本発明は、電解液の組成に構造的特徴を有する電解コンデンサの発明およびその製造方法の発明である。したがって、本発明は、コンデンサ素子に電解液が含浸されるタイプの電解コンデンサに適用可能である。以下、本発明を実施するための形態として、コンデンサ素子2内に、非固体電解質としての電解液6が導入されるタイプ(固体電解質が導入されないタイプ)の電解コンデンサ1の例で説明する。但し、本発明に係る電解コンデンサは、上記の本発明の性質上、ここで説明するタイプの電解コンデンサ1に限定されない。すなわち、本発明に係る電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子内に、導電性高分子等の固体電解質と共に電解液が導入される所謂「ハイブリッドタイプ」の電解コンデンサも包含する。また、本発明を実施するための形態として、リード端子(リード線)10、11を有するリード端子形(リード線形)の電解コンデンサ1の例で説明する。但し、本発明に係る電解コンデンサは、上記の本発明の性質上、この端子形態に限定されない。すなわち、本発明に係る電解コンデンサは、例えば、ネジ端子を有するネジ端子形、リベット留めされた外部端子が立設される基板自立形、その他に面実装形等の端子形態の電解コンデンサをも包含する。また、本発明を実施する形態として、巻回型のコンデンサ素子2を有する電解コンデンサ1を例にして説明する。但し、本発明に係る電解コンデンサは、上記の本発明の性質上、この素子形態に限定されない。すなわち、本発明に係る電解コンデンサは、例えば、積層型、コイン型等の素子形態の電解コンデンサをも包含する。
以下、本明細書は、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係る電解コンデンサ1の例を示す概略図(正面断面図)である。但し、見易くするために、コンデンサ素子2は断面構造を示さない。図2および図3は、本実施形態に係る電解コンデンサ1におけるコンデンサ素子2の例を説明する概略図である。図2はコンデンサ素子2の形成(巻回)工程S01を示す分解斜視図である。図3はコンデンサ素子2の基本構成を模式的に示す説明図である。
本実施形態に係る電解コンデンサ1は、図1に示すように、電解液6が含浸されたコンデンサ素子2が有底筒状の外装ケース7に収容されている。エポキシ樹脂等の絶縁材料からなる充填剤(不図示)によって、コンデンサ素子2と外装ケース7の内壁との隙間が埋められてもよい。外装ケース7には、例えば、気密性、耐熱性および耐腐食性が比較的高いアルミニウム製のケース等を用いることができる。外装ケース7の底部には、圧力弁である防爆弁8が設けられている。防爆弁8は、外装ケース7の底面の一部が薄肉に形成されていることにより、電解コンデンサ1内で比較的急激且つ多量にガスが発生し、内圧が上昇して一定以上に達した場合、当該薄肉部が割れてガスを外部に逃がすことができる。なお、実装上は、さらに塩化ビニル等の絶縁材料からなる外装スリーブ(不図示)によって、外装ケース7が被覆されている。
外装ケース7の開口部7aには封口体9が装着されている。コンデンサ素子2に接続されたリード端子(陽極リード端子10および陰極リード端子11)が封口体9に設けられた貫通穴を貫通し、貫通穴から電解コンデンサ1外へ引き出されている。封口体9が外装ケース7の開口部7aによって、封口体9の装着方向(図面のZ方向)の垂直方向に加締められた第1の加締め部7cが設けられている。封口体9が外装ケース7の開口端7bによって、封口体9の装着方向(図面のZ方向)の平行方向に加締められた第2の加締め部7dが設けられている。このように、外装ケース7は、封口体9によって封口されると共に、二箇所の加締め部7c、7dによって密閉されている。
続いて、本実施形態に係る巻回型のコンデンサ素子2は、図2に示すように、陽極箔3と陰極箔4とがセパレータ5を挟んで重ね合わせられて巻回され、テープ等の保持材(不図示)で保持されて、円柱状のコンデンサ素子2が形成されている。
その基本構成は、図3に示すように、陽極箔3と、陰極箔4と、これらの陽極箔3と陰極箔4の間に配設されたセパレータ5と、を備えている。陽極箔3には陽極リード端子10が接続されている。陰極箔4には陰極リード端子11が接続されている。
