以下、図を参照しながら、本願発明に係る蓄電デバイスの保管方法、および、蓄電デバイスの保管システムの実施形態を説明する。
1.第1実施形態:
1-1.保管システムの構成:
図1は、第1実施形態における蓄電デバイス10の保管システム100の構成を示す概略図である。本実施形態の保管システム100の保管対象である蓄電デバイス10は、インターカーレーションとは異なる電極反応によって充電が行われるリチウムイオン電池である。蓄電デバイス10の構成、および、蓄電デバイス10での電極反応については後述する。
保管システム100は、充電後の蓄電デバイス10を、自己放電が抑制され、かつ、内部の化学物質の劣化が抑制された状態で保管することができる。保管システム100は、蓄電デバイス10を収容する保管部101と、保管部101に収容された蓄電デバイス10の温度を監視する温度監視部102と、保管部101内の温度を調整する温度制御部103と、を備える。また、保管システム100は、さらに、保管システム100を制御する制御部105を備える。
保管部101は、蓄電デバイス10が収容される気密な内部空間を有する。保管部101は、1つ以上の蓄電デバイス10を収容可能である。保管部101内には、蓄電デバイス10を配置するための棚などが設けられていてもよい。
保管部101の内部空間は、外部環境に対して断熱されていることが好ましい。そのため、保管部101の内部空間を区画する外壁部は、断熱性が高い材料で構成されていることが好ましい。当該外壁部は、内部に断熱層が設けられた構成を有していてもよい。
本実施形態では、蓄電デバイス10は、充電された後、端子が開放されて電気的な接続が遮断された無負荷の開路状態で保管部101に収容される。保管部101では、蓄電デバイス10は、蓄電デバイス10の充電状態(State of charge;SOC)を監視する電気回路や、蓄電デバイス10への充電を実行可能な充電装置等に電気的に接続された状態で収容されてもよい。
温度監視部102は、例えば、温度センサを備え、保管部101に収容された蓄電デバイス10の温度を表わす信号を制御部105に出力する。本実施形態では、温度監視部102は、蓄電デバイス10の温度に直接的に影響する保管部101内の環境温度を、蓄電デバイス10の温度を表わす温度として計測して制御部105に出力する。
他の実施形態では、温度監視部102は、保管部101に収容されている蓄電デバイス10の温度を、蓄電デバイス10ごとに直接的に計測するように構成されていてもよい。また、他の実施形態では、温度監視部102は、保管部101の外部の気温を計測し、その温度から保管部101内の環境温度の推定値を算出するように構成されていてもよい。
温度制御部103は、保管部101に設けられており、制御部105の制御下において、保管部101に収容された蓄電デバイス10の温度を調整する。本実施形態では、温度制御部103は、ヒーターやエアコンディショナーによって構成され、保管部101内の環境温度を調整する。
他の実施形態では、温度制御部103は、保管部101に収容される蓄電デバイス10を加熱、または、冷却して、蓄電デバイス10の温度を調整してもよい。例えば、温度制御部103は、蓄電デバイス10を覆うジャケットの内部に設けられた冷媒流路に、温度を調整した冷媒を供給することにより、蓄電デバイス10の温度を調整してもよい。また、温度制御部103は、蓄電デバイス10に取り付けられたヒーター素子やペルチェ素子によって、蓄電デバイス10の温度を調整してもよい。
制御部105は、例えば、中央処理装置(CPU)と主記憶装置(RAM)とを備えるマイクロコンピューターによって構成される。制御部105は、温度監視部102による計測結果に基づいて、温度制御部103を駆動して、保管部101に収容された蓄電デバイス10の温度を調整する。本実施形態では、制御部105は、蓄電デバイス10の温度を25℃以上65℃以下の所定の保管温度に維持する。保管温度の温度範囲の詳細については後述する。
1-2.蓄電デバイスの構成:
図2は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成を示す概略図である。本実施形態では、蓄電デバイス10は、上述したようにリチウムイオン電池であるため、電解溶液中でイオン化して充放電に関与する金属原子としてリチウム(Li)原子を備える。
蓄電デバイス10は、容器11と、電解液12と、セパレータ15と、第1電極20と、第2電極30と、を備える。図2では、便宜上、容器11を一点鎖線で図示し、セパレータ15を破線で図示してある。
容器11は、電解液12が満たされた内部空間を有している。容器11は、電解液12に対して反応しにくい材質の材料によって液密に構成されている。電解液12は、充放電に関与する金属イオンを第1電極20と第2電極30との間で伝達可能な性質を有する。本実施形態では、電解液12は、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた溶液によって構成され、第1電極20と第2電極30との間でLiイオンを伝達可能である。
電解液12のリチウム塩としては、例えば、LiN(SO2RA)(SO2RB)の化学式で表されるリチウムイミド塩を用いることができる。ここで、「RA」および「RB」はそれぞれ、フッ素原子(F)、または、フッ化炭素を示す。「RA」および「RB」は、互いに同じ原子や同じ構造の基であってもよい。本実施形態の電解液12では、リチウム塩として、リチウムイミド塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(FSO2)2,LiFSI)を用いる。
リチウム塩としては、その他に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO2)2,LiTFSI)や、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiN(SO2C2F5)2,LiBETI)、CTFSI-Li等のリチウムイミド塩を用いることができる。また、リチウム塩としては、リチウムイミド塩に限定されず、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用いることもできる。リチウム塩は、前述した各リチウム塩の誘導体であってもよいし、前述のリチウム塩、または、それらの誘導体の任意の組み合わせの混合物であってもよい。
本実施形態では、電解液12の有機溶媒として、1,2-ジメトキシエタン(DME,C4H10O2)を用いる。電解液12の有機溶媒としては、その他に、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE,C5H4F8O)や、1,2-ジエトキシエタン(DEE,C6H14O2)、トリグリム(トリグライム,CH3OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2OCH3)、テトラグライム(ジメトキシテトラエチレングリコールテトラグライム,C10H22O5)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、トリス[(トリフルオロエトキシ)メタン](TFEO)等を用いることができる。また、有機溶媒としては、前述した各物質の誘導体が用いられてもよいし、前述した物質、および、前述した物質の誘導体の任意の組み合わせの混合液を用いることもできる。
電解液12には、さらに、添加剤が添加されてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、硝酸リチウム(LiNO3)、トリイソプロポキシボロキシン(TiPBx)を含むボロキシン化合物、これらの誘導体、および、これらの任意の組み合わせの混合剤を用いることができる。添加剤は、例えば、電解液12に0.1質量%以上2.0質量%以下の濃度で添加されるものとしてもよい。
セパレータ15は、容器11の内部空間を、第1電極20が収容される第1電極室16と第2電極30が収容される第2電極室17とに区画する。セパレータ15は、電気絶縁性とイオン伝導性とを有し、第1電極20と第2電極30とを電気的に絶縁するとともに、電解液12を介して伝達される金属イオン(本実施形態ではLiイオン)を透過する。セパレータ15は、例えば、多孔質構造を有する樹脂フィルムや不織布などによって構成される。
第1電極20は、負極を構成する。第1電極20は、集電体21と、活物質層25と、を備える。第1電極20の集電体21は、金属基板23によって構成される。本実施形態では、金属基板23は平滑な表面を有している。
本実施形態では、金属基板23は、銅(Cu)の金属箔によって構成されている。なお、金属基板23は、Cuによって構成されてもよく、Cu合金や、Cu以外の金属によって構成されてもよい。金属基板23は、例えば、アルミニウム(Al)や、Al合金によって構成されてもよい。
金属基板23は、金属箔によって構成されていなくてもよく、例えば、金属薄板や金属薄膜によって構成されてもよい。金属基板23は、平板状に構成されていなくてもよく、例えば、筒状や波状など、様々な形状に曲げ加工されていてもよい。
第1電極20の活物質層25は、金属基板23の板面に設けられている。活物質層25は、金属基板23の両面に設けられていることが好ましい。活物質層25は、活物質としてカーボン(C)を含んでおり、導電性を有している。本実施形態では、活物質層25は、カーボンナノ構造体CNを含む。カーボンナノ構造体CNの詳細については後述する。
第2電極30は、蓄電デバイス10の正極を構成する。第2電極30は、集電体31と、活物質層35と、を有する。集電体31は、例えば、Alやチタン(Ti)等の金属箔によって構成される。集電体31は、他の金属によって構成されてもよいし、金属箔以外の形態を有していてもよい。集電体31は、平坦な形状で構成されていなくてもよく、筒状や波状など、様々な形状に曲げ加工されていてもよい。
第2電極30の活物質層35は、集電体31の表面に形成されている。活物質層35は、集電体31の両面に形成されていることが好ましい。活物質層35は、充放電に関与する金属イオンの原子(本実施形態ではLi原子)を含む活物質と、導電助剤と、結着剤とを含有する。活物質層35は、増粘剤を含んでいてもよい。
第2電極30の活物質としては、例えば、三元系の物質を用いることができ、コバルト酸リチウム(LiCoO2,LCO)や、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケル酸リチウム(NCA)を用いることができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンブラック(CB)やカーボンナノチューブ(CNT)、アセチレンブラック(AB)、それらの混合物等を用いることができる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。
図3は、第1電極20の活物質層25に含まれるカーボンナノ構造体CNの構成を模式的に示す概略図である。図3では、便宜上、カーボンナノ構造体CNを構成するグラフェンGFを略長方形のシート状に図示してある。
第1電極20の金属基板23の表面には、グラフェンGFを主成分とカーボンナノ構造体CNが全体にわたって配置されている。グラフェンGFは、「グラフェンシート」とも呼ばれ、炭素の六員環構造、つまり、炭素原子を頂点とする六角形格子構造によって構成された、炭素原子1つ分の厚みを有するシート状の物質である。カーボンナノ構造体CNは、グラファイト様の物質であるため、活性炭等の炭素材料に比べて高い電気伝導率を備える。
