- 1二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:34:04
- 2二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:36:31
男もすなるオリキャラスレといふものを書いてみたくなったので、SSを投稿していきます
よろしくおねがいします。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:38:19
キヴォトスの行政の中心であるD.U.は、夜になっても喧騒が絶えることはない。
ずらりと立ち並んだ大小のビル群の合間を、人々は忙しなく行き交っている
その一角に、街頭モニターが設置されたエリアがあった。ビルの壁面に設置された大型のモニターには、今は報道番組を映し出していた。
「クロノスチャンネル、今夜の特集はいよいよ今月末に迫ったスーパームーン!今回はミレニアムからゲストをお招きして──」
モニターから流れる明るい声が、夜の繁華街に響く。軽快なテーマソングが耳朶を打ち、大洲カノンは雑踏の中で立ち止まり顔をあげた。
モニターには、青を基調にした制服を着た生徒が、瓶底眼鏡をかけた白衣の生徒にマイクを突き付ける様が大写しにされている。 - 4二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:39:40
「なんと、76年ぶり!?」
「ええ、今回のスーパームーンは月がキヴォトスに最接近するタイミングと満月のタイミングが一致していまして。どちらか片方というのは周期的に発生するのですが、重なるのは非常に珍しい現象なんです。そのため各所から注目を集めていて──」
二人のやりとりに合わせて、大げさなテロップが画面を彩る。その蛍光色の輝きが眩しくて、カノンは思わず目を細めた。
彼女は色褪せた紺色のジーンズに、袖口が解れた厚手のパーカーを着ていた。まだあどけなさの残る表情を隠すように、フードを目深に被っている。頭上に浮かぶヘイローは、ダークブルーのシンプルな円形。右の太腿と左腰に合皮のホルスターを付け、それぞれにハンドガンを一丁ずつ収めていた。
カノンは視線を滑らせ、モニターの端に表示されている時刻を見る。
午後7時。約束までそろそろだと、カノンは思った。
「邪魔……っ」
人通りのある歩道の只中で立ち止まるカノンに、トリニティの制服を着た少女がぶつかりかける。彼女は迷惑そうに鼻を鳴らすと、歩みを早めてカノンを追い越していった。そうして並んで歩いていた友人に追いつくと、二人は会話を再開した。
「どう?月、大きくなってる?」
「いや~、まだよくわからない」
彼女たちは空を見上げ、月を目で追っていた。 - 5二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:41:07
そうしているのは彼女達だけではない。同じように空を見上げる者が、行き交う人々の中にちらほらといた。
例えば、品の良い顔立ちをした犬型の獣人が。
例えば、スーツを着た恰幅の良いロボット市民が。
例えば、上等な仕立てのコートを羽織った赤髪の少女を中心にした4人組が。
年齢も所属もバラバラな人々が断続的に顔を上げ、月に目を凝らしている。
キヴォトスに76年ぶりのスーパームーンが訪れる。数日前に第一報が報じられて以来、こうした光景は毎夜よく見られた。
一生に一度見られるかどうかという、遠大な周期がもたらすプレミア感は、キヴォトスの住人たちの関心を空に向けるのに十分だった。
報道番組では連日特集が組まれ、SNSでは月齢を告げるbotのフォロワー数が急増した。トッピングを変えただけの“限定スイーツ”の屋台がにわかに街中に増え、そのうち何件かは無残にも爆破された。儲けることに勤勉な企業達は、スーパームーンにあやかったキャンペーンの告知に余念がない。
浮かれすぎだと、カノンは思った。
スーパームーンという大仰な名前の割に、実際は普段の満月より一回り程度大きく見えるだけだと彼女は知っている。
きっと、言われなければ殆ど誰も気づかない程度の細やかな変化だ。てんで名前負け。
けれど、それは珍しい事ではない。周囲の評価とその実態が釣り合う事なんて、滅多にないものだ。
だから、何事も期待は程々に。そうすれば、気持ちの落差は小さくすむ。それが15年と少しという短い人生でカノンが得た教訓だった。 - 6二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:44:37
「それでは続いて、先日発生した通り魔事件について川流シノンがお伝えします!クロノス報道部ではヴァルキューレ警備局長に直接インタビューを行い、この事件の進展について──」
いつの間にか報道番組の話題は変わっていた。
くたびれた顔のヴァルキューレ生がマイクを突き付けられ質問攻めにあっている。
カノンはそれに興味無さげに顔を反らすと、フードを引き下ろし俯きがちに歩き出した。
びゅう、と風が枯葉を巻き上げて吹き抜けていく。カノンは背中を震わせる。
「寒い……」
思わず漏れた言葉が、白む。
冬の真っ只中だった。これからどんどん気温も下がっていくという。近く雪も降るそうだ。そうなれば、バイトに行くのも億劫になる。
今のうちに稼いでおかないとな……
カノンはそう思い、再び足を止めた。そこにはビルとビルの合間に伸びる横道への入り口があった。彼女はいかにも誰かと待ち合わせをしているかのように、横道の傍のビルにもたれかかりスマホを取り出した。そして顔の高さまで端末を持ち上げ、画面を操作するふりをして周囲の様子をうかがう。
通行人たちはカノンを気に留める事もなく足早に通り過ぎていく。こちらに向けられた視線は一つもなかった。それを確かめたカノンは、するりと横道に入り込んだ。 - 7二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:47:23
道は薄暗く、湿った匂いがする。カノンは顔を顰め、足早に進む。
程なくして、路地でたむろしている5人組に行き会った。
皆一様にフルフェイスヘルメットをかぶっている。赤いヘルメットが一人。黒いヘルメットが4人。それぞれのヘルメットには思い思いのペイントが施されている。
「あ?」
グループの一人がカノンに気づき、威嚇するように声をあげた。
それを合図に他のメンバーもカノンに気づき、彼女の方へと顔を向ける。その中には、自身の銃へと手を伸ばす者もいた。
ぴり、と空気が張り詰める。
カノン小さく舌を覗かせ唇を湿らせると、口を開いた。
「こんにちは」
カノンの言葉を聞いて、グループの面々は顔を見合わせ、小さな声で話し合う。
ややあって、赤いヘルメットをかぶり、アサルトライフルを構えた少女がカノンの方に歩み出た。
「それから?」
警戒の滲んだ声で、赤ヘルメットが尋ねる。
こいつらで間違いない。カノンはそう確信して、
「また会う為に、ありがとう、さようなら、またいずれ」
と一息に言い切った。 - 8二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:49:04
カノンの言葉を聞いたグループがざわめいた。
「じゃ、アンタが今日のバイトって訳だ」
赤ヘルメットがカノンの顔をじろりと覗き込む。
「で、一個聞きたいんだけど……何あの変な合言葉」
赤ヘルメットの追及にカノンは肩を竦めた。
「何でもいいだろ。アタシが誰か分かるならそれで」
「それもそうか」
カノンの言葉に赤ヘルメットは頷いて「おい!」とグループに向かって声を張り上げる。
すると、ボールの様なものがカノンに向けて放り投げられた。
「ととっ……」
カノンは両手で受け止める。
それは、髑髏のペイントがされた、黒いフルフェイスのヘルメットだった。グループのメンバーが被っているものと同じタイプで、使い古されているのか所々傷がついている。
「アタシも被るの?これ」
ヘルメットを顔の高さに持ち上げて、嫌そうに尋ねるカノン。趣味が悪いと言いたげに、唇の端が歪む。
そんなカノンの背中を赤ヘルメットは軽く叩いた。
「当たり前だろ、うちらと仕事するんだからさ!」
バイザーで表情は伺えないが、笑った気配がした。 - 9二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 20:50:53
そのまま赤ヘルメットはグループの方へ戻っていく。
「爆薬は?」
「言われた通りありったけ持ってきた!」
カノンは赤ヘルメットとグループが盛り上がるのに耳を傾けながら、フードを下ろした。
押し込められていた金髪がふわりと広がる。その明るい輝きは、薄暗い裏路地をほんの少しだけ華やかにした。それからカノンは「はぁ…」と小さく溜息を吐いて、ヘルメットをかぶった。
「いいじゃん、似合ってるよ」
「どーも」
ヘルメットをかぶったカノンに赤ヘルメットに声をかける。
カノンは心底どうでも良さそうな口振りでそれに答えた
「さ、面子も揃った事だし……始めるよ!」
「おお!」
「やるぞー!」
赤ヘルメットが激を飛ばすと、グループのメンバーもそれに倣って思い思いに武器を突き上げる。
カノンはポケットに手を突っ込んで、それを遠巻きに眺めていた。 - 10125/06/08(日) 20:53:25
一先ず書き溜めはここまでです
ある程度分量が溜まり次第順々に投げていきます
一部見切り発車ですが、未来の私が何とかするでしょう - 11125/06/08(日) 22:14:52
「そこ!上を見て歩いていたら危ないですよ!」
通行人でごった返す交差点で、中務キリノは今日三度目となる注意を叫んだ。
鋭い声で射抜かれて、トリニティの制服を着た二人組が、そそくさと去っていく。
キリノはそれを見送り、再び周囲に目を凝らす。今夜の彼女の仕事は、交通整理だ。
「うーん……」
車の通行を手信号で止めながら、キリノは唇を尖らせる。目線が空に向いている人が、まだちらほら見受けられたからだ。
「やっぱり皆さん、空が気になるんでしょうか……」
キリノはちらと顔を上向ける。その視線の先には、薄い雲の掛かった月があった。 - 12125/06/08(日) 22:16:03
「気持ちは……分からなくもないのですが!」
かくいうキリノも、人並みにスーパームーンに興味がある。
毎朝の報道番組で流れる特集をチェックしているし、月齢を報告するbotも最近フォローした。パトロールの際に、月にあやかった限定スイーツの屋台を見て回ったりもする。
近頃のキヴォトスには、祭りを前にしたかのような浮ついた雰囲気が漂っている。キリノもまた、それを楽しんでいた。
「だからといって、危険な行動を見逃すわけにはいきません!」
歩行者の流れを止め、車を誘導しつつ、キリノは表情を引き締めた。
このスーパームーンが皆さんにとって良い思い出となる様、私が頑張らないと……!
