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JP7795136B2 - 溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品 - Google Patents
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JP7795136B2 - 溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品 - Google Patents

溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品

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Description

本発明は、溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品に関する。
本願は、2022年7月4日に、日本に出願された特願2022-107799号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
自動車のシャシー部材では、塩害地での長期間にわたる強度信頼性確保の観点から、腐食を考慮した板厚設計がなされる。そのため、適用される板厚の下限が制限される。シャシー部材に薄厚の高強度鋼板を適用し、自動車の軽量化を進めるためには、シャシー部材の塗装後耐食性を向上させる必要がある。溶接部の塗装後耐食性とは、塗装されて塗膜が形成された後の、溶接部の耐食性のことである。
溶接部の塗装後耐食性を向上させるためには、溶接部の塗装性を向上させつつ、塗膜密着性を向上させることが重要となる。塗装性、又は塗膜密着性とは、塗膜の形成の容易さのことをいう。塗装性が高い溶接部には、欠陥が少ない塗膜を形成することができる。また、塗膜密着性とは、形成された塗膜の密着性のことをいう。塗膜密着性が高い溶接部に形成された塗膜では、長期間にわたって耐食効果が維持される。
また、溶接部の裏側は部材の内部に位置することが多い。ここで、溶接部の表側とは、溶接ビードが配された側のことであり、裏側とは表側の反対側のことである。部材の内側に位置する溶接部の裏側は、溶接後の後工程を活用して塗装後耐食性を改善することが難しい。従って、溶接部には、溶接ままでの塗装後耐食性の改善が求められる。
特許文献1には、鋼製溶接構造物を洗浄するための洗浄液であって、EDTA又はその塩を含有する酸性溶液である洗浄液、及び、EDTA又はその塩を含有する酸性溶液に鋼製溶接構造物を浸漬させる、鋼製溶接構造物の洗浄方法が開示されている。特許文献1の技術によれば、鋼製溶接構造物上の酸化皮膜やヒュームを良好に除去して、溶接部の塗装性が向上するとされる。
特許文献2には、複数枚の薄鋼板をガスシールドアーク溶接により接合するためのガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤであって、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.01~0.18%、Mn:1.0~3.0%、Ti:0.06~0.25%、Al:0.003~0.10%、B:0~0.0100%、P:0超~0.015%、S:0超~0.015%、及び任意元素を含み、残部が鉄および不純物からなり、Si×Mn≦0.30及び(Si+Mn/5)/(Ti+Al)≦3.0を満たし、さらにCeqが0.40~0.90%であるソリッドワイヤが開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、電着塗装性及び機械特性に優れた溶接部を形成することが可能であるとされる。
特許文献3には、Arを92~99.5体積%含有するシールドガスを用いて、引張強度が780MPa以上の鋼板Wを溶接するためのガスシールドアーク溶接方法であって、シールドガス中のAr含有量(体積%)をCAr、シールドガスを供給するノズルの内径(mm)をD、溶接速度(cm/min)をv、溶接電流(A)をI、としたとき、式(1)により算出される値が0.20以上であるガスシールドアーク溶接方法が開示されている。特許文献3の技術によれば、溶接後における電着塗装の不良を抑制して、構造部材の耐食性を向上させることができるとされる。
特開2018-21227号公報 特開2021-3732号公報 特開2020-66036号公報
しかしながら、特許文献1の技術においては、酸化皮膜を除去することによって塗装性を向上させている。溶接後に後処理をすることが難しい構造を有する部材には、浸漬による洗浄効果は十分でなく、特許文献1の技術を適用することができない。
特許文献2、及び特許文献3の技術は、スラグ除去などの後処理を行うことなく溶接部の塗装性を向上させることができる。しかしながら、特許文献2及び特許文献3の技術は、塗膜の密着性について考慮していない。さらに、特許文献2及び3の技術は、溶接部の表側、即ち溶接ビードが形成されている側に付着した酸化物の改質を行っているが、溶接部の裏側に形成される酸化物の改質に関しては何ら考慮していない。
以上の事情に鑑みて本発明は、溶接ままの状態で塗装することにより製造可能であり、溶接部の表側及び裏側の両方の塗装後耐食性が高い溶接継手及びその製造方法、自動車部品、並びに建材部品を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る溶接継手は、第1の鋼板と、第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端部及び前記第2の鋼板の第1面を接合する溶接ビードと、前記溶接ビードの周囲に形成されるHAZと、前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、及び前記溶接ビードそれぞれの表面に設けられた塗膜と、前記第2の鋼板の前記第1面に対する裏面である第2面側において、前記HAZに接し、且つ前記HAZと前記塗膜との間にあるスケールと、を備え、前記第2の鋼板の化学成分が、単位質量%で、C:0.03~0.20%、Si:0.02~0.30%、P:0.080%以下、Ti:0.05~0.20%、及びAl:0.05~0.40%、を含み、前記第2の鋼板の前記化学成分が式1を満たし、
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
式1に含まれる元素記号は、前記第2の鋼板における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対して50%以上90%以下であり、前記スケールが、単位原子%で、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有し、前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する前記塗膜の面積割合が15%以下である。
(2)上記(1)に記載の溶接継手は、重ね継手、又はT継手であってもよい。
(3)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、第1の鋼板の端部及び第2の鋼板の第1面をアーク溶接して、前記第1の鋼板の前記端部及び前記第2の鋼板の前記第1面を接合する溶接ビードを形成する工程と、前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、及び前記溶接ビードに塗装して、それぞれの表面に塗膜を設ける工程と、を備える溶接継手の製造方法であって、前記溶接ビードを形成する工程において、前記溶接ビードの周囲にHAZが形成され、前記HAZが前記第2の鋼板の第2面側から露出し、露出した前記HAZの表面にスケールが形成され、前記塗膜を設ける工程において、前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ及び前記スケール上に前記塗膜が設けられ、前記第2の鋼板を、その化学成分が、単位質量%で、C:0.03~0.20%、Si:0.02~0.30%、P:0.080%以下、Ti:0.05~0.20%、及びAl:0.05~0.40%、を含み、前記第2の鋼板を、その前記化学成分が式1を満たすものとし、
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 式(1)
