大動脈瘤の種類は、限定されず、例えば、胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、および、腹部大動脈瘤を挙げることができる。
上記被検体は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
上記被検体から採取した試料は、特に限定されず、例えば、上記被検体の、胸部大動脈、胸腹部大動脈、および、腹部大動脈から採取した試料(例えば、これらの大動脈の組織片)を挙げることができる。
上記被検体から試料を採取する方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。
〔2.大動脈瘤の診断キット〕
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の診断キットは、ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を検出するための部材を備えている。
上述した〔1.大動脈瘤を診断するためのデータの取得方法〕等にて説明した構成については、その説明を省略する。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の診断キットは、ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAを検出するための部材を備えていてもよいし、ヌクレオレドキシン、または、Dishevelledのタンパク質を検出するための部材を備えていてもよい。
ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAを検出するための部材は、例えば、in situ ハイブリダイゼーション法、PCR法、ノザンブロット法、または、マイクロアレイ法にしたがって、ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAを検出するための部材であり得る。
ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAを検出するための部材としては、例えば、ヌクレオレドキシンのmRNA、または、DishevelledのmRNAにハイブリダイズするプローブ(例えば、mRNAにハイブリダイズするポリヌクレオチド)、PCR法にてヌクレオレドキシンのmRNA、または、DishevelledのmRNAを検出するためのプライマーを挙げることができる。
上記プローブ、および、プライマーの長さは、限定されず、ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAを特異的に検出し得る長さであればよい。上記プローブ、および、プライマーの塩基配列は、限定されず、ヌクレオレドキシン、または、DishevelledのmRNAの任意の箇所に特異的にハイブリダイズし得る塩基配列であればよい。
ヌクレオレドキシン、または、Dishevelledのタンパク質を検出するための部材は、例えば、免疫染色法、免疫組織染色法、ウエスタンブロット法、または、ELISA法にしたがって、ヌクレオレドキシン、または、Dishevelledのタンパク質を検出するための部材であり得る。
ヌクレオレドキシン、または、Dishevelledのタンパク質を検出するための部材としては、例えば、ヌクレオレドキシン、または、Dishevelledのタンパク質に結合する抗体を挙げることができる。
上記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。
上記抗体は、周知の方法に従って作製することができる(例えば[Harlow (Ed.), "Antibodies: a laboratory manual", New York: Cold Spring Harbor Laboratory, 1988]、[岩崎辰夫 他「単クローン抗体:ハイブリドーマとELISA」、講談社、1991年]を参照)。
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体の作製方法の例としては、(1)ハイブリドーマ法(例えば[Koehler G & Milstein C (1975) "Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity", Nature, Vol.256 (No.5517), pp.447-518]を参照)、(2)トリオーマ法、(3)ヒトB細胞ハイブリドーマ法(例えば[Kozbor D & Roder JC (1983) "The production of monoclonal antibodies from human lymphocytes", Immunology Today, Vol.4 (Issue 3), pp.72-79]を参照)、(4)EBV-ハイブリドーマ法(例えば[Cole SPC et al., "The EBV-hybridoma technique and its application to human lung cancer" In: Reisfeld RA & Sell S (Eds.), "Monoclonal antibodies and cancer therapy", New York: Alan R. Liss, Inc., 1985, pp.77-96 (UCLA symposia on molecular and cellular biology, Vol.27)]を参照)を挙げることができる。
