JP7744566B2 - フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに耐食性部材 - Google Patents
フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに耐食性部材Info
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Description
ステンレス鋼材は、形状によって、鋼板、条鋼、鋼帯、棒鋼、鋼管などに分類される。一般的なステンレス鋼材であるステンレス鋼板は、次のような工程によって製造される。例えば、熱延鋼板(厚板材)は、ステンレス鋼の原料を溶解した溶銑を連続鋳造してスラブとし、スラブを熱間圧延した後、焼鈍及び酸洗することによって製造される。また、冷延鋼板(薄板材)は、熱延鋼板を冷間圧延した後、焼鈍及び酸洗することによって製造される。このようなステンレス鋼材の製造工程において、酸洗は、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するために行われている。以下、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去することを「デスケール」と称する。
そこで、一般的なデスケール工程では、スケールブレーカーやショットブラストなどによる機械的な前処理を施して酸化スケールにクラックを入れた後に、酸洗することによって酸化スケールを除去し易くする方法が行われている(例えば、特許文献1及び2)。また、化学的な前処理としてソルトバスにステンレス鋼材を浸漬する方法も知られている。
そこで、これらの問題を解決するためにデスケール工程の後に表面を研磨することが考えられるが、表面を平滑になるまで研磨すると、研削量が多くなって歩留まりが低下するとともに、研磨焼けや研磨屑の巻き込みによって耐食性や意匠性が低下する。また、介在物はステンレス鋼材の内部にも存在しているため、デスケール工程の後に表面を研磨しても、ステンレス鋼材の表面に新たな介在物が露出することとなる。したがって、この手段は有効であるとはいえない。
表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における円相当径が0.5~10μmの介在物の個数密度D1に対する前記表面における前記介在物の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下であり、且つ前記表面における前記介在物の個数密度D2が75個/mm 2 以下である、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材である。
質量基準で、前記組成を有する冷延鋼材にレーザ光を照射し、前記冷延鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するデスケール工程を含み、
前記レーザ光の照射は、前記冷延鋼材における母相と前記酸化スケールとの界面からの深さが0.50~10.00μmまでの領域を溶融可能な条件で行われる方法である。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。また、「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、ステンレス鋼材は、不純物としてОを0.02%以下含有してもよい。
さらに、本発明の実施形態に係るフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材は、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM:0.200%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
Cの含有量は多すぎると、硬質になって加工性が下がることに加え、溶接などの熱影響を受けた際に鋭敏化が生じ、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.150%、好ましくは0.100%、より好ましくは0.080%、更に好ましくは0.060%に制御される。一方、Cの含有量は少なすぎると、オーステナイト相の安定度が下がることによる加工性の劣化や精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.002%、より好ましくは0.005%、更に好ましくは0.010%に制御される。
Siの含有量は多すぎると、硬質化してフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限値は、5.00%、好ましくは4.00%、より好ましくは3.80%、更に好ましくは3.50%に制御される。一方、Siの含有量は少なすぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐熱性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の下限値は、0.20%、好ましくは1.00%、より好ましくは1.50%、更に好ましくは2.5%に制御される。
Mnは、オーステナイト相(γ相)生成元素である。Mnの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Mnの含有量の上限値は、6.00%、好ましくは4.00%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Mnの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
Pの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐食性や加工性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限値は、0.050%、好ましくは0.030%、より好ましくは0.020%、更に好ましくは0.010%に制御される。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、更に好ましくは0.003%である。
Sの含有量は多すぎると、熱間加工性が下がってフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまうとともに、耐食性にも悪影響を及ぼす。そのため、Sの含有量の上限値は、0.0300%、好ましくは0.0100%、より好ましくは0.0050%、更に好ましくは0.0010%に制御される。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%である。
Niは、Mnと同様にオーステナイト相(γ相)生成元素である。Niは高価であるため、含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Niの含有量の上限値は、9.00%、好ましくは8.00%、より好ましくは7.50%、更に好ましくは7.00%に制御される。一方、Niによる効果を得る観点から、Niの含有量の下限値は、好ましくは1.00%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは5.00%、更に好ましくは5.50%に制御される。
