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JP7749246B2 - 量子吸収分光システム - Google Patents
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JP7749246B2 - 量子吸収分光システム - Google Patents

量子吸収分光システム

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Description

本開示は量子吸収分光システムに関する。
赤外吸収分光法では一般に、赤外光が試料に照射され、試料による吸収に伴う赤外光の強度変化が赤外吸収スペクトルとして取得される。赤外吸収分光法の中でも特にフーリエ変換赤外分光法(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)は、化学、生物学または薬学などの分野において分子構造(官能基の種類または立体構造など)の特定に広く用いられている。
また、近年、量子計測、量子通信、量子計算などの量子技術分野において、2つの光子が量子力学的な相関を持つ「量子もつれ」が生じた光子対を利用して新規機能を実現することが試みられている。以下、このような光子対を「量子もつれ光子対」と称する。
特開2003-228091号公報 特表2005-527838号公報
Anna Paterova, Hongzhi Yang, Chengwu An, Dmitry Kalashnikov and Leonid Krivitsky, "Measurement of infrared optical constants with visible photons", New Journal of Physics 20(2018)043015 Masayuki Okano, Hwan Hong Lim, Ryo Okamoto, Norihiko Nishizawa, Sunao Kurimura and Shigeki Takeuchi, "0.54 μm resolution two-photon interference with dispersion cancellation for quantum optical coherence tomography", Scientific Reports volume 5, Article number: 18042 (2015)
本発明者らは、量子もつれ光子対を用いた吸収分光システムである「量子吸収分光システム」の研究を進めている。量子吸収分光システムの測定感度を向上させるための技術に対する要望が存在する。
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的の1つは、量子吸収分光システムの測定感度を向上させることである。
(1)本開示のある局面に係る量子吸収分光システムは、励起光源と、量子干渉計と、光検出器とを備える。励起光源は、ポンプ光を発する。量子干渉計は、ポンプ光の自発パラメトリック下方変換によりシグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こし、アイドラー光子の伝搬経路に試料が配置されるように構成されている。光検出器は、量子干渉計からのシグナル光子を検出する。量子干渉計は、シグナル光子の伝搬経路およびアイドラー光子の伝搬経路のうちの少なくとも一部に光学的に結合されたシングルモードファイバ部を含む。
(2)量子干渉計は、量子もつれ光子対を波長に応じてシグナル光子とアイドラー光子とに分離する波長分離素子をさらに含む。シングルモードファイバ部は、波長分離素子に光学的に結合され、アイドラー光子の波長域の光を伝搬させる第1のシングルモードファイバを含む。第1のシングルモードファイバは、テーパーファイバである。
(3)テーパーファイバは、非テーパー部と、非テーパー部よりも細いテーパーウエスト部とを有する。テーパーウエスト部の直径は、可視域から遠赤外域までの波長域に含まれる。
(4)テーパーファイバは、交換可能に構成されている。
(5)量子干渉計は、アイドラー光子を反射する第1のミラーと、シグナル光子を反射する第2のミラーとをさらに含む。第1のシングルモードファイバは、波長分離素子と第1のミラーとの間に光学的に結合されており、シングルモードファイバ部は、波長分離素子と第2のミラーとの間に光学的に結合され、シグナル光子の波長域の光を伝搬させる第2のシングルモードファイバをさらに含む。第1および第2のシングルモードファイバのうちの少なくとも一方は、偏波保持ファイバである。
(6)量子干渉計は、量子もつれ光子対を発生させる光子対源をさらに含む。シングルモードファイバ部は、光子対源と波長分離素子との間に光学的に結合され、ポンプ光、シグナル光子およびアイドラー光子のすべての波長域の光を伝搬させる広帯域シングルモードファイバをさらに含む。
(7)量子干渉計は、量子もつれ光子対を発生させる光子対源と、量子もつれ光子対を波長に応じてシグナル光子とアイドラー光子とに分離する波長分離素子とをさらに含む。シングルモードファイバ部は、光子対源と波長分離素子との間に光学的に結合され、ポンプ光、シグナル光子およびアイドラー光子のすべての波長域の光を伝搬させる広帯域シングルモードファイバを含む。
(8)広帯域シングルモードファイバは、フォトニック結晶ファイバである。
(9)励起光源は、パルス光源である。光検出器は、シングルピクセル光検出器である。シングルモードファイバ部は、シングルピクセル光検出器に光学的に結合された波長分散用シングルモードファイバを含む。
(10)量子干渉計は、試料に関するアイドラー光子の透過率が上昇するに従ってシングルピクセル光検出器の信号強度が非線形に増大するハイゲイン領域において使用される。シングルモードファイバ部は、アイドラー光子を吸収する吸収体をさらに含む。
(11)量子吸収分光システムは、試料の吸収分光特性を解析するための演算処理を実行するプロセッサをさらに備える。量子干渉計は、シグナル光子およびアイドラー光子のうちの一方の光子の位相を変化させることが可能に構成された位相変換部をさらに含む。光検出器は、位相変換部により一方の光子の位相を変化させた場合のシグナル光子の検出数に応じた量子干渉信号を出力する。プロセッサは、量子干渉信号のフーリエ変換により試料の吸収分光特性を算出する。
(12)プロセッサは、試料がアイドラー光子の伝搬経路に配置された状態での量子干渉信号のフーリエ変換によりフーリエスペクトルを算出するのに加えて、試料がアイドラー光子の伝搬経路に配置されていない状態での量子干渉信号のフーリエ変換により参照用フーリエスペクトルを算出する。フーリエスペクトルと参照用フーリエスペクトルとの比に基づいて、試料の複素透過率スペクトルを算出する。
(13)プロセッサは、試料の複素透過率スペクトルの絶対値を2乗することで試料の吸収スペクトルを算出する。
(14)量子干渉計は、可視光子をシグナル光子として発生させるように構成されている。光検出器は、シリコンベースの光検出器である。
本開示によれば、量子吸収分光システムの測定感度を向上させることができる。
実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 量子吸収分光の原理を説明するための概念図である。 広帯域シングルモードファイバの構成の一例を示す図である。 赤外シングルモードファイバの構成を説明するための図である。 テーパーウエスト部の断面の電場強度分布に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。 テーパーウエスト部の直径とアイドラー光の波長域との間の関係をまとめた図である。 実施の形態1の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態1の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 ローゲイン領域における試料透過率とシングルピクセル光検出器の信号強度との間の関係を示す図である。 ハイゲイン領域における試料透過率とシングルピクセル光検出器の信号強度との間の関係を示す図である。 実施の形態2の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態2の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3の変形例3に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3の変形例4に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態3の変形例5に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 実施の形態4に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。 QPMデバイスの構成例を示す図である。 ATRユニットの構成例を示す図である。 コントローラによる演算処理をより詳細に説明するための機能ブロック図である。 実施の形態4における量子吸収分光法の処理手順を示すフローチャートである。 実施の形態4の変形例に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。
本開示およびその実施の形態において、紫外域とは、10nm~360nmの波長域を意味する。可視域とは、360nm~1050nmの波長域を意味する。近赤外域とは、1050nm~2μmの波長域を意味する。中赤外域とは、2μm~5μmの波長域を意味する。遠赤外域とは、5μm~20μmの波長域を意味する。超遠赤外域(テラヘルツ域)とは、20μm~1mmの波長域を意味する。赤外域とは、近赤外域、中赤外域、遠赤外域および超遠赤外域をすべて含み得る。
本開示およびその実施の形態において、ナノメートルオーダーには、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。サブマイクロメートルオーダーには、100nmから1μmまでの範囲が含まれる。マイクロメートルオーダーには、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。ミリメートルオーダーには、1mmから100mm(=10cm)までの範囲が含まれる。
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。各実施の形態では、本開示に係る量子吸収分光システムを用いて近赤外域における試料の吸収分光特性を測定する構成について説明する。しかし、本開示に係る量子吸収分光システムを用いて測定可能な波長域は近赤外域に限定されない。本開示に係る量子吸収分光システムは、紫外域、可視域、中赤外域、遠赤外域または超遠赤外域における試料の吸収分光特性も測定可能である。
[実施の形態1]
<システム全体構成>
図1は、実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム1は、励起光源11と、量子干渉計21と、分光器31と、コントローラ41とを備える。
励起光源11は、非線形光学結晶50(後述)を励起するためのポンプ光を発する。図中、ポンプ光をLpで示す。以下ではポンプ光の伝搬経路を「励起光路」とも記載する。実施の形態1において、励起光源11は、可視域に含まれる連続波(CW:Continuous wave)のレーザ光を発する。具体的には、たとえば波長532nmの緑色のレーザ光を発する半導体レーザを励起光源11として採用できる。後述するようにパルスレーザを使用してもよい。
量子干渉計21は、ポンプ光の照射によりシグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こすように構成されている。後に図2にて詳しく述べるように、量子干渉は通常の光の干渉とは異なるので注意が必要である。図中、シグナル光子の伝搬経路をLsで示し、アイドラー光子の伝搬経路をLiで示す。また、以下ではシグナル光子の伝搬経路を「シグナル光路」と略し、アイドラー光子の伝搬経路を「アイドラー光路」と略す場合がある。
