VB-MAPP
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/14 09:54 UTC 版)
VB-MAPP(英: Verbal Behavior Milestones Assessment and Placement Program)は、自閉症やその他発達障害のある児童の言語能力と学習スキルを把握するためのアセスメントツール、カリキュラムガイド、ならびにスキル追跡システムである。これは、B.F.スキナーの著書『言語行動』に基づき、2008年にマーク・サンドバーグ(Mark Sundberg)によって出版された。発達段階に応じた170の指標(マイルストーン)、学習を阻害する要因の特定、教育環境の移行への適正などを測定することで、具体的な個別教育計画(IEP)の作成や詳細な課題分析を行うことを目的としている[1][2][3]。
概要
VB-MAPPは、典型的な4歳児までの言語スキルに対応したアセスメントである[4]。スキナーの『言語行動』(1957年)に基づき、語彙数だけでなく、その言葉をどのような目的(機能)で使っているかを分析する。これにより単に言葉が出ないという診断で終わるのではなく、欲しいときに要求(マンド)できない、あるいは質問に答えられない(イントラバーバル)といった具体的な機能不全を特定し、適切な介入計画を立てる[1]。
マイルストーン・アセスメント、バリアー・アセスメント、移行アセスメント、課題分析とスキル追跡、プレイスメント(配置)と個別教育計画の目標の5つの要素で構成されている[2]。
評価は3つのレベルに分かれており、要求(マンド)、命名(タクト)、模倣、遊びなどの基礎であるレベル1、会話(イントラバーバル)などのレベル2、読み書き算数などのアカデミックスキルが追加されたレベル3で構成される[2]。
評価は、行動分析学および言語行動理論に関する基礎的知識を有する者によって実施される。実施に要する時間の目安は、十分な訓練を受けた評価者の場合、レベル1で約2~3時間、レベル2で約4~5時間、レベル3で約8~10時間とされている。評価は数日に分けて短時間ごとに進められたり、日常場面での観察から得られるデータと直接的なテストを組み合わせて実施される場合もある[5]。
VB-MAPPには、早期模倣スキル評価(EESA:Early Echoic Skills Assessment)が含まれている。これは言語病理学者バーバラ・エッシュ(Barbara Esch)によって開発されたものであり、子どもが音声モデル(例:「ママと言って」)をどの程度正確に復唱できるかを評価する。具体的には、発話に含まれる音節数やその複雑さに着目し、音節の数、ならびに異なる子音や母音の出現数を分析する。発語が限られている子どもであっても、母音、ハミング、喃語など特定の音声を発しているかどうかを評価対象とし、その結果を指導内容に反映させることが可能である[6]。 近年では、EESAによる評価にとどまらず、具体的な指導計画までを含んだ包括的なツールとして、EESAPP(Early Echoic Skills Assessment and Program Planner)が開発され、実践の場で使用されている[7]。
特徴
5つの要素
- マイルストーン・アセスメント:3つの発達段階(0~18か月、18~30か月、30~48か月)にわたる16領域計170の主要なスキルを評価し、発達段階の全体像を把握する。評価対象となるスキルには、マンド、タクト、エコーイック、イントラバーバル、模倣、遊び、社会性、視覚知覚およびマッチング、言語構造、グループスキルなどがある。マイルストーン・アセスメントには、言語病理学者のバーバラ・エッシュが開発した早期模倣スキル評価(EESA)が含まれている[2]。
- バリアー・アセスメント:学習を妨げている24の要因(回避行動、般化の失敗、弱すぎる動機づけ、マンドやタクトの欠如、プロンプト依存、自己刺激行動など)を0(問題なし)から4(深刻な障壁)の5段階で評価。
- 行動問題(癇癪・攻撃行動など)
- 回避行動
- 要求/マンド
- 報告/タクト
- 音声模倣/エコーイック
- 動作模倣
- 視覚知覚とマッチング
- 聞き手スキル
- 会話/イントラバーバル
- ソーシャルスキル
- プロンプト依存
- スクローリング(正解が分かるまで知っている言葉を次々と言ってしまう)
- スキャニング(選択肢を十分にスキャンせずに選択を行う)
- 条件付き識別(ある項目に対して複数の刺激が与えられた場合、例えば、異なるサイズや色のボールの写真を見せられ、赤いボールを見つけるように求められても識別できない)
- 般化の失敗
- 弱すぎる動機づけ
- 反応要求による動機づけの弱体化
- 強化子依存
- 自己刺激行動
- 構音
- 強迫的・儀式的行動
- 多動行動
- 視線が合わない
- 感覚過敏[8]
- 移行アセスメント:子どもがより制限の少ない教育環境(一般的な学級など)へ移行する準備ができているか、その全体的な準備状況を評価する。学習の習得率、スキルの保持、自然な環境での学習能力、変化への適応力、身辺自立スキルなど18の評価領域が含まれる。1から5までで評価。
- マイルストーン・アセスメントの総合スコア
- バリアー・アセスメントの総合スコア
- 否定的な行動と指導的制御
- 教室でのルーティンとグループスキル
- 社会スキルと社会的な遊び
- 自立的な学習活動
- 般化
- 強化子の幅
- スキル習得の速度
- 新しいスキルの維持
- 自然環境での学習
- 訓練なしでの転移
- 変化への適応力
- 自発的な行動
- 自主的に過ごす余暇
- 一般的な身の回りの自立
- トイレスキル
- 食事のスキル[9]
- 課題分析とスキル追跡:マイルストーン・アセスメントで見つかった課題を、より小さなステップに分解するための評価ツール。900以上のスキルが細分化されている。16領域のうち、音声模倣と自発的な発声を除く14領域が含まれる。
- プレイスメント(配置)と個別教育計画(IEP)の目標:アセスメント結果に基づき、具体的な指導の方向性や目標設定の提案を行う[1][2]。
16のスキル領域