電極箔(陽極箔3および陰極箔4)には、アルミニウム、タンタル等の弁金属が用いられる。或いは、複数種類の弁金属からなる弁金属合金が用いられてもよい。或いは、一または複数の弁金属に、電極箔3、4としての機能を果たし得る範囲で弁金属以外の金属元素その他非金属元素が添加された弁金属合金が用いられてもよい。なお、これらの弁金属または弁金属合金における、電極箔3、4としての機能を果たし得る範囲での意図しない不純物の含有は許容される。
電極箔3、4は、芯部の基材と、基材を被覆する被覆材との複数層で形成されていてもよい。この場合、少なくとも外層である被覆材が上記の弁金属または弁金属合金により構成されていればよい。すなわち、基材の組成と被覆材の組成とは、同一でもよく、または相違していてもよい。
電極箔3、4は、拡面処理が施されることにより拡面構造を有している。拡面処理としては、典型的にはエッチング処理が挙げられる。或いは、他の例として、金属粉末の蒸着、焼結等によって拡面構造が形成されてもよい。この場合、例えば、芯部の基材に、上記の弁金属または弁金属合金粉末を、蒸着または焼結により被覆することによって、電極箔3、4そのものを形成すると共に拡面構造を形成することができる。電極箔3、4の拡面構造は、比表面積を大きくして静電容量を増大できる。
拡面化された陽極箔3の表面には、化成処理が施されることにより誘電体層としての酸化皮膜3aが形成されている。一方、拡面化された陰極箔4に対しては、化成処理は任意である。すなわち、有極性の電解コンデンサ1では、化成処理は施されず、通常、陰極箔4の表面には、空気中の酸素によって自然酸化皮膜(不図示)が形成されている。或いは、化成処理以外の処理が施されて、例えば、拡面化された陰極箔4の表面に、さらに弁金属または弁金属合金粉末が被覆されてもよい。これにより、誘電率を上げて静電容量を向上させることができる。或いは、拡面化された陰極箔4の表面に、陽極箔3と同様に化成処理が施されて、無極性の電解コンデンサ1として構成されてもよい。
リード端子10、11は、ステッチ接続や冷間圧接等により電極箔3、4に接続され、コンデンサ素子2から引き出されている。
セパレータ5(電解紙)には、マニラ麻パルプ等の天然のセルロース繊維からなる紙等、もしくは、ナイロン等の合成繊維からなる布、シート、フィルム等、または、これらの混抄品、混紡品等を用いることができる。このうち、合成繊維は、特に耐熱性に優れる材料を選択できるという利点がある。そのような合成繊維は、一例として、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等が挙げられる。なお、図3は、コンデンサ素子2の基本構成を模式的に示しており、セパレータ5を1枚示しているが、その数は限定されず、陽極箔3と陰極箔4とを仕切る目的を達せられるように、必要に応じて複数枚(例えば、図2では3枚)用いられてもよい。
また、コンデンサ素子2には電解液6が含浸されている。図3に模式的に示すように、有極性の電解コンデンサ1における電解液6は、陽極箔3と陰極箔4との間における空隙に存在する。電解液6は、陽極箔3に形成された誘電体層(酸化皮膜3a)と、陰極箔4とに接触することで、陰極箔4に代わって実質的に陽極箔3の対極をなす真の陰極として機能する。なお、セパレータ5は、電解液6の成分を陽極箔3側と陰極箔4側とに自由に通すが、セパレータ5の構成や材料によっては、電解液6はセパレータ5内にも含浸されている。
電解液6は、電解質と、電解質を溶解または分散させる溶媒とを有している。
電解質には、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物、もしくはこれらの誘導体、またはこれらの塩を適用することができる。これらのうち、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。例えば、有機酸および無機酸が共に用いられてもよい。