そう一人使命感を燃やすキリノ。そして彼女はホイッスルを取り出し、ぴりりと吹き鳴らした。
「はい!前を見て歩いてくださーい!」
今日四度目となる注意を、キリノは叫ぶ。 - 13125/06/08(日) 22:43:16
その時、ビル街の一角で光が瞬いた。一拍遅れてどぉん……という音がして空気が震える。
周囲のざわめきが、冷凍されたかのようにぴたりと止む。
「……え?何、今の」
「爆発だよね?遠そうだったけど」
「えー、美食研でも来てるの?」
「……いや、今は自治区に居るっぽいよ。さっき公式アカにゲヘナの店のレビューを投稿してる」
通行人たちは突然の爆発にこそ驚きはしたものの、すぐに落ち着きを取り戻していった。交差点のざわめきが、ボリュームのつまみを捻るように返ってくる。
銃火器を用いた騒動が日常茶飯事のキヴォトスだ。それが目の前でおきたのならいざ知らず、遠くでおきた爆発を一々気に留める方が稀なのだ。
キリノはその例外だった。爆音を聞くや否や周囲から好奇の視線を向けられるのもお構いなしに、人込みを掻き分け、爆発の現場へと駆け出していた。 - 14125/06/08(日) 22:44:59
「中務キリノより警備部へ!ストリート37近辺にて爆発が発生しました!これより現場に向かいますどうぞ!」
携行していた無線機に向かってキリノは叫ぶ。
生活安全局所属のキリノにとって、こうした事件への対応は管轄外だ。
それでも彼女が走り出したのは、その場にいるであろう被害者を……恐怖に震えているであろう市民を、放置しておくことができなかったからだ。
──ここで目覚ましい成果を出せば、かねてより志望していた警備局への転科も通るかもしれません!……なんて下心も、ほんの少しあったりはするけれど。
「こちら警備局。キリノか?たった今市民からの通報があって出動準備を整えている所だ。生活安全局の君が動く必要は──」
無線機から聞こえる警備局からの返信は最早キリノの耳には届かず、彼女は夜の街をひた走る。
やがて彼女の目に、シャッターを吹き飛ばされた銀行の姿が飛び込んできた。 - 15二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:42:12
──
──── - 16125/06/08(日) 23:43:18
まるで雷が目の前に落ちたかのような、激しい閃光と轟音。
空気がびりびりと揺れ、爆風の熱が肌を炙る。
一瞬の暴威が過ぎ去ると、銀行の出入口を守るシャッターは無残にも破壊されていた。
そこから瞬き一つ分の間を置いて、悲鳴を上がる。通行人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「すっげえな……」
ビルの陰から顔を出したカノンは、ぐわん……と鳴る耳を擦ろうとして、指先をヘルメットに阻まれた。
被ってるんだって。
頬が少し熱くなるのを感じながら、カノンは手を下ろした。
「なあ」
気恥ずかしさを誤魔化すように、カノンは手近に居た黒ヘルメットに声をかける。
「あんな量の爆薬、誰が用意したんだ?」
「リーダーだよ。温泉開発部がゲヘナの風紀委員とやりあってるどさくさに紛れてくすねてきたんだって」
「あー……なるほど」
ゲヘナの温泉開発部といえばビル群だろうとお構いなしに発破する問題児の集まりだ。爆薬の出所としてはこれ以上に適切な所は無いだろう。
噂の当人である赤ヘルメットは、ひしゃげたシャッターの前に立ちカノンたちに手を振っている。彼女が銀行の入口へと爆薬を投げ込んだのだ。
「行くぞ」
黒ヘルメットの内の誰かがそう言ったのを合図にカノンたちヘルメットの一団は物陰から飛び出した。逃げ去っていく通行人の流れに逆らって銀行にたどり着くと、彼女たちはシャッターを踏み越え中に侵入した。 - 17125/06/08(日) 23:53:29
「な、なんですか、あなたたち!」
閉店後も残って作業をしていたロボットの事務員は、なだれ込んできたヘルメットの集団を見て悲鳴を上げた。
赤ヘルメットは天井にアサルトライフルを向けると、躊躇することなくトリガーを引く。
空気を裂くような、鋭い銃声が響き、銀行が静まり返る。
「騒ぐな!金を出せ!あと金になりそうなものも!」
「ひ、ひぃい!!債券も御入用でしょうかぁ!?」
「何でもいいからありったけ出しな!」
赤ヘルメットの端的な要求。
腰を抜かした事務員はがくがくと激しく頭を上下させ、這いずるように金庫へ向かう。
「付いていって根こそぎ盗ってきな!」
赤ヘルメットが指示すると、ダッフルバッグを抱えた黒ヘルメットが事務員を追う。
それから赤ヘルメットはカノンの方に顔を向けた。
「バイト!あんたは見張り!」
赤ヘルメットは出入口を指差して言う。 - 18125/06/08(日) 23:54:54
「わかったよ」
カノンは腰のホルスターから自動拳銃を抜き、スライドを軽く引いて初弾が装填されている事を確かめて、シャッターの穴から外の様子を伺った。
一度は逃げた通行人が、ちらほらと戻ってきて好奇の目を向けてきているが、それだけだ。
サイレンの音は、まだ聞こえない。
このまま何事もなく終わればいいんだけど……
ここまで順調に進んでいる事に安堵したカノンは、そこで初めて自分の掌がじっとりと汗ばんでいる事に気がついた。
緊張していたのだ。なにしろ、これはカノンにとって初めての銀行強盗なのだから。 - 19二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 07:32:44
ええやん
- 20二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 09:57:28
このレスは削除されています
- 21125/06/09(月) 11:43:04
大洲カノンは不良学生である。様々な理由で学校に行かず、ブラックマーケットに入り浸る……キヴォトスで俗に“スケバン”と呼ばれる生徒たちの一人だ。
スケバンは基本的に貧乏だ。金を稼ぐ手段が限られるからだ。彼女たちはアルバイト……コンビニ店員を始めとした真っ当な仕事に就くのが難しい。学校に通っていないからだ。学生が社会の主体となるキヴォトスにおいて、学校に通わないというのはそれだけで社会的信用を失う行為だからだ。
スケバンが荒事や違法行為に手を出しがちなのは、それしか日銭を稼ぐ手段が無いという場合も少なからず存在する。
カノンも例外ではない。彼女もまた真っ当な仕事に就けず、盗品の運び屋の仕事やマフィアやPMCにやとわれ傭兵まがいの仕事をすることで細々と稼ぎ、日々を過ごしている。
彼女の最近の悩みは、家賃だった。彼女が住家としている安普請のアパート、その家賃の支払いが滞っているのだ。 - 22125/06/09(月) 11:45:08
このままではいずれ追い出され、路頭に迷うことになる。冬のこの時期にそれだけは避けなければならない。カノンにはまとまった金が必要だった。
そんな時に、ブラックマーケットの情報屋を介して見つけたのが、この仕事だった。
D.U.にある銀行を襲う。ついてはそれを手伝う人手を求む。経験不問。報酬は成果の頭割りとする。
要点をまとめると、こうだ。
まとまった額の金が、即座に手に入る。それは 求めていた仕事そのもので、カノンは飛びついた。
勿論、銀行を襲う事のリスクは考慮した。荒事へのハードルが低いキヴォトスでも、銀行強盗は“大それた犯罪“に分類される。失敗した時は、矯正局行きは免れないだろう。
だが結局、そうしたリスクも、大金の魅力には抗えなかったのだ。
──仮に失敗したとしても、矯正局で冬はしのげるからな。
そういう開き直りも、カノンの胸の中にはあった。
かくしてカノンは、今こうして銀行強盗に参加しているという訳だ。 - 23二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 12:19:34
地の文の中に便利屋が居たり、会話の中で美食研が話題に出ていたり
ストリート37が実際にブルアカのチャレンジで登場する場所だったり……
ここがブルアカの世界なんだなと感じさせる文章でめっちゃ好み
応援してるぜ - 24二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 17:29:54
雰囲気良いよね
細かいネタが丁寧に仕込まれてて - 25125/06/09(月) 18:09:38
「……ふー」
カノンは細く息を吐いて物思いを打ち切ると、銀行の構内へと目を向ける。
一人の黒ヘルメットが事務員に銃を突きつけ、もう一人の黒ヘルメットがダッフルバッグに札束をせっせと詰め込んでいる。残る二人は銀行の中をうろついて金目の物を物色し、赤ヘルメットは何事かをがなり立てていた。
(あれだけ詰め込んでるなら……取分50万は固いな)
重そうに膨らんだ鞄を見て、カノンは皮算用を始めた。
(それだけあれば家賃の支払いは十分だろ。冬着も買い足したいな。銃の整備もついでにやっておいて、あとはー……まあ、残った分は貯金だな)
もうすぐ手に入る大金を想像して、カノンの頬が緩む。 - 26125/06/09(月) 18:12:38
その時だった。
「ヴァルキューレです!全員両手を上げて、壁まで下がってください!」
銀行の外から、凛と声が響いた。カノンは弾かれたように顔をそちらに向ける。
銀行の前の大通り、爆発の影響で車が乗り捨てられた道に、ヴァルキューレの制服を着た少女が建っている。彼女の三つ編みにした長い銀髪が、風に吹かれて、しっぽの様に揺れていた。
キリノだ。息を荒げ、それでも青い瞳には強い決意を宿し、両手で握った拳銃をこちらに向けている。
「げ……」
その顔を見たカノンは顔をしかめ、それから、
「警察が来た!表にいる!」
とヘルメット団に向けて叫んだ。 - 27125/06/09(月) 20:10:06
「は!?ヴァルキューレだぞ、なんでこんなに動きが早いんだよ!」
赤ヘルメットが苛立たしげに舌打ちをすると、銀行の出入口……カノンの傍まで大股で歩み寄る。そしてキリノの姿を見るなりアサルトライフルを構えて躊躇することなく引金を引いた。
銃声。マズルフラッシュが瞬き、飛び散った薬莢が涼やかな金属音を奏でる。驟雨のように放たれた弾丸がアスファルトにあたり、派手に火花を散らした。
突然の銃撃に泡を食ったキリノが、あわあわと乗り捨てられた車の陰へと身を隠した。
少しずつ集まりかけていた野次馬たちが、また悲鳴を上げて逃げていく。
「いきなり撃つのかよ……!」
「馬鹿!ヴァルキューレに加減がいるかよ!」
目を丸くして食って掛かるカノンに、赤ヘルメットは弾倉を取り換えながら声を張り上げた。
「ずらかるよ!」
赤ヘルメットが振り返り、大きく手招きをした。
それを受けて黒ヘルメットたちは慌しく装備をまとめると、我先にと銀行から逃げていく。
カノンも壊れたシャッターを踏み越え外に出て、キリノの方を一瞥し、走り出した。 - 28125/06/09(月) 23:04:32
「……!待ちなさい!」
一拍遅れて、キリノも車の陰から飛び出して追跡を始めた。
「くそ、もう少し取れたハズなんだけどなぁ!」
「言っても仕方ないっしょ。ほら、走れ走れー」
「バイト!着いてきてる!?」
「付いていってる!あんたらの後ろ!」
カノンたち一同が、夜の街を走る。
自分達の足音に掻き消されない様に、会話は自然と大声になる。
「そこ!直ちに止まり投降しなさい!」
そんな一同を、キリノが追いかける。
両者の距離は、十メートル程。その差は、少しずつ開いていく。
キリノの脚が遅いという訳ではない。交通整理の現場からここまで走ってきた分、彼女の方が体力的に不利なのだ。万全ならば……とキリノは歯噛みした。 - 29125/06/09(月) 23:06:16
「かくなる上は……!」
キリノは立ち止まると、拳銃を抜き素早く連射した。
「撃って来たぞ……!」
「いや、あいつのは当たらない!無視して走れ!」
響いた銃声に、赤ヘルメットは振り返り応戦しようとする。それをカノンは窘めた。
果たしてカノンの言った通り、キリノの弾丸は街灯やビルの窓などてんで見当違いの場所を撃ちぬくだけに終わった。
「……待ちなさーい!!」
射撃の散々な結果を見たキリノは、束の間曖昧な表情を浮かべて沈黙し……気を取り直して追跡を再開した。カノンたちとの距離は更に開いていたが、キリノはあきらめない。 - 30125/06/09(月) 23:10:39
そういえば、1レス当たりの文量どうでしょうか
読みやすいと良いのですが - 31二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:15:41
問題ないと思います!
カノンがどんな出会いをするのか楽しみに見てます! - 32125/06/09(月) 23:20:49
「リーダー!どう逃げる!?」
ダッフルバッグを抱えた黒ヘルメットが、キリノの追跡に焦れて叫ぶ。
「路地に入る!そこで撒くよ!」
赤ヘルメットが、ビルとビルの間の路地を指した。一同はそこへ飛び込んだ。
狭い路地を、彼女たちは駆け抜けていく。ビルの谷間に、足音がこだまする。誰かが浅い水溜まりを蹴って、小さな水飛沫が上がる。
まだ走れ、まだ止まるな。背後から迫るキリノから逃れるために、カノンたちは走り続ける。
「なあ、バイト……!」
突然、赤ヘルメットが並走しているカノンの肩を叩いた
「最後の仕事、頼むよ!」
「は?なんのこと──」
含みのある言葉にカノンが疑問を発した、次の瞬間。
銃声が響いた。 - 33二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:27:39
このレスは削除されています
- 34125/06/09(月) 23:28:39
「あ、ぎ……!?」
カノンの左足を、焼けるような痛みが襲う。彼女はバランスを崩し、地面に転がった。
「な……は?何……!?」
今、何が起きた?走っていたんじゃないのか?それがなんで、倒れているんだ?足、なんでこんなに痛いんだ……?
状況の理解が追い付かないカノンが混乱した声をあげる。
「じゃあ、後よろしくな!」
赤ヘルメットはカノンの方に向き直ると、これ見よがしにこめかみを擦る敬礼をして、走り去っていく。
その背中が小さくなっていくにつれ、カノンの理解が追い付いてきた。 - 35125/06/09(月) 23:29:53
「……あいつら、初めからこのつもりかよ!」
強盗の手伝いをさせて、最後はヴァルキューレへの囮として置き去りにする。
バチバチヘルメット団が人手を募集していたのは、生贄の羊が欲しかったからだ。
“成果の頭割り“という破格の報酬にも納得がいく。初めから払うつもりが無いからこその設定だったのだ。
「ざ……っけんな!」
だまされたこと、そして今までそれに気付かなかった自分にむかっ腹がたつ。カノンは毒づき、壁を支えにして立ち上がった。
「痛……っ!」
撃たれた足に体重をかけると、じくりと痛む。立ったり歩いたりするだけならともかく、すぐには走れそうにない……! - 36125/06/09(月) 23:31:03
今夜はここまで
出来れば毎日投稿するようにします - 37二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:57:31
乙乙
ここからどう転ぶのやら - 38二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 00:19:40
復讐の女神と化けるのかな?