量子干渉計21は、たとえばマイケルソン(Michelson)干渉計に類似する構成を応用した光学系である。本実施の形態において、量子干渉計21の各光学素子は、光ファイバにより光学的に結合されている。量子干渉計21は、光ファイバ201と、ダイクロイックスプリッタ202と、光ファイバ203と、光子対源204と、光ファイバ205と、ダイクロイックスプリッタ206と、光ファイバ207と、偏波コントローラ208と、ミラー209と、光ファイバ210と、偏波コントローラ211と、ミラー212と、試料ホルダ213と、光ファイバ214とを含む。
光ファイバ201は、励起光源11とダイクロイックスプリッタ202とを光学的に結合する。光ファイバ201は、ポンプ光の波長域の光(この例では可視光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバ(SMF:Single Mode Fiber)である。
ダイクロイックスプリッタ202は、励起光源11と光子対源204との間に配置されている。ダイクロイックスプリッタ202は、シグナル光の波長域の光を反射する一方で、上記波長域外の光(ポンプ光およびアイドラー光の波長域の光)を透過する。ダイクロイックスプリッタは波長分離カプラとも呼ばれる。ダイクロイックスプリッタ202に代えてハーフミラーを用いてもよい。ダイクロイックスプリッタ206についても同様である。
光ファイバ203は、ダイクロイックスプリッタ202と光子対源204とを光学的に結合する。光ファイバ203は、ポンプ光の波長域の光およびシグナル光の波長域の光(この例では、いずれも可視光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバである。
光子対源204は、非線形光学結晶50を含み、ポンプ光からシグナル光とアイドラー光との量子もつれ光子対を発生させる。より詳細には、非線形光学結晶50は、ポンプ光の自発パラメトリック下方変換(SPDC:Spontaneous Parametric Down-Conversion)により量子もつれ光子対を発生させる。非線形光学結晶50は、たとえばニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶である。この場合、シグナル光は可視光であり、アイドラー光は赤外光(近赤外光または中赤外光)である。
ただし、非線形光学結晶50の種類は特に限定されるものでない。硫化ガリウム銀(AgGaS)結晶などの他の種類の非線形光学結晶も採用できる。非線形光学結晶50を用いた量子吸収分光の原理については図2にて説明する。
なお、本明細書において化合物が化学量論的組成式によって表現されている場合、その化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。たとえば、ニオブ酸リチウムが「LiNbO」と表現されている場合、特に断りのない限り、ニオブ酸リチウムは「Li/Nb/O=1/1/3」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、NbおよびOを含み得る。他の化合物についても同様である。
非線形光学結晶50は、SPDCにより量子もつれ光子対を発生させるための非線形光学素子の一例である。量子もつれ光子対の発生手段としては、非線形光学結晶50に代えて、リング共振器中での4光波混合を採用してもよいし、非線形ファイバを採用してもよいし、シリコン(Si)および/または窒化シリコン(SiN)などにより形成される光導波路(いずれも図示せず)を採用してもよい。
光ファイバ205は、光子対源204とダイクロイックスプリッタ206とを光学的に結合する。光ファイバ203は、ポンプ光の波長域の光、シグナル光の波長域の光、アイドラー光の波長域の光のすべて(可視光、近赤外光および中赤外光)をシングルモードで伝搬させる広帯域シングルモードファイバである。そのため、以下では光ファイバ205を「広帯域SMF205」とも記載する。広帯域SMF205の構成については図3にて説明する。
ダイクロイックスプリッタ206は、光子対源204とミラー209との間、および、光子対源204とミラー212との間に配置されている。ダイクロイックスプリッタ206は、ポンプ光の波長域の光およびシグナル光の波長域の光を透過する一方で、上記波長域外の光(アイドラー光の波長域の光)を反射する。なお、ダイクロイックスプリッタ206は、本開示に係る「波長分離素子」の一例である。
光ファイバ207は、ダイクロイックスプリッタ206とミラー209とを光学的に結合する。光ファイバ207は、ポンプ光の波長域の光およびシグナル光の波長域の光(いずれも可視光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバである。そのため、以下では光ファイバ207を「可視SMF207」とも記載する。なお、可視SMF207は、本開示に係る「第2のシングルモードファイバ」の一例である。
偏波コントローラ208は、可視SMF207に光学的に結合されている。偏波コントローラ208は、可視SMF207に外部から応力を付加することで、可視SMF207内を伝搬するシグナル光の偏光状態を任意の偏光状態に変換するように構成されている。図1に示す例では、偏波コントローラ208はパドル型であって、3つのパドル(円形部分)を有する。各パドルは擬似的な波長板(1/4波長板、1/2波長板など)として機能する。3つのパドルの角度を調整することで、シグナル光の偏光状態を変化させることができる。ただし、偏波コントローラ208は、バルク型であってもよく、インライン型であってもよい。
ミラー209は、ポンプ光およびシグナル光を反射する。ミラー209で反射したポンプ光およびシグナル光は、可視SMF207を伝搬してダイクロイックスプリッタ206に到達する。そうすると、ポンプ光の反射光およびシグナル光の反射光は、ダイクロイックスプリッタ206を再び透過して光子対源204(非線形光学結晶50)に戻る。なお、ミラー209は、本開示に係る「第2のミラー」に相当する。
光ファイバ210は、ダイクロイックスプリッタ206とミラー212とを光学的に結合する。光ファイバ210は、アイドラー光の波長域の光(赤外光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバである。そのため、以下では光ファイバ210を「赤外SMF210」とも記載する。
本実施の形態において、赤外SMF210は、シングルモードファイバを加熱延伸することで、その直径を部分的に細くしたテーパーファイバである。赤外SMF210の構成については図4にて説明する。なお、赤外SMF210は、本開示に係る「第1のシングルモードファイバ」の一例である。
偏波コントローラ211は、赤外SMF210に光学的に結合されている。偏波コントローラ211は、偏波コントローラ208と同様に、赤外SMF210内を伝搬するアイドラー光の偏光状態を任意の偏光状態に変換するように構成されている。
ミラー212はアイドラー光を反射する。ミラー212で反射したアイドラー光は、赤外SMF210を伝搬してダイクロイックスプリッタ206に到達する。そうすると、アイドラー光の反射光は、ダイクロイックスプリッタ206で再び反射して光子対源204に戻る。なお、ミラー212は、本開示に係る「第1のミラー」に相当する。本開示に係る「第1のミラー」および「第2のミラー」は、反射型のブラッグ(Bragg)グレーティングであってもよい。
試料ホルダ213は、ダイクロイックスプリッタ206とミラー212との間に配置されている。試料ホルダ213は、試料(図中、SPで示す)を保持するように構成されている。
光ファイバ214は、ダイクロイックスプリッタ202と分光器31とを光学的に結合する。光ファイバ214は、シグナル光の波長域の光(可視光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバである。ミラー209,212で反射して光子対源204に戻った復路のポンプ光、シグナル光およびアイドラー光のうち、シグナル光は、ダイクロイックスプリッタ202で反射し、光ファイバ214を伝搬して分光器31に到達する。一方、ポンプ光およびアイドラー光は、ダイクロイックスプリッタ202を透過するので、分光器31に到達することはない。
分光器31は、分光器31に到達したシグナル光を分光する。分光器31は、分散光学素子301と、マルチピクセル光検出器302とを含む。分散光学素子301は、典型的には回折格子またはプリズムであって、シグナル光を波長に応じて異なる方向に分散させる。
マルチピクセル光検出器302は、アレイ状に配列した複数のピクセル(受光素子)を含む。マルチピクセル光検出器302は、シリコンベースの光検出器であって、可視光を検出可能な光学特性を有する。具体的には、マルチピクセル光検出器302は、CCD(Charged-Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサなどである。マルチピクセル光検出器302は、コントローラ41の制御に従ってシグナル光を検出し、その検出信号をコントローラ41に出力する。シグナル光の検出信号の強度は、マルチピクセル光検出器302によるシグナル光子の検出数に応じた強度(より詳細にはシグナル光子の検出数に正比例する強度)である。
コントローラ41は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ401と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ402と、入出力ポート403と、モニタ404とを含む。コントローラ41は、量子吸収分光システム1の構成機器(励起光源11、分光器31)を制御する。また、コントローラ41はマルチピクセル光検出器302からのシグナル光の検出信号に基づいて、試料の赤外吸収分光特性(赤外吸収スペクトル、屈折率など)を解析するための演算処理を実行する。コントローラ41による演算処理の結果はモニタ404に表示される。これにより、測定者が試料の赤外吸収分光特性を確認できる。
図1に示す量子干渉計21では、マイケルソン干渉計に類似した量子干渉計が採用されている。しかし、本開示に係る量子吸収分光システムは、複数の非線形光学素子を含むマッハツェンダ(Mach-Zehnder)干渉計に類似した構成の量子干渉計を備えていてもよい。
実施の形態1では、光ファイバ203、広帯域SMF205、可視SMF207、赤外SMF210および光ファイバ214が本開示に係る「シングルモードファイバ部」(参照符号SMFを付して示す)に相当する。
<測定原理>
図2は、量子吸収分光の原理を説明するための概念図である。図1では、非線形光学結晶50が励起光路に1つだけ配置されており、ポンプ光が往路および復路の2回、非線形光学結晶50を通過すると説明した。図2では、測定原理の理解を容易にするため、2つの非線形光学結晶が励起光路に配置された構成を例に説明する。2つの非線形光学結晶を第1結晶51および第2結晶52と記載する。
励起光源11からのポンプ光を第1結晶51に照射すると、第1結晶51におけるSPDCにより、エネルギーが相対的に大きい1つの光子が、エネルギー保存則を満たしつつ、エネルギーがより小さい2つの光子に分かれる。図2に示す例では、1つの可視光子(ポンプ光子)から、1つの可視光子(シグナル光子)と1つ赤外光子(アイドラー光子)との量子もつれ光子対が発生する。第2結晶52へのポンプ光の照射によっても同様に、1つの可視光子と1つ赤外光子との量子もつれ光子対が発生する。可視光子の伝搬経路には分光器31が配置されている。
第1結晶51により量子もつれ光子対が発生する事象(以下、「第1の物理過程」と呼ぶ)と、第2結晶52により量子もつれ光子対が発生する事象(以下、「第2の物理過程」と呼ぶ)との間で量子干渉が起こる。より詳細には、第1の物理過程を表す確率振幅と第2の物理過程を表す確率振幅とを足し合わせた場合に、上記2つの確率振幅が同位相であれば第1の物理過程と第2の物理過程とが強め合う一方で、上記2つの確率振幅が逆位相であれば第1の物理過程と第2の物理過程とが打ち消し合う(量子干渉効果)。以下では、第1の物理過程と第2の物理過程とが打ち消し合う干渉(破壊的干渉)を例に説明する。
赤外吸収体である試料がアイドラー光路に配置されていない場合、第1の物理過程と第2の物理過程との見分けが付かず、第1の物理過程と第2の物理過程とが量子干渉を起こす(この例では打ち消し合う)。この場合、第2結晶52よりも後段では、量子もつれ光子対が発生していないように観測される。つまり、シグナル光子が分光器31により検出されることはない。
