JP7813038B2 - 効率的な人工多能性幹細胞の作製方法 - Google Patents
効率的な人工多能性幹細胞の作製方法Info
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Description
本発明者らはまた、初期化過程でp38経路とp53経路の両方を二重阻害した場合、各経路を単独で阻害した場合よりも、iPSコロニーの形成効率がさらに増大することを見出した。そして二重阻害した場合に発現が顕著に下方制御される遺伝子群の中から、当該発現抑制により前記二重阻害した場合と同等のiPS細胞樹立効率改善効果を奏し得る遺伝子としてTEAD3を見出し、本発明を完成させるに至った。
[1]人工多能性幹(iPS)細胞の樹立効率の改善方法であって、体細胞の核初期化工程において転写エンハンサー関連ドメインファミリー メンバー-3(TEAD3)の機能を阻害することを含む、方法。
[2]以下の(a)~(c):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;及び
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸
のいずれかの核酸を体細胞に導入することによりTEAD3の機能を阻害する、[1]に記載の方法。
[3]TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸を体細胞に導入することによりTEAD3の機能を阻害する、[1]に記載の方法。
[4]体細胞においてTEAD3の転写共役因子を阻害することによりTEAD3の機能を阻害する、[1]に記載の方法。
[5]以下の(a)又は(b):
(a)TEAD3に対するデコイ核酸;
(b)rrrcwwgyyynnnnnnnnnnnnnrrrcwwgyyy(rはa又はg、wはa又はt、yはc又はtを表し、nはそれぞれ独立して、存在しないか、a、g、t又はcを表す;配列番号3)で表されるヌクレオチド配列を含むオリゴ核酸
を体細胞に導入することによりTEAD3の機能を阻害する、[1]に記載の方法。
[6]TEAD3の機能阻害物質を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
[7]前記阻害物質が、以下の(a)~(c):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;及び
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸
のいずれかの核酸である、[6]に記載の剤。
[8]前記阻害物質が、TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸である、[6]に記載の剤。
[9]前記阻害物質が、TEAD3の転写共役因子の阻害物質である、[6]に記載の剤。
[10]前記阻害物質が、下の(a)又は(b):
(a)TEAD3に対するデコイ核酸;
(b)rrrcwwgyyynnnnnnnnnnnnnrrrcwwgyyy(rはa又はg、wはa又はt、yはc又はtを表し、nはそれぞれ独立して、存在しないか、a、g、t又はcを表す;配列番号3)で表されるヌクレオチド配列を含むオリゴ核酸
である、[6]に記載の剤。
[11]体細胞に核初期化物質及びTEAD3の機能阻害物質を接触させることを含む、iPS細胞の製造方法。
[12]前記阻害物質が、以下の(a)~(c):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;及び
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸
のいずれかの核酸である、[11]に記載の方法。
[13]前記阻害物質が、TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸である、[11]に記載の方法。
[14]前記阻害物質が、TEAD3の転写共役因子の阻害物質である、[11]に記載の方法。
[15]前記阻害物質が、下の(a)又は(b):
(a)TEAD3に対するデコイ核酸;
(b)rrrcwwgyyynnnnnnnnnnnnnrrrcwwgyyy(rはa又はg、wはa又はt、yはc又はtを表し、nはそれぞれ独立して、存在しないか、a、g、t又はcを表す;配列番号3)で表されるヌクレオチド配列を含むオリゴ核酸
である、[11]に記載の方法。
[16]核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、[11]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2、及びc-Myc、L-MycもしくはN-Mycであるか、あるいはそれらをコードする核酸である、[11]~[15]のいずれかに記載の方法。
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ウシ、ブタ、ラット、イヌ等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、末梢血単核球、臍帯血、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
本発明において標的分子となるTEAD3は、転写エンハンサー関連ドメイン(TEAD)ファミリーのメンバーの1つであり、この転写因子による標的遺伝子の転写活性化は、Hippoシグナル伝達経路によって核内移行が制御されるコアクチベータYAP又はTAZと結合することにより起こる。