式1に含まれる元素記号は、前記第2の鋼板における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、前記溶接ビードの溶け込み深さを、前記第2の鋼板の板厚に対して50%以上90%以下とし、前記スケールを、単位原子%で、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有するものとし、前記アーク溶接の前に、前記第2の鋼板の前記第2面における、前記HAZが前記アーク溶接によって形成される領域の、ISO 25178:2021に規定される算術平均高さSa及び最大高さSzを、式2を満たす範囲内とし、これにより、前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する前記塗膜の面積割合を15%以下とする
20μm<Sz-Sa<100μm(式2)。
(4)上記(3)に記載の溶接継手の製造方法では、前記溶接継手を重ね継手、又はT継手としてもよい。
(5)本発明の別の態様に係る自動車部品は、上記(1)又は(2)に記載の溶接継手を備える。
(6)本発明の別の態様に係る建材部品は、上記(1)又は(2)に記載の溶接継手を備える。
本発明によれば、溶接ままの状態で塗装することにより製造可能であり、表面及び裏面の両方の塗装後耐食性が高い溶接継手及びその製造方法、自動車部品、並びに建材部品を提供することができる。
本実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の、溶接線に垂直な断面図である。 本実施形態に係るT継手の、溶接線に垂直な断面図である。 塗装前の重ね隅肉溶接継手の斜視図である。 第2の鋼板の第2面のうち、HAZが形成されている箇所の拡大断面図である。 溶け込み深さDが浅い溶接継手のスケールの断面写真である。 溶け込み深さDが深い溶接継手のスケールの断面写真である。 塗膜剥離試験の模式図である。
本発明の一態様に係る溶接継手1は、図1~図4に例示されるように、第1の鋼板11と、第2の鋼板12と、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13と、溶接ビード13の周囲に形成されるHAZ14と、第1の鋼板11、第2の鋼板12、及び溶接ビード13それぞれの表面に設けられた塗膜15と、第2の鋼板12の第1面に対する裏面である第2面122側において、HAZ14に接し、且つHAZ14と塗膜15との間にあるスケール16と、を備え、第2の鋼板12の化学成分が、単位質量%で、C:0.03~0.20%、Si:0.02~0.30%、P:0.080%以下、Ti:0.05~0.20%、及びAl:0.05~0.40%、を含み、第2の鋼板12の化学成分が式1を満たし、
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
式1に含まれる元素記号は、第2の鋼板12における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、溶接ビード13の溶け込み深さDが、第2の鋼板12の板厚t2に対して50%以上90%以下であり、スケール16が、単位原子%で、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有し、第2の鋼板12の第2面122側のHAZ14上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する塗膜15の面積割合が15%以下である。
なお、第2の鋼板12の第1面121とは、第2の鋼板12の2つの表面のうち、溶接ビード13によって第1の鋼板11と接合されている面のことである。第2の鋼板12の第2面122とは、第1面121の反対側の面のことである。上述した溶接部の表側に対応する面が、第2の鋼板12の第1面121であり、溶接部の裏側に対応する面が、第2の鋼板12の第2面122である。また、溶接部とは、溶接ビード13及びHAZ14を含んだ部分の総称である。
本発明者らは、第2の鋼板12の化学成分、溶接前の第2の鋼板12の第2面122の表面粗さ、及び溶接時の入熱量の全てを所定範囲内とすることにより、溶接部に酸洗などの後処理をすることなく、溶接部の塗装後耐食性を飛躍的に向上させられる旨を知見した。以下、本発明者らの知見について詳細に述べる。
溶接部の塗装後耐食性の向上手段を考える際には、溶接部の表側及び裏側の両方の特性を想定する必要がある。溶接部の表側では、スラグが塗装後耐食性に影響し、裏側ではスケール16が塗装後耐食性に影響する。スラグとは、溶接中に溶接金属から排出される酸化物である。スケール16とは、母材鋼板の表面が溶接熱によって酸化して生じる酸化物である。スラグ及びスケール16は、その組成によって区別される。スラグはSi、Mn、Ti、Al、Mg、Zn、Cr、Zr、Ca等の易酸化元素を主体とする酸化物であり、スケール16は、鉄を主体とする酸化物である。
溶接部の表側にある溶接ビード13の表面に生成されるスラグは、通常、非導電性のSi系スラグであり、塗装の際に塗装欠陥を招く。塗装欠陥によって塗装後耐食性が損なわれ、腐食による板厚の減少が生じ、部材性能の低下を招く。溶接部の裏側においてHAZ14の表面に生成されるスケール16は、塗膜密着性を低下させる。塗膜密着性が低下すると、塗膜15が剥離して、塗装後耐食性が低下する。これら2つの問題を解決すること、即ち
(1)溶接部の表側の溶接ビード13における塗装性を低下させる、非導電性のスラグへの対策
(2)溶接部の裏側のHAZ14における塗膜密着性の低下を招く、スケール16への対策
が、溶接部の表側及び裏側の両方の塗装後耐食性を確保するために必要である。これらの問題の解決のために、塗装性及び塗膜密着性に影響を及ぼす様々な因子について、本発明者らは検討した。その結果、以下の知見が得られた。
(1.第2の鋼板12の化学成分について)
第2の鋼板12の化学成分は、Tiを含む。第2の鋼板12に含まれるTiは、溶接の際に溶融金属中で酸化物となる。そして溶融金属が凝固する際に、Tiは、スラグとして溶接ビード13の外部に排出される。そしてTiは、溶接ビード13の表面に形成されるスラグの導電性を向上させる働きを発揮する。溶接ビード13の表面に付着するスラグは、通常はSiを主成分とする絶縁性物質であり、塗装の際に塗装不良を引き起こす。しかしながら、第2の鋼板12に含まれるTiを用いてスラグの導電性を高めることで、溶接部の表側の塗装不良を抑制することができる。
さらに、第2の鋼板12の化学成分は、Alを含む。本発明者らは、Ti及びAlを含有する鋼板に後述する溶接方法を適用することにより、溶接部の裏側、特に第2の鋼板12の第2面122におけるHAZ14の表面における塗膜15の密着性を飛躍的に向上させられることを知見した。
塗膜15の密着性は、第2の鋼板12の表面に形成されたスケール16に含まれるAl-Ti-Fe酸化物によって向上していると推定される。本発明者らの検討結果によれば、HAZ14の表面と塗膜15との間にあるスケール16が、単位原子%でTi:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有する場合に、HAZ14の塗膜密着性が高められていた。スケール16中のTi及びAlは、Feとともに酸化物を形成していると予想される。
なお、Si含有量が多い鋼板の表面に形成されるスケールは、ファイアライト(FeSiO)から構成される。ファイアライトから構成されるスケールには、2.00質量%以上のTi及び2.00質量%以上のAlが含まれることはない。本実施形態に係る溶接継手においては、第2の鋼板12のSi含有量が小さいので、第2の鋼板12の表面にはファイアライトが形成されない。
加えて、第2の鋼板12の化学成分は、式1を満たす。
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
ここで、式1に含まれる元素記号は、第2の鋼板12における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量である。式1は、Ti及びAlの含有量に応じた、C及びPの上限値を定めるものである。
C及びPは、ブリスター現象を引き起こす元素である。鋼板に含まれるCの一部は、溶接熱によってCOガス又はCOガスとなって、鋼板外部に放出される。これらのガスがスケール16を剥離させて、塗膜密着性を損なう。また、Pは、鋼板の結晶粒界を脆化させる。この場合、地鉄-スケール界面の密着性がCOガス又はCOガスの圧力を下回り、剥離が生じる。即ち、Pは、Cが引き起こすブリスター現象を一層促進する。一方、第2の鋼板12の化学成分が式1を満たす場合、ブリスター現象が抑制されて、HAZ14の塗膜密着性が一層高められる。