〔3.大動脈瘤の治療剤のスクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤のスクリーニング方法は、ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を発現し得る培養細胞と、治療剤の候補物質とを接触させる工程(第1の工程とも呼ぶ)と、上記培養細胞と上記候補物質とを接触させる前後にて、上記培養細胞におけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現を比較する工程(第2の工程とも呼ぶ)と、を有する。
上述した〔1.大動脈瘤を診断するためのデータの取得方法〕および〔2.大動脈瘤の診断キット〕等にて説明した構成については、その説明を省略する。
〔3-1.第1の工程〕
上記第1の工程は、ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を発現し得る培養細胞と、治療剤の候補物質とを接触させる工程である。
上記ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を発現し得る培養細胞は、限定されず、例えば、大動脈平滑筋細胞を挙げることができる。
上記治療剤の候補物質は、限定されず、例えば、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、核酸、および、糖を挙げることができる。
上記第1の工程では、例えば、治療剤の候補物質を所望の濃度になるように培養液に加え、当該培養液中で、所望の時間(例えば、1時間~100時間、1時間~72時間、または、1時間~24時間)、上記培養細胞を培養することによって、培養細胞と候補物質とを接触させればよい。
〔3-2.第2の工程〕
上記第2の工程は、培養細胞と候補物質とを接触させる前後にて、当該培養細胞におけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現を比較する工程である。
上記第2の工程では、例えば、培養細胞Iを準備し、上記候補物質と接触させる前の培養細胞Iの一部を採取し、残りの培養細胞Iを上記候補物質と接触させる。次いで、予め採取した培養細胞Iにおけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現と、上記候補物質と接触させた培養細胞Iにおけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現とを比較してもよい。
上記第2の工程では、例えば、上記候補物質と接触させる培養細胞Iと、上記候補物質と接触させない培養細胞IIとを別々に準備し、培養細胞Iにおけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現と、培養細胞IIにおけるヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上の発現とを比較してもよい。
上記第2の工程において、培養細胞と候補物質とを接触させる前の当該培養細胞におけるヌクレオレドキシンの発現量をA’とし、培養細胞と候補物質とを接触させた後の当該培養細胞におけるヌクレオレドキシンの発現量をB’とする。例えば、「B’>A’」、「B’≧1.1×A’」、「B’≧1.2×A’」、「B’≧1.3×A’」、「B’≧1.4×A’」、「B’≧1.5×A’」、「B’≧1.6×A’」、「B’≧1.7×A’」、「B’≧1.8×A’」、「B’≧1.9×A’」、「B’≧2.0×A’」、「B’≧5.0×A’」、「B’≧10×A’」、または、「B’≧100×A’」である場合に、当該候補物質は大動脈瘤の治療剤になり得ると判定することができる。
上記第2の工程において、培養細胞と候補物質とを接触させる前の当該培養細胞におけるDishevelledの発現量をC’とし、培養細胞と候補物質とを接触させた後の当該培養細胞におけるDishevelledの発現量をD’とする。例えば、「C’>D’」、「0.9×C’≧D’」、「0.8×C’≧D’」、「0.7×C’≧D’」、「0.6×C’≧D’」、「0.5×C’≧D’」、「0.4×C’≧D’」、「0.3×C’≧D’」、「0.2×C’≧D’」、「0.1×C’≧D’」、または、「0.01×C’≧D’」である場合に、当該候補物質は大動脈瘤の治療剤になり得ると判定することができる。
〔4.大動脈瘤の治療剤〕
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤は、ヌクレオレドキシン発現誘導剤、または、Dishevelled発現抑制剤を有効成分として含有する。本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤は、ヌクレオレドキシン発現誘導剤、および、Dishevelled発現抑制剤の両方を有効成分として含有してもよい。
