〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下、2つの数AおよびBについての「A~B」という記載は、特に明示されない限り、「A以上かつB以下」を意味する。また、以下では、比較対象の層よりも先のプロセスで形成されている層を「下層」と称し、比較対象の層よりも後のプロセスで形成されている層を「上層」と称する。
また、以下では、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。後述する実施形態では、先に説明した実施形態との相異点について説明する。特に説明がない場合でも、先に説明した実施形態と同様の変形が可能であることは、言うまでもない。
(発光素子の概略構成)
本実施形態に係る発光素子は、第1電極および第2電極と、上記第1電極および上記第2電極の間に設けられた発光層と、を備え、上記発光層が、複数の量子ドットと、マトリクス材と、を含んでいる。なお、以下、発光層を「EML」と称し、量子ドットを「QD」と称し、マトリクス材を「MX」と称する場合がある。
第1電極および第2電極は、一方が陽極であり、他方が陰極である。本開示では、第1電極と第2電極との間の層を機能層と称する。機能層は、少なくともEMLを含んでいる。
本実施形態に係る発光素子は、機能層として1つのEMLのみを含む単層型であってもよく、機能層として複数の機能層を含む多層型であってもよい。第1電極とEMLとの間、および、第2電極とEMLとの間、の少なくとも一方には、機能層として、例えば電荷輸送層が設けられていてもよい。上記電荷輸送層は、正孔輸送層であってもよく、電子輸送層であってもよい。以下、電荷輸送層を「CTL」と称し、正孔輸送層を「HTL」と称し、電子輸送層を「ETL」と称する場合がある。また、上記発光素子は、任意選択で、さらに、正孔注入層、電子ブロッキング層、正孔ブロッキング層、電子注入層等の層を含んでいてもよい。以下、正孔注入層を「HIL」と称する場合がある。
上記発光素子は、陽極を下層電極とし、陰極を上層電極とするコンベンショナル構造を有していてもよく、陰極を下層電極とし、陽極を上層電極とするインバーテッド構造を有していてもよい。
図1は、本実施形態に係る発光素子1の概略構成の一例を示す断面図である。図2は、図1に示す発光素子1におけるQD21およびその近傍の概略構成の一例を示す断面図である。図3は、図1に示す発光素子1において、隣り合うQD21が近づいている状態を示す断面図である。
図1に示すように、発光素子1は、互いに対向する陽極11および陰極15と、これら陽極11および陰極15の間に設けられたEML13と、を備えている。図1に示すように、陽極11とEML13との間には、任意選択でHTL12が設けられていてもよい。また、陰極15とEML13との間には、任意選択でETL14が設けられていてもよい。
陽極11は、電圧が印加されることにより、正孔をEML13に供給する電極である。陰極15は、電圧が印加されることにより、電子をEML13に供給する電極である。陽極11および陰極15は、それぞれ導電性材料を含み、図示しない電源(例えば直流電源)と接続されることで、それらの間に電圧が印加されるようになっている。
陽極11および陰極15の少なくとも一方は透光性電極である。なお、陽極11および陰極15の何れか一方は、光反射性を有する、いわゆる反射電極であってもよい。発光素子1は、透光性電極側から光を取り出すことが可能である。
例えば、発光素子1が、上層電極側から光を放射するトップエミッション型の発光素子である場合、上層電極に透光性電極が使用され、下層電極に反射電極が使用される。一方、発光素子1が、下層電極側から光を放射するボトムエミッション型の発光素子である場合、下層電極に透光性電極が使用され、上層電極に反射電極が使用される。
透光性電極には、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ボロンドープ酸化亜鉛(BZO)またはフッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の、可視光を透過する、導電性の透光性材料が用いられる。
反射電極には、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、等の金属、または、それら金属を含む、マグネシウム-銀合金(MgAg)等の合金等、可視光の反射率が高い、導電性の光反射性材料が好適に用いられる。なお、上記透光性材料からなる層と上記光反射性材料からなる層とを積層することで反射電極としてもよい。
HTL12は、正孔輸送性材料を含み、陽極11から注入された正孔をEML13に輸送する正孔輸送機能を有する電荷輸送層である。上記正孔輸送性材料としては、QDを含む発光素子であるQLED(量子ドット発光ダイオード)、あるいは、OLED(有機発光ダイオード)等において、HTLに従来から採用されている、有機材料または無機材料を使用することができる。
HTL12に用いられる有機材料としては、例えば、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、ポリ(4-ブチルトリフェニルアミン)(p-TPD)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との複合物(PEDOT:PSS)、TFB(ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)])、またはポリビニルカルバゾール(PVK)等の導電性化合物が挙げられる。
HTL12に用いられる無機材料としては、例えば、酸化モリブデン(MoO2、MoO3)、酸化ニッケル(NiO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)、または酸化タングステン(WO3)等の金属酸化物が挙げられる。特に、HTL12の材料としては、電子親和力およびイオン化ポテンシャルが大きい材料が好適である。
ETL14は、電子輸送性材料を含み、陰極15から注入された電子をEML13に輸送する電子輸送機能を有する電荷輸送層である。上記電子輸送性材料としては、例えば、QLEDあるいはOLED等においてETLに従来から採用されている、有機材料または無機材料を使用することができる。
ETL14に用いられる有機材料としては、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)、バソクプロイン(BCP)、または2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(t-Bu-PBD)等の、導電性化合物が挙げられる。
ETL14に用いられる無機材料としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム亜鉛(AlZnO)、酸化リチウム亜鉛(LiZnO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)等の金属酸化物が挙げられる。特に、ETL14の材料としては、電子親和力が小さい材料が好適である。
EML13は、複数のQD21と、MX22と、を含んでいる。EML13では、陽極11から輸送された正孔と陰極15から輸送された電子とが再結合し、これによって生じた励起子がQD21の伝導帯準位から価電子帯準位に遷移する過程で、光を発する。EML13は、発光材料として、発光色に応じたナノサイズのQD21を含んでいる。
QD21は、粒子の最大幅が100nm以下のドットである。QD21は、一般的に、その組成が半導体材料由来であることから、半導体ナノ粒子と称される場合がある。また、QD21は、一般的に、その組成が無機材料由来であることから、無機ナノ粒子と称される場合がある。また、QD21は、その構造が例えば特定の結晶構造を有することから、ナノクリスタルと称される場合もある。
QD21の形状は、上記最大幅を満たす範囲であればよく、特に制約されず、球状の立体形状(円状の断面形状)に限定されるものではない。例えば、多角形状の断面形状、棒状の立体形状、枝状の立体形状、表面に凹凸を有す立体形状でもよく、または、それらの組合せでもよい。
QD21は、金属元素を少なくとも1つ含んでいてもよい。QD21に含まれる金属元素としては、例えば、Cd、Zn、In、Sb、Al、Si、Ga、Pb、Ge、Mg等が挙げられる。また、QD21は、少なくとも1つの金属元素と、S、Te、Se、N、P、As等の非金属元素とを組み合わせた半導体材料であってもよい。
QD21は、コアのみで形成されていてもよく、二成分コア型、三成分コア型、四成分コア型であってもよい。また、QD21は、図2に示すように、コア21Cとシェル21Sとを含むコアシェル構造を有していてもよく、コアシェル型またはコアマルチシェル型であってもよい。
図2に示すように、QD21がシェル21Sを含む場合、中心部にコア21Cがあり、シェル21Sは、コア21Cの表面に設けられていればよい。シェル21Sは、コア21Cの全体を覆っていることが望ましいが、シェル21Sがコア21Cを完全に覆っている必要はない。シェル21Sは、コア21Cの表面の一部に形成されていてもよい。QD21は、該QD21の一断面における観察にて、コア21Cの表面の一部にシェル21Sが形成されていることが判るか、または、コア21Cをシェル21Sが包んでいることが判れば、それでコアシェル構造を有していると言うことができる。したがって、シェル21Sがコア21Cの全体を覆うことは、QD21の一断面の観察で判断できれば足る。なお、上記断面観察は、例えば、走査透過電子顕微鏡(STEM)、あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)にて行うことができる。
また、QD21は、ドープされたナノ粒子を含んでいてもよく、または、組成傾斜した構造を備えていてもよい。また、シェル21Sは、コア21Cの表面に固溶化した状態で形成されていても構わない。図2では、コア21Cとシェル21Sとの境界を点線で示したが、これは、コア21Cとシェル21Sとの境界を分析により確認できてもできなくてもどちらでもよいことを示す。シェル21Sは、複数層形成されていてもよい。
QD21は、コア21Cおよびシェル21Sのそれぞれの材料に、従来公知のQDのコア材およびシェル材に使用される材料を含んでいてもよい。コア21Cは、例えば、Si、Ge、CdSe、CdS、CdTe、InP、GaP、InN、ZnSe、ZnS、ZnTe、CdSeTe、GaInP、ZnSeTe等で構成することができる。シェル21Sは、例えば、CdS、ZnS、CdSSe、CdTeSe、CdSTe、ZnSSe、ZnSTe、ZnTeSe、AIP等で構成することができる。一例として、シェル21SがZnSSeを含む場合、シェル21Sに含まれるZnSSeは、ZnSxSe1-x(0≦x≦1)であってもよい。QD21がコアシェル構造を有する場合、QD21の材料(コア21C/シェル21Sの材料の組み合わせ)の一例としては、例えば、ZnSe/ZnS、InP/ZnS、CdSe/CdS、CdSe/ZnSe、CIGS/ZnS等が挙げられる。
なお、本開示にて化学式で示している組成は、代表的な例示である。化学式に記載の組成比は、実際の化合物の組成が化学式通りになっているストイキオメトリであれば望ましい。但し、ストイキオメトリ以外であることを除外するものではない。
QD21は、粒子の粒径、組成等によって、発光波長を種々変更することができる。QD21は、可視光を発光するQDであり、QD21の粒径および組成を適宜調整することによって、発光波長を、青色波長域~赤色波長域まで制御することが可能である。
QD21のコア21Cは、価電子帯準位と伝導帯準位とを有し、価電子帯準位の正孔と伝導帯準位の電子との再結合によって発光する発光材料である。QD21からの発光は、量子閉じ込め効果により狭いスペクトルを有するため、比較的深い色度の発光を得ることが可能である。
なお、EML13におけるQD21は、図1に示すように規則正しく配置されている必要はなく、QD21は、無秩序にEML13に含まれていてもよい。また、EML13において、QD21は、図1に示すように隣り合うQD21の間にMX22が形成され、QD21同士が近づいていない状態であってもよく、図3に示すように、EML13が、互いに近づいている2つ以上のQD21を含んでいてもよい。なお、EML13の層厚は、従来と同様に設定すればよく、特に限定されない。