これに対し、試料がアイドラー光路に配置されている場合には、アイドラー光子が試料に吸収される。そうすると、第1の物理過程と第2の物理過程との見分けが付くことになり、第1の物理過程と第2の物理過程との間の量子干渉が不完全になる。その結果、シグナル光子が分光器31により検出される。
このように、量子吸収分光においては、量子もつれ光子対のうちの一方のシグナル光子(可視光子)を分光器31により検出することで、もう一方のアイドラー光子(赤外光子)が試料により吸収されたと判定することが可能である。
なお、図2に示す概念図では、量子干渉計21が2回の物理過程(第1および第2の物理過程)の間で量子干渉を起こす例について説明した。しかし、本開示における量子干渉計は、3回以上の物理過程の間で量子干渉を起こしてもよい。つまり、量子干渉計は、少なくとも2回の物理過程の間で量子干渉を起こすように構成されていればよい。また、量子干渉計は、第1の物理過程と第2の物理過程とが強め合う干渉(建設的干渉)を起こすように構成されていてもよい。
<量子吸収分光法へのSMFの適用>
市販のFTIRシステムなどの古典的な赤外吸収分光システムは、赤外光を発生させるための熱的光源(SiCヒータ等の発熱体)を備える。このような熱的光源は、数mm~数cm程度の有限サイズを有するとともに、あらゆる方向に光を発する。熱的光源からは多数の空間モードに各々独立した位相で光が放出されるため、原理的に、熱的光源をシングルモードファイバに高効率に結合することはできない。
本実施の形態に係る量子吸収分光システム1において、光子対源204は、自発パラメトリック下方変換(SPDC)により量子もつれ光子対を発生させる。SPDCはモード選択性を示す。すなわち、SPDCでは、位相整合条件を満たす特定の空間モード(単一空間モード)に量子もつれ光子対を発生させることができる。単一空間モードに存在する量子もつれ光子対はシングルモードファイバに高効率で結合することが可能である。このように、量子吸収分光法は、有限サイズの熱的光源を使用する古典的吸収分光法と比べて、シングルモードファイバを用いた装置構成との親和性が高い。しかし、シングルモードファイバを用いた赤外量子吸収分光の測定例はこれまで報告されていない。
本開示は、量子吸収分光法とシングルモードファイバとの高い親和性に着眼した本発明者らが、量子もつれ光子対の伝搬経路等をシングルモードファイバで構成することに量子吸収分光システムの社会実装上の様々な利点があることを見出したことに基づいている。第1に、量子吸収分光法の測定感度は量子干渉の明瞭度に比例する。シングルモードファイバを用いることで、単一空間モードに存在する量子もつれ光による量子干渉が選択的に生じるため、高い量子干渉の明瞭度が実現される。したがって、量子吸収分光システム1の測定感度を向上させることができる。第2に、以下に説明するように、シングルモードファイバを用いることで量子吸収分光システム1を堅牢化するとともに小型化することができる。
シングルモードファイバを用いず、すべての光学素子が自由空間に配置された態様を、ここでは「空間型」と呼ぶ。空間型のシステム構成では、光学素子を固定するネジが物理的な振動により緩むことで光路ズレが生じ得る。光路ズレは環境の温度変化(熱的な揺動)に起因しても生じ得る。それに加えて、空間型のシステム構成では、コントローラを除く量子吸収分光システムが一定程度のサイズ(各辺が数十cmの直方体のサイズなど)になる。
これに対し、量子吸収分光システム1の量子干渉計21においては、すべての光学素子がシングルモードファイバにより光学的に結合されている。したがって、光学素子間の相対的な位置関係が多少ずれたとしても光路ズレの発生が抑制される。これにより、物理的な振動および熱的な揺動に対する耐性が高くなり、量子吸収分光システム1の堅牢性を向上させることができる。また、シングルモードファイバは自在に曲げたり巻いたりすることができる。そのため、光学素子間の光路の設置スペースを節約でき、その結果、空間型のシステム構成と比べて、量子吸収分光システム1を著しく小型化できる。たとえば、持ち運びに適したサイズまで量子吸収分光システム1をコンパクトにすることも可能である。そうすると、試料を採取した現場における測定(いわゆるオンサイト測定)を実現できる。
また、古典的な赤外吸収分光システムでは赤外域の熱的光源および赤外域の光検出器が用いられるのに対し、量子吸収分光システム1においては可視域の励起光源11および可視域のマルチピクセル光検出器302が用いられる。可視域の光源を用いることで熱対策が容易になる。さらに、可視域に高い感度を示す光検出器を用いることで、熱雑音を低減するための液体窒素による冷却が不要となる。よって、量子吸収分光システム1を一層小型化できる。
一般に、古典的な赤外吸収分光システムにおける照射光の強度はmWオーダーである。そのため、試料によっては、照射光による加熱に起因する試料の特性変化(試料の損傷を含む)が起こり得る。これに対し、量子吸収分光システム1において赤外SMF210を伝搬するアイドラー光は非常に微弱であり、たとえばfWオーダーである。したがって、測定中の試料の加熱は無視できるほど小さいため、試料の特性変化を抑制できる。
<広帯域SMF>
図3は、広帯域SMF205の構成の一例を示す図である。広帯域SMF205は、好ましくはフォトニック結晶ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)である。広帯域SMF205は、たとえば屈折率導波型のフォトニック結晶ファイバであって、コア205Aと、クラッド205Bとを含む。クラッド205Bには複数の空孔205Cが規則的に配列されている。複数の空孔205Cの各々のサイズと、複数の空孔205Cの間の間隔とを調整することで、広帯域にわたるシングルモードでの光伝送が可能になる。本実施の形態において、広帯域SMF205は、ポンプ光、シグナル光およびアイドラー光のすべての波長域の光を単一空間モード(シングルモード)で伝搬させるように構成されている。
なお、屈折率導波型のフォトニック結晶ファイバでは、典型的な光ファイバと同様に、光がコアとクラッドとの境界面で全反射を繰り返しながら伝送される。広帯域SMF205は、屈折率導波型に限定されず、ブラッグ反射により光を閉じ込めて伝送するフォトニックバンドギャップ型のフォトニック結晶ファイバであってもよい。
<テーパーファイバ>
古典的な赤外吸収分光システムでは、有限の大きさの赤外光が試料に照射される。この場合、試料表面に存在する微視的な凹凸などの試料表面の状態により照射光のビーム形状が乱れる可能性(照射光の位相波面に歪みが生じる可能性)がある。そうすると、光検出器により検出される信号強度が低下して赤外吸収分光システムの測定感度が低下し得る。そこで、量子吸収分光システム1においては、赤外SMF210にテーパーファイバが採用されている。
図4は、赤外SMF210の構成を説明するための図である。赤外SMF210は、非テーパー部210Aと、テーパー部210Bと、テーパーウエスト部210Cと、テーパー部210Cと、非テーパー部210Eとを有する。テーパー部210Aおよびテーパー部210Bは、テーパーウエスト部210Cの一方端に配置されている。テーパー部210Dおよび非テーパー部210Eは、テーパーウエスト部210Cの他方端に配置されている。テーパーウエスト部210Cの長さLは、好ましくはマイクロメートルオーダーからミリメートルオーダーまでの範囲である。
テーパーウエスト部210Cは、非テーパー部210A,210Eよりも細い。非テーパー部210Aとテーパーウエスト部210Cとの接続領域であるテーパー部210Bの直径変化が急激である場合、テーパー部210Bにおける損失が大きい。そのため、テーパー部210Bの直径変化を緩やかにする(「断熱的にする」とも表現される)ことで、非テーパー部210Aとテーパーウエスト部210Cとは滑らかに接続されている。非テーパー部210Eとテーパーウエスト部210Cとの接続に関しても同様である。
テーパーウエスト部210Cの直径φは、典型的にはマイクロメートルオーダー(好ましくは1μm以上かつ20μm未満)であるが、アイドラー光の波長によってはサブマイクロメートルオーダー(たとえば300nm以上かつ1μm未満)でもあり得る。すなわち、直径φは、その大部分が可視域から遠赤外域までの波長域に含まれる。直径φがナノメートルオーダーである場合、赤外SMF210を「ナノ光ファイバ」とも呼ぶことができる。なお、通信用の一般的な光ファイバの直径は約125μmであり、そのモードフィールド径は約10μmである。
テーパーウエスト部210Cでは、テーパーウエスト部210Cの全体をコアとし、テーパーウエスト部210Cの外部(通常は空気等の気体であるが、液体または真空であってもよい)をクラッドとしてアイドラー光が伝搬する。これにより、テーパーウエスト部210Cの表面近傍にエバネッセント場(近接場)と呼ばれる染み出し領域が形成される。図4には、エバネッセント場の電場強度分布のシミュレーション結果が併せて示されている。テーパーウエスト部210Cと試料ホルダ213(図1参照)とは、エバネッセント場と試料とが相互作用するように十分に近接して配置されている。
なお、図4に示す例では、テーパーウエスト部210Cの両端に非テーパー部およびテーパー部が存在する。しかし、テーパーウエスト部210Cの一方端にしか非テーパー部およびテーパー部が存在しなくてもよい。この場合、テーパーウエスト部210Cの他方端には、ミラー212に代わるミラー構造(ブラッググレーティングなど)を形成すればよい。
テーパーファイバが採用されている量子吸収分光システム1においては、アイドラー光を試料に直接的に照射するのに代えて、アイドラー光のエバネッセント場と試料との間の相互作用が測定される。これにより、試料表面の状態に起因する信号強度の低下が抑制されるため、量子吸収分光システム1の測定感度をさらに向上させることができる。また、古典的な赤外吸収分光システムでは小さ過ぎて測定対象とならないような極微量の試料についても赤外吸収分光特性を測定できる。
それに加えて、テーパーファイバを用いることで、可視光または近赤外光の波長程度の微小領域にアイドラー光を集中させることができる。図5にて詳細に説明するように、光源から発せられる総光子数が等しい条件で比較した場合、テーパーウエスト部210Cにおけるアイドラー光の光子数密度(単位断面積当たりのアイドラー光のフラックス)は、古典的な赤外吸収分光システムにおける照射光の光子数密度よりも著しく高くなる。その結果、量子吸収分光システム1の測定感度を一層向上させることができる。
高倍率の対物レンズを用いて波長程度に集光されたアイドラー光を試料に照射することも考えられる。しかしながら、そうしたとしても、アイドラー光の照射方向に関して高々数μmの範囲でしかアイドラー光と試料とを相互作用させることはできない。これに対し、テーパーファイバを用いた場合、光子数密度はテーパーウエスト部210Cの全長にわたって増強される。そして、テーパーウエスト部210Cの長さLはミリメートルオーダー(1mm以上)に及び得る。したがって、アイドラー光のエバネッセント場と試料とを1mm以上にもわたって相互作用させることができる。つまり、高倍率レンズを用いる場合と比べて、アイドラー光と試料との相互作用長を約1000倍長くすることができる。
図5は、テーパーウエスト部210Cの断面の電場強度分布に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。このシミュレーションでは、ルメリカル(Lumerical)社のFDTDソリューションズによる時間領域差分法(FDTD:Finite-Difference Time-Domain method)を用いた。
図5には、テーパーウエスト部210Cの直径φとアイドラー光の波長との様々な組み合わせについて、アイドラー光がテーパーウエスト部210Cから染み出す様子をシミュレーションした結果が示されている。テーパーウエスト部210Cの直径φを1μm、2μm、4μmまたは5μmとした。直径φが1μmまたは2μmである場合のテーパーウエスト部210Cの材料は、赤外用ガラス、具体的には赤外光伝搬用に市販されている光ファイバの材料であるカルコゲナイドガラス(As)とした。直径φが4μmまたは5μmである場合のテーパーウエスト部210Cの材料は、Ge33As12Se55ガラス(屈折率:2.4825)とした。アイドラー光の光強度は約18pWとした。