(2.溶接条件について)
スケール16の成分を上述の通り制御するためには、第2の鋼板12の化学成分に加えて、溶接条件の最適化も必要である。具体的には、第2の鋼板の板厚t2に対する溶け込み深さDの割合が50%以上90%以下となるように、溶接入熱を制御することが必要である。
この溶け込み深さDは、通常の溶接条件よりも大きいものである。例えば自動車部品に含まれる重ね継手においては、溶け込み深さDを約40%とすることが通常である。これは、裏抜けと呼ばれる、溶接金属が第2の鋼板12の第2面122まで貫通する現象を確実に防止するためである。裏抜けが生じると、第2の鋼板12の第2面122に凹凸が形成され、塗装後耐食性が損なわれる。
しかし本発明者らの検討結果によれば、溶け込み深さDを50%以上とするような入熱条件で溶接をしなければ、スケール16のTi含有量及びAl含有量を高めることができないと考えられた。Al-Ti-Fe酸化物を第2の鋼板12の第2面122に形成するためには、第2の鋼板12の第2面122を十分に加熱する必要があると推定される。
また、本発明者らは、溶け込み深さDが50%以上である場合と50%未満である場合とでは、スケール16の結晶構造が相違することを知見した。スケール16は、主にFeO(ウスタイト)、Fe(ヘマタイト)、及びFeから構成される。入熱量が高められるほど、Fe、及びFeから構成される層が厚くなる。図5A及び図5Bに、スケール16の断面の反射電子像を示す。図5Aは、溶け込み深さDが浅くなる入熱条件で形成されたスケール16の断面の反射電子像であり、図5Bは、溶け込み深さDが深くなる入熱条件で形成されたスケール16の断面の反射電子像である。FeOから構成される層は、反射電子像の上部に明るい色で示される領域であり、Fe、及びFeから構成される層は、反射電子像の下部に暗い色で示される領域である。入熱量が大きいほど、Fe、及びFeから構成される層は厚くなることが、これらの反射電子像には示されている。
FeOよりも、Fe、及びFeの熱膨張係数は低く、第2の鋼板12の熱膨張係数に近い。従って、Fe、及びFeが増えるほど、スケール16の剥離が抑制され、第2の鋼板12の第2面122に露出したHAZ14における塗膜密着性が一層向上すると推定される。
なお、本発明者らの検討結果によれば、溶け込み深さDを第2の鋼板12の板厚t2の50%以上にしたとしても、裏抜けは溶接ビード13の全体にわたって発生しなかった。ただし、溶け込み深さDを第2の鋼板12の板厚t2の90%超とした場合、溶接ビード13の一部において裏抜けが発生した。そのため、溶け込み深さDは第2の鋼板12の板厚t2の90%以下とされる。
(3.溶接前の第2の鋼板12の第2面122の表面粗さについて)
鋼板の表面の凹凸は、スケール16の密着性に寄与する因子である。表面粗さが大きいほど、アンカー効果が大きくなり、スケール16の密着性が高められる。そのため、第2の鋼板12の第2面122のうち、少なくともHAZ14が形成される領域において、溶接の前に表面粗さを高めておく必要がある。具体的には、ISO 25178:2021に規定される、当該領域の算術平均高さSa及び最大高さSzが下記式2を満たすように、当該領域の表面粗さを溶接前に調整する。
20μm<Sz-Sa<100μm (式2)
Sz-Saを20μm以上とすることにより、アンカー効果による密着性向上効果が得られる。ただし、Sz-Saが過剰に大きい場合、塗装性が損なわれる。そのため、Sz-Saは100μm未満とする。なお、上述の値は、溶接前に測定される値である。溶接前後で鋼板の表面粗さは若干変化する。従って、溶接後の第2の鋼板12の表面粗さは特に限定されない。
上述した3つの要素、即ち第2の鋼板12の化学成分、入熱量、及び溶接前の第2の鋼板12の第2面122の表面粗さを組み合わせることにより、溶接部の裏側、即ち第2の鋼板12の第2面122における、HAZ14の塗膜密着性を高めることができる。具体的には、第2の鋼板12の第2面122側のHAZ上の領域に塗膜剥離試験を行った場合に、剥離する塗膜15の面積割合を15%以下にすることができる。さらに、上述した3つの要素を組み合わせることにより、溶接部の表側における塗装不良も抑制することができる。これにより、高い塗装後耐食性を有し、かつ生産能率の低下や生産コストの増加を招くことのない、表面品質かつ塗装後耐食性に優れた溶接継手1の提供が可能となった。溶接部の表側及び裏側の塗装後耐食性を向上させることにより、本実施形態に係る溶接継手1が適用された製品の付加価値および信頼性の向上が達成される。
次に、本実施形態に係る溶接継手1の各構成について具体的に説明する。以下、特段の断りが無い限り、鋼板の化学成分に関する単位「%」は、「質量%」を意味する。また、スケール16の化学成分に関する単位「%」は、「原子%」を意味する。
本実施形態に係る溶接継手1は、第1の鋼板11と、第2の鋼板12と、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13を備える。
本実施形態に係る溶接継手1は、図1に例示される重ね隅肉溶接継手であってもよい。溶接継手1が重ね溶接継手1である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とは重ねられている。換言すると、第1の鋼板11と第2の鋼板12との挟角の大きさは例えば0°~10°の範囲内である。
また、本実施形態に係る溶接継手1は、図2に例示されるT継手であってもよい。溶接継手1がT継手である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とは実質的に直角に配される。例えば、溶接継手1がT継手である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は80°~100°の範囲内であってもよい。
もっとも、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は特に限定されず、0°以上180°以下の種々の値をこれに適用することができる。
いずれの場合であっても、本実施形態に係る溶接継手1においては、一方の鋼板の端部が、他方の鋼板の表面に溶接された形状を有する。便宜上、本実施形態に係る溶接継手1においては、端部が溶接される鋼板を第1の鋼板11と称し、表面が溶接される鋼板を第2の鋼板12と称する。また、第2の鋼板12の2つの表面のうち、第1の鋼板11と溶接される方の表面を第1面121と称し、第1の鋼板11と溶接されない方の表面を第2面122と称する。
溶接継手1の溶接ビード13とは、溶接中に溶融凝固した金属、即ち溶接金属のことである。さらに溶接継手1は、溶接ビード13の周囲に形成されたHAZ14を有する。HAZ14(熱影響部、Heat Affected Zone)とは、溶接中に溶融していないが、溶接熱によって組織、冶金的性質、及び機械的性質等が変化した部分のことである。以下、溶接ビード13及びHAZ14をまとめて「溶接部」と称する場合がある。
本実施形態に係る溶接継手1において、第2の鋼板12の第2面122において、HAZ14の表面にはスケール16が付着している。従って、スケール16が付着しているHAZ14は、第2の鋼板12の第2面122において、第2の鋼板12の外部に露出している。スケール16とは、溶接熱によって金属の表面に生じる酸化皮膜のことである。塗装前に、第2の鋼板12を溶接ビード13の裏側から見ると、図3に示されるように、溶接熱によって変色した箇所を視認することができる。この変色部が、スケール16が付着した部分である。
溶接継手1は、第1の鋼板11、第2の鋼板12、溶接ビード13、HAZ14、及びスケール16を覆う塗膜15をさらに有する。これにより、溶接継手1の耐食性が飛躍的に向上する。塗膜15を形成するための塗装は、スラグ及びスケール16を除去することなく行われる。そのためHAZ14に付着したスケール16は、塗膜15とHAZ14との間にある。
(第1の鋼板11)
第1の鋼板11は、特に限定されない。第1の鋼板11には、第2の鋼板12と隅肉溶接可能な厚さ及び化学成分等の構成を、適宜採用することができる。