上述した〔1.大動脈瘤を診断するためのデータの取得方法〕、〔2.大動脈瘤の診断キット〕および〔3.大動脈瘤の治療剤のスクリーニング方法〕等にて説明した構成については、その説明を省略する。
上記ヌクレオレドキシン発現誘導剤は、ヌクレオレドキシンタンパク質の発現量を増加させ得るものであればよく、例えば、(i)ヌクレオレドキシンのDNAからmRNAへの転写を誘導するもの、(ii)ヌクレオレドキシンのmRNAからタンパク質への翻訳を誘導するもの、または、(iii)ヌクレオレドキシンのmRNAおよび/またはタンパク質の分解を抑制するもの、であってもよい。
上記Dishevelled発現抑制剤は、Dishevelledタンパク質の発現量を減少させ得るものであればよく、例えば、(i)DishevelledのDNAからmRNAへの転写を抑制するもの、(ii)DishevelledのmRNAからタンパク質への翻訳を抑制するもの、または、(iii)DishevelledのmRNAおよび/またはタンパク質の分解を誘導するもの、であってもよい。
上記ヌクレオレドキシン発現誘導剤、および、Dishevelled発現抑制剤は、限定されず、例えば、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、核酸、または、糖であってもよい。
上記ヌクレオレドキシン発現誘導剤としては、限定されず、例えば、tBHQ(tert-ブチルヒドロキシキノン)、SFN(Sulforaphane)、CDDO(2-cyano-3,12-dioxo-oleana-1,9(11)-dien-28-oic acid)を挙げることができる。
上記Dishevelled発現抑制剤としては、限定されず、例えば、siRNAを挙げることができる。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤を100質量%とした場合に、0.00001質量%~100質量%であってもよく、0.0001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤は、上述した有効成分以外の成分を含有していてもよい。
有効成分以外の成分は、特に限定されず、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、抗菌剤などであり得る。
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールが挙げられる。上記リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられる。上記クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。上記酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムが挙げられる。
上記pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
上記等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)、非イオン性等張化剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール)が挙げられる。
上記防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールが挙げられる。
上記抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
上記高分子量重合体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンが挙げられる。
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースが挙げられる。
上記溶媒としては、例えば、水、生理的食塩水、アルコールが挙げられる。
上記抗菌剤としては、例えば、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系の抗生物質;ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、オキサゾリジノン系、サルファ剤系の合成抗菌薬が挙げられる。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤に含有される有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.99999質量%であってもよく、0質量%~99.9999質量%であってもよく、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤の剤型は、限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、内容液剤、外用剤、坐剤、注射剤、吸入剤を挙げることができる。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤の投与経路は、限定されず、例えば、非経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、経口投与、舌下投与、鼻腔内投与、経皮投与、直腸内投与、吸入、局所投与を挙げることができる。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤の投与間隔は、限定されず、例えば、1時間~6箇月間に1回であり、より具体的に、1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回を挙げることができる。