各直径φにおけるアイドラー光の波長は、その直径φにおいてアイドラー光がシングルモードで伝搬する値に設定した。具体的には、アイドラー光をシングルモードで伝搬可能な波長域は、直径φが1μmである場合は3.0μm~5.0μmであり、直径φが2μmである場合は6.0μm~9.1μmであり、直径φが4μmである場合は12.3μm~16.5μmであり、直径φが5μmである場合は15.3μm~19.8μmであった。図5に示す結果は、上記波長域の下限および上限(すなわち、アイドラー光がシングルモードで伝搬する最短波長および最長波長)に関するものである。
テーパーウエスト部210Cの直径φが1μmである場合について代表的に説明する。アイドラー光の波長が3μmであるときには、テーパーウエスト部210Cの中心および表面近傍に電場が集中した。テーパーウエスト部210Cの表面における電場の大きさは110.0[V/m]であった。この値は、光強度が同じ(18pW)でビーム径が1mmであるアイドラー光を光ファイバを使用せずに自由空間中に伝搬させる場合と比べて約700倍大きい。これは、テーパーウエスト部210Cの表面におけるアイドラー光の光子数密度が約50万倍も増大することに相当する。これにより、試料の赤外吸収分光特性の測定感度を約50万倍も向上させることができる。
アイドラー光の波長が5μmであるときには、大部分のアイドラー光がテーパーウエスト部210Cの外部に染み出しながら伝搬した。このとき、テーパーウエスト部210Cの表面における電場の大きさは21.7[V/m]であり、アイドラー光の波長が3μmである場合と比べて小さかった。しかし、テーパーウエスト部210Cの表面から約1μm離れると、この関係は逆転した。たとえばテーパーウエスト部210Cの表面から3μm離れた位置における電場の大きさは13.8[V/m]であった。この値は、上記と同様の比較において、光子数密度が約7500倍増大することに相当する。これにより、試料の赤外吸収分光特性の測定感度も約7500倍向上させることができる。
テーパーウエスト部210Cの直径φが2μm、4μmまたは5μmである場合にも、直径φが1μmである場合と同様に、アイドラー光の波長が短いときには、テーパーウエスト部210Cの中心および表面近傍に電場が集中した。一方、アイドラー光の波長が長いときには、テーパーウエスト部210Cの外部に電場が大きく染み出し、大部分のアイドラー光がテーパーウエスト部210Cの外部を伝搬した。詳細な説明は繰り返さないが、自由空間中での伝搬と比べてアイドラー光子の光子数密度が何倍増大されるか(その結果、試料の赤外吸収分光特性の測定感度を何倍向上可能か)を図5に記載された電場の大きさから同様に見積もることができる。
このように、シングルモード伝搬が可能な波長域において、アイドラー光の波長が短い場合の方が、アイドラー光の波長が長い場合と比べて、試料の赤外吸収分光特性を高感度に測定できる。ただし、アイドラー光の波長が短い場合には、テーパーウエスト部210Cの表面近傍に電場が集中する分だけ、試料をテーパーウエスト部210Cに近接させることを要する。そのため、試料がテーパーウエスト部210Cに接触してテーパーウエスト部210Cが破損したり汚染されたりするリスクが高まる。これに対し、アイドラー光の波長が長い場合には、試料との接触によるテーパーウエスト部210Cの破損、汚染を避けつつ、自由空間中での伝搬と比べると飛躍的に高感度な測定を実現できる。
図6は、テーパーウエスト部210Cの直径φとアイドラー光の波長域との間の関係をまとめた図である。図6に示すように、テーパーウエスト部210Cの直径φを0.5μmから5μmまでの範囲とすることで、約1μmから約20μmまでにわたる全波長域でアイドラー光をシングルモードで伝搬させることができる。言い換えると、アイドラー光の波長に応じて適切な直径φを有する赤外SMF210を選択することで、アイドラー光を赤外SMF210にシングルモードで伝搬させることが可能である。
たとえばアイドラー光の波長5μmである場合、直径φ=1μmであっても直径φ=1.5μmであってもシングルモードでの伝搬が可能である。このようにシングルモードで伝搬可能な波長が重複する範囲では、直径φが太い赤外SMF210を選択することが望ましい。これにより、テーパーウエスト部210Cが破損しにくくなるため、赤外SMF210の耐久性を向上させることができる。
また、アイドラー光の波長が2μm以下である場合には、赤外用ガラスに代えて石英系ガラスを赤外SMF210の材料として使用可能である。石英系ガラスの屈折率は赤外用ガラスの屈折率よりも低い。そのため、石英系ガラスでは赤外用ガラスと比べて、テーパーウエスト部210Cの直径φを太くしてもシングルモードでの伝搬が可能である。たとえばアイドラー光の波長が2μmである場合、赤外用ガラスでは直径φを0.5μmにせざるを得ないのに対し、石英系ガラスでは直径φを1μmにすることができる。これにより、赤外SMF210の耐久性を向上させることができる。また、石英系ガラスは赤外用ガラスよりも安価なため、部材コストを低減できる。
赤外SMF210等のシングルモードファイバを伝搬する光はシングルモードの光に限定されない。これらのシングルモードファイバを2以上(具体的には2~4)の空間モードの光が伝搬してもよい。すなわち、本開示に係る「シングルモードファイバ部」は、フューモードファイバ(FEF:Few Mode Fiber)を含み得る。
テーパーウエスト部210Cの直径φが1μmであり、かつ、アイドラー光の波長が約2.5μmである場合、赤外SMF210はフューモードファイバとして機能する。赤外SMF210がフューモードファイバとして機能するアイドラー光の波長は、直径φ=2μmである場合は約5μmであり、直径φ=4μmである場合は約11μmであり、直径φ=5μmである場合は約13μmであった。
赤外SMF210をシングルモードファイバに加えてフューモードファイバとしても使用することで、赤外SMF210をシングルモードファイバとしてしか使用しない場合と比べて、量子干渉の明瞭度は低下し得るものの、測定可能な波長域を広くすることができる。赤外SMF210をフューモードファイバとして使用する場合と比べてさらにアイドラー光の波長を短くすることで、赤外SMF210のさらなる広帯域化も可能である。この場合、量子干渉の明瞭度はより低下し得るものの、光子数密度が増大するため、アイドラー光を自由空間中に伝搬させる場合と比べて測定感度の向上が期待できる。
また、たとえばアイドラー光の波長5μmである場合、アイドラー光をシングルモードで伝搬させるためには、直径φ=1μmまたは1.5μmであることが要求されるのに対し、アイドラー光をフューモードで伝搬させるのであれば、直径φ=2μmとすることができる。このように、フューモードファイバとしての機能を利用することで、テーパーウエスト部210Cの直径φを太くすることができるため、赤外SMF210の耐久性を向上させることができる。
[実施の形態1の変形例1]
図7は、実施の形態1の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム1Aは、量子干渉計21に代えて量子干渉計21Aを備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子干渉計21Aは、可視SMF207および赤外SMF210に代えて光ファイバ215,216を含む点、および、偏波コントローラ208,211を含まない点において、量子干渉計21と異なる。
可視SMF207および赤外SMF210が典型的なシングルモードファイバ(SMF)であるのに対し、光ファイバ215,216は、偏波保持ファイバ(PMF:Polarization Maintaining Fiber)である。光ファイバ215は、シグナル光子の波長域の光(可視光)の偏波を保持する。一方、光ファイバ216は、アイドラー光子の波長域の光(赤外光)の偏波を保持する。したがって、変形例1においては、シングルモードファイバ内を伝搬する光子の偏光の乱れを補正するための偏波コントローラ208,211を省略できる。なお、可視SMF207および赤外SMF210のうちの一方のみを偏波保持ファイバに置き換えてもよい。
[実施の形態1の変形例2]
図8は、実施の形態1の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム1Bは、量子干渉計21に代えて量子干渉計21Bを備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子干渉計21Bは、光ファイバ201,203および広帯域SMF205を含まない点において、量子干渉計21と異なる。図8に示すように、量子干渉計21,21Aに含まれる一部の光学素子がシングルモードファイバにより光学的に結合されている一方で、残りの光学素子はシングルモードファイバに非結合である構成(光が自由空間を伝搬する構成)を採用してもよい。
量子吸収分光システム1A,1Bにおいても、量子もつれ光子対の伝搬経路がシングルモードファイバにより構成されている。よって、実施の形態1の変形例1,2によっても、量子吸収分光システム1A,1Bの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム1A,1Bの堅牢性を向上させることができる。また、実施の形態1の変形例1,2においても、テーパーファイバを用いてアイドラー光が集光されている。よって、量子吸収分光システム1A,1Bの測定感度を一層向上させることができる。
量子干渉計21,21A,21B内のシングルモードファイバは、そのシングルモードファイバに光学に結合される光学素子とともにモジュール化することが望ましい。特に、テーパーファイバである赤外SMF210が採用されるアイドラー光路をモジュール化することが望ましい。これにより、テーパーウエスト部210Cの直径φが異なる様々な赤外SMF210の中から用途に応じた赤外SMF210を適宜選択して測定することが可能になる。また、試料を設置する際などにテーパーウエスト部210Cが破損した場合に赤外SMF210を新品に容易に交換できる。
赤外SMF210全体をモジュール化するのに代えて、テーパーファイバ領域(テーパー部210B,210Dおよびテーパーウエスト部210Cを含む領域)を部分的にモジュール化してもよい。また、テーパーファイバ領域に代えて、サブマイクロメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの幅を持つリッジ型導波路または中空ビーム型光導波路を用いることも可能である。
[実施の形態2]
実施の形態1では、シグナル光が分光器31により分光される構成について説明した。実施の形態2においては、分光器31を用いずにシグナル光を波長分解する構成について説明する。
<システム全体構成>
図9は、実施の形態2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム2は、励起光源11に代えて励起光源12を備える点、量子干渉計21に代えて量子干渉計22を備える点、および、分光器31に代えてシングルピクセル光検出器32を備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子干渉計22は、光ファイバ214に代えて光ファイバ217を含む点において、量子干渉計21と異なる。
実施の形態1における励起光源11が連続波のレーザ光を発するのに対し、励起光源12はパルス波のレーザ光を発する。これにより、高効率に量子もつれ光子対を発生させることができる(図11のハイゲイン領域参照)。
光ファイバ217は、ダイクロイックスプリッタ202とシングルピクセル光検出器32とを光学的に結合する。光ファイバ217は、シグナル光の波長域の光(可視光)をシングルモードで伝搬させるシングルモードファイバである。実施の形態2において、光ファイバ217は、シグナル光の伝搬時間が波長に応じて異なる波長分散用ファイバである。シグナル光が光ファイバ217を伝搬すると、シグナル光の短波長成分のシングルピクセル光検出器32への到達が相対的に遅くなる一方で、シグナル光の長波長成分のシングルピクセル光検出器32への到達が相対的に早くなる。
シングルピクセル光検出器32は、単一のピクセルを含むシリコンベースの光検出器であって、可視光を検出可能な光学特性を有する。具体的には、シングルピクセル光検出器32は、PINフォトダイオードまたはAPD(Avalanche Photodiode)などのフォトダイオードである。あるいは、フォトダイードに代えて、光電管または光電子増倍管を採用してもよい。また、高い信号雑音比を得るために超伝導光子検出器(SSPD:Superconducting Single Photon Detector)も採用可能である。シングルピクセル光検出器32は、コントローラ41の制御に従ってシグナル光を検出し、その検出信号をコントローラ41に出力する。