有機酸およびその誘導体としては、一例として、モノカルボン酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、カプリル酸等や、これらの誘導体が挙げられる。また、ジカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸等や、これらの誘導体が挙げられる。また、ヒドロキシカルボン酸として、クエン酸、サリチル酸等や、これらの誘導体が挙げられる。また、無機酸およびその誘導体としては、一例として、ホウ酸、スルファミン酸等や、これらの誘導体が挙げられる。また、有機酸と無機酸との複合化合物およびその誘導体としては、ジカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸のホウ素錯体等に例示され、一例として、ボロジシュウ酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジマレイン酸、ボロジフタル酸、ボロジグリコール酸、ボロジクエン酸、ボロジサリチル酸等や、これらの誘導体が挙げられる。
また、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物、およびこれらの誘導体の塩としては、一例として、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミジン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アミン塩としては、一例として、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、メタノールアミン、エタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、オキサゾリジン、チオモルホリン、チアゾリジン等の塩が挙げられる。
溶媒には、1種または2種以上の有機溶剤のみからなる組成、または、1種または2種以上の有機溶剤と水とからなる組成、水のみからなる組成等を適用することができる。
溶媒成分として適用し得る有機溶剤には、一例として、プロトン性溶媒として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等の三価アルコール等や、これらの誘導体等が挙げられる。また、非プロトン性溶媒として、γ-ブチロラクトン等のラクトン化合物、スルホラン、メチルスルホラン、ジメチルスルホラン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ピロリジン、2-ピロリジノン、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン等や、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。例えば、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒が共に用いられてもよい。
本実施形態に係る電解液6は、さらにニトロ化合物の一つである4-ニトロピリジン N-オキシド化合物(NpNO化合物)を含有する。ここでいう4-ニトロピリジン N-オキシド化合物は、下記の化学式(1)に示すように、4-ニトロピリジン N-オキシド(C5H4N2O3)またはその誘導体を含む化合物である。
化学式(1)中、X1、X2、X3およびX4は、それぞれが独立して水素原子もしくは水素以外の原子または基を表し、それぞれが同一でも異なってもよい。
基本的な実施形態としては、4-ニトロピリジン N-オキシドが用いられるが、上記の化学式(1)に示すように、4-ニトロピリジン N-オキシドの水素原子X1-X4の一個以上が他の原子または基によって置換されていてもよい。そのような誘導体としては、例えば4-ニトロピリジン N-オキシドの水素原子の一個以上がアルキル基で置換された化合物(化学式(1)で表現すると、X1、X2、X3およびX4が、それぞれが独立して水素原子またはアルキル基を表し、それぞれが同一でも異なってもよいNpNO化合物)を用いることができる。具体的に、例えば3-メチル-4-ニトロピリジン N-オキシド(C6H6N2O3)(化学式(1)で表現すると、X1、X3およびX4が水素原子(H)であり、X2がメチル基(-CH3)であるNpNO化合物)等を用いることができる。
