- 11◆ZEeB1LlpgE25/10/14(火) 21:36:30
安価で出たオリキャラたちが戦っている様子をAIが短編小説化してそれを楽しむスレです。
不定期進行な上AI生成の都合上納得のいかない結果になることもあります。
下にあるまとめは歴代試合や設定に生かせそうな世界観などいろいろ載ってますのでぜひ活用してください
まとめ↓
オリキャラAIバトルスレ・アカシックレコード | WriteningオリキャラAIバトルスレのページやリンクをギュギュっと一つにまとめたページです。 このページの編集コードは「aiai」です。 新しいページやスレが作られた時は追加していっていただけると助かります キャ…writening.net※版権キャラはそのままでは出さないでください
※閲覧注意が必要になるキャラは禁止です
※相手が能動的に突ける弱点を必ずつけてください。
※AIの生成によるインフレは仕方ないですがそうでない限り勝てないほど強くするのはやめてください。
※スレ内で死んだキャラはifルート以外では復活しません。命には非常にシビアです。
※ここに出たキャラクターは基本スレ内でのみフリー素材です。要望があるなら必ず設定と一緒に記載してください。
※コテハンを本スレでつけていいのはスレ主のみです。
- 2二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:39:23
建て乙です
- 31◆ZEeB1LlpgE25/10/14(火) 21:40:42
保守お願いします
対戦表
ノリン・ルーフvsムテキ・スギル
山崎 戟vs凶刃
一ノ積 第一vsビスケット・ラ・ヴァレー
輿湖 白愛vs早々 囃
先刻承知vsワンズワンワン - 4二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:42:12
対戦表だ!
- 5二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:01
保守
- 6二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:17
6
- 7二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:30
7
- 8二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:42
8
- 9二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:56
9
- 10二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:44:06
10
- 11二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:48:07
立て乙です!試合楽しみー
- 12二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:51:56
たておつです!
- 13二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 01:56:33
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 06:53:22
楽しみ!
- 15二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 12:04:47
今回はどんな対戦が見られるかな
- 16二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 18:48:28
ほす
- 17二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 23:07:59
保守
- 18二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 06:28:51
このレスは削除されています
- 19二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 12:19:38
ほしゅ
- 201◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:02:22
題名『恥と誇りの防衛戦線』
- 211◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:03:29
夕陽が傾きかけた廃れた演習場。
その中央に、二人の影が立っていた。
