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JP7744564B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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JP7744564B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

方向性電磁鋼板の製造方法

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、磁気鉄心として多くの電気機器に用いられている。方向性電磁鋼板は、Siを0.8%~4.8%含有し製品の結晶方位を{110}<001>方位に高度に集中させた鋼板である。その磁気特性として、B値で代表される磁束密度が高いこと、及び、W17/50で代表される鉄損が低いことが要求される。特に、最近では省エネルギーの見地から電力損失の低減に対する要求が高まっている。
この要求に応え、方向性電磁鋼板の鉄損を低減させる手段として、磁区を細分化する技術が開発された。以下、このような技術、すなわち磁区を細分化する技術を「磁区制御技術」と称し、磁区制御技術による効果を「磁区制御効果」とも称する場合がある。
例えば、仕上げ焼鈍後の鋼板にレーザービームを照射することにより、磁区を細分化して鉄損を低減させる方法が、特許文献1に開示されている。しかしながら、該方法による鉄損の低減はレーザー照射によって導入された歪みに起因する為、トランスを成形した後に歪取り焼鈍(SRA)を必要とする巻鉄心トランス用として使用することができない。
つまり、中小型変圧器に主に用いられる巻鉄心トランスは、例えば機械的な曲げ加工による鉄心製造方法により製造されることが多い。この製造方法では、曲げ加工によって導入された加工歪による鉄損劣化を解消するため、歪取り焼鈍(例えば800℃で2~4時間程度)が一般的に行われる。このような歪取り焼鈍によって磁区細分化のために導入した歪が消失してしまう。このため、歪の導入により磁区を細分化する方法は、巻鉄心トランスには適用できない。
上記のような歪取り焼鈍を施しても磁区制御効果が失われない耐SRA磁区制御技術としては、圧延方向と交差する方向に周期的に線状の溝を形成する「溝導入型磁区制御技術」が広く知られている。このような溝導入型磁区制御技術としては、機械加工による溝形成技術、エッチングによる溝形成技術、レーザー照射による溝形成技術等が知られている。例えば特許文献2にはレーザー照射による溝形成技術が開示されている。しかし、これらの溝形成方法のみでは、近年ますます高まってきている鉄損改善要求には十分に応えられていない。
一方で、特許文献3に開示されるように、溝が形成された鋼板の表面(すなわち溝形成面)に絶縁被膜を形成する技術が提案されている。具体的には、この特許文献3では、鋼板の溝形成面にコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる絶縁被膜を形成することが記載されている。
特公昭58-26405号公報 特許第4384451号公報 特許第5742294号公報
しかしながら、特許文献3に開示された技術のように絶縁皮膜を形成した場合、被膜欠陥により絶縁が不十分となり鉄損が十分に改善されない場合があることがわかった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被膜欠陥が少なく低鉄損である方向性電磁鋼板を製造することが可能な、方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明の態様は下記の通りである。
(1)本発明の一態様は、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、冷延鋼板に対し、二次再結晶を伴う仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と、仕上げ焼鈍工程の前または後の冷延鋼板の一方の面のみに対し、冷延鋼板の圧延方向に対して交差する方向に、レーザー、プラズマ、機械的方法、又はエッチングにより線状に溝を形成する溝形成工程と、冷延鋼板の溝形成面を下方に向けた状態で、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含むコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、溝形成面上に張力被膜を形成する張力被膜付与工程と、を含み、前記溝の幅は20μm以上であり、前記溝の深さは15μm以上である、方向性電磁鋼板の製造方法である。

(2)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法において、張力被膜付与工程では、溝の内部に形成される張力被膜の厚さが溝の深さの1/2以下となり、かつ冷延鋼板の平坦面上に形成される張力被膜の厚さの2倍以下となるように、張力被膜の厚さを調整してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法において、冷間圧延工程の後、且つ、仕上げ焼鈍工程の前に、冷延鋼板に対し、焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程を更に備え、焼鈍分離剤がマグネシアを含んでいてもよい。
