横須賀は、トンネルの町だ。道路と鉄道を合わせて、横須賀市内には実に約150ものトンネルがあるという。ほとんどが山がちな三浦半島らしさ、といっていい。
だからその中を走るJR横須賀線もトンネルだらけだ。特に東逗子~横須賀間は短いトンネルを小刻みに通過しながら走っている。明と暗が交互に移ろう車窓はまるで人生みたいだ……などと大げさに感慨にふけるほどではないけれど、まあこの車窓を体験するとここは三浦半島、横須賀なんだと実感させられる。
そして東逗子駅と横須賀駅の中間、短いトンネルが続くこの区間にひっそりと佇む小さな駅が田浦駅である。田浦駅の近くには、いままさに痕跡すらも消えかけている廃線跡があるという。いったい、どんな廃線跡なのか。歩いてみようと思う。
……といっても、いきなり廃線跡を歩いても何が何やらわからない。まずは田浦駅がどんな駅なのか、というところからスタートだ。
田浦駅には何があるのか
田浦駅は、トンネルの町・横須賀をまるで象徴するような駅だ。何しろ、ホームが両端でそのままトンネルに接しているのだ。
言い換えれば、トンネルとトンネルの間にピッタリとホームが収まっている駅、ということになる。
といっても実際はピッタリではなく、11両編成の電車はホームに収まらない。だから先頭車両と2両目の先頭側のトビラは開かない。いわゆるドアカット、というヤツだ。
この駅が開業した明治の昔、11両編成の電車が走る時代が来るなど思いもしなかったに違いない。
そんなトンネルの狭間の田浦駅のホームに立って、あたりを見回す。もちろん右も左もトンネル、つまり山である。
横須賀という港町の中の駅だとはおよそ想像もつかない。まるで山間の小駅といった趣だ。ひとけのなさも、そんな印象に拍車をかける。