MX22は、無機化合物(無機媒質)を主な材料とするMXであり、無機化合物として、少なくとも無機化合物23と無機化合物24とを含む2種類以上の無機化合物を含んでいる。なお、以下では、無機化合物23を第1無機化合物とし、無機化合物24を第2無機化合物として説明するが、本実施形態は、これに限定されるものではない。また、MX22は、無機化合物で構成された無機MX(無機マトリクス材)であってもよい。
本開示において、MXとは、他の物を含み保持する部材を意味し、母材、基材、あるいは充填材と言い換えることができる。つまり、本開示において、MX22とは、QD21を含み保持する部材のことを言う。MX22は、QD21が分散している膜を構成する要素であり、図1に示すように、複数のQD21を含むEML13の構成要素の一つである。なお、MX22は、常温で固体であってもよい。
MX22は、EML13に充填されていてもよい。図1に示すように複数のQD21のうち2つのQD21に注目して、MX22は、2つのQD21の間(つまり、2つのQD21の間の領域Y(空間))を充たしていてもよい。領域Yは、上記2つのQD21を第1QD21aおよび第2QD21bとすると、断面視において、これら第1QD21aおよび第2QD21bの外周に接する2直線(共通外接線)と、これら第1QD21aおよび第2QD21bの対応する外周とで囲まれる領域である。
なお、図1では、QD21が、MX22に、間隔をおいて埋設されている場合を例に挙げて図示している。しかしながら、上述したように、EML13において、隣り合うQD21は、互いに近づいていない状態であってもよく、互いに近づいていてもよい。図3に示すように、隣り合う第1QD21aおよび第2QD21bが近づいていても、これら第1QD21aおよび第2QD21bの間に領域Y(空間)は存在し得る。これら第1QD21aおよび第2QD21bが近づいている場合でも、MX22は、これら第1QD21aおよび第2QD21bの間の領域Y(空間)を充たしていてもよい。
このため、MX22は、EML13において、QD21以外の領域(空間)を充たしていてもよい。したがって、MX22は、EML13において、QD21以外の領域(空間)を埋めていてもよい。EML13は、複数のQD21を含むQD群(量子ドット群)を有し、MX22は、EML13のQD群以外の領域(空間)を充たしていてもよい。ここでは、3個以上のQD21をまとめてQD群と称している。MX22は、EML13において、複数のQD21以外の領域(空間)を埋めていてもよい。図1に示すように、EML13における陽極11側の外縁部13a(第1外縁部)および陰極15側の外縁部13b(第2外縁部)はMX22で覆っていてもよい。また、EML13の外縁部13aまたは外縁部13bからMX22の部分があり、QD21がEML13の外縁部13aおよび外縁部13bの少なくとも一方から離れて位置するように構成されていてもよい。但し、発光素子1の構成は、上記構成に限定されるものではなく、EML13の外縁部13aおよび外縁部13bの少なくとも一方は、MX22のみで形成されておらず、QD21の一部がMX22から露出していてもよい。MX22は、EML13において、QD21を除く部分のことを示していてもよい。
なお、本実施形態において、EML13における陽極11側の外縁部13aとは、EML13における、該EML13と陽極11方向に隣接する層であるHTL12との界面を示す。また、EML13における陰極15側の外縁部13bとは、EML13における、該EML13と陰極15方向に隣接する層であるETL14との界面を示す。
MX22は、複数のQD21を内包してもよい。MX22は、複数のQD21の間(つまり、複数のQD21の間に形成された空間)を充填するように形成されていてもよい。MX22は、複数のQD21間を部分的または完全に充填していてもよい。
MX22は、層厚方向と直交する面方向に沿う1000nm2以上の面積を有する連続膜を含んでいてもよい。連続膜とは、1つの平面において、連続膜を構成する材料以外の材料で分離されない膜を意味する。連続膜は、MX22を構成する材料の化学結合によって途切れることなく連結した一体の膜状のものであってもよい。
MX22は、複数のQD21それぞれに含まれるシェル21Sと異なる材料で形成されていてもよく、シェル21Sと同じ材料を含んでいてもよい。言い換えれば、シェル21Sは、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物と異なる材料のみを含んでいてもよく、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物と同じ材料を含んでいてもよい。シェル21SがMX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物と同じ材料を含む場合、上記無機化合物は、無機化合物23であってもよく、無機化合物24であってもよく、これら無機化合物23および無機化合物24以外の無機化合物であってもよい。シェル21Sが、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物と同じ材料を含む場合、キャリアの閉じ込め効果が高く、QD21からMX22への励起子の拡散を抑制し、発光効率を向上させることができる。また、シェル21SとMX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物とが連続的に接続されるので、MX22の品質を向上させることができる。
このようにMX22がシェル21Sと同じ材料を含む場合、隣り合うコア21C同士の平均距離(コア間距離)は、QD21の接触を避け、QD21の凝集を避けるため、3nm以上であるとよく、5nm以上であってもよい。または、隣り合うコア21C同士の平均距離は、平均コア径の0.5倍以上であるとよい。コア間距離はコアが20個含まれる空間における隣接する20個のコア21C間の距離を平均したものである。コア間距離は、シェル21S同士が接触した場合の距離よりも広く保つとよい。平均コア径はコアが20個含まれる空間における断面観察において20個のコア21Cのコア径を平均したものである。コア径は断面観察においてコア面積と同じ面積の円の直径とすることができる。
EML13におけるMX22の濃度は、例えば、EML13の断面におけるMX22が占める面積比率である。上記MX22の濃度は、EML13の断面観察において、10%以上、90%以下であってよく、30%以上、70%以下であってもよい。上記MX22の濃度は、例えば、EML13の断面観察における画像処理での面積割合から測定すればよい。QD21がコアシェル構造である場合、シェル21Sの濃度が1%以上、50%以下であってもよい。シェル21SとMX22とが同じ材料(同一組成)からなり、シェル21SとMX22とが区別できない場合には、シェル21SとMX22とを合わせた領域の濃度が、MX22の濃度の数値範囲にシェル21Sの濃度の数値範囲を加えた数値範囲であればよい。QD21のコア21Cとシェル21SおよびMX22の比率は、それらの合計が適宜100%以下になるように調整してよい。このように、シェル21SとMX22とが区別できない場合、シェル21SをMX22の一部としてもよい。
EML13は、複数のQD21とMX22とから構成されていてもよい。EML13を分析した場合に、鎖状構造によって検出される炭素の強度はノイズ以下であってもよい。
MX22の構成材料は、QD21の構成材料よりもバンドギャップ(以下、「Eg」と記す)が広い(大きい)ことが望ましい。例えば、前述したように、QD21がコア21Cとシェル21Sとを有する場合、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物のEgは、コア21Cまたはシェル21SのEgよりも大きいことが望ましい。
QD21に注入されたキャリア(電子および正孔)の再結合は、主にコア21Cにおいて生じる。シェル21Sは、コア21Cの欠陥またはダングリングボンド等の発生を抑制し、失活過程を経るキャリアの再結合を低減する機能を有する。MX22のEgがコア21Cまたはシェル21SのEgよりも大きい場合、コア21Cへの励起子の閉じ込め効果が高く、コア21Cにおけるキャリアの再結合、あるいは光吸収により生じた励起子がMX22に拡散し難くなり、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
なお、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物のEgは、コア21CのEgよりも大きければ、シェル21SのEgと同等もしくはシェル21SのEgより小さくてもよい。しかしながら、MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物のEgは、シェル21SのEgよりも大きいことが、好ましい。この場合、コア21Cへの励起子の閉じ込め効果がより高く、QD21からMX22への励起子の拡散を抑制し、発光効率をより向上させることができる。
MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物(無機材料)は、半導体材料であってもよく、絶縁体材料であってもよい。MX22に含まれる少なくとも一種の無機化合物としては、例えば、好適には、金属硫化物が挙げられる。金属硫化物の前駆体は、比較的低温で熱分解するとともに、Egの制御が容易である。このため、MX22は、無機化合物として金属硫化物を含むことが好ましく、無機化合物23および無機化合物24としては、金属硫化物が好ましい。
上記金属硫化物としては、例えば、硫化スズ(SnS2)、硫化インジウム(In2S3)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化アルミニウム(Al2S3)、硫化ベリリウム(BeS)、硫化ゲルマニウム(GeS2)、硫化バリウム(BaS)、硫化カルシウム(CaS)、硫化マグネシウム(MgS)等が挙げられる。
しかしながら、上記無機化合物としては、これら金属硫化物に限定されるものではなく、金属硫化物以外の無機化合物であってもよい。金属硫化物以外の無機化合物としては、例えば、金属セレン化物、金属テルル化物、金属酸化物等、例えば、IV族元素(具体的には、新IUPAC方式に基づく表記で16族元素)を含む無機化合物が挙げられる。
上記金属セレン化物としては、例えば、セレン化ベリリウム(BeSe)、セレン化バリウム(BaSe)、セレン化カルシウム(CaSe)、セレン化マグネシウム(MgSe)等が挙げられる。上記金属テルル化物としては、例えば、テルルカルシウム(CaTe)、テルル化マグネシウム(MgTe)等が挙げられる。上記金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。
なお、MX22は、少なくとも無機化合物23と無機化合物24とを含む2種類以上の無機化合物を含んでいればよく、添加物として、これら無機化合物とは異なる材料が添加されることを除外するものではない。
前述したように、EML13は、QD21の周囲に、MX22が充填されている。このように、発光素子1は、QD21の周囲をMX22で覆うことで、QD21の周囲をMX22で保護している。
無機媒質として無機化合物を含むMXは、有機リガンドと比較してQD21から剥がれ難く、QD21の周囲をMX22で覆うことで、QDを強固に保護することができる。このため、EML13が、無機化合物を含むMX22を含んでいることで、EML13に有機リガンドを用いた場合と比較して、EML13の安定性を向上させることができる。また、QD21の劣化を抑制することができ、発光素子1の発光特性および信頼性を向上させることができる。
しかしながら、QD21の周囲を無機化合物で一様に覆う場合、無機化合物としてEgが大きな無機化合物を使用すると、QD21への正孔および電子のキャリア注入効率が低下し、発光効率が低下する原因となる。そこで、本実施形態では、前述したように、MX22に、無機化合物23と無機化合物24とを含む2種類以上の無機化合物を使用し、EML13の層厚方向におけるMX22の組成を変更する。これにより、HTL12側とETL14側とで、MX22のエネルギー準位を変更する。