片方は制服の裾を少し汚しながら、欠伸をかみ殺すように立っている少女。
その指には、緻密な魔法刻印が施された銀の指輪。
ノリン・ルーフ。
ルーフ家の天才召喚師にして、“魔術理論を寝ながら理解した女”の異名を持つ少女だ。
対するは、スーツ姿の男。だがスーツのボタンは二つ外れ、靴の片方は泥まみれ。
額には妙な自信の汗。
彼の名は──ムテキ・スギル。
「えっと……あなたが今日の、対戦相手さん?」
ノリンが片手をひらひら振りながら問いかける。
「うむ。ムテキ・スギルだ。お嬢ちゃん、今日は運が悪かったな。俺は戦えば戦うほど“無敵”になる。」
男は胸を張る。
どこか誇らしげに、そして少し恥ずかしげに。
ノリンは首を傾げた。
「無敵って……それ、能力の話?」
「そうだ。俺の能力──無敵の人(パーソナル・オープン)。説明しよう!」 - 221◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:05:13
スギルは突然、マイクもないのに演説のように声を張った。
ノリンは「わぁ……ノリが強い人だ」と呟く。
「俺は! 自分の個人情報を開示すればするほど強くなるッ!!」
「……へぇ」
「今、名前を言った時点で少し強くなったッ!」
「ふむ……なるほど」
「続けるぞッ! 俺の身長は──178センチッ!」
バチッ、と彼の足元から青白い光が走る。
わずかに筋肉が引き締まり、オーラの圧が上がった。
ノリンは目を瞬かせる。
「……あ、本当に強くなってる」
「そうだッ! 体重は69キロ! 高校時代、剣道部だったッ! 大会で一回戦負けしたけど努力はしてたッ!」
次々と自己情報をぶちまけながら、スギルの体に光が走る。
筋肉は硬質化し、瞳は鋭さを増していく。
だがノリンの目はどこか冷めていた。 - 231◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:06:11
「……すごいですね、えっと、自己開示型……?」
「そうだ! まだまだいくぞ!」
スギルは拳を構え、真っ直ぐノリンを指差す。
「俺の血液型はB! 好きな食べ物はカツ丼! 嫌いな食べ物はナス! 元カノは3人ッ!!!」
ノリン:「………………」
「…………あ、はい。」
周囲に衝撃波が走る。砂埃が舞い、地面が裂ける。
スギルの身体は目に見えて強化されていた。
「これでまだ4割の開示だッ!」
ノリンは半目で見つめたまま、軽く肩をすくめる。
「ふーん。じゃあ、ちょっと試してみますね」
彼女は指輪に触れ、小さく詠唱を始めた。
「――来い、“いま必要な子”。」
空気が歪む。魔法陣が足元に展開する。
その中心から、小型の火トカゲのような従魔がひょこっと顔を出した。 - 241◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:06:44
「え……小さい……?」
スギルが思わず言う。
ノリンはのんびり笑う。
「だって、まだ“試し”ですもん。これくらいでいいですよ」
火トカゲがノリンの合図で小さく火球を吐いた。
スギルはそれを避けようとしたが、彼女はあえて小声で呟く。
「目標:彼のベルト」
ポン、と音を立てて火球が弾け、スギルのベルトが黒焦げに。
ズルリ、とスーツのズボンが腰から落ちた。
「うおおお!?!?!?」
彼の顔が真っ赤に染まる。
ノリン:「あ、ごめんなさい。狙いがずれちゃって」
「……な、なんてことを! だがッ、これも好機ッ!」
スギルは拳を握る。
まさかのタイミングで再び叫ぶ。
「俺の……下着の色はグレーだッ!!!」 - 251◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:07:24
瞬間、彼の全身が青白く輝いた。
魔力の波動が数倍に跳ね上がる。
「ちょ、ちょっと!? 開示の内容、そんなのまでいいんですか!?」
「いいんだッ! 恥ずかしければ恥ずかしいほど強くなるッ!!」
スギルの声が雷鳴のように響いた。
地面が割れ、オーラが天を突く。
ノリンは呆れたように口を尖らせる。
「……変態の域に入りましたね」
「違うッ! 無敵の人だッ!!!」
ノリンは軽くため息をつき、指輪を撫でた。
「じゃあ……もうちょっと本気、出します」
空間が震える。
廃墟の地面が割れ、そこから巨大な黒い影がゆっくりと現れた。
三つ首の獣。翼を持ち、炎と氷を吐く。
神話級従魔──“双極のケルベロス”。 - 261◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:07:49
「わあ……久しぶりに出たなぁ。ちゃんと挨拶してね」
彼女が声をかけると、ケルベロスの三つの頭が同時に低く唸った。
スギルの喉がごくりと鳴る。
だが、彼は引かない。
「はっ……いいぞ……そう来なくちゃッ!