本発明の一実施形態に係る大動脈瘤の治療剤の投与対象は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
〔5.その他〕
本発明は、以下のように構成することもできる。
<1>被検体から採取した試料において、ヌクレオレドキシン、および、Dishevelledからなる群より選択されるいずれか1つ以上を検出する工程を含む、大動脈瘤の診断方法。
<2>ヌクレオレドキシン発現誘導剤、または、Dishevelled発現抑制剤を有効成分として含有する大動脈瘤の治療剤を被検体へ投与する工程を有する、大動脈瘤の治療方法。
<3>上記ヌクレオレドキシン発現誘導剤は、tBHQ、SFN、または、CDDOである、<2>に記載の大動脈瘤の治療方法。
<4>上記Dishevelled発現抑制剤は、siRNAである、<2>に記載の大動脈瘤の治療方法。
<1.64Cu-ATSM PET/MRI>
大動脈瘤の手術を予定している2名の患者(患者番号1および2)の基本的なデータを、周知の方法にしたがって取得した。
具体的には、当該患者について、「年齢」、「性別」、「大動脈瘤のタイプ」、「Body Maass Index」、「Brinkman Index」、「アルコール」、「高血圧」、「糖尿病」、「異常脂質血症」、および、「64Cu-ATSM PETの蓄積」に関するデータを、周知の方法にしたがって取得した。
特に、「64Cu-ATSM PETの蓄積」に関するデータは、64Cu-ATSM PET/MRIの手法(例えば、Xingyu et al., Circulation Cardiovascular Imaging, Volume 13, Issue 1, e009791, January 8, 2020, “64Cu-ATSM Positron Emission Tomography/Magnetic Resonance Imaging of Hypoxia in Human Atherosclerosis”を参照)を用いて取得した。
以下の表に、2名の患者の基本的なデータを記載する。なお、下記の表の項目「アルコール」では、患者に飲酒の習慣がある場合を「+」と記載し、患者に飲酒の習慣がない場合を「-」と記載する。下記の表の項目「高血圧」では、患者が高血圧である場合を「+」と記載し、患者が高血圧でない場合を「-」と記載する。下記の表の項目「糖尿病」では、患者が糖尿病である場合を「+」と記載し、患者が糖尿病でない場合を「-」と記載する。下記の表の項目「異常脂質血症」では、患者が異常脂質血症である場合を「+」と記載し、患者が異常脂質血症でない場合を「-」と記載する。下記の表の項目「64Cu-ATSM PETの蓄積」では、患者の体内に64Cu-ATSM PETの蓄積が観察される場合を「+」と記載し、患者の体内に64Cu-ATSM PETの蓄積が観察されない場合を「-」と記載する。
64Cu-ATSM PETは、生体内の組織の中でも、特に酸化ストレスがかかっている組織に蓄積することが知られている。一方の患者(患者番号1)では、他方の患者(患者番号2)と比較して、64Cu-ATSM PETの蓄積が多く観察された。
64Cu-ATSM PETが蓄積されている組織を更に詳細に観察したところ、胸部大動脈瘤の動脈壁(特に、胸部大動脈瘤の動脈壁のアテローム性プラーク、および、アテローム性プラークの近傍)において、64Cu-ATSM PETの蓄積が顕著であった(図1の101を参照)。
また、64Cu-ATSM PETの蓄積が観察された胸部大動脈瘤の動脈壁では、64Cu-ATSM PETの蓄積が観察されない胸部大動脈瘤の動脈壁と比較して、有意に多数の粥腫(アテローム性プラーク)が認められた(図1の102を参照)。
なお、図1の102において、「Case 1」は患者番号1の患者を示し、「Case 2」は患者番号2の患者を示している。また、図1の102において、「n」は、観察した胸部大動脈瘤の動脈壁のサンプル数を示している。また、図1の102において、「Atheromatous plaque area(%)」は、観察した胸部大動脈瘤の動脈壁の面積に対する、アテローム性プラークの面積の割合を示している。
<2.アテローム性プラークの近傍における様々な分子の発現>
64Cu-ATSM PETの蓄積が観察されない胸部大動脈瘤の動脈壁と、64Cu-ATSM PETの蓄積が観察される胸部大動脈瘤の動脈壁とを、様々な分子を指標にして免疫染色および蛍光染色し、アテローム性プラーク、および、その近傍におけるこれらの分子の発現の変化を観察した。