NpNO化合物は、ニトロ基を有するニトロ化合物の一つとして電解コンデンサ1内の水素ガスの発生を抑制する作用効果を有し、電解コンデンサ1の内圧上昇を抑制することができる。その結果、内圧上昇の進行に伴う外観の膨れ、液漏れ、さらには防爆弁8の作動(開弁)を防止できる。電解コンデンサ1内の水素発生は電解液6中の水分含有量が多い程問題になり易いため、特に、水を含有する溶媒を用いた電解液6にNpNO化合物が配合されることで、好適に水素ガスの発生を抑制し、内圧上昇を抑制することができる。
また、NpNO化合物は、ニトロアセトフェノン、ニトロ安息香酸等のような従来物質と比較して、エチレングリコール等の極性溶媒への溶解性に優れる。これは、NpNO化合物がピリジン環を有し、さらに酸素の配位結合を有することで、比較的高い極性を有して極性溶媒への溶解性に優れているものと推測される。実際、発明者が、対象物を溶媒に加熱溶解した後、常温で1日放置したものを、目視による結晶の有無で溶解性を評価する方法により、主要な溶媒の一つであるエチレングリコールへの溶解性を検討すると、4-ニトロピリジン N-オキシドは、3’-ニトロアセトフェノンおよびニトロ安息香酸のそれぞれ2倍以上の濃度(質量%)量を溶解させることができた。
さらに、NpNO化合物は、従来のニトロ化合物が比較的高濃度で配合された場合や高温負荷を経た後に起こす電解コンデンサ1の耐電圧低下を、殆ど生じさせない。すなわち、NpNO化合物は、こうした従来物質との比較で、明らかな耐電圧低下抑制効果を奏する。後述の実施例によれば、4-ニトロピリジン N-オキシドを配合した電解液6を用いた例において、125℃の高温で定電圧を500時間印加し続けた後も、耐電圧が低下した場合の絶縁破壊等によるショートを起こすことなく、電解コンデンサ1は正常に動作した。実際、125℃の高温負荷を経た電解液6に対して、酸化皮膜3a形成箔を用いて測定した耐電圧(火花電圧)は、従来の通常量範囲内の0.03mol/Lおよびそれを上回る0.12mol/Lのいずれにおいても高温負荷を経る前と比較して殆ど低下することがなかった。また、別の実施例として、4-ニトロピリジン N-オキシドをさらに高濃度(0.18mol/L)で配合しても耐電圧が低下しないことが確かめられている。このように、NpNO化合物の配合量(配合濃度)に関わらず、安定して良好な結果が得られている。したがって、NpNO化合物の電解液6中配合量(配合濃度)として、例えばエチレングリコールに対する溶解上限0.3mol/L程度まで増量した0.03~0.30mol/L、0.06~0.30mol/L、0.12~0.30mol/L、0.18~0.30mol/L等に設定可能である。さらには、NpNO化合物を、より溶解させ易い水等の溶媒に対してさらなる高濃度で配合することもできる。
その他、電解液6は、NpNO化合物に加えて、さらに電解コンデンサ1の電解液6中に配合し得る公知の機能性物質を含有していてもよい。ここでいう機能性物質は、酸化皮膜3a修復機能、耐圧機能、耐高温機能、耐低温機能、水素ガス吸収機能等の電解コンデンサ1において何らかの有用機能を有する物質をいう。機能性物質の中には、電解質(溶質)として機能し得るものもあるが、そのような物質が機能性物質として配合される場合は、電解質(溶質)としての機能以外の有用機能による作用効果を主目的として配合される。このような機能性物質としては、例えば、リン酸化合物、キレート化合物、所定のポリマー、糖質等が挙げられる。
[電解コンデンサの製造方法]
続いて、本明細書は、本実施形態に係る電解コンデンサ1の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る電解コンデンサ1の製造方法の例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る電解コンデンサ1は、図4に示すように、一例として、コンデンサ素子形成工程S01、電解液導入工程S02、封口工程S03、およびエージング工程S04を実施することによって製造される。このうち、電解液導入工程S02における特定の組成の電解液6を調製する操作が、本発明に係る全ての電解コンデンサに共通する新規で有利な特徴である。一方、これ以外の操作については、ここで例示する方法以外に、本実施形態および本実施形態以外のタイプ、例えば、ハイブリッドタイプ、リード線形以外の端子形態、巻回型以外の素子形態等におけるそれぞれ公知の製造工程、操作を用いることができる。