コントローラ41は、シグナル光子の検出時刻に基づいてシグナル光子の波長を測定する。より詳細に説明すると、実施の形態2では、パルス光源である励起光源12が採用されている。そのため、パルス波であるポンプ光の照射に伴って複数の量子もつれ光子対が微小な時間幅内で発生し、それにより、複数のシグナル光子が概ね同時に光ファイバ217に到達する。これらのシグナル光子が波長分散用ファイバである光ファイバ217を伝搬することで、シグナル光子の波長に応じた遅延が生じる。したがって、ポンプ光の照射時刻と、シグナル光子のシングルピクセル光検出器32への到達時刻との間の時間差は、シグナル光子の波長に関する情報を含んでいる。よって、当該時間差を記録することで、コントローラ41がシグナル光子の波長を測定できる。量子吸収分光システム2の上記以外の構成は、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1の対応する構成と同様であるため、説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態2においても実施の形態1と同様に、量子干渉計22の光学素子間がシングルモードファイバにより光学的に結合されている。これにより、量子吸収分光システム2の測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム2の堅牢性を向上させることができる。また、実施の形態2においても、テーパーファイバである赤外SMF210を用いてアイドラー光が集光されている。よって、量子吸収分光システム2の測定感度を一層向上させることができる。
さらに、実施の形態2においては、波長分散用ファイバである光ファイバ217を用いてシグナル光が分光されるため、分光器31をシングルピクセル光検出器32に置き換えることができる。したがって、実施の形態2によれば、量子吸収分光システム2のさらなる小型化が可能になるととともに、部材コストを低減できる。
<ゲイン依存性>
量子吸収分光システム2の測定感度に関するさらなる検討結果について説明する。量子もつれ光子対の発生レートは、ポンプ光の強度と、量子もつれ光子対の発生用素子(たとえば非線形光学結晶50)の変換効率との組み合わせにより決定される。量子もつれ光子対の発生帯域幅により規定される基準レートに比べて、量子もつれ光子対が十分に高レートで発生する領域を「ハイゲイン領域」と呼び、量子もつれ光子対が低レートで発生する領域を「ローゲイン領域」と呼ぶ。
1つの具体例として、量子もつれ光子対のうち赤外域で発生した光子が波長4500nmを中心に300nmの発生帯域幅を持つ場合、基準レートは、約100fsに1対の量子もつれ光子対が発生する程度のレートである。この基準レートよりも量子もつれ光子対の発生レートが低いローゲイン領域では、非線形光学結晶50が連続波により励起される場合、ポンプ光の強度は1μW以下でよい。一方、ハイゲイン領域では、たとえば100fsに複数対(数対~100対程度)の量子もつれ光子対が発生する。非線形光学結晶50が連続波により励起される場合、ポンプ光の強度を1mW程度にすることを要する。しかし、非線形光学結晶50がパルス波により励起される場合には、時間領域で局在したポンプ光が瞬間的に高い光強度を有するため、より低い平均強度で量子もつれ光子対の発生レートがハイゲイン領域に至る可能性がある。ハイゲイン領域とローゲイン領域とでは、以下に説明するように、シングルピクセル光検出器32の検出信号の強度が異なる傾向を示す。
図10は、ローゲイン領域における試料透過率とシングルピクセル光検出器32の信号強度との間の関係を示す図である。図11は、ハイゲイン領域における試料透過率とシングルピクセル光検出器32の信号強度との間の関係を示す図である。図10および図11において、横軸は、試料透過率(試料に関するアイドラー光子の透過率)を表す。縦軸は、信号強度(シングルピクセル光検出器32の検出信号の強度)を表す。この信号強度は、量子干渉の明瞭度を示す指標とも言える。
ローゲイン領域では、試料透過率が上昇するに従って信号強度が線形に増大する。これに対し、ハイゲイン領域においては、試料透過率が上昇するに従って信号強度が非線形に増大する。試料透過率が高い範囲(すなわち、試料がアイドラー光子をわずかしか吸収しない範囲)では、試料透過率が上昇しても信号強度がほとんど増大しない。試料透過率100%付近の範囲では信号強度の傾き(変化の割合)が0に近い。このことは、量子もつれ光子対が高効率に発生するハイゲイン領域では量子吸収分光システム2の測定感度向上が期待されるにも拘わらず、試料によるアイドラー光子のわずかな吸収を高精度に検出できないことを意味している。
そこで、ハイゲイン領域を使用する場合には、図9に示すように、アイドラー光の吸収体213Aを、たとえば試料ホルダ213に設置することが望ましい。吸収体213Aは、赤外域における吸収スペクトルが既知の物質か、赤外域における吸収スペクトルがフラットな物質であることが好ましく、たとえば赤外吸収フィルタである。吸収体213Aにアイドラー光を吸収させることで試料透過率を意図的に低下させる。図11に示す例では、試料透過率を40%~60%程度に低下させることができる。これにより、吸収体213Aが非設置である場合と比べて、試料透過率の変化に伴う信号強度の変化量を増大させることができる。その結果、量子吸収分光システム2の測定感度を向上させることが可能になる。
[実施の形態2の変形例1]
図12は、実施の形態2の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム2Aは、量子干渉計22に代えて量子干渉計22Aを備える点において、実施の形態2に係る量子吸収分光システム2(図9参照)と異なる。量子干渉計22Aは、可視SMF207および赤外SMF210に代えて光ファイバ215,216を含む点、および、偏波コントローラ208,211を含まない点において、量子干渉計22と異なる。光ファイバ215,216は偏波保持ファイバである。偏波保持ファイバについては実施の形態1の変形例1(図7参照)にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
[実施の形態2の変形例2]
図13は、実施の形態2の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム2Bは、量子干渉計22に代えて量子干渉計22Bを備える点において、実施の形態2に係る量子吸収分光システム2(図9参照)と異なる。量子干渉計22Bは、光ファイバ201,203および広帯域SMF205を含まない点において、量子干渉計22と異なる。
量子吸収分光システム2A,2Bにおいても、量子もつれ光子対の伝搬経路がシングルモードファイバにより構成されている。よって、実施の形態2の変形例1,2によっても、量子吸収分光システム2A,2Bの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム2A,2Bの堅牢性を向上させることができる。また、実施の形態2の変形例1,2においても、テーパーファイバを用いてアイドラー光が集光されている。よって、量子吸収分光システム2A,2Bの測定感度を一層向上させることができる。
[実施の形態3]
実施の形態3においては、テーパーファイバを用いずに試料の赤外吸収分光特性を測定する構成について説明する。
図14は、実施の形態3に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3は、量子干渉計21に代えて量子干渉計23を備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子干渉計23は、赤外SMF210に代えて、テーパーウエスト部210C(図4参照)が設けられていない赤外SMF218を含む点において、量子干渉計21と異なる。
実施の形態3において、試料は、赤外SMF218の端部近傍に配置されている。赤外SMF218の端部から自由空間に出射されたアイドラー光は、試料を透過し、ミラー212で反射される。ミラー212で反射されたアイドラー光は、試料を再び透過して赤外SMF218の端部から赤外SMF218に戻る。量子吸収分光システム3の上記以外の構成は、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1の対応する構成と同様であるため、説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態3においても実施の形態1,2と同様に、量子干渉計23の光学素子間がシングルモードファイバにより光学的に結合されている。これにより、量子吸収分光システム3の測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム3の堅牢性を向上させることができる。
シングルモードファイバの使用による測定感度の向上は、測定に使用する光の空間モードが単一的に選択されることに依る。シングルモードファイバによるモード選択が行われない量子吸収分光システム(たとえば非特許文献1で使用される測定システム)では、非線形光学結晶から発生した量子もつれ光子対のすべての空間モードが量子干渉信号に寄与するため、異なる位相を持つ量子干渉信号が重畳する。その結果、量子干渉の明瞭度が低下するため、測定感度が低下する。これに対し、シングルモードファイバによるモード選択を行う本実施の形態によれば、より高い量子干渉の明瞭度を期待でき、それにより測定感度の向上が期待できる。
[実施の形態3の変形例1]
図15は、実施の形態3の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3Aは、量子干渉計23に代えて量子干渉計23Aを備える点において、実施の形態3に係る量子吸収分光システム3(図14参照)と異なる。量子干渉計23Aは、可視SMF207および赤外SMF218に代えて光ファイバ215,219を含む点、ならびに、偏波コントローラ208,211を含まない点において、量子干渉計23と異なる。光ファイバ215,219は偏波保持ファイバである。偏波保持ファイバについては実施の形態1の変形例1(図7参照)にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
[実施の形態3の変形例2]
図16は、実施の形態3の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3Bは、量子干渉計23に代えて量子干渉計23Bを備える点において、実施の形態3に係る量子吸収分光システム3(図14参照)と異なる。量子干渉計23Bは、赤外SMF218および偏波コントローラ211を含まない点において、量子干渉計23と異なる。
量子吸収分光システム3Bにおいても、光ファイバ203、広帯域SMF205および可視SMF207は設けられている。これにより、単一空間モードに存在する量子もつれ光子対がシングルモードファイバに結合されている。また、励起光路、波長分離前の量子もつれ光子対の伝搬経路、および、シグナル光路が安定化されている。よって、実施の形態3の変形例2によっても、量子吸収分光システム3Bの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム3Bの堅牢性を向上させることができる。
[実施の形態3の変形例3]
図17は、実施の形態3の変形例3に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3Cは、量子干渉計23に代えて量子干渉計23Cを備える点において、実施の形態3に係る量子吸収分光システム3(図14参照)と異なる。量子干渉計23Cは、可視SMF207、赤外SMF218および偏波コントローラ208,211を含まない点において、量子干渉計23と異なる。
量子吸収分光システム3Cにおいても、光ファイバ203および広帯域SMF205は設けられている。これにより、単一空間モードに存在する量子もつれ光子対がシングルモードファイバに結合されている。また、励起光路、および、分離前の広帯域の量子もつれ光子対の伝搬経路が安定化されている。よって、実施の形態3の変形例3によっても、量子吸収分光システム3Cの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム3Cの堅牢性を向上させることができる。