上記の本発明の態様によれば、被膜欠陥が少なく低鉄損である方向性電磁鋼板を製造することができる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。 仕上げ焼鈍鋼板に形成される溝を示す平面図である。 方向性電磁鋼板の溝の近傍の構成を説明するための模式断面図である。 変形例に係る方向性電磁鋼板の溝の近傍の構成を説明するための模式断面図である。 本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、特に張力被膜付与工程を説明するための模式断面図である。 従来の方向性電磁鋼板の製造方法の問題点を説明するための模式断面図である。 従来の方向性電磁鋼板の製造方法の問題点を説明するためのSEM写真である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「%」は特に断りがない限り質量%を意味する。
本発明者らは、鋼板の溝形成面に絶縁被膜を形成する技術について検討を重ねた。ここで、絶縁被膜は、鋼板面内に張力を作用させることで鉄損の低減を図るものである。このような観点から、本実施形態における絶縁被膜は張力被膜とも称される場合がある。
例えば特許文献3に開示されるように、鋼板の溝形成面に絶縁被膜を形成する技術自体はすでに存在する。しかし、これまで提案された技術では、方向性電磁鋼板の被膜欠陥により絶縁が不十分である場合があり、鉄損を十分に低減させることができなかった。
本発明者らは、その理由が絶縁被膜を形成する工程にあると考えた。詳細は後述するが、従来では、鋼板の溝形成面を「上方に向けた」状態でコーティング溶液を溝形成面に塗布し、焼付けを行っていた。このため、溝にコーティング溶液が溜まりやすくなる。すなわち、溝形成面に塗布されたコーティング溶液の一部は、溝の内部に液溜まり状態で滞留する。この状態で焼き付けを行うと、溝内部の絶縁被膜が他の部分(所謂平坦面)の絶縁被膜よりも厚く形成されることになる。
このように、溝内部の絶縁被膜は、平坦面の絶縁被膜よりも過度に厚く形成される傾向がある。そして、過度に厚く形成された絶縁被膜は、母材である鋼板から剥離しやすい。つまり、溝内部に形成された絶縁被膜は剥離しやすく、この結果、絶縁が不十分となって鉄損を十分に低減させることができない場合があると考えられる。
ところで、溝が形成された方向性電磁鋼板では、鋼板内を通じて一方の溝壁に到達した磁束は、磁壁から漏れることにより(すなわち、磁束の漏れにより)、静磁エネルギーが高まり、この静磁エネルギーを減少させるために主磁区が細分化されることが磁区制御効果を生じる原因である。しかるに鋼板に張力が働いていない状態では、溝壁面近傍に還流型の磁区が発生し、上述する静磁エネルギーの高まりが抑制されてしまい、十分な磁区制御効果が発現しないことになる。絶縁被膜による等方性の張力によって、この還流磁区はエネルギー的に不安定となるため(磁歪の逆効果による)、磁束の漏れが復活し、磁区制御効果が向上することになる。溝部に厚く形成された絶縁被膜は、剥離しやすいため鋼板に十分な張力効果を与えることができない、または還流磁区を不安定にする方向の応力を鋼板に与えることができないと考えられる。
特に、コーティング溶液を鋼板の溝形成面に塗布する際、重力によって鋼板に上面側に凹の(言い換えれば下に凸の)カテナリーがつく。この場合、溝に液溜まりが形成されやすくなり、より厚い絶縁被膜が溝内部に形成される。このため、溝内部に形成された絶縁被膜は剥離しやすく、鉄損の低減効果を大きく損なう。
上記の検討に基づき、本発明者らは、鋼板の溝形成面を「下方に向けた」状態でコーティング溶液を溝形成面に塗布し、焼き付けを行う方法を採用することが、溝内部に形成される絶縁被膜を薄くするために有効であり、これにより、被膜欠陥が少なく低鉄損である方向性電磁鋼板を製造できることを見出した。
以下、本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を図1に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、図1に示すフローチャートはあくまで本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例であり、本実施形態の効果を損なわない範囲で任意に変更されてもよい。
すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、少なくとも、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、冷延鋼板に対し、二次再結晶を伴う仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と、仕上げ焼鈍工程の前または後の冷延鋼板に対し、冷延鋼板の圧延方向に対して交差する方向に、線状に溝を形成する溝形成工程と、冷延鋼板の溝形成面を下方に向けた状態で、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含むコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、溝形成面上に張力被膜を形成する張力被膜付与工程と、を含んでいればよい。