例えば、第1の鋼板11のSi含有量が0~0.20質量%であってもよい。鋼板中に含まれるSiは、溶接中に酸素と結びついて酸化物を形成し、スラグとして溶接ビード13の外側に排出される。Si酸化物は非晶質であるので、導電性が低い。Si酸化物を多く含むスラグは塗装不良を招く。本実施形態に係る溶接継手1においては、第2の鋼板12の化学成分を所定範囲内とすることにより、スラグによる塗装不良を抑制しているが、第1の鋼板11のSi含有量を0.20質量%以下とすることにより、溶接ビード13に付着するスラグの量を一層低減することができる。第1の鋼板11のSi含有量を0.18質量%以下、0.15質量%以下、又は0.12質量%以下としてもよい。
第1の鋼板11のSi含有量が低いほど、溶接スラグ内のSi含有量を抑えることに加え、そのスラグの量を低減することができる。そのため、第1の鋼板11のSi含有量は0質量%にすることが望ましい。しかし、精錬コストを考慮して、第1の鋼板11のSi含有量を0.02質量%以上、0.05質量%以下、又は0.08質量%以上としてもよい。
Si含有量が上述の範囲内である限り、第1の鋼板11の厚さは特に限定されない。第1の鋼板11の厚さは、例えば1mm以上、2mm以上、又は4mm以上であってもよい。第1の鋼板11の厚さは、例えば8mm以下、6mm以下、又は4mm以下であってもよい。
第1の鋼板11が含有する、Si以外の合金元素の量も特に限定されない。例えば、第1の鋼板11の化学成分が、後述する第2の鋼板12の化学成分の要件を満たすものであってもよい。
第1の鋼板11の機械特性も特に限定されない。例えば第1の鋼板11の引張強さは高い程好ましく、440MPa以上、780MPa以上、又は980MPa以上としてもよい。
第1の鋼板11が、表面処理を有していてもよい。例えば、第1の鋼板11が、その表面にZn系めっき、Al系めっき、Mg系めっき、Sn系めっき等を有していてもよい。これにより、第1の鋼板11の耐食性を一層向上させることができる。
(第2の鋼板12)
第2の鋼板12は、以下に説明する化学成分を有する。
(C:0.03~0.20%)
Cは、第2の鋼板12の引張強さを高める。従って、第2の鋼板12のC含有量を0.03%以上とする。好ましくは、第2の鋼板12のC含有量は0.05%以上、0.08%以上、又は0.10%以上である。
一方、第2の鋼板12のC含有量が過剰であると、第2の鋼板12の延性が損なわれる場合がある。また、第2の鋼板12のC含有量が過剰であると、第2の鋼板12に含有されるCの一部が、溶接熱によってCOガス又はCOガスとなって、第2の鋼板12の外部に放出される。これらのガスがスケール16を剥離させて、溶接部の裏側の塗膜密着性を損なう。従って、第2の鋼板12のC含有量を0.20%以下とする。好ましくは、第2の鋼板12のC含有量は0.18%以下、0.15%以下、又は0.12%以下である。
(Si:0.02~0.30%)
Siは、第2の鋼板12の延性及び引張強さを高める。さらに、Siは脱酸作用も有する。従って、第2の鋼板12のSi含有量を0.03%以上とする。好ましくは、第2の鋼板12のSi含有量は0.05%以上、0.08%以上、又は0.010%以上である。
一方、第2の鋼板12のSi含有量が過剰であると、第2の鋼板12の延性及び溶接性等が損なわれる場合がある。また、第2の鋼板12のSi含有量が過剰であると、溶接部の表側に付着する絶縁性スラグの量が過剰となり、溶接部の表側の塗装性が損なわれる場合がある。加えて、第2の鋼板12のSi含有量が過剰であると、第2の鋼板12の塗装後の美観が損なわれる。これは、第2の鋼板12に例えば縞模様状の不均一なスケール16が形成され、このスケール16が、塗膜15の表面を不均一にするからである。従って、第2の鋼板12のSi含有量を0.30%以下とする。好ましくは、第2の鋼板12のSi含有量は0.28%以下、0.25%以下、0.20%以下、0.20%未満、0.19%以下、又は0.18%以下である。
(P:0.080%以下)
Pは第2の鋼板12の結晶粒界に偏析して、第2の鋼板12の延性を劣化させる。また、Pは、第2の鋼板12の結晶粒界を脆化させる。この場合、地鉄-スケール界面の密着性がCOガス又はCOガスの圧力を下回り、剥離が生じる。即ち、Pは、Cが引き起こすブリスター現象を一層促進し、これにより溶接部の裏側の塗膜密着性を損なう。以上の理由により、第2の鋼板12のP含有量を0.080%以下とする。第2の鋼板12のP含有量を0.060%以下、0.040%以下、又は0.020%以下としてもよい。
本実施形態に係る溶接継手1において、第2の鋼板12に含まれるPは、課題解決のために必要とされない。従ってP含有量は少ないほど好ましく、その下限値は特に限定されない。P含有量が0%であってもよい。一方、第2の鋼板12のP含有量を過剰に低減することにより、第2の鋼板12の製造コストが大幅に上昇する。また、Pは固溶強化によって鋼板の引張強さを高める作用を有する。従ってP含有量を0.0001%以上、0.001%以上、又は0.010%以上としてもよい。
(Ti:0.05~0.20%)
第2の鋼板12に含まれるTiは、溶接の際に溶融金属中で酸化物となる。そして溶融金属が凝固する際に、Tiは、スラグとして溶接ビード13の外部に排出される。そしてTiは、溶接ビード13の表面に形成されるスラグの導電性を向上させる働きを発揮する。溶接ビード13の表面に付着するスラグは、通常はSiを主成分とする絶縁性物質であり、塗装不良を引き起こす。しかしながら、第2の鋼板12に含まれるTiを用いてスラグの導電性を高めることで、溶接部の表側の塗装不良を抑制することができる。さらに、第2の鋼板12に含まれるTiは、第2の鋼板12の第2面122に形成されるスケール16を改質し、スケール16の密着性を向上させる。これにより、溶接部の裏側の塗膜密着性が向上する。従って、第2の鋼板12のTi含有量を0.05%以上とする。好ましくは、第2の鋼板12のTi含有量は0.08%以上、0.10%以上、又は0.12%以上である。
一方、第2の鋼板12のTi含有量が過剰であると、第2の鋼板12の加工性等が損なわれる場合がある。従って、第2の鋼板12のTi含有量を0.20%以下とする。好ましくは、第2の鋼板12のTi含有量は0.18%以下、0.16%以下、又は0.15%以下である。
(Al:0.05~0.40%)
第2の鋼板12に含まれるAlは、第2の鋼板12の第2面122に形成されるスケール16を改質し、スケール16の密着性を向上させる。これにより、溶接部の裏側の塗膜密着性が向上する。従って、第2の鋼板12のAl含有量を0.05%以上とする。好ましくは、第2の鋼板12のAl含有量は0.10%以上、0.15%以上、又は0.20%以上である。
一方、第2の鋼板12のAl含有量が過剰であると、スケール16の密着性が損なわれる。これは、スケール16に多量のアルミナが形成され、これがスケールを剥離させるからであると推定される。従って、第2の鋼板12のAl含有量を0.40%以下とする。好ましくは、第2の鋼板12のAl含有量は0.35%以下、0.30%以下、又は0.25%以下である。
C、Si、P、Ti、及びAl以外の様々な合金元素を、第2の鋼板12が含有してもよい。なお、C、Si、P、Ti、及びAl以外の元素は、溶接部の塗装後耐食性に影響しないと考えられる。これら元素以外の元素は、溶接ビード13の表面に形成されるスラグ、及び第2の鋼板12のHAZ14の表面に形成されるスケール16の、成分等の態様にほとんど影響しないからである。従って、第2の鋼板12においては、C、Si、P、Ti、及びAl以外の元素の種類、及びその含有量は特に限定されない。第2の鋼板12が含有しうる元素及びその含有量の好適な例を、以下に説明する。
(Mn:例えば0.50~3.00%)
本実施形態に係る溶接継手1の第2の鋼板12において、Mnは必須ではない。従って、第2の鋼板12のMn含有量は0%であってもよい。しかし、Mnは、第2の鋼板12の引張強さを高める。従って、第2の鋼板12のMn含有量を0.50%以上としてもよい。好ましくは、第2の鋼板12のMn含有量は0.80%以上、1.00%以上、又は1.50%以上である。
一方、第2の鋼板12のMn含有量を3.00%以下とすることにより、第2の鋼板12の加工性を確保することができる。従って、第2の鋼板12のMn含有量を3.00%以下としてもよい。好ましくは、第2の鋼板12のMn含有量は2.80%以下、2.50%以下、又は2.00%以下である。
(S:例えば0.1000%以下)
Sは、溶接部の塗装後耐食性には影響しないと考えられる。一方、S含有量を低減することにより、硫化物系介在物の形成を抑制し、第2の鋼板12の延性を高めることができる。以上の理由により、第2の鋼板12のS含有量を0.1000%以下としてもよい。第2の鋼板12のS含有量を0.0800%以下、0.0500%以下、又は0.0200%以下としてもよい。