コンデンサ素子形成工程S01は、陽極箔3に対しては、予め拡面処理および化成処理を行う。拡面処理として、例えば、エッチング処理は、エッチング液(塩酸等の強酸性の水溶液)中で、アルミニウム箔等の原材料金属箔に直流電圧または交流電圧を印加する。これにより、当該金属箔の表面を凹凸にし、比表面積を拡大する。続いて、化成処理は、化成液(ほう酸アンモニウム等の弱酸性の水溶液)中で、エッチング箔に直流電圧を印加する。これにより、エッチング箔の表面に誘電体層としての酸化皮膜3aを形成する。また、陰極箔4に対しても、予め拡面処理、および必要に応じて化成処理その他の処理を行う。
また、陽極箔3および陰極箔4に対して、ステッチ接続や冷間圧接等により、陽極リード端子10および陰極リード端子11を接続する。リード端子10、11の接続は、化成処理の前または後に行うことができる。
そして、図2に示すように、陽極箔3と陰極箔4とをセパレータ5を挟んで重ね合わせて巻回して円柱状に形成し、テープ等の保持材(不図示)を貼り付けて巻回状態を保持する。これにより、コンデンサ素子2が形成される。
なお、ハイブリッドタイプでは、コンデンサ素子2形成後、任意のタイミングで、欠損した酸化皮膜3a修復のために、化成処理を再度行う場合がある。この再化成処理は任意の処理であって、例えば、本実施形態に対して再化成処理を行うことが禁止されないし、逆にハイブリッドタイプに対して再化成処理を行わないことも禁止されない。
次に、電解液導入工程S02は、電解液6を調製して、コンデンサ素子2内に当該電解液6を導入して含浸させる。電解液6の調製は、電解液6を導入する前であれば、いつでも実施可能である。電解液6の組成については、本実施形態に係る電解液6として既に説明した通りである。すなわち、電解質を溶媒に溶解または分散させた基本構成に、さらに4-ニトロピリジン N-オキシド化合物(NpNO化合物)を配合する。具体的な組成として、例えば、NpNO化合物を電解液6中に0.03~0.30mol/L配合することができる。また、例えば、NpNO化合物として、4-ニトロピリジン N-オキシドまたはその誘導体を配合することができる。さらに、電解液6に、任意に公知の機能性物質を配合してもよい。
電解液6の導入は、電解液6中にコンデンサ素子2を所定時間浸漬する。なお、前述のように、電解液6の調製段階においてNpNO化合物その他機能性物質を配合してもよい。或いは、コンデンサ素子2内へ電解液6を導入する前または後に、電解液6とは別に、NpNO化合物その他機能性物質を含有する液体中にコンデンサ素子2を浸漬することで、コンデンサ素子2内に機能性物質を導入してもよい。電解液6および機能性物質の導入は、必要に応じて制御された圧力下で行ってもよい。また、導入後、必要に応じて遠心分離機によって過剰な液体を除去してもよい。
次に、封口工程S03は、コンデンサ素子2を有底筒状の外装ケース7内に収容し、外装ケース7の開口部7aに封口体9を装着する。コンデンサ素子2から引き出されたリード端子10、11を封口体9の貫通穴に貫通させることで、貫通穴から電解コンデンサ1外へ引き出す。外装ケース7の開口部7aを、封口体9の装着方向(図面のZ方向)の垂直方向に加締める。これにより、図1に示す第1の加締め部7cが形成される。また、外装ケース7の開口端7bを、封口体9の装着方向(図面のZ方向)の平行方向に加締める。これにより、図1に示す第2の加締め部7dが形成される。その結果、外装ケース7は、封口体9によって封口されると共に、二箇所の加締め部7c、7dによって密閉される。こうして、電解コンデンサ1が形成される。実装上は、さらに塩化ビニル等の絶縁材料からなる外装スリーブによって、外装ケース7を被覆する。当該被覆は、下記のエージング工程S04の前または後に行うことができる。
最後に、エージング工程S04は、高温条件下で、形成した電解コンデンサ1に直流電圧を印加する。これにより、電解液6中の所定の成分が有する酸化皮膜3a修復機能を作用させて、製造過程で酸化皮膜3aが剥離された部分や、酸化皮膜3aの比較的薄い部分等を修復して、漏れ電流の抑制と性能の安定化を図ることができる。また、エージング処理によれば、予期しない初期不良の除去といったデバッキング効果も得られる。
