四塩化炭素
四塩化炭素(CCl4)
四塩化炭素
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/18 00:45 UTC 版)
四塩化炭素 | |
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Tetrachloromethane
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別称
Benzinoform
carbon(IV) chloride carbon tet Carboneum Tetrachloratum / Carbonei tetrachloridum Carboneum Chloratum / Carbonei chlorurum chloride of carbon Freon-10 Halon-104 methane tetrachloride methyl tetrachloride Necatorina perchloromethane Refrigerant-10 Tetrachloretum Carbonicum Tetrachlorocarbon Tetraform Tetrasol |
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識別情報 | |
略称 | CTC, TCM, PCM, R-10 |
CAS登録番号 | 56-23-5 |
PubChem | 5943 |
ChemSpider | 5730 |
UNII | CL2T97X0V0 |
EC番号 | 200-262-8 |
国連/北米番号 | 1846 |
KEGG | C07561 |
ChEBI | |
ChEMBL | CHEMBL44814 |
RTECS番号 | FG4900000 |
バイルシュタイン | 1098295 |
Gmelin参照 | 2347 |
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特性 | |
化学式 | CCl4 |
モル質量 | 153.82 g mol−1 |
外観 | 無色の液体 |
匂い | クロロホルムのような匂い |
密度 |
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融点 | −22.92 °C, 250 K, -9 °F |
沸点 | 76.72 °C, 350 K, 170 °F |
水への溶解度 |
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溶解度 | エタノール、ジエチルエーテル、クロロホルム、ベンゼン、ナフサ、二硫化炭素、ギ酸に溶ける |
log POW | 2.64 |
蒸気圧 | 11.94 kPa at 20 °C |
kH | 2.76×10−2 atm·m3/mol |
磁化率 | −66.60×10−6 cm3/mol |
熱伝導率 | 0.1036 W/m·K (300 K)[1] |
屈折率 (nD) | 1.4607 |
粘度 | 0.86 mPa·s[2] |
双極子モーメント | 0 D |
構造 | |
結晶構造 | 単斜晶系 |
配位構造 | 四面体形 |
分子の形 | 三角錐 |
双極子モーメント | 0 D |
熱化学 | |
標準生成熱 ΔfH |
−95.6 kJ/mol |
標準モルエントロピー S |
214.39 J/mol·K |
標準定圧モル比熱, Cp |
132.6 J/mol·K |
危険性 | |
安全データシート(外部リンク) | ICSC 0024 |
GHSピクトグラム | |
GHSシグナルワード | 危険(DANGER) |
Hフレーズ | H301, H302, H311, H331, H351, H372, H412, H420 |
Pフレーズ | P201, P202, P260, P261, P264, P270, P271, P273, P280, P281, P301+310, P302+352, P304+340, P308+313 |
主な危険性 | 肝臓と腎臓に極めて有毒、職業発癌性物質の可能性、オゾン層に有害 |
NFPA 704 | |
引火点 | non-flammable |
許容曝露限界 | TWA 10 ppm C 25 ppm 200 ppm (4時間のうち最大ピーク5分)[5] |
最低致死濃度 LCLo |
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半数致死量 LD50 | 7749 mg/kg (経口, マウス); 5760 mg/kg (経口, ウサギ); 2350 mg/kg (経口, ラット)[3] |
半数致死濃度 LC50 |
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関連する物質 | |
その他の陰イオン | 四フッ化炭素 四臭化炭素 四ヨウ化炭素 |
その他の陽イオン | 四塩化ケイ素 四塩化ゲルマニウム 四塩化スズ 四塩化鉛 |
関連するクロロメタン | クロロメタン ジクロロメタン トリクロロメタン |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
四塩化炭素(しえんかたんそ、英: carbon tetrachloride)あるいはテトラクロロメタン(英: tetrachloromethane)は、化学式 CCl4 で表される化学物質。
概要
常温・常圧では無色透明の液体で、わずかに甘い特異臭を持つ。水には溶けにくい。エタノールやベンゼンなどと任意の割合で混合する。以前は溶剤のほか、消火剤や冷却材として広く利用されていたが、その毒性のためにすでに使用が禁止された。現在では試薬としてのみ流通している。
「四塩化炭素」、「テトラクロロメタン」のどちらも IUPAC名として使用できるが、これは無機化合物と見るか有機化合物と見るかで区別されているためである。