「配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」とは、
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトTEAD3の、他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)におけるオルソログのアミノ酸配列;又は
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトTEAD3もしくは上記(a)のオルソログの天然のアレル変異体もしくは遺伝子多型におけるアミノ酸配列
を意味する。
好ましくは、TEAD3は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトTEAD3もしくはその天然のアレル変異体もしくは遺伝子多型である。該遺伝子多型としては、例えば、dbSNPにrs35080860として登録されている、254位のThr(ACG)がMet(ATG)に置換するSNPが挙げられるが、それに限定されない。
TEAD3遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とは、生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有するヌクレオチド配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAのヌクレオチド配列と完全相補的なヌクレオチド配列(すなわち、mRNAの相補鎖のヌクレオチド配列)と、オーバーラップする領域に関して、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列である。本発明における「ヌクレオチド配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
(a) TEAD3遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
(b) TEAD3遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸
(c) TEAD3遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸
本明細書においては、TEAD3遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAは、TEAD3遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。
本発明における「TEAD3遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていたりしてもよい。
TEAD3遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸の他の例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。TEAD3遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
一方、該RNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態の場合、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該DNAを含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) 及び Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。また、アデノウイルスベクターを用いる場合については、Science, 322, 945-949 (2008) に記載されている。
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。
TEAD3遺伝子の発現を阻害する物質の別の好ましい実施態様として、TEAD3遺伝子の転写活性化因子がTEAD3遺伝子のプロモーター領域に結合するのを阻害する物質が挙げられる。例えば、そのような物質として、p53のコンセンサス結合配列であるrrrcwwgyyynnnnnnnnnnnnnrrrcwwgyyy(rはa又はg、wはa又はt、yはc又はtを表し、nはそれぞれ独立して、存在しないか、a、g、t又はcを表す;配列番号3)を含むオリゴ核酸を挙げることができる。好ましくは、該オリゴ核酸は二本鎖DNAである。p53はTEAD3プロモーター領域に存在するシスエレメント配列に結合して、TEAD3遺伝子の転写を正に制御していると考えられるので、p53のコンセンサス結合配列を含むオリゴ核酸は、p53のTEAD3プロモーター領域への結合を阻害してその転写を抑制することができる。該オリゴ核酸の長さは、例えば、20~50ヌクレオチド、好ましくは25~40ヌクレオチドである。
