10月21日、衆参両院の本会議で第104代首相に指名された高市早苗氏。日本憲政史上初の女性首相の登場は、国内のみならず世界の話題もさらっているのだが、ここで注目されているのが中国の反応だ。高市政権の成立は、各種のニュースアプリで速報され、SNSでも検索上位に入るなど関心を持ってみられている。
いっぽう、中国は前任の石破総理の就任までは恒例だった、習近平国家主席・李強総理の2人からの祝電を送らず。祝電は李強のみの名義となり、しかもその事実は中国国内向けにはほとんど伝えられていない。この動きの真意はなんなのか。
“政府の本音”を代弁する個人メディア
中国の今回の姿勢の背景を知るうえで参考になるのが、「牛弾琴」という名前の自媒体(個人セルフメディア)が発信した動画および、それを書き起こした文章だ。中国国内のポータルニュースサイトでも盛んにシェアされているものである。
だが、個人セルフメディアというのは、すこし前の日本の「Yahoo!ニュース 個人」(現在はYahoo!で「エキスパート」とされた人が寄稿する記事)や、人気YouTuberのチャンネルとやや似た位置づけの存在だ。そんなものが発表する意見が、中国の党や国家の姿勢を知る参考になるのか。そう考えるのが普通だろう。だが、この「牛弾琴」は、ただの民間のインフルエンサーではない。
牛弾琴の中の人……というべきか、運営の中心人物は劉洪という。彼は新華社の高級記者、つまり日本の新聞でいう論説委員クラスだ。加えて新華社は中国の国家通信社であり、一般の報道機関というよりも、中国共産党の「喉と舌」としてその見解をプロパガンダする役割を担う機関である。
牛弾琴というプラットフォーム自体も、しばしば中国国内でメディア関連賞を受賞している。習近平体制下の中国におけるメディア関連者の「表彰」とは、その対象が党から見て政治的に正しい存在であるとお墨付きを与える行為と、ほぼイコールだ。
つまり、牛弾琴は体制と深く紐づいた意見が発信される媒体なのだ。もっとうがって言えば、中国共産党が公式にはあからさまに言わない意見を、民間人のフリをして代わりに喋っている存在である。この牛弾琴が今回、就任直後の高市政権について評する情報を発信しているのだ。