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JP7799255B2 - 積層体及びその製造方法 - Google Patents
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JP7799255B2 - 積層体及びその製造方法 - Google Patents

積層体及びその製造方法

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特許法第30条第2項適用 令和2年9月2日、日本金属学会2020年秋期(第167回)講演大会講演のWEBサイトにおける公開 令和2年9月15日~9月18日、日本金属学会2020年秋期(第167回)講演大会講演にて発表
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。
二酸化チタンは、光触媒として知られている材料である。二酸化チタンは、エネルギーの高い紫外線を吸収することができる一方、可視光領域における光吸収効率が低い。そのため、可視光領域の光を吸収する光触媒が求められている。
可視光領域の光を吸収する光触媒としては、マグネリ相酸化物が知られている。このようなマグネリ相酸化物としては、例えば、Ti2n-1のマグネリ相チタン酸化物が知られている。
特許文献1及び2には、Ti2n-1を製造する方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、10nm~30nmほどのTiOナノ粒子とCaH、LiH,NaH,MgH,LiAlH,NaBH等の水素還元剤を混合及び不活性ガス雰囲気下で加圧することによってペレット状の試料を作製し、当該試料を途中で粉砕しながら350℃程度の低温で数日間加熱して還元することで粒子状のTi等の組成物が製造されることが記載されている。特許文献2には、多数の原料を所定の比率、所定の順序で混合及び撹拌し、所定の温度条件、所定の圧力条件で熱処理することで、LiαTiβγで表されるチタン酸化物の結晶表面の一部にTi2n-1を有するチタン酸化物結晶体が形成されることが記載されている。
特開2012-214348号公報 国際公開第2016/159323号
しかしながら、特許文献1及び2の製造方法では、マグネリ相酸化物を形成するために複雑な処理が必要であり、また、マグネリ相酸化物で構成される層状体及びその製法についての開示は無い。また、表層部にマグネリ相酸化物で構成された層状体を有する積層体は知られていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、マグネリ相酸化物で構成される金属酸化物層を有する積層体を簡便な処理で得ることができる積層体の製造方法、及び該製造方法で得られる積層体を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、金属基板の表面を大気中で酸化し、その後、酸素分圧が低くなるように制御した環境下で熱処理すると、金属イオンが外方拡散し、表面に形成された金属酸化物層の組成が変化すると共に当該金属酸化物層の厚みが変化することから、マグネリ相酸化物で構成される金属酸化物の薄層化、及び薄層状のマグネリ相酸化物の組成制御を簡便な処理で実現でき、その結果表層部にマグネリ相金属酸化物層を有する積層体を形成できること、および複雑形状の被処理体上にもマグネリ相金属酸化物層を容易に形成できることを見出した。
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)本発明の第一の態様に係る積層体は、金属層と、前記金属層上の表層部に設けられ、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層と、を有し、前記マグネリ相チタン酸化物は、組成式Ti2n-1(n≧3)で表される。
(2)上記態様に係る積層体において、前記マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層の平均厚みが2μm以上であってもよい。
(3)上記態様に係る積層体において、前記金属酸化物層は、積層方向に関して、互いに異なる組成を有する2つの領域を有し、前記2つの領域のうち、前記金属層から離間している領域ほど、マグネリ相チタン酸化物中のチタン元素の組成比が低くてもよい。
(4)前記2つの領域のうちのいずれかが、Tiで構成されていてもよる。
(5)上記態様に係る積層体において、前記金属層と前記マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層との間にボイドを有してもよい。
(6)本発明の第二の態様に係る積層体の製造方法は、第一の態様に係る積層体を製造する方法であって、チタン基板を大気中で予備加熱する第1工程と、予備加熱した前記チタン基板を低酸素分圧下で熱処理する第2工程と、を有する。
(7)上記態様に係る積層体の製造方法は、第1工程において、チタン基板を650℃~750℃で予備加熱し、第2工程において、予備加熱した前記チタン基板を温度750℃~950℃、酸素分圧1.0×10-7atm以下で熱処理してもよい。
本発明によれば、マグネリ相酸化物で構成される金属酸化物層を有する積層体を提供することができる。