(鋳造工程S1)
鋳造工程S1では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。まず、溶鋼を製造(溶製)する。ついで、溶鋼を用いてスラブを製造する。スラブの製造方法は特に制限されないが、例えば連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、例えば、150mm~350mmであってもよい。スラブの厚さは、好ましくは、220mm~280mmである。スラブとして、厚さが10mm~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程S2において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
スラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。スラブの基本成分、任意元素については具体的に述べると次のとおりである。なお、成分について用いられる%の表記は質量%を意味する。
Siは、電気抵抗を高め、鉄損を下げる上で重要な元素である。含有率が4.8%を超えると、冷間圧延時に材料が割れやすくなり圧延不可能になる。一方、Si量を下げると仕上げ焼鈍時にα→γ変態を生じ、結晶の方向性が損なわれるので、仕上げ焼鈍において結晶の方向性に影響を及ぼさない0.8%を下限としてもよい。したがって、Si含有量は0.8~4.8%であってもよい。
Cは、製造工程においては一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品への含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、C含有量は0.085%以下としてもよい。C含有量の好ましい上限は0.080%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程S5及び仕上げ焼鈍工程S8で純化され、仕上げ焼鈍工程S8の後には0.005%以下となる。スラブがCを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.001%であってもよい。
酸可溶性Alは、Nと結合してAlNまたは(Al,Si)Nとなった状態でインヒビターとして機能する元素である。酸可溶性Alの含有量は、磁束密度が高くなる0.012%~0.050%としてもよい。
Nは製鋼時に0.01%以上添加されるとブリスターと呼ばれる鋼板中の空孔が生じるので、N含有量の上限は0.01%であってもよい。Nは製造工程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限は特に限定されず、0%であってもよい。ただし、Nの検出限界が0.0001%なので、実質的な下限は0.0001%である。
MnとSはMnSとして析出して、インヒビターとしての役割を果たす。Mn含有量が0.02%より少なく、またS含有量が0.005%より少ないと所定量の有効なMnSインヒビターが確保できない可能性がある。また、Mn含有量が0.3%より多く、S含有量が0.04%より多いとスラブ加熱時の溶体化が不十分となり、二次再結晶が安定して行われなくなる可能性がある。ゆえに、Mn含有量は0.02~0.3%であってもよく、S含有量は0.005~0.04%であってもよい。
スラブには、他のインヒビター構成元素としてB、Bi、Se、Pb、Sn、Tiなどを添加することもできる。添加量は適宜調整されてもよく、B含有量の上限値は0.080%、Bi含有量の上限値は0.010%、Se含有量の上限値は0.035%、Pb含有量の上限値は0.10%、Sn含有量の上限値は0.10%、Ti含有量の上限値は0.015%であってもよい。これら任意添加元素は、公知の目的に応じてスラブに含有させればよいため、任意添加元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、例えば下限値は0%であってもよい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によってスラブに混入する成分であって、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に実質的に影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
スラブには、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有(添加)させてもよい。Feの一部に代えてスラブに含有させる任意元素として、例えば、Cu、P、Sb、Cr、Ni等が挙げられる。これらの何れか1種または2種以上をスラブに添加してもよい。Cu含有量の上限値は0.40%、P含有量の上限値は0.50%、Sb含有量の上限値は0.10%、Cr含有量の上限値は0.30%、Ni含有量の上限値は1.00%であってもよい。これらの任意添加元素は、公知の目的に応じてスラブに含有させればよいため、任意添加元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値は0%でもよい。