- 39125/06/10(火) 08:56:01
「待ちなさーい!」
キリノの声が迫ってくる。足音が近づいてきている。もう今すぐにでも、角を曲がってこの路地に入ってくるだろう。
クソ!クソ!クソ!
切羽詰まったカノンは、なんとか逃れる手段は無いか辺りを見渡す。
壁のパイプを伝って屋上に逃げるか?いや無理!
窓を破ってビルの中に逃げ込むか?手の届かない所にしか窓が無い!
他に何か、何か、何か……
忙しなく動いていたカノンの瞳が、一点で止まった。
見つけた……!
カノンが足を引きずって向かったのは、ビルの壁に沿うようにひっそりと置かれていたダストボックスだった。おそらくビルの住人が使っているものであろうそれは……人間一人が中に隠れられそうな大きさがあった。
カノンは、ダストボックスの蓋を両手でつかむとそれを持ち上げた。途端、中から強烈な悪臭が立ち上る。 - 40125/06/10(火) 11:00:08
「う、げぇ……!」
当然というべきか、中にはゴミが放り込まれていた。しかも、可燃ごみだ。カノンは涙目になりながら、ダストボックスへ飛び込み、蓋を閉じる。
(あー、ほんと……最悪!)
ゴミから染み出た粘ついた汁が、服を濡らす。腐った食べ物のぶよぶよとした感触が指先に触れて、鳥肌が立った。ヘルメットのおかげで顔が守られている事だけは、マシといえるかもしれない。
「────!」
ダストボックスに身を投じたほんの数秒後、足音が聞こえて、カノンは息を詰める。どくん、どくんと、鼓動が五月蝿い。まるで心臓が耳元までせり上がってきたかのようだった。
このまま通り過ぎてくれますように……
カノンは都合のいい時だけ頼る天に向けて祈りつつ、耳をそばだてる。
「こちらキリノ!犯人一同はバイゼリア横の路地を曲がって逃亡中!追跡を継続します!」
荒い息と、無線に向かって話す声が、ダストボックスを隔てたすぐ外で聞こえる。
カノンは全身を固くし、僅かな身動ぎもしない様に全神経を集中した。 - 41二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 12:20:57
このレスは削除されています
- 42125/06/10(火) 18:12:48
「…………」
息をひそめた甲斐あってか、キリノの足音は徐々に遠ざかっていく。
やがてそれが聞こえなくなって……カノンはダストボックスから転がり出た。
「げほっ、ごほっ……おぇ……」
外に出るなり堪えていた吐き気が込み上げ、カノンは蹲り激しく咳き込む。
このまま地面に大の字になって一休みと行きたい気分だが、そうもいかない。
ビル街のいたるところからサイレンの音が聞こえてくる。
銀行強盗の通報を受けたヴァルキューレが集まってきているのだ。
「捕まって、たまるかよ……!」
カノンは起き上がり、足を引きずってその場から移動を始める。
逃げる先の当てはない。ただ、サイレンから遠ざかる事だけを指針にした闇雲な逃亡劇だった。 - 43125/06/10(火) 18:13:52
(コピペミスで一文抜けていたので修正です)
- 44二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 19:58:46
乙女が生ゴミに塗れる屈辱に耐える姿は涙を誘いますねぇ…
- 45125/06/10(火) 20:49:08
──
──── - 46125/06/10(火) 20:50:32
コンクリートの壁に、カノンの荒い吐息が響く。
床には厚く埃がつもり、割れた窓からは夜風が時折吹き込んでくる。
カノンが居るのはD.U郊外に位置する廃ビルだった。外の喧騒は殆ど届かず、時折サイレンの音だけが小さく聞こえてくる。カノンがいるのは、その廃ビルの一階だ。かつて、何かの企業が入っていたらしく、壁には日焼けして色褪せた啓発ポスターが貼られている。
「迷いなき労働」「歯車、歯車、働こう」「できぬできぬは努力がたりぬ」
……見ているだけで気が滅入る文字の羅列に、カノンは目を逸らした。彼女はもう一歩たりとも動くつもりは無いと告げるかのように、床に脚を投げ出して座り、コンクリートの壁に背中を預けている。
結果のみを語れば、カノンはヴァルキューレの非常線を潜り抜け、逃げ延びることに成功していた。
カノンに特別な才覚があった訳ではない。彼女がでたらめに選んだ逃走経路が、運よくヴァルキューレの非常線を迂回する形になったというだけのことだ。もう一度同じことをしろと言われても、不可能だろう。 - 47125/06/10(火) 20:54:48
「あー……」
深い溜息を吐いたカノンは、緩慢な動作でヘルメットを外し、投げ捨てた。
乾いた音を立ててヘルメットが転がっていき、壁にぶつかって止まる。
安全な場所に身を隠せたことで、バチバチヘルメット団への怒りがまた、ふつふつと湧いてくる。
「舐めた真似しやがってあいつら……」
ヘルメットの跡が付いた金髪を乱暴に手でかき上げて、カノンは唸るような声をあげる。
「いっそあいつらのアジトから、金盗んでくるか……?」
ガリガリと頭を掻きむしり、カノンは呟く。それが到底できない事を理解しているから、カノンの苛立ちは一層募る。
強盗に来ていたメンバーだけで5人。アジトともなれば、もっと他にもメンバーがいるかもしれない。SRTの様に戦闘訓練を積んでいるなら兎も角、一介の不良に過ぎないカノンに、それだけの人数差を埋め合わせるだけの強さは無い。囲まれて一方的に叩きのめされるのがオチだ。 - 48125/06/10(火) 20:56:22
そもそも、カノンは彼女たちの事を、バチバチヘルメット団というグループ名以外に何も知らない。顔を合わせたのも、今日が初めてだった。
カノンは今回の強盗に参加するに当たって、ヘルメット団とのやり取りはすべて情報屋を仲介したメールで行っていた。
こうした形態の仕事は、ブラックマーケットでは珍しくない。このやり方は、必要以上に素性を明かさなくて済む。それは、後ろ暗い物を抱えている同士が集まって仕事をする上で、何かと都合がいいのだ。
もっとも、それを利用して今回カノンがやられたように報酬を支払わず雲隠れする……なんて事態も往々にして起こりはする。あるいは、それを含めて“都合がいい”ということなのかもしれない。
やられる側としては、たまったものではないが。 - 49125/06/10(火) 20:58:02
「あー……クッソ!」
大きく舌打ちをしたカノンは、太腿のホルスターから拳銃を引き抜くと、先程投げ捨てた
ヘルメットに銃口を向けた。
「See you around, baby!……ばーん」
銃声の擬音と共にカノンは銃口を僅かに跳ね上げる。
銃口から飛び出た弾丸が、ヘルメットを撃ちぬく場面をカノンは想像した。
あれは……あいつは赤ヘルメットだ。みっともなく床に這いつくばり許しを請うが、アタシはそれに耳を貸さない。容赦なく銃を突き付けて……バン、バン、バン。頭と、それから足にも撃ち込んでやる。痛くて叫んで転げまわるだろうな。仕返しだ。ざまあみろ。
「鳴いてみろよ、ブタみたいに」
カノンはそう囁いて、くすりと笑う。
下らない妄想だが、それでも少しの慰めになった。 - 50125/06/10(火) 21:01:45
「……ん?」
物音が聞こえた気がして、カノンは口を噤んだ。ヘルメットに向けていた拳銃を体の傍に寄せて、セーフティーを外す。それからゆっくりと首を巡らせる。
右から左へ。ゆっくりと動いていたカノンの視線がある一点で止まり、彼女の喉がひゅう、と引き絞られた様な音を立てた。
誰かがいる。ビルを支える柱の傍に立って、カノンの事をじっと見つめている。 - 51125/06/10(火) 21:30:08
今日はここまで
週末まですこしペースダウンするかもしれません
次の展開を書くためにオールドファッションをたくさん買いました - 52二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 21:38:00
- 53二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 01:17:43
寝る前のほ。
- 54二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 08:47:28
⭐︎
- 55125/06/11(水) 11:26:02
「だ、誰?」
思わず銃を向けて、カノンは震える声で尋ねた。
幽霊じゃないだろうな……?
廃ビルなんて幽霊が出る定番のロケーションだ。そしてカノンは、その手の話がとても苦手だった。背中に嫌な汗が浮かぶ。
その誰かは、カノンの問いに答えることなく暗がりから一歩前に出た。
子供……少女だ。カノンの目が、丸く見開かれる。
その少女が、カノンがこれまで見たことがないくらい可愛かったからだ。
上背は、カノンと同じくらいか少し高いくらい。でもカノンより小顔で、彼女は持って生まれた格差について思いを馳せる羽目になった。優しい輝きを湛えた赤い瞳は、今は眠たげに半ば閉じられている。けれどそれは少女の魅力を損なわず、むしろ大人の色香とやつを与えているようにカノンは感じた。黒い髪はつやつやと煌めいていて、枝毛なんかとはきっと縁がない。肌は降ったばかりの雪のようにきめ細かで、小さな赤い唇はそこに添えられた一片の花弁。“可憐”という言葉を辞書で引いたら、そこに顔写真が載っていそうな……いや、むしろ言葉の方が「私そんな大した者じゃないんで……」なんて照れてしまいそうな。
そんな少女が、柱に手を付いて、落ち着いた様子でカノンを見つめている。 - 56125/06/11(水) 11:27:49
カノンは銃を床に置くと、もう一度口を開いた。
「ねえ、誰?」
「聞こえてるよ」
少女は肩を竦めた。カノンは、昔美術の教科書で見た彫像を連想した。或いはモデル雑誌の表紙を飾るタレントを。そういう場所で見かけるのが自然なくらい、彼女の仕草には華がある。
だから、カノンは違和感を持った。
なんでこいつ、こんな廃ビルなんかにいるんだ?