本実施形態に係る積層体の断面を模式的に示す断面模式図である。 本実施形態に係る積層体であり、実施例1の試料の薄膜GI-XRD測定結果である。 本実施形態に係る積層体であり、実施例1の試料の断面を示すTEM像である。 Tiの結晶粒の電子線回折像の一例である。 図1の積層体の変形例を模式的に示す断面図である。 図1の積層体の他の変形例を模式的に示す断面図である。 図1の積層体の他の変形例を模式的に示す断面図である。 本実施形態に係る積層体の製造方法の第2工程の様子の一例を模式的に示す図である。 実施例2の積層体の薄膜GI-XRD測定結果である。 実施例3~5の積層体の薄膜GI-XRD測定結果である。 比較例1~3の積層体のXRD測定結果である。 比較例4~6の積層体のXRD測定結果である。 比較例7の積層体のXRD測定結果である。 比較例8及び9の積層体の薄膜GI-XRD測定結果である。 比較例10の積層体の薄膜GI-XRD測定結果である。 比較例11の積層体のXRD測定結果である。 実施例1の試料の断面を示すTEM像である。 実施例2の試料の断面を示すTEM像である。 比較例1の試料の断面を示すTEM像である。 比較例2の試料の断面を示すTEM像である。 実施例1の試料の領域R近傍の拡大図及び領域Rの電子線回折像である。 比較例1の試料の領域R近傍の拡大図及び領域Rの電子線回折像である。 実施例1の試料の領域RのHAADF-STEM像及びその像をフーリエ変換した像である。 実施例1の試料のHAADF-STEM像中のX-Y線のコントラスト強度を示す図及び領域Rの原子配列を示す図である。 実施例1,比較例1,2及びルチル型白色TiO粉末の反射率を示す図である。 比較例12の熱重量曲線を示す図である。 比較例12における状態cの試料の外観写真及びXRD測定結果を示す図である。
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
[積層体]
図1は、本実施形態に係る積層体100の断面を模式的に示す断面模式図である。積層体100は、金属層10と、金属層10上の表層部に設けられ、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層20と、を有する。
(金属層)
金属層10は、例えばチタン元素を主成分として含む層である。
(金属酸化物層)
金属酸化物層20は、金属層10の上方に設けられており、例えば金属層10の表面に設けられている。本実施形態における金属酸化物層20は、金属層10に直接接する構成に限定されず、金属層10と離間している構成、例えば金属層10上に1又は複数の他の層を介して設けられている構成を含む。尚、上方とは、必ずしも重力方向に沿う方向とは一致しない。
金属酸化物層20は、マグネリ相チタン酸化物で構成された層である。マグネリ相チタン酸化物は、組成式Ti2n-1(n≧3)で表される組成物である。このような組成物としては、例えばTi、Ti、Ti、Ti11、Ti13等が含まれる。
マグネリ相チタン酸化物は、ルチル型の金属二酸化物に酸素欠損が周期的に導入されたものである。3≦n≦9のマグネリ相チタン酸化物は、(121)面において、周期的に面欠陥が存在し、n≧10のマグネリ相チタン酸化物は、(132)面に周期的に面欠陥が存在する。
金属酸化物層20は、例えば、異なる組成比を有する2つ以上の化合物を含む。尚、金属酸化物層20に含まれるいずれの化合物もマグネリ相チタン酸化物で構成されている。
図1は、金属酸化物層20が互いに異なる組成を有する2つ以上の化合物を含む場合の例を示す。金属酸化物層20は、例えば、金属層10側から、第1領域21、第2領域22及び第3領域をこの順に有する。第1領域21は、金属層10に最も近い領域であり、金属層10に直接接している。第2領域22は、第1領域21よりも金属層10から離間した位置にあり、第1領域21の上記金属層10とは反対側に配置されている。第3領域23は、第2領域22よりも金属層10から離間した位置にあり、第2領域22の上記第1領域21とは反対側に配置されている。本実施形態では、第3領域23は、表面に露出している最外層を構成している。
第1領域21,第2領域22及び第3領域23の各々は、例えば同じ組成の化合物の領域であり、各化合物の結晶粒で構成された領域である。第1領域21,第2領域22及び第3領域23を構成するマグネリ相チタン酸化物のそれぞれは、例えば互いに組成が異なる。また、第1領域21、第2領域22及び第3領域23のそれぞれの間には、結晶粒界が存在する。
金属酸化物層20の上記3つの領域うち、金属層10から離間している領域ほど、マグネリ相チタン酸化物中のチタン元素の組成比が低い。すなわち、図1に示す例では、第1領域21に含まれるマグネリ相チタン酸化物中のチタン元素の組成比が最も高く、第3領域23に含まれるマグネリ相チタン酸化物中のチタン元素の組成比が最も低い。このような例としては、第1領域21が組成式Tiで構成され、第2領域22が組成式Tiで構成され、第3領域23が組成式Tiで構成される例が挙げられる。
尚、第1領域21,第2領域、および第3領域23のそれぞれは、必ずしも単一の組成比を有する化合物の単体で構成されず、異なる組成比を有する2つの化合物の混晶であってもよい。このような例としては、第3領域23が組成式Ti及び組成式Tiの混晶で構成される例や、第2領域22が組成式Tiの(1-20)双晶である例などが挙げられる。
金属酸化物層20がマグネリ相チタン酸化物で構成されていることは、X線回折法(XRD:X-ray Diffraction)により確認することができる。図2は、本実施形態にかかる積層体100の金属酸化物層20に対し、X線回折法を行った測定結果の一例であり、薄膜GI-XRD測定結果を示す。図2に示すように、金属酸化物層20では、XRDプロファイルにおいてマグネリ相チタン酸化物によるピークのみが検出され、TiOなどの他のチタン酸化物のピークは検出されていないことが分かる。尚、XRDにおけるX線侵入深さは、金属酸化物層20の厚みに応じて調整されることが好ましい。
金属酸化物層20を構成するマグネリ相チタン酸化物の組成は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて測定することができる。マグネリ相チタン酸化物の組成を識別するためには、先ず、積層体100の断面を示すTEM像を観察し、結晶粒を識別する。次いで、結晶粒の電子線回折像を得る。この電子線回折像に基づいて、それぞれの結晶粒を構成するマグネリ相チタン酸化物の組成を識別することができる。
図3は、本実施形態にかかる積層体100のTEM像の一例である。このTEM像において、金属酸化物層20の領域Ra,Rb及びRcは、後述する電子線解析像にてそれぞれの組成がTi、Ti、Ti及びTiの混晶であることを確認することができる。