本実施形態では、カーボンナノ構造体CNは、グラフェンGFが金属基板23側を基端部として細長く延びた構成を有する。カーボンナノ構造体CNは、複数のグラフェンGFがその厚み方向に積層された多層構造を有する。
グラフェンGFは、炭素の六員環の全面単結晶によって構成されていなくてもよい。つまり、グラフェンGFは、完全なグラフェン構造でなく、六員環構造の炭素を主成分とする薄膜であってもよい。グラフェンGFは、六員環構造の炭素を主成分とするモザイク構造を有していてもよい。モザイク構造とは、炭素の六員環構造によって構成された複数の領域が離散的に配置された構成を意味する。
カーボンナノ構造体CNは、公知のCVD(checmical vapor desposition)法によって、金属基板23の表面に生成することができる。カーボンナノ構造体CNを生成できるCVD法については、例えば、特開2024-016510号公報に説明されている。
図示は省略するが、金属基板23の表面は、アモルファスカーボン層によって覆われている。CVD法では、金属基板23の表面にアモルファスカーボン層が形成された後、そのアモルファスカーボン層を成長の起点として、カーボンナノ構造体CNが上方へと細長く延びるように形成される。
本実施形態では、カーボンナノ構造体CNは、金属基板23の平滑な板面から延び出ているカーボンナノウォールによって構成される。カーボンナノウォールは、グラフェンGFが厚み方向に積層された構成を有する。
カーボンナノウォールは、針状や、板片状、ひだ状に形成されていてもよい。本明細書では、「カーボンナノウォール」は、帯状に連なっている壁状の構成のみではなく、いわゆるカーボンナノフレークやカーボンナノフラワー等の、グラフェンを主成分とする同種の構造体を含む広い概念を表わす用語として使用している。
1-3.蓄電デバイスでの電池反応:
蓄電デバイス10は、その充電時に、第1電極20の表面上に、充放電に関与する金属原子が析出して、その金属原子の層が形成されるように構成されている。リチウムイオン電池である本実施形態の蓄電デバイス10での充放電の際の電極反応は、例えば、以下のような反応式により表すことができる。
正極物質がLiCoO2である場合、正極である第2電極30での電極反応は、下記の化学式(1)で表される。xは、反応する原子の割合を表し、0より大きく1未満の実数である。
[化1]
Li1-xCoO2 + xLi+ + xe- ⇔ LiCoO2 …(1)
これに対して、負極である第1電極20での電極反応は、下記の化学式(2)で表される。化学式(2)が示しているように、蓄電デバイス10での充電の際には、第1電極20の表面にLiが析出し、Liの層が形成される。
[化2]
Li+ + e- ⇔ Li …(2)
一般に、充放電に関与する金属イオンが電極の結晶構造の隙間に挿入されるインターカーレーションによって充電が実現されるタイプの従来のリチウムイオン電池の充電量は、電極の結晶構造によって制限を受ける。これに対して、本実施形態の蓄電デバイス10によれば、上記の化学式(2)で示されているように、理論的には、第1電極20の表面にLiを析出させることができる限り、充電が可能である。よって、本実施形態の蓄電デバイス10によれば、充電時に電極でインターカーレーションが発生する蓄電デバイスよりも、高い充電容量を実現することができる。
また、後述するように、上記の電極反応で充電される本実施形態の蓄電デバイス10によれば、従来のリチウムイオン電池とは異なり、25℃以上の保管温度で保管したときに、自己放電を効果的に抑制することができる。
1-4.蓄電デバイスの保管方法:
図4を参照して、保管システム100を用いた蓄電デバイス10の保管方法を説明する。
工程1では、保管する蓄電デバイス10を充電する。本実施形態では、蓄電デバイス10は満充電の状態にされる。蓄電デバイス10は、例えば、18℃以上35℃未満の室温環境下で充電されることが好ましく、25℃の環境温度で充電されることがより好ましい。
工程2では、充電後の蓄電デバイス10が保管システム100の保管部101内に収容される。蓄電デバイス10の収容後、保管部101は密閉されることが好ましい。
工程3では、制御部105の制御下において、保管部101に収容された蓄電デバイス10の温度が、所定の保管温度に維持される。本実施形態では、温度制御部103によって保管部101の環境温度が調整されることにより、蓄電デバイス10が保管温度に維持される。保管温度は、例えば、25℃以上65℃以下の値である。
後述する実験例で示すように、本実施形態の蓄電デバイス10は、25℃以上の温度において、0℃以下の温度のときよりも自己放電が抑制される。また、実験例で示すように、蓄電デバイス10は、保管温度が高いほど自己放電が抑制されるため、保管温度は、30℃以上であることが好ましく、室温以上であることがより好ましい。ここでの「室温」は、例えば、18℃以上35℃未満の温度を意味する。保管温度は、35℃以上であることがより好ましく、38℃以上であることがさらに好ましい。保管温度は、40℃以上であることが、より一層好ましい。
一般に、従来のリチウムイオン電池のように、電極でのインターカーレーションによって充電が実現される蓄電デバイスでは、環境温度が室温以上にされると、電極からの金属イオンの放出が促進され、自己放電量が増加する傾向にある。例えば、夏季など、気温が35℃以上となる高温環境下では蓄電量の45%以上が自己放電によって消失してしまう場合があることが知られている。また、従来の蓄電デバイスは、40℃以上の環境温度の下で保管されると著しく劣化することが知られている。
そのため、従来の蓄電デバイスを搭載している電気自動車には、ファンなどの冷却手段によって蓄電デバイスを冷却する構成を採用しているものもある。しかしながら、そのような構成の場合、例えば、夏季に、従来の蓄電デバイスの自己放電や劣化が抑制できる温度、例えば、35℃以下の温度まで冷却するためには、その冷却のための電力消費量が著しく増大してしまう可能性があり、非効率的である。
これに対して、本実施形態の蓄電デバイス10のように、充電時に第1電極20の表面に充放電に関与する金属原子の層が形成される構成の場合、第1電極20上に析出した金属原子が電極上で安定して存在し続けることができる。そのため、本実施形態の蓄電デバイス10であれば、25℃以上や、30℃以上、あるいは、35℃以上の高温環境下であっても自己放電や劣化が抑制される。前述した従来の蓄電デバイスは、35℃以下の温度での保管が想定されるのに対して、本実施形態の蓄電デバイス10であれば、50℃の環境温度下であっても、冷却しなくとも自己放電や劣化が抑制される。
よって、本実施形態の蓄電デバイス10によれば、上記のような高い保管温度を実現することが可能である。高い保管温度を実現できるということは、例えば、夏季などの外気温が高い環境下においても保管温度の調整量を低減できることを意味する。よって、蓄電デバイス10の保管温度の調整のためのエネルギー消費量の増大を抑制でき、効率的である。
なお、本実施形態の蓄電デバイス10は、保管温度が65℃を超えると、電解液12が劣化し始める可能性がある。そのため、本実施形態では、保管温度を65℃以下としている。電解液12の劣化をより確実に抑制するためには、保管温度は、50℃以下であることが好ましい。電解液12の劣化をより確実に抑制し、かつ、温度制御部103による温度調整のためのエネルギー消費量を抑制するという観点からは、保管温度は、45℃以下であることがより好ましい。
蓄電デバイス10は、使用されるときに保管部101から搬出される(工程4)。上記のように、保管システム100では、保管部101内が所定の保管温度で維持されているため、蓄電デバイス10は自己放電や劣化の発生が抑制されており、長期の保管期間を経た後であっても、良好な充電状態が保持されているため、迅速、かつ、円滑に使用を開始することができる。
1-5.蓄電デバイスの自己放電に関する実験例:
図5~図12を順に参照して、実施例としての蓄電デバイスE1と比較例の蓄電デバイスC1の自己放電の抑制効果を検証した実験例を説明する。
(1)本実験例の蓄電デバイス:
実施例の蓄電デバイスE1を、下記の表1に示す構成のリチウムイオン電池のコインセルとして作製した。比較例の蓄電デバイスC1を、第1電極である負極の活物質層の構成が異なっている点以外は、実施例の蓄電デバイスE1とほぼ同じ構成となるように作製した。
図5の上段には、本実施形態の実施例として作製した蓄電デバイスE1の活物質層を示す撮影画像I1a,I1bが示されている。実施例E1の撮影画像I1aは、走査電子顕微鏡によって電極の金属基板の厚み方向に直交する方向に活物質層を見たときの画像である。実施例の撮影画像I1bは、走査電子顕微鏡によって電極の金属基板の厚み方向に活物質層を見たときの画像である。
図5の下段には、比較例として作製した蓄電デバイスC1の活物質層を示す撮影画像I1cが示されている。比較例の撮影画像I1cは、走査電子顕微鏡によって電極の金属基板の厚み方向に活物質層を見たときの画像である。
表1および撮影画像I1a,I1bが示すように、実施例の蓄電デバイスE1の活物質層は、カーボンナノウォールによって構成した。このカーボンナノウォールは、以下の表2に示す条件のCVD法によって、集電体を構成する金属基板であるCu箔の平滑な面に形成したものである。このCVD法では、水素をマイクロ波電源でプラズマ処理した。表2の「圧力」は、処理室内の圧力である。また、表2の「加熱温度」は、熱電対で計測した金属基板の温度である。本明細書における流量の単位「sccm」は、1mL/分に換算してもよい。
実施例の蓄電デバイスE1の負極の活物質層を構成するカーボンナノウォールは、約1.0μmのほぼ一様な高さで形成された。実施例の蓄電デバイスE1では、充電の際に、上記の化学式(2)で表された電極反応により、第1電極の表層にLi原子の層が形成されることが確認された。
撮影画像I1cを参照する。比較例の蓄電デバイスC1では、負極の活物質層は、Cu箔の平滑な表面上にグラファイト粒子を敷き詰めたグラファイト層として形成した。なお、比較例の蓄電デバイスC1の負極の構成の場合には、負極のグラファイトの結晶構造の隙間にLiイオンが挿入されるインターカーネーションによって充電される。
(2)保管温度ごとの自己放電率:
図6を参照して、本実験例での蓄電デバイスの自己放電の抑制性能を示す指標である自己放電率SDの算出方法を説明する。図6には、充電後の蓄電デバイスを、開路状態にして、一定の保管温度で維持したときの開放電圧の時間変化の一例が示されている。
自己放電率SDは、その値が低いほど、蓄電デバイスの自己放電が抑制されていることを示す。自己放電率SDを算出するには、まず、満充電の状態にした充電後の蓄電デバイスを、電気的な接続が遮断された開路状態にして、一定の湿度で、一定の保管温度に保たれた環境下で、所定の保管時間にわたって配置する。続いて、蓄電デバイスの初期の開放電圧V0と保管時間経過後の二次電池の開放電圧V1とを求め、下記の式(A)を用いて二次電池の自己放電率SD[%]を算出する。なお、図6のΔVは、自己放電による電圧低下量を意味し、V0からV1を減じた値である。
[数1]
SD[%]=(V0-V1)/V0×100 …(A)