[実施の形態3の変形例4]
図18は、実施の形態3の変形例4に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3Dは、量子干渉計23に代えて量子干渉計23Dを備える点において、実施の形態3に係る量子吸収分光システム3(図14参照)と異なる。量子干渉計23Dは、光ファイバ201,203および広帯域SMF205を含まない点において、量子干渉計23と異なる。
量子吸収分光システム3Dにおいても、可視SMF207および赤外SMF218は設けられている。これにより、単一空間モードに存在する量子もつれ光子対がシングルモードファイバに結合されているため、高い明瞭度の量子干渉を観測できる。また、シグナル光路およびアイドラー光路が安定化されている。よって、実施の形態3の変形例4によっても、量子吸収分光システム3Dの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム3Dの堅牢性を向上させることができる。
また、量子吸収分光システム3Dにおいては、シグナル光路およびアイドラー光路をシングルモードファイバ化することで測定感度および堅牢性の向上を図る一方で、励起光路の調整用素子(ダイクロイックスプリッタ202など)は自由空間に配置されている。これにより、量子もつれ光子対の発生レートおよび空間モードに直接的な影響を与えるポンプ光に関しての調整自由度を残すことができる。
[実施の形態3の変形例5]
図19は、実施の形態3の変形例5に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム3Eは、量子干渉計23に代えて量子干渉計23Eを備える点において、実施の形態3に係る量子吸収分光システム3(図14参照)と異なる。量子干渉計23Eは、広帯域SMF205、可視SMF207および赤外SMF218を含まない点において、量子干渉計23と異なる。
量子吸収分光システム3Eにおいても、光ファイバ201,203は設けられている。これにより、励起光路が安定化されている。そうすると、ポンプ光の照射によって発生する量子もつれ光子対の伝搬経路(シグナル光路およびアイドラー光路)も安定化される。また、単一空間モードに存在する量子もつれ光子対がシングルモードファイバ(光ファイバ203)に結合されている。これにより、特定の空間モードでの量子干渉のみを選択的に観測できるため、量子干渉の明瞭度を向上させることができる。よって、実施の形態3の変形例5によっても、量子吸収分光システム3Eの測定感度を向上させるとともに、量子吸収分光システム3Eの堅牢性を向上させることができる。
また、量子吸収分光システム3Eにおいては、励起光源11と光子対源204との間が光ファイバ201,203により結合されているため、量子もつれ光子対の発生用の一部システムをモジュール化することが可能である。たとえば、光ファイバ201、ダイクロイックスプリッタ202および光ファイバ203をモジュール化してもよいし、それに加えて光子対源204をモジュール化してもよい。
[実施の形態4]
実施の形態4においては、実施の形態1のシステム構成(図1参照)をベースに、さらに広帯域にわたる試料の赤外分光特性を測定する構成について説明する。実施の形態4ではフーリエ変換により試料の吸収分光特性が算出される。そのため、赤外域を測定対象とする場合には、実施の形態4における量子吸収分光法(QAS:Quantum Absorption Spectroscopy)を特に量子フーリエ変換赤外分光法(Q-FTIR:Quantum Fourier Transform InfraRed spectroscopy)と呼ぶことができる。ただし、実施の形態4に係る量子吸収分光システムによって紫外域または可視域における試料の吸収分光特性を測定することも可能である。
<システム構成>
図20は、実施の形態4に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム4は、量子干渉計21に代えて量子干渉計24を備える点、分光器31に代えてシングルピクセル光検出器32を備える点、および、コントローラ41に代えてコントローラ42を備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子干渉計24は、光子対源204に代えて光子対源220を含む点、ミラー212に代えて移動ミラー221を含む点において、量子干渉計21と異なる。光子対源220は、バルク型の非線形光学結晶50に代えて擬似位相整合(QPM:Quasi-Phase-Matched)デバイス60を含む。
図21は、QPMデバイス60の構成例を示す図である。QPMデバイス60は、レンズ61と、非線形光学結晶62と、ロングパスフィルタ63と、レンズ64と、シャープカットフィルタ65とを含む。
非線形光学結晶62の材料は、たとえば、マグネシウム添加定比タンタル酸リチウム(Mg doped stoichiometric lithium tantalate)である(Mg:SLTとも記載される)。非線形光学結晶62の材料としては、たとえばリン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、セレン化亜鉛(ZnSe)などを採用してもよい。非線形光学結晶62の材料は有機系材料であってもよい。非線形光学結晶62の材料は、たとえば、DAST(4-N,N-Dimethylamino-4’-N’ methylstilbazolium tosylate)、DLD164、または、これら化合物の一部の官能基を他の原子もしくは原子団に置換した化合物などであってもよい。
非線形光学結晶62は周期分極反転構造を有する。図中の矢印は自発分極方向を表している。非線形光学結晶62は直方体形状を有する。非線形光学結晶62の互いに向かい合う端面のうちの一方端(第1端)621にポンプ光を入射すると、他方端(第2端)622からシグナル光子およびアイドラー光子が出射される。非線形光学結晶62は、第1端621と第2端622との間に、たとえば5つの分極反転構造(セクションまたはセグメントとも呼ばれる)を有する。非線形光学結晶62に設けられる典型的なセクションの分割数は数十個程度である。セクションの幅(分極反転周期)は、図示されるように、第1端621から第2端622に向けて次第に増加している。
非線形光学結晶62に適切な材料を選択し、かつ、セクションの分割数および分極反転周期を適切に設計することにより、広い帯域の全域にわたってフラットな強度分布を有するアイドラー光を発生させることができる。なお、図21に示すQPMデバイス60は、分極反転周期が光路に沿って変化するチャープ型の素子である。しかし、QPMデバイス60は、分極反転周期が扇型に変化するファン型(ファンアウト構造)の素子であってもよい。また、QPMデバイス60は、量子もつれ光子対の発生効率のさらなる向上が期待できるリッジ導波路型(チャープ型を含む)であってもよい。
ロングパスフィルタ63およびシャープカットフィルタ65の各々は、ポンプ光のうち特定の波長よりも短波長の光をカットする。ロングパスフィルタ63およびシャープカットフィルタ65は省略してもよい。
実施の形態4においてQPMデバイス60を含む光子対源220を採用することは必須ではない。量子吸収分光システム4は、実施の形態1~3と同様に、非線形光学結晶50を含む光子対源204を備えてもよい。
図20に戻り、移動ミラー221は、アイドラー光の伝搬方向に沿って移動させることが可能に構成されている。具体的には、移動ミラー221には駆動装置が設けられている。駆動装置は、コントローラ42により制御される電動アクチュエータであって、たとえば、コントローラ42からの制御指令に従って機械的に変位するモータ駆動装置(サーボモータ、ステッピングモータなど)である。駆動装置は、コントローラ42からの印加電圧に応じて変位する圧電素子(ピエゾ素子)であってもよい。駆動装置を用いて移動ミラー221の位置を周期的に変化させる(移動ミラー221を往復運動させる)ことによって、アイドラー光路を掃引できる。
移動ミラー221は、シグナル光子およびアイドラー光子のうちの一方の光子の位相(より詳細には実効的な光路長)を他方の光子の位相に対して変化させるための構成の一例である。移動ミラー221はアイドラー光路の光路長を変化させるが、シグナル光路のミラー209を移動ミラーに置き換え、シグナル光路の光路長を変化させてもよい。また、移動ミラー221に代えてまたは加えて、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)などの位相変調器(図示せず)を採用してもよい。たとえば、移動ミラー221を用いて光路長を粗く変化させた上で、微細な光路長変化は位相変調器を用いて実現することもできる。移動ミラー221および位相変調器は、本開示に係る「位相変換部」に相当する。
アイドラー光に試料を透過させる透過法に代えて反射光を用いることも可能である。たとえば、全反射測定法(ATR:Attenuated Total Reflection)を量子吸収分光システム4に適用し、ATRユニットを採用してもよい。
図22は、ATRユニットの構成例を示す図である。ATRユニット70は、レンズ71と、プリズム72と、レンズ73とを含む。レンズ71、プリズム72およびレンズ73は、アイドラー光子の伝搬方向に沿って、この順に配置されている。
プリズム72は、高屈折率を有し、試料表面に接触するように構成されている。レンズ71からプリズム72の内部に入射したアイドラー光子は、プリズム72と試料との界面で全反射する。この際、試料側に染み出すアイドラー光子(エバネッセント波)が試料表面に吸収されるため、全反射光を検出することで試料表面の赤外吸収分光特性を測定できる。
微視的な凹凸が試料表面に存在する場合、典型的な透過法では、アイドラー光子が試料表面で散乱および/または反射されることにより複数のモードが発生し得る。その結果、信号強度の減少およびノイズの増大により、試料の赤外吸収分光特性の測定精度が低下し得る。一方、ATRにおいては、プリズム72が試料表面に接触するように構成されているため、たとえ微視的な凹凸が試料表面に存在していたとしても上記のような課題は起こりにくい。よって、試料の赤外吸収分光特性を高精度に測定できる。
ATRでは、アイドラー光がプリズムの一方端に入射し、かつ、アイドラー光がプリズムの他方端から後段のミラーに向けて出射するように、アイドラー光の光軸を調整することを要する。アイドラー光路に配置された移動ミラー221の往復によりアイドラー光路を掃引する場合、移動ミラー221の往復に伴ってアイドラー光の光軸が周期的に変化し得る。アイドラー光路の掃引中も常にアイドラー光の光軸が適切な位置に維持されるように量子干渉計24を構築することは容易ではない。したがって、図示しないが、試料ホルダ213をATRユニット70に置き換える場合には、シグナル光路に配置されたミラー209を移動ミラーに置き換え、シグナル光路を掃引することが望ましい。これにより、量子干渉計24の構築の難易度を低下させることができる。
<コントローラによる演算処理>
実施の形態1のように分光器31を用いる場合、マルチピクセル光検出器302に含まれる複数のピクセル毎に異なる周波数のシグナル光が検出される。言い換えると、マルチピクセル光検出器302の各ピクセルでは、単色に分割されたシグナル光が検出される。一方、実施の形態4に係る量子吸収分光システム4は、分光器31に代えてシングルピクセル光検出器32を備える。シグナル光子は、空間的に分割されることなくシングルピクセル光検出器32へと導かれ、すべての周波数成分を含むシグナル光が単一のピクセルにより検出される。このようにシグナル光がすべての周波数成分を含む場合であっても、コントローラ42が以下のような演算処理を実行することで、シングルピクセル光検出器32の検出信号に基づいて試料の赤外吸収分光特性(試料のフーリエスペクトル、複素透過率スペクトルおよび赤外吸収スペクトル)を算出できる。
図23は、コントローラ42による演算処理をより詳細に説明するための機能ブロック図である。コントローラ42は、光源制御部421と、ミラー制御部422と、カウントレート算出部423と、フーリエ変換部424と、第1記憶部425と、第2記憶部426と、透過率算出部427と、吸収スペクトル算出部428と、モニタ制御部429とを含む。