具体的には、例えば組成式Ti2n-1(3≦n≦9)で表されるマグネリ相チタン酸化物の組成は、電子線回折像において、透過波が透過する(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれる原子(スポット)の数により、識別することができる。組成式Ti2n-1(3≦n≦9)で表されるマグネリ相チタン酸化物のチタン原子カラムは、n周期で配列する。そのため、透過波が透過する(000)のスポット及びルチル型AO面に対応する(121)R-TiO2のスポットを結ぶ線分上に位置するスポットの数が(N-1)個であれば、当該領域を構成するマグネリ相チタン酸化物の組成がTi2N-1であると識別できる。例えば、スポットの数が3個であれば、当該領域を構成するマグネリ相チタン酸化物は、Tiであると識別でき、スポットの数が4個であれば、Tiであると識別できる。これらのスポットは、例えば(000)のスポット及び(121)R-TiO2のスポットを結ぶ線分を等分する。
図4に組成式Ti2n-1(3≦n≦9)で表されるマグネリ相チタン酸化物の組成を識別するための電子線回折像の例を示す。図4に示される電子線回折像では、透過波が透過する(000)のスポット及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2のスポットを結ぶ線分上に位置するスポットの数が4つであり、上記2つのスポットを結ぶ線分を5等分している。従って、図4に電子線回折像が示される結晶粒は、Tiであると識別できる。
同様に、組成式Ti2n-1(10≦n)で表されるマグネリ相チタン酸化物の組成は、電子線回折像において、(000)及び(132)との間に含まれる原子(スポット)の数により、識別することができる。組成式Ti2n-1(10≦n)で表されるマグネリ相チタン酸化物のチタン原子カラムは、n周期で配列する。そのため、透過波が透過する(000)のスポット及び(132)のスポットを結ぶ線分上に位置するスポットの数が(N-1)個であれば、当該領域を構成するマグネリ相チタン酸化物の組成がTi2N-1であると識別できる。これらのスポットは、例えば(000)のスポット及び(132)のスポットを結ぶ線分を等分する。
また、上記手法により一度電子回折像を指数付けできれば、(000)のスポット及び(121)R-TiO2のスポットの間、又は(000)のスポット及び(132)のスポットの間に(N-1)個のスポットが確認されていなくても、各々のスポットの間隔や角度の関係に基づき、結晶粒の組成の同定が可能である。尚、これらの結晶粒の組成においても、これらの結晶粒の組成が組成式Ti2n-1で表される場合、方位合わせを行えば、結晶粒の組成に応じて(000)のスポット及び(121)R-TiO2のスポットの間、又は(000)のスポット及び(132)のスポットの間に(N-1)個のスポットが位置することが確認される。
金属酸化物層20を構成するマグネリ相チタン酸化物は、例えば、結晶子サイズが100nm~1.0μmである結晶粒を有するのが好ましく、結晶子サイズが100nm~1.0μmである結晶粒で構成されるのがより好ましい。
金属層10と金属酸化物層20との間には、例えばボイドVが形成されている(図3)。ボイドVの積層方向におけるサイズは、例えば数十nm~数百nm程度であり、例えば金属層10と金属酸化物層20との界面に沿って、面内方向に分布している。ボイドVは、例えば、金属層10と金属酸化物層20との界面から積層方向において表層部に近づく方向に数100nmの範囲に、数10nm~数100nmサイズの略円筒状のボイドが、該界面の面内方向に沿って互いに連結している。
本実施形態にかかる金属酸化物層20は、導電性向上の観点から、例えば平均厚みが200nm以上であるのが好ましく、500nm以上あるのがより好ましく、1μm以上あるのが更に好ましい。また、金属酸化物層20は、例えば平均厚みが2μm以下であってもよい。金属酸化物層20の平均厚みは、TEM像における積層体の最外層の表面からボイドまでの積層方向の距離を、積層体の面内方向において10箇所で測定し、その平均を求めることで算出することができる。
また、第3領域23は、導電性向上の観点から、例えば平均厚みが200nm以上であるのが好ましく、500nm以上あるのがより好ましく、1μm以上であるのが更に好ましい。また、第3領域23は、例えば平均厚みが2μm以下であってもよい。第3領域23の平均厚みは、TEM像における積層体の第2領域22と第3領域23との境界から第3領域23とボイドとの境界までの積層方向の距離を、積層体の面内方向における10箇所で測定し、その平均を求めることで算出することができる。
本実施形態にかかる金属酸化物層は、TiO2、並びにTiO及びマグネリ相チタン酸化物の混合物と比較し、面内方向および積層方向の導電性が高い。また、本実施形態にかかる金属酸化物層は、可視光領域および近赤外光領域における光吸収効率が高いため、可視光、近赤外光領域の光触媒としての応用が期待される。
尚、図1には、第1領域21、第2領域22および第3領域23が層状に重なる構成を図示したが、本実施形態にかかる積層体はこの例に限定されない。例えば、図1では各層の表面が平坦面であるが、曲面或いは凹凸面であってもよい。また、各層の厚みが均一でなく、薄層部及び厚層部を有していてもよい。
尚、図1では3つの領域を有するマグネリ相を示したが、領域の数は1つ以上の任意の数であり、金属酸化物層は特定の組成比の単一の領域からなっていてもよく、4つ以上の領域を含んでいてもよい。
図5~7は、図1の積層体100の変形例を模式的に示す断面図である。図5~7の積層体101,102,103において、積層体100と同様の構成は、同様の符号を付し、説明を省略する。
図5に示すように、積層体101の金属酸化物層20は、第1領域21及び第2領域22で構成されている。第1領域21は、例えば組成式Tiで構成されており、第2領域22は、例えば組成式Tiで構成される。積層体101における第2領域22は、最外層を構成している。
また、図6に示すように、積層体102の金属酸化物層20は、第2領域22及び第3領域23で構成されている。第2領域22は、例えば組成式Tiで構成されており、第3領域23は、例えば組成式Tiで構成されている。積層体102における第3領域23は、最外層を構成している。
更に、図7に示すように、積層体103の金属酸化物層20は、第2領域22で構成されている。すなわち、積層体103では、金属酸化物層20の全体が特定の組成比を有する化合物の単体からなる1つのマグネリ相チタン酸化物で構成されている。積層体103における第2領域22は、最外層を構成している。