本実験例では、満充電の状態にした実施例の蓄電デバイスE1と比較例の蓄電デバイスC1を、環境試験機(Espec社製のSH-242)の気密な収容庫内に、開路状態で、3日間(約72時間)配置し、収容庫内の温度を、40℃、25℃、-10℃のいずれかの温度で一定に保ったときの開放電圧の時間変化を計測した。なお、いずれの場合も、収容庫内の湿度は50%RHに保持した。
図7,図8,図9にはそれぞれ、40℃、25℃、-10℃の各保管温度における収容庫内での蓄電デバイスE1,C1の開放電圧の時間変化を示すグラフが図示されている。図7,図8,図9における実線のグラフG1,G2,G3は、実施例の蓄電デバイスE1の開放電圧を示しており、一転鎖線のグラフG1a,G2a,G3aは、比較例の蓄電デバイスC1の開放電圧を示している。下記の表3には、保管温度40℃、25℃、-10℃ごとに得られたΔV、および、自己放電率SDをまとめある。
図7に示すように、保管温度40℃では、比較例の蓄電デバイスC1の開放電圧は、収容庫に収容された後、数時間で急激に低下した。この結果、比較例の蓄電デバイスC1での電圧低下量ΔVは約0.19Vであり、自己放電率SDは約45%であった。これに対して、実施例の蓄電デバイスE1の開放電圧は、保管時間の間、ほぼ一定に保持されていた。この結果、実施例の蓄電デバイスE1での電圧低下量ΔVは約0.022Vであり、自己放電率SDは約0.14%であった。
図8に示すように、保管温度25℃では、比較例の蓄電デバイスC1も、実施例の蓄電デバイスE1も、保管時間の間、開放電圧の低下はほぼ同様に抑制された。ただし、実施例の蓄電デバイスE1の方が、比較例の蓄電デバイスC1よりも開放電圧が常に高く、その差は著しく大きかった。比較例の蓄電デバイスC1での電圧低下量ΔVは約0.02Vであり、自己放電率SDは約0.5%であった。実施例の蓄電デバイスE1での電圧低下量ΔVは約0.022Vであり、自己放電率SDは約0.5%であった。
図9に示すように、保管温度-10℃では、比較例の蓄電デバイスC1の開放電圧よりも実施例の蓄電デバイスE1の方が電圧低下量ΔVは小さかった。また、比較例の蓄電デバイスC1では、20時間が経過する前後で開放電圧が急激に低下したのに対して、実施例の蓄電デバイスE1では、開放電圧はほぼ一定の割合でなだらかに低下した。比較例の蓄電デバイスC1での電圧低下量ΔVは約0.13Vであり、自己放電率SDは約3.1%であった。実施例の蓄電デバイスE1での電圧低下量ΔVは約0.009Vであり、自己放電率SDは約2.2%であった。
図10には、実施例の蓄電デバイスE1と比較例の蓄電デバイスC1で得られた自己放電率SDを、保管温度40℃、25℃、-10℃ごとに比較して示すヒストグラムが図示されている。
比較例の蓄電デバイスC1では、保管温度25℃において実施例の蓄電デバイスE1と自己放電率SDはほぼ等しかった。しかしながら、保管温度-10℃では、比較例の蓄電デバイスC1の自己放電率SDは、実施例の蓄電デバイスE1よりも高い値を示した。また、保管温度40℃では、比較例の蓄電デバイスC1の自己放電率SDは、実施例の蓄電デバイスE1よりもはるかに大きい値を示し、開放電圧が半分近くまで低下した。
これに対して、実施例の蓄電デバイスE1では、-10℃~40℃の範囲にわたって、自己放電率SDは、2.5%未満の値に抑えられていた。また、実施例の蓄電デバイスE1では、保管温度が高いほど、自己放電率SDが低下した。実施例の蓄電デバイスE1では、保管温度が25℃以上において自己放電率SDは、0.5%以下の値となり、保管温度が40℃において自己放電率SDは0.1%代にまで低下した。
このように、実施例の蓄電デバイスE1と比較例の蓄電デバイスC1とでは、保管温度40℃において、自己放電の差が著しく大きくなった。以下では、保管温度40℃での実施例の蓄電デバイスE1と比較例の蓄電デバイスC1の違いを交流インピーダンス法によって検証した。
(3)交流インピーダンス法による解析:
図11には、交流インピーダンス法によって実施例の蓄電デバイスE1において得られたコールコールプロットが図示されている。図12には、交流インピーダンス法によって比較例の蓄電デバイスC1において得られたコールコールプロットが図示されている。
図11、および、図12では、満充電にした蓄電デバイスE1,C1を開路状態にして、40℃の保管温度での保管を開始にしたときの初期状態のときのグラフを破線で示し、保管を開始して3日が経過したときのグラフを実線で示してある。なお、図11,および,図12で示されているRs,Rp,Rn,RTotal,WWarburgは、3日が経過したときの実線グラフに対して表示したものである。
下記の表4には、図11、および、図12で示したコールコールプロットにおいて得られる抵抗Rs,Rp,Rn、RTotalおよび、ワールブルグインピーダンスWWarburgの値をまとめてある。
図11、および、表4に示すように、実施例の蓄電デバイスE1では、保管期間である3日の間に、抵抗Rsは変化せず、正極での電極抵抗Rpはほとんど変化しなかった。実施例の蓄電デバイスE1では、ワールブルグインピーダンスWWarburgについては、3日の間に低下し、全抵抗RTotalも低下した。
一方、図12、および、表4に示すように、比較例の蓄電デバイスC1では、3日の間に、抵抗Rsは微増し、正極での電極抵抗Rpは著しく増加し、抵抗Rnも増加し、ワールブルグインピーダンスWWarburgについても著しく増加した。結果として、比較例の蓄電デバイスC1では、3日の間に、全抵抗RTotalが著しく増加した。
このように、実施例の蓄電デバイスE1では、ワールブルグインピーダンスWWarburgと全抵抗RTotalとが3日の間に減少した。このことから、実施例の蓄電デバイスE1において、保管温度40℃で自己放電率SDの値が低く抑えられた理由は、充電の化学反応によって負極の表面に析出したLi原子が金属層を形成して安定した状態で、負極の表面に存在し続けたためであると推察される。
一方、比較例の蓄電デバイスC1では、ワールブルグインピーダンスWWarburgと全抵抗RTotalとが3日の間に増大した。このことから、比較例の蓄電デバイスC1において、保管温度40℃での自己放電率SDが著しく大きくなった理由は、インターカーレーションによって負極のグラファイトの結晶構造内に進入していたLiイオンの放出が高温環境下では促進されたためであると推察される。
(4)実験例のまとめ:
以上のように、比較例の蓄電デバイスC1では、25℃において最も自己放電率SDが低く、40℃において自己放電率SDが急激に増大しており、比較例の蓄電デバイスC1にとっては、25℃以下の保管温度が好適である傾向が見られた。これに対して、実施例の蓄電デバイスE1では、-10℃~40℃の温度範囲の間において、保管温度が高いほど、自己放電率SDが低下した。この結果から、実施例の蓄電デバイスE1にとって、保管温度は高いほど自己放電を抑制でき、保管温度を、25℃以上とすればより効果的に自己放電を抑制できることがわかる。
1-6.第1実施形態のまとめ:
以上のように、第1実施形態の蓄電デバイス10の保管システム100、および、保管方法によれば、蓄電デバイス10に適した、25℃以上65℃以下の保管温度で保管されるため、蓄電デバイス10の自己放電を効果的に抑制できる。よって、蓄電デバイス10における高効率の電力利用を実現できる。また、蓄電デバイス10が高温環境下におかれることによる劣化も抑制することができる。
2.第2実施形態:
図13は、第2実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Aが備える第1電極20Aの断面構造を模式的に例示する概略断面図である。図13には、厚み方向に沿った任意の切断面における第1電極20Aの断面構造が模式的に例示されている。
第2実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Aの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第2実施形態の蓄電デバイス10Aは、第1電極20Aの構成が異なる点以外は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成とほぼ同じである。
蓄電デバイス10Aの第1電極20Aは、金属基板23Aの表面に活物質層25Aが形成された構成を有している。第1電極20Aは、その表面に活物質層25Aを構成する複数の微小な粒状体40が密に配置された微細な凹凸構造を有している。第1電極20Aの各粒状体40は、金属基板23Aの厚み方向に見たときに粒子状の外周形状を有する。
本明細書において、「粒状体」とは、ある方向から見たときに粒子状の形状を有すると認識できる部位を意味しており、略球形状に隆起している凸部を含む概念である。また、本明細書において、「粒子」とは、様々な形状の微小な塊を意味する概念であり、必ずしも略球形状を有していなくてもよく、表面にランダムな凹凸構造を有する形状を含む概念である。
粒状体40の表層には全体にわたってカーボンナノ構造体CNaが形成されている。カーボンナノ構造体CNaは、図3で説明したグラフェンGFによって構成されており、粒状体40の外方に向かって細長く延びている。カーボンナノ構造体CNaは、金属基板23Aの表面に密に形成された突起部である粒子構造体41の表面を覆うアモルファスカーボン層ACから延び出ている。金属基板23Aの粒子構造体41は、微小な金属粒子MPが房状に集まった構成を有している。
第1電極20Aの粒状体40の形成方法は、特開2024-16510号公報に詳細に説明されている。第1電極20Aの粒状体40は、金属基板23Aの表面に粒子構造体41を形成した後、粒子構造体41の表面に、カーボンナノ構造体CNaを生成することにより形成される。
金属基板23Aの粒子構造体41は、平滑な表面を有する金属基板23Aの基材に対して表面処理を施すことによって形成される。表面処理は、例えば、電解析出である。粒子構造体41は、金属基板23Aの基材と電極板とを電解液に浸漬させ、当該電極板を陽極とし、金属基板23Aの基材を陰極として電圧が印加することにより、電極板に含まれる金属のイオンを、金属基板23Aの基材の表面に析出させることにより形成される。
カーボンナノ構造体CNaは、粒子構造体41が形成された金属基板23Aの表面に対するCVD法によるプラズマ処理によって形成される。このプラズマ処理では、原料ガスとして、カーボンを含む炭素系ガスと、水素(H2)や、アルゴン(Ar)等の反応寄与ガスとが用いられる。
プラズマ処理では、反応室に、金属基板23Aを配置し、ヒーターを用いて700℃以下の温度で金属基板23Aを加熱しながら、原料ガスを供給して、金属基板23Aと反応室の電極との間に高周波電圧を印加する。これにより、反応室内に高密度の容量結合型プラズマが発生し、プラズマ中に発生するラジカルにより、金属基板23Aの表面にカーボンナノ構造体CNaが形成される。
第2実施形態の蓄電デバイス10Aは、上記の構成の第1電極20Aを有することにより、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって、充放電が可能である。蓄電デバイス10Aの充電の際には、充放電に関与するLiが析出して、第1電極20の粒状体40上にLiの層を形成する。
第1電極20Aにおける粒状体40の平均粒子径は、0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上3.0μm以下であることがさらに好ましい。粒状体40の平均粒子径を前記の好適範囲とすることにより、蓄電デバイス10Aの充電の際に、充放電に関与する金属原子の第1電極20A表面への析出が円滑化され、デンドライトの発生を抑制できる。
