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これだけあれば、なんとかなる? 中身を厳選して「いざ」に備える! エマージェンシーセットを考える(後編) | YAMA HACK[ヤマハック]
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これだけあれば、なんとかなる? 中身を厳選して「いざ」に備える! エマージェンシーセットを考える(後編)

これだけあれば、なんとかなる? 中身を厳選して「いざ」に備える! エマージェンシーセットを考える(後編)

第2回

“緊急事態”なんて起きてほしくはないのに、中身をそろえているだけでなぜか少しワクワクしてしまうのが、「エマージェンシーセット」。過不足なくそろえたいけれど、あれこれ考え過ぎると各種アイテムは増えていきがちだ。
年間の半分近くをフィールドで過ごす山岳ライター・高橋庄太郎のリアルな実例がこちら。日帰り登山のときに持っていっている“選り抜き”を紹介する。

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「テント泊山行」よりも必要なものが増える「日帰り山行」と「小屋泊山行」

この連載の前回では、“テント泊時”に必要な僕のエマージェンシーセット(ファーストエイドの装備にギアの修理用具その他もまとめた「困ったときに使う」装備類)を紹介した。中身を減らしたり増やしたりしながらの、現在のリアルな装備なのだが、それはあくまでも“テント泊時”のもの。“日帰り”や“小屋泊”のときは、必要な装備がもっと増える。

なぜならば、テント泊のときはテントや寝袋といった「住」の要素はあらかじめ持ち歩いており、山中での自炊のために「食」を作る道具も持参しているからだ。

あるときの僕の日帰り登山のスタイル。バックパックは容量22Lだが、ここにビバーク可能な装備がしっかりと収められている

しかし“日帰り”のときは「住」の装備は必要ではないし、「食」の装備は山中で昼食を作ろうと計画している人でもなければ省略しているだろう。“小屋泊”であれば、「住」も「食」も基本的には小屋に頼っているはずだ。

だから、日帰りや小屋泊のときのエマージェンシーセットには“テント泊時”のエマージェンシーセットを基本に、「住」と「食」の要素を加えておかないと、嵐が吹き荒れる悪天候時の山での緊急時を乗り切れない。

天気が急速に悪化しつつある高山の様子。こういう逃げ場がない深山でこそ、充実したエマージェンシーセットが必要だ

そんなわけで、まずは基本となる“テント泊時”のエマージェンシーセットの前回記事を読んでいただくと、今回の記事がわかりやすくなる。ともあれ、以下のような装備であった。

前編で紹介した“テント泊時”の僕のエマージェンシーセット

怪我や病気に対応し、最低限の装備の修理ができ、夜間行動も可能になる装備を厳選している。

これを僕はシートゥサミットの“ファーストエイドドライバッグ”の容量“1L”に詰め込んでいた。しかし、エマージェンシー装備が増える日帰りや小屋泊のときは1Lでは入りきらない。

そこで登場するのが、同じドライバッグの“3L”だ。

「3L」のドライバッグに、「1L」のドライバッグをイン!

シートゥサミットの“ファーストエイドドライバッグ”。赤地に緑と白の十字マークが目立つ

テント泊時に必要なエマージェンシー装備は日帰りや小屋泊でも必要なものだから、1L内部のギア類はそのままにしておく。そのうえでさらにいくつかのアイテムをプラスし、すべてを3Lのなかに入れる。

つまり、3Lのなかには1Lが袋ごと入っていることになる。テント泊のときは、そこから1Lの袋だけを取り出して持っていけばいいのだから、なにかと面倒ではない。これは大きなポイントだ!

中央がテント泊時用の一式を入れた“1L”のドライバッグで、その上はテント泊時のエマージェンシーセットのひとつである浄水器。その他が日帰り&小屋泊用のものだ

“1L”はそのままで、その他の装備といっしょに“3L”に収納してしまう

で、ここからは具体的なアイテムである。

「住」と「食」の要素を加えて、一夜をしのぐ

まずはツエルト。テント代わりに一夜をしのぐための簡易的なシェルターだ。

ツエルトは超重要装備。これは重量270gのモンベル“U.L.ツエルト”

ツエルトには“かぶるだけ”の小型もあるが、僕は“眠れる”全身サイズを選択。横たわるときは、バックパックを敷いてマット代わりとする。ただし、寝袋の代わりに保温できるものが必要だ。

そこで自分の体温を利用して暖かく過ごせる“エマージェンシーブランケット”の登場だ。

どこのメーカーだったか忘れてしまったエマージェンシーブランケット。ブルーの養生テープでまとめている

エマージェンシーブランケットは「広げておく」こと!