このように、本実施形態に係る積層体の金属酸化物層は、積層方向に関して、互いに異なる組成を有する2つの領域で構成されていてもよく、1つの領域で構成されていてもよい。この場合、上記2つの領域のうち、金属層10から離間している領域ほど、マグネリ相チタン酸化物中のチタン元素の組成比が低いことが好ましい。また、上記2つの領域のうちのいずれかが、マグネリ相チタン酸化物の中で電気的特性、特に電気伝導性が相対的に優れたTiで構成されているのが好ましい(図5、図6参照)。また、各領域に含まれるマグネリ相チタン酸化物は、図1の対応する各領域に含まれるマグネリ相チタン酸化物と同様のものを含んでいてもよい。
第1領域21、第2領域22及び第3領域23のそれぞれの厚みは、任意に選択することができる。例えば、図5では第2領域22の厚みが第1領域21の厚みよりも大きいが、第2領域22の厚みが第1領域21の厚みよりも小さくてもよい。また、図6では第2領域22の厚みが第3領域23の厚みよりも大きいが、第2領域22の厚みが第3領域23の厚みよりも小さくてもよい。
各領域に含まれるマグネリ相チタン酸化物のうち、組成式Tiで表されるマグネリ相チタン酸化物の導電性が最も高い。そのため、金属酸化物層20の導電性を高める観点から、第1領域21,第2領域22及び第3領域23のうち、最も厚みが大きい領域が組成式Tiで構成されていることが好ましい。例えば、第1領域21,第2領域22及び第3領域23のうち第2領域22の厚みが最も大きく、且つ、第2領域22が組成式Tiで表されるマグネリ相チタン酸化物で構成されるのが好ましい。
[積層体の製造方法]
本実施形態にかかる積層体の製造方法は、上記実施形態にかかる金属酸化物層を製造する方法であって、チタン基板を予備加熱する第1工程と、予備加熱した金属基板を低酸素分圧下で熱処理する第2工程と、を有する。
(第1工程)
第1工程では、例えば公知の電気炉等の加熱炉を用いて大気中で上記金属基板の予備加熱を行うことができる。第1工程により、金属基板の表面を二酸化チタンにすることができる。
基板としては、市販のものを用いてもよい。基板の厚みは、例えば3μm以上であり、5μm以上であることが好ましい。基板が所定値以上の厚みを持つことで、外方拡散するチタンイオン及びチタン元素を十分確保することができるため、マグネリ相チタン酸化物の形成を制御しやすい。基板としては、チタン元素を主成分として含む基板を用いてもよいが、チタン元素のみからなる基板を用いることが好ましい。基板は、チタン元素以外の第三元素を含む基板であってもよい。基板は、平坦な形状のものを用いてもよく、湾曲部や屈曲部を含む、複雑形状のものを用いてもよい。
第1工程を行う際の熱処理温度は、例えば、600℃~800℃、好ましくは650℃~750℃である。第1工程の熱処理温度をこれらの範囲に制御し、後述する第2工程を行うことで、上記実施形態にかかる金属酸化物層を含む積層体を製造することができる。チタン元素は、約800℃で急激に酸化反応が進行する。そのため、第1工程の熱処理温度が過剰に高いと、表面でのチタン元素の酸化反応が過剰に進行し、後述する第2工程を行ってもマグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層を得られない場合や、表面が脱落する場合がある。
第1工程を行う熱処理時間は、例えば30分間~5時間であり30分間~3時間であることが好ましい。尚、ここで熱処理時間とは、上述の熱処理温度に達してから維持される時間のことをいう。熱処理時間は、熱処理温度が高い場合には短くしてもよく、熱処理温度が低い場合には長くしてもよい。熱処理時間を上記範囲に制御することで、き裂や割れが生じることを抑制できる。
(第2工程)
第2工程は、予備加熱した金属基板を低酸素分圧下で熱処理する。第2工程では、例えば公知の電気炉の加熱炉を用いて熱処理を行うことができ、第1工程と同じ加熱炉を用いてもよいし、第1工程とは異なる加熱炉を用いてもよい。
低酸素分圧下とは、空気の酸素分圧よりも十分に小さい酸素分圧を有するガス中で熱処理することを意味するである。上記ガスとしては、例えば、空気或いは酸素ガスを用いることができる。上記ガスは、酸素のみで構成されていてもよいし、酸素とN、Arなどの不活性ガスとを含んでいてもよいが、酸素のみからなるか、又は酸素と不活性ガスとからなることが好ましい。
第2工程を行う際の酸素分圧は、例えば1.0×10-7atm~1.0×10-15atmであり、好ましくは1.0×10-7atm~1.0×10-10atmである。
酸素分圧の制御は、公知の方法により行うことができる。例えば、空気と不活性ガスを加熱炉内に供給し、酸素分圧コントローラーを用いて、加熱炉内の酸素分圧の測定値に基づいて空気及び/又は不活性ガスの供給量を調整することにより、行うことができる。
第2工程を行う際の熱処理温度は、予備加熱したチタン基板を熱処理する場合、例えば750℃~950℃、好ましくは780℃~930℃であり、より好ましくは870℃~930℃である。
第2工程を行う際の上記熱処理温度は、第2工程における最高温度であり、上記熱処理温度で温度を維持しないのが好ましい。例えば、第2工程において上記最高温度に達するまで所定の昇温速度で加熱し、上記最高温度に達した後、好ましくは上記最高温度に達した直後に、所定の降温速度にて除熱する。第2工程を行う際の昇温速度は、例えば10℃/分であり、降温速度は、例えば3℃/分~5℃/分である。
第2工程の熱処理において、上記最高温度に達した後、上記最高温度をある程度の時間維持してもよい。最高温度の維持時間は、例えば15時間以内であり、好ましくは、10時間以内である。
図8は、第2工程中の試料内部の組成の変化の一例を模式的に示す図である。第1工程後、金属基板の表面は、ルチル型の二酸化物となる。第2工程を行うことで、チタン基板のチタン元素及びチタンイオンが外方拡散し、試料の内側からマグネリ相チタン酸化物が形成し、第2工程完了時に金属酸化物層はマグネリ相チタン酸化物で構成されたものとなる。