図14には、第2実施形態の第1電極20Aの実施例を示す撮影画像I2a,I2b,I2c,I2dが図示されている。撮影画像I2a,I2cの撮影方向は、金属基板23Aの厚み方向に直交する方向であり、撮影画像I2b,I2dの撮影方向は、金属基板23Aの厚み方向である。
撮影画像I2a,I2bには、カーボンナノ構造体CNaが形成される前の金属基板23Aの表面が写っている。本実施例において、撮影画像I2a,I2bの金属基板23AはCu箔である。金属基板23Aの表面には、金属粒子MPが房状に集まった粒子構造体41が密に配列された凹凸構造が形成されていた。
撮影画像I2c,I2dは、粒子構造体41の表面にカーボンナノ構造体CNaが形成された粒状体40が示されている。下記の表5に、撮影画像I2c,I2dのカーボンナノ構造体CNaを形成したプラズマ処理での処理条件を示す。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I2c,I2dに示された活物質層25Aを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。そのリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20Aの粒状体40の上にLiの層が形成された。
第2実施形態の蓄電デバイス10Aは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第2実施形態の蓄電デバイス10Aであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第2実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
3.第3実施形態:
図15は、第3実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Bが備える第1電極20Bの断面構造を模式的に例示する概略断面図である。図15には、厚み方向に沿った任意の切断面における第1電極20Bの断面構造が模式的に例示されている。
第3実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Bの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第3実施形態の蓄電デバイス10Bは、第1電極20Bの活物質層25Bの構成が異なる点以外は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成とほぼ同じである。
第3実施形態の第1電極20Bが備える活物質層25Bは、金属基板23Bの表面を覆うアモルファスカーボン層ACと、アモルファスカーボン層ACの上に形成されたカーボンナノ構造体CNbと、を有する。アモルファスカーボン層ACは、カーボンで構成された薄膜層であり、カーボンナノ構造体CNbの成長の起点である。アモルファスカーボン層ACが良好に形成されていることにより、カーボンナノ構造体CNbの形成状態が改善される。
第3実施形態のカーボンナノ構造体CNbは、全体がカーボンで構成された微小な構造体であり、アモルファスカーボン層ACの表面全体にわたって分布するように形成されている。カーボンナノ構造体CNbは、グラファイト様の物質であるため、活性炭等の炭素材料に比べて高い電気伝導率を有する。
カーボンナノ構造体CNbは、金属基板23Bの厚み方向に細長く延びている基部43と、基部43から延び出ている複数の延出部44と、を有する。複数の延出部44の多くは、基部43の上端側において枝状に分岐するように形成されている。
基部43は、後に撮影画像で示すように、金属基板23Bの表面上にランダムな網目状に配置される。基部43は、図3で説明した複数のグラフェンGFがその厚み方向に積層された多層構造を有する。基部43におけるグラフェンGFの積層数は様々である。基部43は、針状や、板片状、ひだ状に形成される。基部43は、カーボンナノウォールと同種の構造体であると解釈することもできる。
各延出部44は、カーボンによって構成されており、針状や、柱状、板片状、ひだ状に形成される。各延出部44の多くは、基部43の上端部の表面上にランダムに分布する。各延出部44が基部43に形成されることにより、活物質層25の表層近くにおいてカーボンナノ構造体CNb同士の間の隙間が低減されている。
カーボンナノ構造体CNbの高さは、基部43の金属基板23B側の下端から延出部44の上端まで高さに相当する。カーボンナノ構造体CNbの高さは、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。また、カーボンナノ構造体CNbの高さは、1.0μm以上であることがさらに好ましく、1.2μm以上であることがより一層、好ましい。
ただし、より高いカーボンナノ構造体CNbを形成しようとすると、それだけ、カーボンナノ構造体CNbを形成するためにかかる時間が長くなる。そのため、電極20の生産性を高める観点からは、カーボンナノ構造体CNbの平均高さは10.0μm以下とすることが好ましい。カーボンナノ構造体CNbの平均高さは8.0μm以下とすることがより好ましく、5.0μm以下とすることがさらに好ましい。カーボンナノ構造体CNbの平均高さは、3.0μm以下とすることが、より一層、好ましい。
第3実施形態の活物質層25Bを構成するカーボンナノ構造体CNbの製造方法の詳細については、特願2022-212870の明細書に開示されている。第3実施形態のカーボンナノ構造体CNbは、2種類のCVD法によって形成される。この2種類のCVD法は、ラジカル注入型プラズマ(Radical-Injection Plasma-Enhanced;RI-PE)CVD法と、容量結合型プラズマ(Capacitivery Coupled Plasma;CPP)CVD法である。
カーボンナノ構造体CNbを作製するには、まず、RI-PECVD法による第1のプラズマ処理を実行する。この第1のプラズマ処理では、300~500Wの電力で発生させた2.00~3.00GHzの周波数を有するマイクロ波を、ラジカル源となるガスが供給されているプラズマ生成室に発生させ、ラジカルを含む表面波プラズマを生成して反応室に導入する。さらに、反応室には、原料ガスとして、例えば、炭素系ガスを、80~120sccmの流量で供給するとともに、反応寄与ガスを、40~60sccmの流量で供給する。反応室の圧力は、例えば、0.5~1.5Pa程度に制御する。
反応室に原料ガスを供給している間に、反応室内に、例えば、300~500Wの電力で、反応室の隔壁と、金属基板23Bとの間に80~120MHzの周波数の高周波電圧を印加して、容量結合型プラズマCCPが発生させる。これにより、金属基板23Bの表面にアモルファスカーボン層ACが形成され、アモルファスカーボン層AC上に基部43が成長する。第1のプラズマ処理の処理時間は、例えば、5~15分程である。
続いて、CPP-CVD法による第2のプラズマ処理を実行する。第2のプラズマ処理では、反応室内において、ヒーターで、基部43が形成されている金属基板23Bを、600~800℃の温度で加熱する。そして、反応室に、原料ガスとしての炭素系ガスを、80~120sccmの流量で供給するとともに、反応寄与ガスを、40~60sccmの流量で供給する。反応室内の圧力は、例えば、5~15Paに制御する。
この状態で、金属基板23Bと、金属基板23Bの上方に設置された上部電極との間に、例えば、2000~3000Wの電力で、12~15MHzの周波数の高周波電圧を印加する。これによって、金属基板23Bに形成された各基部43の表面に複数の延出部44が形成される。
第3実施形態の蓄電デバイス10Bは、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって、充放電が可能である。蓄電デバイス10Aの充電の際には、充放電に関与するLiが第1電極20の活物質層25Bを構成するカーボンナノ構造体CNbの上に析出して、Liの層を形成する。Liは、カーボンナノ構造体CNbの基部43同士の間の隙間と延出部44同士の隙間に析出するとともに、カーボンナノ構造体CNbの上方に析出して層を形成する。
図16には、第3実施形態の活物質層25Bの実施例を示す撮影画像I3a,I3b,I3c,I3dが図示されている。撮影画像I3a,I3cの撮影方向は、厚み方向であり、撮影画像I3b,I3dの撮影方向は、金属基板23Bの厚み方向に直交する方向である。本実施例での金属基板23BはCu箔である。
図16の左側に示す撮影画像I3a,I3bは、カーボンナノ構造体CNbの基部43が形成された第1状態を示している。図16の右側に示す撮影画像I3c,I3dは、基部43の表面に延出が形成された第2状態を示している。以下の表6に、基部43を形成するための第1のプラズマ処理(RI-PECVD)の処理条件と、延出部44を形成するための第2のプラズマ処理(CCP-CVD)の処理条件とを示す。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I3c,I3dに示された活物質層25Bを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。このリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20BにLiが析出した。Liは、カーボンナノ構造体CNbの基部43同士の間の隙間と延出部44同士の隙間に析出するとともに、カーボンナノ構造体CNbの上方に析出して層を形成した。
第3実施形態の蓄電デバイス10Bは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第3実施形態の蓄電デバイス10Bであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第3実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
4.第4実施形態:
図17は、第4実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Cが備える第1電極20Cの断面構造を模式的に例示する概略断面図である。図17には、厚み方向に沿った任意の切断面における第1電極20Cの断面構造が模式的に例示されている。
第4実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Cの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第4実施形態の蓄電デバイス10Cは、第1電極20Cの構成が異なる点以外は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成とほぼ同じである。
蓄電デバイス10Cの第1電極20Cは、板面に複数の凸部46を有する金属基板23Cを有する。各凸部46は、微細な金属粒子MPによって構成されている。凸部46には、1つの金属粒子MPによって構成されたものと、複数の金属粒子MPが密集することによって構成されたものとが含まれる。金属粒子MPおよび凸部46は、金属基板23Cと同種の金属によって構成されている。金属基板23Cの表面上には、凸部46が密に集まった領域と凸部46の数が少ない領域とが全体に分布している。