MX22は、EML13における外縁部13aと外縁部13bとを貫く直線L1方向に、少なくとも無機化合物23を含む第1領域と、少なくとも無機化合物24を含む第2領域と、を有している。第2領域は、第1領域よりも外縁部13b側に設けられている。第1領域における無機化合物23の濃度と第2領域における無機化合物23の濃度とは一定以上異なる。例えば、第1領域における無機化合物23の濃度と第2領域における無機化合物23の濃度とは20%以上異なることが望ましい。
つまり、MX22は、直線L1方向に、(1)少なくとも無機化合物23を含む第1領域と、(2)少なくとも無機化合物24を含み、上記第1領域よりも外縁部13b側に設けられ、第1領域における無機化合物23の濃度とは無機化合物23の濃度が一定以上異なる第2領域と、を有する。なお、第2領域における無機化合物23の濃度が第1領域における無機化合物23の濃度と一定以上異なることで、第2領域における無機化合物24の濃度も、第1領域における無機化合物24の濃度と一定以上異なる。
また、MX22は、EML13における外縁部13aと外縁部13bとを貫く直線L1方向に、少なくとも無機化合物23を含む第1領域と、少なくとも無機化合物24を含む第2領域と、を有している。
第1領域における無機化合物23の濃度は、第1領域における無機化合物24の濃度よりも大きく、第2領域における無機化合物24の濃度は、第2領域における無機化合物23の濃度よりも大きい。
図1では、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含み、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含んでいる場合を例に挙げて図示している。
なお、MX22の構造は、EML13の断面観察において、特に断らない限りまたは矛盾しない限り、100nm程度の幅で観察し、所望の構成であることが分かればよく、EML13全てにおいて所望の構成が観察される必要はない。
図4は、QD21の周囲を無機化合物23からなるMX122で一様に覆った比較用の発光素子101におけるキャリア注入の様子を模式的に示す断面図である。図4では、正孔(h+)および電子(e-)の数の大小を、矢印で示している。また、図4では、HTL12、EML113、およびETL14以外の図示を省略している。図5は、図4に示す比較用の発光素子101における各機能層のエネルギーバンド構造を示す図である。
比較用の発光素子101は、EML13に代えて、QD21の周囲を無機化合物23からなるMX122で覆ったEML113を用いたことを除けば、図1に示す発光素子1と同じ構成を有している。
図4では、例えば、陽極11がITOからなり、HTL12がp-TPDからなり、ETL14がZnMgOからなり、陰極15がAlからなる場合を例に挙げて図示している。このような発光素子101において、図4および図5に示すように、無機化合物23に硫化亜鉛(ZnS)を使用し、QD21の周囲をZnSで一様に覆うと、EML113における電子と正孔とのバランスは、例えばおよそ6:4となる。したがって、この場合、電子過剰で、正孔不足となり、キャリアバランスが低下し、発光効率および信頼性が低下する。
このため、このように電子過剰で正孔不足の場合、キャリアバランスを改善するためには、EML113における電子の注入量を減らすか、正孔の注入量を増加させることが望ましい。本実施形態では、このように電子過剰で正孔不足の場合、(I)無機化合物23として、無機化合物24よりも正孔注入を促進し易いエネルギー準位あるいは特性を有する元素構成比の無機化合物を使用するか、あるいは、(II)無機化合物24として、無機化合物23よりも電子注入を抑制し易いエネルギー準位あるいは特性を有する元素構成比の無機化合物を使用することが望ましい。上記(I)および(II)の少なくとも一方の条件を満足することで、キャリアバランスを整え、安定性が高く、発光効率および信頼性が高い発光素子1を提供することができる。
そこで、上述したように電子過剰で正孔不足の場合、例えば、無機化合物24として、無機化合物23よりもEgが大きい無機化合物を使用することが望ましい。言い換えれば、無機化合物23として、無機化合物24よりもEgが小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、電子の注入を抑制してキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上述したように電子過剰で正孔不足の場合、例えば、無機化合物23として、無機化合物24よりも正孔移動度が大きい無機化合物を使用することが好ましい。言い換えれば、無機化合物24として、無機化合物23よりも正孔移動度が小さい無機化合物を使用することが好ましい。この場合、正孔を注入し易くしてキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
なお、正孔移動度あるいは電子移動度等のキャリア移動度は、次式(A)
μ=eτ/m* ‥(A)
で計算される。式(A)中、eは電荷を示し、τ:は平均自由時間(散乱時間)を示し、m*は有効質量を示す。
電荷eと平均自由時間τとを一定と仮定すると、有効質量が小さいほど、キャリア移動度が高い。
したがって、正孔注入性を改善したい場合、無機化合物23には、一般的に、QD21のシェル21Sの材料に使われるZnSよりもEgが大きく、正孔有効質量がより小さい無機化合物を使用することが望ましい。
表1に、正孔輸送性が比較的高い無機化合物として、正孔輸送性が比較的高い金属硫化物のEgおよび有効質量の一例を示す。また、表2に、正孔輸送性が比較的低い無機化合物として、正孔輸送性が比較的低い金属硫化物のEgおよび有効質量の一例を示す。
このため、上述したように電子過剰で、正孔不足の場合、例えば、(a)無機化合物23が硫化インジウム(InS)であり、無機化合物24が硫化マグネシウム(
MgS)であってもよい。あるいは、(b)無機化合物23が硫化亜鉛(ZnS)であり、無機化合物24が硫化マグネシウム(MgS)であってもよい。あるいは、(c)無機化合物23が硫化インジウム(InS)であり、無機化合物24が硫化亜鉛(ZnS)であってもよい。なお、上記硫化インジウム(InS)としては、例えば、In
2S
3が挙げられる。
このように、電子過剰で、正孔不足の場合、例えばHTL12側のMX22(具体的には、無機化合物23)を、ETL14側のMX22(具体的には、無機化合物24)よりもEgが小さく、正孔移動度が高い(正孔有効質量が小さい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、正孔注入を促進し、電子過剰を調整することができる。また、例えば、ETL14側のMX22を、HTL12側のMX22よりもEgが大きく、キャリア移動度が低い(有効質量が大きい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、電子注入を抑制し、正孔不足を調整することができる。
図6は、一例として、(a)無機化合物23が硫化インジウム(In2S3)であり、無機化合物24が硫化マグネシウム(MgS)である場合の発光素子1におけるキャリア注入の様子を模式的に示す断面図である。図6では、HTL12、EML13、およびETL14以外の図示を省略している。また、図6でも、発光素子101と同じく、陽極11がITOからなり、HTL12がp-TPDからなり、ETL14がZnMgOからなり、陰極15がAlからなる場合を例に挙げて図示している。また、図6でも、図4と同様に、正孔(h+)および電子(e-)の数の大小を、矢印で示している。図7は、図6に示す発光素子1における各機能層のエネルギーバンド構造を示す図である。なお、図7では、比較のために、硫化亜鉛(ZnS)のエネルギーバンド構造を併せて示している。
図6および図7に示すように、HTL12側に、ZnSよりもEgが小さいIn2S3を主成分とする第1層22aを設けることで、QD21への正孔注入を、QD21をZnSのみで覆う場合よりも促進することができる。また、ETL14側に、ZnSよりもEgが大きいMgSを主成分とする第2層22bを設けることで、QD21に注入される電子を、QD21をZnSのみで覆う場合よりも抑制することができる。この場合、EML13における電子と正孔とのバランスを、およそ5:5に改善することが可能であり、キャリアバランスを整えることができる。
なお、図6では、(a)無機化合物23がIn2S3であり、無機化合物24がMgSである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、(b)無機化合物23がZnSであり、無機化合物24がMgSである場合、並びに、(c)無機化合物23がIn2S3等のInSであり、無機化合物24がZnSである場合にも、同様に、電子と正孔とのバランスを、およそ5:5に改善することが可能である。
一方、電子不足で正孔過剰の場合、キャリアバランスを改善するためには、正孔の注入量を減らすか、電子の注入量を増加させることが望ましい。したがって、このように電子不足で正孔過剰の場合、(i)無機化合物23として、無機化合物24よりも正孔抑制し易い、エネルギー準位あるいは特性を有する元素構成比の無機化合物を使用するか、あるいは、(ii)無機化合物24として、無機化合物23よりも電子注入を促進し易い、エネルギー準位あるいは特性を有する元素構成比の無機化合物を使用することが望ましい。上記(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を満足することで、キャリアバランスを整え、安定性が高く、発光効率および信頼性が高い発光素子1を提供することができる。
そこで、上述したように電子不足で正孔過剰の場合には、例えば、無機化合物23として、無機化合物24よりもEgが大きい無機化合物を使用することが望ましい。言い換えれば、無機化合物24として、無機化合物23よりもEgが小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、正孔の注入を抑制してキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上述したように電子不足で正孔過剰の場合、例えば、無機化合物24として、無機化合物23よりも電子移動度が大きい無機化合物を使用することが望ましい。言い換えれば、無機化合物23として、無機化合物24よりも電子移動度が小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、電子を注入し易くしてキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
したがって、電子不足で正孔過剰の場合、例えばETL14側のMX22を、HTL12側のMX22よりもEgが小さく電子移動度が高い(電子有効質量が小さい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、電子注入を促進し、正孔過剰を調整することができる。また、例えばHTL12側のMX22を、ETL14側のMX22よりもEgが大きく電子移動度が低い(電子有効質量が大きい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、電子注入を促進し、正孔過剰を調整することができる。
また、表1および表2では、MX22を構成する無機化合物が金属硫化物である場合のEgおよび有効質量を例示した。しかしながら、前述したように、MX22を構成する無機化合物は、金属セレン化物、金属テルル化物、金属酸化物等、金属硫化物以外の無機化合物であってもよい。
そこで、表3に、正孔輸送性が比較的高い無機化合物として、正孔輸送性が比較的高い、金属硫化物以外の無機化合物のEgおよび有効質量の一例を示す。また、表4に、正孔輸送性が比較的低い無機化合物として、正孔輸送性が比較的低い、金属硫化物以外の無機化合物のEgおよび有効質量の一例を示す。
例えば表1~表4に示すように、異なる無機化合物は、異なるエネルギー準位を有している。このため、本実施形態によれば、上述したように第1領域と第2領域とでMX22の組成を変更することで、正孔および電子の輸送能を変えることができる。