第2工程の酸素分圧の範囲と熱処理温度を上記範囲に制御することで、外部から酸素が侵入する速度、並びに外方拡散するチタン元素及びそのイオンと内部に取り込まれた酸素とが反応する速度を制御し、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層を形成することができる。
第2工程を行うことで、チタン基板のチタンイオン及びチタン元素が外方拡散する速度、外部から金属酸化物層内に酸素が侵入する速度、および外部から侵入した酸素が内部に進行する速度を制御し、金属層上にマグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層を形成することができる。尚、第2工程中も外部から酸素が内部に取り込まれており、かつ、金属層のチタン元素の外方拡散が進行するため、第2工程後の金属酸化物層の厚みは、第1工程直後の金属酸化物層の厚みより厚くなる。
尚、第1工程の熱処理温度及び時間、並びに第2工程の酸素分圧、熱処理温度及び時間を調整することで、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層の厚みや、形成される金属酸化物層におけるマグネリ相チタン酸化物の組成を調整することができる。
本実施形態にかかる積層体の製造方法では、安全かつ簡便にマグネリ相チタン酸化物を含む積層体を製造することができる。本実施形態に係る金属酸化物の製造方法では、温度、酸素分圧といった熱処理条件を制御することで、所望のマグネリ相チタン酸化物を含む積層体を製造できる。例えば、金属酸化物層の厚みや化学組成比を厳密に制御することができる。
本実施形態にかかる積層体の製造方法では、複雑形状の基板を用いても実施することができ、任意の形状のフレキシブル酸化物半導体も作製可能である。尚、本実施形態にかかる積層体の製造方法で製造した積層体から金属酸化物層を剥離し、金属酸化物層を独立で用いてもよい。金属酸化物層を独立で用いる場合、例えばピンセットで剥離させる方法,もしくは王水等の濃酸溶液を用いて,金属基板のみを溶解させる方法により積層体の金属基板から剥離することができる。また、3μm以下の薄い金属基板を出発材料として用いることでマグネリ相のみで構成された積層体、或いはマグネリ相のみで構成された層状物質(マグネリ相シート)を形成することも可能である。
図5~図7に示す積層体は、上記実施形態にかかる積層体の製造方法と同様の方法で製造される。このとき、適切な酸素分圧下で第2工程を行うことにより、2つの領域で構成される金属酸化物層、或いは1つの領域で構成される金属酸化物層を形成することができる。
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
[実施例1]
先ず、厚み5μmのチタン基板を用意した。実施例1で用いたチタン基板は、99.9質量%がチタンであり、残りの0.1質量%がチタン以外の元素であった。
次いで、第1工程として、電気炉内にチタン基板を配置し、大気雰囲気で予備加熱することで中間試料を作製した。チタン基板を予備加熱する際の昇温速度は約10℃/分とし、熱処理温度は700℃とし、熱処理時間は3時間とした。熱処理後、炉冷(約5℃/分の速度で冷却)を行った。
次いで、第2工程として、中間試料を電気炉内に配置し、空気の酸素分圧よりも十分に小さい酸素分圧を有するガス中で熱処理した。上記ガスとしては、酸素ガスの他にプロセスガスとしてアルゴンガスを用いた。熱処理は、熱処理温度900℃、熱処理時間0分、酸素分圧1.0×10-10atmで行った。酸素分圧は、酸素分圧コントローラーにより制御した。熱処理する際の昇温速度は、約10℃/分で行った。第2工程では、最高温度である900℃まで昇温後、最高温度を維持せず、すぐに炉冷(約5℃/分の速度で冷却)を行い、試料を作製した。
[実施例2]
第2工程における酸素分圧を1.0×10-7atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[実施例3]
第2工程における最高温度を800℃に変更し、且つ最高温度を10時間に保持したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。すなわち、熱処理する際の昇温する速度及び炉冷する速度は、実施例1と同様にした。
[実施例4]
第2工程における熱処理温度を800℃に変更し、且つ最高温度を5時間に保持したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[実施例5]
第2工程における熱処理温度を800℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例1]
第2工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例2]
第2工程における酸素分圧を1.0×10-5atmに変更こと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例3]
第2工程を大気圧雰囲気で行ったこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例4]
第2工程における熱処理温度を1000℃に変更し、酸素分圧を1.0×10-20atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例5]
第2工程における最高温度を1000℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例6]
第2工程における最高温度を1000℃に変更し、酸素分圧を1.0×10-5atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例7]
第2工程における酸素分圧を1.0×10-5atmに変更し、且つ最高温度で5時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例8]
第2工程における最高温度を800℃に変更し、最高温度で10時間に保持し、且つ酸素分圧を1.0×10-5atmに変更し、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例9]