スラブの化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定することができる。具体的には、スラブから採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定することができる。
(熱間圧延工程S2)
熱間圧延工程S2は、所定の加熱温度(例えば1100℃~1400℃)まで加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る工程である。熱間圧延時の加熱温度は、例えば、熱間圧延時の温度確保の観点から1100℃以上であってもよく、さらにはインヒビター成分であるAlNを完全溶体化させないという観点から1280℃以下であってもよい。なお、AlNとMnSを主インヒビターとする場合、熱間圧延時の加熱温度は、これらのインヒビター成分が完全溶体化する1300℃以上としてもよい。
(熱延鋼板焼鈍工程S3)
熱延鋼板焼鈍工程S3は、熱間圧延工程S2で得られた熱延鋼板を直ちに、もしくは短時間で焼鈍し、焼鈍鋼板を得る工程である。焼鈍は750℃~1200℃の温度域で30秒~30分間行われてもよい。この焼鈍は製品の磁気特性を高めるために有効である。
(冷間圧延工程S4)
冷間圧延工程S4は、熱延鋼板焼鈍工程S3で得た焼鈍鋼板を、1回の冷間圧延、又は、焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80%~95%)により、冷延鋼板を得る工程である。冷延鋼板の厚さは、例えば0.10mm~0.50mmであってもよい。
(脱炭焼鈍工程S5)
脱炭焼鈍工程S5は、冷間圧延工程S4で得た冷延鋼板に脱炭焼鈍を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板(脱炭焼鈍工程を行った冷延鋼板)を得る工程である。脱炭焼鈍は、例えば700℃~900℃で1分間~3分間行えばよい。
冷延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷延鋼板中に含まれるC成分が除去される。脱炭焼鈍は、冷延鋼板中に含まれるC成分を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
(窒化処理工程S6)
窒化処理工程S6は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するため、必要に応じて実施される工程である。窒化処理は、脱炭焼鈍工程の開始から、仕上げ焼鈍工程における二次再結晶の開始までの間に、冷延鋼板の窒素量を40ppm~200ppm程度増加させる処理である。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で脱炭焼鈍鋼板を焼鈍する処理、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を後述の焼鈍分離剤塗布工程S7で脱炭焼鈍鋼板に塗布する処理等が挙げられる。
(焼鈍分離剤塗布工程S7)
焼鈍分離剤塗布工程S7は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、アルミナ(Al)を主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。焼鈍分離剤を塗布した後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程S8で仕上げ焼鈍される。
なお、MgSiOを含むグラス被膜を形成する場合には、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を用いる。
(仕上げ焼鈍工程S8)
仕上げ焼鈍工程S8は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この二次再結晶を伴う仕上げ焼鈍工程S8は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
なお、上述の焼鈍分離剤塗布工程S7でマグネシア(MgO)を塗布した場合には、この仕上げ焼鈍工程S8によりMgSiOを含むグラス被膜が形成される。なお、本形態では、このようなグラス被膜も母材鋼板(後述の仕上げ焼鈍鋼板)に含まれるものとする。したがって、例えば、仕上げ焼鈍鋼板にグラス被膜が形成される場合、「仕上げ焼鈍鋼板の表面」はグラス被膜の表面を意味するものとする。グラス被膜を形成することで、方向性電磁鋼板200の特性がさらに高まることが期待される。
(溝形成工程S9)
溝形成工程S9は、磁区制御(磁区細分化)を目的として、仕上げ焼鈍工程S8の後の鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)に対し溝を形成する工程である。溝の形成は、レーザー、電子ビーム、プラズマ、機械的方法、エッチングなど、公知の手法により、形成することができる。
溝形成工程S9の例を図2、図3、及び図4に基づいて説明する。なお、図2は、仕上げ焼鈍鋼板(母材鋼板)110に形成される溝Gを示す平面図であり、図3は方向性電磁鋼板200の溝Gの近傍の構成を説明するための模式断面図である。図4は方向性電磁鋼板200の変形例を示す模式断面図である。図3及び図4の断面は、溝Gの延伸方向に垂直な断面である。
