本出願は、2020年4月7日に出願された「Anti-TMPRSS6 Antibodies and Uses Thereof(抗TMPRSS6抗体及びその用途)」と題する米国仮出願第63/006,695号、及び2021年3月8日に出願された「Anti-TMPRSS6 Antibodies and Uses Thereof(抗TMPRSS6抗体及びその用途)」と題する米国仮出願第63/158,265号の優先権の利益を主張し、それぞれの内容の全体が参照により本願に援用されるものとする。
[配列表]
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本出願に援用される。2021年3月29日に作成された当該ASCIIコピーは、1121_101PCT_SL.txtという名前で、サイズは132,677バイトである。
本発明は、TMPRSS6と結合する新規な抗体及びその抗原結合フラグメント、並びにTMPRSS6と結合する抗体及びその抗原結合フラグメントの作製方法及び使用方法に関する。
本開示は、抗TMPRSS6抗体、抗TMPRSS6抗体をコードする核酸、並びに抗TMPRSS6抗体の製造方法及び使用方法を提供する。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6と結合することができる抗TMPRSS6抗体及びそのフラグメントを包含する。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6を発現する細胞の表面でヒトTMPRSS6に結合することができる。本開示は、治療及び診断用途のための抗TMPRSS6抗体を提供する。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、鉄過剰症、特に、限定されないが、非輸血依存性サラセミアを含むβサラセミア、及び無効造血の他の障害などの鉄代謝の障害を治療するために使用することができる。
一態様において、TMPRSS6を発現する細胞の表面上のTMPRSS6に結合し、鉄代謝に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節することができる抗TMPRSS6抗体が提供される。ここで成分は、TMPRSS6の機能に関連する分子又は生体プロセスであってもよい。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジン発現の制御に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節することが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジン発現のTMPRSS6抑制を実質的に阻害することが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジンの発現を増加させることが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジンプロモーターの活性を増加させることが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6によるBMP/SMAD経路誘導型のヘプシジン発現の抑制を実質的に阻害することが可能である。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、限定されないが、ヘプシジン発現のTMPRSS6抑制を実質的に阻害すること、ヘプシジン発現を増加させること、ヘプシジンプロモーター活性を増加させること、又はTMPRSS6によるBMP/SMAD経路誘導型のヘプシジンの発現の抑制を実質的に阻害することなど、用量依存的にヘプシジン発現を調節し得る。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、用量依存的にヘプシジンの発現を調節することができる。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、対象に投与された場合、用量依存的に血清ヘプシジン濃度を増加させることが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、対象に投与された場合、用量依存的に血清鉄濃度を低下させることができる。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、対象に投与された場合、用量依存的に肝臓ヘプシジンRNA濃度を増加させることが可能である。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、鉄過剰症、特にβサラセミアを有することが知られているか又は疑われている対象に投与された場合、肝臓非ヘム鉄を減少させ、血清ヘプシジンを増加させ、肝臓ヘプシジンRNAを増加させ、脾腫を減少させ、赤血球数(RBC)を増加させ、ヘマトクリットを減少させ、赤血球分布幅(RDW)を減少させ、成熟赤血球の生成を増加(赤血球生成の増加)することを可能にする。
別の態様において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、少なくとも1つの非ヒトTMPRSS6との交差反応性を示す。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、少なくとも1つの非ヒトTMPRSS6を発現する細胞の表面上で少なくとも1つの非ヒトTMPRSS6に結合することが可能である。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6及びマウスTMPRSS6と結合することが可能である。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6及びカニクイザルTMPRSS6に結合することが可能である。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6、マウスTMPRSS6、及びカニクイザルTMPRSS6の各々に結合することができる。
別の態様において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6(マトリプターゼ-2)に特異的に結合する。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6(マトリプターゼ-2)に結合し、マトリプターゼ同族体への検出可能な結合を示さない。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)に結合し、ヒトマトリプターゼ-1(ST14)への検出可能な結合は示さない。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)に結合し、ヒトマトリプターゼ-3(TMPRSS7)への検出可能な結合は示さない。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ2)に結合し、ヒトマトリプターゼ-1(ST14)又はヒトマトリプターゼ-3(TMPRSS7)のいずれかに対する検出可能な結合は示さない。
本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、単鎖可変フラグメント(scFv)、組み換え抗体、アプタマー、単一ドメイン抗体(VHH、ナノボディ)、若しくは他のTMPRSS6結合フラグメント又はバリアントであってもよい。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、特に抗原結合能などの特性に影響を与えるために、既存の抗体フレームワークにアミノ酸が置換されたフレームワークを含んでいてもよい。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、親抗体とは異なるタイプ(クラス)の抗体及び/又は異なる生物からのフレームワーク、特にアクセプターヒトフレームワークにグラフト化(融合)されたソース(親)抗体からの相補性決定領域(CDRs)を含んでいてもよい。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、抗原結合又は抗体構造などの特性に影響を与えるために、CDR以外の領域、例えば、CDRを囲む可変領域フレームワーク及び/又は定常領域、特にFc領域においてアミノ酸が置換、変異、又は置き換えられているフレームワークを含んでいてもよい。特定の実施形態においては、1つ以上のCDRが置換、変異、又は置き換えられている。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントであってもよい。
特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、表1、表2、又は表3に記載のアミノ酸配列、又は表1、表2、又は表3に記載のアミノ酸配列と実質的に同一(例えば、少なくとも85%、90%、92%、95%、97%、又は98%、99%同一)の配列を有する少なくとも一つのポリペプチドを含む。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、以下から選択されるアミノ酸配列、又は以下から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドと実質的に同一(例えば、少なくとも85%、90%、92%、95%、97%、又は98%、99%同一)の配列を含んでもよい。配列番号1;配列番号2;配列番号3;配列番号4;配列番号6;配列番号7;配列番号8;配列番号9;配列番号11;配列番号12;配列番号13;配列番号14;配列番号16;配列番号17;配列番号18;配列番号19;配列番号21;配列番号22;配列番号23;配列番号24;配列番号26;配列番号27;配列番号28;配列番号29;配列番号31;配列番号32;配列番号33;配列番号34;配列番号36;配列番号37;配列番号38;配列番号39;配列番号41;配列番号42;配列番号43;配列番号44;配列番号46;配列番号47;配列番号48;配列番号49;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号56;配列番号57;配列番号58;配列番号59;配列番号61;配列番号63;配列番号65;配列番号67;配列番号69;配列番号71;配列番号73;配列番号75;配列番号77;配列番号79;配列番号81;又は配列番号83。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は配列番号1と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号6に記載のアミノ酸配列、又は配列番号6と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号3に記載のアミノ酸配列の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、配列番号4に記載のアミノ酸配列の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)、配列番号7に記載のアミノ酸配列の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列番号8に記載のアミノ酸配列の軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、及び配列番号9に記載のアミノ酸配列の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3);又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む上記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号61に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号63に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含む、本開示においてMWTx-001として同定される抗体である。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号11に記載のアミノ酸配列、又は配列番号11と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号16に記載のアミノ酸配列、又は配列番号16と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号12に記載のアミノ酸配列のHC CDR1、配列番号13に記載のアミノ酸配列のHC CDR2、配列番号14に記載のアミノ酸配列のHC CDR3、配列番号17に記載のアミノ酸配列のLC CDR1、配列番号18に記載のアミノ酸配列のLC CDR2、及び配列番号19に記載のアミノ酸配列のLC CDR3、又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む上記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号65に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号67に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含む、本開示においてMWTx-002として同定される抗体である。