TEAD3は、ヒトの場合、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるが、N末端側から約30~約100アミノ酸の領域が、TEADファミリーで高度に保存されたDNA結合ドメインであり、約200位以降がYAP/TAZ結合ドメイン及び転写活性化ドメインである。従って、DNA結合ドメインを欠くTEAD3フラグメントは、内因性の全長TEAD3と競合的に転写コアクチベータであるYAP/TAZと結合し、TEAD3とYAP/TAZとの相互作用による標的遺伝子群の転写活性化を抑制することができる。一方、YAP/TAZ結合ドメイン、転写活性化ドメインを欠くTEAD3フラグメントは、内因性の全長TEAD3と競合的に標的遺伝子のプロモーター領域に結合し、TEAD3とYAP/TAZとの相互作用による標的遺伝子群の転写活性化を抑制することができる。
しかしながら、体細胞への導入の容易さを考慮すると、TEAD3のドミナントネガティブ変異体は、タンパク質自体としてよりも、それをコードする核酸の形態で用いることがむしろ好ましい。したがって、本発明の別の好ましい実施態様において、TEAD3機能阻害物質は、TEAD3のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸である。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。TEAD3のドミナントネガティブ変異体をコードするcDNAは、該変異体タンパク質の作製について上記した手法によりクローニングすることができる。
上述のとおり、TEAD3はコアクチベータであるYAP/TAZと共役して標的遺伝子群の転写を活性化する。YAP/TAZはリン酸化(例えば、127位のSer残基におけるリン酸化)された状態では、14-3-3と結合して細胞質に局在し、不活性化されているが、脱リン酸化により14-3-3と解離して核内に移行し、TEAD3と共役して標的遺伝子群の転写を促進する。従って、TEAD3の転写共役因子であるYAP/TAZを阻害することにより、結果的にTEAD3の機能を阻害することができる。
また、別の実施態様においては、YAP又はTAZの阻害物質として、Hippoシグナル伝達経路の活性化物質を用いることもできる。Hippoシグナル伝達経路が活性化すると、YAP/TAZのリン酸化が促進され、核内移行が抑制され得る。Hippoシグナル伝達経路の活性化物質としては、例えば、Lats1/2(及びその共役因子であるMob1A/1B)、さらにその上流のMST1/2(及びその共役因子であるWW45)を挙げることができる。
さらに別の実施態様においては、YAP又はTAZのドミナントネガティブ変異体を用いることができる。YAP及びTAZのTEAD結合ドメインは、それぞれN末端から50~100アミノ酸及び13~57アミノ酸であり、転写活性化ドメインは、それぞれ276~472位及び208~381位であるので、TEAD結合ドメインを含むが転写活性化ドメインを欠くYAP又はTAZフラグメントは、核内に移行すると、内因性のYAP/TAZと競合的にTEAD3に結合し、TEAD3とYAP/TAZとの相互作用による標的遺伝子の転写活性化を抑制することができる。転写活性化ドメインの欠失により核局在化が棄損される場合には、自体公知の核局在化シグナル配列を付加してもよい。
これらのYAP/TAZ阻害物質のアミノ酸配列及びmRNA配列の情報はいずれも既知であり、種々のデータベースから配列情報を入手することができ、上記したTEAD3のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸と同様にして、所望のタンパク質又はそれをコードする核酸を取得することができる。得られたタンパク質又は核酸は、TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸と同様の方法により、体細胞に導入することができる。
YAP/TAZは、TEAD3だけでなく他の転写因子とも共役している。そのため、TEAD3選択的に標的遺伝子の転写活性化を抑制するには、TEAD3の標的遺伝子プロモーター領域への結合を阻害する物質を用いることがより好ましい。そのような物質としては、上記したYAP/TAZ結合ドメイン(転写活性化ドメイン)を欠くTEAD3のドミナントネガティブ変異体だけでなく、TED3のコンセンサス結合配列を含むデコイ核酸を挙げることができる。TEAD3のコンセンサス結合配列としては、ACATTCCAが挙げられる。好ましくは、該デコイ核酸は二本鎖DNAである。該デコイ核酸の長さは、例えば、8~30ヌクレオチド、好ましくは8~20ヌクレオチドである。
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞に導入することにより該体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。核初期化物質がタンパク性因子またはそれをコードする核酸の場合、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18、好ましくはSox1, Sox3, Sox15または Sox17、より好ましくはSox1またはSox3で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5、好ましくはKlf2で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, Eras, ECAT15-2, TclI, β-catenin (活性型変異体S33Y)
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmil
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1もしくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(またはKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009)も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525-528(2008)を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EsrrbはEsrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc
(22) Oct3/4, Nanog
(23) Oct3/4 (Cell 136: 411-419 (2009)、Nature, 08436, doi:10.1038 published online(2009))
(24) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
(25) Oct3/4, Sox2, Klf4, L-Myc, Lin28
(26) Oct3/4, Sox2, Klf4, L-Myc, Lin28, Glis1
遺伝子名 マウス ヒト
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
Glis1 NM_147221 NM_147193
上記TEAD3の機能阻害物質に加え、公知の他の樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、または5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上など)、または1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
低酸素培養に関するより詳細な培養条件については、例えば、国際公開第2010/013845号公報を参照することができる。
[方法1]細胞培養
マウス胚線維芽細胞(MEFs)の初代培養は、以前に記載された確立した方法(Okitaら、2007)に従って行った。MEFsは、10%ウシ胎仔血清(FBS、Invitorogen)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、ナカライテスク)中で37℃、5% CO2条件下で培養した。DMEMは0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(Invitorogen)とともに供給された。ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)は同等の条件下で培養した。MEF及びHDF由来iPS細胞は、白血病抑制因子(LIF)を添加した、15% FBS、2mM L-グルタミン(Invitorogen)、0.1 mM 非必須アミノ酸(Invitorogen)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(Invitorogen)及び0.5%ペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM中で培養した。
iPS細胞は、以前の記載(Okitaら、2007; Takahashi及びYamanaka、2006)に多少の改変を加えた方法により樹立した。ウェルあたり細胞1×105個のMEFsを播種し、一晩培養した。24時間後、4種類の因子(Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc; 本明細書では“4F”と略記する場合がある)がNanog-GFPカセットに挿入されたレトロウイルスを感染させることにより、4Fを前記MEFsに導入した。24時間後、前記細胞を1回継代し、マイトマイシンCで処理されたSNL細胞のフィーダー層の上に、ディッシュあたり2.5×103個となるように播種した。翌日、培地をマウスiPS細胞培地に置換し、その後30日間培養した。
iPS細胞は、以前の記載(Takahashiら、2007)に多少の改変を加えた方法により樹立した。HDFsをウェルあたり細胞1×105個となるように播種し、一晩培養した。24時間後、レトロウイルス感染により、4種類の因子(4F: OCT3/4、SOX2、KLF4及びc-MYC)又は3種類の因子(前記4Fからc-MYCを除いたもの、本書では“3F”と呼ぶ場合がある)を前記HDFsに導入した。96時間後、前記細胞を継代し、2.5×105個(4種類の因子)又は5×105個(3種類の因子)となるように、マイトマイシンCで処理されたSNL細胞のフィーダー層の上に播種した。翌日、培地を4 ng/mLのヒト塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を添加した霊長類ES培地(ReproCELL、日本)に置換し、その後30日間培養した。
iPS細胞は、以前の記載(Okitaら、2011)に多少の改変を加えた方法により樹立した。HDFsは、10% FBSを添加したDMEM中で培養した。Neonトランスフェクションシステム(Invitorogen)の指示書に従い、3 μgの発現プラスミド混合物(pCXLE-hOCT3/4-shp53、pCXLE-hSOX2-hKLF4及びpCXLE-hLIN28-hL-MYC)を、100 μLのキット溶液とともに、6×105個のHDFsにエレクトロポレーション法により導入した。エレクトロポレーションは、1650 V、10 msで、3回(3パルス)行った。トランスダクションの4日後に前記細胞をトリプシン処理し、マイトマイシンC処理されたSNL細胞のフィーダー層で覆われた100 mmディッシュ上に、2×105個の細胞密度で再播種した。翌日、培地を、bFGFを添加した霊長類ES細胞培地に置換し、その後30日間培養した。