光源制御部421は、励起光源11の光出力(レーザパワー)を制御する。量子吸収分光システム4による測定中のレーザパワーは基本的に一定に維持される。
ミラー制御部422は、移動ミラー221の掃引(往復運動)を制御する。移動ミラー221の位置が変化すると、アイドラー光路長が変化するので、アイドラー光の伝搬時間(以下、「アイドラー伝搬時間」と略す)tが変化する。したがって、移動ミラー221を往復させることで、シングルピクセル光検出器32からのシグナル光の検出信号がアイドラー伝搬時間tの時間波形として取得される。
カウントレート算出部423は、シングルピクセル光検出器32からのシグナル光の検出信号に基づいて、シグナル光子カウントレートPをアイドラー伝搬時間tの関数として算出する。シグナル光子カウントレートP(t)とは単位時間当たりのシグナル光子のカウント数である。シグナル光子カウントレートP(t)の算出結果はフーリエ変換部424に出力される。
フーリエ変換部424は、シグナル光子カウントレートP(t)をフーリエ変換する。量子吸収分光システム4においては、試料が試料ホルダ213に配置された状態と、試料が試料ホルダ213に配置されていない状態との両方でシグナル光子カウントレートP(t)が取得される。試料が試料ホルダ213に配置された状態で取得されるシグナル光子カウントレートP(t)をフーリエ変換することで得られるフーリエスペクトルを「A(ω)」と記載する。一方、試料が試料ホルダ213に配置されていない状態で取得されるシグナル光子カウントレートP(t)をフーリエ変換することで得られるフーリエスペクトルを「A (ω)」と記載する。フーリエ変換部424は、フーリエスペクトルA(ω)を第1記憶部425およびモニタ制御部429に出力し、フーリエスペクトルA (ω)を第2記憶部426に出力する。なお、フーリエスペクトルA (ω)は、本開示に係る「参照用フーリエスペクトル」に相当する。
第1記憶部425は、試料が試料ホルダ213に配置された状態でのフーリエスペクトルA(ω)を不揮発的に記憶する。第2記憶部426は、試料が試料ホルダ213に配置されていない状態でのフーリエスペクトルA (ω)を不揮発的に記憶する。記憶されたフーリエスペクトル(A(ω)またはA (ω))は、透過率算出部427により適宜読み出される。
透過率算出部427は、フーリエスペクトルA(ω)およびフーリエスペクトルA (ω)に基づいて、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)を算出する。透過率算出部427は、複素透過率スペクトルτ(ω)の算出結果を吸収スペクトル算出部428およびモニタ制御部429に出力する。
吸収スペクトル算出部428は、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)に基づいて試料の赤外吸収スペクトルを算出する。吸収スペクトル算出部428は、赤外吸収スペクトルの算出結果をモニタ制御部429に出力する。
モニタ制御部429は、コントローラ42による演算結果(試料のフーリエスペクトルA(ω)、複素透過率スペクトルτ(ω)および赤外吸収スペクトル)をモニタ404に表示させる。
次に、幾つかのブロックの機能を詳細に説明する。以下、「シグナル」と付されたパラメータは、シグナル光子に関するパラメータである。「アイドラー」と付されたパラメータは、アイドラー光子に関するパラメータである。
はじめに、カウントレート算出部423による演算処理について説明する。QPMデバイス60によって量子もつれ光子対が発生する2回の事象(第1および第2の物理過程)を重ね合わせた状態ベクトル|Ψ>は、下記式(1)のように記述される。
式(1)では、真空の状態ベクトルを|vac>で表す。SPDC生成効率をηで表す。シグナル周波数をωで表し、アイドラー周波数をωで表す。二光子場振幅(two-photon field amplitude)をF(ω,ω)で表す。第1および第2の物理過程でのシグナル生成演算子をas1 およびas2 でそれぞれ表す。第1の物理過程でのアイドラー生成演算子をai1,in またはai1,out で表す。第1の物理過程で発生したアイドラー光はアイドラー光路上に配置された試料を透過するところ、試料を透過前のアイドラー光に対応する生成演算子に添字inを付し、試料を透過後のアイドラー光に対応する生成演算子に添字outを付すことで、試料の透過前後を区別する。第2の物理過程でのアイドラー生成演算子をai2 で表す。第1の物理過程と第2の物理過程との間でのポンプ光の光路差に対応してポンプ光が得る位相遅延をφで表す。
アイドラー光路に配置された試料による光学損失をビームスプリッタモデルに従って評価すると、試料透過後におけるアイドラー消滅演算子ai1,outは下記式(2)のように表される。
式(2)では、試料の複素透過率(複素透過振幅)をτで表し、試料の複素反射率(複素反射振幅)をrで表す。j回目(j=1,2)の試料の透過を表すビームスプリッタモデルにおいて、アイドラー光子が入力されるポートとは異なるポートから入射する真空場をavjで表す。
第1の物理過程で発生したシグナル光のモードは、第2の物理過程で発生したシグナル光のモードと空間的に一致するように調整される。また、第1の物理過程で発生したアイドラー光のモードは、第2の物理過程で発生したアイドラー光のモードと空間的に一致するように調整される。これらのモードは、下記式(3)および式(4)に示すように、伝搬による位相の変化を除けば同一の生成消滅演算子で表すことができる。
式(3)および式(4)において、第1の物理過程で生成したシグナル光がQPMデバイス60に再び到達するまでの伝搬時間をtで表す。同様に、試料がアイドラー光路に配置されていない状況で、第1の物理過程で生成したアイドラー光がQPMデバイス60に再び到達するまでの伝搬時間をtで表す。
次に、シングルピクセル光検出器32におけるシグナル光の電場E (+)(t)は、下記式(5)のように表される。
シグナル光子カウントレートPは、式(1)に示した状態ベクトル|Ψ>を用いて下記式(6)のように記述される。
式(1)~式(4)を式(5)に代入することで下記式(7)が導かれる。式(7)は、量子もつれ光子対を発生する第1および第2の物理過程間での量子干渉(量子ビート)の時間波形を表す。
ここで、シグナル周波数ωを中心周波数ωs0からの離調Ωを用いて再定義する。すなわち、ω=ωs0-Ωと表す。アイドラー周波数ωについても同様に、中心周波数ωi0からの離調Ωを用いてω=ωi0+Ωと表す。そうすると、上記式(6)および式(7)より、シグナル光子カウントレートPは下記式(8)のように変形される。
実施の形態1のように分散光学素子301がマルチピクセル光検出器302の前段に配置された構成も考えられる(図1参照)。分散光学素子301を配置することで、マルチピクセル光検出器302に含まれる複数のピクセルの各々に到達するシグナル光子を特定の波長域のシグナル光子に予め限定し、波長毎にシグナル光子の光強度が測定される。しかし、一般に、分光器を含む装置は、大型化したり高価格化したりし得る。また、分光器の波長走査には時間を要するので、測定時間短縮の面でも障害となり得る。
これに対し、実施の形態4においては、QPMデバイス60により発生した全波長域のシグナル光子が、分散光学素子301を介すことなくシングルピクセル光検出器32により検出される。これは、シングルピクセル光検出器32により検出されるシグナル光子の周波数(シグナル周波数)ωがどの周波数帯域に含まれるかを限定せず、シグナル光子カウントレートPを求める際には、すべての可能性を含めるとの思想に基づくものである。この思想は、上記式(8)において周波数成分(離調Ω)を積分していることにも表れている。
実施の形態4では、試料の複素透過率τおよび複素反射率rの周波数依存性を考慮し、複素透過率τおよび複素反射率rを、いずれもアイドラー周波数ωの関数とする(τ→τ(ω),r→r(ω))。この場合、式(8)から下記式(9)が得られる。
式(9)において、第1項(2の定数項)は、シグナル光子カウントレートPのオフセット成分を表す。第2項(積分項)および第3項(複素共役項)は、シグナル光子カウントレートPの量子干渉成分を表す。量子もつれ光子対を発生させる2回の物理過程におけるシグナル光の光路長は一定であるため、伝搬時間tは固定値である。また、二光子場振幅の規格化条件を表す下記式(10)が成立する。したがって、式(9)より、シグナル光子カウントレートPがアイドラー伝搬時間tに応じた値となることが分かる。よって、移動ミラー221の往復運動によりアイドラー光路長を周期的に変化させる(アイドラー光路を掃引する)ことで、様々なアイドラー伝搬時間tに対するシグナル光子カウントレートP(t)を測定できる。このようにして測定されるシグナル光子カウントレートPに係る信号を「量子干渉信号」(または量子干渉波形)とも称する。
次に、フーリエ変換部424による演算処理について説明する。フーリエ変換部424は、アイドラー光路長を変化させながら測定された量子干渉信号(上記式(9)参照)をフーリエ変換する。これにより、下記式(11)のようにフーリエスペクトルA(ω)が得られ、試料により吸収された赤外光の波長毎の情報が再現される。なお、式(11)に示すフーリエ積分では、DC成分を与える定数の積分項と、-ω成分を与える複素共役項とが省略されている。
続いて、透過率算出部427による演算処理について説明する。前述のように、試料がアイドラー光路に配置された場合のフーリエスペクトルをA(ω)と記載し、試料がアイドラー光路に配置されていない場合のフーリエスペクトルをA (ω)と記載することで、両者を区別する。フーリエスペクトルA (ω)は、上記式(11)において試料の複素透過率τ=1とすることに相当する。したがって、試料の有無によるフーリエスペクトルの違い、より具体的には、フーリエスペクトルA (ω)に対するフーリエスペクトルA(ω)の振幅比を算出すると、下記式(12)が導かれる。
式(12)より、試料のあり/なしで2通りの測定を行い、2つのフーリエスペクトルの比を取ることで、試料の複素透過率τの周波数依存性(すなわち複素透過率スペクトルτ(ω))が求まることが分かる。
最後に、吸収スペクトル算出部428による演算処理について説明する。吸収スペクトル算出部428は、複素透過率スペクトルτ(ω)の絶対値の2乗を算出することで、赤外域における試料の(強度)吸収スペクトルを算出する。
このように、実施の形態4においては、シングルピクセル光検出器32を用いて取得された単一のシグナル光子カウントレートP(t)をフーリエ変換してフーリエスペクトルA(ω)を算出するだけで、広帯域での赤外吸収分光を実現できる。実施の形態4によれば、原理的に波長毎の光検出を要さず、広帯域についての試料の複素透過率スペクトルを一度の光検出で測定可能である。この効果は、広帯域化したQPMデバイス60を採用した場合に特に顕著になる。
<測定フロー>
図24は、実施の形態4における量子吸収分光法の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、たとえば、操作ボタン等の入力機器(図示せず)が測定者の操作を受け付けた場合にメインルーチンから呼び出されて実行される。各ステップは、基本的にはコントローラ42によるソフトウェア処理によって実現されるが、コントローラ42内に配置された電子回路によるハードウェア処理によって実現されてもよい。以下、ステップを「S」と略す。
S1において、アイドラー光路に配置された試料ホルダ213に試料が設置される。試料は通常、測定者により設置される。しかし、試料を搬送するフィード装置(図示せず)を設けることで自動化することも可能である。
S2において、コントローラ42は、ポンプ光の出力を開始するように励起光源11を制御する。
S3において、コントローラ42は、高速での往復運動を開始または継続するように、移動ミラー221に設けられた駆動装置を制御する。一般に、光検出結果を積算することで赤外吸収スペクトルの信号雑音比を向上させることができる。そのため、S3にて移動ミラー221は、サブmm(たとえば数十μm)~数cm(たとえば最大5cm)の範囲を毎秒数十回程度往復する。ただし、積算を必要としない場合、または、赤外吸収スペクトルの時間変化を取得するなど高速性が要求される場合などには、1回しか往復運動を行わなくてもよい。
S4において、コントローラ42は、シングルピクセル光検出器32の検出信号に基づいて、シグナル光子カウントレートP(t)を算出する。