本実施形態に係る溶接継手1において、第2の鋼板12に含まれるSは、課題解決のために必要とされない。従ってS含有量は少ないほど好ましく、その下限値は特に限定されない。S含有量が0%であってもよい。一方、第2の鋼板12のS含有量を過剰に低減することにより、第2の鋼板12の製造コストが大幅に上昇する。従って、S含有量を0.0001%以上、0.0010%以上、又は0.0100%以上としてもよい。
(B:例えば0~0.0100%)
本実施形態に係る溶接継手1の第2の鋼板12において、Bは必須ではない。従って、第2の鋼板12のB含有量は0%であってもよい。しかし、Bは第2の鋼板12の焼入れ性を高める。従って、第2の鋼板12のB含有量を0.0010%以上としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のB含有量は0.0020%以上、0.0030%以上、又は0.0050%以上である。
一方、第2の鋼板12のB含有量を抑制することにより、第2の鋼板12の延性等の劣化を抑制することができる。従って、第2の鋼板12のB含有量を0.2000%以下としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のB含有量は0.1800%以下、0.1600%以下、又は0.1500%以下である。
(Cr:例えば0~1.00%)
本実施形態に係る溶接継手1の第2の鋼板12において、Crは必須ではない。従って、第2の鋼板12のCr含有量は0%であってもよい。しかし、Crは第2の鋼板12の焼入れ性を高める。従って、第2の鋼板12のCr含有量を0.10%以上としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のCr含有量は0.20%以上、0.30%以上、又は0.50%以上である。
一方、第2の鋼板12のCr含有量を抑制することにより、第2の鋼板12の化成処理性等の劣化を抑制することができる。従って、第2の鋼板12のCr含有量を1.00%以下としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のCr含有量は0.90%以下、0.80%以下、又は0.60%以下である。
(Mo:例えば0~0.50%)
本実施形態に係る溶接継手1の第2の鋼板12において、Moは必須ではない。従って、第2の鋼板12のMo含有量は0%であってもよい。しかし、Moは第2の鋼板12の焼入れ性を高める。従って、第2の鋼板12のMo含有量を0.01%以上としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のMo含有量は0.05%以上、0.10%以上、又は0.20%以上である。
一方、第2の鋼板12のMo含有量を抑制することにより、第2の鋼板12の原材料費を抑制することができる。従って、第2の鋼板12のMo含有量を0.50%以下としてもよい。一層好ましくは、第2の鋼板12のMo含有量は0.40%以下、0.35%以下、又は0.30%以下である。
(残部:例えばFeおよび不純物)
第2の鋼板12の化学成分の残部は、例えば鉄及び不純物である。不純物とは、例えば鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る溶接継手1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
(第2の鋼板12のTi含有量、Al含有量、C含有量、及びP含有量の関係)
第2の鋼板12の化学成分は、以下の式1を満たす。
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
ここで、式1に含まれる元素記号は、第2の鋼板12における、当該元素記号に対応する元素の含有量である。
式1は、Ti及びAlの含有量に応じた、C及びPの上限値を定めるものである。Ti及びAlは、スケール16を改質して、その密着性を向上させる。一方、C及びPは、ブリスター現象によってスケール16の密着性を損なう。上述の式1が満たされることにより、ブリスター現象が一層抑制されて、HAZ14の塗膜密着性が一層高められる。
化学成分が上述の範囲内である限り、第2の鋼板12の厚さは特に限定されない。第2の鋼板12の厚さは、例えば1mm以上、2mm以上、又は4mm以上であってもよい。第2の鋼板12の厚さは、例えば8mm以下、6mm以下、又は4mm以下であってもよい。
第2の鋼板12の機械特性も特に限定されない。例えば第2の鋼板12の引張強さは高い程好ましく、440MPa以上、780MPa以上、又は980MPa以上としてもよい。
第2の鋼板12が、表面処理を有していてもよい。例えば、第2の鋼板12が、その表面にZn系めっき、Al系めっき、Mg系めっき、Sn系めっき等を有していてもよい。これにより、第2の鋼板12の耐食性を一層向上させることができる。一方、第2の鋼板のスケール16を一層好適に形成する観点からは、第2の鋼板が非めっき鋼板、即ちめっき層を有しない鋼板であることが好ましい。
(溶接ビード13の溶け込み深さD)
溶接ビード13の溶け込み深さDは、溶接時の入熱量と極めて密接な関係がある。溶接時の入熱量が大きいほど、溶け込み深さDが大きくなる。溶接ビード13の溶け込み深さDが第2の鋼板の板厚t2に対して50%以上である場合、第2の鋼板12の第2面122が十分に加熱される。その結果、第2の鋼板12に含まれるTi及びAlがスケール16に移行し、且つ、スケール16の結晶構造が改善されることにより、スケール16の密着性が向上する。その結果、スケール16を覆うように形成される塗膜15の密着性が向上する。溶け込み深さDは、第2の鋼板の板厚t2の55%以上、60%以上、又は70%以上であってもよい。
一方、溶接ビード13の溶け込み深さDが過剰であると、溶接ビード13の一部において裏抜けが発生するおそれがある。裏抜けは、第2の鋼板12の第2面122に凹凸を生じさせ、塗膜密着性を損なう。従って、溶接ビード13の溶け込み深さDは、第2の鋼板の板厚t2の90%以下とする。溶接ビード13の溶け込み深さDは、第2の鋼板の板厚t2の85%以下、80%以下、又は75%以下であってもよい。
溶接ビード13の溶け込み深さDは、溶接ビード13の溶接線方向に垂直な断面において測定する。図1及び図2に示されるように、第2の鋼板12の第1面121を基準とした溶接ビード13の深さが、溶け込み深さDである。溶接ビード13と第2の鋼板12との境界は、断面をエッチングすることにより容易に視認可能である。なお、溶け込み深さD測定用の断面は、溶接ビードの長手方向の両端から30mm以上離れた箇所に形成する。溶け込み深さD測定用の断面は3箇所で形成し、溶け込み深さDを3つの断面において測定する。3つの断面における溶け込み深さDの平均値を、溶接ビード13の溶け込み深さDとみなす。
(スケール16のTi含有量及びAl含有量)
HAZ14の表面と塗膜15との間にあるスケール16は、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有する。本発明者らの実験結果によれば、スケール16のTi含有量及びAl含有量が上述の範囲内とされている場合に、HAZ14の塗膜密着性が高められていた。これは、スケール16内でTi-Al-Fe酸化物が形成され、このTi-Al-Fe酸化物がスケール16とHAZ14との密着性を高めているからであると推定される。スケール16の密着性が高められることにより、スケール16を覆うように設けられる塗膜15の密着性も高められる。
ただし、スケール16のAl含有量が過剰である場合、スケール16の密着性が損なわれる。スケール16に多量のアルミナが形成され、これがスケール16を剥離させるものと推定される。また、スケール16のTi含有量が過剰である場合も、やはりスケール16の密着性が損なわれる。従って、スケール16において、Tiは60.00%以下とし、Alは30.00%以下とする。
スケール16のTi含有量及びAl含有量は、例えば第2の鋼板12の化学成分及び溶接ビード13の溶け込み深さDを上述の範囲内とすることにより、好ましく制御可能である。スケール16のTi含有量は5.00%以上、10.00%以上、又は20.00%以上であってもよい。スケール16のTi含有量は55.00%以下、50.00%以下、又は40.00%以下であってもよい。スケール16のAl含有量は5.00%以上、10.00%以上、又は15.00%以上であってもよい。スケール16のAl含有量は25.00%以下、20.00%以下、又は18.00%以下であってもよい。