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号21に記載のアミノ酸配列、又は配列番号21と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号26に記載のアミノ酸配列、又は配列番号26と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号22に記載のアミノ酸配列のHC CDR1、配列番号23に記載のアミノ酸配列のHC CDR2、配列番号24に記載のアミノ酸配列のHC CDR3、配列番号27に記載のアミノ酸配列のLC CDR1、配列番号28に記載のアミノ酸配列のLC CDR2、および配列番号29に記載のアミノ酸配列のLC CDR3、又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む前記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号69に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号71に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含む、本開示においてMWTx-003として同定される抗体である。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号31に記載のアミノ酸配列、又は配列番号31と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号36に記載のアミノ酸配列、又は配列番号36と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号32に記載のアミノ酸配列のHC CDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列のHC CDR2、配列番号34に記載のアミノ酸配列のHC CDR3、配列番号37に記載のアミノ酸配列のLC CDR1、配列番号38に記載のアミノ酸配列のLC CDR2、および配列番号39に記載のアミノ酸配列のLC CDR3、又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む前記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号73に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号75に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含むヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Varとして、本開示にて同定される抗体である。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号41に記載のアミノ酸配列、又は配列番号41と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号46に記載のアミノ酸配列、又は配列番号46と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号42に記載のアミノ酸配列のHC CDR1、配列番号43に記載のアミノ酸配列のHC CDR2、配列番号44に記載のアミノ酸配列のHC CDR3、配列番号47に記載のアミノ酸配列のLC CDR1、配列番号48に記載のアミノ酸配列のLC CDR2、及び配列番号49に記載のアミノ酸配列のLC CDR3、又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む上記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態では、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号77に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号79に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含むヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-002Varとして、本開示にて同定される抗体である。
一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号51に記載のアミノ酸配列、又は配列番号51と実質的に同一の配列の重鎖(HC)可変領域ポリペプチド、及び配列番号56に記載のアミノ酸配列、又は配列番号56と実質的に同一の配列の軽鎖(LC)可変領域ポリペプチドを含む。一実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号52に記載のアミノ酸配列のHC CDR1、配列番号53に記載のアミノ酸配列のHC CDR2、配列番号54に記載のアミノ酸配列のHC CDR3、配列番号57に記載のアミノ酸配列のLC CDR1、配列番号58に記載のアミノ酸配列のLC CDR2、及び配列番号59に記載のアミノ酸配列のLC CDR3、又はCDR領域における1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸の置換を含む上記抗体のバリアントを含む。非限定的な一実施形態では、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、配列番号81に記載のアミノ酸配列を有するHCポリペプチド及び配列番号83に記載のアミノ酸配列を有するLCポリペプチドを含むヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-003Varとして、本開示にて同定される抗体である。
別の態様において、鉄過剰症、特にβサラセミア及び無効造血の他の障害などの鉄代謝の障害を治療するために使用することができる抗TMPRSS6抗体(本開示にて開示するようなバリアント及びフラグメントを含む)が提供される。限定されないが、鉄過剰症、特にβサラセミア及び無効造血の他の障害などの鉄代謝の障害を治療することを含む治療用途のために、本開示にて開示する抗TMPRSS6抗体を用いるための方法及び組成物が提供される。特定の実施形態においては、本開示に開示する抗TMPRSS6抗体と、好適な担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。
別の実施形態においては、鉄代謝障害の治療方法であって、かかる方法は有効量の本開示に開示する抗TMPRSS6抗体を、それを必要とする対象に投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与により、鉄代謝に関与する成分の活性を調節する方法が提供される。特定の実施形態において、鉄過剰症の治療方法は、有効量の本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体を投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与により、鉄代謝に関与する成分の活性を調節する。特定の実施形態において、鉄過剰症の治療方法は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量を投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与は、ヘプシジン発現の調節に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節する。特定の実施形態において、方法は、有効量の抗TMPRSS6抗体の投与により、TMPRSS6によるヘプシジン発現の抑制を阻害することを含む。特定の実施形態において、有効量の抗TMPRSS6抗体の投与により、ヘプシジンの発現が増加する。特定の実施形態において、方法は、有効量の抗TMPRSS6抗体の投与により、ヘプシジンプロモーターの活性を上昇させる。特定の実施形態において、方法は、有効量の抗TMPRSS6抗体の投与により、TMPRSS6によるBMP/SMAD経路誘導型のヘプシジン発現の抑制を阻害することを含む。特定の実施形態において、方法は、限定されないが、血清鉄の減少、肝臓非ヘム鉄の減少、血清ヘプシジンの増加、肝臓ヘプシジンRNAの増加、脾腫の減少、赤血球数(RBC)の増加、ヘマトクリット(HCT)の増加、赤血球分布幅(RDW)の減少、及び/又は成熟赤血球の産生の増加(赤血球造血の増加)などを含む、鉄過剰症に関連する1つ以上の生物学的効果をもたらす有効量の抗TMPRSS6抗体を対象に投与することを含む。
別の態様においては、ヘプシジン発現の異常抑制が関与する疾患又は疾患状態を治療する方法が提供され、かかる方法は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与により、ヘプシジン発現の異常抑制に関わる少なくとも一つの成分の活性を調節し、ヘプシジン発現の異常抑制を軽減することを含む。特定の実施形態において、上記方法は、ヘプシジンの発現の増加をもたらす。
別の実施形態においては、抑制されたヘプシジン濃度に関わる鉄代謝障害の治療方法であって、かかる方法は有効量の本開示に開示する抗TMPRSS6抗体を、それを必要とする対象に投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与により、ヘプシジン濃度の抑制に関与する成分の活性を調節する方法が提供される。特定の実施形態において、方法は、血清ヘプシジン濃度を増加させ、肝臓ヘプシジンRNAを増加させ、血清鉄濃度を低下させる有効量の抗TMPRSS6抗体を投与することを含む。
別の態様においては、限定されないがβサラセミアを含み得る、無効造血に関連する及び/又は無効造血によって特徴付けられる障害を含む、鉄代謝の障害を治療するための方法が提供される。この態様によれば、上記方法は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量を、無効造血に関連する及び/又は無効造血によって特徴付けられる鉄代謝の障害を有することが知られているか又は疑われている対象に投与することを含み、投与により、対象における鉄代謝及び/又は赤血球生成に関連する1以上の変更がもたらされる。特定の実施形態においては、有効量の抗TMPRSS6抗体の投与が、障害に関わる少なくとも1つの生物学的効果又は症状を治療又は改善する、方法が提供される。特定の実施形態において、上記方法を実践することにより、限定されないが、肝臓非ヘム鉄の減少、血清ヘプシジンの増加、肝臓ヘプシジンRNAの増加、脾腫の減少、赤血球数(RBC)の増加、ヘマトクリット(HCT)の増加、赤血球分布幅(RDW)の減少、成熟赤血球の生成の増加(赤血球造血の増加)などの1以上の変化をもたらす。
別の態様では、対象における鉄過剰症の診断又はスクリーニングのための方法が提供される。特定の実施形態において、方法は、鉄過剰症であることが知られている又は疑われている対象に抗TMPRSS6抗体を投与すること、及び鉄過剰症に関連する1つ以上の生物学的効果又は症状を測定することを含む。
別の態様では、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の少なくとも1つの少なくとも一部をコードする、1つ以上の単離核酸分子が提供される。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の少なくとも1つの少なくとも一部をコードする単離された核酸分子は、表1、表2、又は表3に記載のヌクレオチド配列、又は表1、表2、又は表3に記載のヌクレオチド配列と実質的に同一(例えば、少なくとも85%、90%、92%、95%、97%又は98%、99%同一)の配列を含む。特定の実施形態においては、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の重鎖(HC)配列の少なくとも1つをコードする単離された核酸分子は、配列番号5若しくは配列番号5と実質的に同一の配列、配列番号15若しくは配列番号15と実質的に同一の配列、配列番号25若しくは配列番号25と実質的に同一の配列、配列番号35若しくは配列番号35と実質的に同一の配列、配列番号45若しくは配列番号45と実質的に同一の配列、配列番号55若しくは配列番号55と実質的に同一の配列、配列番号62若しくは配列番号62と実質的に同一の配列、配列番号66若しくは配列番号66と実質的に同一の配列、配列番号70若しくは配列番号70と実質的に同一の配列、配列番号74若しくは配列番号74と実質的に同一の配列、配列番号78若しくは配列番号78と実質的に同一の配列、又は配列番号82若しくは配列番号82と実質的に同一の配列のうち少なくとも1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでいてよい。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖(LC)配列の少なくとも1つをコードする単離された核酸分子は、配列番号10若しくは配列番号10と実質的に同一の配列、配列番号20若しくは配列番号20と実質的に同一の配列、又は配列番号30若しくは配列番号30と実質的に同一の配列、配列番号40若しくは配列番号40と実質的に同一の配列、配列番号50若しくは配列番号50と実質的に同一の配列、配列番号60若しくは配列番号60と実質的に同一の配列、配列番号64若しくは配列番号64と実質的に同一の配列、配列番号68若しくは配列番号68と実質的に同一の配列;配列番号72若しくは配列番号72と実質的に同一の配列;配列番号76若しくは配列番号76と実質的に同一の配列;配列番号80若しくは配列番号80と実質的に同一の配列又は配列番号84若しくは配列番号84と実質的に同一の配列のうち少なくとも1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでもよい。