アルカリ性ホスファターゼ(AP)染色は、アルカリ性ホスファターゼ検出キット(Sigma)のプロトコールに従って行った。免疫細胞化学的な解析を行うために、前記細胞を、4%パラホルムアルデヒド含有PBS中室温で20分間処理して固定した。PBSでの洗浄後、前記細胞をブロッキング溶液(5%正常ヤギ血清(Millipore)、1%ウシ血清アルブミン(BSA、ナカライテスク)及び0.2% Triton X-100を含むPBS)で室温にて45分間処理した。一次抗体及び希釈率は以下のとおり。
抗OCT4抗体(1:50、Santa Cruz、sc-5279)、抗SOX2抗体(1:100、Abcam、ab75485)及び抗TRA1-60抗体(1:50、Millipore、MAB4360)。二次抗体には、Alexa Fluor 488標識抗マウスIgG(1:500、Invitrogen、A-11001)を使用した。核染色には、Hoechst 33342(1 μg/mL、Invitrogen)を使用した。
iPS細胞は、0.25%トリプシン(Invitrogen)、0.1 mg/mL コラゲナーゼIV(Invitrogen)、20% KSR及び0.1 mM CaCl2含有CTK溶液を用いて回収した。得られた細胞塊を、bFGFを含まず10 μMのY-27632(Wako)を含む霊長類ES培地中に懸濁し、胚様体を形成するために超低結合性プレート(Corning)に播種して、胚様体を形成させた。前記胚様体を8日間浮遊培養した後、ゼラチンでコーティングしたプレート上に播種し、さらに8日間培養した。その後、前記細胞に対し、免疫細胞化学的解析を行った。使用した一次抗体は以下のとおり。
抗Tuj1抗体(1:100、Chemicon: MAB1637)、抗α-平滑筋アクチン抗体(α-SMA、1:500、DAKO: M085101)及び抗α-フェトプロテイン抗体(1:100、R&D: MAB1368)。二次抗体には、Alexa488標識抗マウスIgG(1:500、Invitrogen: A-11001)を使用した。
単色AgilentDNAマイクロアレイスキャナーを用いてマイクロアレイスライドをスキャンし、初期設定のパラメーターを用いて解析した。生データはRStudio(Rビジュアル・スクリプト)にローディングし、読み取り、探索及び前処理用の遺伝子発現データはBioconductorパッケージLimmaを用いて解析した。差次的遺伝子発現解析(DEG)には、Limmaのワークフローを使用した。階層的クラスター系統樹(Hierachical derived)は、statパッケージのhclust及びclusterパッケージのagnesを用いて作成した。DistanceはManhattan city-block distance法を用いて計算し、k-平均はkmeans機能を用いて計算した。距離及び相関マトリックスは、factoroextraパッケージに含まれるget_dist、fviz_distを用いて視覚化した。クラスター散布図は、fviz_cluster機能を用いて計算した。DEGsについての発現データをRスクリプトを用いてクラスター化し、Heatmapsを作成した。遺伝子オントロジーと遺伝子クラスターの統計的解析は、DOSE及びclusterProfilerパッケージを用いて解析した。なお、本願で取得したマイクロアレイデータは、Gene Expression Omnibusでアクセッション番号GSE56167として利用可能である。
p53遺伝子の継続的なノックダウンは、以前の記載(Hongら、2009; Masutomiら、2003)に多少改変を加えて、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を用いて行った。4Fとともに、p53遺伝子に対するshRNA(pMKO.1-puro p53 shRNA-2; Addgene plasmid 10672)又は模擬ベクター(pMXs)を、レトロウイルス感染によりMEFまたはHDFに導入した。
TEAD3遺伝子の継続的なノックダウンは、TEAD3のmRNAに対する2種のshRNA sh#1及びsh#2 (標的mRNA配列:sh#1 5’-AGCATGACCATCAGCGTCTCCACCAAGGT-3’ (配列番号5); sh#2 5’- AGCAACCAGCACAATAGCGTCCAACAGCT-3’ (配列番号4)) を用いて行った。HDFsを6穴プレートに1×105細胞/ウェルとなるように播種し、一晩培養した。翌日、4Fとともに、shRNA又は模擬ベクター(pSINsi-hH1)をレトロウイルス感染により前記HDFsに導入した。4日後、前記細胞をトリプシン処理によって回収し、マイトマイシンC処理したSNL細胞フィーダー層上に2×105細胞/100 mmディッシュとなるように播種した。
iPS細胞をCTK溶液を用いて回収し、60 mmディッシュに播種した。コンフルエントになるまで培養した後、細胞を回収し、非肥満糖尿病/重度複合免疫不全(NOD-SCID)マウス(CREA、日本)の精巣に注入した。注入から3か月後、得られた腫瘍を切開し、PBS中4%パラホルムアルデヒドで固定した。パラフィン包埋組織から薄切された切片をヘマトキシリン及びエオジンで染色した。