適切な寸法の凸部46を得るためには、金属基板23Cの厚み方向に見たときの金属粒子MPの粒子径は、5nm以上55nm以下であることが好ましい。また、金属粒子MPの平均粒子径は、8nm以上30nm以下であることが好ましい。本明細書において、「粒子径」は、例えば、走査型電子顕微鏡等を用いて金属基板23Cに正対して撮影した複数の画像において測定される、あらゆる方向の粒子の直径のうちの最大値を意味する。
適切な凸部46の分布密度を実現するためには、金属基板23Cにおける金属粒子MPの分布密度は、1個/μm2以上1000個/μm2以下であることが好ましい。ここでの「金属粒子MPの分布密度」は、金属基板23Cの厚み方向に見たときに観察できる、金属基板23Cの単位面積あたりに分布する金属粒子MPの個数に相当する。
また、金属基板23Cの厚み方向に直交する方向に見たときの凸部46の高さは、5nm以上300nm以下であることが好ましい。凸部46の高さは、例えば、走査型電子顕微鏡等を用いて、金属基板23Cの任意の領域の厚み方向に直交する方向から撮影した画像上で、凸部46の下端にある平坦面から凸部46の上端までの距離として計測される。
金属基板23Cの表面には、図3で説明したグラフェンGFを主成分として構成され、金属基板23Cの表面上で線状に延びている複数のカーボンナノ構造体CNcが配置されている。ここで、「主成分」とは、例えば、全体の中で占める含有量割合が、50質量%以上である成分であるとしてもよい。また、「線状」とは、繊維状や、糸状、紐状と言い換えてもよく、その径よりも少なくとも7~8倍以上の長さを有していることが好ましい。
カーボンナノ構造体CNcは、グラフェンシートが筒状に丸められたカーボンナノチューブ状の構成を含むことが好ましい。カーボンナノ構造体CNcは、グラファイト様の物質であるため、活性炭等の炭素材料に比べて高い電気伝導率を有する。
カーボンナノ構造体CNcの直径は、例えば、1nm以上15nm以下としてよい。また、カーボンナノ構造体CNcをまっすぐに伸ばしたときの長さは、例えば、100nm以上2000nm以下としてよい。
カーボンナノ構造体CNcが第1電極20Cの活物質層25Cを構成する。カーボンナノ構造体CNcは、後に参照する図18の実施例の撮影画像I4において示されるように、金属基板23Cの厚み方向に見たときに金属基板23Cの表面上において線状に延びており、金属基板23Cの表面に全体的に分布している。カーボンナノ構造体CNcは、金属基板23Cの表面にランダムに分布している。カーボンナノ構造体CNcは、凸部46同士の間を縫うように延びていると解釈することもできる。カーボンナノ構造体CNcには、凸部46より上方の領域を通るように延びているものが含まれていてもよい。
凸部46、および、カーボンナノ構造体CNcの製造方法については、特願2023-069934の明細書に開示されている。凸部46は、金属基板23Cの平滑な表面に対するRI-PECVD法のプラズマ処理によって形成できる。カーボンナノ構造体CNcは、凸部46が形成された金属基板23Cに対するCPP-CVD法のプラズマ処理によって生成できる。
凸部46を形成するためのRI-PECVD法のプラズマ処理を説明する。このプラズマ処理では、まず、プラズマ生成室に、300~500Wの電力で、2.00~3.00GHzの周波数のマイクロ波を導入するとともに、水素等のラジカル源となるガスを供給することにより、ラジカルを含む表面波プラズマを生成する。
続いて、金属基板23Cの基材が配置されている反応室に、プラズマ生成室で生成した表面波プラズマを導入するとともに、原料ガスを供給し、電源部によって、例えば、300~500Wの電力で、80~120MHzの周波数の高周波電圧を印加する。これによって、反応室内に容量結合型プラズマを発生させる。このプラズマ処理の間、反応室内の圧力は、例えば、1.0~3.0Pa程度に制御される。
ラジカルを含む容量結合型プラズマが金属基板23Cの基材に接すると、金属基板23Cの基材を構成する金属の粒子が飛散し、再び、金属基板23Cに付着する。これによって、上述した金属粒子MPによって構成された凸部46が形成される。このプラズマ処理の処理時間は、例えば、5~15分程度である。
カーボンナノ構造体CNcを生成するためのCCP-CVD法のプラズマ処理を説明する。まず、凸部46が形成された金属基板23Cを、反応室に配置し、ヒーターによって、例えば、600~800℃の温度で加熱する。そして、反応室内に、メタン(CH4)や、六フッ化エタン(C2F6)等の炭素系ガスと、H2やAr等の反応寄与ガスとを含む原料ガスを供給する。炭素系ガスの流量は、例えば、80~120sccmの流量でよく、反応寄与ガスの流量は、例えば、40~60sccmでよい。反応室内の圧力は、30Pa以上50Pa以下に制御する。
この状態で、金属基板23Cと、金属基板23Cの上方に設置された上部電極との間に、例えば、300~700Wの電力で、12~15MHzの周波数の高周波電圧を印加する。これによって、金属基板23Cに形成された凸部46を起点として、カーボンナノ構造体CNcが生成される。このプラズマ処理の処理時間は、例えば、5~15分程度である。
第4実施形態の蓄電デバイス10Cは、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって、充放電が可能である。蓄電デバイス10Cの充電の際には、充放電に関与するLiが第1電極20Cの表面に析出して、Liの層を形成する。これは、カーボンナノ構造体CNcが活物質として機能し、第1電極20Cの表層でのリチウムの析出が促進されるためである。また、金属基板23Cの凸部46が起点となって、第1電極20Cの表面でのLiの析出が促進されるためでもある。これは、本願発明の発明者が、核生成理論に基づいて実験結果から導き出した知見に基づく。
図18には、第4実施形態の第1電極20Cの実施例を示す撮影画像I4が図示されている。撮影画像I4の撮影方向は、金属基板23Cの厚み方向である。撮影画像I4の金属基板23CはCu箔である。撮影画像I4に示すように、金属基板23Cの表面には、金属粒子MPによって構成された凸部46が形成され、線状のカーボンナノ構造体CNcが金属基板23Cの表面に全体的に分布している。撮影画像I4の金属基板23Cの凸部46、および、カーボンナノ構造体CNcを形成するためのプラズマ処理の処理条件を下記の表7に示す。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I4に示された第1電極20Cを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。このリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20Cの表層に、Liの層が形成された。
第4実施形態の蓄電デバイス10Cは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。第4実施形態の蓄電デバイス10Cであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第4実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
5.第5実施形態:
図19は、第5実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Dが備える第1電極20Dの断面構造を模式的に例示する概略断面図である。図19には、厚み方向に沿った任意の切断面における第1電極20Dの断面構造が模式的に例示されている。
第5実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Dの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第5実施形態の蓄電デバイス10Dは、構成が異なる第1電極20Dを備えている点以外は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成とほぼ同じである。
第1電極20Dは、金属基板23Dの表面に活物質層25Dが形成された構成を有する。金属基板23Dの表面には、ミクロン単位の微細な凹凸構造CSが形成されている。活物質層25Dは、その凹凸構造CSの表面を緻密に覆うように薄膜状に形成されている。活物質層25Dの厚みの平均は、例えば、0.1μm~15.0μmとしてよい。
活物質層25Dは、金属基板23Dの凹凸構造CSよりも凹凸の寸法が微細な表層凹凸構造CSsを有している。蓄電デバイス10Dの電池性能を高めるためには、活物質層25Dの表面には、金属基板23Dの厚み方向に見たときに、幅が0.1μm以上10.0μm以下である粒状の複数の表面凸部48が密に分布していていることが好ましい。「表面凸部48の幅」とは、1つの表面凸部48について金属基板23Dの厚み方向に直交するあらゆる方向において計測した幅のうちの最大値を意味する。なお、金属基板23Dの凹凸構造CSや活物質層25Dには、その形成過程において、内部に微少な空洞VDが形成される場合がある。
活物質層25Dは、ナノグラフェンとアモルファスカーボンとで構成されたカーボンナノ構造体CNdを主成分とする。活物質層25Dは、ナノグラフェンやアモルファスカーボンの粒子が堆積された構成を有している。ナノグラフェンやアモルファスカーボンの粒子には、球状の形状を有するものや、板片状の形状を有するものが含まれる。上述した活物質層25Dの表面凸部48は、単体の粒子で構成されたものや、複数の粒子がランダムに集合して構成されたものが含まれる。なお、活物質層25Dの内部には、製造過程で混入する不純物として水酸基が残留する場合がある。
第1電極20Dの製造方法については、特願2023-128891の明細書に開示されている。第1電極20Dにおける金属基板23Dの凹凸構造CSと活物質層25Dは、プラズマ処理によって形成される。第1電極20Dは、金属基板23Dを、反応室に貯留されたアルコール類を含有する溶液に浸漬させ、反応室に反応ガスを供給しながら溶液の液面上方に設けられたプラズマ電極によってプラズマを発生させて溶液中の金属基板23Dに照射することにより形成される。
溶液に含まれるアルコール類は、例えば、エタノール(C2H6O)等の第一級アルコールでよい。反応ガスとしては、例えば、ArやH2を用いることができる。プラズマ処理では、反応ガスは、反応室に、例えば、1~10slm程度の流量で供給される。単位「slm」は、1気圧(atm)、0℃における1分間あたりの流量を示す。反応室内の気圧は、例えば、0.5×105~1.5×105Pa程度に制御される。
プラズマ電極は、例えば、グラファイト焼結体等のカーボン基材によって構成される。プラズマ電極の先端と溶液の液面との距離は、例えば、1~10mm程度よしてよい。プラズマを発生させるための高周波電圧は、例えば、5~15kVとしてよく、周波数は、50~80Hzとしてよい。
溶液中の金属基板23Dに対してプラズマの照射が開始されると、溶液中のアルコールや炭化水素が分解されて、水素原子やラジカルが溶液中に生じる。その水素原子やラジカルによって、金属基板23Dの表面が浸食され、微細な凹凸構造CSが形成されていく。プラズマが照射されている間、水素原子やラジカルによる金属基板23Dの表面の浸食は継続され、凹凸構造CSの凹部や凸部は大きくなっていく。この間に、金属基板23Dの内部に水素原子が入り込むと、凹凸構造CSの内部に微少な空洞VDが形成される。