第2工程における最高温度を800℃に変更し、且つ酸素分圧を1.0×10-5atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例10]
第2工程における最高温度を900℃に変更し、且つ酸素分圧を1.0×10-5atmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
[比較例11]
第2工程における酸素分圧を1.0×10-5atmに変更し、且つ最高温度で3時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
実施例1~5及び比較例1~11における、第1工程を行った後の試料作製条件を表1に纏める。表1において、第1工程に対応する工程を行った後に熱処理を行った条件に〇を示し、第1工程に対応する工程を行った後に熱処理を行わなかった条件に×を示す。
(試料の評価)
実施例1~5及び比較例1~11で作製した試料を以下の方法で測定、分析した。
(XRD測定、薄膜GI-XRD測定)
先ず、試料の任意断面を切り出し、XRD測定、薄膜GI-XRD測定を行った。XRD測定は、全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製、装置名:Utima IV)を用い,測定の条件は、(線源CuKα,管電圧40kV, 管電流40mA, 入射角20°~80°)とした。薄膜GI-XRD測定は、全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製、装置名:SmartLab)を用い、測定の条件は、(線源:CuKα,管電圧:45kV,管電流200mA,入射角:20°~60°)とした。図9は、実施例2の試料に対して薄膜GI-XRD測定を行った結果である。図10は、実施例3~5の試料に対して薄膜GI-XRD測定を行った結果である。図11は、比較例1~3の試料に対してXRD測定を行った結果である。図12は、比較例4~6の試料に対してXRD測定を行った結果である。図13は、比較例7の試料に対してXRD測定を行った結果である。図14は、比較例8及び9の試料に対して薄膜GI-XRD測定を行った結果である。図15は、比較例10の試料に対して薄膜GI-XRD測定を行った結果である。図16は、比較例11の試料に対してXRD測定を行った結果である。尚、図12~16における「I」は、第1工程が実施例1の第1工程と同じ熱処理工程であることを示す。
図2、9、10より、実施例1~5の積層体は、表層部にマグネリ相チタン酸化物からなる金属酸化物層を有することが確認された。このうち、実施例1,2及び4の表面部の主相は、マグネリ相チタン酸化物の中で最も電気伝導性に優れるTiであることが確認された。
一方、比較例1~11の積層体は、表層部にマグネリ相チタン酸化物からなる金属酸化物層を有さないことが確認された。
比較例1のように第1工程のみを行って第2工程を行わない場合、表層部にルチル型のTiOで構成される金属酸化物層が形成されることが確認された。
比較例2のように第2工程の熱処理における酸素分圧が高い場合、積層体の内部や金属層との界面近傍にマグネリ相チタン酸化物が形成されるものの、表層部にはルチル型のTiOが形成されており、マグネリ相チタン酸化物からなる金属酸化物層は形成されなかった。
比較例3のように、第1工程に続く工程も大気圧雰囲気下で熱処理すると、マグネリ相チタン酸化物が形成されなかった。
比較例4~6のように第2工程の熱処理を高温で行う場合、酸素が過剰に取り込まれ、表層部にTiや、TiOなどが形成された。
比較例7,10,11のように第2工程を酸素分圧が高い場合、酸素が過剰に取り込まれ、ルチル型のTiOが形成されてしまった。
比較例8,9のように第2工程の酸素分圧が高い場合、熱処理温度が低くても表面が過剰に酸化してしまい、マグネリ相チタン酸化物を得られなかった。
比較例10,11のように酸素分圧が高く、第2工程の熱処理温度が高い場合、マグネリ相チタン酸化物は形成されているものの、ルチル型のTiOも含まれており、表層部にマグネリ相チタン酸化物からなる金属酸化物層は形成されなかった。比較例10,11は、比較例8,9と比べ、熱処理温度が高く、金属層のチタン元素及びそのイオンの外方拡散が促進され、マグネリ相酸化物が生成した。一方、酸素分圧が高いことにより、外部から酸素が過剰に取り込まれ、表層部がルチル型のTiOとなっており、表層部がマグネリ相酸化物で構成された積層体を得られなかった。
(断面観察)
次に、TEMを用いて実施例1の試料の断面を観察した。実施例1の試料の異なる位置の断面を示すTEM像を図3、図17に示す。図3,図17のTEM像を観察した結果、実施例1の試料は積層方向と交差する方向にボイドVを有すること、ボイドVを挟む二つの層を有すること、二つの層のうち表面側の層には数100nm~約1.0μmの複数の結晶粒を有することが確認された。尚、試料の表面側の層は、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層であることが薄膜GI-XRD測定で確認されている。次いで、TEM像における積層体の面内方向の10箇所で、金属酸化物層の最外層の表面からボイドまでの積層方向の距離を測定し、その平均値を求めることで、金属酸化物層の平均厚みを求めた。金属酸化物層の平均厚みは、3.2μmであった。
実施例1と同様に、実施例2の試料の断面をTEMで観察した。実施例2の試料の断面を示すTEM像を図18に示す。図18のTEM像を観察した結果、実施例2の試料は積層方向と交差する方向にボイドVを有すること、ボイドVを挟む二つの層を有すること、二つの層のうち表面側の層には数100nm~約1.0μmの結晶粒で構成されていることが確認された。試料の表面側の層は、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層であることが薄膜GI-XRD測定で確認されている。金属酸化物層の平均厚みは、2.9μmであった。
実施例1と同様に、比較例1の試料の断面をTEMで観察した。比較例1の試料の断面を示すTEM像を図19に示す。図19のTEM像を観察した結果、比較例1の試料は積層方向と交差する方向にボイドVを有すること、ボイドVを挟む二つの層を有すること、二つの層のうち表層部の層には数100nmの結晶粒で構成されていることが確認された。試料の金属層上に設けられた層は、TiOで構成されていることがXRD測定で確認されている。