Crの含有量は多すぎると、精錬コストの上昇を招く上に、固溶強化によって硬質化し、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限値は、30.00%、好ましくは28.00%、より好ましくは26.00%、更に好ましくは25.00%に制御される。一方、Crの含有量は少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、15.00%、好ましくは18.00%、より好ましくは20.00%、更に好ましくは22.00%に制御される。
Moは、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐食性を改善する元素である。Moは高価であるため、Moの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限値は、5.00%、好ましくは4.50%、より好ましくは4.00%、更に好ましくは3.80%に制御される。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.10%、より好ましくは0.50%、更に好ましくは1.00%である。
Cuは、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性を改善する元素である。Cuの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまうとともに、鋳造時に低融点相を形成して熱間加工性の低下を招く。そのため、Cuの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.60%、より好ましくは1.20%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
Nは耐食性を改善する元素である。Nの含有量は多すぎると、硬質化してフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限値は、0.400%、好ましくは0.300%、より好ましくは0.280%、更に好ましくは0.260%に制御される。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、好ましくは0.05%、より好ましくは0.10%に制御される。
Alは、精錬工程において脱酸のために必要に応じて添加され、耐食性及び耐熱性を改善する元素である。Alの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Alの含有量の上限値は、3.500%、好ましくは3.000%、より好ましくは2.000%、更に好ましくは1.500%に制御される。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.010%、更に好ましくは0.100%である。
本発明の実施形態に係るフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材は、Si及びAlの含有量が多いものを対象とする。具体的には、Si+2Al(各元素記号は、各元素の含有量を表す)は、1.20%以上、好ましくは1.30%以上である。なお、Si+2Alの上限値は、特に限定されないが、好ましくは10.00%、より好ましくは8.00%、更に好ましくは5.00%である。
Tiは、CやNと結合して耐食性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Tiによる効果を得る観点から、Tiの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%に制御される。一方、Tiの含有量は多すぎると、表面疵の原因となって品質低下を招くとともに、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.500%、好ましくは0.300%、より好ましくは0.100%に制御される。
Nbは、Tiと同様に、CやNと結合して耐食性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Nbによる効果を得る観点から、Nbの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.004%、より好ましくは0.010%に制御される。一方、Nbの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nbの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.600%、より好ましくは0.060%に制御される。
Vは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Vによる効果を得る観点から、Vの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Vの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Vの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.200%に制御される。
Wは、高温強度及び耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Wによる効果を得る観点から、Wの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Wの含有量は多すぎると、硬質化して加工性が低下するとともに、表面疵が増加してフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の表面品質が低下してしまう。そのため、Wの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.300%に制御される。
Zrは、CやNと結合して耐酸化性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Zrによる効果を得る観点から、Zrの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Zrの含有量は多すぎると、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Zr含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.200%、より好ましくは0.050%に制御される。
Coは、耐熱性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Coによる効果を得る観点から、Coの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Coは高価であるため、Coの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量の上限値は、1.200%、好ましくは0.400%に制御される。