凹凸構造CSの形成中には、プラズマの照射によるアルコールの分解によって溶液中に生じた炭素原子が、ナノグラフェンやアモルファスカーボンの粒子として析出し、金属基板23Dの凹凸構造CSの表面に付着し始める。金属基板23Dの表面の凹凸構造CSの成長と並行して、凹凸構造CSの表面を覆うように、ナノグラフェンやアモルファスカーボンの粒子が堆積していくことにより、凹凸構造CSの表面を覆う活物質層25Dが形成される。この成長過程において活物質層25Dの内部にも微少な空洞VDが形成される場合もある。
第5実施形態の蓄電デバイス10Dは、上記の第1電極20Dを有することにより、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって充放電が可能である。蓄電デバイス10Dの充電の際には、充放電に関与するLiが第1電極20D上に析出して、Liの層を形成する。
図20(a)に、実施例としての第1電極20Dの活物質層25Dを金属基板23Dの厚み方向に撮影した撮影画像I5を示す。撮影画像I5の金属基板23DはCu箔である。第1電極20Dを形成するためのプラズマ処理の処理条件を以下の表8に示す。撮影画像I5の活物質層25Dでは、幅が0.1μm以上10.0μm以下である粒状の複数の表面凸部48が密に分布していた。
図20(b)に、撮影画像I5の活物質層25Dのラマン分光スペクトルを示す。このグラフでは、Dバンド(1340cm-1)およびGバンド(1580cm-1)のピークが観測された。この結果は、活物質層25Dがナノグラフェンやアモルファスカーボンで構成されたカーボンナノ構造体を主成分として形成されていることを示している。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I5に示された第1電極20Dを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。このリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20Dの表層に、Liの層が形成された。
第5実施形態の蓄電デバイス10Dは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第5実施形態の蓄電デバイス10Dであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第5実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
6.第6実施形態:
図21は、第6実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Eを模式的に例示する概略図である。第2実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Eの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第6実施形態の蓄電デバイス10Eは、第1電極20Eの構成が異なる点以外は、第1実施形態の蓄電デバイス10の構成とほぼ同じである。
第6実施形態の蓄電デバイス10Eの第1電極20Eは、集電体として機能する金属基板23Eによって構成されている。金属基板23Eには活物質層は設けられていない。図21の吹き出し内に図示してあるように、金属基板23Eは、板面に、微細な金属粒子MPによって構成された複数の凸部46aを有する。蓄電デバイス10Eの充電時には、凸部46aの表面にLiが析出する。
充電時にLiを円滑に析出させるためには、凸部46aを金属基板23Eの板面に射影した射影領域の面積は、10nm2以上10000nm2以下であることが好ましい。また、金属基板23Eの板面における凸部46aの密度は、1個/μm2以上1000個/μm2以下であることが好ましい。あるいは、凸部46aを金属基板23Eの板面に射影した射影領域の最大長の平均値が、10nm以上200nm以下であり、その射影領域が占める面積は、金属基板23Eの板面の面積の1/10以上であることが好ましい。
金属基板23Eの凸部46aの形成方法も、第4実施形態で説明した凸部46とほぼ同じである。金属基板23Eの凸部46aは、金属基板23Eに対するCVD法によって形成できる。また、金属基板23Eの凸部46aの形成方法は、特開2022-187895号公報に開示されている「突起部PR1」の形成方法と同じである。
第6実施形態の蓄電デバイス10Eは、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって、充放電が可能である。蓄電デバイス10Eの充電の際には、充放電に関与するLiが、金属基板23Eの凸部46aを起点として析出し、第1電極20Eの表面にLiの層が形成される。
図22には、第6実施形態の第1電極20Eの実施例を示す撮影画像I6が図示されている。撮影画像I6の撮影方向は、金属基板23Eの厚み方向である。撮影画像I6の金属基板23EはCu箔であり、金属粒子MPはCuの粒子である。撮影画像I6に示すように、金属基板23Eの表面には、金属粒子MPによって構成された凸部46aが金属基板23Eの表面に全体的に分布している。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I6に示された第1電極20Eを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。そのリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20Eの表面にLiの層が形成された。
第6実施形態の蓄電デバイス10Eは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第6実施形態の蓄電デバイス10Eであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第6実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
7.第7実施形態:
図23(a),(b)はそれぞれ、第7実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Fが備える第1電極20Fの断面構造を模式的に例示する概略断面図である。図23(a),(b)にはそれぞれ、厚み方向に沿った任意の切断面における第1電極20Fの断面構造が模式的に例示されている。
第7実施形態の保管システム、および、保管方法は、保管対象である蓄電デバイス10Fの構成が異なる点以外は、第1実施形態で説明したのと同様である(図1,図4)。第7実施形態の蓄電デバイス10Fは、第1電極20Fの金属基板23Fの表面の構造が異なる点以外は、第6実施形態の蓄電デバイス10Eの構成とほぼ同じである。
本実施形態の金属基板23Fの外表面には微細な凹凸構造が形成されている。その凹凸構造は、幅の最大値Wmaxが0.5μm以上30.0μm以下である複数の凸構造部52を含んでいる。凸構造部52は、金属基板23Fの厚み方向に突起している部位である。後述するように、凸構造部52は、1つまたは複数の金属粒子MPによって構成される。この金属粒子MPは、金属基板23Fを構成する金属と同種の金属によって構成される。金属基板23Fが合金で構成されている場合には、金属粒子MPは、その合金の主体となる金属と同種の金属によって構成される。
凸構造部52の幅の最大値Wmaxは、例えば、走査型電子顕微鏡等によって、金属基板23Fを、その厚み方向に写した撮影画像において測定される、凸構造部52のあらゆる方向の幅のうちの最大値に相当する。「あらゆる方向」とは、金属基板23Fの厚み方向に直交する全ての方向に相当する。
凸構造部52の幅の最大値Wmaxの下限は、0.6μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。凸構造部52の幅の最大値Wmaxの上限は、28.0μm以下であることが好ましく、25.0μm以下であることがより好ましい。なお、金属基板23Fの表面には、上記の幅の最大値Wmaxの数値範囲に含まれる凸構造部52の他に、上記の幅の最大値Wmaxの数値範囲の下限よりも小さい幅を有する凸部が含まれていてもよい。
図23(a)および図23(b)にはそれぞれ、形状が異なる凸構造部52の形態の例が示されている。図23(a)には、凸構造部52の第1の形態例として第1凸状体52aが図示されている。図23(b)には、凸構造部52の第2の形態例としての第2凸状体52bと、第3の形態例としての第3凸状体52cと、が図示されている。以下、凸構造部52の形態例について、順に説明する。
図23(a)を参照する。凸構造部52の第1の形態例である第1凸状体52aは、粒子径Ppが0.5μm以上5.0μm以下の複数の微小な金属粒子MPが密に積み重なるように集まって構成されている。本明細書において、「粒子径」は、例えば、走査型電子顕微鏡等を用いて金属基板23Fに正対して撮影した複数の画像において測定される、あらゆる方向の粒子の直径のうちの最大値を意味する。
第1凸状体52aは、複数の微小な金属粒子MPが房状に集まった構造を有しており、表面に微細な金属粒子MPが密に配置された凹凸構造が形成され、全体として周囲から突起している構造を有している。
第1凸状体52aにおいては、上述した凸構造部52の幅の最大値Wmaxは、金属基板23Fの厚み方向に直交する方向における、第1凸状体52aを構成する複数の金属粒子MPの端部間の距離のうちの最大値に相当する。第1凸状体52aを構成する各金属粒子MPの粒子径Ppの下限は、0.6μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。また、金属粒子MPの粒子径Ppの上限は、4.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。
第1凸状体52aは、1.0μm以上15.0μm以下の高さHpを有する。第1凸状体52aの高さHpは、例えば、走査電子顕微鏡によって金属基板23Fの厚み方向に直交する方向から撮影した撮影画像において測定される、第1凸状体52aの最下端と最上端との間の金属基板23Fの厚み方向における距離に相当する。第1凸状体52aの高さHpの下限は、2.0μm以上であることが好ましく、4.0μm以上であることがより好ましい。第1凸状体52aの高さHpの上限は、12.0μm以下であるとしてもよく、10.0μm以下であるとしてもよい。
図23(b)を参照する。凸構造部52の第2の形態例である第2凸状体52bと第3の形態例である第3凸状体52cとは、単体として認識される金属粒子MPによって構成されている点が共通しているが、寸法や形状が異なっている。第2凸状体52bと第3凸状体52cとでは、特に、その高さが異なっている。凸状体52b,52cの高さは、例えば、走査電子顕微鏡によって金属基板23Fの厚み方向に直交する方向から撮影した撮影画像において測定される、凸状体52b,52cの最下端と最上端との間の金属基板23Fの厚み方向における距離に相当する。
第2凸状体52bの粒子径Pqは0.5μm以上5.0μm以下であり、その高さHqは、ほぼその粒子径Pq以下である。第2凸状体52bでは、その粒子径Pqが凸構造部52の幅の最大値Wmaxに相当する。第2凸状体52bの粒子径Pqの下限は、0.6μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。第2凸状体52bの粒子径Pqの上限は、4.5μm以下としてもよく、4.0μm以下としてもよい。