本実施形態では、第1領域における無機化合物23の濃度は、第1領域における無機化合物24の濃度よりも大きく、第2領域における無機化合物24の濃度は、第2領域における無機化合物23の濃度よりも大きい。
このように、本実施形態によれば、MX22が、無機化合物23および無機化合物24を含み、EML13における外縁部13aと外縁部13bとの間で、MX22における、これら無機化合物23および無機化合物24の濃度を変化させることで、キャリアバランスを調整し、発光効率を向上させることができる。このため、本実施形態によれば、安定性が高く、発光効率および信頼性が高い発光素子1を提供することができる。
本実施形態において、無機化合物の濃度は、該無機化合物を構成する元素比で定義される。無機化合物の濃度は、XPS(X線光電子分光法)による解析によって調べることができる。
非破壊試験による解析(例えばXPS解析)では、無機化合物中の構成元素量および元素比が、基本的にはバラバラに検出される。例えば、MX22に含まれる無機化合物がZnSである場合、非破壊試験による解析では、ZnとSとが別々に検出される。この場合、検出された元素は、Zn:S=1:1となる。これにより、上記第1領域に含まれる無機化合物がZnSであることが判る。
一方で、例えばMX22が2種類の無機化合物を含み、これら無機化合物が何れも硫化物であったとする。このとき、MX22に含まれる無機化合物が、ZnSおよびIn2S3であれば、上記解析によって検出される元素は、Zn、In、Sの3種類となる。この場合、ZnSの濃度とIn2S3の濃度とが等しければ(つまり、ZnS:In2S3=1:1であれば)、Zn:In:S=1:2:4のように検出される。
但し、これら無機化合物の混合比率(例えば無機化合物23と無機化合物24との混合比率等)が複雑になると、これら無機化合物の帰属が難しくなる。このため、この場合における、XPS解析を用いた実際の検出方法としては、現実的には、ZnとInとの元素量および元素比のみで比較することになる。そして、その後、検出された元素を有する無機化合物が、ZnSのように硫化物であるか、ZnOのように酸化物であるか、を他の元素から間接的に推測する。
なお、この場合、上記無機化合物がZnSであるかZnOであるかは、例えば、上記検出方法(検査方法)で検出された化学結合のエネルギーから確認してもよく、上記検出方法と他の検出方法とを組み合わせてもよい。上記検出方法としては、上述したように、XPSによる解析が最も優先されるが、XPSの次に優先される解析方法として、断面TEM(透過型電子顕微鏡)およびEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いた、断面TEM/EDX法を用いてもよい。例えば、XPSと、断面TEM/EDX法等の検査方法と、を組み合わせることで解析を行ってもよい。また、断面TEM/EDX法の次に優先される解析方法として、XRD(X線回折設)等の結晶の形での解析を行ってもよく、例えば、XPSと、XRD等の検査方法とを組み合わせることで解析を行ってもよい。
MX22に含まれる無機化合物の濃度の測定は、EML13における陽極11側の外縁部13a(第1外縁部)と陰極15側の外縁部13b(第2外縁部)とを貫く任意の直線L1に沿って行われる。MX22に含まれる無機化合物の濃度は、EML13における、上記直線L1に垂直な測定面に含まれる無機化合物の濃度として検出(測定)される。
上記濃度の測定にXPSを用いる場合、EML13の深さ方向に多数の測定深さで測定が行われる。XPSは、数百V~数kVに加速したAr(アルゴン)イオンで試料をスパッタエッチングする一方、露出された試料表面にX線を照射することで、試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測する。これにより、試料表面を構成する元素の組成や化学結合状態を解析する。
このため、上記濃度の測定にXPSを用いる場合、各測定面は、X線の照射面となり、X線の照射スポットの大きさおよび形状が、測定面の大きさおよび形状となる。このため、各測定面は、同一面積かつ同一形状となる。無機化合物23の濃度および無機化合物24の濃度は、外縁部13aと外縁部13bとを貫く任意の直線L1に沿って、同一条件でそれぞれ測定される。
図8は、EML13における、任意の直線L1に沿った、無機化合物23および無機化合物24の濃度の測定方向の一例を示す断面図である。なお、図8では、図示の便宜上、QD21の図示を省略している。また、図8では、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含み、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含み、無機化合物23がInSであり、無機化合物24がZnSである場合を例に挙げて図示している。また、図8では、測定方向を示すため、直線L1を矢印で示している。
図9は、XPSを用いて図8に示す直線L1に沿って測定した、図8に示すEML13におけるInS(例えばIn2S3)およびZnSの濃度分布を示すグラフである。なお、図9は、説明並びに図示の便宜上、任意の直線L1上にQD21が存在しない場合の測定結果を例に挙げて示している。但し、直線L1上にQD21が存在する場合、補完により無機化合物23および無機化合物24の濃度を求めてもよい。また、図9中、測定時間は、図8に示す直線L1に沿った測定深さ(測定距離)に比例する。したがって、図9中、測定時間は、直線L1に沿った測定深さ(測定距離)に置き換えることができる。
図9に示すように、XPS解析により、EML13における任意の測定深さ(測定距離)における元素(言い換えれば、任意の測定面における元素)を定量することができる。例えば、ZnS濃度は、次式
ZnS濃度(=Zn元素濃度)=(Zn元素量)/{(Zn元素量)+(In元素量)}
により、Zn元素濃度として求めることができる。同様に、InS濃度は、次式
InS濃度(=In元素濃度)=(In元素量)/{(Zn元素量)+(In元素量)}
により、In元素濃度として求めることができる。
このように、EML13における任意の測定深さ(測定距離)における元素濃度から、EML13における任意の測定深さ(測定距離)における各無機化合物の濃度分布を調べることができる。
図9に示す測定結果より、EML13には、無機化合物23(InS)と無機化合物24(ZnS)との境界が存在することが分かる。すなわち、EML13には、無機化合物23(InS)と無機化合物24(ZnS)との濃度が等しくなる部分が存在することが分かる。それによって、EML13において、異なる無機化合物の領域が存在することが分かる。また、図8では、MX22が、第1領域と第2領域とに完全に分かれる場合を示しているが、これに限られない。例えば、第1領域は無機化合物23を主成分とする領域であり、第2領域は無機化合物24を主成分とする領域であるので、第1領域と第2領域とは、必ずしも完全に接している必要はなく、間をおいて存在していてもよい。
また、第1領域において無機化合物23の濃度が一定(例えば20%)以上異なる部分が存在すれば、すなわち無機化合物23の濃度が例えば100%のところと80%の部分が存在すれば、当該部分において無機化合物23の濃度の変化が大きいと見なせる。このため、当該部分には境界が存在するとみなすことができる。また、同様に、第2領域において無機化合物24の濃度が一定(例えば20%)以上異なる部分が存在すれば、当該部分に境界が存在するとみなすことができる。また、第1領域において無機化合物23の濃度が一定(例えば20%)以上異なる部分が存在し、さらに、第2領域において無機化合物24の濃度が一定(例えば20%)以上異なる部分が存在すれば、境界が存在するとみなしてもよい。それらによって、EML13において、異なる無機化合物の領域が存在することが分かる。
図10は、EML13における、任意の直線L1に沿った、無機化合物23および無機化合物24の濃度の測定方向の他の一例を示す断面図である。なお、図10でも、図示の便宜上、QD21の図示を省略している。また、図10でも、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含み、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含み、無機化合物23がInSであり、無機化合物24がZnSである場合を例に挙げて図示している。また、図10でも、測定方向を示すため、直線L1を矢印で示している。
図11は、XPSを用いて図10に示す直線L1に沿って測定した、図10に示すEML13におけるInSおよびZnSの濃度分布を示すグラフである。なお、図11でも、説明並びに図示の便宜上、任意の直線L1上にQD21が存在しない場合の測定結果を例に挙げて示している。
図8~図11から判るように、同じ測定方法でも、直線L1の向き、つまり、ArイオンおよびX線の侵入経路は、図8に示すようにEML13の層面に対して垂直であってもよく、図10に示すように、EML13の層面に対して斜めであってもよい。
本実施形態においては、EML13における無機化合物の濃度分布について、XPSを用いて上述の方法により測定することが可能である。しかしながら、本実施形態においてはこれに限られず、断面TEM/EDX法を用いてEML13に含まれる無機化合物の濃度分布について測定してもよい。なお、XPSを用いた測定結果は、断面TEM/EDX法を用いた測定結果より優先する。図12および図13は、断面TEM/EDX法を用いてEML13に含まれる無機化合物23および無機化合物24の膜厚方向の濃度分布を調べる方法を示す説明図である。なお、図12および図13でも、図示の便宜上、QD21の図示を省略している。また、図12および図13でも、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含み、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含み、無機化合物23がInSであり、無機化合物24がZnSである場合を例に挙げて図示している。また、図13でも、測定方向を示すため、直線L1を矢印で示している。
断面TEM/EDX法を用いてEML13に含まれる無機化合物23および無機化合物24の膜厚方向の濃度分布を調べる場合、まず、図12に示すように、発光素子1をFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)加工等を用いて加工し、EML13の層厚方向に沿ったEML13の断面を形成する。次いで、図13に示すように、EML13の断面を、断面TEMにより観察し、EDXにより、層厚方向に垂直な方向(直線L1に垂直な方向)に図13に示す点線に沿って複数に分けてスキャンして、スキャンした各測定線における、MX22の部分に含まれる各元素数をカウントする。カウントは、装置に測定線上の元素数のカウント機能があればその機能を使って実施してもよく、なければEDXのスキャン画像から画像解析により実施すればよい。これにより、EML13の上記断面における直線L1方向に分布する各無機化合物の元素の量(濃度)を定量することができる。この場合、上記断面における、EDXによるスキャン領域(つまり、X線によるスキャン領域)が、各測定線の大きさおよび形状となる。このため、この場合にも、各測定線は同一形状となる。
このようにEML13に含まれる無機化合物の濃度測定に断面TEM/EDXを用いた場合にも、EML13における、層厚方向(直線L1方向)の各測定面における、MX22に含まれる各無機化合物の濃度は、前述した計算式に基づいて算出することができる。例えば、ZnS濃度は、次式
ZnS濃度(=Zn元素濃度)=(Zn元素量)/{(Zn元素量)+(In元素量)}
により、Zn元素濃度として求めることができる。同様に、InS濃度は、次式
InS濃度(=In元素濃度)=(In元素量)/{(Zn元素量)+(In元素量)}
により、In元素濃度として求めることができる。
図14は、このように断面TEM/EDX法を用いて測定した、図12に示す、EML13の膜厚方向(直線L1方向)におけるInSおよびZnSの濃度分布を示すグラフである。なお、図14では、上述したように、MX22におけるInSおよびZnSの濃度を示している。
