柔道男子100キロ級で2021年東京五輪金メダルのウルフ・アロン(29)が23日、新日本プロレスに入団した。日本人アスリートの五輪金メダリストがプロレスに転向するのは史上初。来年1月4日東京ドーム大会でのデビューが決定したウルフの新日本入りの裏には、〝あの男〟からの助言があった。自らインタビュー場所を指定した〝聖地巡礼〟のファミレス取材の顛末は――。
日本人の五輪金メダリストとして史上初のプロレス転向を果たすウルフは、会見で「やり残すことなく柔道をやれたので、憧れだったプロレスの道に進ませていただきます。『なぜプロレスを?』と言われたら、好きだからです」と宣言。「2016年6月の大阪での内藤(哲也)選手とオカダ・カズチカ選手の戦い。体だけじゃなく気持ち、すべてをぶつけ合うあの試合を見て、心動かされました」とプロレス愛をアピールした。
さらに会見後に取材を申し込むと、ウルフは何と場所を、5月に退団した内藤が聖地とあがめるファミレスに指定。「やっぱりプロレスラーとして東スポの方に取材していただくのであれば、ここで受けるのが礼儀であると思ってましたので。聖地巡礼プラス礼儀としてファミレスだろうと」とその意図を説明した。もしかしたら、この男はいろいろな意味で本物かもしれない。
しかし、囲み取材中に減量を宣言してしまっていたため、高カロリーなメニューは御法度だ。ステーキサラダとスープしか頼めなかったウルフは、新日本入団の裏側にオカダの存在があったことを明かした。
実はパリ五輪後、ウルフには新日本よりも大規模なある海外団体からも接触があった。まだプロレス界についての知識が乏しかったため、相談を持ちかけたのが親交のあるオカダだった。
「自分が信用できる人の声が聞きたかったので、オカダさんに助言をいただいたんです。『プロレスをやるのであれば、どこでやるのが一番いいですか?』と率直な質問だったんですけど『一からプロレスを学ぶなら新日本プロレスがいいよ』というお話だったので。その言葉が今回の決断の後押しにもなりました」
ファン時代に心を奪われた内藤とオカダは、すでに新日本マットを去った。長きにわたって団体の看板選手として君臨してきた棚橋弘至も来年1・4ドームでの引退を控えており、ニュースター誕生が待望されるプロレス界において、ウルフにかかる期待は大きい。
「内藤選手とオカダ選手が戦っているのを見たのは新日本プロレスなので。お二人がいなくなっても、このマットで試合がしたいという気持ちが変わることはなかったですね」と思いを吐露。そして「現段階で誰かの代わりになりたいとか、誰か以上に…とか思うのはおこがましいなという気持ちがあるので。まずは他の選手と同じリングに立てるようにこの半年間、土台をしっかり作って、その後に自分自身どうなりたいかを決めていきたいです」と文字通りゼロからの新たな挑戦に目を輝かせた。
思いの丈を語り尽くすと、ウルフはキョロキョロと周囲を見渡し「先輩たちの伝統は残しながら、自分の新しい形もつなげていきたい。歴史を引き継いでいきながら、自分の形を〝創れる〟のが強さかなと僕は思うんです」と何やら持論を展開。「ここで僕が払ってしまうと、内藤選手に恥をかかせることになってしまうし、先輩の歩んだ道を汚すことはできない。でも僕にはまだ逃げる技量はないので、口に出して言います。払ってください」。五輪アスリートらしく正面突破で席を立ち、テーブルの上には伝票だけが残された。2人も食い逃げ犯を養う余裕はないが、今回ばかりは入団祝いということで見逃すしかない…。