それに少女は帽子も、マフラーも、コートも付けていない。冬で寒いのに、彼女が着ているのは半袖に丈の短いスカートの制服だ。おそらく、夏服。胸ポケットに縫いつけられている校章は、カノンが見たことのないものだった。
……まさか、マジで幽霊か?そういえばトリニティで似たようなのが出たという噂を聞いた覚えがある。あっちは確かシスターの格好だったって話だけど……
「ねえ」
湧き出る疑問を前に口を噤んだカノンの方へ、少女がもう一歩近づき首を傾げた。
「何してたの?」
「……別に、休んでただけ」
はぐらかすようにカノンは答える。
少女は「ふぅん」と素っ気なく呟くと、右手を水平に上げて、親指と人差し指を立てた。
指鉄砲。その銃口もとい指先は、カノンが投げ捨てたヘルメットを差していた。
「ばーん」
「しっかり見てるじゃねえか……!」
赤くなったカノンが少女に食ってかかる。 - 57125/06/11(水) 11:57:12
「見てないよ、聞いただけ」
「どう違うんだよ!」
「……ううん、違うか。聞いたし、見たんだ」
「なんだってんだよだから……!」
カノンは自分が急速に疲れていくのを感じた。
いや、気の抜けたやり取りで緊張が緩み、身体が疲労を思い出したのだ。彼女は込み上げる欠伸を噛み潰し、目尻に滲んだ涙を拭う。
少女はカノンの方に腕を伸ばし、人差し指を立てた。
「寝てたの」
少女は立てた指を下ろし、指先をカノンに向けた。
「でも、あなたの声で起こされた。それで下りてきた」
少女の声に、ほんの少し不機嫌な色が混じる。カノンはばつが悪そうに肩を竦めた。
……そんな大声で騒いだつもり、無いんだけどな。
そう言いたげに唇の端がひくひくと吊り上がる。
「……そりゃ、悪かったよ」
「そう、悪いの」
「……」
深く息を吸い込んで、吐く。カノンは自分が思いの外我慢強い人間だと、初めて知った。 - 58125/06/11(水) 14:51:11
(……手癖で教科書って書いちゃったけど教材ってBDのような……読み替えて頂けると幸いです)
- 59二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 15:17:41
驚きと不思議にカノンちゃんはどう動くのかな
- 60125/06/11(水) 17:05:12
「……ここに住んでるのか?」
「うん」
カノンは気を取り直すと、胸の前で腕を組み、少女に問いかける。
少女は頷いて答え、それから「あっ」と呟き、迫りくる何かから身を守るように片手をカノンの前に上げた。
「住ませてあげられないよ。もう百人同居してるから」
「いくら何でも嘘が雑だろ……別に住む気は無いけどさ。それよか」
コンクリート打ちっぱなしの廃ビルは、底冷えがする。腕が粟立つのを感じつつ、カノンは少女の制服を指した。冬に着るには不似合いに映るそれは、廃ビルで生活している割に手入れが行き届いていた。まるで、おろしたてだ。
「寒くないの?その恰好」
「うん」
少女の顔色は変わらず、強がりを言っている様子もない。
「すごいな」
素直な賞賛がカノンの口から漏れた。それを聞いた少女は、ほんの少し寂しそうな顔をした。カノンはそれに気付いたが、それについて尋ねたりはしなかった。
初対面の相手にそこまで踏み込むつもりはない。 - 61125/06/11(水) 17:08:57
「……私、また寝るから。静かにして、なるべく早く帰ってね」
少女はカノンに背を向けると、ビルの奥に向かって歩き出した。薄暗く大小の瓦礫が転がっている床を、少女はまるで真昼の道を行くかのような気安い足取りで進んでいく。
その後ろ姿が暗がりの中に消えるのを見届けたカノンは、ゆっくりと立ち上がった。脚を撃たれた痛みも、かなり和らいでいる。
「帰るか」
いい加減、休憩にもキリを付けて帰らなければいけないと思っていた所だ。少女との会話はその良いきっかけになった。此処から家までの道筋を少々面倒に思いながら、カノンは歩き出した。
カノンは疲れていた。銀行からここまで動き詰めで、体力を使い切り、とにかく眠くて仕方がなかった。
……だから、気づかない。少女との会話の際に何気なく床に置いた拳銃が、そのまま置き去りになっていることには。 - 62125/06/11(水) 21:59:40
──
─── - 63125/06/11(水) 22:01:33
「ただいま戻りました~……」
「へろへろ」という形容詞がこれほど似合うこともないだろう。そんな様子で、キリノが生活安全局のオフィスに帰ってきた。
「おかえりキリノ。おつかれ~」
合歓垣フブキは書類から目を上げ、気の抜けた声でキリノを出迎えた。
その片手には、食べかけのオールドファッション。小麦とバターと砂糖と卵のカルテットが織り成すは、爆撃の如きカロリーの暴力。フブキはそんなことまるで気にした様子もなくかぶりつき、さくさくとした食感とまろやかな甘みに目を細める。
こんな時間に食べて、大丈夫なんでしょうか……
重たい頭でそんなことを思いながら、キリノは自分のデスクに突っ伏した。
「ありゃ、どうしたのさ」
フブキは目を丸くする。溌溂を絵にかいた様なキリノが、疲れた様子を表に出すのは随分珍しい。新しいドーナッツを片手にフブキは、キリノの方に椅子を寄せる。話してみなよ、と細められた目が告げていた。それに促される様に、キリノは口を開いた。
「今日の銀行強盗のことで色々と……」
「あ、聞いたよ~。大捕り物だったらしいね」
キリノと同じくヴァルキューレに在籍しているため、銀行強盗の情報もフブキは当然聞き及んでいる。彼女は現場にこそ出ていなかったものの、聞こえてきた話でおおよその顛末を把握している。 - 64125/06/11(水) 22:04:14
「一人捕まえたんだって?お手柄じゃん」
犯人グループ6名の内、3名を逮捕。内訳はキリノが1名。警備部が2名。
キリノが犯人グループを根気よく追跡し続け、その位置情報を逐一報告したおかげで適切に非常線を張ることができたのだ。
「それに関しては褒められたのですが……」
はぁ、とキリノは溜息を一つ。
ドーナッツ食べる?とフブキが差し出し、すこし迷ったのちにキリノはそれを受け取った。
「交通整理の持ち場を離れたことと、単独で犯人を追いかけたことで怒られてしまって……」
「あら~……」
前者は悪しき様に言えば職務放棄だ。後者も犯人グループに逆襲される危険を思えば手放しで褒められた行為ではない。上層部も立場上、それらの行為にお咎めなしという訳には行かないのだろう。
理解はできる。だが納得はしがたい。
フブキは、キリノの背中を励ますように叩いた。
「まあ、決まりはそうかもしれないけどさ。だからキリノが間違ったことをしたって事にはならないと、私は思うよ。それで防げた被害もあっただろうし」
「うう、フブキ~……」 - 65125/06/11(水) 22:05:22
ええい、よせやい。湿っぽいのは苦手なんだからさ。
フブキはキリノの手のドーナッツを指した
「とりあえず、食べよ。何が起きるでもないけど、気分は変わるよ」
「はい、いただきます。……ねえ、フブキ」
「なーに?」
「ありがとうね」
キリノが身体を起こし、ドーナッツにかぶりつく。……その目が見開かれ、ドーナッツを口に運ぶスピードが増す。
お気に入りの、限定品だからね。
ほんの少しだけ名残惜しさを覚えながら、フブキは大きく頷いた。
「ほういへば」
「飲み込んでからしゃべりなよ……」
「……んく。そういえば、さっき何を読んでいたんですか?」
「ああ、警備局からの回覧だよ」
フブキはデスクへと手を伸ばし書類を取ると、キリノの方へ差し出した。
「警備局長がクロノスに突っつかれてさ、それで生活安全局もパトロールを強化しろーってお鉢が回ってきたの」
その書類は、関連性のあるいくつかの事件資料をまとめたものだった。それを見たキリノの眉尻が下がる。
「これ、例の通り魔事件ですよね」
「そうそう。しばらく前から起きてるやつ。悪趣味な事考えるやつもいたものだよねぇ」
フブキは天井を見上げ、吐き捨てるように言った。 - 66125/06/11(水) 22:06:40
「──被害者の血を抜いてくなんて、さ」
- 67125/06/11(水) 22:43:20
──
─── - 68125/06/11(水) 22:45:08
「ただいま」
出迎える相手の居ない部屋に向けて、カノンは言葉を放る。
六畳一間のワンルーム。一目で見渡せる狭い部屋は、カノンが出かけた時のまま着替えや銃の部品が散らかっていた。中でも目を引くのは「督促状」と赤文字で大きく書かれた封筒。
“期日までにお支払いいただけない場合、強制的に退去していただきます”
考えない様にしていた文章が頭の中でリフレインして、カノンは溜息を吐いた。
無事家まで帰りつけたのは良いものの、家賃は結局稼ぎ損ねた。今日一日で得られたものは、痛みと徒労感だけだ。
「だっる……」
稼ぐ手段をまた考えなくてはならない。せめて今日の内に、最低限の指針を立てておこう。
カノンは足元の下着を蹴り飛ばして場所を作ると、床に腰を下ろした。
「とりあえず即金はマストだろ……」
そうなると運びか、襲撃か。いずれにせよ、肉体労働になる。
疲労で鈍い頭を回転させながら、カノンはホルスターを外していく。まずは腰の物を。そして次に太腿の方へ手を伸ばし…… - 69125/06/11(水) 22:46:25
「ん?」
異変に気付いた。ホルスターが軽い。ばっと顔を向けると、ホルスターは空っぽだった。
「は、なん……あー……あー……!」
なんで、と口にしかけて、カノンはすぐに理由に思い至った。
あの廃ビルだ。あそこで抜いて、それ以降戻した覚えがない。
「あー……もう、考えるのやーめた!」
途端、何もかもがどうでもよくなった。自分のやらかしを目の当たりにして、何かしようという気力が根こそぎ霧散してしまったのだ。
カノンはそのまま後ろ向きに倒れ床に大の字に寝そべった。
がんばれ、明日のアタシ……もう、今日かもしれないけど。
そんな開き直りを最後に、カノンの意識は急速に闇の中へ落ちていった。 - 70125/06/11(水) 22:48:37
という所で、プロローグの終わりです
もう少しコンパクトに収めるつもりだったのですが……! - 71二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 22:54:12
これからにも期待大
- 72二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 00:10:52
これでプロローグなのか……期待
- 73125/06/12(木) 00:19:39
…ところで
カノンの容姿はあらかじめ決めていたのですが身長は具体的な数字を決めていなくてですね
おおよそ平均前後くらいのイメージ感で書いていましたがせっかくここで書いてるのでダイス振ってみようかな、と思ったので振ります
身長 150+dice1d20=2 (2)
- 74125/06/12(木) 00:29:23
152㎝、小さめ!
イロハ、アオバより1㎝上でアヤネ、セリカより1㎝低い
アリス、ナツとは同じって感じですね
ほんのり意識して描写するかもしれません - 75125/06/12(木) 00:42:18
ここからダイススレになっていく、とかではないので念のため
ストーリーにほぼほぼ影響のないフレーバー的な部分でちょっとだけ振るかもって感じです - 76二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 08:10:17
アヤセリって身長同じなんだ…
- 77125/06/12(木) 11:56:55
「くっさ……」
翌朝、カノンは異様な臭気の中で目を覚ました。物が腐ったような臭い。生き物としての根本的な部分が嫌悪感を示す臭いだ。
カノンは眉間にしわを寄せて起き上がる。床に直に寝たせいで、肩や腰が固まって痛い。
素敵な目覚めだよ、まったく
カノンは不機嫌そうに目を細めると、臭いの出所を探して顔を巡らせ、やがて気が付く。
「アタシか……」
より正確には、彼女が昨日から着たままの服だ。生地に黄ばんだ染みがいくつもできていて、そこから腐臭がする。それは、昨日ダストボックスに飛び込んだ時に出来たものだ。
昨日は鼻が慣れていたおかげで(せいで)気が付かなかったのだ。こんなものを着て歩き回っていたのだと思うと、気が滅入る。
カノンはパーカーとジーンズを脱ぎすて、ごみ袋に放り込もうとして……少し考えてからレジ袋に入れ、口をかたく縛った上で洗い物の山へ投げた。
洗濯すれば、匂いは取れるかもしれないし。
生ごみにまみれた服を着たくはないが、金欠で着替えがたりないのだ。破れるまでは極力手放さずにいたい。
最悪、手段は一つあるが……
カノンはちらりと部屋に備え付けのクローゼットを見て、頭を振った。
できれば、アレは着たくない。カノンは頭の中からその選択肢を追い出した。 - 78125/06/12(木) 11:58:11
下着姿になったカノンを、冬の朝の冷たい空気が撫でる。ぶる、と背筋が震えた。体はすっかり冷え切っている。
「シャワー浴びるかぁ……」
乾いた汗でごわついた髪を撫で、カノンは風呂に向かった。
トイレと風呂がひとつになった、ユニットバス。カノンは狭い浴槽に体を押し込み、蛇口をひねる。水流を指先に当て温度を見計らい、いい具合になったところでシャワーヘッドを頭の上へ持って行く。
やや熱めの湯が、カノンに降りかかる。冷えた体に、温もりがじわじわと染み込んでくる。
「はー……」
カノンは大きく息を吐いた。気持ちがいい。彼女は瞼を細めると、水滴が肌で弾けるぱちぱちという音に耳を澄ませた。雨音を聞くようで、気持ちが落ち着く。
命の洗濯とはよく言ったものだと、カノンは思った。こうしていると、汚れと一緒に疲れまで一緒に流れていくような気がする。そして、くたびれ萎びていた心に再び活力が湧いてくるのを感じた。
まだ、家賃の期日まで間はある。また別のやり方で稼げばいいだけだ。その為に、やるべきことは一つ。
「ハロワ行くか」