Caは、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Caは、硫化物を形成してSの粒界偏析を抑制することで耐粒界酸化性を改善する元素でもある。Caによる効果を得る観点から、Caの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0003%に制御される。一方、Caの含有量は多すぎると、介在物数が増加して加工性の低下を招く。そのため、Caの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0050%に制御される。
Bは、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Bは、粒界強化によってフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の二次加工性を改善する元素でもある。Bによる効果を得る観点から、Bの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0003%、より好ましくは0.0005%に制御される。一方、Bの含有量は多すぎると、溶接性や疲労強度の低下を招く。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0080%、好ましくは0.0040%、より好ましくは0.0025%に制御される。
Snは、耐食性及び高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Snによる効果を得る観点から、Snの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.002%に制御される。一方、Snの含有量は多すぎると、低融点相を形成してフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の熱間加工性が低下してしまう。そのため、Snの含有量の上限値は、0.500%、好ましくは0.100%、より好ましくは0.050%に制御される。
REM(希土類元素)は、B、Caと同様にフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、REMは、溶出し難い硫化物を形成し、腐食起点となるMnSの生成を抑制することで耐食性を改善する元素でもある。ただし、REMの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そこで、REMの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.100%に制御される。一方、REMの含有量の下限値は、特に限定されないが、REMによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、より好ましくは0.010%である。
なお、REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。これらは単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
なお、介在物の個数密度の比D2/D1の下限値は、小さいほどの耐食性及び疲労特性の向上効果が高くなるため特に限定されないが、例えば、0.01である。
同様に、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の表面における円相当径0.5~10μmの介在物の個数密度D2(以下、「表面における介在物の個数密度D2」という。)は、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の表面における任意の箇所(10視野以上)を電子顕微鏡で撮影し、上記と同様にして得られた介在物の個数を観察視野の面積で除することによって算出することができる。
ここで、介在物はその多くが円相当径0.5~10μmの範囲であるため、この範囲の大きさの介在物を個数として数え、介在物の個数密度D1,D2とした。なお、円相当径は、観察される個々の黒色領域の面積を、同じ面積を有する円に換算した場合の円の直径を意味する。
なお、表面における介在物の個数密度D2の下限値は、小さいほど耐食性及び疲労特性の向上効果が高くなるため特に限定されないが、例えば10個/mm2である。
ここで、一例として、本発明の実施形態に係るフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材の模式的な断面図を図1に示す。
図1に示されるように、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材10は、母相11と母相11の表面Aに形成された溶融凝固層12とを備える。母相11には介在物13が含まれる。溶融凝固層12にも介在物13が含まれ得るが、溶融凝固層12の表面Bに露出する介在物13は少ない。これは、レーザ光によるデスケールによって表面Bに露出した介在物13が固溶したためである。
ここで、本明細書において「算術平均粗さRa」とは、JIS B0601:2013に準拠して測定される算術平均粗さRaを意味する。
ここで、本明細書において「60度鏡面光沢Gs(60°)」とは、JIS Z8741:1997に準拠して測定される60度鏡面光沢Gs(60°)を意味する。
以下、本発明の実施形態に係るフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材がフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板である場合を例に挙げて説明する。
本発明の一実施形態に係るフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の厚み(板厚)は、特に限定されないが、好ましくは3mm未満、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2mm以下である。また、その下限は、例えば、0.1mmであり、0.3mmとしてもよい。
図2(a)に示されるように、冷延鋼材(冷延鋼板)20は、母相11の表面に酸化スケール21が形成されている。また、母相11と酸化スケール21との界面D(母相11の表面)には介在物13が存在している。
従来の方法(酸洗及び/又は研磨)によってデスケール(酸化スケール21の除去)を行う場合、図2(b)に示されるように、母相11と酸化スケール21との界面Dに存在する介在物13が表面Eに露出する。また、母相11と酸化スケール21との界面Dに存在する介在物13を除去するために、酸化スケール21とともに母相11の表層を除去するにしても、母相11の内部に介在物13が存在しているため、母相11の内部の介在物13が表面Eに露出しまう。そのため、従来の方法では、表面Eに露出した介在物13を低減することは難しい。
(レーザ光の種類)