別の態様においては、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の少なくとも1つのアミノ酸配列をコードする1つ以上の核酸分子を含むベクターが提供される。特定の実施形態においては、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の重鎖(HC)又は軽鎖(LC)配列の少なくとも1つをコードする1つ以上の核酸分子を含むベクターが提供される。特定の実施形態においては、表1、表2、又は表3に記載のアミノ酸配列の少なくとも1つの少なくとも一部、又は表1、表2、又は表3に記載のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列の少なくとも一部をコードする核酸分子を含むベクターが提供される。特定の実施形態においては、表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つの少なくとも一部、又は表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つと実質的に同一のアミノ酸配列の少なくとも一部をコードする核酸分子を含むベクターが提供される。
別の態様では、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体のアミノ酸配列をコードする1つ又は複数の核酸分子を含むベクターを含む少なくとも1つの宿主細胞が提供される。特定の実施形態においては、表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つの少なくとも一部、又は表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つと実質的に同一のアミノ酸配列の少なくとも一部をコードする核酸分子を含むベクターを含有する宿主細胞が提供される。特定の実施形態においては、少なくとも1つの宿主細胞は、ベクターの発現及びベクターによってコードされる抗TMPRSS6抗体又はその抗原結合フラグメントの組換え産生をサポートすることが可能である。特定の実施形態においては、少なくとも1つの宿主細胞は、表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つの少なくとも一部、又は表1、表2、又は表3に記載のHC又はLC配列の少なくとも1つと実質的に同一のアミノ酸配列の少なくとも一部をコードする核酸分子を含むベクターによってコードされた抗TMPRSS6抗体又はその抗原結合フラグメントのベクター発現及び組み換え産出をサポートすることが可能である。特定の実施形態においては、宿主細胞は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体又はその抗原結合フラグメントのアミノ酸配列をコードする1つ以上の核酸分子を含むベクターで一過性にトランスフェクトされ、宿主細胞は、ベクターの発現及びベクターによってコードされる抗TMPRSS6抗体又はその抗原結合フラグメントの組換え産生をサポートすることが可能である。
本発明は、TMPRSS6と結合する新規な抗体及びその抗原結合フラグメント、並びにTMPRSS6と結合する抗体の作製方法及び使用方法に関する。
用語/定義
本発明に関連して使用される科学技術用語は、特に定義されない限り、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。単数形の用語(「a」又は「an」又は「the」又はその他の単数形の用語の使用)の使用は、文脈上明らかに異なることが指示されない限り、複数の参照を含み、複数の用語は単数形を含むものとする。したがって、例えば、「抗体」への言及は、「1つ又は複数の」抗体又はそのような抗体の「複数」を含む。本開示に記載されたすべての出版物は、その全体が参照により本明細書に援用される。
一般に、本開示にて開示される抗体、抗原結合フラグメント、組成物、及び方法には、当業者が利用可能な分子生物学、微生物学、細胞及び組織培養、タンパク質及びヌクレオチド化学、ならびに組み換えDNA技術の命名法及び技術を採用することができる。本開示に記載の技術及び手順は、一般に、当該技術分野で周知の従来の方法に従い、様々な一般的且つより具体的な参考文献、特に、Sambrookら(1989)MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.)及びAusubelら(1994) CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,Volumes I-III(John Wiley&Sons,N.Y.)に記述されているように実施される。酵素反応及び精製技術は、本開示に特に明記しない限り、製造業者の仕様書若しくは当該技術分野で一般的に達成される方法、又は本開示に記載の方法に従って実施される。医薬品の調製及び製剤、ならびに対象の治療に関する技術及び方法は、従来の命名法を用いて本開示に記載される。
「抗体」とは、広義には、1つ以上の免疫グロブリン可変領域を通じて抗原を認識し結合するポリペプチド又はポリペプチドの組み合わせを指す。ここで免疫グロブリン可変領域は、天然に存在するか、あるいは例えば、工学、キメラ化、ヒト化、最適化、CDR-グラフト化、又はアフィニティ成熟の結果として非天然に存在するかは問わない。
本開示にて開示される「抗体」は、全体(無傷、全長)抗体、単鎖抗体、又は1本もしくは2本の鎖を有する抗原結合フラグメントであり、天然由来のものであっても非天然由来のものであってもよい。抗体は、フレームワーク領域(FR)が点在する少なくとも十分な相補性決定領域(CDR)とを有し、抗原を認識し結合することができる。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、単鎖可変フラグメント(scFv)、アプタマー、単一ドメイン抗体(VHH又はナノ体)、組み換え抗体、抗体にペプチド/他の部位が付加した改変抗体、及び/又はN末端又はC末端にアミノ酸を追加した改変抗体、又はその他のTMPRSS6結合フラグメント又はバリアントのうち少なくとも1つであってよいが、これらに限定されない。全抗体、全長抗体、無傷抗体、天然由来の抗体、又は同等の用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重鎖(HC)と2本の軽鎖(LC)を含むポリペプチド、特に糖タンパク質を指すものと理解されている。各HCは重鎖可変領域(VH)とHC定常領域(CH)とからなり、各軽鎖は軽鎖可変領域(VL)とLC定常領域(CL)とからなる。HCとLCの可変領域であるVHとVLには、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。VH及びVL領域はさらに、超可変性を特徴とするCDR領域と、一般的に保存度の高いFR領域とに分けることができる。各VH及びVLは、通常、アミノ末端からカルボキシ末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置された3つのCDRと4つのFRから構成されている。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞や古典的補体系を含む宿主組織や因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。典型的には、抗体は少なくとも重鎖(HC)CDR1、CDR2、CDR3及び軽鎖(LC)CDR1、CDR2、CDR3配列を含み、これらの配列のいずれか1つは天然又は非天然に存在し得るものである。抗体は、抗原を認識し結合することができれば、CDR配列の数は少なくてもよい。
本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、少なくとも1つの変化したCDR又はフレームワーク配列を含むバリアントであってもよく、CDR及び/又はフレームワーク配列は、かかるフレームワーク配列をコードする核酸分子を変異させることによって最適化されてもよい。また、HC部分とLC部分がそれぞれ独立に異なるソースに由来するバリアントを構築することも可能である。バリアントを作成する技術には、保存的アミノ酸置換、コンピュータモデリング、候補ポリペプチドの単独又は組み合わせによるスクリーニング、及びコドン最適化が含まれるがこれらに限定されず、当業者は必要に応じて抗体バリアントを作成することができることが理解されよう。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、フラグメントであってもよい。抗体の抗原結合機能は、Fabフラグメント、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる1価のフラグメント、F(ab)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド結合した2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメント、VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント、抗体の片腕のVLドメイン及びVHドメインからなる一本鎖可変フラグメント(scFv)、VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)フラグメント、単離したCDR(VHH、ナノボディ)、又はアプタマーなどのセグメントによって果たすことができる。抗原結合部分は、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR及びbis-scFvに組み込むことができる(例えば、Hollinger and Hudson,2005,Nature Biotechnology,23,9,1126-1136を参照)。抗体の抗原結合部分をポリペプチドに基づく足場にグラフト化し、モノボディを形成することができる(例えば、フィブロネクチンポリペプチドモノボディを記載した米国特許第6,703,199号を参照のこと)。
抗体という用語は、生化学的に区別できる様々な広範なクラスのポリペプチドを包含する。抗体の「クラス」とは、その重鎖が持つ定常ドメインや定常領域の種類を指す。当業者であれば、抗体には5つの主要なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分けられ、それぞれが十分に特徴づけられ、機能的特殊性を付与することが知られていると理解する。これらのクラス及びアイソタイプのそれぞれの改変バージョンは容易に識別可能であり、本開示の範囲内である。すべての免疫グロブリンクラスが本開示の範囲内にあるが、本開示は、免疫グロブリン分子のIgGクラスに対して主に向けられるであろう。
キメラ抗体とは、免疫反応部位の形成に関与する重鎖(HC)及び/又は軽鎖(LC)の一部が特定の供給源又は種に由来し、一方HC及び/又はLCの残りが異なる供給源又は種に由来する抗体のことを指す。特定の実施形態においては、標的結合領域又は部位は非ヒト由来(例えば、マウス又は非ヒト霊長類)であり、定常領域はヒトである。
本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という語は、非ヒト抗体、典型的にはマウスモノクローナル抗体由来の抗体又は抗体バリアントを指し、親である非ヒト抗体由来のCDRは、ヒト免疫グロブリンフレームワーク、特にアクセプターヒトフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク由来の可変領域を含むフレームワークにグラフト化(融合化)されている。ヒト化抗体の設計、作製、試験のための技術や原理が知られている(Jones PT,Dear PH,Foote J,Neuberger MS,Winter G. Replacing complementarity-determining regions in human antibody with those from a mouse. Nature.1986 May 29-Jun 4;321(6069):522-5;Almagro JC,Fransson J.Humanization of Antibodies.Front Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-33)。標的に対する高い親和性、低いクリアランス、低毒性など、所望の用途に応じて改善された特徴を有するヒト化抗体を開発するために、複数の位置でアクセプターフレームワークに変更を加えることができることが理解される。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヒト化バリアントであってもよい。
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の1つの結合部位とその結合相手(例えば、抗原)の間の非共有結合相互作用の総和の強さを指す。特に断りのない限り、本開示で使用する結合親和性は、結合ペア(例えば、抗体と抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する内在性結合親和性を指す。親和性は、本開示に記載されたものを含む、当該技術分野において既知の一般的な方法によって測定することができる。最大結合の約50%が結合する計算濃度(計算上のEC50)を親和性の推定値として使用することができる。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(Kd又はKD、相互作用について測定されたkoff/konを表す)で表すことができる。
「対象」は哺乳類であり、哺乳類には、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、家畜(例えば、牛、羊、猫、犬、豚、ラマ、馬)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態においては、対象はヒトである。「それを必要とする対象に」又は「それを必要とする患者に」又は「治療を必要とする患者に」又は「治療を必要とする対象に」という句は、鉄過剰症の治療のために、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の投与から利益を得るであろう対象者を含むことができる。抗TMPRSS6抗体の投与が「それを必要とする対象」への投与を包含することは、症状、家族歴、遺伝子型などの指標に基づいて、鉄過剰症、特にβサラセミアを有することが知られている、又は疑われている対象を指すと解釈できることが理解される。さらに、抗TMPRSS6抗体は、鉄代謝の障害を有することが知られていない又は疑われていない対象に、予防又は予防目的、スクリーニング目的、診断目的、研究目的、又は障害の治療とは異なる結果を得るために投与することができるが、目的はこれらに限定されない。