図2において、仕上げ焼鈍鋼板110の圧延方向をX軸とし、仕上げ焼鈍鋼板110の幅方向をY軸とし、仕上げ焼鈍鋼板110の板厚方向をZ軸とする。仕上げ焼鈍鋼板110の溝形成面110a(溝Gが形成された表面。詳細は後述する。)から他方の表面に向かう方向がZ軸方向の正方向となる。他の図に示されるXYZ軸の定義も同様である。
図3には、仕上げ焼鈍鋼板110及び絶縁被膜(張力被膜)130が描かれている。つまり、本実施形態に係る方向性電磁鋼板200は、仕上げ焼鈍鋼板110及び絶縁被膜130を備える。絶縁被膜130は後述する張力被膜付与工程S10によって仕上げ焼鈍鋼板110の溝形成面110a上に形成される。
上述したように、溝Gは、レーザー、電子ビーム、プラズマ、機械的方法、エッチングなど、公知の手法により仕上げ焼鈍鋼板110上に形成される。仕上げ焼鈍鋼板110の表裏両面のうち、溝Gが形成された表面は溝形成面110aとも称される。溝形成面110aのうち、溝Gが形成されていない部分は平坦面110Fとされる。
なお、溝Gの形成は、仕上げ焼鈍鋼板110の上側の面(上面)に対して行われ、下側の面に対しては行われない。ただし、後述する張力被膜付与工程S10では、溝Gを「下方に向けた」状態でコーティング溶液を溝形成面110aに塗布する。このため、溝Gの形成は、仕上げ焼鈍鋼板110の下側の面(下面)に対して行われてもよい。
溝Gの形態は、本実施形態の効果との関連で以下のような範囲にあることが好ましい。なお、溝Gの形態を特定するにあたって、溝Gの断面観察を行う必要が生じる。この場合、溝Gの延伸方向に垂直な任意の断面を機械加工により鏡面とし、この断面を観察断面として走査型電子顕微鏡等で観察すればよい。
溝Gの平面視における延伸方向は、鉄損低減の観点から、X軸方向(圧延方向)に対して90°~60°の範囲であることが好ましく、90°~75°の範囲であることがさらに好ましい。
溝Gの延伸方向が、圧延方向Xに対して60°以上であれば、溝Gの壁面(溝壁面)110Gと圧延方向との角度が大きくなることにもなるため、本実施形態の効果を作用させる必要性が高まる。つまり、より多くの磁束が溝Gから漏出することになるので、これらの磁束をより漏出しやすくする必要がある。すなわち、溝内部の絶縁被膜130Gを薄くする必要性が高まる。
溝Gの圧延方向のピッチ(圧延方向ピッチ)は磁区細分化の必要性に応じて1~20mmの範囲で設定することが好ましい。溝Gの圧延方向ピッチは2~10mmの範囲で設定することが更に好ましい。溝Gの圧延方向ピッチの上限は8mmであることがより好ましい。溝Gの圧延方向ピッチの上限は5mmであることが更に好ましい。
なお、圧延方向ピッチは、例えば以下の方法で測定すればよい。すなわち、平面視において隣接する任意の溝Gの組に着目する。ついで、これら溝Gの幅方向中心点間の圧延方向の距離を数か所で測定し、それらの平均値を当該溝Gの組の圧延方向ピッチとすればよい。本実施形態では、このようにして測定された任意の圧延方向ピッチが2~10mmの範囲内の値であることが好ましい。
溝Gの幅wは20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。幅wが20μm以上であれば、溝内部の絶縁被膜130Gの厚さを制御することが技術的に簡便になるためである。
尚、幅wは、溝Gを介して圧延方向に隣接する二つの平坦面110Fの、溝Gの延伸方向と板厚方向(Z軸方向)に垂直な方向の離間距離である。
溝Gの幅wは150μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましい。溝Gの幅wが150μm以下である場合には、磁区細分化の観点から好適である。また、溝Gの深さDにもよるが、幅wが小さい程、方向性電磁鋼板200の磁化方向と、溝内部の絶縁被膜130Gによる溝壁面110Gに沿う張力方向との角度差による鉄損増加の問題点が顕著になる。したがって、絶縁被膜130を薄くする必要性が高まる。このため、溝Gの幅wは150μm以下であることが好ましい。
溝Gの深さDは5μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。深さDが5μm以上であれば、幅wにもよるが、方向性電磁鋼板200の磁化方向と、溝内部の絶縁被膜130Gによる溝壁面110Gに沿う張力方向との角度差による鉄損増加の問題点が顕著になる。したがって、絶縁被膜130を薄くする必要性が高まる。このため、溝Gの深さDは5μm以上であることが好ましい。
尚、深さDは、溝Gの底面110Ga(溝Gの観察断面のうちもっとも深い部分)から溝Gに隣接する平坦面110Fまでの板厚方向(Z軸方向)の距離(深さ方向距離)である。
溝Gの深さDは50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。溝Gの深さDが50μm以下であれば、溝内部の絶縁被膜130Gの厚さt2を制御することが技術的に簡便になるためである。また、溝Gの深さDが50μm超であると部分的に仕上げ焼鈍鋼板110の板厚が大きく減少し鉄損低減効果が得られなくなる場合があるためである。