上述したように、本実施形態に係る発光素子1は、一例として、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含むとともに、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含んでいる。
無機化合物23と無機化合物24とは、例えば、第1層22aと第2層22bとの境界面において、一方が互いに浸透して混ざり合うことで、図9、図11、および図14に示すように、EML13の層厚方向において、濃度分布が生じる。
このとき、無機化合物23の濃度は、直線L1方向に、連続的または段階的に変化してもよい。同様に、無機化合物24の濃度も、直線L1方向に、連続的または段階的に変化してもよい。
Egが大きい媒質をEML13における、該EML13に隣接する層との界面に挿入する場合、全てのキャリアが上記媒質の障壁を乗り越える必要がある。しかしながら、無機化合物23あるいは無機化合物24の濃度が連続的または段階的に変化することで、キャリアの注入障壁を段階的に変化させることができ、大きな注入障壁を一度に乗り越える場合と比較して、キャリア注入を容易に行うことができる。このため、このようにEML13内において無機化合物23および無機化合物24が濃度分布を有することで、駆動電圧を低下させることもできる。
但し、発光素子1は、上述したように、外縁部13aと外縁部13bとの間に、MX22を構成する無機化合物の濃度が一定以上異なる領域を、EML13の層厚方向に2つ以上有してもよい。上記無機化合物は、上述したように、EML13の層厚方向に濃度分布を有していることが望ましいが、本開示は、第1層22aと第2層22bとにおける上記無機化合物の濃度差が100%であることを除外するものではない。つまり、上記第1層22aは無機化合物23のみを含んでいてもよく、上記第2層22bは無機化合物24のみを含んでいてもよい。
また、EML13は、外縁部13aから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物23の濃度が80%以上の領域を含むことが望ましい。このように外縁部13a付近のMX22が比較的均一な成分で形成されていることで、陽極11側から外縁部13a付近のQD21にキャリアが注入し易くなる。
同様に、EML13は、外縁部13bから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物24の濃度が80%以上の領域を含むことが望ましい。このように外縁部13b付近のMX22が比較的均一な成分で形成されていることで、陰極15側から外縁部13b付近のQD21にキャリアが注入し易くなる。
なお、このようにEML13が、外縁部13aから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物23の濃度が80%以上の領域を含む場合、例えば図1等に示すように、外縁部13aがMX22で覆われていることが好ましい。同様に、EML13が、外縁部13bから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物24の濃度が80%以上の領域を含む場合、例えば図1等に示すように、外縁部13bがMX22で覆われていることが好ましい。つまり、EML13の外縁部13aおよび外縁部13bからMX22の一部があり、QD21がEML13の外縁部13aおよび外縁部13bから離れて位置するように構成されていることが好ましい。
これら無機化合物23および無機化合物24の濃度、並びに、第1層22aおよび第2層22bの層厚は、熱分解性あるいは光分解性を有する前駆体からこれら無機化合物を形成するときの体積変化を利用して任意に変更することができる。
このため、第1領域と第2領域との境界面は、複数のQD21と交差してもよい。例えば、図1に示す発光素子1は、EML13が、複数のQD21がEML13の層厚方向に垂直な方向に並ぶQD列21L(量子ドット列)を、EML13の層厚方向に1列備えている。図1に示す発光素子1は、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが、QD列21Lと交差している。
発光素子1は、EML13の層厚方向における1つのQD21の厚みの範囲内で、MX22に含まれる各無機化合物の濃度を変更することが可能である。このため、図1に示すように、QD21がEML13の層厚方向に1列しか積層されていない場合のように、QD21がEML13の層厚方向に1つ(つまり、1層)しか積層されていない場合であったり、QD21が整然と積層されていなかったりする場合であっても、キャリアバランスを調整し、発光効率を向上させることができる。
また、このように、EML13内で、QD21に対して、その1粒子ずつに、任意のEgを有する無機化合物が任意の割合で直接接触することで、より効果的に、該無機化合物による影響を及ぼすことができる。
なお、図1は、前述したように、本実施形態に係る発光素子1の概略構成の一例である。本実施形態に係る発光素子1は、図1に示す構成に限定されるものではない。図15~図21は、本実施形態に係る発光素子1の概略構成の他の一例を示す断面図である。なお、図15~図21では、HTL12、EML13、およびETL14以外の図示を省略している。
図15に示すように、QD列21Lは、EML13の層厚方向に複数列(例えば2列)設けられていてもよい。すなわち、QD21は、EML13の層厚方向に複数積層されていてもよい。この場合、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iは、例えば、図1に示したように、HTL12側、言い換えれば最下層のQD列21Lと交差してもよい。また、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iは、図15に示すように、最下層のQD列21Lよりも上側(ETL14側)のQD列21Lと交差してもよい。具体的には、例えば、図15に示すように、QD21が2層積層されている場合、QD21の1.5層目当たりに、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが設けられていてもよい。
また、図16に示すように、第1層22aと第2層22bとは、それぞれQD21を含んでいてもよい。したがって、発光素子1は、図16に示すように、EML13が、EML13A(第1発光層)とEML13B(第2発光層)とを含み、第1層22aがEML13Aに用いられ、第2層22bがEML13Bに用いられてもよい。したがって、EML13Aが無機化合物23およびQD21を含み、EML13Bが無機化合物24およびQD21を含んでいてもよい。この場合、EML13Aに含まれるQD21とEML13Bに含まれるQD21とは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
また、図17に示すように、EML13は、QD列21LがEML13の層厚方向に複数列積層されているが、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが明確に分かれていない構成を有していてもよい。
また、QD21は、EML13に、QD列21Lとして整列した状態で含まれていなくてもよい。図18に示すように、QD21は、EML13内に複雑に積層されていてもよい。この場合にも、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iは、最下層のQD列21Lよりも上側(ETL14側)のQD列21Lと交差してもよい。例えば、QD21が2層積層されている場合、QD21の1.5層目当たりに第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが設けられていてもよい。図示はしないが、勿論、上記境界面22Iは、HTL12側、言い換えれば最下層のQD列21Lと交差してもよい。
また、図19に示すように、EML13は、第1層22aにのみQD21が含まれ、第2層22bにはQD21が含まれない構成を有していてもよく、図20に示すように、第2層22bが、QD21の少なくとも一部を含んでいてもよい。図19は、QD21がEML13内に複雑に積層されており、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが明確に分かれておらず、かつ、第1層22aにのみQD21が含まれ、第2層22bにはQD21が含まれていない場合を例に挙げて図示している。また、図20は、QD21がEML13内に複雑に積層されており、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが明確に分かれておらず、かつ、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iが、最下層のQD列21Lと交差する部分もあれば、最下層のQD列21Lよりも上側(ETL14側)のQD列21Lと交差する部分もある場合を例に挙げて図示している。
また、図21に示すように、EML13は、複数の無機化合物の濃度がグラデーションを有し、外縁部13aから外縁部13bにかけて各無機化合物の濃度が徐々に変化して元素傾斜を有していてもよい。
このように、第1領域と第2領域との境界面は、図1に示すようにEML13の厚み方向中央に設けられていてもよいし、EML13の厚み方向中央よりもHTL12側(言い換えれば陽極11側)あるいはETL14側(言い換えれば陰極15側)に設けられていてもよい。
また、QD21は、図18~図20に示すように、QD21が、EML13の外縁部13aおよび外縁部13bの少なくとも一方においてMX22から露出していてもよい。
例えば、図18~図20に示すように、EML13の外縁部13aおよび外縁部13bの少なくとも一方からMX22の一部があり、QD21が外縁部13aおよび外縁部13bの少なくとも一方から離れて位置するように構成されていてもよい。
何れにしても、EML13におけるHTL12側とETL14側とで、エネルギー準位が異なる無機化合物を用いることで、正孔や電子が、それぞれQD21に輸送されやすく、注入されやすいEML13を形成することができる。
また、MX22は、無機化合物23および無機化合物24に加えて、少なくとも一種のハロゲン元素をさらに含んでいてもよい。例えば、図2に示すように、MX22は、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)のうち少なくとも一種を有するハロゲン化物イオン31aを含んでいてもよい。
図2に示すように、ハロゲン化物イオン31aがQD21の表面近傍に存在することで、QD21の分散性が向上する。このため、MX22は、ハロゲン元素を含んでいることが望ましい。なお、シェル21Sの厚み程度の範囲を、QD21の表面近傍としてよい。
また、ハロゲン元素は、MX22を構成する無機化合物の不対電子と結び付いて安定化する。このため、MX22がハロゲン元素を含むことで、MX22の欠陥を不活性化させることができる。なお、ここで、「MX22の欠陥を不活性化させる」とは、不対電子がハロゲン元素との結合に使われることで、欠陥が非発光中心またはキャリアトラップとして働かなくなることを示す。
MX22は、ハロゲン元素を1原子%以上含んでいてよい。各QD21の近傍におけるハロゲン化物イオン31aの濃度は、それよりも周囲側におけるハロゲン化物イオン31aの濃度よりも高いことが好ましい。例えば、あるQD21の周囲のうち、当該QD21の最外面から距離が1nm以内の範囲を、当該量子ドットの近傍としてよい。
したがって、例えば、図2に示すように、QD21の周囲のうち、当該QD21の最外面であるシェル21Sの外面からの距離DAが1nm以内におけるハロゲン原子の総和の濃度の平均値が、他の位置におけるハロゲン原子の総和の濃度の平均値より高くてもよい。この場合、上記距離DAが1nm以内におけるハロゲン原子の総和の濃度の平均値が、他の位置におけるハロゲン原子の総和の濃度の平均値より10%以上高くてもよく、50%以上高くてもよく、100%以上高くてもよい。このような濃度分布は、例えば、断面TEM-EDX(透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)による元素マッピングで確認することができる。