抗TMPRSS6抗体の「有効量」とは、例えば、医薬製剤において、所望の治療又は予防効果を得るために必要な投与量及び期間で有効な量を意味する。「有効量」とは、測定対象である細胞、組織、システム、非ヒト動物対象、非ヒト哺乳類対象、又はヒト対象の生物学的反応、又は望ましい治療効果を引き出す、抗TMPRSS6抗体又は抗TMPRSS6抗体を含む医薬組成物の量を指すことが意図されていると理解される。「治療的有効量」、「薬理学的有効量」、及び「生理学的有効量」という用語は、血流中又は標的組織内での活性成分の閾値レベルを提供するために必要な抗TMPRSS6抗体の量を指すために互換的に使用される。正確な量は、多くの要因、例えば、特定の抗TMPRSS6抗体(活性剤)、組成物の成分及び物理的特性、治療される対象/患者の意図された集団、対象の病状、年齢、性別及び体重などの考慮事項等に依存し、当業者は、本開示に提供される情報又は関連文献で入手可能な他の情報に基づき容易に決定することが可能であろう。この文脈において使用される「改善」、「増加」又は「減少」という用語は、本開示に記載の治療の開始前の同じ対象における測定値、又は本開示に記載の治療がない場合の対照個体(又は複数の対照個体)における測定値などの、基線測定値に対する値又はパラメータを示している。
「医薬組成物」又は「医薬製剤」という用語は、そこに含まれる有効成分、特に抗TMPRSS6抗体の生物活性を有効にするような形態にある製剤を意味する。医薬組成物は、2つ以上の有効成分、例えば、2つ以上の抗TMPRSS6抗体、又は別の標的に作用する別の活性成分と抗TMPRSS6抗体との組み合わせを含んでもよいことが理解される。ここで、そのような組み合わせは、限定されないが、抗TMPRSS6抗体と、造血過程、特に赤血球生成への所望の効果を有する別の有効成分との組み合わせ、抗TMPRSS6抗体と、HBB遺伝子を標的とした遺伝子治療を行う薬剤などの遺伝子治療剤との組み合わせ、又は抗TMPRSS6抗体と、TGFスーパーファミリーリガンドを標的とし赤血球生成を促進するFc融合タンパク質との組み合わせ、などであってもよい。「薬学的に許容される担体」とは、医薬製剤中の有効成分以外の成分で、対象に無毒なものを指す。薬学的に許容される担体は、限定されないが、緩衝剤、賦形剤、安定剤、アジュバント、又は防腐剤であり得ることが理解される。
本明細書で使用される「治療(処置)」若しくは「治療(処置)する」、又はその類似の用語は、定義された一連の状況において特定の対象にとって有益であるとみなされる結果を指すことができる。鉄代謝の障害を治療することは、既存の症状、障害、状態、又は疾患の進行又は重症度を低減、改善、減速、中断、阻止、緩和、停止、又は逆転することのいずれかを非排他的に指し、さらに、鉄過剰症の1つ以上の症状の発症を予防又は遅延すること、及び/又は鉄過剰症の1つ以上の症状の重症度及び頻度を少なくすることも包含し得る。用語「治療する」又は「治療する方法」又は同等物は、治療的、予防的、予防的、診断的、画像化的、及びスクリーニング的な使用を含むがこれらに限定されず、本開示に開示される抗TMPRSS6抗体の1以上の使用を包含し得る。
本開示において使用される「ベクター」という語は、ベクター配列が連結された核酸を、ベクターが導入された宿主細胞内で増殖させることができる核酸分子をいう。本開示においては、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を誘導することができるベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。
抗TMPRSS6抗体
細胞表面のTMPRSS6と結合し、鉄代謝に関与する少なくとも1つの成分、特にヘプシジンの発現異常抑制に伴う鉄過剰症に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節することができる抗体及び抗原結合フラグメントが提供される。細胞表面のTMPRSS6と結合し、ヘプシジン発現の制御に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節することができる抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジン発現の異常抑制に伴う鉄過剰症の治療方法に用いることができる。細胞表面のTMPRSS6と結合し、TMPRSS6によるヘプシジン発現の抑制を調節することができる抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジン発現の異常抑制に関連する鉄過剰症の治療方法において、TMPRSS6を治療的に標的とするために用いることが可能である。
TMPRSS6、特に細胞表面に発現するヒトTMPRSS6に特異的な抗体又はフラグメントが得られると、その鉄代謝に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節するという所望の生物活性は、当業者に公知のいくつかの方法によって試験することが可能である。
本開示において使用される「調節」若しくは「調節する」、又はその類似の用語は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体がその標的と結合するときに生じ得る1つ又は複数の効果を指し得ることが理解される。「調節する」及びその等価な表現は、考慮される成分によって異なる作用および効果を指す場合がある。すなわち、「調節」とは、鉄代謝に関与する特定の成分の活性を中和、逆転、阻害、遮断、低減、拮抗、又はその他の方法で妨害することを意味し、鉄代謝に関与する他の成分については、調節という語は、これらの成分に対して増加、増強、又はアゴニスト効果を有することを指し得る。
なお、「成分」という用語は、標的分子TMPRSS6だけでなく、鉄代謝に関与する下流のプロセスや経路も指すことができることが理解される。したがって、プロセス又は経路の意味における成分は、限定されないが、ヘプシジン発現の調節、ヘプシジン発現のTMPRSS6抑制、ヘプシジン発現のプロセス、ヘプシジン濃度の調節、ヘプシジン濃度の増加、ヘプシジンプロモーターの活性、又はTMPRSS6によるBMP/SMAD経路誘導型のヘプシジン発現の抑制、肝臓非ヘム鉄濃度の調節、脾腫に関わる1つ以上のプロセス、又は赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(HCT)、赤血球分布幅(RDW)及び赤血球生成、特に成熟赤血球の形成の調節に関わる1つ以上の造血プロセスであり得る。
本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、鉄代謝に関与する少なくとも1つの成分、特に鉄過剰症に関与する少なくとも1つの成分を治療的に標的とするために使用することができる。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジン発現の調節に関与する少なくとも1つの成分を治療的に標的とし、成分の活性を調節してヘプシジン発現の増加を達成するために使用することができる。特定の実施形態において、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、ヘプシジンプロモーターの活性を調節してヘプシジン発現の増加を達成するために使用することができる。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6を治療的に標的とし、それによって、限定されないが、肝臓非ヘム鉄濃度の調節、脾臓肥大に関与する1つ以上のプロセス、又は赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(HCT)、赤血球分布幅(RDW)、及び赤血球生成、特に成熟赤血球の生成の調節に関与する1つ以上の造血プロセスなどの、ヘプシジン発現の他の構成要素の下流活性を調節するために使用できることが理解される。
本開示にて開示された抗TMPRSS6抗体を用いて、鉄代謝に関与する少なくとも1つの成分を治療的に標的とすることにより、標的成分の正確な調節が可能となる。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体を使用して、TMPRSS6、及びヘプシジン発現の調節に関与する少なくとも1つの成分へのその下流効果を正確に標的とすることにより、現在使用中又は開発中の鉄過剰症の治療に対する他のアプローチ、例えば、鉄過剰症をさらに悪化させる可能性のある輸血、患者のコンプライアンスが低い鉄キレート、症状を管理するだけの押し付けがましい瀉血又は脾臓摘出、複数のシステムで永久的に多面的な影響を及ぼす可能性のあるHBB遺伝子を標的とする遺伝子療法、未知のオフターゲット効果を有する遺伝子療法及び遺伝子編集、鉄過剰症を管理するための鉄キレート療法の必要性を低減しない、SMADシグナルを阻害するためのTGFスーパーファミリーリガンドを標的としたFc融合タンパク質、及びヘプシジン模倣薬、TMPRSS6を標的としたアンチセンス又はiRNA薬剤など、制御や送達が困難な他のアプローチなどに関連する望ましくない効果、送達及び/又は有効性の困難、並びに規制のハードルを回避できることが理解される。正確な治療標的化のために抗TMPRSS6抗体を使用することは、併用治療のための方法及び組成物、例えば、異なる標的に作用する別の有効成分との組み合わせ、異なる標的と結合する抗体との組み合わせ、HBB遺伝子を標的とする遺伝子治療剤及び方法との組み合わせ、又は赤血球生成を刺激するTGFスーパーファミリーリガンドを標的とするFc融合蛋白との組み合わせで抗TMPRSS6抗体を用いる可能性を排除しないことが理解される。
本開示にて開示された抗TMPRSS6抗体により、各対象に合わせた治療法(例えば、投与量、投与頻度)、継続と中止が容易な治療法、および他の治療法との併用が可能な治療法を開発することができる。ある戦略的実施形態においては、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、複数の治療標的を扱うことができる他の治療法と組み合わせることができ、及び/又は併用療法におけるいずれかの治療法の短所又は望ましくない効果に対処することができる。
抗TMPRSS6抗体及びその用途の例示的な実施形態
本発明の抗TMPRSS6抗体の非限定的な例示的実施形態をここに示し、特に実施例、表、及び図に開示する。
TMPRSS6と結合可能な抗体
実施例に示されるように、本発明の抗TMPRSS6抗体を同定し特徴付けるために機能カスケードを使用することができる。カスケードの第一ステップは、TMPRSS6を発現する細胞の表面上でヒトTMPRSS6に結合することができる抗体をスクリーニングすることを含み(実施例1、図1)、次いで第二ステップでは、TMPRSS6を発現する細胞の表面上でヒトTMPRSS6に結合し、鉄代謝に関与する成分の活性を調節することができる抗体を同定することを含み、この場合、ヘプシジン(HAMP)プロモーター活性を増加する能力について試験する(実施例2)。図1に示す例示的な実施形態によって示されるように、第1ステップでは、TMPRSS6を発現する細胞の表面上でヒトTMPRSS6に結合することができる143個の抗体(クローン)を同定し、第2ステップでは、(スクリーニングされた143個のうち)10個の抗体をヘプシジン(HAMP)プロモーター活性を増大することができた「活性」抗体(クローン)として同定した。
機能カスケードの第3段階(図1)において、10個の「活性」抗体を試験して、さらなる研究に関連するソースからの非ヒトTMPRSS6標的との交差反応性について調べた。すなわち、マウスモデルにおける前臨床効力試験に関連するマウスTMPRSS6との交差反応性について試験し、毒性(安全性)試験に関連するカニクイザルTMPRSS6との交差反応性について試験した。図1に示す例示的な実施形態によって実証され、実施例4で示され、図4に示されるように、(スクリーニングした10のうち)3つの(3)クローンが少なくとも1つの非ヒトTMPRSS6と交差反応を示し、MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003と名付けられた。各モノクローナル抗体の配列を決定し、各HC及びLC上のCDRを特定した(カバット(Kabat)の番号付け)。HC及びLC配列は、以下のように同定された。MWTx-001(配列番号61(HC)及び63(LC))、MWTx-002(配列番号65(HC)及び67(LC))、及びMWTx-0039配列番号69(HC)及び71(LC))。MWTx-001モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株は、2020年5月27日に、ブダペスト条約の条項に基づいて、ATCC Accession No.PTA-126759の下、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection (ATCC(登録商標))), 10801 University Boulevard,Manassas,Virginia,20110,米国に寄託されている。MWTx-002モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株は、2020年5月27日に、ブダペスト条約の条項に基づいて、ATCC Accession No.PTA-126760の下、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection (ATCC(登録商標))),10801 University Boulevard,Manassas,Virginia,20110,米国に寄託されている。MWTx-003モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株は、2020年5月27日に、ブダペスト条約の条項に基づいて、ATCC Accession No.PTA-126761の下、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection(ATCC(登録商標))),10801 University Boulevard, Manassas,Virginia,20110,米国に寄託されている。