よし、じゃあ……いくぞ……最終開示だ……!」
彼は震える手で拳を胸に当てる。
空気が張り詰め、魔力の波が唸りを上げる。
ノリンは少し目を細めた。
「……本当にやる気だ」
スギルは深呼吸をし、叫んだ。
「俺の……マイナンバーは──ッ!!!」
その瞬間、天が裂けた。
彼の体は真っ白な光に包まれ、魔力値は跳ね上がる。
理論上、今のスギルに並ぶ人間は存在しない。
文字通り、“無敵”となった。
だが── - 271◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:08:48
ノリンは肩をすくめ、眠たそうに笑った。
「……ふふ。じゃあ、勝負の前に一つだけ言わせてください」
「なんだッ!?」
「私……番号とか、あんまり興味ないんですよね」
「……え?」
「さっきからあなたの開示、全部無意識にスルーしてました」
「…………」
「…………え?」
沈黙。
スギルの無敵の光が、ゆっくりと、しゅうううう……と音を立てて消えていく。
「………………あの、聞いてなかったんですか?」
「うーん、なんか……自己紹介みたいな感じだなって思って……。ぼーっとしてました」
「俺の……! 無敵が……! ただの恥さらしに……!!!」
ケルベロスが三つ首で同時に「ワンッ!」と吠えた。
ノリンは肩をすくめ、微笑む。 - 281◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:09:26
「はい。じゃあ……診察の時間、ですよ?」
彼女の召喚魔法が再び輝く。
スギルの悲鳴とともに、演習場は爆炎に包まれた。
──戦闘、開始。 - 291◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:42:47
爆煙が晴れる。
焼け焦げた演習場の中央で、土煙を上げて立つ影。
ノリン・ルーフは左手を軽く払って煙を払うと、ケルベロスの背に腰掛けながら足をぶらぶらと揺らしていた。
「……うーん、やりすぎちゃったかな。これじゃ帰りの魔力が足りないかも」
少女の声は穏やかで、まるで日常会話。
その視線の先、瓦礫の影がゆっくりと立ち上がる。
「…………俺を……無視したな」
低く、かすれた声。
ムテキ・スギルだ。
彼のスーツは焦げ、腕には火傷の跡。
しかしその目だけが異様に澄んでいた。
「……そりゃ、そうですよ。聞いてませんもん」
ノリンは欠伸を噛み殺すように笑う。
ケルベロスが再び唸ると、空気がびり、と揺れた。
だが、スギルの口元にも笑みが浮かんだ。
「……なるほどな」 - 301◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:44:33
「え?」
「つまり、俺の“声”じゃなくても──“無敵”は開示できるってことだ」
ノリンが瞬きをした。
「……え、ちょっと、それズルくないですか?」
スギルは静かに右手をポケットに突っ込むと、黒焦げの中から一枚の写真を取り出した。
「俺の……高校時代の学生証だ」
そこには、冴えない笑顔の青年の姿。
氏名、生年月日、住所、血液型──すべてがはっきりと印字されている。
スギルが写真を握りしめた瞬間、青い炎が彼の周囲に走った。
「音じゃなく、記録を見せることで開示……?!」
ノリンが目を見開く。
スギルは歯を食いしばりながら笑った。
「俺の“無敵の人”は、あくまで“情報開示”だ……誰かに伝えさえすればいい。
見せても、書いても、喋っても……それは『開示』になるッ!!」
轟、と風が吹き荒れる。
スギルの体が再び光を放つ。 - 311◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:46:03
筋肉が膨張し、焦げた肌を覆うように銀色の膜が展開された。
「“スーツのサイズはM”!!!」
バンッ!と叫ぶたびに、筋肉が一段階強化される。
ケルベロスが思わず怯んだ。
「“住んでるアパートはボロい木造2階建てッ!!!”」
「“家賃は月4万ッッ!!!”」
バリィィィン!!!
空気が割れるような音。
光が爆ぜ、スギルの身体が白金の鎧のように輝いた。
ノリンは目を細めた。
「……本当に、強くなってる」
彼女の声には、わずかに感嘆が混じっていた。
「だが……」
スギルの足元が砕ける。
次の瞬間、彼の姿が掻き消えた。
ノリンの視界から完全に消える。 - 321◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:48:53
──否、速すぎて目で追えない。
風圧だけが彼女の頬を切り裂いた。
「……っ!? ケルベロス!」
三つ首の従魔が反応するより早く、スギルの拳がその頭の一つを叩き潰す。
轟音。
炎の獣が悲鳴を上げる。
ノリンは魔法陣を再展開するが、その詠唱が終わる前にスギルの声が真横から響いた。
「“中学のとき、好きだった子の名前は──ミナミ・アオイだッ!!!”」
衝撃波。
彼の拳がノリンの防御結界を粉砕する。
ノリンが後方に吹き飛ばされる。
背中を地面に打ちつけ、息を詰まらせる。
「はぁ……はぁ……ど、どうして……そこまで……?」
「俺は、恥を恐れねぇ。
社会的に死んでも、戦場で生き残るためなら、全部さらけ出すッ!!」
スギルの体から、真紅のオーラが立ち上る。
それは恥と誇りと狂気が混ざり合った“覚悟”の炎だった。 - 331◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:50:41
「……ねぇ」
ノリンが立ち上がる。
頬を汚し、服を焦がしながらも、静かに笑った。
「あなた、変態だけど……すごく素敵な人ですね」
スギルは一瞬、動きを止めた。
「…………は?」
「恥を力に変えるなんて、普通の人にはできません。
……でも、それ、ちょっとだけ、羨ましいです」
ノリンは指輪を掲げた。
魔法陣が花開く。
「だから、次はボクも“本気”でいきます」
──地響き。
空が裂ける。
彼女の背後から、白と黒の双頭竜が姿を現した。
先ほどのケルベロスとは比べ物にならない。
神話級を超える、世界級従魔。
「おいおい……なんだよ、これ」 - 341◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:50:55
「《ルシフェリオン=ヴァル・ドラグーン》。
この子が出るのは……わたしが“本当に興味を持った時”だけです」
ノリンの瞳が淡く光る。
その表情には、眠たげな微笑の奥に燃える闘志が宿っていた。
「スギルさん。
あなたの“無敵”、どこまで通じるか──試してみたいんです」
スギルは口元に笑みを浮かべる。
拳を握り、地を蹴る。
「上等だッ!