カノンはそう呟き、シャンプーのボトルへと手を伸ばした。 - 79二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 18:51:41
ハロワで草
- 80125/06/12(木) 19:35:43
ハロワ。正式にはハローワーク。その名前はキヴォトスにおいて二つの意味を持つ。
一つは、連邦生徒会が運営する雇用サービス機関である。各企業が出しているアルバイト情報の斡旋を主な業務としている。またそれとは別に連邦生徒会が学生向けに委託した仕事も取り扱っている。内容は軍需工場内を徘徊する無人機の排除や、廃墟の探索など、キヴォトスの治安維持に関わってくるものが主だ。そのため報酬は割高であり、成果によっては成績への加点も考慮される。生徒たちの間では特別な依頼として人気が高い。他にも希望すれば履歴書作成や面接対策等のサポートも無料で受けられるため、キヴォトスで金を稼ごうと思ったときはここを頼るのが一番手っ取り早いだろう。ハローワークといえば、基本的にこちらを指すものと考えて問題はない。
もう一つの意味は、ブラックマーケットに存在する、闇バイトの仲介業者の俗称だ。
グレーゾーン、あるいは真っ黒な仕事をしたいが大っぴらに人を集めるわけにはいかない依頼側。どんな仕事でも良いから金が欲しいが、それを探す伝手が無い請負側。その両者の需要に応える形で自然発生したのが彼女たちだ。
彼女たちは一つのまとまった組織ではなく、複数の業者が存在しそれらが個別に活動を行っている。その為望む条件の仕事にありつくには、どの業者を選ぶかが重要になってくる。
シャワーを浴び着替えたカノンが向かったのは、そうした中でも最大手に分類される業者だった。
フードを被ったカノンは、目の前のテナントビルを見上げる。件の業者は、このビルを一棟貸切っているのだ。それだけ儲かっているのか、あるいは“自分たちはこれだけの力がある”という箔付けなのか。
おそらく、後者だろう。ブラックマーケットでは何より舐められないことが大切なのだから。カノンはそう思い、ビルへと足を踏み入れた。 - 81125/06/12(木) 20:33:27
今日明日と忙しくてあまり書けそうになく…
保守代わりにカノンの立ち絵を作ってみました
AI製なのでワンクッション置いておきますね - 82二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 20:34:28
このレスは削除されています
- 83二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 22:30:29
- 84二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 07:34:33
保守
- 85二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 14:26:04
保守だよ
- 86125/06/13(金) 14:58:05
一階のホールは素通りして、フロアを一つ上がる。そこが斡旋所となっている。
横長のデスクと、それを挟んで向かい合うように椅子を置いた“窓口”がいくつも作られており、そこで仕事探しに来たー少女たちが、職員とやり取りをしている姿が見えた。
土埃で汚れた作業着にヘルメットをかぶったやつに、黒のスーツに気取ったサングラスをかけたやつ。あとはこういう場に慣れていなさそうな、野球帽とマスクに白いロングコートのやつ。
カノンは彼女たちを一瞥し、空いている窓口に向かう。
「おや、大須さま。どうでしたァ?”レクリエーション”は」
窓口で暇そうにタブレットを弄っていた職員が、カノンに気付いて声を掛けてきた。
ラフに着崩した制服。後ろで一つに束ねたオレンジの髪に、頭のてっぺんから伸びる狐の耳。フレームレスの眼鏡をかけ、人を食ったような薄笑いを浮かべている。カノンの見知った相手だ。
彼女が口にした“レクリエーション”とは、ここで斡旋される、暴力沙汰が絡む仕事の隠語である。この場合は、先日の銀行強盗の事だ。カノンが唇を尖らせる。
「散々だよ。脚撃たれて囮扱いだ」
「あらあら、それはご愁傷様ァ」
渋い顔をしたカノンを見て、職員は愉快そうに声を上げた。
曲がった性根を隠そうともしない、明け透けとした態度。それはある意味では誠実ともいえる振舞であり、カノンは憎からず思っていた。
カノンは彼女の名を知らない。以前尋ねた時にはぐらかされてそれきりだ。元トリニティ生だとは聞いたが、別の相手にゲヘナ出身だと語る場面に出くわしたことがある。
カノンはそれを「探るな」という意思表示だと受け取った。語る気はない、だから踏み込んでくるな。この職員は言外にそう告げているのだと。以来、カノンは彼女の出自を尋ねるのはやめた。好奇心に殺される猫になるつもりはない。
職員は体の前で指を合わせると、カノンの方へ身を乗り出した。
「それで、ご用件は?」
「新しい仕事。茶でも飲みに来たように見えるか?」
「はは、違いないですねェ。ご希望は?」
「即金、現金払い」
「なァるほど、いつもの」
けら、と笑いながら職員はタブレットをタップする。さして間を置かず、いくつかの仕事がリストアップされた。 - 87二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 19:14:22
なんか癖の強い子が
- 88二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:31:51
★☆
- 89二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 10:28:41
お仕事は大事
- 90125/06/14(土) 10:31:03
「レクリエーションはお好みで?」
「主催がどこかにもよるな」
「では……ミチミチヘルメット団の方からのオファーは如何ですかァ?ハイランダーの現金輸送列車を狙っているようですが」
「……わざとやってんだろ」
「あハ、バレましたか」
職員は悪びれた様子もなく、舌を突き出した。
カノンは無言で顎をしゃくり、続きを促す。
「それからギャング連合様から三件オファーが来てますねェ」
「……あいつらアランチーノがヴァルキューレに引っ張られてガタガタになったって聞いたけど」
「下部の末端の木っ端……くらいの組織の方々からの依頼ですねェ。この機にのし上がりたいとか、積年の恨みを晴らしたいとか、動機はその辺りかと」
「ああ、ガタガタになったからこその依頼って事か」
カノンは少し考えこみ、首を横に振った。 - 91125/06/14(土) 10:34:28
「一旦保留。他にも見せてくれよ」
「かしこまりましたァ」
職員はタブレットをスクロールし、つぎつぎに表示を切り替えていく。
「ブラックマーケットで会合を開くカイザー重役の護衛に、改造銃器の運搬なんてのもありますねェ……おや、限定品のキャラクターグッズを探して欲しい、なんて依頼も」
「なんだそりゃ」
「モモフレンズ、ご存じですかねェ。そのキャラクターに随分入れ込んでる方の様で」
「正気かそいつ?そんなものの為にブラックマーケットに関わるとか」
「そこまでしてでも欲しいって事なんでしょうねェ……後は人探しが何件か。覆面水着団に個人的に“お話”したいって方、それから通り魔の情報提供者を探している方がいますね」
それを聞いたカノンが小さく首を傾げた。
「通り魔って……ニュースでやってたやつだろ。ヴァルキューレの仕事じゃないのか?」
「……ここだけの話ですが」
職員がわざとらしく周囲を見渡し、カノンの方へ顔を寄せて囁く。
「被害者の一人が大き目の不良グループの一員だったそうで……おかげで彼女達、だいぶ沸き立ってるみたいなんですよねェ」
職員は、悪戯を打ち明ける子供の様な笑みを浮かべていた。そうした混乱が、楽しくて仕方がないのだろう。
「私が聞いた所によると────」
職員は赤く艶めく唇を開き、滔々と語り始める。 - 92二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 12:28:15
ヒフミェ……
- 93二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 20:45:26
いやぁードス黒い!
実にブラックマーケットって感じ! - 94125/06/14(土) 21:51:56
────────
1.被害者情報
年齢: 16歳
所属: ミレニアムサイエンススクール2年(現在、一時停学処分中)
その他の関連情報: 不良グループ、亜羅伊庵寿に所属
2 事件概要
発生日時: 事件当日の夜間と推定
発生場所: エンジェル24 第三幹線道路店付近の路地
概要:被害者(以下A)は第一発見者(以下B)は共に亜羅伊庵寿に所属。両者は遊びに出かける予定であった。約束の時間になってもAが現れず、また連絡を取れない事を不審に思ったBはAの住居に向かった所、その道中でうつ伏せに倒れているAを発見した。
3. 被害者の状態
搬送先: 近隣の病院
診断結果: 低体温症の兆候(冬季に長時間放置された影響と推定)。 重度の貧血状態。
備考;Aの首筋には小さな傷があり、何らかの器具等を用いて血液を抜き取られた可能性が高い。
────────────
端末にコピーした資料から顔を上げたキリノは、ホットコーヒーに手を伸ばした。
「精が出るね、キリノ」
オールドファッションに噛り付こうとしたフブキは、その手を止めてにへらと笑った。
「ええ、もしかしたらここに犯人のヒントがあるかもしれませんから!」
力強く答えたキリノは、ホットコーヒーを一口飲んだ。
芳醇な香りと、すっきりとした苦みが冷えた体に沁みる。キリノは瞼を細め、同時に「こんなことしていて良いのでしょうか……」と唇を歪めた。
キリノの顔を見たフブキは無責任に笑う - 95125/06/14(土) 21:53:49
「言ったでしょ?適切に休憩するのも仕事だって。効率よくパトロールするには、糖分補給は大事だよ~」
「そ、そういうものですか……ごめんなさい、私はてっきり寒い中を歩くのが嫌になってさぼろうとしたのかと思って……」
「…………」
「……あの、フブキ?本当に必要な休憩なんですよね?ね?」
笑顔のまま口を噤んだフブキに、キリノは思わず身を乗り出した。
二人が居るのはD.Uに店舗を構えるドーナッツショップである。店構えは小規模ながら、オリジナリティのある商品を出すと、この頃評判の店だった。
「そんなことよりさ」
キリノの追及に、フブキはあまりにも露骨に話題を逸らす。
「そろそろ戻らない?ちょっと根詰めすぎだよ~?」 - 96二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 21:55:08
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- 97125/06/15(日) 00:52:40
二人がパトロールに出て、もう数時間が経とうとしていた。普段であれば、もうとっくにヴァルキューレに帰っているころだ。
その理由は明確だった。昨夜二人で確認した……そしてキリノが端末にコピーして何度も読み返している資料に記載のある、通り魔事件に他ならない。
「あはは、分かっちゃいますか……」
キリノは両手でコーヒーカップを包み、悴んだ指を温めながら、口を開いた。
「……そうですね、これが警備局から降りてきた指示、というのはあるのですが……」
カップが小さく揺れて、コーヒーに波紋が広がる。彼女はそれに目を向け、ひとつひとつ言葉を絞り出す。
「それ以上に、じっとしていられなくて。犯人はまた市民を狙っているかも知れない。私達が努力すれば、それを防げるかもしれない。……そう思ってしまって、落ち着かないんです」
そうしてキリノは、困った様に笑う。それを見たフブキは、天井に顔を向け大きく溜息を吐いた。
その言い方は、ズルじゃん。
「もう一時間……いやー、三十分だけだよ。あと、カイロでも買っていこうか」
「……はい、ありがとうございます」
やれやれとフブキは首を振り、キリノは小さく頭を下げて。
そうして二人は、どちらからともなく席を立った。 - 98二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 09:24:48
キリノは真面目だねぇ
- 99125/06/15(日) 11:25:44
「──と、いう訳で……ちょっとした話題なンですよ。さながら吸血鬼だって」
話はこれで終わり、と告げるように職員は肩の高さで手を広げた。
彼女の話は噂話という体を取ってはいるものの、まるで実際に見てきたか、あるいはヴァルキューレの資料でも読んだかのように具体的な内容にも触れていた。
……そんな情報、どうやって手に入れたんだか。
目の前の女を敵に回さない様にしようと、彼女は内心決意した。
「どうです、大洲さまァ。吸血鬼探しと洒落込んでみるのも?」
カノンの内心を知ってか知らずか、それを悟らせない薄ら笑いで職員が尋ねる。
「やめとくよ。アタシが弁護士か教授なら考えたかもな」
カノンは首を横に振った。
「へェ?それでは大洲さまがご希望の役どころは?」
「三流悪党で良いよ」
カノンは手を伸ばし、タブレットの一点を指差した。指先が示すのは、カイザーグループの重役を護衛する仕事だった。カイザーグループは悪評に事欠かないが、曲がりなりにも大企業である。金払いは悪くない。とにかく金が欲しいカノンにはうってつけだった。
「かしこまりましたァ。ではいつも通り、先方とのやりとりは私が」
「頼む。情報はいつものアドレスに送っておいてくれ」
職員がタブレットを小脇に抱えて立ち上がり、右手をカノンの方へ差し出した。
カノンはその手を取り、握手を交わす。一先ず仕事は見つかった。それだけでも幾分気は軽くなった。 - 100125/06/15(日) 11:27:20
「あァ、そうだ。これも噂話なンですが……」