ヒト化バリアント
ヒト由来抗体フレームワークに非ヒト源由来のCDRをグラフト化したものを含むヒト化抗体は、ヒトに投与した場合、非免疫原性が期待される。実施例2に開示される例示的な実施形態によって実証されるように、ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントは、首尾良く生成、試験、最適化、及び選択された。各HC又はLCバリアントにおいて、CDRの配列は同じだが、可変領域のフレームワークの配列がフレームワークの90%以上の位置で異なる複数のHC及びLCバリアント候補を開発し、これらのバリアントを異なるHC/LCの組み合わせで試験し、望ましい特徴を持つ組み合わせを同定した。初期設計と試験の後、限定されないがアスパラギン酸異性化などの潜在的な望ましくない事象を回避するための一部の親CDR配列の改変や及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)の最小化など所望の機能を達成するための一部の定常領域(Fc)の改変を行い、所望の抗原結合親和性を示したバリアントをさらなる評価と開発のために選択し、ヒト化バリアントhzMWTx-001Var(配列番号73(HC)及び75(LC))、hzMWTx-002Var(配列番号77(HC)及び79(LC))、及びhzMWTx-003Var(配列番号81(HC)及び83(LC))に到達した。
ヘプシジンプロモーター活性を増加させる抗TMPRSS6抗体
本開示にて開示されるように、ヘプシジン発現の減少によって特徴づけられる鉄過剰症の治療に用いるための抗体は、ヘプシジン発現に関与する少なくとも1つの成分の活性を調節し得る。ここでその成分はヘプシジンプロモーターの活性であってもよい。実施例2に開示されたin vitroアッセイを用いた例示的な実施形態によって実証されたように、抗TMPRSS6抗体MWTx-001、MWTx-002、MWTx-003、hzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003Varは用量依存的にHAMPプロモーター活性を増加し(図2A~2F)、同じ濃度のアイソタイプコントロールはHAMPプロモーター活性を増加しないことが示された。
関連する生物学的状況において標的に対して高い親和性を有する抗TMPRSS6抗体
抗TMPRSS6抗体は、生物学的に適切なターゲット、すなわち細胞表面に発現しているヒトTMPRSS6に対して高い親和性を示した。実施例3及び図3Mに開示された3つの異なる方法を用いた親和性測定の例示的な実施形態によって示されるように、モノクローナル抗体MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003、並びにヒト化バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003Varは、治療的に有効な抗体又は抗体フラグメントに対して好適な親和特性を常に示している。
非ヒト標的との交差反応性を有する抗TMPRSS6抗体
治療上有用な抗体又は抗体フラグメントは、抗体又は抗体フラグメントは、例えば、マウス相同体、及び/又はカニクイザル由来のような霊長類相同体を認識するように、前臨床有効性研究、疾患動物モデル、毒性研究などのさらなる研究に関連するであろう供給源からの非ヒト標的(非ヒト同族体)と十分な交差反応性を有することが望ましい。実施例4に開示された例示的な実施形態によって実証されたように、MWTx-001、hzMWTx-001Var、MWTx-003、及びhzMWTx-003VarはマウスTMPRSS6と検出可能な交差反応性を示し、一方、MWTx-001、MWTx-002、MWTx-003、hzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003VarはカニクイザルTMPRSS6と検出可能な交差反応性を示した。
抗TMPRSS6抗体は、TMPRSS6(マトリプターゼ-2)に特異的に結合する
標的タンパク質への特異的な結合が高く、同一生物内の相同タンパク質との交差反応性が低い抗体は、オフターゲット効果が低いか、全くないことが予想される。ここで提供される抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)に対して高い特異性を示し、それにより標的組成物及び方法への使用に適している。実施例5に開示され、図5A~Rに示される例示的な実施形態によって実証されるように、モノクローナル抗体MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003、並びにそれらのヒト化バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003VarはヒトTMPRSS6(マトリプターゼ2)への結合を特異的に示し、同種のヒトマトリプターゼとの交差反応性は示さなかった。すなわち、これらの抗体は、マトリプターゼ-1(ST14)やマトリプターゼ-3(TMPRSS7)に対して検出可能な結合を示さなかった。
鉄過剰症に関連するホルモン及び症状に対するin vivo投与量依存的な効果を有する抗TMPRSS6抗体
鉄の吸収と貯蔵鉄からの移動を制御するホルモンである血清ヘプシジンの濃度を増加させることができる抗体は、鉄過剰症の症状の軽減、改善、又は予防、特に血清鉄濃度の上昇の症状の軽減、改善、又は予防が期待される。実施例6に示す例示的な実施形態によって実証されるように、抗TMPRSS6モノクローナル抗体MWTx-003又はヒト化バリアントhzMWTx-003Varを野生型の対象、すなわち、鉄過剰症であることが知られていない又は疑われていない対象に投与すると、アイソタイプ対照と比較して、血清ヘプシジン濃度の増加(図6A~6C)、血清鉄濃度の減少(図6D~6F)、及び肝臓ヘプシジンRNA濃度の増加(図6G~6I)がもたらされることを示した。これらの効果は用量依存的であり、これは、作用機序にとらわれることなく、抗TMPRSS6抗体の用量依存的なin vivo効果が、当業者が所定の対象に対して有効量(投与量)を決定できることを示していると解釈することができる。
βサラセミア病モデルにおいてin vivoで有効な抗TMPRSS6抗体
鉄過剰症の動物モデルを示す対象、すなわち鉄過剰症であることが知られている、又は疑われている対象に投与することにより、in vivoで鉄過剰症の症状を緩和することができる抗体および抗体フラグメントは、臨床における治療効果が期待されるものである。βサラセミアのTh3/+マウスモデルを用いた実施例7に示す例示的な実施形態によって実証されるように、アイソタイプコントロールと比較して、抗TMPRSS6モノクローナル抗体MWTx-003を投与することにより、肝臓非ヘム鉄の減少、血清ヘプシジンの増加、肝臓ヘプシジンRNAの増加、脾臓肥大の抑制、赤血球数(RBC)の増加、ヘマトクリット(HCT)の増加、赤血球分布幅(RDW)の減少、成熟赤血球の産生増加(赤血球造血の増加)などの複数の効果が生じた。これらの効果は、それぞれ障害の症状の改善として理解することができる。本疾患の症状は、限定されないが、肝臓(肝臓非ヘム鉄、肝臓ヘプシジンRNAへの影響)、血液(血清鉄濃度、循環ホルモン濃度、特に血清ヘプシジン濃度、RBC、HCT、RDWへの影響)、脾臓の大きさ及び機能(脾腫)、並びに、限定されないが、骨髄及び脾臓を含む複数の部位における赤血球生成(赤血球生成部位における異なる前駆細胞型の存在量及び成熟赤血球の存在量に対する影響)などを含む複数の生体系で発現する。抗TMPRSS6抗体の投与により、疾患モデル対象の複数の症状が改善され、測定された症状レベルは、疾患モデルのアイソタイプ対照(未治療疾患)に見られるレベルから、疾患であることが知られていない、又は疑われていない遺伝的に類似した対象の正常レベルを示す野生型同腹子に見られるレベルへと移行した。理論や作用機序にとらわれることなく、無効造血は、鉄吸収の増加や鉄過剰症をもたらすヘプシジンの異常抑制の原動力であり、赤芽細胞の分化や赤血球への成熟を改善する治療は、鉄過剰症治療のために治療的に有益であると理解される。非限定的な本例示的実施形態は、赤芽球の分化及び赤血球への成熟を増加させ、さらに鉄の負荷を減少させる抗TMPRSS6抗体療法を開示する。
組成
本発明の抗TMPRSS6抗体の安全かつ有効な量と、各組成物の使用目的に適した薬学的に許容される担体又は賦形剤(複数可)とを含む組成物が提供される。このような担体としては、生理食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール、賦形剤、安定剤、防腐剤、又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。医薬製剤は投与形態に合わせるべきと理解される。
本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、限定されないが注射又は非経口注入などの任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下投与、又は肝臓への非経口投与が含まれ得る。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、標的組織に局所的に送達するために、肝組織又は血管系への導入のために処方することができる。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、デバイスを使用して、又はデポとして、あるいは徐放性製剤(例えば、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックス、又はマイクロカプセル)で投与することができ、遅い、及び/又は測定された、及び/又は局所的に送達することが可能である。本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体は、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)を使用して又はマクロエマルジョン中において、処方及び投与することができる。
方法
本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量を用いる、鉄代謝の障害を治療するための方法が提供される。特定の作用機序に拘束されることを望むことなく、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体を用いてTMPRSS6を標的とするために提供される方法は、複数の下流効果、特に鉄代謝及び赤血球生成に関与する成分(分子、システム、プロセス)に対する効果をもたらす。特定の作用機序に拘束されることを望むことなく、鉄代謝に関与する成分の活性を調節するために、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量を用いる、鉄代謝の障害を治療するための方法が提供される。特に、βサラセミア、特に、限定されないが、非輸血依存性サラセミア、MDS(骨髄異形成症候群)、赤芽球性貧血、及び鉄芽球性貧血を含み得る無効造血に関連するかそれによって特徴付けられる障害を含む、組織及び器官の鉄過剰蓄積に伴う鉄過剰障害の治療のための方法が提供されている。単一の作用機序に限定されることなく、ヘプシジン発現を増加させることができる抗TMPRSS6抗体を投与することにより、ヘプシジン低値を伴う鉄過剰症、特にヘプシジン発現抑制を伴う疾患(ヘプシジン発現の異常抑制が関与している疾患又は状態を含む)を治療する方法が提供される。
本開示にて提示される鉄代謝障害の治療方法は、有効量の本開示に開示する抗TMPRSS6抗体を、それを必要とする対象に投与することを含み、抗TMPRSS6抗体の有効量の投与により、鉄代謝に関与する生物学的作用(症状)の少なくとも一つが改善される。抑制されたヘプシジン濃度に関連する鉄代謝の障害を治療するための方法が提供され、それを必要とする対象に本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体の有効量を投与すると、ヘプシジンプロモーター活性の増加、ヘプシジン転写の増加、ヘプシジンRNA濃度の増加、及びヘプシジン濃度(特に血清ヘプシジン濃度)の増加の少なくとも1つがもたらされる。鉄過剰症を有することが知られている又は疑われている対象を治療するための方法が提供され、ここで有効量の抗TMPRSS6抗体を投与することにより、限定されないが、肝臓非ヘム鉄の減少、血清ヘプシジンの増加、肝臓ヘプシジンRNAの増加、脾腫の減少、赤血球数(RBC)の増加、ヘマトクリット(HCT)の増加、赤血球分布幅(RDW)の減少、成熟赤血球の生成の増加(赤血球造血の増加)などの1以上の生物学的効果をもたらす。無効造血によって特徴付けられる、鉄過剰症を有することが知られている又は疑われている対象を治療するための方法が提供され、ここで有効量の抗TMPRSS6抗体を投与することにより、限定されないが、肝臓非ヘム鉄の減少、血清ヘプシジンの増加、肝臓ヘプシジンRNAの増加、脾腫の減少、赤血球数(RBC)の増加、ヘマトクリット(HCT)の増加、赤血球分布幅(RDW)の減少、成熟赤血球の生成の増加(赤血球造血の増加)などの1以上の生物学的効果をもたらす。
鉄代謝の障害、特に鉄過剰障害、さらに特に無効造血によって特徴付けられる鉄過剰障害を治療するための方法及び組成物が提供され、ここで有効量の抗TMPRSS6抗体の投与により、障害に関連する1つ以上の生物学的効果又は症状を治療又は改善する結果が得られる。理論や作用機序にとらわれることなく、赤血球前駆体のアポトーシスにより骨髄で産生される成熟赤血球が少ないということで特徴付けられる無効造血が、鉄吸収量の増加や鉄過剰を引き起こすヘプシジンの異常抑制の原動力になると理解される。この理解によれば、赤芽球の分化と赤血球への成熟を改善する治療は、鉄過剰症の治療に有益であると考えられる。赤芽球の分化と赤血球への成熟の増加、鉄負荷の減少、ヘプシジン発現の増加等に対する抗TMPRSS6抗体療法の有効性は、本開示にて開示される抗TMPRSS6抗体を用いる方法及び組成物の治療上の利点を最大化する。