スケール16のTi含有量及びAl含有量は、溶接ビード13の溶接線方向に垂直な断面において測定する。図4に示されるように、断面を電子顕微鏡で観察すると、HAZ14の表面と塗膜15との間にあるスケール16を確認することができる。断面において確認されたスケール16に対して、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いた局所分析を行う。局所分析の際には、スケール16とHAZ14との界面からスケール16側に10μm以内の範囲を分析対象とする。これにより、スケール16に含まれるTi及びAlの含有量を測定することができる。測定を上記分析対象から選択される複数箇所(例えば5箇所)において実施し、これにより得られた値の平均値を、スケール16のTi含有量及びAl含有量とみなす。なお、スケール16を構成するFeO、Fe、及びFeは一様に分布していないことがあるが、スケール16の成分分析においてこの点を考慮する必要はない。スケール16の分析条件は以下の通りである。
・分析装置:軽元素X線マイクロアナライザー
・加速電圧:15kV
・照射電流:0.05μA
・照射時間:100msec
Ti及びAlの含有量が上述の範囲内である限り、スケール16に含まれる他の元素の含有量は特に限定されない。Ti及びAl以外にスケール16に含まれる元素は、主にFe及びOである。スケール16におけるFe含有量は例えば2.00~40.00%であってもよい。スケール16におけるO含有量は例えば20.00~65.00%であってもよい。また、第2の鋼板12に含まれるSi、及びMn等の合金元素がスケール16から検出される場合もある。スケール16におけるSi含有量は例えば0~10.00%であってもよい。スケール16におけるMn含有量は例えば0~10.00%であってもよい。これらの元素は、その合計値が100%となるようにスケール16を構成する。当然のことながら、上に列記されない元素がスケール16に含まれてもよい。
(第2の鋼板12の第2面122において、HAZ14上の領域に塗膜剥離試験をすることによって剥離する塗膜の面積)
本実施形態に係る溶接継手1の溶接部の裏面は、高い塗膜密着性を有する。そのため、第2の鋼板12の第2面122における、HAZ14が形成された箇所に対して、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験を行った場合に、塗膜剥離がほとんど生じない。
塗膜剥離試験の具体的内容は以下の通りである。塗膜剥離試験には、JIS Z 1522:2009に規定された粘着テープ(粘着力は、幅25mm当たり、約8Nのもの)を用いる。図6に示されるように、第2の鋼板12の第2面122における、HAZ14が形成された箇所に粘着テープTを貼り付けて剥がす。
なお、図6に示される溶接継手1の第2の鋼板12の第2面122には、塗膜15が設けられている。塗膜15が設けられた第2面122において、HAZ14を直接的に視認することはできない。しかしながら、HAZ14が形成された箇所においては、塗膜15に盛り上がり部151が形成されている。塗膜15の盛り上がり部151の位置及び形状は、塗膜15の下に存在するHAZ14の位置及び形状と略一致する。従って、塗膜15を肉眼で観察することによって特定される盛り上がり部151を、HAZ14が形成された箇所とみなすことができる。
粘着テープTを剥がすことにより生じた塗膜剥離部の面積を、粘着テープTにおける盛り上がり部151の面積で割った値が、塗膜剥離試験によって剥離する塗膜の面積割合である。粘着テープTにおける盛り上がり部151の面積とは、図6において粘着テープTと盛り上がり部151とが重なっている箇所、即ち符号Aが付された破線で囲まれた箇所の面積のことである。盛り上がり部151の面積は、HAZ14の面積と略一致する。
本実施形態に係る溶接継手1においては、塗膜剥離試験によって剥離する塗膜の面積割合が15%以下である。これにより、本実施形態に係る溶接継手1の溶接部の裏面は、高い塗装後耐食性を有する。
上記手順によって測定される塗膜剥離面積率が、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、又は5%以下であってもよい。このような塗膜剥離面積率は、例えば溶接ビード13の溶け込み深さD、及びスケール16の成分を上述の範囲内とし、さらに溶接前の当該箇所の表面粗さを後述の範囲内とすることにより達成される。なお、JIS H 8504:1999はめっきの密着性試験方法であるが、本実施形態に係る溶接継手1におけるHAZ14の塗膜密着性の評価にも適している。
(溶接継手1の製造方法)
次に、本発明の別の態様に係る溶接継手1の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶接継手1の製造方法によれば、上述した本実施形態に係る溶接継手1を好適に製造することができる。
本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121をアーク溶接して、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13を形成する工程S1と、第1の鋼板11、第2の鋼板12、及び溶接ビード13に塗装して、それぞれの表面に塗膜15を設ける工程S2と、を備える溶接継手1の製造方法であって、溶接ビード13を形成する工程において、溶接ビード13の周囲にHAZ14が形成され、HAZ14が第2の鋼板12の第2面122側から露出し、露出したHAZ14の表面にスケール16が形成され、塗膜15を設ける工程において、第2の鋼板12の第2面122側のHAZ14及びスケール16上に塗膜15が設けられ、第2の鋼板12を、その化学成分が、単位質量%で、C:0.03~0.20%、Si:0.02~0.30%、P:0.080%以下、Ti:0.05~0.20%、及びAl:0.05~0.40%、を含み、第2の鋼板12を、その化学成分が式(1)を満たすものとし、
Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 式(1)
式1に含まれる元素記号は、第2の鋼板12における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、溶接ビード13の溶け込み深さDを、第2の鋼板の板厚t2に対して50%以上90%以下とし、スケール16を、単位原子%でTi:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有するものとし、アーク溶接の前に、第2の鋼板12の第2面122における、HAZ14がアーク溶接によって形成される領域の、ISO 25178:2021に規定される算術平均高さSa及び最大高さSzを、式2を満たす範囲内とし、これにより、第2の鋼板12の第2面122側のHAZ14上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する塗膜15の面積割合を15%以下とする。
20μm<Sz-Sa<100μm (式2)
(アーク溶接S1)
アーク溶接S1においては、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121をアーク溶接する。これにより第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13を形成する。溶接ビード13を形成する工程において、溶接ビード13の周囲にHAZが形成される。HAZ14は、第2の鋼板12の第2面122側から露出する。さらに、露出したHAZの表面にスケールが形成される。
アーク溶接S1に供される第2の鋼板12の化学成分は、上述した所定範囲内とされる必要がある。また、第2の鋼板12の化学成分は、上述した式1を満たす必要がある。
また、アーク溶接S1においては、溶接ビード13の溶け込み深さDを、第2の鋼板の板厚t2に対して50%以上90%以下とすることができる入熱量を採用する必要がある。入熱量は、アーク電圧値、アーク電流値、及び溶接速度などを介して制御することができる。このような入熱量で、第1の鋼板11と、上述の化学成分を有する第2の鋼板12とを溶接することにより、第2の鋼板12の第2面122におけるHAZ14の表面に形成されるスケール16を、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有するものとすることができる。