職員は手を付いないだまま、カノンの耳元に口を寄せて囁く。
「貴女と一緒に銀行を襲った方々……半分はあの夜捕まったそうですよ。囮を用意したのに、ざまァないですねぇ」
「……そっか」
「お気に召していただけたようで。それでは今後とも御贔屓に~」
そうしてカノンは斡旋所を後にした。
仄暗い喜びで吊り上がりそうになる口の端を、何とか押さえつけながら。 - 101二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 19:18:59
おお怖い怖い
- 1021◆iT7WvLBL2aBf25/06/15(日) 19:21:19
トリップ付けました
次の展開の書き出しに少し悩みつつ、もう少し今日の内に進めたいところです。 - 1031◆iT7WvLBL2aBf25/06/15(日) 23:24:41
バスを乗り継いでブラックマーケットからD.U.まで帰ってくる頃には、もう日が暮れていた。冷え込みは一層強くなり、鼻と耳がじくじくと疼く。フードを目深に被り、背中を屈めたカノンは人で賑わう大通りを足早に進んでいた。
寒い。歯の根が勝手に合わなくなって言って、カタカタと鳴る。パーカーとその下のシャツ一枚の防寒効果は、たかが知れている。
家賃を払い終えたら、余った金でコートを買おう。カノンはそう思った。
以前愛用していたものは、先々週銃撃戦に巻き込まれた時にボロ布になってしまった。アウトレットで割安で手に入れた、マナスルのトレンチコート。デザインを気に入っていただけに、あの時は少し泣きそうになった。というか泣いた。
アレ、まだ置いてあるかな。カノンはスマホを取り出し、写真フォルダを開いた。ひび割れた液晶をスクロールして日付を遡っていくと。試着室の鏡の前で、コートを着ている自撮りにたどり着いた。写真の中のカノンは、はにかんだ様な笑みを浮かべている。
似合っていると、店員に散々おだてられたんだっけ。
アパレル店員の常套手段だとわかってはいるけれど、それでも満更でない気持ちになったのをカノンは覚えている。たとえ中身が伴わなくても、肯定されるのは心地が良いのだ。
「See you around, baby!」
鋭い声が響いて、カノンは顔をあげた。声の出所は街頭モニター。画面にはサングラスをかけた俳優が、片手でショットガンを構える姿が映し出されていた。
映画の宣伝だ。低音が重く響く、特徴的なテーマ曲が有名なシリーズである。
「……そうだ、銃」
映像を見上げていたカノンは、ふと思い出したように太腿のホルスターへと手を伸ばした。
空である。いつまでもこのままなのは、恰好付かないよな。カノンはそう思い、地図アプリを立ち上げた。
ルート検索。目的地は、昨夜の廃ビルだ。
表示された所要時間に渋い顔をしながらも、カノンは歩き出した。 - 104二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 08:59:59
⭐︎
- 105二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 09:00:21
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- 1061◆iT7WvLBL2aBf25/06/16(月) 17:58:59
冬の日没は早い。カノンが歩いている間にも日は落ちていき、彼女が目的地に辿りつくころにはすっかり星の輝く夜になっていた。
廃ビルは、昨夜と同じ様に静かに佇んでいた。D.U.郊外という立地故に都心の灯りもここまでは届かず、一際暗い夜の中で、茶色く朽ちた外壁と割れた窓が“いかにも”な雰囲気を醸し出している。
あの窓のどれかから、こちらを見下ろしている誰かがいるかもしれない。ふと、そんな想像がよぎる。
アタシが何気なしに上を見たら、その誰かと目が合うんだ。そいつは血走った眼をぎょろぎょろとさせながらビルを駆け下りて、暗がりに身を潜める。そして何も知らないアタシが入ってくるのを、今か今かと嬉々として待ち構えているんだ……
「──は、バッカじゃねえの……」
そう吐き捨てたカノンの声は、少し震えていた。
スラッシャー映画じゃないんだし、そんなヤベーやついるわけないだろ……
カノンは自分にそう言いきかせつつ、それでもなるべく顔を上げないように意識して、足早にビルのエントランスへ向かった。
ビルの中は外にも増して暗い。カノンはスマホを取り出すと、ライトを灯した。漂う埃に反射して、まっすぐに伸びていく光の軌跡が浮かぶ。彼女は足元を照らし、慎重に奥へと進んでいく。
転がる瓦礫を踏み越え、割れたガラスの欠片を避ける。壁には見覚えのあるポスター。
昨夜の記憶を頼りに進んでいたカノンは、程なくして歩みを止めた。その視線の先、ライトが丸く照らし出すのは、彼女が置き忘れてしまった拳銃だった。
「あった」
そう呟いたカノンは、膝を折ってしゃがみ、拳銃を手に取った。遅い、と抗議しているかの様に、銃身はひんやりと冷たい。彼女は銃を左右に傾け、フレームに歪みや傷が無いことを確かめると、セーフティーをかけて太腿のホルスターへ収めた。
一日ぶりにもどった、数百グラムの荷重がしっくりくる。
やっぱりアタシは、このスタイルだな。
左右の手をそれぞれのホルスターに置いて、カノンは小さく笑った。 - 107二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 23:56:20
⭐︎
- 1081◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 00:16:02
「また来たの?」
「──っ!」
不意に声をかけられて、カノンの肩が跳ねた。
声の主は、昨日の少女だった。慌てて振り向いたカノンの視線の先で、彼女は呆れと不機嫌を半々で混ぜたような表情を浮かべていた。
「……来るな、とは言われてないからな」
また驚かされた事と、少女の物言いに、カノンは少し腹を立てた。
「アタシからすればまだ居るの?って感じだよ」
このビル、別にお前の所有物じゃないだろ?来たことを咎められる筋合いはないぞ。そんな思いを込めてカノンは言った。
「……そう、かも」
言い返されると思っても居なかったのか、少女は困ったように口を噤んだ。ほんの少しだけ、カノンの気分がすっとした。 - 1091◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 00:17:20
その時、不意にカノンのスマホが震えた。
「んぉっ」
小さく声をあげた彼女は画面を確かめる。通知を見ると、ハローワークの職員からのメッセージだった。依頼主であるカイザーとの連絡が付いた旨と、仕事の日時が端的に記されている。
「明日の昼か……」
少し早い気もしたが、懐事情を考えれば寧ろ都合が良いだろう。前向きに考えたカノンはスマホをしまう。
彼女が顔をあげると、少女がこちらに向かって歩み寄って来る所だった。相変わらず瓦礫の転がる暗い床を気に留めた様子もない、軽やかな足取りだ。まるで猫みたいだ。それか、バレリーナ。カノンはつい見惚れた。よほど体幹が強くないと、あれほど身軽には動けないだろう。
(……ん?)
カノンが少女に対し違和感を持ったのは、そのタイミングだった。 - 110二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:26:02
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- 1111◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 00:27:04
(ごめんなさい、ちょっとだけ煮詰まっているので明日一日だけお休みもらいます!)
- 112二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 08:38:37
了解です!待機!
- 113二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 17:32:29
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- 114二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 23:35:31
⭐︎
- 1151◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:35:58
「なあお前、銃は?」
少女が足を止めるのを待って、カノンは尋ねた。先ほどまで暗がりに居たせいで気が付かなったが、少女は銃を持っていなかった。制服には不自然なふくらみも無く、服の下に隠しているということも無さそうだ。
「持ってないよ」
こともなげに少女が答えた。それを聞いたカノンは、ぽかんと口を開けた。こいつマジか、と呻く声が微かに聞こえる。銃を持っていない同世代の相手を、彼女は初めて見た。
「キヴォトスでは銃を持たない生徒より、裸で歩いてる生徒の方が多い」という統計がある。冗談めいたその命題は、翻って銃の存在が社会に深く根付いている事の証明だ。
学校に通っている生徒は当然銃を携行しているし、カノンたちのような生活に困窮する不良生徒も銃を手放すことはない。銃は持っていて当たり前。それどころか、持っていない方がおかしい。それが、キヴォトスの常識だ。
カノンの目の前の少女は、その常識の外にいる。
こいつ、指先が光ったりしないか?
カノンは、まるで宇宙人を目の前にしたような気分になった。 - 1161◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:37:45
「……持ってた方が、良い?」
カノンの態度を見た少女が、おずおずと尋ねる。
恐る恐る声を絞り出す姿は、叱られた小さな子供の様で、今度はカノンが困ってしまう。
「いいっていうか……持ってなくて普段どうしてるんだよ、お前」
「あまり、外に出たことがなくて……困ったことがないの」
「学校は?」
「行ってない」
だろうな、と思ったがカノンは口にしなかった。学校に行っているなら、銃を持っていない者がどういう目で見られるか、わからない筈がない。
……いや、行っていない事を加味してもこの少女の言動は、ズレている。
大丈夫か、コイツ?他人事とはいえカノンは不安になった。キヴォトスの裏社会の住人にとって、この少女は格好の獲物だろう。
(まあ、別にアタシの知った事じゃないけど……)
この少女が騙された所でカノンには関係ない。
後ろ盾のない若い生徒が裏社会でどんな目に合うか、カノンは知らないし知る気も無い。想像するだけ悪趣味だろう。
でも、そうなるのは自己責任だ。騙される方が悪い。カノンが生きているのは、そういう場所だ。
(……けど)
ずきん、と先日撃たれた脚が疼く。
どんな末路が待っているにしても、騙されて利用されるのは、痛いのだ。
カノンはそれを知っている。身をもって体験している。
(……痛いのは、嫌だよな)
カノンは深く息を吸い、長く吐く。そして太腿のホルスターに手を伸ばし、留め具を外して、少女の方に差し出した。 - 1171◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:38:48
「……何?」
「貸すよ」
少女は戸惑ったように目を瞬かせた。カノンは壁に背を預け、ほんの少し顔を傾けながらホルスターを小さく揺らした。
「でも、あなたの分が……」
「いいよ、もう一個ある」
カノンは腰元を手で示し、続けざまに口を開く。
「とりあえず、つけておけよ。それで変な目で見られることはないからさ」
「……本当に良いの?」
少女はホルスターとカノンの顔を交互に見て、ためらいがちに手を伸ばす
「……あ、別にやる訳じゃないぞ、貸すだけな。ちゃんと自分の分を用意して返せよ?」
「……わかった」
少女は少し考え、それから一つ頷いてホルスターを受け取った。
「ありがとう、えっと……」
「カノン。そっちは?」
「エリ」
少女……エリは微笑した。どきり、とカノンの胸が鳴る。同性なのに、思わず引き付けられるものがある笑顔だった。ただ可愛いというだけではなく、オーラだとか気品だとか、そういうものを感じさせる。 - 1181◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:40:22
「……アタシ、明日もバイトだからそろそろ帰るけどさ。また様子見に来るよ」
べり、と音がしそう。そんな気持ちでエリの顔から視線を反らしたカノンは、やや早口で言った。
「そっか。……うん。“来るな”とは言わない」
「なんだよ、根に持ってるのか?」
カノンは思わず苦笑した。そのまま壁から背を浮かせ、ゆっくりと歩き出す。
「またな」
「うん、またね」
少し、押しつけがましかったかな。エリに背を向けたカノンは、頬が微かに熱を持つのを感じた。
結局銃は回収できずじまいという結果にはなったものの……そう、悪い気分ではなかった。 - 1191◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:42:40
詰まっていた部分が書けたので、今日の内に投げます
- 1201◆iT7WvLBL2aBf25/06/17(火) 23:45:15
この後登場予定のキャラのエミュに頭を悩ませつつ、おやすみなさい
- 121二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 08:54:39
日付変わってもうてるやん
- 122二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 14:17:03
ゆっくり待ってます
- 1231◆iT7WvLBL2aBf25/06/18(水) 21:47:14
今晩進捗駄目です、ごめんさーい!!