以下の実施例は、特許請求の範囲の発明を説明するために提供されるものであり、特許請求の範囲の発明を限定するものではない。
実施例1:抗体の作製とTMPRSS6と結合する抗体の同定
TMPRSS6に対する新規モノクローナル抗体の作製は、LakePharma Discovery Immunologyグループ(LakePharma, Inc. San Carlos,CA)の委託により、in vivo齧歯類免疫化及びハイブリドーマ技術を用いて行われた。pLEV113_huTMPRSS6およびpLEV113_moTMPRSS6-TCEプラスミドDNA(LakePharma,Incでクローニング)の混合物を用いて、B6;SJLマウス(The Jackson Laboratories)に流体力学的遺伝子導入尾静脈注射によるDNAベースの免疫化を実施した。蛍光活性化セルソーティング(FACS)により十分な血漿中力価が得られたため、下流の抗体回収及びスクリーニング活動を開始した。NEPA GENE ECFG21 Super Electro Cell Fusion Generator(ネッパジーン株式会社、千葉県市川市)を用いて、免疫化されたマウス2匹と骨髄腫融合パートナーからプールした脾臓細胞で電融を行った。融合材料は、未融合の骨髄腫パートナー細胞よりもハイブリドーマを特異的に選択するヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン培地の384ウェルプレート合計10枚にプレーティングされた。ハイブリドーマ上清は、最初にFACS測定によりHuTMPRSS6反応性をスクリーニングし、融合後10日目にTMPRSS6発現HEK293T細胞(huTMPRSS6-(His)6(配列番号97)をコードするプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトし、TMPRSS6発現HEK293T細胞を選択した)上で陽性染色シグナルを与え、親核(HEK293T)で陰性染色を与える上清を検出した。TMPRSS6を発現するHEK293細胞で陽性染色シグナルを与え、親細胞で陰性染色シグナルを与えるハイブリドーマ上清を「ヒット」とし、さらなるスクリーニングを行った。1次FACSスクリーニングで192のヒットが確認され、2次、3次FACSスクリーニングで143のヒットが確認された。
実施例2:抗TMPRSS6抗体の機能スクリーニング、モノクローナル抗TMPRSS6抗体及びヒト化バリアントの同定、作製、及び配列決定。
HAMP-ルシフェラーゼレポーターアッセイ
ヘプシジンプロモーター・ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて、様々な抗TMPRSS6抗体に対するHAMPプロモーターの応答を測定した(Du,X.ら、2008.Science 320:1088-1092;当初開示されたようにマウスHAMPプロモーターの代わりにヒトHAMPプロモーターを使用するように改変された)。HAMP-ルシフェラーゼ報告アッセイのために、2.5kbのHAMPプロモーターフラグメント(Reference Genome GRCh38)を、ホタル・ルシフェラーゼをコードする配列の上流でスプライシングした。チミジンキナーゼプロモーター(Promega,E6931)で駆動するRenillaルシフェラーゼをコードするコントロールコンストラクトを内部コントロールとして使用した。これらのコンストラクトを、TMPRSS6をコードするコンストラクトとともに、HepG2細胞(ATCC、HB-8065)に共導入した。TMPRSS6を発現するトランスフェクトされたHepG2細胞を、最小必須培地(MEM、ATCC)+1%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Gibco)+1mMピルビン酸ナトリウム+非必須アミノ酸溶液(Gibco)+10mM HEPES(Gibco)+1%Pen/Strep(Gibco)を含む飢餓培地で希釈した種々の濃度の精製mAbで約3時間前処理を行ってから、BMP-SMAD仲介シグナルを誘発するために最終濃度25~60ng/mlの組換えhBMP6(R&D Systems)を用いて処理した。精製マウスIgG(Sigma-Aldrich)又はヒトIgG1(BioXcell)を対照として使用した。hBMP6を一晩処理した後、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ基質を添加した。ホタル・ルシフェラーゼとレニラ・ルシフェラーゼの発光測定値は、それぞれ総発光量を測定することで記録された。活性は、レニラ・ルシフェラーゼ発光(コントロール)に対するホタル・ルシフェラーゼ発光の比率として算出した。これらのアッセイの結果は、図2A~2Fに示されている。
試験管内(in vitro)での機能スクリーニング
機能的に活性なハイブリドーマをスクリーニングするために、上述のHAMP-ルシフェラーゼレポーターアッセイを使用して、143のHuTMPRSS6結合ハイブリドーマ(「ヒット」)をすべて試験した。HuTMPRSS6結合ハイブリドーマ143個のうち10個の上清がHAMPプロモーター活性を増加させ(データは示していない)、さらなる試験を受けるための「活性クローン」と同定された。これらの10個の活性クローンを、以下の実施例4に記載したように、ネズミの標的MoTMPRSS6に対する交差反応性について試験すると、FACSによって測定したところ、3個がHuTMPRSS6及びMoTMPRSS6の両方に対して結合を示した。これら3つの交差反応性クローンをさらに384ウェルプレートの192ウェルに1細胞/ウェルの密度でプレーティングしてモノクローナルハイブリドーマクローンを生成し、得られたサブクローンのうち、非ヒト標的、例えばマウスTMPRSS6(moTMPRSS6)やカニクイザルTMPRSS6(cynoTMPRSS6)に対して望ましい機能活性及び交差反応性を示したものをMWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003と同定した。
抗TMPRSS6抗体MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003の配列
MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003の配列は、各ハイブリドーマサンプルからmRNAを分離し、独自のマウスIgG特異的プライマーセットで逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行って標的可変領域を増幅し、配列決定することにより決定した。それぞれの抗TMPRSS6抗体について、固有の重鎖と軽鎖が同定された。各重鎖と各軽鎖のヌクレオチド配列が決定された。ヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列を決定し、CDR領域をカバット(Kabat)の番号付けシステムを用いて同定した。表1は、MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003のそれぞれについて、重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列、並びに(カバット(Kabat)の番号に基づく)同定したCDRのアミノ酸配列、重鎖及び軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を示す。
ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントの作製とスクリーニング
親抗体のヒト化は、ヒト抗体フレームワークへのCDRグラフト化により実施した。まず、親抗体の3次元構造のホモロジーモデリングを行い、親抗体の構造モデルを確立した。可変フラグメントフレームワークのアミノ酸配列は、全体的な配列の同一性、VH-VL界面の位置の一致性、同様に分類されたCDRの正規位置、N-グリコシル化候補部位の除去に基づいて同定された。ヒト化抗体は、親抗体の配列の選択された部分とヒトのフレームワーク配列を融合させたハイブリッド配列を複数作成することにより設計した。ヒト化抗体をフォーマットするために選択されたアイソタイプは、重鎖がIgG1、軽鎖がIgG1カッパであった。3Dモデルを用いて、これらのヒト化配列を目視とコンピュータモデリングにより方法論的に解析し、抗原結合を保持できる可能性の高い配列を単離した。最終的なヒト化抗体では、元の抗体の特異性を維持したまま、ヒト配列の量を最大化することを目標とした。その後、ヒト化VHとVLを対にしたヒト化バリアントを発現させ、親和性分析のために精製した。
親和性分析の一部としてバリアントを設計、生成、及び試験する1ラウンドにおいて、親抗体MWTX-003のVH-CDRを4つの異なるヒトIgG1由来のフレームワークの対応する位置に配置して4つのVHバリアントを作成し(配列番号89~92)、親抗体MWTX-003のVL-CDRを4つの異なるヒトIgG1カッパ由来のフレームワークの対応する位置に配置して4つのVL(VK)バリアントを作成した(配列番号93~96)。VHとVL(VK)バリアントのあらゆる組み合わせを代表する合計16のヒト化バリアントを4VHx4VKマトリックスに従って調製し、抗原結合特性(kon、koff、KD)を評価したところ、KD値は4.16E-07(~1.09E-08)とナノモルレンジにあることが判明した。
望ましい抗原結合親和性を示すバリアントが選択され、評価と開発が更に行われた。場合によっては、アスパラギン酸異性化などの潜在的な望ましくない事象を避けるために、親側のCDR配列を変更した。
抗体のエフェクター機能、特に抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を抑制するために、Fc領域の重要なアミノ酸残基を特定し、すべてのヒト化抗体バリアントについて変異(置換)させた。ADCC廃止の目標を達成するためのFc変異に関する刊行物で得られる指針が今回の変異、例えば、(Tamm A,Schmidt RE. IgG binding sites on human Fc gamma receptors. Int Rev Immunol.1997;16(1-2):57-85.doi:10.3109/08830189709045703;Jefferis R,Lund J.Interaction sites on human IgG-Fc for FcgammaR: current models.Immunol Lett.2002 Jun 3;82(1-2):57-65.doi:10.1016/s0165-2478(02)00019-6)に説明されているhIgG1におけるネイティブなFc N-結合グリコシル化部位の除去(N297A変異)、又はFcにおける下部ヒンジ領域の234位及び235位のロイシンの置換(LALA二重変異)などの変位を知らせるために使用されている。本変形例では、hzMWTx-001Var抗体及びhzMWTx-002Var抗体のFcにN297A変異を導入し、hzMWTx-003Var抗体のFcにLALA変異を導入し、ADCCの低下又は抑制という同じ目標を達成した(表3、配列番号73、77、81)。
評価の結果、ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var及びhzMWTx-003Varがさらなる試験に選ばれた。ヒト化バリアントの配列と特徴を以下の表2及び表3に示す。
ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントの組み換えによる作製
ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントの発現コンストラクトは、LC-コードDNA配列とHC-コードDNA配列との間に内部リボソーム進入部位(IRES)を設けて設計し、Geneart DNA合成によりコドンを最適化し、pcDNA3.4哺乳類発現ベクター(ThermoFisher)にクローン化した。挿入されたDNAの配列はシークエンシングによって確認された。組換え抗体作製には、ExpiCHO発現システム(ThermoFisher)を用いて、製造者の指示に従い、発現コンストラクトを一過性トランスフェクションに使用した。発現した抗体は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。一過性トランスフェクションからの抗体産生量は1リットルあたり50mgから300mgで、純度は95%以上、エンドトキシン値は1EU/ml以下であった。
ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003Varの配列
ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var及びhzMWTx-003Varがさらなる試験に選ばれた。各可変領域の配列を以下の表2に示す。ここで、同定されたCDRは下線で示され、親抗体と比較してヒト化バリアントCDR配列に加えられた変更が示され、考察されている。
表3は、抗TMPRSS6モノクローナル抗体MWTx-001、MWTx-002、及びMWTx-003、並びにヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003Varの重鎖及び軽鎖タンパク質並びにヌクレオチド配列の完全版を示している。ヒト化抗TMPRSS6抗体バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、及びhzMWTx-003Varの重鎖タンパク質配列は、上述のようにADCCを低下させるために導入された変異(変化)の位置を示している。
抗TMPRSS6抗体のHAMPプロモーター活性に対する用量依存的な影響