なお、ここで「他の位置」とは、1nm以内にQD21が存在しない位置ともいえる。EML13内には、複数のQD21が含まれている。したがって、上記値は、EML13内の各QD21の周囲1nmの範囲内のハロゲン原子の総和の濃度の平均値と、EML13内の何れのQD21からも1nmを超えて離れている部分のハロゲン原子の総和の濃度の平均値とを比較したときの値であるといってもよい。
つまり、MX22における、複数のQD21のそれぞれの最外面から1nm以内の領域でのハロゲン元素の総和の濃度の平均値は、MX22における、上記複数のQD21のそれぞれの最外面からの距離が1nmを超える領域での上記ハロゲン元素の総和の濃度の平均値よりも、高いことが好ましく、例えば10%以上、あるいは50%以上、あるいは100%以上、高くてもよい。
これにより、QD21の分散性をより向上させることができ、より厚みが均一なEML13を形成することができる。
MX22は、ハロゲン元素およびQD21を含むQD分散液を用いてEML13を形成することで、ハロゲン化物イオンを含むことができる。
(発光素子1の製造方法)
次に、本実施形態に係る発光素子1の製造方法について、図22~図34を参照して以下に説明する。図22は、本実施形態に係る発光素子1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図22に示すように、本実施形態に係る発光素子1の製造方法では、まず、支持体としての基板上に陽極11を形成する(ステップS1、陽極形成工程)。次いで、HTL12を形成する(ステップS2、正孔輸送層(HTL)形成工程)。また、並行して、QD分散液を製造(調液)する(ステップS11、量子ドット(QD)分散液製造工程)。次いで、上記QD分散液を用いてEML13を形成する(ステップS3、発光層(EML)形成工程)。次いで、ETL14を形成する(ステップS4、電子輸送層(ETL)形成工程)。次いで、陰極15を形成する(ステップS5、陰極形成工程)。これにより、上記発光素子1が製造される。
ステップS1における陽極11の形成並びにステップS5における陰極15の形成には、例えば、蒸着法、スパッタリング法等が用いられる。
ステップS2におけるHTL12の形成およびステップS4におけるETL14の形成には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、またはコロイド溶液を用いた塗布法、ゾルゲル法等が用いられる。
ここで、ステップS3について説明する前に、ステップS11について説明する。
(ステップS11)
ステップS11のQD分散液調液工程は、図23に示す、QD21に配位するリガンドを置換するリガンド置換工程(ステップS21)を含んでいる。図23は、ステップS11におけるリガンド置換工程(ステップS21)を説明するための断面模式図である。
合成もしくは商業的に入手したQDには、多くの場合、リガンドとして、有機リガンド(以下、説明の便宜上、「第1有機リガンド」と称する)が配位している。市販のQDは、一般的に、リガンドとして第1有機リガンドを含むQD分散液の状態で提供される。第1有機リガンドは、QD分散液中でのQDの分散性を向上させる分散剤として用いられるとともに、QDの表面安定性の向上および保存安定性の向上にも使用される。また、QDの合成には例えば湿式法が用いられ、QDの表面に第1有機リガンドを配位させることでQDの粒径制御が行われる。このため、湿式法により合成されたQD分散液には、例えばQDの合成に用いた第1有機リガンドが含まれている。このような第1有機リガンドは、そのまま使用されることもあれば、溶媒の種類等に応じて所望の第1有機リガンドに置換される場合もある。何れにしても、有機リガンドとして従来一般的に使用されている第1有機リガンドを含むQD分散液を塗布後に乾燥させて得られるEMLには、上記第1有機リガンドが含まれる。
本実施形態では、EML13を無機化するため、QD21に配位している第1有機リガンドを、加熱により熱分解する第2有機リガンド並びにハロゲン化物イオン31aに置換するリガンド置換工程を実施する。第2リガンドには、MX22の前駆体となる有機リガンドが使用される。
以下に、図23を参照して、QD21に配位している第1有機リガンドを、第2有機リガンド並びにハロゲン化物イオン31aに置換する方法について説明する。
図23に示すように、上記リガンド置換工程では、先ず、容器61中に、ハロゲン化物イオン31aおよび第2有機リガンドとしての有機リガンド32が溶解するリガンド溶液30と、第1有機リガンドとしての有機リガンド41が配位するQD21が分散するQD分散液40とを注入する(ステップS21a)。
ハロゲン化物イオン31aは、例えば、金属ハロゲン化物31として供給される。金属ハロゲン化物31は、アニオンであるハロゲン化物イオン31aとカチオンである金属イオン31bとして存在している。これらハロゲン化物イオン31aおよび金属イオン31bのうち、ハロゲン化物イオン31aは、負に帯電していることから、ハロゲンリガンドとして、QD21の正に帯電した表面に引き付けられる。
アニオンであるハロゲン化物イオン31aとしては、前述したように、例えば、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等が挙げられる。
カチオンである金属イオン31bとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Al3+、Ga3+、In3+、Sn2+、Pb2+等が挙げられる。
有機リガンド32は、加熱により熱分解するとともに、無機化合物23に含まれる元素のうち少なくとも1つの元素を含み、MX22の前駆体となる化合物であれば、特に限定されるものではない。上記有機リガンド32としては、例えば、キサントゲン酸が好適に用いられる。他にも、上記有機リガンド32として採用可能な材料としては、チオ尿素、チオアセトアミド、ジチオカルボン酸、ジチオカルバミン酸、トリチオ炭酸、ジメチルチオ尿素、3級チオールが挙げられる。
以下では、一例として、無機化合物23がZnSであり、有機リガンド41を、ハロゲン化物イオン31aとしての塩化物イオン(Cl-)および有機リガンド32としてのキサントゲン酸に置換する場合を例に挙げて説明する。キサントゲン酸は、MX22の前駆体(ZnS前駆体)の一部であり、ZnSのS(硫黄)源の一部として用いられる。
図23は、一例として、金属ハロゲン化物31がZnCl2であり、ハロゲン化物イオン31aがCl-であり、金属イオン31bがZn2+であり、有機リガンド32がキサントゲン酸(図23中、「Xan」で示す)である場合を例に挙げて図示している。
リガンド溶液30はハロゲン化物イオン31aおよび有機リガンド32が可溶の溶媒33を含み、QD分散液40は、有機リガンド41が可溶の溶媒42を含む。例えば、溶媒42は溶媒33とは極性が異なり、かつ、溶媒33よりも比重が軽い。なお、容器61中には、リガンド溶液30とQD分散液40との境界をより明確に区別するために、溶媒33と溶媒42との間の比重および極性を有する、図示しない分離液を注入してもよい。
溶媒33は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルホルムアミド(NMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ホルムアミド、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ガンマ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、アセトニトリル、2-メトキシエタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、ギ酸メチル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、テトラヒドロチオフェン、およびジエチルスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶媒を含んでいてもよい。この場合、溶媒33は、ハロゲン化物イオン31aが配位したQD21と、MX22の前駆体とを共によく分散させる。また、溶媒33は、溶媒42よりも極性の大きい極性溶媒であってもよい。溶媒33は、例えば、塩化亜鉛、塩化ナトリウム、塩酸等をNMF、DMF、DMSO等に分散して調製されてもよい。溶媒42は、例えば、トルエン、ヘキサン、オクタン、オクタデセン等であることが望ましい。溶媒42は溶媒33と混和しない非極性溶媒であることが望ましい。
上述したように、有機リガンド41は、一般にQDのリガンドとして利用される炭素鎖であってもよい。溶媒42は、有機リガンド41が可溶の溶媒であるため、有機リガンド41が配位するQD21はQD分散液40に分散しやすい。
また、リガンド溶液30には、QD21に配位可能なハロゲン化物イオン31aの量を超える過剰量のハロゲン化物イオン31aおよびQD21に配位可能な有機リガンド32の量を超える過剰量の有機リガンド32が溶解している。例えば、リガンド溶液30には、0.1mol/l以上のハロゲン化物イオン31a、および0.1mol/l以上の有機リガンド32が溶解していてもよい。また、リガンド溶液30において、ハロゲン化物イオン31aと有機リガンド32との溶解量のモル比は、3:1であってもよい。
次に、上述したリガンド溶液30とQD分散液40とを含む容器61を攪拌機により高速で振動させることにより、リガンド溶液30とQD分散液40と撹拌する(ステップS21b)。撹拌の効率を向上させるために、容器61内には撹拌子が投入されてもよい。換言すれば、リガンド溶液30とQD分散液40とを撹拌する工程は、QD21をハロゲン化物イオン31aおよび有機リガンド32によって処理する工程であり、特に、ハロゲン化物イオン31a有機リガンド32が配位したQD21が生成する工程である。
ここで、上述の通り、リガンド溶液30には過剰量のハロゲン化物イオン31aおよび過剰量の有機リガンド32が含まれている。一般に、QDが分散する溶液中に2種以上のリガンドが含まれる場合、当該QDに配位するリガンドは、溶液中のリガンドの間において平衡状態となる。このため、リガンド溶液30とQD分散液40とを撹拌すると、QD21に配位するリガンドの少なくとも一部は、有機リガンド41からハロゲン化物イオン31aおよび有機リガンド32に置換される。
したがって、上記撹拌により、図23のステップS21bに示すように、ハロゲン化物イオン31aおよび有機リガンド32が配位するQD21が溶媒33中に分散するQD分散液51と、有機リガンド41が溶媒42中に溶解するリガンド溶液52とが、容器61中で得られる。
以上により、ハロゲン化物イオン31aおよび有機リガンド32が配位するQD21が、QD分散液51中で得られる。なお、上記撹拌は、容器61中の液体に紫外線等を照射し、発光する液層が容器61の上方から下方に移ったことを確認した段階にて完了としてもよい。
次いで、図23のステップS21cに示すように、容器61から容器62に、QD分散液51のみを抽出する。
図24は、ステップS11におけるステップS21の後の工程を示す断面模式図である。
図24に示すように、無機化合物23がZnSである場合、ステップS21cの後、該ステップS21cで抽出したQD分散液51と、MX22の前駆体34(ZnS前駆体)としてのキサントゲン酸亜鉛とを、容器62内で混ぜ合わせる(ステップS22)。図24中、Zn(EtXan)2は、キサントゲン酸亜鉛を示している。キサントゲン酸亜鉛は、ZnSのS(硫黄)源の一部およびZn(亜鉛)源として用いられる。
これにより、ハロゲン化物イオン31aとしての塩化物イオン(Cl-)および前駆体として用いられる有機リガンド32としてのキサントゲン酸が配位したQD21と、S源の一部およびZn源となる前駆体34としてのキサントゲン酸亜鉛とを、分散あるいは溶解させる第1溶媒としての例えば溶媒33に分散させる。これにより、QD21と、無機化合物23(MX22)の前駆体(ZnS前駆体)としてのキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛と、ハロゲン化物イオン31aと、溶媒33とを含むQD分散液53(図25のS31参照)を製造(調液)する。
リガンドとしてハロゲン化物イオン31aを使用した場合、有機リガンドを使用する場合と比較して、得られる発光素子1の量子収率(QY)がやや低下する。