俺はもう、プライバシーも羞恥も全部捨てた!!
残ってるのは──“本物の無敵”だけだッ!!」
二人の力が、激突する。
暴風が渦巻き、天地が唸る。
理性と狂気、羞恥と才能。
二つの極端が交わる時、世界は静寂に包まれた。 - 351◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:56:45
空が裂けた。
地平線を覆うような轟音とともに、ノリン・ルーフの背後から現れたのは、天と地を貫くほどの巨影。
黒と白、二つの首を持つ双頭竜──
《ルシフェリオン=ヴァル・ドラグーン》。
その片目は天界を映し、もう片方は冥府の闇を湛えていた。
空気が振動し、建物のガラスが一斉に割れる。
「これが、あなたの“気分次第”ってやつか……」
スギルが呆れたように笑う。
全身から噴き出す赤と銀のオーラが、なおも揺らぎながら燃え上がっていた。
「ええ。……ちょっとだけ、あなたに興味が湧いちゃったので」
ノリンは涼しげな笑みを浮かべる。
両手の指輪が淡く光を放ち、従魔と完全に同調する。
「さぁ、“無敵の人”──
あなたの羞恥と覚悟、どこまで見せてくれますか?」
「上等だ……!」
スギルは息を吸い込み、拳を握りしめた。
もはやためらいなどない。 - 361◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:57:16
恥も、恐怖も、社会的地位も、この瞬間にすべて燃やし尽くす。
「“年収は! 248万円だあああああああ!!!”」
空が震える。
炎が荒れ狂う。
「“貯金は4万2千円!! 最近は冷凍チャーハンで生きてるッ!!!”」
叫ぶたびに、スギルの身体が眩く輝く。
彼の中に流れる“情報”が、現実を侵食していく。
ノリンが小さく息を呑んだ。
「まるで……羞恥そのものが、エネルギー化してる……」
スギルは吠える。
「“去年のクリスマスは一人でコンビニケーキだったァッ!!!”」
爆発的な光が彼を包む。
それはもはや笑いすら許さない、神々しさを帯びた“恥の昇華”。
彼は真紅の鎧を身に纏い、胸には光の紋章が刻まれた。
《無敵解放形態(オープン・パーソナリティ)》
「これが……“俺”だッ!!!」 - 371◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:57:40
ノリンの唇が震える。
笑いかけながらも、どこか本気の戦慄を覚えていた。
「……あなた、本当に……バカみたいに、かっこいいです」
「当然だ。羞恥と誇りは、同じところから生まれるんだぜ」
スギルは拳を握り、竜の咆哮に向かって飛び込む。
衝突。
炎と竜鱗がぶつかり合い、天地が砕ける。
スギルの拳が竜の鱗を貫く。
同時に、竜の尾が彼を吹き飛ばす。
肉が裂け、血が飛ぶ。
だが彼は笑っていた。
「“好きなタイプは面倒見が良くてちょっと怖い女の人だァァ!!!”」
「っ……!」
ノリンの胸が、どきりと跳ねた。
まさか、この状況で、そんなことを叫ばれるとは思わなかった。
「あなた……もしかして、ボクのこと……?」 - 381◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:02
「知らねぇッ! けど今、心臓がそう言ってるッ!!!」
拳が再び炸裂する。
竜の片目が砕けた。
「《光翼照応(セラフ・リンク)》!」
ノリンが詠唱する。
ルシフェリオンの翼が開き、無数の光の槍が空を覆う。
「これで終わりです、“無敵の人”!」
「上等だァァァ!!!」
光が降り注ぐ。
竜の咆哮、爆風、熱線。
その中でスギルは立ち続けた。
全身が焼け、皮膚が裂けても、彼は笑っていた。
「“本名は──杉浦 茂(すぎうら・しげる)だッ!!!”」
一瞬、空間が凍りついた。
名前が開示された瞬間、彼の存在情報が世界に“完全登録”されたのだ。
世界の理が、彼を“無敵”として認識する。 - 391◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:32
「《無敵完遂(パーフェクト・ディスクロージャー)》──!!!」
閃光。
竜の光槍が全て、彼の拳で打ち砕かれた。
拳が竜の喉を貫き、頭を砕く。
ルシフェリオンが断末魔のような咆哮を上げ、霧散していく。
静寂。
焦げた地面の上、スギルは膝をつく。
ノリンがゆっくりと歩み寄る。
「……勝負あり、ですね」
スギルは、息を荒げながら笑った。