溝形成工程S9は、図1のフローチャートで示す例では、仕上げ焼鈍工程S8の後で行われている。しかし、溝形成工程S9は、冷間圧延工程S4を経た鋼板(すなわち冷延鋼板)に対して行えばよい。この場合にも、磁区細分化に理想的な線状溝Gの断面形状を維持することが出来る。したがって、溝形成工程S9を行うタイミングは、仕上げ焼鈍工程S8の前でも後でもよい。ただし、少なくとも張力被膜付与工程S10の前に溝形成工程9を行っておく必要がある。
図4に示す変形例では、仕上げ焼鈍鋼板110がグラス被膜150を有している。このグラス被膜150は、MgSiOを含む。ただし、この場合であっても、溝Gに関するパラメータ(幅w、深さD等)の定義、決定方法は変わらない。
(張力被膜付与工程S10)
張力被膜付与工程S10は、仕上げ焼鈍鋼板110の溝形成面110aを「下方に向けた」状態でコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、溝形成面110a上に絶縁被膜(張力被膜)130を形成する工程である。
ここで、コーティング溶液は、例えば、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含む。焼き付けは、例えば、350℃~1150℃で、5秒間~300秒間の条件で行えばよい。
本実施形態の張力被膜付与工程S10を詳細に説明するにあたり、まず、図6及び図7に基づいて、従来の張力被膜付与工程の問題点について説明する。
図6は従来の張力被膜付与工程の一例を示す。図6に示す例では、搬送ローラ1000によって仕上げ焼鈍鋼板110が搬送される。ここで、溝形成面110aは上方に向けられる。そして、コーティング溶液を仕上げ焼鈍鋼板110の上方から溝形成面110aに塗布し、焼付けを行う。このため、溝Gにコーティング溶液に溜まりやすくなる。すなわち、溝形成面110aに塗布されたコーティング溶液の一部は、溝Gの内部に液溜まり状態で滞留する。この状態で焼き付けを行うと、溝内部の絶縁被膜130Gが他の部分(所謂平坦面110F)の絶縁被膜130Fよりも厚く形成されることになる。図7は従来の張力被膜付与工程で製造された方向性電磁鋼板200の断面構造を示すSEM写真である。このSEM写真からもわかるように、溝内部の絶縁被膜130Gが他の部分(所謂平坦面110F)の絶縁被膜130Fよりも厚く形成されていることがわかる。
溝内部の絶縁被膜130Gは、平坦面110Fの絶縁被膜130Fよりも過度に厚く形成される傾向があり、このように過度に厚い絶縁被膜130Gは母材である仕上げ焼鈍鋼板110から剥離しやすい。つまり、溝内部に形成された絶縁被膜130Gは剥離しやすく、この結果、方向性電磁鋼板200の鉄損の低減効果を損なうと考えられる。
ところで、溝Gが形成された方向性電磁鋼板200では、鋼板内を通じて一方の溝壁に到達した磁束は、溝壁から漏れることにより(すなわち、磁束の漏れにより)、静磁エネルギーが高まり、この静磁エネルギーを減少させるために主磁区が細分化されることが磁区制御効果を生じる原因である。
しかるに鋼板に張力が働いていない状態では、溝壁面近傍に還流型の磁区が発生し、上述する静磁エネルギーの高まりが抑制されてしまい、十分な磁区制御効果が発現しないことになる。
絶縁被膜による等方性の張力によって、この還流磁区はエネルギー的に不安定となるため(磁歪の逆効果による)、磁束の漏れが復活し、磁区制御効果が向上することになる。
溝部に厚く形成された絶縁被膜は、剥離しやすいため鋼板に十分な張力効果を与えることができないし、または還流磁区を不安定にする方向の応力を鋼板に与えることができないと考えられる。
特に、コーティング溶液を仕上げ焼鈍鋼板110の溝形成面110aに塗布する際、重力によって仕上げ焼鈍鋼板110に上面側に凹の(言い換えれば下に凸の)カテナリーが生じる。この場合、溝内部の絶縁被膜130Gが平坦面110Fの絶縁被膜130Fよりも過度に厚く形成される傾向がより強くなる。つまり、図6に示すように、「上方に向けた」状態でコーティング溶液を塗布する場合、溝Gに液溜まりが形成されやすくなり、より厚い絶縁被膜130Gが溝内部に形成される。このため、溝内部に形成された絶縁被膜130Gは剥離しやすく、さらに鉄損の低減効果を大きく損なう。
これに対し、本実施形態に係る張力被膜付与工程S10では、図5に示すように、仕上げ焼鈍鋼板110の溝形成面110aを「下方に向けた」状態でコーティング溶液を溝形成面110aに塗布し、焼き付けを行う。なお、搬送ローラ1000によって仕上げ焼鈍鋼板110が搬送される点は従来と同様である。
本実施形態においても、溝Gにコーティング溶液が溜まりやすくなる点、重力によって仕上げ焼鈍鋼板110に上面側に凹のカテナリーがつく点は従来の張力被膜付与工程(すなわち溝形成面を上方に向けてコーティング溶液を塗布する工程)と同様である。
しかし、溝Gが下方に向いているため、溝内部に溜まったコーティング溶液の一部は重力によって滴下することになる。カテナリーは下に凸の形状となるため、溝内部に溜まったコーティング溶液はより滴下しやすくなると考えられる。この結果、焼き付けを行った後には、溝内部の絶縁被膜130Gは従来の張力被膜付与工程に比べて薄くなると考えられる。すなわち、溝内部の絶縁被膜130Gが薄くなる結果、溝内部で絶縁被膜130Gが剥離しにくくなり、方向性電磁鋼板200の鉄損の低減効果が得られる。さらに、溝内部の絶縁被膜130Gはより多くの磁束を漏出させることができるので、鉄損の低減効果の向上が期待できる。後述の実施例で示される通り、溝形成面110aを下方に向けてコーティング溶液を塗布し、焼き付けを行った場合、方向性電磁鋼板200の溝部被膜剥離率を小さくすることができ、鉄損が大きく低減した。
