トランスポゾン【transposon】
トランスポゾン
英訳・(英)同義/類義語:transposon, transposons
DNA中の存在部位を移動するためのメカニズム(転位酵素、トランスポゼース)を持つ特別なDNA配列の単位で、細菌の薬剤耐性遺伝子などを伝搬させる(TnMuファージなど)。真核生物の転移因子を含むこともある。
| 遺伝や核酸に関する反応や現象など: | ターミネーション複合体 ターミネーター トランススプライシング トランスポゾン トランス型配列 ナンセンス突然変異 ヌル突然変異 |
トランスポゾン
(transposon から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/06 17:53 UTC 版)
|
|
この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。 (2013年1月)
|
トランスポゾン (transposon) は細胞内においてゲノム上の位置を転移 (transposition) することのできる塩基配列である。動く遺伝子、転移因子 (transposable element) とも呼ばれる。DNA断片が直接転移するDNA型と、転写と逆転写の過程を経るRNA型がある。トランスポゾンという語は狭義には前者のみを指し、後者はレトロトランスポゾン (retrotransposon) またはレトロポゾンと呼ばれる。レトロポゾンはレトロウイルスの起源である可能性も示唆されている。レトロポゾンのコードする逆転写酵素はテロメアを複製するテロメラーゼと進化的に近い。
転移はゲノムのDNA配列を変化させることで突然変異の原因となりえ、多様性を増幅することで生物の進化を促進してきたと考えられている。トランスポゾンは遺伝子導入のベクターや変異原として有用であり、遺伝学や分子生物学において様々な生物で応用されている。
転移機序
DNA型トランスポゾンが転移するためにはトランスポザーゼ (Transposase、「トランスポゼース」とも言う) と呼ばれる酵素が必要であり、これはトランスポゾン自身がコードしている。トランスポゾンは < transposon > の様に末端に逆向きの反復配列を持っており、トランスポザーゼはこの配列を認識してトランスポゾンをゲノム配列から切り出す。そして適当なゲノム配列に再度挿入する。
レトロポゾン(RNA型トランスポゾン)は転写を受けた後、自身がコードする逆転写酵素によって mRNA から cDNA を作り出し、再度染色体に挿入される。
いずれも遺伝子領域に挿入されると変異を引き起こし、DNA型は切り出しの際に周りのDNA配列を削り染色体異常を誘導することもある。また転移が不完全に起こることで染色体にジャンク配列を残す。
沿革
最初のトランスポゾンは、1940年代にバーバラ・マクリントックによってトウモロコシで発見された。トウモロコシの実に見られる斑(ふ)に着目し、これがトランスポゾンの転移が原因であることを証明した。彼女はこの業績により、1983年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。トウモロコシのゲノムの約80%がトランスポゾンまたはそれから派生した配列であるといわれる。
ゲノムプロジェクトの進行により、ヒトやマウスのゲノムにおいてタンパク質をコードする領域は 1% 以下であり、残りの 40% 以上はトランスポゾンが占めていることがわかってきた。LINE と呼ばれるレトロポゾンはヒトゲノムの20%を占めていることも報告されている。脊椎動物の遺伝子は互いに相同性を共有するものが多いため、遺伝子以外の領域で多様性を生み出しているこれらのトランスポゾンが種分化において重要な役割を担っていることが示唆されてきている。
具体例
ショウジョウバエのP因子
ショウジョウバエにおけるトランスポゾンはP因子が有名。P因子はわずか50年程前に水平移動により自然界のショウジョウバエに持ち込まれたと考えられている[1]。それまでに野外から採集されていた多くの系統はP因子を持たない。以前から研究室で維持されていた系統と、野外から採集してきた系統とを交配させると、高頻度で不妊を引き起こす雑種発育不全 (Hybrid dysgenesis) と呼ばれる現象が生じ[2]、この原因として発見された[3]。P因子は全長2,907塩基対で、31塩基対の末端逆位反復配列(TIR)を持ち、87 kDaのトランスポザーゼをコードする[4]。このように新たにゲノムに導入されたトランスポゾンは高頻度の転移を起こし、ゲノムを改変してしまうことが知られている。現在P因子は人為的に改変され、遺伝子導入のベクターとして用いられている[5]。
植物におけるトランスポゾン
植物のゲノムにはトランスポゾンが豊富に存在し、表現型の多様性に大きく寄与している。
トウモロコシ
マクリントックが発見したトウモロコシのAc/Ds系は、DNA型トランスポゾンの代表例である。Ac (Activator) は自律性因子であり、Ds (Dissociation) はAcから派生した非自律性因子で、転移にはAcが産生するトランスポザーゼを必要とする[6]。Ac/DsはhATスーパーファミリーに分類される。トウモロコシの実に見られる色素の斑(ふ)は、色素合成遺伝子に挿入されたDsが体細胞で切り出されることにより、遺伝子機能が回復して色素が蓄積することで生じる。
アサガオ
アサガオ(Ipomoea nil)のゲノムには、En/Spm(CACTA)スーパーファミリーに属するDNA型トランスポゾンのTpn1ファミリーが多数存在する[7]。Tpn1は1994年に、花色の絞り(しぼり)模様を示すアサガオのジヒドロフラボノール4-還元酵素(DFR-B)遺伝子から単離された[7]。Tpn1ファミリーは共通の28塩基対の末端逆位反復配列(TIR)と、数百塩基対のサブターミナル反復領域を有し、内部には宿主の遺伝子断片を取り込んでいるという特異な構造を持つ[8]。これまでに同定されたTpn1ファミリーの因子はすべて非自律性因子であり、完全なトランスポザーゼ遺伝子を持つ自律性因子は見つかっていない[8]。