本研究は京都大学の動物実験規則の勧告を厳密に順守して実施した。
1)マウス胚線維芽細胞(MEF)の初期化に対する、p38阻害の促進効果
[方法2]に従って、MEFからiPSCを作製した。その際、レトロウイルスによる4F導入から24時間後に、DMSO(vehicle、陰性コントロール)、p38選択的阻害剤(SB202190、Calbiochem、10 μM)、またはMEFの初期化効率を促進することが既知の7化合物のいずれかを培地に添加し、98時間後にそれらを含まない培地に置換した。前記7化合物とその処理濃度は以下の通りである;ビタミンC(Sigma、10 μg/mL)、バルプロ酸(Sigma、1.9 mM)、CHIR99021(Calbiochem、3 μM)、PD0325901(Calbiochem、0.5 μM)、インターロイキン-6(R&D、0.2 ng/mL)、AS601245(Calbiochem、5 μM)、ラパマイシン(Sigma、1 μM)。4F導入の陰性コントロールとして、4Fをコードしないレトロウイルス(空ベクター)を感染させた細胞に対し、同様の薬剤処理を行った。また、ウイルス感染効率を評価するために、4FとDsRed遺伝子が挿入されたレトロウイルス(4F+DsRed)を感染させて、同様の操作を行った。
図1Aに示されるように、p38選択的阻害剤(SB202190)で処理したMEFからは、Day21とDay28のいずれにおいても、DMSO処理したMEFと比べて2倍近いGFP陽性コロニーが得られた。そして、当該GFP陽性コロニー数は、前記既知7化合物の中で最も効果の高かった抗酸化剤(VC、ビタミンC)及びGSK3β阻害剤(CH、CHIR99021)処理で得られたGFP陽性コロニー数とほぼ同等であった。
図1Cに示されるように、初期フェーズ(期間A)にSB202190処理した実験群では、コントロール(同期間にDMSO処理)と比べて、Day21、Day28におけるGFP陽性コロニー数がいずれも大幅に増加した。そして、図1Dに示されるように、期間AにSB202190処理した実験群では、Day21よりもDay28の方が、GFP陽性コロニー数が増加する傾向が認められた。さらに、図1Eに示されるように、期間AにSB202190処理した実験群では、Day21、Day28のいずれの時点においても、期間DにSB202190処理した実験群よりもGFP陽性コロニー数が有意に多かった。興味深いことに、SB202190で長期間処理すると、iPS細胞の増殖が抑制されたことから(図7A)、後期フェーズにおけるp38阻害は初期化を損なう可能性が示唆される。初期フェーズ(期間A)にSB202190処理して得たマウスiPS細胞からキメラ胚を作製し、仮親に移植したところ、複数の組織へと首尾よく分化し(図7B)、ジャームライントランスミッションも確認された(図7C)。
p38の阻害がヒト細胞に対しても同様の効果を奏するかどうか、複数のP38選択的阻害剤を用いて検討した。HDFからiPSCを作製する工程([方法3])において、図2Aに記載された4通りの期間(A~D)に、DMSO(陰性コントロール)またはp38選択的阻害剤(SB202190、SB203580、SB239063(すべてCalbiochem社製、終濃度10 μM)のいずれかを培地に添加し、4F導入から16日後(Day16)、24日後(Day24)、32日後(Day32)にGFP陽性コロニー数を計測した。初期化効率の計算方法は、前記1)のMEFの初期化効率の計算方法に従った。期間AまたはDに阻害剤処理した実験群の結果を図2Bに示す。期間Aに阻害剤処理した実験群では、前記3種類の阻害剤いずれを用いた場合にも、Day24およびDay32のGFP陽性コロニー数はコントロール(DMSO処理)の実験群よりも顕著且つ有意に多かった(図2B、左棒グラフ)。さらに、期間Dに阻害剤処理した実験群でも、前記阻害剤の種類に関わらず、コントロールに比べてGFP陽性コロニー数が顕著に多くなる傾向が認められた(図2B、右棒グラフ)。特に、SB202190またはSB203580を全フェーズ(期間D)にわたって添加した場合には、初期フェーズでのみ添加した場合と比べて、Day32におけるGFP陽性コロニー数が2倍以上に有意に増加することが示された。
さらに、上記結果から、マウス細胞とヒト細胞では初期化工程におけるp38の役割に差異があり、ヒト細胞の方がp38によって初期化が強く阻害されている可能性が示唆された。
初期化工程でp38を阻害して得られたヒトiPSCの分化能力について解析した。SB202190処理して得られたHDF由来iPSCから3クローン(SB1~SB3)を樹立し、当該クローンについて、多能性の指標となるSOX2、OCT4、及びNANOGの発現量を解析した(図3A)。図3Aに示されるように、SB1~SB3では、HDF(HD)と比べて、p38を阻害せずに初期化して得られたヒトiPSC(DM、B7)やES細胞(ES)と同程度またはそれ以上に、SOX2、OCT4、及びNANOGのmRNA量が増加していた。また、核型解析では核型正常であることが確認され(図3B)、これにより、初期化工程でp38を阻害しても染色体の安定性は損なわれないことが示された。さらに、これらのクローンを胚様体経由で三胚葉に分化誘導([方法6])すると、平滑筋アクチン(A-SMA)を発現する中胚葉、β-IIIチューブリン(B-3-TUBULIN)を発現する外胚葉、α-フェトタンパク質(AFP)を発現する内胚葉にそれぞれ分化した(図3C)。また、[方法9]に従いインビボでの奇形腫(teratoma)形成能を解析した結果、解析した全クローンから奇形種が形成され、神経上皮、軟骨、及び種々の腺構造を含む三胚葉に分化したことが確認された(図3D)。よって、初期化工程でp38を阻害して得られたヒトiPSCは、インビトロ、インビボの両方において、三胚葉への分化能力を備えていることが示された。