マイルストーン・アセスメントで子どもの言語と言語関連スキルを測定するために設定されている16のスキル領域。これらは3つの発達段階にわたって評価される。
- マンド(要求):欲しいものや活動を求める要求のスキル。
- タクト(報告・命名):物や動作、特徴などに名前を付ける命名のスキル。
- 聞き手:他者の言葉に従って行動する聞き手としての応答スキル。
- VP/MTS(Visual Perception and Match-to-Sample):視覚知覚およびマッチングスキル。
- 遊び:自発的な遊びのスキル。
- 社会性:他者との社会的行動および社会的遊びのスキル。
- 模倣:他者の動きを真似る運動模倣のスキル。レベル1・レベル2で評価。
- 音声模倣(エコーイック):他者の言葉や音をそのまま真似る音声模倣のスキル。レベル1・レベル2で評価。
- 発声:自発的な発声の頻度や多様性。レベル1のみで評価。
- LRFFC(Listener Responding by Function, Feature, and Class):「機能・特徴・カテゴリー」という手がかりに基づいて、聞き手として反応するスキル。単に物の名前を聞いて指をさすような単純な聞き手スキルから一歩進んだ、より複雑な言語理解能力。具体例として、「食べる時に使うものはどれ?」「空を飛ぶものはどれ?」「赤いのはどれ?」などがある。レベル2から評価される。
- 会話(イントラバーバル):他者の言葉に対して応答したり、会話を成立させたりするスキル。レベル2から評価。
- グループスキル:グループおよび教室での集団行動スキル。レベル2から評価。
- 言語構造:文法や構文、語彙の豊かさなど言語学的スキル。レベル2から評価。
- 読字:文字を認識し、読むための基礎スキル。レベル3から評価。
- 書字: 文字を書いたり、なぞったりする基礎スキル。レベル3から評価。
- 算数:数や量、基本的な計算などの基礎概念。レベル3から評価[1]。
評価
マイルストーン・アセスメントの評価は以下の3つのレベルに分かれている。
- レベル1(0~18か月):マンド、タクト、聞き手、視覚知覚、遊び、社会性、模倣、音声模倣(エコーイック)、発声の9領域
- レベル2(18~30か月):マンド、タクト、聞き手、視覚知覚、遊び、社会性、模倣、音声模倣(エコーイック)、LRFFC、会話、グループスキル、言語構造の12領域
- レベル3(30~48か月):マンド、タクト、聞き手、視覚知覚、遊び、社会性、LRFFC、会話、グループスキル、言語構造、読字、書字、算数の13領域[1]
各項目は0(独立してスキルを実行できない)、0.5(部分的に習得)、1点(スキルを完全に習得)で採点される。スキルの性質に応じて、直接テスト(T)、観察(O)、テストまたは観察のいずれか(E)、制限時間付きの観察(TO)といった異なる方法でデータの収集が行われる[10]。
関連項目
- ABLLS-R
- 言語行動
- 関係フレーム理論
- 応用行動分析(ABA)
- 機能的行動アセスメント(FBA)
- ピボタル・レスポンス・トリートメント(PRT)
- 拡大・代替コミュニケーション(AAC)
脚注
- ^ a b c d e “VB-MAPP Verbal Behavior Milestones Assessment and Placement Program”. 2026年1月6日閲覧。
- ^ a b c d e “VB-MAPP – Mark Sundberg – Official Publisher”. marksundberg.com. 2026年1月12日閲覧。
- ^ Barnes, Clarissa S.; Mellor, James R.; Rehfeldt, Ruth Anne (2014-06). “Implementing the Verbal Behavior Milestones Assessment and Placement Program (VB-MAPP): Teaching Assessment Techniques”. The Analysis of Verbal Behavior 30 (1): 36–47. doi:10.1007/s40616-013-0004-5. ISSN 0889-9401. PMC 4883535. PMID 27274972.
- ^ PresentationTube Channel (2021-08-13), An Intro to the VBMAPP Assessment 2026年1月10日閲覧。
- ^ “Frequently asked questions about the Verbal Behavior Milestones Assessment and Placement Program (VB-MAPP)”. 2026年1月13日閲覧。
- ^ Dr. Mary Barbera - Turn Autism Around® (2023-03-20), EESA Assessment: Dr. Barbara Esch on Building Vocal Language and Avoiding Carrier Phrases 2026年1月13日閲覧。
- ^ ABA SPEECH (2023-10-10), #145: Early Echoic Skills with Dr. Barbara E. Esch 2026年1月13日閲覧。
- ^ “VB-MAPP - Barriers Assessment (Part 6 of 8)” (英語). ThinkPsych (2024年8月22日). 2026年1月14日閲覧。
- ^ “VB-MAPP –Transition Assessment (Part 7 of 8)” (英語). ThinkPsych (2024年10月3日). 2026年1月14日閲覧。
- ^ “Milestones Assessment: LEVEL 1 (0-18 MONTHS)”. 2026年1月6日閲覧。
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