さて、いきなりだが、ここで非常に重要なことをいっておきたい。もしかしたら、今回の記事でこれがいちばん大事なことかもしれない。

それはズバリ、「購入したら絶対に一度は広げておくこと!」。

エマージェンシーブランケット(レスキューシートなどとも呼ばれる)を持っている人はけっこう多いが、購入したまま広げたことがない人が大半だ。しかしペラッペラに薄いエマージェンシーブランケットというものは、その大半がきれいに巻かれ、折り畳まれた状態で販売されている。それはあまりにもぴったりと一枚一枚がくっつくように収納されていて(ときどき広げやすいように配慮した、気の利いた製品もあるけれど)、いざ広げようとすると、ものすごく手間と時間がかかり、ひどいときは破れてしまうのだ。

そのためにトラブルが発生したとき、暴風雨のなかで広げようと思ってもなかなかできるものではなく、怪我や病気でフラフラになっていれば、広げようとする体力も気力も出ず、諦めてしまう可能性も出てくる。

それに、広げられたとしても体に巻き付けるまでに10分かかるかもしれないのだ。その結果、すばやくエマージェンシーブランケットを使えば生き残れたものが、間に合わなくて死んでしまうかもしれないのである。

左が購入時の状態で、きれいに畳まれ過ぎているのがよくわかる。右は同じものを一度広げ、あえてシワをつけたもの。これはこれで膨らみすぎではある

だから、一度開いてから少しだけくしゃっとシワをつけ、再び広げやすいように畳んで収納し直す。それだけで迅速かつ簡単に使えるようになるのだ。

繰り返す。「購入したら絶対に一度は広げておくこと!」。

先の写真で、僕がヨレヨレのエマージェンシーブランケットを青い養生テープ(これならすぐにはがせる)で留めているのは、一度開いてフワフワになったものを、改めて小さくコンパクトに収納するためなのであった。

そんなわけで、いちばん言いたいことがもう終了してしまったが、気を取り直して話を戻していこう。

緊急時こそ大事! 加熱して作る「温かいもの」の意味

「住」のあとは「食」である。そのまま食べられる“非常食”は重要だが、これはパンのようなものや菓子類をなどの“行動食”を多めに持っていけば代用できる。

火を使わずに食べられてエネルギー量が多い、こんな食品は非常用としても有用だ

だが、それだけでは寒い夜を乗り切るのは厳しい。できれば“温かいもの”を少しでも飲み食いしたい。

緊急時の“温かいもの”は体力的なこと以上に、精神的に必要なものでもある。古今の遭難記を読んでいると「温かい飲み物のおかげで気持ちが落ち着き、救助がくるまで頑張れる精神力が生まれた……」などという逸話が頻出する。僕自身は身をもってそんな体験をしたことはないが、たしかにそうなのだろうとイメージできる。

そこで容量500mlのアルミ製クッカーをエマージェンシーセットに追加。

アマゾンで見つけた四角のクッカー。邪魔なハンドルは除去した。蓋もあるが、エマージェンシーセットには入れていない

僕はメリットがほとんど感じられないとアンチ・メスティン派なのだが、これはメスティン的な四角のクッカーである。なぜ、この形状なのかというと……。

クッカー内にはツエルトとエマージェンシーブランケットの半分程度が入り、収納スペースに無駄がない

先ほどのツエルトおよびエマージェンシーブランケットといっしょに収納するのに、都合がいい形状とサイズだから。これをセレクトした基準は、ほぼその1点のみである。

このクッカーを加熱する燃料は、長期保管しても劣化せず、液漏れもなくて安全な「固形燃料」。合わせるストーブは、購入時は板状の金属だが、使用時は折って立体化できるタイプだ。

エスビットのその名も“エマージェンシーストーブ”。燃料抜きの重量は32gで、ライターとマッチもいっしょに

最低限の飲み物と食品も、エマージェンシーセットの一種

いっしょにコーヒーとお茶などもいくつか入れておく。砂糖が入った甘い飲み物があってもいいかもしれない。

お茶やコーヒー以外に、塩分を補給できるスープも悪くない

これでなにかトラブルがあったとしても、厳しい夜をしのごうとする僕の気持ちを温かな飲み物が支えてくれるはずだ。

とくに危険な場所では、“主食”としてアルファ化米や棒ラーメンをエマージェンシーセットに加えることもある。棒ラーメンは小さなクッカーではおいしく作れないが、少しずつ加熱したりして、なんとか食えればいいのだ。

アルファ化米は、水でも戻して食べられる。棒ラーメンは収納性に長けるが、こちらはやはりお湯があったほうがいい

予備の3つのウェア類は、すべてウール製で!