工業的製法
四塩化炭素の多くは二硫化炭素の塩素化により生産されている。反応温度は 105 ℃ から 130 ℃ である。
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主に自動車用として用いられた手動ポンプ式(パイリン式)四塩化炭素消火器。 20世紀前半には、ドライクリーニングの溶剤、冷却材、消火器の薬剤などに幅広く利用されていた。また機械器具の脱脂に使われ、オーディオなどでは接点復活剤やテープレコーダーヘッドの清掃溶剤として用いられてきた。しかし健康への悪影響が明らかになってくると代替物質への転換が進み、1940年をピークに使用量は減少していった。その後も貯蔵穀物に対する農薬として利用されていたが、アメリカ合衆国では1970年に消費財への使用が禁止された。
モントリオール議定書が成立するまでは、フロンの原料としても大量に使用されていた。その後フロンや四塩化炭素自体がオゾン層破壊物質と考えられるようになったため、四塩化炭素の使用量も減少していった。日本やアメリカ合衆国といった先進国では1996年までに生産が全廃されたが、発展途上国では2006年現在でも生産が認められている。
ニュートリノの検出にも用いられる。またアッペル反応では塩素源として利用される。
また旧日本海軍では、九三式酸素魚雷の後期型で、機関始動直後の燃焼材として使われていた。
IRスペクトル(赤外分光測定)では > 1600 cm−1の領域で大きなシグナルを持たないため、時として赤外分光測定において便利な溶媒として用いられることがある。また水素原子を持たないため、1H−NMRの溶媒としても長年用いられてきた。しかし毒性が大きく溶解力が小さいという欠点を持っているため[6]、分光器によりロックをかけることができる重溶媒を用いることが主流となった。
危険性
麻酔性があり、高濃度の蒸気や溶液に晒されることにより中枢神経に悪影響を与え、長期に曝露するなどした場合は昏睡、そして死亡する可能性がある。また慢性的な暴露により肝臓や腎臓に悪影響を与え、また、悪性腫瘍の発生を誘発する可能性もあると見られている。作用機序としては、四塩化炭素がシトクロムP450(cytochrome P450 2E1) により代謝され、反応性の高いトリクロロメチルラジカルを生じるというものが考えられている。国際がん研究機関の発がん性評価では、グループ2Bの「発がん性の可能性がある物質」に分類されている。取り扱う際にはSDSなどにより情報を収集し、充分に注意を払う必要がある。
日本では労働安全衛生法により第二類物質の特別有機溶剤等に、PRTR法により第1種指定化学物質に、毒物及び劇物取締法により原体と製剤が劇物に指定されている。
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) 昭和四十八年 法律百十七号 第二条 3により第二種特定化学物質として指定されている[7]
脚注
- ^ Touloukian, Y.S., Liley, P.E., and Saxena, S.C. Thermophysical properties of matter - the TPRC data series. Volume 3. Thermal conductivity - nonmetallic liquids and gases. Data book. 1970.
- ^ Reid, Robert C.; Prausnitz, John M.; Poling, Bruce E. (1987), The Properties of Gases and Liquids, McGraw-Hill Book Company, p. 442, ISBN 0-07-051799-1
- ^ Carbon Tetrachloride MSDS from Fisher Scientific
- ^ a b “Carbon tetrachloride”. 生活や健康に直接的な危険性がある. アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH). 2025年6月18日閲覧。
- ^ NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0107
- ^ Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy Archived 2006年8月31日, at the Wayback Machine.
- ^ 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令 昭和四十九年六月七日 政令第二百二号 第一条 三[リンク切れ]
関連項目
外部リンク
参考文献
- Recknagel, R. O.; Glende, E. A.; Dolak, J. A.; Waller, R. L. (1989). “Mechanism of Carbon-tetrachloride Toxicity”. Pharmacology Therapeutics (43): 139-154. doi:10.1016/0163-7258(89)90050-8.
- Doherty, R. E. (2000). “A History of the Production and Use of Carbon Tetrachloride, Tetrachloroethylene, Trichloroethylene and 1,1,1-Trichloroethane in the United States: Part 1--Historical Background; Carbon Tetrachloride and Tetrachloroethylene”. Environmental Forensics (1): 69-81. doi:10.1006/enfo.2000.0010.
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