読者を真正面から受け止め、納得してもらえると信じて描いたラスト――『ゴールデンカムイ』完結、作者が語る制作秘話<中編>
完了しました
――クライマックスの死闘の中で、落ちていく遺骨を見つめる鶴見中尉の表情も胸に迫るものがありました。
クライマックスの鶴見の顔については、彼の本心というのはどんなに言葉を尽くそうが読者に信じてもらえない雰囲気にしてきました。モノローグで本心を言わせてしまうことなんて、いつでもできたけれどやりませんでした。文字で全て説明せずに、僕は漫画家なので絵で、表情で伝えるタイミングをずっと待っていたという感じです。
杉元の「目的」は果たされたのか
――杉元の金塊探しの動機は、幼なじみであり思いを寄せていた梅子の目を治すことでした。最終回ではその結末にせずに、目が治った梅子の息子に金塊を託しました。そうしたのはなぜでしょうか。
もし梅子がまだ再婚せず目も治っていなかったとしたら、あと数話必要になってしまったかと思います。クライマックス後から数話使ってしまえば冗長になってしまうでしょう。
なぜ数話必要となってしまうかと言いますと、
キャラクターの観点からお伝えしますと、梅子も主人公に救ってもらうのを待つキャラではなく、自分と息子のために早々と再婚を選んでいたのも強い女性でいいじゃないですか。もしかしたら杉元が命がけで持ってきた金塊が無駄になったと解釈する読者の方もいるかもしれないですね。でも僕は、形式的でも約束を守った杉元のほうが尊いと考えました。梅子の再婚相手は、当時の日本では珍しい、温室を所有するほどの生花店の経営者ですから、お金には困らないかもしれません。ただ寅次の息子は今後、梅子に次男が生まれたら、ちょっとグレて「継父の世話にはならぬ」と花屋を継がず、独り立ちすると思うので、金塊はその時に役に立つでしょうね。でも僕は寅次の息子に父親が英雄として死んでいったと伝えたことこそが金塊よりも価値のあることだと思います。
――杉元とアシㇼパの関係は、最後まで恋愛要素のない「相棒/パートナー」としか表現できないものでした。この関係性については、当初から、それとも、自然にそうなっていったのでしょうか。
杉元とアシㇼパが最後に恋愛要素でくっつくような描写は描かないと最初から決めてました。アシㇼパからの好意は、キャラとして自然だと思えましたので描きましたし、それは最後の展開に関わってくることなので、計算して入れていました。
最後まで笑わせたかった理想の「オチ」
――最後のコマは何年も前から決まっていたそうですが、いつ、どのような理由で決めたのでしょうか。
正確にいつか、というのは覚えていないのですが、2019年の年末に歴史監修者の後藤一信さんに「こういうオチにしたいのだが紙幣が良いかコインが良いか」という相談をしていたメールが残ってました。最終回の1話手前で最高に盛り上げてから、最終回は1話のみエピローグ的な話で終わるのが理想だと思っています。その場合、たいていは無難に、静かに終わらせてしまいがちじゃないですか。それに、カッコつけてひねって、バッドエンドっぽくするのも短編なら許されると思うんですが、全31巻の作品なので多くの読者さんを真正面から受け止め、納得してもらえるような横綱相撲をしなければならないと思いました。だから、最後まで笑わせたかったんです。そして、皆さんに納得してもらえていると信じています。
野田サトル(のだ・さとる)
北海道北広島市出身。2003年に漫画家デビュー。11~12年「週刊ヤングジャンプ」(集英社)でアイスホッケーに懸ける高校生を描いた『スピナマラダ!』(全6巻)を連載。14年から『ゴールデンカムイ』を連載し、22年4月28日に完結。単行本29巻の累計発行部数は2000万部超(22年5月現在)。
画像はいずれもⓒ野田サトル/集英社
会 期:2022年6月26日(日)まで。会期中無休。
開催時間:平日午前10時から、土日午前11時から午後8時(最終入館は閉館30分前まで)。
会 場:東京ドームシティ ギャラリーアーモ(東京都文京区)
チケット:一般・大学生1800円、中学・高校生1500円、小学生1000円
*土・日・祝日は日時指定制。チケット購入方法など詳細は 展覧会公式サイト で。公式ツイッター(@goldenkamuy_ex)もあります。