phasonのコメント: Re:ice-VIII'相の二重ネットワークが謎 (スコア 2) 3
>水素結合は電気の分極から生じる緩い結合じゃないですか。
水素結合も結構強いですよ.
配位結合の典型的な強さ(これもまあ,何の配位かによって大きな差がありますが)が確か40-60 kJ/mol程度なのに対し,水中での水の水素結合の強さが20 kJ/mol程度ですので,同じオーダー程度の強さはあったかと.
また距離に関しても,例えば手元のMn3+にNCS-が配位しているような錯体でMn-Nの結合長が2.14 Åぐらいと,Mn3+のイオン半径0.78 Åと窒素原子のファンデルワールス半径1.55 Åの和2.33 Åより0.2 Å短い程度ですが,氷(Ih)におけるO-H-Oの結合長は2.76 Åと,酸素原子だけのファンデルワールス半径の和3.04 Åよりも0.3 Å程度も短くなっています.実際にはその間に水素原子もあるわけで,かなりギチギチに詰まっています.
また,水素結合は単なる分極間の引力ではなく,複数の効果の合わさったものです.
例えば水素原子の量子性や,水素を介した三原子間での共有結合(3中心結合),軌道間の反発,そして古典的な分極による引力などが結びついた結果として生じるものです.このため,結合方向にそこそこ強い制約がかることが知られています.
(この辺は,計算精度の向上もあり今でもちょくちょく議論が出ています)
あとはまあ,この実験自体が低温で行われており,運動エネルギーが小さいという点,連続した一つのネットワークが,分断され交差した2つのネットワークという対称性的にも大きく異なるものに転移することが難しい点などが効いているのかと.