溶媒をエチレングリコールおよび水とし、そこに電解質として所定の有機酸および添加物として所定の機能性物質を溶解した基本組成に対して、表1に示すニトロ化合物を、添加後の電解液において表1に示す濃度になるようにそれぞれ添加し、実施例および比較例の電解液を調製した。これらの各例の電解液を用いて各試験を実施した。但し、比較例3については、ニトロ化合物である3’-ニトロアセトフェノンの添加量全てを溶媒に溶解させることができず、電解液を調製することができなかった。そのため、比較例3は後述の試験を全て実施不可とした。また、ニトロ化合物無添加の基本組成の組成比は、エチレングリコールが約65質量%、水が約5質量%、電解質が約10質量%、その他添加物が20質量%である。この基本組成の電解液は、参考例1として後述の試験3を実施した。
[試験1]
前述の本実施形態に沿って通常の方法により、定格電圧450Vのアルミニウム電解コンデンサを製造した。陽極箔および陰極箔にはエッチング処理を行ったアルミニウム箔を用い、陽極箔には化成処理を行って酸化皮膜を形成した。リード端子を接続した陽極箔と陰極箔とを、セパレータを挟んで重ね合わせて巻回し、コンデンサ素子を形成した。次いで、このコンデンサ素子内に各例の電解液を導入し、外装ケースに収容して封口し、電解コンデンサを製造した。その後、所定のエージング処理を行った。
各例の電解コンデンサを、105℃の温度条件で直流電圧450Vを印加し、防爆弁が作動(開弁)するまでの時間を測定した。各例の供試数は10器とした。表2に結果を示す。
[試験2]
また、各例の電解コンデンサを、125℃の温度条件で直流電圧450Vを500時間印加し、ショート(短絡)の発生の有無を調べた。各例の供試数は10器とした。表2に結果を示す。
[試験3]
また、アルミニウム箔片にエッチング処理および化成処理を行って酸化皮膜を形成した陽極箔片(10×20mm)、および同サイズのプレーンなアルミニウム箔片である陰極箔片を準備した。陽極箔片と陰極箔片とを各例の電解液に2cm2浸漬させて、電解液を85℃に温調しながら定電流を流して負荷を付加し、電圧挙動(初期電圧挙動)を測定した。
また、各例の電解液を入れたメジューム瓶を強制対流方式の恒温器(PH-202、エスペック社製)により125℃で500時間恒温した。その後、高温放置後の各例の電解液を用いて、上記と同様に、85℃で定電流を流しながら電圧挙動(高温放置後電圧挙動)を測定した。各例の供試数は1とした。図5Aに実施例1および比較例1、2ならびに参考例1の初期電圧挙動を示す。図5Bに実施例1および比較例1、2ならびに参考例1の高温放置後電圧挙動を示す。図6Aに実施例2および比較例4ならびに参考例1の初期電圧挙動を示す。図6Bに実施例2および比較例4ならびに参考例1の高温放置後電圧挙動を示す。図6Aおよび図6Bに示す参考例1は、図5Aおよび図5Bに示す参考例1の再掲である。図5Aおよび図5Bのグラフでは、横軸の時間範囲(最小値から最大値まで)、および縦軸の電圧範囲(最小値から最大値まで)を、それぞれ一致させている。また、図6Aおよび図6Bのグラフでは、横軸の時間範囲(最小値から最大値まで)、および縦軸の電圧範囲(最小値から最大値まで)を、それぞれ一致させている。このうち、縦軸の電圧範囲は、図5A、図5B、図6A、および図6Bの全図で一致する。また、全図において、比較の基準値としての同一の電圧値αを破線で示す。また、全図において、参考例1以外の各例では、時間の値に定数を加算してプロットをずらすことにより、各例の電圧挙動が重ならないようにした。各図に示す各例の電圧挙動において、スパークまたはシンチレーションによる上昇カーブの乱れが最初に観測された時点での電圧を火花電圧とした。当該火花電圧が高い程、耐電圧が高いことを示す。
表2に示すように、試薬のニトロ化合物を従来の通常量範囲内の0.03mol/L添加した実施例1および比較例1、2については、いずれの試薬も溶媒に溶解させて電解液を調製することができた。そして、105℃の高温で定格電圧を印加した試験(試験1)においては、いずれの試薬を添加した例も、2000~2500時間で全ての供試機器の防爆弁が作動した。ニトロ化合物無添加の基本組成同等の電解液を用いた供試機器同等仕様の電解コンデンサにおいて本試験1と同様の条件で電圧を印加したとき、その殆どが500~1000時間で防爆弁作動に至る。それと比較すると、本試験1においていずれの試薬を添加した例も、電解コンデンサ内の水素ガス発生抑制効果が発揮され、その結果、防爆弁作動時間が延長されて電解コンデンサの寿命延長効果が得られた。各例の防爆弁作動時間は表2の区分において差異はなく、各試薬の水素ガス吸収性能は同程度と言えた。