- 124二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 23:31:11
おまちしてますー
- 125二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:30:13
⭐︎
- 126二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 17:51:48
ええんやで
- 127二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 18:13:29
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- 1281◆iT7WvLBL2aBf25/06/19(木) 23:21:09
帰宅しました……
保守ありがとうございます…… - 1291◆iT7WvLBL2aBf25/06/19(木) 23:53:59
廃ビルから離れる。街の喧騒が帰ってくる。
カノンの足取りは軽い。くたびれたサラリーマンを追い越して、固まって歩く学生を追い越して、鼻歌が漏れる。
仕事は見つかった。ムカつくやつらは、痛い目を見た。
それに……「ありがとう」だってさ。
廃ビルで交わした言葉が、カノンの中で響く。真っ当にお礼を言われたのは、いつぶりだろうか。たった一言。それだけなのに気持ちが浮つく。
今、多分ニヤけてる。キモいぞ、アタシ
「ほんと、チョロいなぁ……!」
自嘲の為に呟いてみた言葉にも、楽し気な色が混じってしまう。どうしようもなくなったカノンは空を仰いだ。
月が見えた。半月より少し円に近づいた月。まだスーパーには遠い、でも着実に近づいていってる、普通ムーン。
毎夜、空を見上げる連中の気持ちが、カノンは少しだけ分かった。
明日が楽しみって、こんな気分だったんだな。 - 1301◆iT7WvLBL2aBf25/06/19(木) 23:57:47
──
────
ビルの屋上にあがり、空を見上げる。
昨日より、また少しだけ丸くなった月。願っても止まらない変化。
囁く声が聞こえる。ここではない何処か、知らない誰かの声が“そう”あることを願っている。
お腹が空いた。そろそろ、我慢も限界だ。 - 131二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 00:22:00
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- 1321◆iT7WvLBL2aBf25/06/20(金) 00:24:20
少ないですが今夜はここまでです
週末に進捗の帳尻を合わせること目標に進めていきます - 133二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 07:13:06
無理はしないでね
- 134二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 17:04:46
⭐︎
- 135二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 23:19:51
ゆっくりまってます〜
- 1361◆iT7WvLBL2aBf25/06/21(土) 02:37:07
──
────
「──今日の運勢最下位は、牡牛座のあなた!思いがけない再会で、予期せぬハプニングに巻き込まれるかも!」
「幸先悪いなぁ……!」
翌日の朝。街頭モニターを流れる星座占いの結果に、カノンは毒づいた。仕事に備え、早めに現地入りしておこうと思い立ったら、これである。
思いがけず大きな声が出てしまったが、早朝のバスターミナルは誰も彼も慌しく動き回っている為か誰も気に留めた様子は無かった。
目当ての停留所を目指す人々の往来は、まるで幾筋にも分かれた川のよう。カノンもそこに飛び込んでいく。流れ着く先はスーツを着たモニター頭のロボットの集団だった。彼らは皆、太陽を思わせる社章を襟元に付けている。
それが実際は、王冠を被った蛸が四方に腕を伸ばす様を図案化したものだということを、カノンは知っていた。
カイザーインダストリー。キヴォトスでも最大手の企業群であるカイザーグループ、その一翼を担う、重工系企業である。彼らはキヴォトスで流通する銃器の多くを製造する一方で、所持が禁止されている大量破壊兵器を製造しているなどと、後ろ暗い噂に事欠かない。
そうした噂がささやかれ続けるのは、カイザーインダストリー……というより、カイザーグループならばやりかねないという認識が市民の間に根付いているからだろう。
彼らは自身の利益を最優先とする。それが利益につながるならば、善悪を問わずあらゆる事業に腕を伸ばす。さながら、貪欲な蛸。彼らの社章は、そんな精神性を端的に指名している。
そんな悪名高き企業の重役が、ブラックマーケットで開かれる会合に参加する。それを護衛するのが、今日のカノンの仕事だった。 - 1371◆iT7WvLBL2aBf25/06/21(土) 02:38:11
停留所に新たに一台のバスがやって来て、扉を開けた。周囲のスーツたちはのろのろとした足取りで乗り込んでいく。カノンもその後に続いた。
列の先頭に位置づけられていたおかげで、彼女は座席に座ることができた。窓際の席だ。カノンは頭を窓に預け、ぼんやりと外を眺める。
空は青く澄んでいるが、一方で雲の流れは速い。見る間に押し流されていって、千切れて、空に薄く広がっていく。空の上では、強い風が吹いているだろう。今日も寒くなりそうだと、カノンは思った。
「ふぁ……」
不意に込み上げた欠伸を、カノンは噛み殺す。
強めに効いた暖房のせいで、眠気が込み上げてくる。らしくもなく、早起きをしたせいだ。
“早起きは三文の徳“とはいうが、星座占いの事を思えば、現状ぎりぎり損が勝っている。どこかで帳尻が合って欲しいものだ。
うつらうつらと舟をこぎながら、カノンはぼんやりと思った。 - 1381◆iT7WvLBL2aBf25/06/21(土) 03:03:57
窓のない部屋があった。
壁に無数に設置されたモニターの青白い光と、天井を走るパイプに吊るされたライトの頼りなさげな光が、この部屋の光源だった。
「──今日の運勢最下位は、牡牛座のあなた!思いがけない再会で、予期せぬハプニングに巻き込まれるかも!」
薄暗い部屋に、明るい声が響く。モニターの一つが、星座占いを映し出していた。ニュース番組のワンコーナーとして、休日以外毎日放送されているものだ。
それを、真剣な眼差しで見つめる人影があった。
白い少女だった。髪も、肌も、服も、あるいはその精神性や声すら一点の穢れも無いかと思わせるほどに、白づくめである。彼女が雪原に出れば、周囲の景色がくすんでしまうのではないか。そんな事すら頭を過る。しかし、それを実現するのが難しい事は傍目に明らかだった。彼女が、車椅子に乗っているからだ。その車椅子は華美に走らず、しかし無骨でもない、工学的デザインと芸術性を絶妙な塩梅で両立させていた。足掛けに、控えめに置かれた細く痩せた脚を見れば、立ち上がるのも難しそうなことが伺える。 - 139二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 11:31:23
⭐︎★⭐︎
- 140二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 16:13:46
- 141二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 00:17:33
保守★
- 1421◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:11:16
白い少女……明星ヒマリは、細い指でモニターをなぞり物憂げに瞼を伏せた。彫刻のように整った横顔を、白く輝く髪が斜めに隠す。
──ああ、こんなささやかな仕草すら儚さという魅力に変えてしまう私……
ヒマリは自身のあまりの美少女ぶりに、静かに慄いた
「部長」
そんなヒマリの横面に、うんざりとした声が投げかけられた。
声の主は、半脱ぎの領域までジャケットと制服を着崩した少女だった。季節を間違えたかのように、惜しげもなく晒されたが眩しい。
「そろそろ教えて欲しいな、私を呼び出した理由」
少女……和泉元エイミは、腰に手を当てて、じとりとした視線をヒマリへ向ける。桃の長い三つ編みが、彼女の身動ぎに合わせて揺れた。
「答えを急ぐものではありませんよ、エイミ」
ヒマリは、かぶりを振って溜息をひとつ吐く。そして車椅子に備え付けられたボタンをいくつか押下した。ごく小さな駆動音と共に車椅子の車輪が回り、ヒマリの身体をエイミの方へと向き合わせる。 - 1431◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:12:24
「ときに、エイミは五月生まれの牡牛座でしたね」
「そうだね」
「色は良いとして……リストバンドはあったでしょうか」
ラッキーアイテムはリストバンド、ラッキーカラーはピンク。ヒマリが見ていた占いで「牡牛座のあなたに!」と言及されていたことだ。
ヒマリはゆったりと部屋の中を見渡す。
その姿を見たエイミは、目を細めて口を開いた。
「部長」
ヒマリを咎めるように、さっきより少しだけ大きくなった声。それはエイミが占いに意味を見出していない事の裏返しだ。
──キヴォトスの人を、たった十二のグループにして割り振った運勢に、意味なんてある?
彼女は、そう考える。
ヒマリは部屋を見渡すのをやめて、拗ねたように顎を突き出した。
「大切な後輩を想った、春風のようにやわらかで暖かい心遣いなのですが!」
「私のためってこと?」
「ええ、なにしろ……エイミ、これからあなたに一つ調査をお願いするので」
こほん、と咳ばらいをして、ヒマリは真剣みのある表情を作る。
それを見たエイミは無意識に背筋を伸ばした。 - 1441◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:14:30
「エイミ、貴女は吸血鬼についてどれくらい知っていますか?」
「吸血鬼……?」
突飛もない質問だと思いながらも、エイミは考えを巡らせる。
「ドラキュラ、血を吸う、夜に活動する。十字架や聖水が苦手な、フィクションの怪物……」
連想ゲーム。頭に浮かんだ単語を、エイミは順番に口にしていく。
それを聞いたヒマリは、満足げに頷いた。
「それだけわかっていれば結構です。……それでは、次の質問。“満月の夜に、吸血鬼が現れる”という噂を耳にしたことは?」
それを聞いたエイミは腕を組んだ。返事は無く、変わりに首を横に振る。
「では、そこからですね」
ヒマリは人差し指を立てると、空中を一直線に撫でる。すると、その動作に合わせて部屋に並ぶモニターが一斉に表示を切り替えた。
「……なにこれ、モモッター?」
モニターの画面の一つに目を向けたエイミが、疑問を発した。
そこに写っているUIはモモッター……キヴォトスで最もメジャーなSNSのものだった。
他のモニターにも目を向ける。モニターによって映し出されている内容は変わっていた。例えばエイミの右手側のモニターは、ネットのとある匿名掲示板を映している。その向かいのモニターに表示されているのは、また別の掲示板。
それらを見ていくうちに、彼女は何かに気が付いたように目を丸くした。
「あ、これ……」 - 145二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:24:17
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- 1461◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:32:11
「はい、その通り」
ヒマリは口元を綻ばせ、言葉を続ける。
「これらはいずれも、件の噂について触れた書き込みを抜粋したものです」
「多いね」
「これだけキヴォトスに広がっている、という参考にどうぞ」
そう言われて、エイミは改めて書き込みの内容に目を通す。
“吸血鬼に攫われ、行方不明になった生徒がいる”だとか“長く生きた蝙蝠が、満月の夜に返信する”だとか、時折尾鰭が付いている事もあるが、大筋は基本的にすべて同じ……“満月の夜に、吸血鬼が現れる”というものだった。
「そして、これらの書き込みは、今月に入ってから数を増やしています」
エイミが読み終わるタイミングを見計らって、ヒマリは口を開いた。
「それ以前は?」
「ほぼありませんね」
淀みない返答は、既に下調べを済ませている証左だ。
それを聞いたエイミはふむ、と眉根を寄せた。
「じゃあ、急に流行りだしたってことだね。いったい何が……あ」
思い当たる節は、すぐに浮かんだ。
──なにしろ、ここしばらくのキヴォトスは、その話題で持ちきりだったのだから。 - 147二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:37:27
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- 1481◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:40:04
「もしかして、スーパームーン?」
「察しの良さは貴女の美徳ですね、エイミ」
ヒマリは、慈しむように瞼を細めた。
「誰かが、スーパームーンのニュースを見た。それに刺激を受けた、その誰かは以前から知っていた……あるいは新しく自分が作った吸血鬼のお話をネットに放流した。この噂の出発点はそんなところでしょう」
「クリーピーパスタってやつだね」
なるほど、とエイミはうなずく。その一方で、彼女の中に新たな疑問が芽生えていた。
だから、彼女はそれを口にする。そうすることが、効率的だから。
「ねえ、部長」
「なんでしょう、エイミ」
「だから、何?」
冷淡な様で、至極当然の疑問だった。
キヴォトスで、噂話が流行っている。それはどうやらスーパームーンを契機に広がったらしい。それは良い。
だがそれがなぜ、調査という話に行きつくのだろうか。
エイミは、その理由を見いだせないでいた。 - 1491◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 01:41:14
(コピペミスを二度やらかした時の顔)
- 1501◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 11:35:42
その質問をあらかじめ予期していたかのように、ヒマリは微笑んだ。
「ええ。これだけならば、時流に乗ったただの噂話です。なのでもう一点、情報を付け加えましょう」
そういって彼女は、書類の束をエイミに差し出した。
「ヴァルキューレの、捜査資料……?」
書類の表紙を一瞥したエイミは「こんなのどうやって手に入れたの?」と尋ねようとして、その言葉を飲んだ。
彼女の目の前に居るのは、史上三人しか持たない最高学位「全知」を持つ、学園随一の天才ハッカーだ。不可能を可能にするくらい、やってのけるだろう。
……それに、書類を渡すときのヒマリは、お手本のようなしたり顔をしていた。この状態の彼女に質問をすると、ながいながい自己肯定の演説が始まることを、エイミは経験則上よく知っていた。
数秒、沈黙が流れる。
「……それらは、最近D.U.を中心に起きている通り魔事件についてまとめたものです」
エイミからの質問が無かったことに少し肩を落としながら、ヒマリが口を開いた。
「内容は後程精読してもらうとして……特筆すべきは、被害者が血を抜かれているという事です」
「それって……」
「吸血鬼のようでしょう?」
なるほど、とエイミはうなずいた。頭の中で少しずつ情報が繋がって来た。 - 1511◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 12:33:25
噂……都市伝説。そしてその内容を模倣するように起きる事件。
エイミの頭を過ったのは、海の底から来る、ビルの様に巨大なマスコットキャラクターだった。
輸送船と共に沈んだキャラクターグッズがあった。そんな噂を発端に生まれた、実体を持つ災害。過去にキヴォトスを襲った、その名は……
「ペロロジラ……」
「本当に察しが早い。この私の後輩なだけはありますね」
エイミの呟きを聞いたヒマリは、優秀な後輩の姿に束の間微笑み、それから真剣な表情を作った。
「エイミ。私はこの事件を、ペロロジラと同種の事象ではないかと危惧しています」
ヒマリの声色にふざけた様子は無い。それは彼女の言葉が、熟慮の上で出された結論という裏付けだった。
「直近では百鬼夜行連合学院で、似た事象が起きたそうです。あちらは何らかの外的要因が加わった結果によるものだと聞いていますが……」
物語が実体を持ち人に害を成すという、尋常ならざる出来事……特異現象。それはキヴォトスにおいて確かに起こりうる脅威だ。
エイミは、改めて自分が所属する部活動の名を思い出していた。
特異現象捜査部。
科学では証明し難い出来事を調査し、必要ならば対策を講じる事を理念とする、ビッグシスター傘下の特務組織。
──そのために、私はここに居る。
エイミは深く息を吸い、少し留めてから吐いた。
とはいえ、だ。 - 1521◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 14:59:19
「……結論が性急じゃない?」
ヒマリの話を聞いて、エイミが受けた印象だ。
過去にそういう事象があったからといって、今回もそうとは限らない。例えば、噂話にかこつけた模倣犯という可能性もあるだろう。
「ですから、調査をお願いしたいのです」
エイミの言葉を受けて、ヒマリは頷いた。
そういえば、元々はそういう話だったな、とエイミは思い出した。
「その結果、悪趣味な模倣犯の仕業であったのならばそれはそれでよし。ヴァルキューレに匿名で情報を送り付けて、後は任せてしまいましょう」
寧ろそういうオチであれば話は早いのですが、とヒマリは呟いた。 - 1531◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 15:01:37
「しかしそうでないならば……私達の仕事です。場合によってはシャーレに協力を求めることになるでしょう」
「わかった。どこから調べればいい?」
「ひとまず、事件の起きた現場を当たってください。他に聞きたいことは?」
エイミは少し考えこみ、それから首を横に振った。
「ふふ、それではよろしくお願いしますね」
「わかった、任せて」
「ああ、待った。最後に一つだけ」
踵を返したエイミを、ヒマリが呼び止める。
何?とエイミは肩越しに振り返る
「リストバンド、見かけたらつけてくださいね」
「……」
また言ってる、とエイミはあきれ顔をした。
占いなんて、意味無いのに。
彼女は答えることなく、部屋を後にした。 - 154二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:43:02
⭐︎
- 1551◆iT7WvLBL2aBf25/06/22(日) 23:48:49
──
────
占いとは、案外馬鹿にならないものかもしれない。
コンビニで買ったサンドイッチとお茶の入った袋を片手に、カノンは思った。
「おはようございます、カノンさん!」
彼女の目の前には、にこにこと明朗な笑顔を浮かべたキリノと、そこから一歩下がった位置で興味深そうな目をしたフブキが居た。
──思いがけない再会で、予期せぬハプニングに巻き込まれるかも!