上記分子としては、4-HNE(4-hydroxyxynonenal)、NRX(nucleoredoxin)、β-カテニン、Dvl(Dishevelled)、OPG(osteoprotegerin)、MMP-2(matrix metalloproteinase-2)、MMP-7(matrix metalloproteinase-7)、MMP-9(matrix metalloproteinase-9)を用いた。なお、4-HNEは、生体内の酸化ストレスによって不飽和脂肪酸(例えば、アラキドン酸)から生成されるアルデヒドである。つまり、4-HNEは、酸化ストレスの指標である。
上記免疫染色および蛍光染色には、市販の染色キットを用いた。具体的な染色方法は、当該染色キットに備えられているプロトコールにしたがった。なお、上記分子のうち、4-HNE以外の分子については、免疫染色および蛍光染色によって、タンパク質の発現レベルを検出した。
図2~図6に、免疫染色および蛍光染色の染色像を示す。
図2に示すように、(i)アテローム性プラーク内およびその近傍では4-HNEの生成が多いこと(換言すれば、アテローム性プラーク内およびその近傍では、酸化ストレスが強いこと)、(ii)アテローム性プラークの近傍ではNRXの発現量が少ないこと、(iii)アテローム性プラークの近傍ではβ-カテニンの発現量が多いこと、が明らかになった。
図3に示すように、(i)アテローム性プラークの近傍ではNRXの発現量が少ないこと、(ii)アテローム性プラークの近傍ではDvlの発現量が多いこと、(iii)アテローム性プラークの近傍ではβ-カテニンの発現量が多いこと、が明らかになった。
図4に示すように、アテローム性プラークの近傍において、NRXの発現量が少ない領域と、β-カテニンの発現量が多い領域とは、同じ領域であることが明らかになった。
図5に示すように、(i)アテローム性プラークの近傍ではOPGの発現量が多いこと、(ii)アテローム性プラークの近傍ではMMP-2の発現量が多いこと、(iii)アテローム性プラークの近傍ではMMP-7の発現量が多いこと、(iv)アテローム性プラークの近傍ではMMP-9の発現量が多いこと、が明らかになった。
図6に示すように、アテローム性プラークの近傍において、MMP-2の発現量が多い領域と、β-カテニンの発現量が多い領域とは、同じ領域であることが明らかになった。
<3.酸化ストレスによる様々な分子の発現量の変化>
ヒト大動脈平滑筋細胞を培養する培養液に対して、所定の濃度(0μM、10μM、または、50μM)になるようにH2O2を加え、その後、当該ヒト大動脈平滑筋細胞を、所定の時間(3時間、または、8時間)培養した。なお、H2O2は、細胞に対して酸化ストレスを与える作用を有する。
培養の後、ヒト大動脈平滑筋細胞を回収し、周知のウエスタンブロット法によって、当該ヒト大動脈平滑筋細胞が発現する、NRX、β-カテニン、および、β-アクチンのタンパク質の量を定量した。
図7に試験結果を示す。
図7の701に、ウエスタンブロット法によって、NRX、β-カテニン、および、β-アクチンのタンパク質を検出した結果を示す。NRXは、培養液中のH2O2の濃度が高くなるにしたがって発現量が減少し、かつ、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養時間が長くなるにしたがって、発現量が減少した。一方、β-カテニンは、培養液中のH2O2の濃度が高くなるにしたがって発現量が増加し、かつ、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養時間が長くなるにしたがって、発現量が増加した。β-アクチンは、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養条件が変化しても、発現量に変化はなかった。
図7の702に、β-アクチンの発現量に対する、NRXの発現量の比を示す。図7の702からも、NRXは、培養液中のH2O2の濃度が高くなるにしたがって発現量が減少し、かつ、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養時間が長くなるにしたがって、発現量が減少することが理解できる。
図7の703に、β-アクチンの発現量に対する、β-カテニンの発現量の比を示す。図7の703からも、β-アクチンは、培養液中のH2O2の濃度が高くなるにしたがって発現量が増加し、かつ、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養時間が長くなるにしたがって、発現量が増加することが理解できる。
<4.NRXの発現量の低下が他の分子の発現量に及ぼす影響>
NRXの発現量を低下させるために、ヒト大動脈平滑筋細胞を培養する培養液に対して、所定の濃度になるようにNRXのsiRNAを加え、その後、当該ヒト大動脈平滑筋細胞を、所定の時間培養した。
培養の後、ヒト大動脈平滑筋細胞を回収し、周知のウエスタンブロット法によって、当該ヒト大動脈平滑筋細胞が発現する、NRX、β-カテニン、OPG、MMP-2、MMP-7、MMP-9、β-アクチンのタンパク質の量を定量した。
図8および9に試験結果を示す。