一方、さらに高温である125℃で定電圧を500時間印加した加速試験(試験2)においては、3’-ニトロアセトフェノンまたは4-ニトロベンジルアルコールを添加した比較例1、2では、複数の機器において耐電圧の低下に伴う絶縁破壊等によるショートが発生した。これに対して、4-ニトロピリジン N-オキシドを添加した実施例1では、全ての機器においてショートは発生せず、電解コンデンサは問題なく作動した。
そして、試験2と同じ125℃の高温負荷を付加した各例の電解液の耐電圧を測定した試験3においては、図5Aおよび図5Bに示すように、3’-ニトロアセトフェノンまたは4-ニトロベンジルアルコールを添加した比較例1、2では、初期と比較して、高温負荷を経て耐電圧の低下がみられた。これに対して、4-ニトロピリジン N-オキシドを添加した実施例1では、高温負荷を経ても耐電圧の低下はみられず、むしろ初期よりも上昇傾向であった。図5Aに示すように、ニトロ化合物無添加の参考例1を含む各例の初期の耐電圧は同程度であった。そこで、図5Bにおける高温放置後の各例のグラフを比較して見ると、高温負荷を経て、参考例1では耐電圧は殆ど変化せず、比較例1、2では耐電圧が低下し、実施例1では耐電圧が全く低下しないことがよく分かる。
次に、試薬のニトロ化合物を従来の通常量範囲を上回る0.12mol/L添加した実施例2および比較例3、4については、前述の通り、比較例3の3’-ニトロアセトフェノンは添加量全てを溶媒に溶解させることができず、電解液が調製できなかった。一方、4-ニトロベンジルアルコール(比較例4)および4-ニトロピリジン N-オキシド(実施例2)については、試薬の添加量全てを溶媒に溶解させて電解液を調製することができた。そして、105℃の高温で定格電圧を印加した試験(試験1)においては、いずれの試薬を添加した例も、6000~6500時間で全ての供試機器の防爆弁が作動した。すなわち、これらの例では、試薬の増加に伴って電解コンデンサ内の水素ガス発生抑制効果が向上し、その結果、防爆弁作動時間がさらに延長されて電解コンデンサのさらなる寿命延長効果が得られた。
一方、さらに高温である125℃で定電圧を500時間印加した加速試験(試験2)においては、4-ニトロベンジルアルコールを添加した比較例4では、同試薬を通常量添加した比較例2と比較して、高温放置後のショート発生率が2倍に上昇した。図5Aに示す比較例2と図6Aに示す比較例4とでは、初期の耐電圧が殆ど同じである一方、図5Bおよび図6Bに示すそれぞれの例の高温放置後の耐電圧を比較すると、比較例4における耐電圧の低下が著しく、試薬の増加に伴って耐電圧低下がより増長したことが分かる。
4-ニトロピリジン N-オキシドを添加した実施例2では、表2に示すように、実施例1と比較して、試薬が増加しても全ての機器においてショートは発生せず、電解コンデンサは問題なく作動した。実際の耐電圧を見ると、図6Aおよび図6Bに示すように、初期と比較して、高温放置後も殆ど変化せず、高温負荷を経ても耐電圧の低下は殆どみられなかった。したがって、4-ニトロピリジン N-オキシドは、添加量(添加濃度)を増加させても耐電圧を殆ど低下させることなく、ほぼ不具合は生じないことが分かる。
[試験4]
さらに、ニトロ化合物無添加の基本組成(参考例1)に対して、実施例3として4-ニトロピリジン N-オキシドを、または比較例5として4-ニトロフェノールを、それぞれ添加後の電解液において0.18mol/Lになるように添加した電解液について、試験3と同様の方法により、85℃に温調しながら定電流を流して負荷を付加し、電圧挙動(初期電圧挙動)を測定した。図7に結果を示す。図7に示す参考例1は、図5Aに示す参考例1の再掲である。図7の縦軸の電圧範囲(最小値から最大値まで)は、図5A-図6Bのそれらと一致する。図5A-図6Bに示した電圧値αを、図7においても同様に破線で示す。また、図7においても、参考例1以外の各例では、時間の値に定数を加算してプロットをずらすことにより、各例の電圧挙動が重ならないようにした。