図2A~2Fは、MWTx-001、MWTx-002、MWTx-003及びそれらのヒト化バリアントhzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var、hzMWTx-003Varをそれぞれ示した濃度で試験するために上述のHAMPルシフェラーゼ報告アッセイを用いた結果を示している。MWTx-001(図2A)、MWTx-002(図2B)、MWTx-003(図2C)及びヒト化バリアントhzMWTx-001Var(図2D)、hzMWTx-002Var(図2E)、hzMWTx-003Var(図2F)は、用量依存的にHAMPプロモーター活性を増加させる。MWTx-001のEC50は3μg/mlと算出された(図2A)。MWTx-002のEC50は1μg/mlと算出された(図2B)。MWTx-003のEC50は2μg/mlと算出された(図2C)。hzMWTx-001VarのEC50は0.8μg/mlと算出された(図2D)。hzMWTx-002VarのEC50は0.3μg/mlと算出された(図2E)。hzMWTx-003VarのEC50は0.3μg/mlと算出された(図2F)。
実施例3:抗TMPRSS6抗体の結合親和性
HEK293T細胞上に発現したヒトTMPRSS6に対する様々な抗TMPRSS6抗体の結合親和性を、3つの異なる方法:細胞表面ELISA(図3A~3C)、FACS(図3D~3F)、及びバイオレイヤー干渉法(図3G~3M)を使用して測定した。
細胞表面ELISAを用いた抗TMPRSS6 mAbの結合親和性測定
ヒトTMPRSS6(上述のようにLakePharma Incによって生成された;配列番号97)を安定的に発現するHEK293T細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、dPBS(Dulbeccoのリン酸緩衝食塩水、Corning Cellgro)で洗浄してからBSA培地(DMEM+1%Pen/Strep+10mM HEPES+1mg/ml BSA(Sigma-Aldrich))で希釈した種々の濃度の抗TMPRSS6抗体とともにインキュベートした。コントロールとして精製マウスIgGを使用した(Sigma-Aldrich)。インキュベーション後、細胞をBSA培地で洗浄し、続いて2°抗体としてHRPを結合したヤギ抗マウスIgGでインキュベーションした(Invitrogen)。最後に、細胞をdPBSで洗浄して未結合の抗体を除去し、ELISA液体基質(Sigma-Aldrich)で発色させ、その後、同量の1M H2SO4のELISA液体基質を加えて反応を停止させた。結合した抗体はOD450nmの吸光度で測定した。これらのアッセイの結果を図3A~3Cに示す。
FACSを用いた抗TMPRSS6 mAbの結合親和性測定
ヒトTMPRSS6を安定的に発現しているHEK293T細胞を回収し、dPBS+3%BSAでブロッキングしてから、dPBS+3%BSAで希釈した様々な濃度の抗TMPRSS6抗体とインキュベートした。コントロールとして精製マウスIgGを使用した。インキュベーション後、細胞をdPBSで洗浄し、続いて2°抗体(Jackson ImmunoResearch Inc)としてAPCを結合したヤギ抗マウスIgGでインキュベーションした。最後に、細胞をdPBSで洗浄して未結合の抗体を除去し、dPBS+1mM EDTAで再懸濁した後、NOVOCYTE(登録商標)Flow Cytometer(ACEA Biosciences,Inc.,San Diego CA)を用いてFACS分析を実施した。結合した抗体は、640nmで励起し、675nmで発光(蛍光)させた後、平均APC強度を測定することにより決定した。これらのアッセイの結果を図3D~3Fに示す。
Bio-Layer Interferometryを用いた抗TMPRSS6抗体のアフィニティ及び結合速度の測定
抗TMPRSS6抗体のアフィニティ測定及び結合速度測定には、Octet(登録商標) RED96e system(Sartorius AG)を用いたBio-Layer Interferometry技術が使用された。予め水和させた抗マウスIgGFc捕捉(AMC)バイオセンサー(MWTx-001、MWTx-002、MWTx-003抗TMPRSS6抗体用、図3G~3I)又は抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサー(hzMWTx-001Var、hzMWTx-002Var及びhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体用、図3J~3L)をまず1xKB(キネティック緩衝液、1xPBS pH7.4+0.02%Tween-20+0.1%BSA)中で120秒間平衡化し、最初のベースラインとし、その後、10mg/ml抗TMPRSS6抗体(MWTx-001、図3G;MWTx-002、図3H;MWTx-003、図3I;hzMWTx-001Var、図3J;hzMWTx-002Var、図3K;hzMWTx-003Var、図3L)AMC又はAHCバイオセンサーに240秒間ローディングした。次に、120秒間のセカンドベースラインシグナルを確立した後、様々な濃度のhuman ecto-TMPRSS6-FLAG(配列番号102)(ヒトTMPRSS6の細胞外ドメインを、C末端でFLAGタグと融合させることにより内製した)と240秒間会合させた。最後に、1xKBで360秒間、分析物を溶解した。データ解析は、Octet Data Analysis HT Softwareを用いて行った。KD、kon、koff及びR2を図3Mにまとめた。
実施例4:交差反応性:ヒトTMPRSS6及び非ヒトTMPRSS6に対する抗TMPRSS6抗体の結合
FACSによる交差反応性判定
選択した抗TMPRSS6抗体が、マウス及び/又はカニクイザル由来のTMPRSS6に結合できるかどうかをテストした。ヒトTMPRSS6(HuTMPRSS6-(His)6)を安定的に発現するHEK293T細胞(上述のようにLakePharma Incによって生成)、マウスTMPRSS6(MoTMPRSS6-(His)6)を安定的に発現するHEK293T細胞(配列番号98)(上述のようにLakePharma Incにより生成)、及びカニクイザルTMPRSS6(CynoTMPRSS6-(His)6)(配列番号99)(内製)を一過性に発現するHEK293T細胞を収集した。ヒトTMPRSS6を安定発現しているHEK293T細胞を陽性対照として、HEK293T細胞を陰性対照として使用した(上述)。細胞をdPBS+3%BSAでブロッキングしてから、dPBS+3%BSAで希釈した抗TMPRSS6抗体とインキュベートした。インキュベーション後、細胞をdPBSで洗浄し、続いて2°抗体(Invitrogen)としてAlexaFluor-488を結合したヤギ抗マウスIgGで再度インキュベーションした。最後に、細胞をdPBSで洗浄して未結合の抗体を除去し、dPBS+1mM EDTAで再懸濁した後、NOVOCYTE(登録商標) Flow Cytometer(ACEA Biosciences, Inc.,San Diego CA)を用いてFACS分析を実施した。結合した抗体は、488nmで励起し、530nmで発光(FITC-A)を測定することにより決定された。これらのアッセイの結果を図4A~4Iのヒストグラムプロットに示す。マウスTMPRSS6との交差反応性は、MWTx-001(図4D)及びMWTx-003(図4F)で観察されたが、MWTx-002(図4E)はマウスTMPRSS6との検出可能な交差反応性を示さなかった。カニクイザルTMPRSS6との交差反応性は、MWTx-001(図4G)、MWTx-002(図4H)及びMWTx-003(図4I)について観察された。
細胞表面ELISA法による交差反応性判定
マウスTMPRSS6(上述のようにLakePharma Incにより生成された。図4J、4L、4N、4P、4R、4T)又はカニクイザル(上述のように内製した。図4K、4M、4O、4Q、4S、4U)を安定的に発現するHEK293T細胞をメタノール(100%)で固定し、dPBS(ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水、Corning Cellgro)で洗浄してから、BSA培地(DMEM+1%Pen/Strep+10mM HEPES+1mg/ml BSA(Sigma-Aldrich))で希釈した種々の濃度の抗TMPRSS6抗体及びそれらのヒト化バリアントとインキュベーションした。精製マウスIgG(図4J~4O)又はヒトIgG1(図4P~4U)を対照として使用した。インキュベーション後、細胞をBSA培地で洗浄し、次に2°抗体としてHRPで結合したヤギ抗マウス(Invitrogen、図4J~4O)又は抗ヒト(Millipore、図4P~4U)IgGと共にインキュベートした。最後に、細胞をdPBSで洗浄して未結合の抗体を除去し、ELISA液体基質(Sigma-Aldrich)で発色させ、その後、同量の1M H2SO4のELISA液体基質を加えて反応を停止させた。結合した抗体はOD450nmの吸光度で測定した。これらのアッセイの結果を図4J~4Uに示す。MWTx-001(図4J)及びMWTx-003(図4N)抗TMPRSS6抗体並びにそれらのヒト化バリアントhzMWTx-001Var(図4P)、及びhzMWTx-003Var(図4T)抗TMPRSS6抗体でマウスTMPRSS6との交差反応性が観察されたが一方、MWTx-002(図4L)抗TMPRSS6抗体又はそのヒト化バリアントhzMWTx-002Var(図4R)抗TMPRSS6抗体がマウスTMPRSS6と検出可能な交差反応性を示さなかった。MWTx-001(図4K)、MWTx-002(図4M)、及びMWTx-003(図4O)抗TMPRSS6抗体、及びそれらのヒト化バリアントhzMWTx-001Var(図4Q)、hzMWTx-002Var(図4S)、及びhzMWTx-003Var(図4U)抗TMPRSS6抗体でカニクイザルTMPRSS6との交差反応性が観察された。
実施例5:標的特異性:相同マトリプターゼに結合する抗TMPRSS6抗体。
抗TMPRSS6抗体が相同マトリプターゼに結合するかどうかを決定するために、マトリプターゼ(ST14)(配列番号100)を過剰発現するHEK293T細胞(図5B、5E、5H、5K、5N、5Q)、及びマトリプターゼ-3(TMPRSS7)(配列番号101)(図5C、5F、5I、5L、5O、5R)を過剰発現するHEK293T細胞を回収した(内製した)。ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)(配列番号97)を安定的に発現するHEK293T細胞(上述の通りLakePharma Incによって生成された。図5A、5D、5G、5J、5M、5P)を陽性対照として用い、HEK293T細胞(図5A~5R)を陰性対照(上述の通り)として使用した。dPBS+3%BSA+0.1% Tween-20で希釈した様々な抗TMPRSS6抗体とインキュベートする前に、細胞をdPBS+3%BSA+0.1%Tween-20でブロッキングし透過処理した。細胞を抗TMPRSS6抗体及びそのヒト化バリアントとともに、およそ1μg/mlの濃度で1時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をdPBSで洗浄し、2°抗体としてAlexaFluor-488と結合したヤギ抗マウスIgG(Invitrogen、図5A~5I)又はアロフィコシアニン(APC)と結合したヤギ抗ヒトIgG(Jackson Immuno Research、図5J~5R)でインキュベートした。最後に、細胞をdPBSで洗浄し、dPBS+1mM EDTAで再懸濁した後、NOVOCYTE(登録商標) Flow Cytometerを用いてFACS分析を行った。結合した抗体は、488nmで励起し、530nmで発光(FITC-A)を測定することにより(図5A-5I)、又は640nmで励起し、675nmで発光(APC-A)を測定することにより(図5J-5R)決定された。これらのアッセイの結果を図5A~5Rのヒストグラムプロットに示す。全ての抗体がヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)(図5A、5D、5G、5J、5M、5P)への結合を示し、どの抗体も相同マトリプターゼST14(図5B、5E、5H、5K、5N、5Q)又はTMPRSS7(図5C、5F、5I、5L、5O、5R)への結合は示さなかった。MWTx-001抗TMPRSS6抗体及びそのヒト化バリアントhzMWTx-001Var抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6への結合を示し(図5A、5J)、マトリプターゼ(ST14)(図5B、5K)又はマトリプターゼ-3(TMPRSS7)(図5C、5L)への結合は示さなかった。MWTx-002抗TMPRSS6抗体及びそのヒト化バリアントhzMWTx-002Var抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)(図5D、5M)への結合を示し、マトリプターゼ(ST14)(図5E、5N)又はマトリプターゼ-3(TMPRSS7)(図5F、5O)への結合は示さなかった。MWTx-003抗TMPRSS6抗体およびそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6(マトリプターゼ-2)への結合を示し(図5G、5P)、マトリプターゼ(ST14)(図5H、5Q)又はマトリターゼ-3(TMPRSS7)(図5I、5R)への結合は示さなかった。
実施例6:マウス薬力学的モデルにおける抗TMPRSS6抗体による治療
抗TMPRSS6抗体の in vivo薬力学的応答を研究するために、2~10mg/kgのMWTx-003抗TMPRSS6抗体(図6A~6B、6D~6E、6G~6H、6J~6K)又はそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体(図6C、6F、6I、6L)は野生型C57BL/6Jマウスに腹腔内注入された。マウスIgG2b(BioXcell、図6A~6B、6D~6E、6G~6H、6J~6K)又はヒトIgG1(BioXcell、図6C、6F、6I、6L)をアイソタイプコントロールとして使用した。注入後20時間経過後に、50μgのGFP-TMPRSS6プラスミドDNA(GFPベクターにヒトTMPRSS6を挿入して内製した)を流体力学的尾静脈注射により各マウスに送達した。ハイドロダイナミック注射の44時間後にマウスを安楽死させ、肝組織と血液を採取した。肝臓RNAは、Biomiga社(San Diego,CA)のEZgene Total RNA Purification Plusにより、製造者の指示に従って精製した。マウス血清は、全血を1500×g、10分間遠心分離することにより得た。