しかしながら、上述したようにリガンドとしてハロゲン化物イオン31aを使用することで、QD21を極性溶媒に分散させることが可能になる。図2に示したように例えばQD21のシェル21Sにハロゲン化物イオン31aが配位していると、QD21の極性溶媒に対する分散性が高く、QD21の沈殿が生じ難い。また、QD21のシェル21Sにハロゲン化物イオン31aが配位していることで、QD21の表面においてMX22の前駆体が反応することに伴うQD21の凝集を抑制し、QD21の分散性を長期間維持することができる。
一方、有機リガンドであるキサントゲン酸は、ハロゲンリガンドを使用する場合と比較して、極性溶媒へのQD21の分散性が低い。しかしながら、リガンドとしてキサントゲン酸を使用することで、得られる発光素子1のQYを改善することができる。
次に、ステップS3について説明する。
(ステップS3)
図25はEML形成工程(ステップS3)の一部の工程の一例を示す工程断面図である。なお、図25では、支持体としての基板および陽極11の図示を省略している。
図25に示すように、ステップS3では、まず、HTL12上に、ステップS11で製造したQD分散液53を塗布する。前述したように、QD分散液53は、複数のQD21と、無機化合物23(第1無機化合物)の前駆体としてのキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛と、ハロゲン化物イオン31aと、第1溶媒としての溶媒33と、を含んでいる。なお、図25中、Xanはキサントゲン酸を示し、Zn(EtXan)2は、キサントゲン酸亜鉛を示し、Cl-はハロゲン化物イオン31aを示している。これにより、HTL12上に、QD分散液53の塗膜を形成する(ステップS31、量子ドット分散液塗布工程)。
なお、塗膜の形成方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法等、任意の方法を適宜選択し得る。
次いで、上記QD分散液53の塗膜を上記無機化合物23の前駆体としてのキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛の熱分解温度以上の温度(例えば、図26に示すように150~200℃)で加熱する。これにより、上記無機化合物23の前駆体の少なくとも一部を熱分解させるとともに上記溶媒33を除去する。これにより、複数のQD21と、第1層22aを構成する、無機化合物23を含むMX22と、を含む第1膜を成膜する(ステップS32、第1膜成膜工程)。
図26は、無機化合物23を製造するための反応スキームを模式的に示す図である。
図26に示すように、キサントゲン酸亜鉛は、キサントゲン酸にZnが結合した構造を有している。キサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛は、無機化合物23の前駆体であり、これらキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛は、加熱によって熱分解されて有機成分が気化する一方、ZnとSとが結合してZnSになる。このように、QD分散液53は、無機化合物23の前駆体が熱分解することで、バルクの無機化合物23を形成する。なお、無機化合物として、無機化合物のナノ粒子を用いた場合、隙間が多く、前述した目的を達成することができない。
図27は、キサントゲン酸亜鉛(Zn(EtXan)2)の熱分解性を示す、TGA(熱重量分析)による測定結果を示すグラフである。
図27に示すように、加熱前のキサントゲン酸亜鉛の質量を100wt%とすると、キサントゲン酸亜鉛は、加熱によって熱分解して有機成分が気化することで次第に質量が低下する。図27に示すように、キサントゲン酸亜鉛は、例えば125℃~150℃の間で、大きく熱分解されて、加熱前の質量の40wt%以下にまで質量が低下する。
図28は、第1膜成膜時における、膜厚段差計による測定結果を示すグラフである。図28中、横軸はスキャンした距離を示し、縦軸は膜厚(段差)を示す。図28は、HTL12にp-TPDを使用し、溶媒33にTHFを使用し、無機化合物23がZnSである場合に、QD分散液53の塗膜を、それぞれ100℃、125℃、175℃で加熱したときのMX22の第1層22aの膜厚変化を示している。
図27に示したように、キサントゲン酸亜鉛は、加熱温度が125℃を超えると、大きく熱分解されて、質量が低下し、その分、体積が減ることで、図28に示すように、MX22の第1層22aの膜厚が減少する。特に、キサントゲン酸亜鉛の熱分解点を完全に超える175℃でQD分散液53の塗膜を加熱すると、該塗膜全体が分解して、質量並びに膜厚が大きく減少する。
本実施形態では、この前駆体の質量減少を利用して、ZnSの嵩(言い換えれば、第1層22aの層厚)を調整することができる。
図29~図31は、それぞれ、ステップS32で形成される第1層22aの形成例を示す断面図である。
ステップS32では、QD分散液53に含まれる、無機化合物23の前駆体の濃度(媒質量)を調整することで、無機化合物23の前駆体の質量減少(膜厚減少量)を制御することができる。
このため、図1に示す第1層22aと第2層22bとの境界面22Iとなる、無機化合物23を含むMX22の一方の外縁部が、QD列21Lと交差するように、QD分散液53に含まれる、無機化合物23の前駆体の濃度を調整することで、例えば図29に示す第1層22aを形成することができる。
本実施形態によれば、図29に示すように、EML13の層厚方向における1つのQD21の厚みの範囲内で、MX22に含まれる例えば無機化合物23の濃度を変更することが可能である。このため、例えQD21がEML13の層厚方向に1層しか積層されていない場合であっても、キャリアバランスを調整し、発光効率を向上させることができる。
また、ステップS32では、例えば、無機化合物23のQD21への密着性が良いと、QD21の周りに無機化合物23が形成され、それから第1層22aの全体的な嵩が減る。この場合、無機化合物23の前駆体の濃度を調整し、無機化合物23の前駆体の質量減少(膜厚減少量)を制御することで、例えば図30あるいは図31に示す第1層22aを形成することができる。
図32および図33は、それぞれ、EML形成工程(ステップS3)の一部の工程の一例を示す工程断面図である。なお、図32および図33では、一例として、図29に示す第1層22a上に第2層22bを形成する場合を例に挙げて図示している。
このように、QD21と、無機化合物23の前駆体としてキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛とを含むQD分散液53を、下地層となる例えばHTL12上に塗布して加熱すると、QD21の周囲のキサントゲン酸およびキサントゲン酸亜鉛が分解する。これにより、無機化合物23としてZnSが形成され、QD21の周りがZnSで覆われ、MX22の一部が形成される。このとき、上述したように、無機化合物23の前駆体の濃度を調整することで、QD21の周囲のみを無機化合物23で覆うこともできるし、さらにその周囲を無機化合物23で覆うこともできる。
図22および図32に示すように、ステップS3では、ステップS32の後、ステップS32で形成された前記第1膜上に、無機化合物24の前駆体を含む第2無機化合物前駆体溶液として、無機化合物前駆体溶液54を供給する(ステップS33、第2無機化合物前駆体溶液供給工程)。
無機化合物前駆体溶液54は、無機化合物24の前駆体と、該無機化合物24を溶解する溶媒55(第2溶媒)と、を含んでいる。溶媒55には、第1溶媒として例示した溶媒と同様の溶媒を用いることができる。なお、図32は、無機化合物24が硫化マグネシウム(MgS)であり、無機化合物24の前駆体として、キサントゲン酸マグネシウムを用いた場合を例に挙げて図示している。なお、図32中、Mg(EtXan)2は、キサントゲン酸マグネシウムを示している。これにより、上記第1膜上に、無機化合物前駆体溶液54の塗膜を形成する。
なお、第1膜上への無機化合物前駆体溶液54の供給は、特に限定されるものではない。無機化合物前駆体溶液54は、例えば、第1膜上に、無機化合物前駆体溶液54を散布してもよく、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法等により、第1膜上に無機化合物前駆体溶液54を塗布してもよい。
次いで、上記ステップS33で供給された無機化合物前駆体溶液54を、無機化合物24の前駆体の熱分解温度以上の温度で加熱して、該無機化合物24の前駆体の少なくとも一部を熱分解させるとともに溶媒55を除去する。無機化合物24の前駆体として用いられるキサントゲン酸マグネシウムも、キサントゲン酸亜鉛同様、加熱によって熱分解して有機成分が気化することで次第に質量が低下し、その分、体積が減ることで、MX22の第2層22bの膜厚が減少する。これにより、図33に示すように、第2層22bとして、無機化合物24を主成分として含むMX22を形成する(ステップS34、第2無機化合物形成工程)。これにより、QD21を含むとともにMX22として第1層22aおよび第2層22bを含むEML13が形成される。
図34は、上述したようにMX22が無機化合物として金属硫化物を含む場合に、該金属硫化物の前駆体から金属硫化物を形成するための反応スキームを示す図である。なお、図34中、Mは金属源を示し、Rは任意の有機残基を示す。上述したように無機化合物24がMgSであり、無機化合物24の前駆体として、キサントゲン酸マグネシウムを使用する場合、MはMg(マグネシウム)である。キサントゲン酸マグネシウムは、MgSのS源およびMg源として用いられる。
キサントゲン酸マグネシウムは、無機化合物24の前駆体であり、キサントゲン酸マグネシウムは、加熱によって熱分解されて有機成分が気化する一方、MgとSとが結合してMgSになる。このように、無機化合物前駆体溶液54は、無機化合物24の前駆体が熱分解することで、バルクの無機化合物24を形成する。
このように、本実施形態では、複数のQD21と無機化合物23とを含む第1膜上に、無機化合物24の前駆体を含む無機化合物前駆体溶液54を供給して加熱することで、第1膜上に、無機化合物24を主成分として含むMX22として、MX22の第2層22bが形成される。
なお、図26に示すように無機化合物がZnSであり、無機化合物の前駆体として、ZnSを使用する場合、図34に示すMはZnとなる。また、無機化合物がInS(例えばIn2S3)であり、無機化合物の前駆体として、キサントゲン酸インジウムを使用する場合、MはIn(インジウム)である。キサントゲン酸インジウムは、InSのS源およびIn源として用いられる。
(変形例)
図1では、陽極11が下層電極であり、陰極15が上層電極であり、EML13がHTL12上に設けられている場合を例に挙げて図示した。しかしながら、本開示は、これに限定されるものではない。
図35は、本変形例に係る発光素子1の概略構成の一例を示す断面図である。
発光素子1は、図1に示すようにコンベンショナル構造を有していてもよく、図35に示すようにインバーテッド構造を有していてもよい。
図35に示す発光素子1は、陰極15が下層電極であり、陽極11が上層電極であり、EML13上にHTL12が設けられている構成を有している。図35に示すように、発光素子1は、例えば、陰極15、ETL14、EML13、HTL12、および陽極11が、下層側(例えば、前記基板等の図示しない支持体側)からこの順に設けられた構成を有していてもよい。
この場合、図35に示すように、発光素子1の積層順が、図1に示す発光素子1とは逆転する。したがって、このような発光素子1を製造する場合、まず、支持体としての基板上に陰極15を形成する(ステップS5、陰極形成工程)。次いで、ETL14を形成する(ステップS4、ETL形成工程)。また、並行して、QD分散液を製造(調液)する(ステップS11、QD分散液製造工程)。次いで、上記QD分散液を用いてEML13を形成する(ステップS3、EML形成工程)。次いで、HTL12を形成する(ステップS2、HTL形成工程)。次いで、陽極11を形成する(ステップS1、陽極形成工程)。これにより、上記発光素子1が製造される。