さらに、アーク溶接S1に供される第2の鋼板12の第2面122の表面粗さを、所定範囲内としておく必要がある。具体的には、第2の鋼板12の第2面122における、HAZ14がアーク溶接によって形成される領域の算術平均高さSa及び最大高さSzを、式2を満たす範囲内とする必要がある。
20μm<Sz-Sa<100μm (式2)
なお、算術平均高さSa及び最大高さSzとは、ISO 25178:2021に規定される値である。算術平均高さSaは、表面の平均面に対する、各点の高さの差の絶対値の平均値である。最大高さSzは、表面の最も高い点から最も低い点までの距離である。溶接前の第2の鋼板12の第2面122の算術平均高さSa及び最大高さSzは、通常の表面粗さ計を用いて測定可能である。
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、第2の鋼板12の第2面122においてSz-Saを20μm超として、アンカー効果を利用することにより、スケール16の密着性を一層高める。これにより、スケール16を覆うように形成される塗膜15の密着性を高め、塗膜剥離試験によって剥離する塗膜15の面積割合を15%以下とすることができる。ただし、Sz-Saが100μm以上である場合、第2の鋼板12の第2面122の塗装性が損なわれる場合がある。従って、Sz-Saは100μm未満とされる。
なお、表面粗さの制御が、第2の鋼板12の第2面122の全体にわたって行われている必要はない。HAZ14が形成される箇所においてのみ、Sz-Saが20μm超100μm未満とされていれば足りる。換言すると、Sz-Saが20μm超100μm未満とされた領域にHAZ14が形成されるように、溶接位置を定めればよい。
また、本実施形態に係る製造方法によって得られる溶接継手1の表面粗さは限定されない。第2の鋼板12の第2面122の表面粗さは、溶接によって若干変化する場合があるからである。加えて、第2の鋼板12に塗膜15が配されると、第2の鋼板12の第2面122の算術平均高さSa及び最大高さSzの正確な測定が難しくなる。塗膜15の除去作業が、第2の鋼板12の第2面122の表面粗さに影響するからである。
(塗装S2)
塗装S2では、アーク溶接S1によって得られた溶接継手1の第1の鋼板11、第2の鋼板12、及び溶接ビード13に塗装して、それぞれの表面に塗膜15を設ける。塗装とは、例えば電着塗装である。この際、第2の鋼板12の第2面122側のHAZ14及びスケール16上に塗膜15が設けられる。これにより、第2の鋼板12の第2面122におけるHAZ14の表面と塗膜15との間にスケール16を残すようにする。このため、本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、酸洗などのスケール16除去工程は不要である。塗装は、スケール16が付着した状態の溶接継手1に対して行い、これにより、スケール16を覆うように塗膜15を形成すればよい。
アーク溶接S1及び塗装S2のその他の実施条件は特に限定されない。例えば、アーク溶接S1におけるシールドガスの成分は特に限定されないが、例えばシールドガスにおける酸化性ガスの割合を10%以下としてもよい。酸化性ガスとは、第1の鋼板11及び第2の鋼板12に含まれるスラグ生成元素、例えばSiを酸化させる効果を有するガスである。例えば、酸化性ガスとはCO、及びO等である。酸化性ガスがシールドガスに占める体積率を10%以下にすることにより、溶接ビード13に付着するスラグの面積率を低減する効果が得られる。酸化性ガスがシールドガスに占める体積率を9%以下、8%以下、5%以下、又は3%以下としてもよい。
また、第1の鋼板11及び第2の鋼板12には、例えば、上述した本実施形態に係る溶接継手1における第1の鋼板11及び第2の鋼板12の好適な形態を適用することができる。また、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の位置関係についても、上述した本実施形態に係る溶接継手1における好適な形態を適用することができる。即ち、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は、0°以上180°以下の任意の値とすることができる。第1の鋼板11と第2の鋼板12とを重ね合わせて、溶接継手1を重ね隅肉溶接継手としてもよい。また、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度を80°~100°として、溶接継手1をT継手としてもよい。
(自動車部品、及び建材部品)
次に、本発明の別の態様に係る自動車部品、及び建材部品について説明する。本実施形態に係る自動車部品、及び建材部品は、本実施形態に係る溶接継手1を有する。自動車部品及び建材部品のいずれも、主に屋外で用いられるので、高い耐食性が求められる。本実施形態に係る自動車部品及び建材部品は、塗装後耐食性が高い溶接継手1を有するので、長期間にわたって性能を維持することができる。例えば、本実施形態に係る自動車部品においては、腐食による減肉が抑制されている。そのため、自動車部品を構成する鋼板の厚さを低減して、自動車部品の軽量化を達成することができる。
もっとも、本実施形態に係る溶接継手1の用途は特に限定されない。自動車部品及び建材部品以外の幅広い分野の機械部品の接合部に、本実施形態に係る溶接継手1を適用することができる。
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
第1の鋼板及び第2の鋼板に、アーク溶接及び電着塗装をして、塗膜を有する種々の重ね隅肉溶接継手又はT隅肉溶接継手を製造した。第1の鋼板の化学成分は、C:0.7質量%、Si:0.15質量%、Mn:0.18質量%、P:0.009質量%、S:0.0033質量%、Ti:0.11質量%、及びAl:0.15質量%を含有した。第2の鋼板の化学成分は表1に示される通りであった。第1の鋼板及び第2の鋼板のいずれの化学成分においても、残部は鉄及び不純物であった。電着塗装は、母材部で20μmになるよう実施した。これらの溶接継手の溶け込み深さ、及びスケール成分を測定して、表2に記載した。
また、これらの溶接継手の第1面の塗装不良面積率を測定した。塗装不良面積率は、電着塗装された溶接ビードを写真撮影し、その写真を画像解析し、溶接ビードの投影面積及び電着塗装不良部の投影面積を特定することにより、測定した。塗装不良面積率が7%以下である溶接継手を、電着塗装不良が抑制された溶接継手だと判断した。
さらに、これらの溶接継手の第2の鋼板の第2面側のHAZ上の領域に対して塗膜剥離試験を実施して、剥離した塗膜の面積率を表2に記載した。
なお、表2に記載の「塗膜剥離面積率A」は、塗膜剥離部の面積を、塗膜剥離試験において用いた粘着テープの面積で割った値である。粘着テープは、長さ150mm及び幅24mmの矩形形状であった。従って、粘着テープの面積は3600mmであった。「塗膜剥離面積率B」は、塗膜剥離部の面積を、粘着テープにおける盛り上がり部の面積で割った値である。粘着テープにおける盛り上がり部は、長さ120mm及び幅20mmの四辺形形状であった。粘着テープにおける盛り上がり部の面積は2400mmであった。なお、本実施形態に係る溶接継手において規定される塗膜剥離面積率は、塗膜剥離面積率B、即ち塗膜剥離部の面積を粘着テープにおける盛り上がり部の面積で割った値である。表2に記載の塗膜剥離面積率Aは、参考値である。
また、溶接部の裏面にあたる第2の鋼板の第2面においては、通常、塗装不良は問題とならない。従って、第2面における塗装不良率の評価は省略した。
表1において、発明範囲外の値には下線を付した。第2の鋼板の化学成分の単位は質量%であり、残部は鉄及び不純物であった。第2の鋼板に添加されていない元素については、含有量の欄を空白とした。表1の「式1」列には、式1の左辺の値を記載した。表1の「表面粗さ」列には、溶接前に測定された、第2の鋼板の第2面のうちHAZが形成される箇所のSz-Saを記載した。
表2において、発明範囲外の値、及び上述の合否基準に満たない値には下線を付した。スケールの化学成分の単位は原子%であった。表2の「D/t2」列には、第2の鋼板の板厚t2に対する溶接ビードの溶け込み深さDの割合を、単位%で記載した。
溶接の際には、溶接部の裏面に当接される箇所が中空構造とされた治具を使用した。これにより、溶接部の裏面から治具への抜熱を抑制した。溶接ワイヤは、YGW11をベースに試作した低Si溶接ワイヤとした。ワイヤ径は1.2mmとした。その他の溶接条件は表3に示す通りとした。