図8の801に、ウエスタンブロット法によって、NRX、β-カテニン、OPG、および、β-アクチンのタンパク質を検出した結果を示す。NRXは、培養液中のNRAのsiRNAの濃度が高くなるにしたがって発現量が減少した。一方、β-カテニン、および、OPGは、培養液中のNRAのsiRNAの濃度が高くなるにしたがって発現量が増加した。β-アクチンは、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養条件が変化しても、発現量に変化はなかった。
図8の802に、β-アクチンの発現量に対する、NRXの発現量の比を示す。図8の802から、NRXは、培養液中のNRXのsiRNAの濃度が高くなるにしたがって発現量が減少することが理解できる。
図8の803に、β-アクチンの発現量に対する、β-カテニンの発現量の比を示す。図8の803から、β-カテニンは、NRXの発現量が減少するにしたがって発現量が増加することが理解できる。
図8の804に、β-アクチンの発現量に対する、OPGの発現量の比を示す。図8の804から、OPGは、NRXの発現量が減少するにしたがって発現量が増加することが理解できる。
図9の901に、ウエスタンブロット法によって、NRX、MMP-2、MMP-7、MMP-9、および、β-アクチンのタンパク質を検出した結果を示す。NRXは、培養液中のNRAのsiRNAの濃度が高くなるにしたがって発現量が減少した。一方、MMP-2、MMP-7、および、MMP-9は、培養液中のNRAのsiRNAの濃度が高くなるにしたがって発現量が増加した。β-アクチンは、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養条件が変化しても、発現量に変化はなかった。
図9の902に、β-アクチンの発現量に対する、MMP-2の発現量の比を示す。図9の902から、MMP-2は、NRXの発現量が減少するにしたがって発現量が増加することが理解できる。
図9の903に、β-アクチンの発現量に対する、MMP-7の発現量の比を示す。図9の903から、MMP-7は、NRXの発現量が減少するにしたがって発現量が増加することが理解できる。
図9の904に、β-アクチンの発現量に対する、MMP-9の発現量の比を示す。図9の904から、MMP-9は、NRXの発現量が減少するにしたがって発現量が増加することが理解できる。
<5.大動脈瘤の治療剤のスクリーニング>
ヒト大動脈平滑筋細胞を培養する培養液に対して、所定の濃度になるようにtBHQ、SFN、または、CDDOを加え、その後、当該ヒト大動脈平滑筋細胞を、所定の時間培養した。なお、tBHQを用いる場合には、培養液中のtBHQの濃度を、0μM、5μM、20μM、または、100μMとした。SFNを用いる場合には、培養液中のSFNの濃度を、0μM、1μM、10μM、または、50μMとした。CDDOを用いる場合には、培養液中のCDDOの濃度を、0nM、0.5nM、1nM、または、1.5nMとした。
培養の後、ヒト大動脈平滑筋細胞を回収し、周知のウエスタンブロット法によって、当該ヒト大動脈平滑筋細胞が発現する、NRX、および、β-アクチンのタンパク質の量を定量した。
図10に試験結果を示す。図10に、ウエスタンブロット法によって、NRX、および、β-アクチンのタンパク質を検出した結果を示す。培養液中のtBHQの濃度を100μMとした場合、NRXの発現量が増加した。培養液中のSFNの濃度を1μM、および、10μMとした場合、NRXの発現量が増加した。培養液中のCDDOの濃度を0.5nM、1nM、および、1.5nMとした場合、NRXの発現量が増加した。
次いで、NRXの発現量を増加させる上記の化合物(ヌクレオレドキシン発現誘導剤)に関して、大動脈瘤の治療効果を確認した。
MMP-2は、大動脈瘤の形成に関与することが知られている。このことは、MMP-2の発現量を減少させることができる化合物は、大動脈瘤の治療効果を有することを示唆している。そこで、以下の試験では、NRXの発現誘導剤を代表してtBHQを用い、tBHQがMMP-2の発現量を減少させる効果を有するか否か、換言すれば、BHQが大動脈瘤の治療効果を有するか否かを確認した。
ヒト大動脈平滑筋細胞を培養する培養液に対して、所定の濃度(5μM、20μM、または、100μM)になるようにtBHQを加え、その後、当該ヒト大動脈平滑筋細胞を、所定の時間培養した。
培養の後、ヒト大動脈平滑筋細胞を回収し、周知のウエスタンブロット法によって、当該ヒト大動脈平滑筋細胞が発現する、NRX、MMP-2、および、β-アクチンのタンパク質の量を定量した。
図11に試験結果を示す。
図11の1101に、ウエスタンブロット法によって、NRX、MMP-2、および、β-アクチンのタンパク質を検出した結果を示す。NRXは、培養液中のtBHQの濃度が高くなるにしたがって発現量が増加した。一方、MMP-2は、培養液中のtBHQの濃度が高くなるにしたがって発現量が減少した。β-アクチンは、ヒト大動脈平滑筋細胞の培養条件が変化しても、発現量に変化はなかった。
図10の1102に、β-アクチンの発現量に対する、NRXの発現量の比を示す。図10の1102から、NRXは、培養液中のtBHQの濃度が高くなるにしたがって発現量が増加することが理解できる。
図10の1103に、β-アクチンの発現量に対する、MMP-2の発現量の比を示す。図10の1103から、MMP-2は、培養液中のtBHQの濃度が高くなるにしたがって発現量が減少することが理解できる。