図7に示すように、4-ニトロフェノールを添加した比較例5は、未添加の参考例1と比較して、耐電圧が低くなったが、4-ニトロピリジン N-オキシドを添加した実施例3では、参考例1と殆ど同じであった。
以上のことから、ニトロ化合物は電解コンデンサ内の水素ガス発生抑制効果を有し、その増量に伴ってその効果も向上することが確認された。一方、このうち、ニトロベンゼン化合物に例示される従来物質は、特に、高温負荷を経て電解コンデンサの耐電圧を低下させてしまって(比較例1、2)、その増量に伴って耐電圧の低下も増長することが明らかにされた(比較例4)。また、従来物質の中には、高濃度では、高温負荷を経ずとも既に耐電圧が低下してしまったり(比較例5)、エチレングリコール等の極性溶媒への溶解性が不十分で、そもそも増量が困難であったりする(比較例3)ものも存在する。これに対して、本発明に係る4-ニトロピリジン N-オキシド化合物は、エチレングリコール等の極性溶媒への溶解性に優れて十分に増量が可能で、高濃度においても耐電圧を低下させない。また、4-ニトロピリジン N-オキシド化合物は、高温負荷を経ても耐電圧を低下させることはなく、添加量および温度に関わらずほぼ同等の耐電圧低下抑制効果を維持できる。
したがって、電解液に4-ニトロピリジン N-オキシド化合物を高濃度に配合し、水素ガス発生を大いに抑制しながら、耐電圧を殆ど低下させないで高温を含む温度帯において安定して電解コンデンサを動作させることができる。電解液における4-ニトロピリジン N-オキシド化合物の配合量(配合濃度)として、例えば、実施例の濃度範囲に準ずる0.03~0.12mol/L、0.03~0.18mol/L、0.03~0.20mol/Lは当然に適用可能である。また、他の例として、従来の通常量範囲0.03~0.06mol/Lよりも高濃度である0.06~0.12mol/L、0.06~0.18mol/L、0.06~0.20mol/L、0.12~0.18mol/L、0.12~0.20mol/L等にも設定可能である。また、エチレングリコールに対する溶解上限0.3mol/L程度まで増量した0.03~0.30mol/L、0.06~0.30mol/L、0.12~0.30mol/L、0.18~0.30mol/L等にも設定可能で、さらにはより溶解させ易い水等の溶媒に対してさらなる高濃度で配合することもできる。
なお、電解液がコンデンサ素子内に含浸された後、NpNO化合物の一部は、電極箔等に吸着したり、エージング処理によって消費されたりするため、電解コンデンサにおける電解液中の含有量(含有濃度)は、配合量(配合濃度)と比較して多少低くなる。また、本技術分野の通常の分析手法における試料の遠心分離等によってもNpNO化合物が一部逸失する可能性もある。製品仕様にも左右されるため、配合量(配合濃度)に対応する含有量(含有濃度)を一様に規定することは困難であるが、例えば0.12mol/Lまたは0.18mol/Lのような比較的高濃度配合では、電解コンデンサにおける電解液中の含有量(含有濃度)は、通常、0.03mol/L以上になる。一方、0.03mol/Lのような比較的低濃度配合では、その含有量(含有濃度)は、0.01mol/L程度、さらには0.001mol/L程度にもなり得る。このことから、本発明に係るNpNO化合物についての電解コンデンサにおける電解液中の含有量(含有濃度)としては、例えば、0.001~0.12mol/L、0.001~0.18mol/L、0.001~0.20mol/L、0.001~0.30mol/L、0.01~0.12mol/L、0.01~0.18mol/L、0.01~0.20mol/L、0.01~0.30mol/L、0.03~0.12mol/L、0.03~0.18mol/L、0.03~0.20mol/L、0.03~0.30mol/L、0.06~0.12mol/L、0.06~0.18mol/L、0.06~0.20mol/L、0.06~0.30mol/L、0.12~0.18mol/L、0.12~0.20mol/L、0.12~0.30mol/L、0.18~0.30mol/L等と規定できる。