カノンの頭の中で、バスターミナルで見た占いがリフレインする。
「このことかぁ……」
「はい?」
思わずぼやいたカノンに、キリノは目を瞬かせた。
数分前。カイザーインダストリー最寄りの停留所でバスを降りたカノンは小腹が空いたのを感じていた。今日の依頼は護衛だ。場合によっては戦闘に発展する場合もある。
──そうなったときに「腹が減って力が出ない」は笑えないな。
そう思ったカノンは目についたコンビニに入ってハムレタスのサンドイッチと麦茶のペットボトルを買った。サンドイッチは目についた中で一番安いもの、飲み物は口の中がべたつかない無糖のものという基準での選択である。
そして会計を済ませて、コンビニを出た所でパトロール中のキリノと目が合った。
カノンが「あ」と声を漏らしたのが先か、キリノがカノンの元へ駆け寄ってきたのが先か……そうして現在に至る。 - 1561◆iT7WvLBL2aBf25/06/23(月) 00:17:16
「ん~、何?キリノの知り合い?」
キリノとカノンの顔を交互に見ながら、フブキが尋ねる。
「はい!こちらカノンさん、中学の頃の同級生なんです」
「あ~そういう感じ。合歓垣フブキ。よろしくね~」
「……どーも」
フブキは普段通りの気楽そのものな声でカノンに向けて手を振った。
カノンは、目線を下に向けて、ぼそりと答えた。正直、気が気ではなかった。
──あの時、ヘルメットは外さなかったと思うけど。
強盗の件である。あの時同じ現場にいたことを、キリノは気付いているのだろうか。カノンはそれを確かめずにはいられない。 - 157二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 00:18:22
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- 158二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 09:49:59
⭐︎
- 159二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 19:28:27
保守
- 160二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:11:30
早朝落ち防止保守
- 1611◆iT7WvLBL2aBf25/06/24(火) 08:02:52
体を壊しました……
続きは少しお待ちください - 162二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 12:52:22
どうかお自愛ください。
ゆっくりお待ちしてます! - 163二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 22:30:53
⭐︎
- 1641◆iT7WvLBL2aBf25/06/25(水) 00:05:32
「なあ」
「はい?」
「一昨日、あったじゃん。ほら、あの……」
「一昨日……?あ、もしかして銀行強盗ですか?」
「そうそれ。……あー、あの時たまたま近くでバイトしててさ。見てたよ、キリノが来てたの」
「おや、そうだったのですか?」
嘘はついていない。どこから見たかを伏せているだけだ。
カノンは努めて平静を保ちながら、言葉を続ける。
「うん、あー……カッコよかった」
「……えへへ、見られていましたか
キリノはふにゃりと相好を崩した。
──しかし、咄嗟に口をついてでたとはいえ「カッコいい」とは。
いったいどの口が言うのだと自分のことながらカノンは呆れた。
「で、その後どうなの?犯人とか……」
「……守秘義務があるので詳しくお伝えすることはできないのですが、目下解決に向けて鋭意捜査中です!ご安心ください!」
そう答えるキリノは、鼻の穴が小さくひくひくとしている。
ものすごく言いたいこと……それも良い事があるにも関わらず、黙っていなければいけなくて、必死に押さえつけている、そんな様子だ。
カノンはそれを見て、二つ確信を得た。 - 1651◆iT7WvLBL2aBf25/06/25(水) 00:07:03
まず一つ目。あの日逃げたヘルメット団を捕まえたのはキリノだ。
そして二つ目。カノンが犯人だとバレていない。
キリノの性格ならば、カノンが犯人だと知っていたらここまでの会話の中で絶対に態度に出る。そうした兆候が見られないならば、カノンは犯人だと気付かれていない。逆説的な結論だ。
もう一人はどんな感じだろうか?カノンはフブキの事を横目で伺い……拍子抜けした。
フブキはこちらを見ていない。その顔の向きからして、おそらくドーナッツショップの看板を見ている。
──大丈夫か、ヴァルキューレ……
他人事ながら、カノンは少し不安になった。 - 1661◆iT7WvLBL2aBf25/06/25(水) 00:08:03
「でも、嬉しいです。カノンさんがちゃんとバイトをされているなんて」
「あー……」
「学校の方はどうですか?復学もされていたり……?」
「……それは、まあ。ボチボチ」
墓穴を掘ったと、カノンは後悔した。
腹の中身が全部石に変わったみたいに、気持ちが沈む。
「……悪い、この後バイトなんだ。そろそろ行かないと」
「そうでした!引き留めてしまってごめんなさい」
「いや、大丈夫。もう行くよ」
カノンはキリノの返事を待たず、歩き出す。早くこの場を離れたかった。
「バイト、頑張ってくださいね!」
ちらと後ろを振り向くと、キリノはまっすぐ立って彼女を見送っていた。
──ほんと“いいやつ”だ。
カノンは、キリノのこういう所が昔から苦手だった。 - 1671◆iT7WvLBL2aBf25/06/25(水) 00:10:21
少しですが書けた分を投稿しておきます
- 168二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:23:07
苦しくなっちゃう
- 169二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 18:21:39
苦手でも嫌いじゃなさそう
- 1701◆iT7WvLBL2aBf25/06/26(木) 00:16:58
キリノと別れて暫く歩いたカノンの目に、オフィス街の中でも一際大きいビルが見えてきた。周囲を威圧し、自分を誇示するようにそびえるそれは、カイザーインダストリーの本社ビルである。
カノンはそれを横目に見ながら通り過ぎた。彼女は尚も歩みを進め、そこから路地を三つ超えて、そこにあるテナントビルに入った。
エントランスにはスーツを着た、顔がモニターになったロボットが立っていた。
「おや、何かご用でしょうか?」
彼はカノンを見ると、顔のモニターを光らせ愛想よく尋ねる。
「こんにちは」
カノンはフードを外すと、ロボットに向けて声をかけた。
「それから?」
勝手知ったるように、ロボットが答える。
「また会う為に、ありがとう、さようなら、またいずれ」
カノンもまたそれに答える。彼女の言葉を聞いたロボットは、エントランスの奥を手で示した。
「どうぞ。階段手前の部屋が待合室となっております」
カノンは小さく頭を下げると、ロボットの横を通り抜けた。
ロボットに言われた通り、階段の手前に扉が一つあった。カノンは迷わず手を伸ばし、それを開く。 - 1711◆iT7WvLBL2aBf25/06/26(木) 00:18:20
扉の先は、小さな会議室だった。部屋の中心に大きなデスクが設置され、それをぐるりと囲む様に椅子が並べられている。壁際には、移動式のホワイトボード。
カノンの他に先客が数名いて、彼女たちは部屋に入ってきたカノンに一斉に視線を向けた。
椅子に座り談笑をしていたセーラー服姿の二人組。そこから少し離れて、壁にもたれていた黒いフルフェイスヘルメットをかぶったのが一人。床にどっかりと胡坐をかいた、ヘルメットにつなぎ姿のが一人。
これが今日一緒に仕事をする連中か、とカノンは彼女達を見渡して思った。
このビルは、今日仕事をする上で指定された集合場所だ。カノンたちはここから出発し“偶然”カイザーインダストリー重役と合流し、ブラックマーケットを目指すことになっている。
何かあった時に、当の重役がしらを切りとおす為の小細工である。 - 1721◆iT7WvLBL2aBf25/06/26(木) 00:19:32
体調、多少良くなってきたので少しずつペース上げていきたいです
- 173二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 08:45:19
- 174二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 18:34:52
時間あぶね
- 1751◆iT7WvLBL2aBf25/06/26(木) 23:29:29
『我々は、ブラックマーケットで人を雇うような真似はしない。したがって護衛の様に振舞う少女たちは偶然そう見えるだけである』
そういう、外部に向けた建前である。
その建前が社会的にどれだけの意味を持つかを、カノンは知らない。彼女の興味は、約束通りに報酬が支払われるかという事だけだ。
「皆様おそろいになられましたね」
不意に、カノンたちに声が掛かる。声の主はエントランスに居たロボットだ。彼は大股でホワイトボードに歩み寄ると、カノンたちに頭を向ける。
「それでは本日のスケジュールについてご説明いたします。今日見聞きすることはすべて他言無用ですので、そのつもりでお願いします」
ロボットは一礼して語り始めた。部屋の中にいた少女たちが、そちらに視線を向ける。カノンもまたロボットの方へと向き直り、彼の話に耳を傾けた。 - 1761◆iT7WvLBL2aBf25/06/27(金) 00:02:45
──
──── - 1771◆iT7WvLBL2aBf25/06/27(金) 00:03:47
「ねー、キリノ。さっきの子のことなんだけどさ」
「さっきの……カノンさんの事ですか?」
「そうそう。あの子、中学校の時の知り合いなんでしょ。にしては……うーん……」
「……?」
「ごめん、やっぱやめた」
「ちょ、なんですか!」
「んー、ちょっと踏み込んだこと聞きそうだったからさ。忘れて」
「そういわれると逆に気になりますよ!?」
「やー、ごめんごめん。あ、限定品のドーナッツだって。ちょっと見ていかない?」
「フブキ!?誤魔化されませんよ、フブキー!」
二人組の賑やかなヴァルキューレ生が、前から来る。エイミは僅かに身を避けて、二人とすれ違った。
そこに、ヒマリからの通信が入った。
「どうです、エイミ。何か変わった事でも」
エイミは溜息を一つ吐いた。
「まだ向かってる途中だよ」
彼女が居るのはD.U.のオフィス街だ。多くの企業が軒を連ねるキヴォトスの経済の中心である。
彼女が調査を任された通り魔事件もこの区域で起きていた。