島崎三歩の山岳通信 特別連載 「信州 山のプロフェッショナル」
今回は、“令和の山岳救助”のプロフェッショナルである、長野県警察山岳遭難救助隊の隊長・岸本俊朗さんにインタビュー。活動の様子や近年の山岳遭難の傾向、安全に楽しむための登山者へのアドバイスなどを伺いました。
長野県警察山岳遭難救助隊 隊長 岸本俊朗さん
千葉県出身。信州大学進学を機に登山に出会う。卒業後は民間企業に勤務後、平成16年に長野県警察官を拝命。平成19年に山岳遭難救助隊員の指名を受け、機動隊、松本警察署等の勤務を経て、令和3年から現職。
──山岳遭難救助隊(以下「山岳救助隊」 )を率いる隊長という立場ですが、山岳救助隊の皆さんはどのような仕事をしているかお聞かせください。
警察署に所属する救助隊員の多くは、普段は交番駐在所等で勤務する地域警察官で、管内で遭難があれば出動をします。警察署だけでは対応が困難な山岳遭難が発生した場合は、機動隊や山岳安全対策課に所属する隊員も出動し、救助や捜索に当たります。
▲山小屋のやまびこ安全講話
パトロールは泊まり掛けで行うこともありますが、その際は、夕方にテント場や山小屋で短時間の「やまびこ安全講話」という活動を行っています。
▲テント場のやまびこ安全講話
1件でも悲惨な遭難を減らしたいという思いから力を入れて取り組んでいる活動の一つです。
そのほかにもX(旧Twitter)やYouTube等を活用した遭難防止を目的とした情報発信にも積極的に取り組んでいますので、是非多くの皆さんにご覧いただきたいと思います。
▼ X / 長野県警察山岳遭難救助隊
▼ YouTube / 長野県警察公式チャンネル
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――新型コロナ5類移行(令和5年5月)後の登山者の傾向や遭難者の特徴はありますか?
遭難者は統計上、死亡、行方不明、負傷、無事救助の4分類で計上しており、長野県はアルプス等の急峻な山々が多いため、遭難者に占める死傷者の割合が高いのですが、年々「無事救助」の割合が増加傾向にあり、特にコロナ禍以降、無事救助の割合が4割を占める状況が続いています。
令和4年は310人中129人、令和5年は332人中132人と、人数では2年連続で最多を更新しています。
長野県「長野県内の山岳遭難発生状況」をもとにYAMA HACK編集部作成
「無事救助」に分類される遭難の態様として、「道迷い」や「疲労」などがありますが、例えば「道迷い」も運よく携帯電話がつながり救助要請ができれば、無事救助されますが、一歩間違えれば行方不明となってしまいます。また、「疲労により動けない」との救助要請も季節や天候によっては、動けなくなることで深刻な低体温症に陥る危険があります。
つまり、「無事救助」された遭難も一歩間違えれば死亡や行方不明などの最悪の事態に発展しかねないおそれがあるのです。
長野県「長野県内の山岳遭難発生状況」をもとにYAMA HACK編集部作成
──数多くの救助活動を経験されていると思いますが、特に大変だった活動はありますか?
一方で行方不明遭難は、認知当初から様々な情報収集をしなければなりませんし、捜索活動も長期にわたり、ご家族等の精神的な負担も大きく、特有の苦労があります。
──救助に際して心がけていることはありますか?
「助けたい」という気持ちは大切ですが、冷静な判断も求められるため、活動に伴うリスクを勘案し、できることとできないことを線引きして判断するよう心掛けています。
▲パトロール中の声掛け
──救助者から御礼の手紙等があると聞きましたが、印象に残っているエピソードをお聞かせください。
後日、そのご夫婦からお礼のお手紙をいただきましたが、お手紙は、当時の計画を客観的に振り返り反省をしつつ、今後の安全登山への誓いと我々の活動に対する感謝と激励で締めくくられていました。
このようなお手紙は我々の活動の励みにもなりますし、この事例からは、救助活動だけでなくパトロール活動の意義を改めて認識させられました。
──たくさんの遭難現場に行かれていると思いますが、プライベート山行含めてお奨めルートをお聞かせください。
出典:PIXTA(飯縄山)
──信州の山をより安全に楽しむために、読者の皆さんにアドバイスをお願いします。
「自分も遭難するかもしれない」と考えれば事前準備や計画も自然と慎重になるので、まずはそのような心構えを持つことが重要ではないかと思います。
──冷静沈着でありながら任務にあたる岸本隊長の熱い思いをお聞きしました。山岳救助隊のパトロールに山で会うときは笑顔でいられるように、常に安全登山を心がけたいですね!
無事帰るまでが登山 『令和6年 登山SafetyBook』 Web公開中!
今回紹介した、島崎三歩の山岳通信 特別連載「信州 山のプロフェッショナル」は、長野県が毎年発行する『登山SafetyBook』に掲載されています。
令和6年版には、ほかにも安全に登山を楽しむための情報が盛りだくさんです。