p53は、ヒト及びマウス細胞の初期化において、強力な初期化バリアとして機能する遺伝子である。図4Bに示されるように、4Fによる初期化の際に、p53 mRNAに対するshRNA(図4A)を用いてp53を継続的にノックダウンすると([方法8])、iPS細胞コロニー数は顕著且つ有意に増加する(shp53のバー)。驚くべきことに、p53の継続的ノックダウンに加えてさらに期間AにSB202190処理した実験群(shp53+SB202190のバー)では、各単独処理によって得られるiPS細胞コロニー数(shp53、SB202190の各バー)のコントロール(DMSOのバー)に対する増加分の和よりも遥かに多くのiPS細胞コロニー数が得られた(図4B)。よって、p53のノックダウンとp38阻害は、初期化に対し相乗的な効果(促進効果)を奏することが示された。そして、この結果より、p53とp38によって、直接または間接的に、共通に制御される転写因子の存在が示唆された。
初期化の強力なバリアとして機能する遺伝子を同定するために、まず、shp53処理群とshp53・SB202190二重処理群とで発現量が低下する遺伝子を解析し、このうち、二重処理群特異的に発現量が低下する遺伝子として651遺伝子を同定した(図5A上のDOWN1)。同様に、SB202190処理群とshp53・SB202190二重処理群とで発現量が低下する遺伝子を解析し、このうち、二重処理群特異的に発現量が低下する遺伝子として1056遺伝子を同定した(図5B上のDOWN2)。さらに、shp53処理群と二重処理群、SB202190処理群と二重処理群のそれぞれ解析でfold changeが2以下のものを除外し2-fold cutoffを行い、DOWN1とDOWN2に共通するものとして340遺伝子を同定した(図5C)。
次に、TEAD3に対する特異的なshRNA(4F-shTEAD3#1、#2の2種類、図6B)を用いて、初期化に対するTEAD3の役割を解析した。4FによるHDFの初期化([方法2])の際にこれらのshRNAを発現させると、TEAD3の発現量が大幅に減少し(図6C)、GFP陽性コロニー数が顕著且つ有意に増加することが示された(図6D)。また、TEAD3 shRNAを発現させて得られたコロニーは、アルカリホスファターゼ陽性であることも確認された(図6E)。よって、HDFを初期化する際にTEAD3の発現を減少させると、初期化効率が顕著に増加することが示された。
また、TEAD3のプロモーター領域の探索の結果、p53が結合し得るコンセンサス配列の存在が確認された。
Claims (5)
- 人工多能性幹(iPS)細胞の樹立効率の改善方法であって、体細胞の核初期化工程において転写エンハンサー関連ドメインファミリー メンバー-3(TEAD3)の体細胞としての固有性を維持する遺伝子群の転写活性化機能を阻害することを含み、
以下の(a)~(e):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸;
(d)TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸;又は
(e)TEAD3に対するデコイ核酸
を体細胞に導入することによりTEAD3の体細胞としての固有性を維持する遺伝子群の転写活性化機能を阻害する、方法。 - TEAD3の体細胞としての固有性を維持する遺伝子群の転写活性化機能の阻害物質を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤であって、
前記阻害物質が、以下の(a)~(e):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸;
(d)TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸;又は
(e)TEAD3に対するデコイ核酸
である、剤。 - 体細胞に核初期化物質及びTEAD3の体細胞としての固有性を維持する遺伝子群の転写活性化機能の阻害物質を接触させることを含む、iPS細胞の製造方法であって、
前記阻害物質が、以下の(a)~(e):
(a)TEAD3遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
(b)TEAD3遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸;
(c)TEAD3遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸;
(d)TEAD3のドミナントネガティブ変異体又はそれをコードする核酸;又は
(e)TEAD3に対するデコイ核酸
である、方法。 - 核初期化物質がOct3/4、Klf4及びSox2、又はそれらをコードする核酸である、請求項3に記載の方法。
- 核初期化物質がOct3/4、Klf4、Sox2、及びc-Myc、L-MycもしくはN-Mycであるか、あるいはそれらをコードする核酸である、請求項3に記載の方法。
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