9io9
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/08 04:11 UTC 版)
| 9io9 9io9 |
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ALMAで撮影した9io9
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| 仮符号・別名 | ASW0009io9 | |
| 星座 | くじら座 | |
| 見かけの等級 (mv) | 18.53(g)[1] | |
| 分類 | 銀河[2] | |
| 発見 | ||
| 発見日 | 2014年1月9日 | |
| 発見者 | スペース・ワープスの市民ボランティア | |
| 発見方法 | 市民科学プロジェクトでの画像の観察 | |
| 位置 元期:J2000.0[2] |
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| 赤経 (RA, α) | 02h 09m 41.27s[2] | |
| 赤緯 (Dec, δ) | +00° 15′ 59″[2] | |
| 赤方偏移 | 0.206 (レンズとなっている銀河) [3] 2.554±0.0002 (レンズ効果を受けている銀河)[4] |
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| 視線速度 (Rv) | 255776km/s[2] | |
| 距離 | 2.5 Gly (770 Mpc)(レンズとなっている銀河) 11.1 Gly (3,400 Mpc)(レンズ効果を受けている銀河)[5] |
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| 他のカタログでの名称 | ||
| G1、G2、HerS J020941.1+001557、HERS1、PJ020941.3、SDSS J020941.27+001558.4 | ||
| ■Template (■ノート ■解説) ■Project | ||
座標: 02h 09m 41.27s, +00° 15′ 59″
ASW0009io9 (9io9)は2つの銀河で構成される、重力レンズの関係にある天体である。地球に近いほうの、重力レンズとなっている銀河は地球から20億光年離れており、スローン・デジタル・スカイサーベイにおいてSDSS J020941.27+001558.4と呼ばれている。一方でレンズ効果を受けている地球から遠いほうの銀河は地球から111億光年離れており、通常この天体のほうをASW0009io9 (または略して 9io9)と呼ぶ[6][3]。
2014年1月9日に[7]、市民科学プラットフォームであるズーニバース上の市民科学プロジェクト、スペース・ワープスに参加していた市民科学者のボランティアユーザーたちによって発見された[6]。 当時はBBCのテレビ番組「スターゲージング・ライブ」が同年1月7日から3夜連続で放送され、その初日にスペース・ワープスへの参加が視聴者に呼びかけられた影響で3日間で750万回もの画像分類がされる中で放送最終日の9日にこの天体が発見され、すぐに番組でも取り上げられた[6][3]。さらに同じく9日夜、番組の放送中にライブで、イギリスのジョドレルバンク天文台などからなる電波望遠鏡ネットワークMERLINで追跡観測された[8]。
名前
デイリー・メール紙はこの天体について報じる記事で間違って名前を「9Spitch」とし、発見者を「Chetnik」のみ1人として報じて広めてしまった。9Spitchという名前は発見に携わったボランティアユーザーの1人、Zbigniew "Zbish" ChetnikのニックネームをZbishをBBCの番組プロデューサーが聞き間違えたことに起因する[6]。 しかし発見者はChetnik1人だけではなく、多くのボランティアがその天体が重力レンズであると分類し、天文学者がフォローアップ観測を行った。 プロジェクト内での呼び名はRed Radio Ring (RRR)や、ズーニバースでの分類画像に割り振られている識別符号に由来するASW0009io9、もしくはその略称の9io9であり[3]、SIMBADやNEDなどのデータベースでもASW0009io9は公式な呼称の1つとしてリストアップされている[9][10]。
観測
この天体は、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の深宇宙画像を用いたスペース・ワープスプロジェクトの分類のほかに、ハーシェル宇宙天文台の分光撮像装置SPIREとプランク衛星の波長350 μmの画像のクロスマッチによるダストの豊富な星形成銀河(DSFGs)で強い重力レンズを受けたものを特定しメキシコの大型ミリ波望遠鏡で追跡したグループ[11]、ハーシェルのSPIREの波長500 μmの画像でDSFGsを特定したグループ[12]、チリのアタカマ宇宙論望遠鏡での278 GHzマップで9io9が最も強いレンズ効果を受けたDSFGsであることを突き止めグリーンバンク望遠鏡で追跡したグループ[13]を含めた4つの独立したグループによって見つかった[3]。
この天体のうちレンズ効果を受けた奥の銀河からは、大型ミリ波望遠鏡によって一酸化炭素が検出され、すばる望遠鏡によって星形成に関連する多数のスペクトル線が検出された。この観測研究では、奥の銀河の星形成率は2500 Mʘ yr −1、つまり天の川銀河の星形成率の1000倍に相当する、毎年太陽2500個分の恒星が誕生していると分かった。レンズ効果を受ける前の像の再構築からは、コンパクトな核と拡張領域を有することを支持し、活動銀河核(AGN)に由来する宇宙ジェットやローブ構造が存在する可能性がある。この銀河は大型の銀河群もしくは銀河団の中心に位置する可能性があり、巨大な楕円銀河へ進化するかもしれないとされる[3]。
北半球拡張ミリ波アレイ(NOEMA)での観測による、レンズ効果を受けた銀河の詳細な再構築では、直径およそ9800光年のガス円盤が回転していることが分かった[14]。
9io9は2017年12月にアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)の12mアンテナでプロジェクト2017.1.00814.Sの一環として観測された。 観測データからは星形成のトレーサーとして原子状炭素と一酸化炭素の存在が明らかになった。分子リング全体の星形成率はおよそ2800 Mʘ yr −1と推定された。 また、ALMAでは回転する分子リングの2倍の視線速度、秒速680kmで移動するシアノラジカルも検出された。これはAGNから流出する物質と星間物質の相互作用で生じたものと説明できる[4]。
Harringtonらは2019年にこの天体のスペース・ワープスを含む4つの独立した検出について報告している。さらにこの論文では新しく追加でアタカマパスファインダー実験望遠鏡(APEX望遠鏡)で観測した結果も報告しており、窒素の[N II] 205 μm線を検出している。窒素の速度構造は一酸化炭素とよく似ており、両者は同じ体積を共有しているとされる。赤外線光度に対する窒素光度の比率は、クエーサーの影響を受けた星形成銀河よりも、むしろ通常の星形成銀河に近いとされている[15]。
磁場の存在