ここで、張力被膜付与工程S10では、溝内部に形成される絶縁被膜130Gの厚さt2が溝Gの深さDの1/2以下となり、かつ仕上げ焼鈍鋼板110(すなわち母材鋼板)の平坦面110F上に形成される絶縁被膜130Fの厚さt1の2倍以下となることが好ましい。以下、この要件を「厚さt2の付加要件」とも称する。なお、深さD、厚さt1、t2は図3に示されている。ここでt1は、厚さ測定点における鋼板面の接線方向に対して鉛直方向の厚さを測定するものとする。同様にt2も、溝面に沿った接線方向に対して鉛直方向の厚さを測定するものとする。
ここで、溝内部の絶縁被膜130Gの厚さt2は、溝Gの観察断面の複数個所で測定した厚さt2の平均値である。
また、平坦面110F上の絶縁被膜130Fの厚さt1も同様に、観測断面の複数個所で測定された厚さt1の平均値である。
絶縁被膜130Fの厚さt1の具体的な値は特に制限されず、方向性電磁鋼板200に求められる特性等に応じて適宜設定されればよいが、例えば1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。絶縁被膜130Fの厚さt1が1μm以上であれば、方向性電磁鋼板200の耐食性、さらには絶縁性もより高めることができるからである。
絶縁被膜130Fの厚さt1は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。絶縁被膜130Fの厚さt1が10μm以下であれば、仕上げ焼鈍鋼板110の占積率が大きく低下することを防ぐことができるためである。
上記の方法で測定(決定)された厚さt1、厚さt2、深さDが上述した「厚さt2の付加要件」を満たすことが好ましい。なお、張力被膜付与工程S10では、上述したように厚さt2が従来の溝形成面を上方に向けた張力被膜付与工程に比べて薄くなるので、例えば、塗布するコーティング溶液の塗布量、粘度、及び濃度のうち1つ以上、塗布の方法(塗布の方法としてはロールコーター等による塗布が挙げられる)、塗布から焼き付けまでの時間、一部コーティング溶液の除去のためのエアー吹き付け等の条件を適宜変化させることで上述した「厚さt2の付加要件」が達成されてもよい。
なお、張力被膜付与工程S10は、他の工程と別ラインで(つまりオフラインで)行ってもよいし、同一ラインで(つまりオンラインで)行ってもよい。上述した溝形成工程S9において、溝Gを仕上げ焼鈍鋼板110の下側の面に形成した場合、仕上げ焼鈍鋼板110をそのまま張力被膜付与工程S10に供することができる。つまり、インラインで張力被膜付与工程S10を行うことができる。
一方、溝形成工程S9において、溝Gを仕上げ焼鈍鋼板110の上側の面に形成した場合、一旦仕上げ焼鈍鋼板110を巻き取った後、仕上げ焼鈍鋼板110の上下を反転させて、仕上げ焼鈍鋼板110を張力被膜付与工程S10に供すればよい。この場合、張力被膜付与工程S10をオフラインで行ってもよいし、インラインで行ってもよい。
本実施例では、上述した本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法による効果を検証した。もちろん、本発明は以下に説明する実施例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
まず、上述した鋳造工程S1~仕上げ焼鈍工程S8を行うことで、板厚が0.23mmであり、800A/mでの磁束密度Bの値が1.93Tである高磁束密度の仕上げ焼鈍鋼板110を製造した。
ついで、この仕上げ焼鈍鋼板110に対して、鋼板の圧延方向に20μm、幅方向に40μmの楕円のビーム形状を有し、ビームパワー2.5kWのファイバーレーザーを照射することで、仕上げ焼鈍鋼板110の表面に溝Gを形成した。ここで、走査速度は15m/sとし、圧延方向と直角の方向に3mm間隔で幅wが約50μm、深さDが約20μmの線状の溝Gを形成した。
ついで、表1に示す態様でコーティング溶液の塗布、焼き付けを行った。ここで、コーティング溶液はリン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムを含む混合物を含み、固形分換算での前記混合物100質量部に対し、コロイド状シリカを40~70質量部含むコーティング液を使用した。
表1中、「焼付時溝形成面方向」は、コーティング溶液を塗布した際の溝形成面110aの向き(上方側または下方側)を示す。コーティング溶液を鋼板上方から滴下し、通常のナチュラルコータで塗布を行った。
コーティング溶液塗布量は、溝形成面110aの平面視の単位面積当たりに塗布したコーティング溶液の固形分の質量(g/m)を示す。なお、乾燥後の絶縁被膜からコーティング溶液塗布量を測定したい場合、加熱したアルカリ溶液(NaOH溶液等)に方向性電磁鋼板を浸漬することで絶縁被膜をアルカリ溶液に溶解させる。ついで、アルカリ溶液に溶解した絶縁被膜の質量からコーティング溶液塗布量を特定することができる。
