薪窯、石臼、ダブルアームミキサー
日本中にベーカリーを展開する「沢村」が、7月1日、軽井沢で新プロジェクトをスタートさせた。薪窯(まきがま)、自家製粉、高加水、国産小麦。まさに先端製法の“ぜんぶ盛り”である。
夏のあいだじゅうにぎわう「ベーカリー&レストラン沢村 旧軽井沢」。旧中山道(なかせんどう)をそぞろ歩く人からも窓越しに威容が見える。黒光りする薪窯と、クラシックな石臼、そして人間の腕の動きを模したダブルアームミキサー。これがハード系パンのおいしさを爆上げする“三種の神器”だ。
ヒゲがトレードマークの人気シェフが、軽井沢に姿を見せていた。沢村統括シェフであり、鎌倉の名店「BREAD IT BE」のシェフも兼務する森田良太さん。
「自分のパンを薪窯で焼いたらどうなるかなと思って」
結果、本人の予想を超える大きな変化がパンに起こったのだ。
バナナみたいな甘さとダシ感爆発のバゲット
沢村の代表的商品、長時間発酵バゲットのプレミアムバージョンといえる「バゲットクラシック」。まさに「窯変(ようへん)」(陶器の釉薬〈ゆうやく〉が窯の熱によって予想外の色味や模様の変化を起こすこと)。バゲットの皮にいりこダシみたいな香りを嗅いだのははじめてのことだ。バゲットらしからぬ、薄くてくねくねした皮は、嚙(か)めば嚙むほど魚介っぽい香りが鼻へと抜けまくる。とともに、むにゅむにゅした中身はどんどんねっとりして、バナナみたいな甘さとダシ感を爆発させる。
バゲットに使用するのは、埼玉県産の無農薬栽培「農林61号」と、三重県産ニシノカオリを石臼で挽(ひ)き、シフター(ふるい機)でふるって取り出したフレッシュな小麦粉。
「自家製粉しているので香りがしっかりとしている。農林61号の香りが強く出ていますね。ワイルドな感じです」
フランス、Fayol(ファイヨル)社のLe Panyol(ル・パニョル)という石窯。ぶ厚い石が薪の熱を溜(た)め込んで遠赤外線を吐き出し、中までしっかりと熱を伝えるのだ。薪として使用する軽井沢産のナラの木はすばらしい香り。パンを入れている袋をすーはーするだけで夢見心地になるほど。
「農夫のパン」とは、いわゆるパンペイザン。扁平(へんぺい)な形が普通だが、「農夫のパン」はめちゃくちゃボリュームが出ている。薪窯の与える巨大な熱は、105%(生地対比)という生地中の水分を水蒸気に変え、その勢いで生地をぼかーんと上に持ち上げる。断面に現れた大きな気泡からも明らかなように。
中身はぷるぷる、モッツァレラみたいに伸びる
できあがった生地は驚異的。中身はぷるぷる、モッツァレラみたいに、びろーんと伸びる。じゅるっと舌の上で溶けると…小麦の甘さ、フルーティな発酵の香りと、ほうじ茶のような香りが爆発。さらに、表面にまぶされたのは自家製粉の副産物であるふすま(小麦の皮)。濃厚な香ばしさとスパイス感が生まれている。
農夫のパンはミキシングに20分以上要する。普通のハード系パンの数倍にもなるだろうか。ここで威力を発揮するのがダブルアームミキサー。2本の腕で生地を持ち上げる動きを繰り返すことでグルテンを作り上げる。普通のミキサーのようにミキサーボウルの壁にこすりつける動きがないから生地の温度が上がらず、傷めない。小麦のもつ風味をダイレクトに表現できるのだ。
小麦ってこんなに甘いのかと思わず唸(うな)った「小諸産有機全粒粉パン」。長野県小諸産の無農薬栽培「ゆめかおり」と長野県産「ゆめかおり」を自家製粉した粉を100%使用したいわゆるコンプレ。ふにふにとして、グルテンは無抵抗、ぷっつーんと難なくちぎれる。「黒糖か?」「スコーンか?」というぐらいめちゃくちゃ甘い。ふすまの香りのきゅーんとくるすがすがしさは長野の小麦ならではのテロワールだ。
SAWAMURAの「S」が刻まれた「信州りんご酵母のサワードウ」。りんごから取り出した自家製りんご酵母種で作る。そこには、りんごのふくよかな甘酸っぱさが息づいていた。皮においてはタルトタタン、中身においては梅酒のような。ふさふさふるふるで歯切れぷっつんの、蒸しパンみたいな軽い食感。それでいて焼き芋のような濃厚な香ばしさが中身まで浸透。いま流行のサワードウにまったく別の表現を与えた逸品だ。
生地を食べて評価してもらいたい
沢村創業の地・軽井沢で挑むプロジェクト。チェーンベーカリーとして地位を確立したように見える沢村がなぜそれを行うのか。
「パン生地を食べて評価してもらいたい。沢村の立ちあげのときからずっとそう思ってやってきました。総菜パンも菓子パンも作ってきましたが、やっぱりプレーンなお食事系のパンを食べてもらいたい。お客さんにはチェーン店だと見られがちですけど、いい材料を使っていいものを作るっていう信念でずっと作ってきた。いまあえて、薪窯や自家製粉のようなむずかしいことをやることで、こだわってるんだなというのを、見てもらえたら」
森の中の町・軽井沢に薪窯パンはよく似合う。避暑地のさわやかな空気の中で、薪が香るパンを食べれば、猛暑で弱った体もリフレッシュするにちがいない。
ベーカリー&レストラン沢村 旧軽井沢
長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢12-18
0267-41-3777
7:00~21:00(冬季[12月3日~2月28日]8:00~21:00)
https://b-sawamura.com/shop/28/


