この場合、第1無機化合物として無機化合物24が使用され、第2無機化合物として無機化合物23が使用される。このため、ステップS11では、無機化合物23の前駆体に代えて無機化合物24の前駆体を含むQD分散液を製造する。このため、上記QD分散液に含まれる第1溶媒としては、例えば無機化合物24がMgSである場合、例えば、QD21と、無機化合物24(MX22)の前駆体(MgS前駆体)としてのキサントゲン酸およびキサントゲン酸マグネシウムと、ハロゲン化物イオン31aと、それらを分散あるいは溶解させる溶媒(第1溶媒)とを含むQD分散液が製造される。
また、ステップS33では、ステップS32で、上記QD分散液を用いて形成された第1膜上に、第2無機化合物前駆体溶液として、無機化合物23の前駆体を含む無機化合物前駆体溶液が供給される。
〔実施形態2〕
図36は、本実施形態に係る発光素子1の概略構成の一例を示す断面図である。
MX22は、無機化合物23および無機化合物24以外の無機化合物を含んでいてもよい。
図36に示すMX22は、無機化合物として、無機化合物23および無機化合物24に加え、無機化合物25をさらに含んでいる。
このため、図36に示す発光素子1は、MX22が、EML13における外縁部13aと外縁部13bとを貫く直線L1方向に、少なくとも無機化合物23を含む第1領域と、少なくとも無機化合物24を含む第2領域と、少なくとも無機化合物25を含む第3領域と、を有している。第2領域は、第1領域よりも外縁部13b側に設けられている。第3領域は、第2領域よりも外縁部13b側に設けられている。
この場合、第1領域は、主成分として無機化合物23を含む。第1領域は、無機化合物24をさらに含んでいてもよく、無機化合物23および無機化合物25を含んでいてもよい。また、第2領域は、主成分として無機化合物24を含む。第2領域は、無機化合物23あるいは無機化合物25をさらに含んでいてもよく、無機化合物23および無機化合物25をさらに含んでいてもよい。また、第3領域は、主成分として無機化合物25を含む。第3領域は、無機化合物24をさらに含んでいてもよく、無機化合物24および無機化合物23をさらに含んでいてもよい。
この場合、第1領域における無機化合物23の濃度と、第2領域および第3領域における無機化合物23の濃度とは、一定以上異なる。この場合、第1領域における無機化合物23の濃度と第2領域および第3領域における無機化合物23の濃度とは20%以上異なることが望ましい。
また、第2領域における無機化合物24の濃度と、第1領域および第3領域における無機化合物24の濃度とは、一定以上異なる。この場合、第2領域における無機化合物24の濃度と第1領域および第3領域における無機化合物24の濃度とは20%以上異なることが望ましい。
また、第3領域における無機化合物25の濃度と、第1領域および第2領域における無機化合物25の濃度とは、一定以上異なる。この場合、第3領域における無機化合物25の濃度と第1領域および第2領域における無機化合物25の濃度とは20%以上異なることが望ましい。
なお、第1領域は、第1領域と第3領域との間に第2領域を挟むことで、第1領域への無機化合物24の浸透度合と無機化合物25の浸透度合とが異なる。このため、第1領域において、無機化合物24の濃度と無機化合物25の濃度とは異なり、無機化合物24の濃度は、無機化合物25の濃度よりも大きい。同様に、第3領域は、第3領域と第1領域との間に第2領域を挟むことで、第3領域への無機化合物24の浸透度合と無機化合物23の浸透度合とが異なる。このため、第3領域において、無機化合物24の濃度と無機化合物23の濃度とは異なり、無機化合物24の濃度は、無機化合物23の濃度よりも大きい。しかしながら、第2領域では、無機化合物23と無機化合物25とが同じ濃度であることはあり得る。
なお、無機化合物23の濃度、無機化合物24の濃度、および無機化合物25の濃度は、実施形態1において、図8、図10、図12および図13を用いて説明した方法と同様の方法により測定することができる。
図36では、MX22が、第1領域として、無機化合物23を主成分とする第1層22aを含み、第2領域として、無機化合物24を主成分とする第2層22bを含み、第3領域として、無機化合物25を主成分とする第3層22cを含んでいる場合を例に挙げて図示している。また、図36では、EML13が、複数のQD21がEML13の層厚方向に垂直な方向に並ぶQD列21Lを、EML13の層厚方向に1列備え、第1層22aと第2層22bとの境界面22Iおよび第2層22bと第3層22cとの境界面22Bが、それぞれQD列21Lと交差している場合を例に挙げて図示している。しかしながら、本実施形態は、これに限定されるものではなく、本実施形態でも、例えば、図15~図21に示したように、QD21は、EML13の層厚方向に複数積層されていてもよく、各層の境界面は、明確に分かれていなくてもよい。
また、本実施形態でも、EML13は、外縁部13aから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物23の濃度が80%以上の領域を含むことが望ましい。前述したように、このように外縁部13a付近のMX22が比較的均一な成分で形成されていることで、陽極11側から外縁部13a付近のQD21にキャリアが注入し易くなる。
また、本実施形態では、EML13は、外縁部13bから少なくとも1nmの範囲内に、MX22における無機化合物25の濃度が80%以上の領域を含むことが望ましい。このように外縁部13b付近のMX22が比較的均一な成分で形成されていることで、陰極15側から外縁部13b付近のQD21にキャリアが注入し易くなる。
本実施形態でも、例えば、電子過剰で正孔不足の場合、キャリアバランスを改善するためには、EML13における電子の注入量を減らすか、正孔の注入量を増加させることが望ましい。
そこで、上述したように電子過剰で正孔不足の場合、例えば、無機化合物24として、無機化合物23よりもEgが大きい無機化合物を使用し、無機化合物25として、無機化合物24よりもEgが大きい無機化合物を使用することが望ましい。言い換えれば、無機化合物23として、無機化合物24よりもEgが小さい無機化合物を使用し、無機化合物24として、無機化合物25よりもEgが小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、電子の注入を抑制してキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上述したように電子過剰で正孔不足の場合、例えば、無機化合物23として、無機化合物24よりも正孔移動度が大きい無機化合物を使用し、無機化合物25として、無機化合物24よりも電子移動度が小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、正孔を注入し易くする一方、電子の注入の注入を抑制してキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
このため、上述したように電子過剰で、正孔不足の場合、例えば、無機化合物23が硫化インジウム(InS)であり、無機化合物24が硫化亜鉛(ZnS)であり、無機化合物25が硫化マグネシウム(MgS)であってもよい。この場合にも、上記硫化インジウム(InS)としては、例えば、In2S3が挙げられる。
このように、電子過剰で、正孔不足の場合、例えば、HTL12側のMX22(具体的には、無機化合物23)を、ETL14側のMX22(具体的には、無機化合物25)よりもEgが小さく、正孔移動度が高い(正孔有効質量が小さい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、正孔注入を促進し、電子過剰を調整することができる。また、例えば、ETL14側のMX22を、HTL12側のMX22よりもEgが大きく、電子移動度が低い(電子有効質量が大きい)無機化合物を主成分とするMX22に変更することで、電子注入を抑制し、正孔不足を調整することができる。
一方、電子不足で正孔過剰の場合には、例えば、無機化合物23として、無機化合物24よりもEgが大きい無機化合物を使用し、無機化合物25として、無機化合物24よりもEgが大きい無機化合物を使用することが望ましい。言い換えれば、無機化合物24として、無機化合物23よりもEgが小さい無機化合物を使用し、無機化合物25として、無機化合物24よりもEgが小さい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、正孔の注入を抑制してキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上述したように電子不足で正孔過剰の場合、例えば、無機化合物24として、無機化合物23よりも電子移動度が大きい無機化合物を使用し、無機化合物25として、無機化合物24よりも電子移動度が大きい無機化合物を使用することが望ましい。この場合、電子を注入し易くしてキャリアバランスを調整し、発光効率および信頼性を向上させることができる。
(発光素子1の製造方法)
図37は、本実施形態に係る発光素子1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る発光素子1の製造方法は、以下に示す点を除けば、実施形態1に係る発光素子1の製造方法と同じである。
本実施形態に係る発光素子1の製造方法では、図37に示すように、ステップS3において、ステップS34において、第2層22bとして形成した、無機化合物24を主成分として含むMX22上に、無機化合物25の前駆体を含む第3無機化合物前駆体溶液を供給する(ステップS35、第3無機化合物前駆体溶液供給工程)。
第3無機化合物前駆体溶液は、無機化合物25の前駆体と、該無機化合物25を溶解する溶媒(第3溶媒)と、を含んでいる。第3溶媒には、第1溶媒として例示した溶媒と同様の溶媒を用いることができる。ステップS35(第3無機化合物前駆体溶液供給工程)は、ステップS33(第2無機化合物前駆体溶液供給工程)と同様にして行うことができる。
上述したように、無機化合物23としては、例えば、硫化インジウム(例えばIn2S3)を用いることができる。無機化合物24としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)を用いることができる。無機化合物25としては、例えば硫化マグネシウム(MgS)を用いることができる。この場合、無機化合物23の前駆体には、キサントゲン酸およびキサントゲン酸インジウムが用いられる。また、無機化合物24の前駆体には、キサントゲン酸亜鉛が用いられる。また、無機化合物25の前駆体には、キサントゲン酸マグネシウムが用いられる。反応スキームは、図34に示した通りである。
次いで、上記ステップS35で供給された第3無機化合物前駆体溶液を、無機化合物25の前駆体の熱分解温度以上の温度で加熱して、該無機化合物25の前駆体の少なくとも一部を熱分解させるとともに上記第3溶媒を除去する。これにより、第3層22cとして、無機化合物25を主成分として含むMX22を形成する(ステップS36、第3無機化合物形成工程)。これにより、QD21を含むとともにMX22として第1層22a、第2層22b、および第3層22cを含むEML13が形成される。
これにより、本実施形態によれば、キャリアバランスをより細かく調整し、発光効率を向上させることができる発光素子1を製造することができる。
なお、本実施形態では、MX22が3種類の無機化合物を含む場合を例に挙げて説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。MX22は、例えば4種類以上の無機化合物を含んでいてもよい。
〔実施形態3〕
発光素子1は、表示装置あるいは照明装置等の発光デバイスの光源として好適に用いることができる。発光デバイスは、発光素子1を少なくとも1つ備えていればよい。以下では、発光素子1を表示装置の光源として用いる場合を例に挙げて説明する。
図38は、本実施形態に係る表示装置の構成例を示す平面図である。図38に示すように、表示装置70は、複数のサブ画素Xを含む表示部71と、表示部71を駆動するドライバ回路72とを備える。例えば、サブ画素Xは、前記実施形態1または2に記載の発光素子1および画素回路2を備えている。なお、表示装置70は、照明装置であってもよい。
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。