実施例1と同様に、比較例2の試料の断面をTEMで観察した。比較例2の試料の断面を示すTEM像を図20に示す。図20のTEM像を観察した結果、比較例2の試料は積層方向と交差する方向にボイドVを有すること、ボイドVを挟む二つの層を有すること、二つの層のうち表層部の層には数100nm~約1.0μmの結晶粒で構成されていることが確認された。試料の金属層上に設けられた層は、ルチル型のTiOとマグネリ相チタン酸化物で構成されていることがXRD測定で確認されている。
(電子線回折)
先ず、実施例1の試料に対し、電子線回折を行った。電子線回折は、図3中の領域R、R及びR並びに図17中の領域Rの結晶粒に対して行った。
領域R の電子線回折像において、透過波が透過する(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、3個の箇所と4個の箇所があり、それぞれ上記2つの点を結ぶ線分を4等分、5等分していた。そのため、領域R に位置するマグネリ相チタン酸化物は、TiとTiとの混晶であることが確認された。
領域Rの電子線回折像において、(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、3個であり、上記2つの点を結ぶ線分を4等分していた。また、(000)と(120)のスポットを結ぶ直線に対し、電子回折像が鏡面対象になっていた。そのため、領域Rに位置するマグネリ相チタン酸化物は、Tiの、(1-20)双晶であることが確認された。
領域R a の電子線回折像において、透過波が透過する(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、2個であり、上記2つの点を結ぶ線分を3等分していた。そのため、領域R a に位置するマグネリ相チタン酸化物は、Tiであることが確認された。
また、実施例1において、図17中の領域Rの近傍の拡大図および電子線回折像を図21に示す。領域Rの電子線回折像から、透過波が透過する(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に超格子反射が存在することが確認された。また(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、3個の箇所であり、上記2つのスポットを結ぶ線分を4等分していた。そのため、領域R に位置するマグネリ相チタン酸化物は、Tiであることが確認された。従って、金属酸化物層においては、面欠陥が周期的に存在することが確認された。
次に、実施例2の試料に対し、電子線回折を行った。電子線回折は、図18中の領域Re及びRの結晶粒に対して行った。領域Reの電子線回折像において、(000)及び(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、5個であり、上記2つのスポットを結ぶ線分を6等分していた。そのため、領域R e は、Ti11であることが確認された。領域Rの電子線回折像において、(000)及び(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数は、3個であり、上記2つのスポットを結ぶ線分を4等分していた。そのため、領域Rは、Tiであることが確認された。
次に、比較例1の試料に対し、電子線回折を行った。図19中の領域Rの近傍の拡大図及び電子線回折像を図22に示す。領域Rの電子線回折像から、領域Rの結晶粒がルチル型のTiOで構成されていることが確認された。
次に、比較例2の試料に対し、電子線回折を行った。電子線回折は、図20中の領域R,R及びRに対して行った。領域Rの電子線回折像から、領域Rの結晶粒は、TiOの(101)Rutile双晶で構成されていることが確認された。また、領域R3、の電子回折像において、透過波が透過する(000)及びルチル型TiO面に対応する(121)R-TiO2との間に含まれるスポットの数が、3個であり、上記2つのスポットを結ぶ線分を4等分していた。そのため、領域R3、は、Tiの(1-20)双晶であることが確認された。
また比較例2の電子線回折結果より、マグネリ相チタン酸化物は、二酸化チタンを表面に有する積層構造に対し、第2工程を低酸素分圧下で行うことで、図8に示されるようにチタン元素又はイオンの外方拡散により形成されることが確認された。比較例2のようなTiOが残る積層体では、金属層上の表層部に設けられ、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層を有する積層体を得られない。
(HAADF-STEM観察)
実施例1の試料の領域Rに対して、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)(装置名:Cs-correced Titan3 microscope、Fisher Scientific International Inc.製)により、断面の原子配列を確認した。図23は、HAADF-STEMにより観察した像(左図)及び左図の枠内を拡大し、さらにGatan社製ソフトウェアDigital micrographによるフーリエフィルター処理した画像である。HAADF-STEMにより観察した結果、領域Rが、Tiであると同定できた。フーリエフィルター処理は、加速電圧300kV, 電子ビーム径:約0.08 nm, 収束角:17.8 mradで行った。
図24は、図23におけるHAADF-STEM像のX-Y線上のコントラスト強度を示す図及び、コントラスト強度を基に算出した原子配列を模式的に示す図である。HAADF-STEM像中の明るいスポットは、コントラスト強度(Z=22)からTi原子の原子カラムであることが確認された。Ti原子の原子カラムよりもコントラスト強度が低いスポットのコントラスト強度は、(Z=8)であった。ここで、Zは原子番号を示す。この結晶粒では、Ti原子カラムが4周期で配列しており、先行研究(Y. Le Page, M. Marezio, Journal Solid State Chemistry, Volume 53, (1984) p13-21.)におけるTiの原子配列と一致した。図23におけるTi原子カラムの周辺に位置する明度が低いスポットは、O原子カラムによるものと推察される。