ついで、溝Gの深さD(μm)、溝内部の絶縁被膜130Gの厚さt2(μm)、平坦面110Fの絶縁被膜130Fの厚さt1(μm)、溝部絶縁被膜剥離率(面積%)、磁束密度B(T)、鉄損W17/50(W/kg)を測定した。なお、溝Gの深さD(μm)、溝内部の絶縁被膜130Gの厚さt2(μm)、平坦面110Fの絶縁被膜130Fの厚さt1(μm)の測定方法は上述した通りである。結果を表1に示す。
ここで、「溝部絶縁被膜剥離率」は、平面視における溝Gの総面積に対して絶縁被膜が剥離した部分の面積率を言う。絶縁被膜が剥離したか否かは露出した鋼板面の面積率によって判定した。具体的には、面積率で10%の場合を不合格と判定した。
表1から明らかな通り、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法によって製造された方向性電磁鋼板(実験No.1~4)では、仕上げ焼鈍鋼板の溝形成面を下方に向けた状態でコーティング溶液を塗布し、焼き付けたことにより、被膜欠陥が少なく鉄損が低くなった。
これに対し、従来の方向性電磁鋼板の製造方法によって製造された方向性電磁鋼板(実験No.5~7)では、仕上げ焼鈍鋼板の溝形成面を上方に向けた状態でコーティング溶液を塗布し、焼き付けたことにより、被膜欠陥が多く鉄損が高くなった。
なお、実験No.1~3では、「厚さt2の付加要件」を満たしている。この点でも、実験No.1~3における発明例では、鉄損が低くなったと考えられる。
ただし、溝内部の被膜の厚さが、鋼板の平坦面上に平坦面上に形成される厚さの2倍超であることにより、「厚さt2の付加要件」を満たしていないである)実験No.4は、実験No.1~3と比較すると、やや鉄損が高かった。
以上説明した通り、本実施形態によれば、仕上げ焼鈍鋼板110(または冷延鋼板)の溝形成面110aを下方に向けた状態で、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含むコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、溝形成面110a上に絶縁被膜を形成する。この製造方法によって製造された方向性電磁鋼板200においては、溝内部における絶縁被膜130Gが薄くなるので、剥離しにくくなる。したがって、被膜欠陥が少なく鉄損が低減される。
ここで、張力被膜付与工程S10では、記溝内部に形成される絶縁被膜130Gの厚さt2が溝Gの深さDの1/2以下となり、かつ仕上げ焼鈍鋼板110(または冷延鋼板)の平坦面110F上に形成される絶縁被膜130Fの厚さt1の2倍以下となるように、絶縁被膜130Gの厚さt2を調整してもよい。この場合、溝内部の絶縁被膜130Gがさらに薄くなるので、方向性電磁鋼板200の鉄損が更に低減される。
さらに、冷間圧延工程の後、且つ、仕上げ焼鈍工程の前に、冷延鋼板に対し、焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程を更に行ってもよい。そして、焼鈍分離剤がマグネシアを含んでいてもよい。この場合、方向性電磁鋼板200の特性がさらに向上する。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
200 方向性電磁鋼板
110 仕上げ焼鈍鋼板
110F 平坦面
110G 溝壁面
130 絶縁被膜(張力被膜)
130F 平坦面における絶縁被膜
130G 溝内部における絶縁被膜

Claims (3)

  1. 冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
    前記冷延鋼板に対し、二次再結晶を伴う仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と、
    前記仕上げ焼鈍工程の前または後の前記冷延鋼板の一方の面のみに対し、前記冷延鋼板の圧延方向に対して交差する方向に、レーザー、プラズマ、機械的方法、又はエッチングにより線状に溝を形成する溝形成工程と、
    前記冷延鋼板の溝形成面を下方に向けた状態で、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含むコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、前記溝形成面上に張力被膜を形成する張力被膜付与工程と、を含み、
    前記溝の幅は20μm以上であり、前記溝の深さは15μm以上である、
    ことを特徴とする、方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 前記張力被膜付与工程では、前記溝の内部に形成される前記張力被膜の厚さが前記溝の深さの1/2以下となり、かつ前記冷延鋼板の平坦面上に形成される前記張力被膜の厚さの2倍以下となるように、前記張力被膜の厚さを調整することを特徴とする、請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 前記冷間圧延工程の後、且つ、前記仕上げ焼鈍工程の前に、前記冷延鋼板に対し、焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程を更に備え、
    前記焼鈍分離剤がマグネシアを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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