2016年に報告されたアサガオの全ゲノム配列(735.3 Mbp、約42,000のタンパク質コード遺伝子)の解析により、ゲノム中に339コピーのTpn1ファミリーが同定された[9]。Tpn1ファミリーはアサガオにおける主要な変異原であり、花の色・形態、葉の形態など多くの形質に影響を与える遺伝子に挿入が確認されている[10]。体細胞でTpn1が切り出されると遺伝子機能が回復し、アントシアニンの合成が再開するため、花弁に絞り模様が現れる[10]。江戸時代にはこの性質を利用して多様な変異体(変化朝顔)が作出された。
イネ
イネ(Oryza sativa)では、レトロトランスポゾンTos17が組織培養時に活性化されることが知られている[11]。Tos17は挿入変異の誘発に利用され、イネの遺伝子機能解析に広く活用されている。
関連項目
外部リンク
- ^ Daniels SB, Peterson KR, Strausbaugh LD, Kidwell MG (1990). “Evidence for horizontal transmission of the P transposable element between Drosophila species”. Genetics 124 (2): 339-355. PMID 2155157.
- ^ Kidwell MG, Kidwell JF, Sved JA (1977). “Hybrid dysgenesis in Drosophila melanogaster: A syndrome of aberrant traits including mutation, sterility and male recombination”. Genetics 86 (4): 813-833. PMID 17248751.
- ^ Bingham PM, Kidwell MG, Rubin GM (1982). “The molecular basis of P-M hybrid dysgenesis: the role of the P element, a P-strain-specific transposon family”. Cell 29 (3): 995-1004. doi:10.1016/0092-8674(82)90463-9. PMID 6295640.
- ^ O'Hare K, Rubin GM (1983). “Structures of P transposable elements and their sites of insertion and excision in the Drosophila melanogaster genome”. Cell 34 (1): 25-35. doi:10.1016/0092-8674(83)90133-2. PMID 6309403.
- ^ Rubin GM, Spradling AC (1982). “Genetic transformation of Drosophila with transposable element vectors”. Science 218 (4570): 348-353. doi:10.1126/science.6289436. PMID 6289436.
- ^ Fedoroff N, Wessler S, Shure M (1983). “Isolation of the transposable maize controlling elements Ac and Ds”. Cell 35 (1): 235-242. doi:10.1016/0092-8674(83)90226-X. PMID 6313225.
- ^ a b Inagaki Y, Hisatomi Y, Suzuki T, Kasahara K, Iida S (1994). “Isolation of a Suppressor-mutator/Enhancer-like transposable element, Tpn1, from Japanese morning glory bearing variegated flowers”. The Plant Cell 6 (3): 375-383. doi:10.1105/tpc.6.3.375. PMID 7515085.
- ^ a b Kawasaki S, Nitasaka E (2004). “Characterization of Tpn1 family in the Japanese morning glory: En/Spm-related transposable elements capturing host genes”. Plant and Cell Physiology 45 (7): 933-944. doi:10.1093/pcp/pch109. PMID 15295077.
- ^ Hoshino A, Jayakumar V, Nitasaka E, et al. (2016). “Genome sequence and analysis of the Japanese morning glory Ipomoea nil”. Nature Communications 7: 13295. doi:10.1038/ncomms13295. PMID 27824041.
- ^ a b Iida S, Morita Y, Choi JD, Park KI, Hoshino A (2004). “Genetics and epigenetics in flower pigmentation associated with transposable elements in morning glories”. Advances in Biophysics 38: 141-159. doi:10.1016/S0065-227X(04)80082-7. PMID 15493331.
- ^ Hirochika H, Sugimoto K, Otsuki Y, Tsugawa H, Kanda M (1996). “Retrotransposons of rice involved in mutations induced by tissue culture”. Proceedings of the National Academy of Sciences 93 (15): 7783-7788. doi:10.1073/pnas.93.15.7783. PMID 8755553.
- transposonのページへのリンク