抗TMPRSS6抗体による治療が血清鉄に及ぼす影響
血清鉄は内製で開発した発色アッセイにより測定した(図6A~6C)。簡単に説明すると、マウス血清又は標準鉄(31-500μg/dL)を混合酸溶液(0.6Mトリクロロ酢酸、0.4Mチオグリコール酸ナトリウム、1M HCl)と30秒間バーテックスして混合した。混合液を37℃で10分間インキュベートした後、10,000xgで10分間遠心分離し、Color Solution(1.5M酢酸ナトリウム、0.5mMバソフェナントロリンジスルホン酸塩)で発色させた。その後、OD535nmで吸光度を読み取った。血清鉄濃度は、直線鉄標準曲線から算出した。10mg/kgのMWTx-003抗TMPRSS6抗体(図6A~6B)及びそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体(図6C)の処置により、血清鉄を有意に減少させた。
抗TMPRSS6抗体による治療が血清ヘプシジンに及ぼす影響
血清ヘプシジンは、Intrinsic Lifesciences社(La Jolla,CA)から購入したHepcidin-Murine Compete ELISAキットにより、製造者の指示に従って測定した(図6D~6F)。簡単に説明すると、希釈したマウス血清又はヘプシジン標準品をヘプシジンビオチン結合体と混合した後、抗マウスヘプシジン抗体をコートしたプレートに添加した。血清ヘプシジン又はヘプシジン標準品は、ヘプシジンビオチン結合体と競合し、コーティングされた抗ヘプシジン抗体と結合する。結合したヘプシジンビオチン結合体をストレプトアビジン結合西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)で検出し、TMBで発色させ、ストップ液で停止した。その後、OD450nmで吸光度を読み取った。データはGraphpad Prism 8で4パラメータ・ロジスティック(4-PL)カーブフィットを用いて解析し、血清ヘプシジン濃度を補間した。GFP-TMPRSS6の流体力学的送達は、血清ヘプシジン濃度を有意に減少させたが(図6D)、10mg/kgのMWTx-003抗TMPRSS6抗体(図6D~6E)及びそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体(図6F)による治療は、ヘプシジンの抑制を逆転させて血清ヘプシジン濃度を著しく増加させることがわかった。
抗TMPRSS6抗体による治療が肝臓のヘプシジンRNAに及ぼす影響
肝臓ヘプシジンRNAは、リアルタイムqPCRにより定量した(図6G~6I)。簡単に言うと、iScript Reverse Transcription Supermix(Bio-Rad)を用いて、製造者の指示に従い、肝臓のRNAからcDNAをまず合成した。ヘプシジン転写産物を表4に示す特異的プライマーで増幅し、Bio-Rad CFX96 qPCR装置で製造者の指示に従ってSsoAdvanced(商標) Universal SYBR(登録商標) Green Supermix(Bio-Rad)を用いて検出した。サンプルは3連で分析し、結果はβ-actin RNAレベル(転写、表4記載のプライマーによる増幅、及び上述の定量化により測定)で正規化した。GFP-TMPRSS6のハイドロダイナミックデリバリーは、肝臓のヘプシジンRNAを有意に減少させた(図6G)。10mg/kgのMWTx-003抗TMPRSS6抗体(図6G~6H)及びそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体(図6I)の治療により、Hampの抑制を逆転させて肝臓ヘプシジンRNA濃度を有意に増加させた。リアルタイムqPCRによるRNA定量には、以下のプライマーを用いた。ヘプシジンフォワードプライマー:5’-AAG CAG GGC AGA CAT TGC GAT-3’(配列番号85); ヘプシジンリバースプライマー:5’-CAG GAT GTG GCT CTA GGC TAT-3’(配列番号86);β-アクチンフォワードプライマー:5’-ACC CAC ACT GTG CCC ATC TA-3’(配列番号87);β-アクチンリバースプライマー:5’-CAC GCT CGG TCA GGA TCT TC-3’(配列番号88)。
MWTx-003抗TMPRSS6抗体又はそのヒト化バリアントhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体の血清濃度は、内製で開発した細胞表面ELISAによって定量した(上述、図6J~6L)。簡単に説明すると、希釈したマウス血清又は抗TMPRSS6抗体標準品を、ヒトTMPRSS6を安定発現している100%メタノール固定HEK293T細胞(HEK293T細胞はバックグラウンドコントロールとして使用)とインキュベートした。結合したMWTx-003抗TMPRSS6抗体はHRPと結合したヤギ抗マウスIgGで検出し、結合したhzMWTx-003Var抗TMPRSS6抗体はHRPと結合したヤギ抗ヒトIgGで検出した。TMBで発色させた後、停止液で止めた。その後、OD450nmで吸光度を読み取った。サンプルは3連で解析し、結果はHEK293Tコントロールに対して標準化されている。データはGraphpad Prism 8で4パラメータ・ロジスティック(4-PL)曲線フィットを用いて解析し、血清中の抗TMPRSS6抗体濃度を補間した。
実施例7:βサラセミアマウスモデルを用いた抗TMPRSS6抗体のin vivoでの有効性
抗TMPRSS6抗体のin vivoでの効果を調べるために、βサラセミアマウスモデル(B6.129P2-Hbb-b1tm1UncHbb-b2tm1Unc/J,JAX Stock No: 002683,The Jackson Laboratories,Bar Harbor ME)を選択した。これを本書ではTh3/+マウスと称する。4-5週齢のTh3/+マウスとその野生型(WT)同腹子に鉄分十分な飼料(Teklad TD.80394)を与え、Th3/+マウスに10mg/kgMWTx-003抗TMPRSS6抗体又はマウスIgG2bアイソタイプコントロールを3日おきに4週間投与し、一方WT同腹子には投与しなかった。投与コース終了後、マウスを安楽死させ、脾臓、肝臓、大腿骨及び血液サンプルを採取した。肝臓のtotal RNAを精製し、血清は上記と同様に採取した。
血球数、脾臓腫大、血清鉄、血清ヘプシジン、肝臓ヘプシジンRNAへの影響
全血球計算(CBC)は、VETSCAN HM5自動血球計数装置により実施した(図7A~7D)。MWTx-003抗TMPRSS6抗体による治療は、Th3/+マウスにおいて、赤血球数(RBC、図7A)及びヘマトクリット(HCT、図7C)を有意に増加させ、赤血球分布幅(RDW、図7D)を低減したが、ヘモグロビン(HGB、図7B)には明らかな影響を与えなかった。
脾臓重量を測定したところ、MWTx-003抗TMPRSS6抗体による治療により、Th3/+マウスの脾臓肥大が有意に抑制された(図7E)。
血清鉄は上記と同様に測定した。MWTx-003抗TMPRSS6抗体で処理すると、血清鉄が有意に減少した(図7F)。肝臓の非ヘム鉄は、同様の発色アッセイを用いて測定した(図7G)。簡単に説明すると、ミンチにした小肝組織を65℃で一晩乾燥させた後、混合酸(3M HCl、10%トリクロロ酢酸)で65℃で20時間消化した。その後、消化上清を回収し、Color Solution(1.5M酢酸トリウム、0.5mMバソフェナントロリンジスルホン酸塩)で発色させた。その後、OD535nmで吸光度を読み取った。MWTx-003抗TMPRSS6抗体で処理すると、肝臓の非ヘム鉄が有意に減少した(図7G)。
血清ヘプシジンは、上記と同様にヘプシジン-ミュリンコンピテントELISAキットを用いて測定した。MWTx-003抗TMPRSS6抗体で処理すると、血清ヘプシジンが有意に増加した(図7H)。
肝臓ヘプシジンRNAは、リアルタイムqPCRにより定量した。MWTx-003抗TMPRSS6抗体で処理すると、肝臓のヘプシジンRNAが有意に増加した(図7I)。
MWTx-003抗TMPRSS6抗体の血清濃度は、上記のように内製で開発した細胞表面ELISAによって定量した(図7J)。
赤血球生成への影響
Th3/+マウスの赤血球造血に対するMWTx-003抗TMPRSS6抗体の影響を調べるために、大腿骨から骨髄を採取し(図7K~7M参照)、脾臓から脾臓細胞を採取し(図7N~7P参照)、分析した。採取した細胞をラット抗マウスCD16/CD32(BD Biosciences)で15分間ブロックした後、FITC結合ラット抗マウスTER119(BD Biosciences)及びAPC結合ラット抗マウスCD44(Invitrogen)で30分間氷上染色をした。洗浄した細胞を、NOVOCYTE(登録商標)Flow Cytometerを用いたFACS分析の前に、氷上で10分間、生存率マーカー7-AAD(BD Biosciences)で染色した。Ter119+、7-ADD-細胞を選択し、細胞サイズに抗マウスCD44で密度プロットをグラフ化した(FSC-H)。プロットは、細胞タイプ(細胞クラスター)を特定し、各タイプ(クラスター)の存在量を決定するために分析された。図7K~7Pの代表的なプロットは、赤血球分化の連続した段階に対応する4つの異なる細胞クラスターが上から下に区別され、以下として識別されたことを示す:好塩基性赤芽球(クラスターI)、多色性赤芽球(クラスターII)、正染性赤芽球及び無核網状赤血球(クラスターIII)及び成熟赤血球(クラスターIV)。図7K-7Pに示すように、サンプル中の各クラスターのパーセンテージ(%)の値を、そのクラスター内の細胞タイプの豊富さを示す指標として算出した。各治療コースにおける各動物の各サンプル(骨髄、脾臓)について、各細胞クラスター(I)、(II)、(III)、(IV)の%値を以下のように算出した。WT(無処理)N=9;IgG2bアイソタイプコントロールで処置した疾患モデルTh3/+マウス(Th3+w/MoIgG2b)、N=5;MWTx-003抗TMPRSS6抗体で処置した疾患モデルTh3/+マウス(Th3+w/MWTx-003)N=7とし、平均値を算出した。骨髄細胞で4週間後に、平均して、好塩基性赤芽球(I)は7.58%(Th3+w/MoIgG2b)→6.52%(Th3+w/MWTx-003)にシフトし(WTに対して7.96%)、多色性赤芽球(II)は54.20%(Th3+w/MoIgG2b)→40.01%(Th3+w/MWTx-003)(WTに対して28.53%)にシフトし、、正染性赤芽球及び無核網状赤血球(III)は24.06%(Th3+w/MoIgG2b)→29.73%(Th3+w/MWTx-003)にシフトし(WTに対して26.67%)、成熟赤血球(IV)は4.54%(Th3+w/MoIgG2b)→16.44%(WTに対して27.66%)にシフトした。脾臓で4週間後に、平均して、好塩基性赤芽球(I)は0.71%(Th3+w/MoIgG2b)→0.91%(Th3+w/MWTx-003)にシフトし(WTに対して0.46%)、多色性赤芽球(II)は45.76%(Th3+w/MoIgG2b)→19.25%(Th3+w/MWTx-003)(WTに対して12.23%)にシフトし、、正染性赤芽球及び無核網状赤血球(III)は31.16%(Th3+w/MoIgG2b)→28.72%(Th3+w/MWTx-003)にシフトし(WTに対して8.67%)、成熟赤血球(IV)は14.13%(Th3+w/MoIgG2b)→44.38%(Th3+w/MWTx-003)(Wtに対して72.17%)にシフトした。これらの結果を、骨髄については図7Qに、脾臓については図7Rに、それぞれ棒グラフで示す。
Th3/+マウスでは、MWTx-003抗TMPRSS6抗体による処置により、無効造血が改善し、かなりの割合の赤芽球が赤血球に分化・成熟した。
実施例8:抗TMPRSS6抗体エピトープビニング
MWTx-001(図8A)、MWTx-002(図8B)及びMWTx-003(図8C)抗TMPRSS6抗体のエピトープビニングにOCTET(登録商標)RED96eを使用した。まず、ecto-TMPRSS6-FLAG(上述の通り)をBiotinylation Kit(Abcam)によりビオチンで標識した。事前に水和されたストレプトアビジン(SA)バイオセンサーを1x KB(上述の通り)で60秒間平衡化し第1のベースラインとした後、10mg/mlのビオチン化ecto-TMPRSS6-FLAGを300秒間SAバイオセンサーにロードした。次に、1xKB中の50mg/mlの抗体(MWTx-001、図8A;MWTx-002、図8B;MWTx-003、図8C)で600秒間飽和する前に、第2のベースライン信号を60秒間確立させた。最後に、1xKB中の50μg/mlのMWTx-001、MWTx-002、又はMWTx-003で300秒間飽和する前に、第3のベースライン信号を60秒間確立させた。MWTx-001抗TMPRSS6抗体のecto-TMPRSS6-FLAGに対する結合は、MWTx-002抗TMPRSS6抗体又はMWTx-003抗TMPRSS6抗体と競合しなかった(図8A)。MWTx-002抗TMPRSS6抗体のecto-TMPRSS6-FLAGに対する結合は、MWTx-001抗TMPRSS6抗体と競合しなかったが、MWTx-003抗TMPRSS6抗体と競合した(図8B)。MWTx-003抗TMPRSS6抗体のecto-TMPRSS6-FLAGに対する結合は、MWTx-001抗TMPRSS6抗体と競合しなかったが、MWTx-002抗TMPRSS6抗体と競合した(図8C)。データ解析は、Octet Data Analysis HT Softwareを用いて行った。アソシエーションシグナルは図8Dにまとめられている。