第3凸状体52cは、縦長な形状を有している。第3凸状体52cは、粒子径Prが0.5μm以上8.0μm以下であり、その粒子径Prよりも大きい高さHrを有している。第3凸状体52cの粒子径Prは、凸構造部52の幅の最大値Wmaxに相当する。第3凸状体52cの粒子径の下限は、0.6μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。第3凸状体52cの粒子径の上限は、7.0μm以下としてよく、5.0μm以下としてもよい。
第3凸状体52cの高さHrは、例えば、1.0μm以上12.0μm以下であるとしてよい。第3凸状体52cの高さHrの下限は、2.0μm以上であるとしてもよく、3.0μm以上であるとしてもよい。また、第3凸状体52cの高さHrの上限は、10.0μm以下であるとしてもよく、8.0μm以下であるとしてもよい。
金属基板23Fの表面の凹凸構造は、例えば、第1凸状体52aが、金属基板23Fの表面に密に配置された構成を有していてもよい。金属基板23Fの表面の凹凸構造は、第1凸状体52aの間に第2凸状体52bや第3凸状体52cが配置された構成を有していてもよい。金属基板23Fの表面の凹凸構造は、第2凸状体52b、または、第3凸状体52cが、金属基板23Fの表面全体にわたって分布している構成であってもよい。金属基板23Fの表面の凹凸構造は、金属基板23Fの表面全体にわたって配置された第2凸状体52bの間に、第1凸状体52aや第3凸状体52cが配置されている構成を有していてもよい。金属基板23Fの表面の凹凸構造は、第1凸状体52aと、第2凸状体52bと、第3凸状体52cとが混在している構成を有していてもよい。金属基板23Fの表面の凹凸構造は、凸構造部52に加えて、第2凸状体52bや第3凸状体52cよりも小さい粒子状の凸部を含んでいる構成であってもよい。
上述した凸状体52a,52b,52cを含む凸構造部52を金属基板23Fの厚み方向に射影した射影領域の面積は、0.01μm2より大きく、10000μm2以下である。また、金属基板23Fを厚み方向に射影したときの凸構造部52の射影領域の密度は、1個/mm2以上、108個/mm2未満である。こうした寸法の凸構造部52は、金属基板23Fの基材に対する電解析出による表面処理によって容易に形成することができる。
凸構造部52の形成方法については、特開2024-016511号公報に開示されている。金属基板23FがCuである場合には、以下の条件で電解析出を行うことにより、金属基板23Fの表面に凸構造部52を含む凹凸構造を形成することができる。電解析出では、電解液として、例えば、0.5~2.0M(体積モル濃度mol/L)程度の濃度を有する硫酸(H2SO4)を用いる。また、粗銅で構成された電極板を陽極とし、金属基板23Fの基材を陰極として、0.5~2.0V程度の電圧を印加し、80.0~200.0mA程度の電流を流す。これにより、電極板のCuが酸化されて電解液中にCuイオンとして溶出し、金属基板23Fの基材の方へ移動して、金属基板23Fの基材の表面で還元されて析出する。基材表面には、析出したCuの粒子によって凸構造部52が次々に形成される。
第7実施形態の蓄電デバイス10Fは、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応によって、充放電が可能である。蓄電デバイス10Fの充電の際には、充放電に関与するLiが、金属基板23Fの凸構造部52を起点として析出し、第1電極20Fの表面にLiの層が形成される。
図24には、第7実施形態の第1電極20Fの凸構造部52の実施例を示す撮影画像I7a,I7b,I7c,I7dが示されている。撮影画像I7a,I7cの撮影方向は、金属基板23Fの厚み方向に直交する方向である。撮影画像I7b,I7dの撮影方向は、金属基板23Fの厚み方向である。
図24の上欄の撮影画像I7a,I7bには、凸構造部52の第1の形態例である第1凸状体52aの実施例が写っている。第1凸状体52aは、複数の微小な金属粒子MPが密に積み重なるように集まって構成されている。図24の下欄の撮影画像I7c,I7dには、凸構造部52の第2の形態例である第2凸状体52bと第3の形態例である第3凸状体52cとが写っている。第2凸状体52bと第3凸状体52cとは単体として認識される金属粒子MPによって構成されている。
撮影画像I7a,I7b,I7c,I7dの第1凸状体52a、第2凸状体52b、および、第3凸状体52cは、金属基板23FとしてのCu箔に対して、電解析出による表面処理を施すことによって作製した。第2凸状体52b、および、第3凸状体52cを形成するための電解析出では、電解液として、1.5MのH2SO4溶液を用い、その電解液中でCu箔に1.0Vの直流電圧を印加して、128maの電流を流した。基材と電極との間の距離は、3.5cmであった。
第1実施形態で説明した表1の条件で、撮影画像I7a,I7b,I7c,I7dに示された第1電極20Fを適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。そのリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極20Fの表層にLiの層が形成された。
第7実施形態の蓄電デバイス10Fは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第7実施形態の蓄電デバイス10Fであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第7実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
8.第8実施形態:
図25、図26、および、図27を参照して、第8実施形態の保管システム、および、保管方法の保管の対象である蓄電デバイス10Gが備える第1電極20Gの金属基板23Gを説明する。
図25は、第8実施形態の蓄電デバイス10Gの構成を示す概略図である。蓄電デバイス10Gは、後述する熱処理が施された、両面が平滑な金属基板23Gを有している点以外は、第6実施形態の蓄電デバイス10Eの構成とほぼ同じである。
本願発明の発明者は、研究を重ねて、雰囲気ガス下で熱処理された金属基板を蓄電デバイスの電極として用いれば、活物質層や凹凸構造を設けなくとも、第1実施形態で説明した化学式(1),(2)の電極反応により、高い充放電性能を実現できることを見出した。その詳細については、特願2024-023186の明細書に開示されている。
金属基板23Gに対する熱処理は、雰囲気ガス下において、所定の温度で、所定の時間の加熱が実行される。本実施形態では、雰囲気ガスとして還元性ガスが用いられる。還元性ガスとしては、例えば、H2を用いることができる。還元性ガスとしては、H2に代えて、例えば、一酸化炭素(CO)や、アンモニア(NH3)、炭化水素ガス等が用いられてもよい。炭化水素ガスとしては、例えば、メタン(CH4)や、エタン(C2H5)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)等が用いられてもよい。
還元性ガスとしては、前述の例示したものに限定されることはない。還元性ガスとしては、熱処理中に金属基板23Gの基材の還元反応を生じさせることができるガスであればよく、少なくとも、H、N、Cを含有した水素化合物や、酸素化合物、あるい、これらの未結合手を有した化合物であるとしてもよい。
雰囲気ガスとしては、前述の還元性ガスの代わりに、不活性ガスが用いられてもよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)や、ヘリウム(He)、キセノン(Xe)、窒素(N2)を用いることができる。
熱処理では、雰囲気ガスは、金属基板23Gが酸化しないように、熱処理の処理温度下において所定の酸素分圧に調整されることが好ましい。この雰囲気ガスの酸素分圧は、例えば、熱力学計算によって求められる、酸化物生成の標準自由エネルギーと温度との関係を示すグラフに基づいて導出される熱平衡酸素分圧以下の値としてよい。例えば、不活性ガスが、Ar、または、N2である場合には、雰囲気ガス中の酸素分圧は、10-6気圧以下であるとしてよい。なお、雰囲気ガス中の酸素分圧が熱平衡酸素分圧より大きくなっている場合には、純化装置を用いて雰囲気ガスを高純度化することにより、酸素分圧を低減させてもよい。
本実施形態の熱処理での処理温度は、例えば、400℃以上1000℃以下でよい。熱処理の処理温度は、500℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましい。熱処理の処理温度は、700℃以上であることがさらに、好ましく、800℃以上であることがより好ましい。
熱処理の処理時間は、金属基板を構成する金属の種類や、熱処理での処理温度等に応じて、適宜、定められればよい。熱処理の処理時間は、金属基板の金属組織が所定の変化をする時間や、金属基板中の酸化金属がほとんど還元される時間として定められてもよい。
熱処理の処理時間は、その酸化金属の還元の時間より長い時間に設定されてもよいが、工程時間の長期化に起因する製造コストの増大を抑制する観点からは、熱処理の処理時間は、例えば、5分以上60分以下がよい。熱処理の処理時間は、7分以上であることが好ましく、30分以下であることが好ましい。熱処理の処理時間は、8分以上であることがより好ましく、20分以下であることがより好ましい。
上記の熱処理を受けた金属基板23Gは、以下に説明するように、二次元X線検出器によるデバイリングの二次元回折像が、点、または、線分が配列された不連続な円弧状の像として得られる。
図26、および、図27は、その熱処理を受けたときの金属基板23GのX線回折(XRD;X-ray Diffraction)の変化を示している。図26には、金属基板23Gの実施例としてのCu箔の熱処理前後のX線回折パターンが図示されている。図26において、Cuの後の括弧内の数字はミラー指数を意味している。図27には、同じCu箔の熱処理前後の二次元X線検出器によるデバイリングの二次元回折像が図示されている。図26、および、図27のX線回折の対象とした金属基板23Gの実施例であるCu箔に対して実行した熱処理の具体的な条件を下記の表9に示す。
図26に示すX線回折パターンでは、表5の条件での熱処理後に、顕著なピークを示す箇所が減少していたことが示されている。例えば、熱処理後には、Cu(220)のピークがほとんど無視できる程度にまで減少していた。これにより、Cu(220)のピークに対するCu(200)のピークの比であるI200/I220が、熱処理前では、1であるのに対して、熱処理後には、2000まで上昇した。また、熱処理後にはCu(200)のピークとCu(400)のピークとが著しく小さくなっていた。このようなX線回折パターンの変化は、熱処理によって、金属基板を構成する金属粒子が粗大化したことを示している。
図27に示す熱処理前の二次元回折像では、図26に示されたピークに対応するデバイリングがくっきりとした連続した実線の像として確認できた。これに対して、熱処理後の二次元回折像では、デバイリングの二次元回折像が、円弧状に配列された、点、または、線分によって構成された、不連続な円弧状の像として得られた。このような二次元回折像の変化は、熱処理によって、金属基板における金属の結晶構造が、優先配向結晶構造へと再結晶化されたことを示している。図27に示すようなかすれた状態の二次元回折像は、金属基板が熱処理を経た履歴を示すものと言える。