比較例B1では、第2の鋼板のP含有量が過剰であり、さらに式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B1の溶接継手においては著しいブリスター現象が発生し、第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B2では、第2の鋼板のAl含有量が不足しており、さらに式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B2の溶接継手においてはスケールのAl含有量が不足し、さらに第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B3では、第2の鋼板のTi含有量が不足しており、さらに式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B3の溶接継手においてはスケールのTi含有量が不足し、さらに第1面の塗装性及び第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B4では、式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B4の溶接継手においては著しいブリスター現象が発生し、第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B5では、第2の鋼板のAl含有量が過剰であった。このため、比較例B5の溶接継手においてはスケールのAl含有量が過剰となり、さらに第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B6では、第2の鋼板のTi含有量が過剰であり、さらに式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B6の溶接継手においてはスケールのTi含有量が過剰となり、さらに第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B7では、第2の鋼板のC含有量が過剰であり、さらに式1の規定が満たされなかった。このため、比較例B7の溶接継手においては著しいブリスター現象が発生し、第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B8では、第2の鋼板の化学成分は適正であり、式1も満たされていたが、入熱量が不足しており、溶け込み深さが不十分となった。このため、比較例B8の溶接継手においては第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B9では、入熱量が過剰となっており、溶け込み深さが過剰となった。このため、比較例B9の溶接継手においては裏抜けが発生し、さらに第1面の塗装性も損なわれた。
比較例B10では、第2の鋼板の化学成分は適正であり、式1も満たされていたが、溶接前の第2の鋼板の第2面の表面粗さが過剰であった。このため、比較例B10の溶接継手においては第2面の塗膜密着性が不十分となった。
比較例B11では、第2の鋼板の化学成分は適正であり、式1も満たされていたが、溶接前の第2の鋼板の第2面の表面粗さが小さすぎた。このため、比較例B11の溶接継手においては第2面の塗膜密着性が不十分となった。
一方、溶接前の段階での第2の鋼板の表面粗さ、並びに溶接後の段階での第2の鋼板の化学成分、スケールの化学成分、及び溶け込み深さが適切であった発明例においては、塗膜剥離面積率が15%以下であった。そのため、発明例は、高い塗装後耐食性を有する。
1 溶接継手
11 第1の鋼板
111 端部
12 第2の鋼板
121 第1面
122 第2面
13 溶接ビード
14 HAZ
15 塗膜
151 盛り上がり部
16 スケール
D 溶け込み深さ
t2 第2の鋼板の板厚
T 粘着テープ

Claims (6)

  1. 第1の鋼板と、
    第2の鋼板と、
    前記第1の鋼板の端部及び前記第2の鋼板の第1面を接合する溶接ビードと、
    前記溶接ビードの周囲に形成されるHAZと、
    前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、及び前記溶接ビードそれぞれの表面に設けられた塗膜と、
    前記第2の鋼板の前記第1面に対する裏面である第2面側において、前記HAZに接し、且つ前記HAZと前記塗膜との間にあるスケールと、
    を備え、
    前記第2の鋼板の化学成分が、単位質量%で、
    C:0.03~0.20%、
    Si:0.02~0.30%、
    P:0.080%以下、
    Ti:0.05~0.20%、及び
    Al:0.05~0.40%、を含み、
    前記第2の鋼板の前記化学成分が式1を満たし、
    Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
    式1に含まれる元素記号は、前記第2の鋼板における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、
    前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対して50%以上90%以下であり、
    前記スケールが、単位原子%で、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有し、
    前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する前記塗膜の面積割合が15%以下である
    溶接継手。
  2. 重ね継手、又はT継手であることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
  3. 第1の鋼板の端部及び第2の鋼板の第1面をアーク溶接して、前記第1の鋼板の前記端部及び前記第2の鋼板の前記第1面を接合する溶接ビードを形成する工程と、
    前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、及び前記溶接ビードに塗装して、それぞれの表面に塗膜を設ける工程と、
    を備える溶接継手の製造方法であって、
    前記溶接ビードを形成する工程において、
    前記溶接ビードの周囲にHAZが形成され、
    前記HAZが前記第2の鋼板の第2面側から露出し、
    露出した前記HAZの表面にスケールが形成され、
    前記塗膜を設ける工程において、
    前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ及び前記スケール上に前記塗膜が設けられ、
    前記第2の鋼板を、その化学成分が、単位質量%で、
    C:0.03~0.20%、
    Si:0.02~0.30%、
    P:0.080%以下、
    Ti:0.05~0.20%、及び
    Al:0.05~0.40%、を含み、
    前記第2の鋼板を、その前記化学成分が式1を満たすものとし、
    Ti+1.2×Al-1.2×C-7×P>0 (式1)
    式1に含まれる元素記号は、前記第2の鋼板における、当該元素記号に対応する元素の単位質量%での含有量であり、
    前記溶接ビードの溶け込み深さを、前記第2の鋼板の板厚に対して50%以上90%以下とし、
    前記スケールを、単位原子%で、Ti:2.00~60.00%及びAl:2.00~30.00%を含有するものとし、
    前記アーク溶接の前に、前記第2の鋼板の前記第2面における、前記HAZが前記アーク溶接によって形成される領域の、ISO 25178:2021に規定される算術平均高さSa及び最大高さSzを、式2を満たす範囲内とし、これにより、前記第2の鋼板の前記第2面側の前記HAZ上の領域において、JIS H 8504:1999に準拠した塗膜剥離試験によって剥離する前記塗膜の面積割合を15%以下とする
    20μm<Sz-Sa<100μm (式2)
    溶接継手の製造方法。
  4. 前記溶接継手を重ね継手、又はT継手とすることを特徴とする請求項3に記載の溶接継手の製造方法。
  5. 請求項1又は2に記載の溶接継手を備える自動車部品。
  6. 請求項1又は2に記載の溶接継手を備える建材部品。
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