(光吸収効率)
次いで、実施例1,比較例1,比較例2の試料、およびルチル型の白色TiO粉末の光吸収効率を求めるために、反射率を測定した。反射率の測定は、紫外可視近赤外分光光度計装置(装置名:UV-3600、株式会社島津製作所製)を用いて、300nm~1500nmの範囲で行った。
実施例1,比較例1,比較例2の試料、およびルチル型の白色TiO粉末の波長に対する反射率(%)を図25に示す。実施例1の試料は、紫外光領域だけでなく、可視光領域及び近赤外光領域において、低い反射率を示した。具体的には、実施例1の試料は約400nm~約1800nmの範囲で25%以下の反射率を示した。また、実施例1の試料は、約300nm~約1800nmの範囲で比較例1よりも低い反射率を示し、約350nm~約1250nmの範囲で比較例2よりも低い反射率を示した。特に、実施例1の試料は、約360nm~約830nmの範囲である可視光領域において、比較例1,2のいずれよりも低い反射率を示した。したがって、実施例1の試料は、可視光領域および近赤外光領域において優れた光吸収効率を示すことが分かった。
(抵抗値測定)
次いで、直流安定化電源(型番AD-8735D、エー・アンド・デイ株式会社製)を用い、4端子法を用いて、実施例1,比較例1及び比較例2の試料の構成相の面方向及び厚み方向の抵抗値を測定した。厚み方向の抵抗値の測定においては、試料の金属層から金属酸化物層を剥離せず、試料の表裏にて計測を行った。
表2に示すように、比較例1の構成相(ルチル型のTiO)の面方向の抵抗値及び厚み方向の抵抗値は測定限界(3×10Ω)以上であった。また、比較例2の構成相(ルチル型のTiO2、TiO及びTi)の面方向の抵抗値は0.56Ωであり、厚み方向の抵抗値は1.93Ωであった。一方、実施例1の構成相(マグネリ相チタン酸化物(Ti及びTi))の面方向の抵抗値は0.17Ω、厚み方向の抵抗値は0.04Ωであり、比較例1,2の抵抗値と比べて、面方向及び厚み方向の抵抗値のいずれも低く、特に厚み方向の抵抗値が格段に低いことが分かった。
[比較例12]
1cm×1cm×5μmのチタン基板を大気中で、一定の加熱速度で加熱し、熱重量測定(TG:Thermogravimetry)を行った。熱重量測定は、熱重量示差熱測定装置(NETCH製、装置名:STA2500)を用い、測定の条件は、(加熱速度:10(℃/分)とした。図26に比較例12の試料の熱重量曲線(TG曲線)を示す。比較例12の試料のTG曲線から、チタン基板は約600℃以上の温度範囲で、温度が高くなるほど金属基板の酸化が進行すること、温度変化に対する重量変化の勾配は、700℃、800℃、及び900℃の温度で大きく増大することが確認された。
図26中の状態a(室温)、b(700℃)、及びc(1000℃)における試料の外観写真、及び状態cにおけるXRD測定結果を図27に示す。外観写真に示される通り、状態cにおいては、試料の表面が脱落している。また、XRD測定結果から状態cの試料の表面がルチル型TiOであることがXRD測定で確認されている。図27より、第1工程における温度を所定の範囲内に制御しないと表面が脱落することがわかる。
上記実施形態にかかるマグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層を有する積層体は、可視光域を有効利用でき、複雑な形状や任意の寸法に対応できる。そのため、上記実施形態にかかる積層体は、光触媒電極、光センサーとしての活用が期待される。上記実施形態にかかる積層体が有する金属酸化物層は、高い導電性を有し、高い耐酸化性を有し得ることから、燃料電池としての活用が期待される。
10:金属層、20:金属酸化物層、100,101,102,103:積層体、V:ボイド

Claims (7)

  1. 金属層と、前記金属層上の表層部に設けられ、マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層と、を有し、
    前記マグネリ相チタン酸化物は、組成式Ti2n-1(n≧3)で表され、
    前記金属酸化物層は、積層方向に関して、互いに異なる組成を有する2つ又は3つの領域を有し、
    前記2つ又は3つの領域のうち、前記金属層から離間している領域ほど、前記組成式におけるnの値が大きい、積層体。
  2. 前記マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層の平均厚みが2μm以上である、請求項1に記載の積層体。
  3. 前記金属酸化物層は、積層方向に関して、互いに異なる組成を有する2つの領域を有し、
    前記2つの領域のうち、前記金属層から離間している領域前記金属層側の領域と比べ、前記組成式におけるnの値が大きい、請求項1または2に記載の積層体。
  4. 前記2つ又は3つの領域のうちのいずれかが、Tiで構成されている、請求項に記載の積層体。
  5. 前記マグネリ相チタン酸化物で構成された金属酸化物層と、前記金属層との間にボイドを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
  6. 請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体の製造方法であって、
    チタン基板を大気中で、後に行われる第2工程よりも低温で予備加熱する第1工程と、
    予備加熱した前記チタン基板を酸素分圧1.0×10 -7 atm以下の低酸素分圧下で、前記第1工程よりも高温で熱処理する、前記第2工程と、を有する、積層体の製造方法。
  7. 前記第1工程において、前記チタン基板を650℃~750℃で予備加熱し、
    前記第2工程において、予備加熱した前記チタン基板を温度750℃~950℃、酸素分圧1.0×10-7atm以下で熱処理する、請求項6に記載の積層体の製造方法。
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