S5において、コントローラ42は、移動ミラー221の往復運動を終了する条件が成立したかどうかを判定する。コントローラ42は、たとえば、規定回数または規定時間の間、移動ミラー221を往復させながらシグナル光子カウントレートP(t)を算出した場合に終了条件が成立したと判定できる。終了条件が成立していない場合(S5においてNO)、コントローラ42は処理をS3に戻す。これにより、規定回数または規定時間のデータが取得されるまでS3,S4の処理が繰り返される。終了条件が成立すると(S5においてYES)、コントローラ42は処理をS6に進める。
S6において、コントローラ42は、ポンプ光の出力を停止するように励起光源11を制御する。また、コントローラ42は、移動ミラー221の往復運動を停止するように、移動ミラー221の駆動装置を制御する。
S7において、コントローラ42は、試料がアイドラー光路に配置された状態でのシグナル光子カウントレートP(t)をフーリエ変換することでフーリエスペクトルA(ω)を算出する。
図示しないが、S1~S7の一連の処理の実行前に、試料がアイドラー光路に配置されていない状態での同様の処理(いわゆるバックグランド測定)によってフーリエスペクトルA (ω)が取得済みである。S8において、コントローラ42は、一連の処理により算出されたフーリエスペクトルA(ω)と、事前に取得されたフーリエスペクトルA (ω)とに基づき、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)を算出する。なお、バックグラウンド測定が未実施の場合には、試料を配置せずにS1~S7の処理と同様の処理を実行することでフーリエスペクトルA (ω)を取得できる。
S8において、コントローラ42は、試料がアイドラー光路に配置されていない状態でのフーリエスペクトルA (ω)(参照用フーリエスペクトル)と、試料がアイドラー光路に配置された状態でのフーリエスペクトルA(ω)との比を算出することで、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)を算出する。
S9において、コントローラ42は、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)の絶対値の2乗を算出することで、試料の赤外吸収スペクトルを算出する。
S10において、コントローラ42は、S1~S9の処理による試料の赤外吸収分光特性の測定結果(試料のフーリエスペクトルA(ω)、試料の複素透過率スペクトルτ(ω)および試料の赤外吸収スペクトル)をモニタ404に表示させる。
以上のように、実施の形態4においては、量子干渉計24から出射されたすべてのシグナル光が、分散光学素子301により分光(波長分解または周波数分解)されたりフィルタにより除去されたりすることなく、シングルピクセル光検出器32により検出される。そして、量子干渉信号のフーリエ変換によってフーリエスペクトルA(ω)が算出される。フーリエスペクトルA(ω)にはすべての帯域の情報が反映されているため、広帯域での赤外吸収分光が可能となる。さらに、アイドラー光路への試料の配置の有無によるフーリエスペクトルの違いから、試料の位相情報を取得できる。
[実施の形態4の変形例]
実施の形態4では、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)をベースに量子フーリエ変換赤外分光法(Q-FTIR)を適用する構成について説明した。しかし、Q-FTIRは、既述の他の実施の形態に係る量子吸収分光システムにも適用可能である。
図25は、実施の形態4の変形例に係る量子吸収分光システムの全体構成を概略的に示す図である。量子吸収分光システム4Aは、量子干渉計24に代えて量子干渉計24Aを備える点において、実施の形態4に係る量子吸収分光システム2(図20参照)と異なる。量子干渉計24Aは、実施の形態3と同様に、テーパーウエスト部210C(図4参照)が設けられている赤外SMF210に代えて、テーパーウエスト部210Cが設けられていない赤外SMF218を含む点において、量子干渉計24と異なる。
このように、Q-FTIRは、実施の形態3に係る量子吸収分光システムにも適用できる。詳細な説明は繰り返さないが、Q-FTIRを実施の形態1の変形例1,2または実施の形態3の変形例1~5に係る量子吸収分光システムに適用してもよい。また、Q-FTIRが適用される量子吸収分光システムが採用可能な光検出器はシングルピクセル光検出器に限定されない。Q-FTIRは、マルチピクセル光検出器を備えるシステム構成にも適用可能である。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1,1A,1B,2,2A,2B,3,3A~3E,4,4A 量子吸収分光システム、11,12 励起光源、21,21A,21B,22,22A,22B,23,23A~23E,24,24A 量子干渉計、201 光ファイバ、202 ダイクロイックスプリッタ、203 光ファイバ、204 光子対源、205 光ファイバ、205A コア、205B クラッド、205C 空孔、206 ダイクロイックスプリッタ、207 光ファイバ(可視SMF)、208 偏波コントローラ、209 ミラー、210 光ファイバ(赤外SMF)、210A,210E 非テーパー部、210B,210D テーパー部、210C テーパーウエスト部、211 偏波コントローラ、212 ミラー、213 試料ホルダ、213A 吸収体、214~219 光ファイバ、220 光子対源、221 移動ミラー、31 分光器、301 分散光学素子、302 マルチピクセル光検出器、32 シングルピクセル光検出器、41,42 コントローラ、401 プロセッサ、402 メモリ、403 入出力ポート、404 モニタ、421 光源制御部、422 ミラー制御部、423 カウントレート算出部、424 フーリエ変換部、425 第1記憶部、426 第2記憶部、427 透過率算出部、428 吸収スペクトル算出部、429 モニタ制御部、50 非線形光学結晶、51 第1結晶、52 第2結晶、60 QPMデバイス、61 レンズ、62 非線形光学結晶、621 第1端、622 第2端、63 ロングパスフィルタ、64 レンズ、65 シャープカットフィルタ、70 ATRユニット、71 レンズ、72 プリズム、73 レンズ。

Claims (14)

  1. ポンプ光を発する励起光源と、
    前記ポンプ光の自発パラメトリック下方変換によりシグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こし、前記アイドラー光子の伝搬経路に試料が配置されるように構成された量子干渉計と、
    前記量子干渉計からの前記シグナル光子を検出する光検出器とを備え、
    前記量子干渉計は、前記シグナル光子の伝搬経路および前記アイドラー光子の伝搬経路のうちの少なくとも一部に光学的に結合されたシングルモードファイバ部を含む、量子吸収分光システム。
  2. 前記量子干渉計は、前記量子もつれ光子対を波長に応じて前記シグナル光子と前記アイドラー光子とに分離する波長分離素子をさらに含み、
    前記シングルモードファイバ部は、前記波長分離素子に光学的に結合され、前記アイドラー光子の波長域の光を伝搬させる第1のシングルモードファイバを含み、
    前記第1のシングルモードファイバは、テーパーファイバである、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  3. 前記テーパーファイバは、
    非テーパー部と、
    前記非テーパー部よりも細いテーパーウエスト部とを有し、
    前記テーパーウエスト部の直径は、可視域から遠赤外域までの波長域に含まれる、請求項2に記載の量子吸収分光システム。
  4. 前記テーパーファイバは、交換可能に構成されている、請求項2または3に記載の量子吸収分光システム。
  5. 前記量子干渉計は、
    前記アイドラー光子を反射する第1のミラーと、
    前記シグナル光子を反射する第2のミラーとをさらに含み、
    前記第1のシングルモードファイバは、前記波長分離素子と前記第1のミラーとの間に光学的に結合されており、
    前記シングルモードファイバ部は、前記波長分離素子と前記第2のミラーとの間に光学的に結合され、前記シグナル光子の波長域の光を伝搬させる第2のシングルモードファイバをさらに含み、
    前記第1および第2のシングルモードファイバのうちの少なくとも一方は、偏波保持ファイバである、請求項2~4のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  6. 前記量子干渉計は、前記量子もつれ光子対を発生させる光子対源をさらに含み、
    前記シングルモードファイバ部は、前記光子対源と前記波長分離素子との間に光学的に結合され、前記ポンプ光、前記シグナル光子および前記アイドラー光子のすべての波長域の光を伝搬させる広帯域シングルモードファイバをさらに含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  7. 前記量子干渉計は、
    前記量子もつれ光子対を発生させる光子対源と、
    前記量子もつれ光子対を波長に応じて前記シグナル光子と前記アイドラー光子とに分離する波長分離素子とをさらに含み、
    前記シングルモードファイバ部は、前記光子対源と前記波長分離素子との間に光学的に結合され、前記ポンプ光、前記シグナル光子および前記アイドラー光子のすべての波長域の光を伝搬させる広帯域シングルモードファイバを含む、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  8. 前記広帯域シングルモードファイバは、フォトニック結晶ファイバである、請求項6または7に記載の量子吸収分光システム。
  9. 前記励起光源は、パルス光源であり、
    前記光検出器は、シングルピクセル光検出器であり、
    前記シングルモードファイバ部は、前記シングルピクセル光検出器に光学的に結合された波長分散用シングルモードファイバを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  10. 前記量子干渉計は、前記試料に関する前記アイドラー光子の透過率が上昇するに従って前記シングルピクセル光検出器の信号強度が非線形に増大するハイゲイン領域において使用され、
    前記シングルモードファイバ部は、前記アイドラー光子を吸収する吸収体をさらに含む、請求項9に記載の量子吸収分光システム。
  11. 前記試料の吸収分光特性を解析するための演算処理を実行するプロセッサをさらに備え、
    前記量子干渉計は、前記シグナル光子および前記アイドラー光子のうちの一方の光子の位相を変化させることが可能に構成された位相変換部をさらに含み、
    前記光検出器は、前記位相変換部により前記一方の光子の位相を変化させた場合の前記シグナル光子の検出数に応じた量子干渉信号を出力し、
    前記プロセッサは、前記量子干渉信号のフーリエ変換により前記試料の吸収分光特性を算出する、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  12. 前記プロセッサは、
    前記試料が前記アイドラー光子の伝搬経路に配置された状態での前記量子干渉信号のフーリエ変換によりフーリエスペクトルを算出するのに加えて、前記試料が前記アイドラー光子の伝搬経路に配置されていない状態での前記量子干渉信号のフーリエ変換により参照用フーリエスペクトルを算出し、
    前記フーリエスペクトルと前記参照用フーリエスペクトルとの比に基づいて、前記試料の複素透過率スペクトルを算出する、請求項11に記載の量子吸収分光システム。
  13. 前記プロセッサは、前記試料の複素透過率スペクトルの絶対値を2乗することで前記試料の吸収スペクトルを算出する、請求項12に記載の量子吸収分光システム。
  14. 前記量子干渉計は、可視光子を前記シグナル光子として発生させるように構成され、
    前記光検出器は、シリコンベースの光検出器である、請求項1~13のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
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