連続波レーザ光を用いる場合、酸化スケールの除去に必要なエネルギーが大きくなり、必要な電力が大きくなること、及び熱影響が生じる範囲が大きすぎて、溶融凝固層の厚さ制御が困難となることから、瞬間的に熱を加えることができるパルスレーザ光が好ましい。
(波長)
一般に物質の光に対する反射率は波長依存性を有し、反射率が低い波長を選択すると入熱が大きくなり、酸化スケールの蒸散が生じ易くなる。そのため、母相の反射率が高く、酸化物の反射率が低い波長を選択することで、必要以上に母相を溶融させることなく酸化スケールを選択的に蒸散除去することができる。
(パルス幅)
パルス幅は1つのパルスが照射されている時間を表し、パルス幅が狭いほど瞬間的な加熱が生じることになる。パルス幅が狭いとレーザによる入熱が周囲に伝達される前にアブレーションが生じるため、アブレーション閾値が小さくなるとともに、母相への熱影響が少なくなる。母相の溶融が起こる条件でレーザ照射を行う場合、パルス幅が狭いほど急速冷却が生じ、溶融した介在物の再析出が抑制される。ただし、パルス幅は主に発振器の性能で決定され、短いパルス幅で発振可能な装置は高額であるため、装置の仕様範囲内で、短いパルス幅を選択することが好ましい。
(発振周波数)
パルス幅が短いほど発振周波数を高くすることができ、発振周波数が高いほど単位時間あたりに照射されるパルス数が多くなり、酸化スケールの除去速度が向上する。そのため、装置の仕様範囲内で、高い発振周波数を選択することが好ましい。
スキャン周波数はパルス照射位置の平面方向における移動速度を表し、スキャン周波数が高いほど酸化スケールの除去速度が速くなるが、高くしすぎるとパルス照射位置の間に空隙が生じて酸化スケールが残存してデスケール率が低下する。そのため、デスケール率を維持できる範囲でスキャン周波数を高くすることが好ましい。
(レーザのビーム径)
大きいほど照射範囲、すなわち一回のパルスでデスケールできる範囲が広くなり、デスケール効率がよくなるが、パルス一回のエネルギー密度(フルエンス)が低くなる。酸化スケールを蒸散除去できるフルエンスを維持した範囲でビーム径を大きくすることが好ましい。
(フルエンス)
酸化スケールを構成する酸化物のアブレーション閾値を超えるフルエンスを有するレーザ光を照射することで、酸化スケールを蒸散除去できる。フルエンスが高いほど除去できる酸化スケールの厚さが増大するが、フルエンスを高くしすぎると酸化スケールだけでなく母相の蒸散除去も生じるようになる。また、パルスレーザは連続波レーザと比較して熱影響が少ないが、フルエンスが高いほど母相への入熱が大きくなり、溶融部及び熱影響部が大きくなる。したがって、除去する酸化スケールの特性(厚さ、構成、組成など)と母相への入熱とのバランスを考慮して、必要以上に母相を溶融させることのない範囲でフルエンスを調整すればよい。ビームスポット内でフルエンスの分布が異なる場合は、平均フルエンスを用いて制御すればよい。
この耐食性部材に用いられるフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材は、当該技術分野において公知の方法によって各種形状に加工されていてもよい。
本発明の実施形態に係る耐食性部材は、上記のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材以外の部材を更に含むことができる。
耐食性部材としては、特に限定されないが、自動車用部品、建築用部品、厨房用器具などが挙げられる。
各鋼種の組成を有する冷延鋼板に対して、レーザ光の照射によるデスケール工程を行った。
レーザ光の照射は、市販の装置(株式会社IHI検査計測製LaserClear50A)を用いて行った。この装置の可動ステージに冷延鋼板を設置し、圧延方向に沿って0.2m/分で移動させつつ、冷延鋼板の上方から板幅方向に一定速度でスキャンしてパルスレーザ光を1回照射した。1回あたりのスキャン幅は25mmとした。パルスレーザ光の照射条件は以下の通りとした。
波長:1085nm
パルス幅:220ns
発振周波数:60kHz
スキャン周波数:100Hz
レーザのビーム径:90μm
平均フルエンス:8J/cm2
鋼種Aの組成を有する冷延鋼板に対して、酸洗によるデスケール工程を行った。
酸洗は、次のようにして行った。フッ酸30g/L及び硝酸100g/Lを含むフッ硝酸水溶液を恒温槽で60℃に保持し、冷延鋼板を600秒浸漬させた後、直ぐに流水で水洗して自然乾燥させた。
比較例1で得られたデスケール工程後の冷延鋼板に対して、SiC研磨紙(番手#400)及び水溶性研削油を用いたベルト研磨を行った。研削深さは、表面から20μmの深さとした。
上記の実施例及び比較例で得られたフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の幅方向及び長さ方向の中心部から50mm角の試験片を切り出し、表面の任意の箇所を、株式会社日立ハイテク製ショットキー走査電子顕微鏡SU5000を用いて200倍で撮影した。また、この試験片の表面を研磨して厚みの1/4(250μm)を除去し、表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相を露出させた後、この露出面の任意の箇所を上記と同様にして撮影した。撮影は、0.48mm×0.64mm(0.3072mm2)を1視野とし、10視野で行った。次に、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製の解析ソフト(AZtecSteel)を用い、撮影された画像を二値化処理して円相当径0.5~10μmの介在物(黒色)と母相(白色)とに分けた。画像解析の条件は、以下の通りとした。
解像度:4096
最小検出サイズ:8ピクセル(0.5μm)
介在物の色閾値:47~24057
なお、8ピクセル未満のものはノイズとして除外した。
次に、二値化処理された画像において円相当径0.5~10μmの黒色領域を数えて介在物の個数を求め、得られた介在物の個数を観察視野の面積で除することによって介在物の個数密度D1,D2算出した。介在物の個数密度D1,D2の結果は、各視野における結果の平均値とした。
また、算出した介在物の個数密度D1,D2を基に、介在物の個数密度の比D2/D1を算出した。
フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板を圧延方向と平行な厚み方向(表面に直交する方向)に切断し、電子顕微鏡を用いて切断面の組成像を10000倍まで観察し、コントラストの違いから溶融凝固層を判別して、その厚さを測定した。厚さは、任意の10箇所で測定し、その平均値を結果とした。
フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の表面について、JIS B0601:2013に準拠し、接触式の表面粗さ計(株式会社東京精密製サーフコム2800)を用いて算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは、基準長さを4mmとし、端部から5mmまでの範囲を除く5箇所で測定を行い、その平均値を評価結果とした。なお、各測定位置の間は5mm以上離した。
フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の表面について、JIS Z8741:1997に準拠し、光沢度計(日本電色工業株式会社製PG-1M)を用いて60度鏡面光沢Gs(60°)を測定した。60度鏡面光沢Gs(60°)は、端部から5mmまでの範囲を除く5箇所で測定を行い、その平均値を評価結果とした。なお、各測定位置の間は5mm以上離した。
耐食性試験は、JASO M609及びM610に準じ、複合サイクル試験を行った。具体的には、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を繰り返す塩乾湿繰り返し試験を行った。塩乾湿繰り返し試験は、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板に対して、5%のNaCl水溶液の噴霧(35℃で2時間)、乾燥(相対湿度30%、温度60℃で4時間)、及び湿潤(相対湿度95%、温度50℃で2時間)を1サイクルとし、サイクル終了毎に水洗して乾燥させた後、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の表面を観察し、発錆面積率の算出を行った。そして、発錆面積率が10%以上となったサイクル数を腐食発生サイクル数とした。
発錆面積率の算出は、次のような手順で行った。塩乾湿繰り返し試験後のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の表面を写真撮影し、端面を除いた中央の25mm×25mmの範囲における発錆部分の面積の割合を求めた。発錆部分の面積は、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の表面の写真を画像解析により2値化し、1ピクセルあたりの面積を算出した後、発銹部分のピクセル数をカウントして求めた。発錆面積率は、以下の式によって算出した。
発錆面積率(%)=発錆部分の面積(mm2)/観察部全体の面積(625mm2)×100
この評価では、比較例2のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の腐食発生サイクル数を基準とし、実施例1~5及び比較例1のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の腐食発生サイクル数の向上率を算出した。算出された腐食発生サイクル数の向上率が20%以上のものを「〇」、10%以上20%未満のものを「△」、10%未満のものを「×」とした。
疲労特性試験は、JIS Z2275:1978に準じ、平面曲げ疲労試験を行った。具体的には、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板から幅方向長さ30mm×圧延方向長さ90mmを切り出し、幅方向両端に半径30mmのR部を形成することによって試験片を得た。この試験片を平面曲げ試験機に装着し、繰り返し数107回の疲れ試験を行った。この疲れ試験は、応力段階ごとに2個以上の試験片で試験を行い、時間強さを測定した。
この評価では、比較例2のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の疲労強度を基準とし、実施例1~5及び比較例1のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板の時間強さの向上率を算出した。算出された時間強さの向上率が10%以上のものを「〇」、10%未満のものを「×」とした。
上記の各評価結果を表2に示す。
これに対して比較例1のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板は、酸洗によるデスケールを行ったため、介在物の個数密度の比D2/D1が0.50を超えてしまった。そのため、比較例1のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板は、比較例2のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス冷延鋼板に比べて耐食性及び疲労特性が十分に向上しなかった。
11 母相
12 溶融凝固層
13 介在物
20 冷延鋼材
21 酸化スケール
Claims (9)
- 質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:6.00%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:1.00~9.00%、Cr:15.00~30.00%、Mo:5.00%以下、Cu:2.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における円相当径が0.5~10μmの介在物の個数密度D1に対する前記表面における前記介在物の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下であり、且つ前記表面における前記介在物の個数密度D2が75個/mm2以下である、フェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。 - 質量基準で、Ti:0.001~0.500%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、Co:0.001~1.200%から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 質量基準で、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM:0.200%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 前記表面の算術平均粗さRaが0.01~0.40μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 前記表面の60度鏡面光沢Gs(60°)が200~750%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 表層に溶融凝固層を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 前記溶融凝固層の厚さが0.50~10.00μmである、請求項6に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材。
- 請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材を製造する方法であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成を有する冷延鋼材にレーザ光を照射し、前記冷延鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するデスケール工程を含み、
前記レーザ光の照射は、前記冷延鋼材における母相と前記酸化スケールとの界面からの深さが0.50~10.00μmまでの領域を溶融可能な条件で行われる方法。 - 請求項1~7のいずれか一項に記載のフェライト・オーステナイト二相系ステンレス鋼材を含む耐食性部材。
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