2023年にALMAの観測で9io9から磁場が検出され、その時点では磁場が検出された最遠の天体となった。磁場の強さは地磁気の1000分の1ほどの弱いものであるが、16000光年の範囲に広がっている[16]。 測定された磁場強度はおよそ500 μGで、銀河のガス円盤とは平行の向きをしている[17]。
脚注
- ^ “SDSS J020941.27+001558.4”. Sloan Digital Sky Survey. 2025年2月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月19日閲覧。
- ^ a b c d e “Basic data :HerS J020941.1+001557 -- Galaxy”. 2025年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月13日閲覧。
- ^ a b c d e f Geach, J. E. et al. (2015-09). “The Red Radio Ring: a gravitationally lensed hyperluminous infrared radio galaxy at z = 2.553 discovered through the citizen science project Space Warps”. 王立天文学会月報 452 (1): 502–510. arXiv:1503.05824. Bibcode: 2015MNRAS.452..502G. doi:10.1093/mnras/stv1243.
- ^ a b Geach, J. E. et al. (2018-10). “A Magnified View of Circumnuclear Star Formation and Feedback around an Active Galactic Nucleus at z = 2.6”. アストロフィジカルジャーナル 866 (1): L12. arXiv:1807.03313. Bibcode: 2018ApJ...866L..12G. doi:10.3847/2041-8213/aae375.
- ^ “NED Wright's Javascript Cosmology Calculator - light travel time”. NED. 2025年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月6日閲覧。
- ^ a b c d “Daily Fail”. Zooniverse.org (2014年1月17日). 2025年2月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月19日閲覧。
- ^ “Subject: ASW0009io9”. Zooniverse.org (2014年1月9日). 2021年10月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月13日閲覧。
- ^ “Stargazing”. 2025年11月13日閲覧。
- ^ “[GMV2015 ASW0009io9]”. simbad.u-strasbg.fr. 2023年9月6日閲覧。
- ^ “By Name | NASA/IPAC Extragalactic Database”. ned.ipac.caltech.edu. 2023年9月6日閲覧。
- ^ Harrington, K. C. et al. (2016-06). “Early Science with the Large Millimeter Telescope: Observations of Extremely Luminous High-z Sources Identified by Planck”. 王立天文学会月報 458 (4): 4383–4399. arXiv:1603.05622. Bibcode: 2016MNRAS.458.4383H. doi:10.1093/mnras/stw614.
- ^ Nayyeri, H. et al. (2016-05). “Candidate Gravitationally Lensed Dusty Star-forming Galaxies in the Herschel Wide Area Surveys”. アストロフィジカルジャーナル 823 (1): 17. arXiv:1601.03401. Bibcode: 2016ApJ...823...17N. doi:10.3847/0004-637X/823/1/17.
- ^ Su, T. et al. (2017-01). “On the redshift distribution and physical properties of ACT-selected DSFGs”. 王立天文学会月報 464 (1): 968–984. arXiv:1511.06770. Bibcode: 2017MNRAS.464..968S. doi:10.1093/mnras/stw2334. PMC 7402280. PMID 32753768.
- ^ Rivera, Jesus et al. (2019-07). “The Atacama Cosmology Telescope: CO(J = 3 – 2) Mapping and Lens Modeling of an ACT-selected Dusty Star-forming Galaxy”. アストロフィジカルジャーナル 879 (2): 95. arXiv:1807.08895. Bibcode: 2019ApJ...879...95R. doi:10.3847/1538-4357/ab264b.
- ^ Harrington, Kevin C. et al. (2019-09). “The 'Red Radio Ring': ionized and molecular gas in a starburst/active galactic nucleus at z ~ 2.55”. 王立天文学会月報 488 (2): 1489–1500. arXiv:1906.09656. Bibcode: 2019MNRAS.488.1489H. doi:10.1093/mnras/stz1740.
- ^ information@eso.org. “Furthest ever detection of a galaxy's magnetic field” (英語). www.eso.org. 2025年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月6日閲覧。
- ^ Geach, J. E.; Lopez-Rodriguez, E.; Doherty, M. J.; Chen, Jianhang; Ivison, R. J.; Bendo, G. J.; Dye, S.; Coppin, K. E. K. (2023-09-06). “Polarized thermal emission from dust in a galaxy at redshift 2.6”. ネイチャー 621 (7979): 483–486. arXiv:2309.02034. Bibcode: 2023Natur.621..483G. doi:10.1038/s41586-023-06346-4. PMC 10511318. PMID 37674076.
外部リンク
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