第1実施形態で説明した表1の条件で、上記の熱処理後のCu箔の金属基板23Gを第1電極に適用したリチウムイオン電池のコインセルを作製した。そのリチウムイオン電池では、充電の際に、第1実施形態で説明した化学式(2)の電極反応により、第1電極の表層にLiの層が形成された。
第8実施形態の蓄電デバイス10Gは、第1実施形態の蓄電デバイス10と充放電のメカニズムが共通しており、自己放電が抑制される保管に適した温度も、第1実施形態の蓄電デバイス10と共通する。よって、第8実施形態の熱処理後の金属基板23Gを備える蓄電デバイス10Gであっても、保管システムにおいて、第1実施形態の蓄電デバイス10と同様な保管温度で保管することにより、自己放電、および、性能劣化を抑制することができる。その他に、第8実施形態の保管システム、および、保管方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
9.他の実施形態:
本願発明は、上述の実施形態や実施例の構成に限定されることはなく、例えば、以下のような形態で実現することもできる。以下において、他の実施形態として説明する構成はいずれも、上記の実施形態や、上記実施形態中で他の実施形態として説明された構成、実施例と同様に、本願発明を実施するための一形態例として位置づけられる。
上記の各実施形態で説明した蓄電デバイスの保管システムや保管方法は、自動車等の移動体に適用されてもよい。この場合には、長期間停止している移動体の蓄電デバイスに対して、移動体が備えているファンや冷媒による空冷手段によって、蓄電デバイスの温度を上記の保管温度に維持するように制御されてもよい。また、駆動している移動体に電力を供給したり、駆動している移動体から充電されたりしている状態の蓄電デバイスに対して、上記の保管温度による温度制御が適用されてもよい。
上記の各実施形態において、保管温度は、季節や外気温に応じて設定されるものとしてもよい。例えば、夏季など、外気温が30~45℃である場合には、蓄電デバイス10の保管温度を、例えば35~50℃に設定し、冬季など、外気温が20℃以下となる場合には、蓄電デバイス10の保管温度を、例えば、25~35℃に設定してもよい。保管システム100では、制御部105が外気温センサの検出結果に基づいて、保管温度を上記のように自動で設定するものとしてもよい。このようにすれば、保管温度を維持するためのエネルギー消費量を著しく低減することができ、効率的である。
上記の各実施形態において、蓄電デバイスは、リチウムイオン電池以外の二次電池や、他の蓄電デバイスとして構成されていてもよい。蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタとして構成されてもよい。また、蓄電デバイスは、Liイオン以外の金属イオンを充放電に関与させる構成であってもよい。蓄電デバイスは、例えば、ナトリウム(Na)イオンや、カリウム(K)イオン、マグネシウム(Mg)イオン等の金属イオンを充放電に関与させる構成であってもよい。蓄電デバイスにおいて、第1電極の金属基板は、Cu以外の金属によって構成されてもよい。金属基板は、例えば、Cu合金や、Al、Al合金、その他の金属によって構成されてもよい。
上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態、第5実施形態、第6実施形態、および、第7実施形態において、蓄電デバイス10,10A,10B,10C,10D,10E,10Fは、金属基板の板面に、グラフェンを主成分として構成されたカーボンナノ構造体の活物質層を有する第1構成と、金属基板の板面に凹凸構造を有する第2構成の少なくとも一方を有することにより、充電時に、電極の表面上に、金属原子が析出した金属原子の層が形成されるように構成されていると解釈することができる。
10.形態例:
本願発明は、以下のような形態によって実現することが可能である。
[第1形態]第1形態は、蓄電デバイスの保管方法として提供される。第1形態の保管方法は、電解液で満たされた容器と、前記電解液中でイオン化して充放電に関与する金属原子と、前記電解液中に配置された電極と、を備え、充電時に、前記電極の表面上に、前記金属原子が析出した前記金属原子の層が形成されるように構成されている前記蓄電デバイスを充電する工程と、充電後の前記蓄電デバイスを開路状態にして、前記蓄電デバイスの温度を25℃以上65℃以下の所定の保管温度で維持する工程と、を備える。
本願発明の発明者が独自の研究によって得た知見によれば、第1形態の保管方法が適用される蓄電デバイスでは、無負荷の状態で、環境温度が25℃以上の高い温度であるほど、自己放電が効果的に抑制される。また、環境温度が65℃を超える場合には、電解液の劣化等の不具合が発生する可能性がある。第1形態の蓄電デバイスの保管方法によれば、蓄電デバイスが、無負荷の状態で25℃以上65℃以下の環境温度で保管されるため、蓄電デバイスにおける自己放電の発生や蓄電デバイスの劣化を抑制することができる。
[第2形態]上記第1形態の保管方法において、前記保管温度は、35℃以上50℃以下でよい。
第2形態の保管方法によれば、蓄電デバイスの自己放電や劣化をより一層、効果的に抑制することができる。
[第3形態]上記第1形態、または、第2形態に記載の保管方法において、前記金属原子は、リチウム原子であり、前記電極は、集電体として機能する金属基板を有し、前記蓄電デバイスは、前記金属基板の前記板面に、グラフェンを主成分として構成されたカーボンナノ構造体の活物質層を有してよい。
第3形態の保管方法によれば、リチウムイオン電池を含む蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第4形態]上記第3形態に記載の保管方法において、前記カーボンナノ構造体は、前記金属基板の平滑な板面から延び出ているカーボンナノウォールでよい。
第4形態の保管方法によれば、カーボンナノウォールを活物質として利用する蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第5形態]上記第3形態の保管方法において、前記活物質層の表面は、複数の微小な粒状体が密に配置された微細な凹凸構造を有し、前記粒状体の表層には、前記粒状体の外方に向かって細長く延びている前記カーボンナノ構造体が全体にわたって配置されてよい。
第5形態の保管方法によれば、カーボンナノ構造体が表面全体に形成されている粒状体によって微細な凹凸構造が形成されている活物質層を有する蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第6形態]上記第3形態の保管方法において、前記カーボンナノ構造体は、前記金属基板の厚み方向に細長く延びている前記グラフェンが積層された基部と、カーボンによって構成され、前記基部から延び出ている複数の延出部と、を有してよい。
第6形態の保管方法によれば、基部と延出部とを有するカーボンナノ構造体を含む活物質層が適用された蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第7形態]上記第3形態の保管方法において、前記金属基板は、前記板面に複数の凸部を有し、前記金属基板を厚み方向に見たときに、前記金属基板の表面には、前記金属基板の前記板面上で線状に延びている複数の前記カーボンナノ構造体が分布していてよい。
第7形態の保管方法によれば、金属基板の表面に凸部と、線状に延びている複数のカーボンナノ構造体とを有する電極を備える蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第8形態]上記第3形態の保管方法において、前記金属基板の表面には、微細な凹凸構造が形成されており、前記ナノグラフェンとアモルファスカーボンとで構成された前記カーボンナノ構造体を主成分とする活物質層が、前記凹凸構造の表面を緻密に覆うように形成されていてよい。
第8形態の保管方法によれば、金属基板の表面の凹凸構造を覆う、ナノグラフェンとアモルファスカーボンとで構成されたカーボンナノ構造体を主成分とする活物質層を有する蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第9形態]上記第1形態、または、第2形態に記載の保管方法において、前記金属原子は、リチウム原子であり、前記電極は、集電体として機能する金属基板を有し、前記金属基板は、板面に、前記リチウム原子が表面に析出する複数の突起部を有し、前記突起部を、前記金属基板の前記板面に射影した射影領域の面積は、10nm2以上10000nm2以下であり、前記板面における前記突起部の密度は、1個/μm2以上1000個/μm2以下でよい。
第9形態の保管方法によれば、板面に複数の突起部を有する金属基板を集電体として備える蓄電デバイスの自己放電や劣化を効果的に抑制することができる。
[第10形態]上記第1形態、第2形態、第9形態のいずれかに記載の保管方法でにおいて、前記金属原子は、リチウム原子であり、前記電極は、集電体として機能する金属基板を有し、前記金属基板は、板面に、前記リチウム原子が表面に析出する複数の凸部を有し、前記突起部を前記板面に射影した射影領域の最大長の平均値は、10nm以上200nm以下であり、前記射影領域が占める面積は、前記板面の面積の1/10以上でよい。
第10形態の保管方法によれば、板面に複数の凸部を有する金属基板を集電体として備える蓄電デバイスの自己放電や劣化をより一層、効果的に抑制することができる。
[第11形態]上記第1形態、または、第2形態記載の保管方法において、前記金属原子は、リチウム原子であり、前記電極は、集電体として機能する金属基板を有し、前記金属基板は、板面に、金属粒子によって構成され、幅の最大値が0.5μm以上30.0μm以下であり、充電時に前記リチウム原子が表面に析出する複数の凸状体によって構成された微細な凹凸構造を有してよい。
第11形態の保管方法によれば、板面に複数の凸状体を有する金属基板を集電体として備える蓄電デバイスの自己放電や劣化をより一層、効果的に抑制することができる。
[第12形態]上記第1形態、または、第2形態記載の保管方法において、前記金属原子は、リチウム原子であり、前記電極は、集電体として機能する金属基板を有し、前記金属基板は、二次元X線検出器によるデバイリングの二次元回折像が、点、または、線分が配列された不連続な円弧状の像として得られてよい。
第12形態の保管方法によれば、所定の熱処理が施された金属基板を集電体として備える蓄電デバイスの自己放電や劣化をより一層、効果的に抑制することができる。
[第13形態]第13形態は、蓄電デバイスを保管する保管システムとして提供される。第13形態の保管システムは、電解液中でイオン化して充放電に関与する金属原子と、集電体を構成する金属基板と、を備え、充電時に、電極の表面上に、前記金属原子が析出した金属原子の層が形成されるように構成された蓄電デバイスを内部に収容する保管部と、前記保管部内の温度を監視する温度監視部と、前記温度監視部の検出結果に基づいて、前記保管部に収容されている前記蓄電デバイスの温度を25℃以上65℃以下の所定の保管温度に維持するように調整する温度制御部と、を備える。
第13形態の保管システムによれば、蓄電デバイスにおける自己放電の発生や蓄電デバイスの劣化を抑制することができる。