ところで、エマージェンシーセットとは少し異なるが、僕が日帰り登山のときでも必ず持っていくのが“予備のウェア”だ。

すべて少々湿っていても暖かなウール製で、長袖Tシャツ、タイツ、ソックスという“肌に触れる”3点。これらをいつもドライバッグに入れて保管しておけば、たとえ雨で全身が濡れてもツエルト内でこれらに着替えることで、一晩くらいは体温をキープできる。冬ならば必ず防寒着も持ち歩いておく。

左から、薄手のタイツ、Tシャツ、そしてソックス。緊急対策用ゆえに、素材は濡れても暖かいウールに限る

晴れているときの写真だが、ツエルト使用時のイメージ。このなかで乾いたものに着替え、ビバーク態勢に入る

以上が、現在の僕の「日帰り」 「小屋泊」のときのエマージェンシーセットだ。

こんなさまざまな装備類と、最低限の食料と着替えがあれば、「いざ」というときにでも、きっとなんとかなる。「こいつらがあれば、一晩くらいは死なないぞ」という強い気持ちが湧き出してくるお守りのような存在でもあり、実際に強力な味方になってくれるはずだ。

すべてを入れると、容量3Lのドライバッグがほぼ満杯に。総重量は1,025g(食料とウェアは除外)になった

これでいいのか? まだ迷いが残っている、重要ないくつかの装備

といいながら、「この装備が最良なのか」と問いただしている自分が、いまだどこかにいるようだ。最後に余談として、いくつかの装備を紹介しよう。

はじめにクッカー。先ほど紹介した四角いクッカーよりも、蓋つきのカップのほうが使いやすくないか?

500mlの軽量なチタン製。昔のEPIのものだ

「テント泊時」のエマージェンシーセットに入れていたヘッドランプ。少し大きくなっても、より強力で、モバイルバッテリーから充電できるもののほうがよくないか?

マイルストーンの“MS-G2”。前回紹介したブラックダイヤモンドのヘッドランプの調子が悪いこともあり、すでにこれにチェンジすることを決定

モバイルバッテリーは収納性重視の小さなものよりも、壊れないタフなもののほうがよくないか?

アウトドア用に設計されたエレコムの“NESTOUT モバイルバッテリー(5000mAh)”。別のメディアの記事のためにテストしたことがあるが、強靭なうえに完全防水性がすばらしかった

それと、前回の記事ではホイッスルを紹介するのを忘れていたので、ここで追加したい。

助けを呼ぶには、遠くまで音が届くホイッスルが役に立つ

もっとも、これはエマージェンシーセットに入れておくのではなく、バックパックの胸元近くに取り付けておくほうがいいだろう。

いったい活躍のときはいつか来るのか、来ないのか?

それにしても、ああ、「もうこれでいい!」という境地にはなかなか達しないものだな。

過酷な雪山ではますます重要性が高まる。このセットが生死を分けるかもしれない

エマージェンシーセットというものは、なにかのときに活躍させたい気もするが、実際は活躍させないほうがいいという、じつに微妙な装備だ。装備としては日陰者であり、少し気の毒だ。だけど、そういうものこそ愛おしい山中の相棒になる気がする。

これだけ装備を集めると1kg以上の重さになって持ち運びに負担はかかるが、登山歴30数年、現在も1年の半分くらいはフィールドに出ている僕の現在の“安全”に関する考え方が、こんなエマージェンシーセットに表れているのであった。

高橋 庄太郎

高橋 庄太郎 Shotaro Takahashi

山岳/アウトドアライター。仙台市出身。高校の山岳部から山歩きを始め、登山歴は35年以上に。好きな山域は北アルプスでテント泊山行をこよなく愛し、北海道の深山や南の島のジャングルにも通い続けている。近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアメーカーとのコラボレーションでアウトドアギアもプロデュース。著書『トレッキング実践学』(ADDIX)『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、共著『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など執筆した著作も多い。
Instagram|@shotarotakahashi