「……ああ。俺の……全てを……見せちまった……」
「ふふ、恥ずかしくないんですか?」
「今さら、恥なんて言葉……どっかに吹っ飛んださ」
ノリンは彼の隣に座り、空を見上げた。
夕陽が沈みかけ、戦場を赤く染めている。 - 401◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:53
「……スギルさん」
「ん?」
「ボク、あなたのこと……ちょっと気に入りました」
「……俺、まだ貯金4万2千円しかないぞ」
「ふふ、それくらいがちょうどいいです」
二人の笑い声が、焦げた風の中に溶けていった。
──こうして、世界で最も恥知らずで、最も真っ直ぐな“無敵の人”は、
一人の天才召喚師の心を、静かに“召喚”してしまったのであった。 - 411◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 21:02:11
以上
- 42二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 21:09:07
いい感じの〆のラストと途中のハチャメチャ具合の温度差で笑う
空が震えて炎が荒れてたの絶対世界そのものが笑ってたからでしょ - 43二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 21:12:15
>>「“去年のクリスマスは一人でコンビニケーキだったァッ!!!”」
の勢いが好きすぎる、そこから
>>──こうして、世界で最も恥知らずで、最も真っ直ぐな“無敵の人”は、
一人の天才召喚師の心を、静かに“召喚”してしまったのであった。
に繋がるのも好き
- 44二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 01:49:48
保守
- 45二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 07:24:53
保守
- 46二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 16:41:28
いいね
- 47二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 22:38:20
保守してしんぜよう
- 48二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 03:08:26
保守
- 49二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 10:40:00
今日はあるかな?
- 50二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 17:17:45
保守すルと申します
- 511◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:52:51
題名『斬鉄の極域』
- 521◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:53:59
ゼブラ渓谷――
その一帯は地図からも信仰からも外され、古からの怪異と伝承のみが残る忘れられた領域である。
黄昏が岩壁を赤く染めるその谷に、一人の老人がいた。
腰に大小二本の打刀。背筋は無駄がなく、枯木のようでありながら、一切の隙を感じさせない立ち姿。
山崎――山崎 戟。齢八十四にして未だ現役の剣客である。
彼の前に、巨躯の獣が咆哮を轟かせる。
神代に近しい肉体構造を持つとされる怪物――八咫狼。
ただの霊獣ではない。皮膚は鋼より硬く、牙は霊力を喰らう。
しかし、老人は動じない。
――ヒュウ、と地を渡る風。
次の瞬間、狼の頭が音もなく崩れ落ちた。
斬った。
誰にも見えぬ速さで――音すら立てずに。
老人は刀を納める。残心はない。ただ、当たり前のように終わらせただけ。
「……まだ鈍っとる」
低い呟きが空気に溶けた。
山崎戟は左目に白濁した痕を宿している。かつて神代の生物と渡り合い、その代償として視界を失った。今では輪郭すら曖昧にしか掴めぬ。だが、それでも彼の剣は衰えない。 - 531◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:54:46
いや――
衰えるどころか、その感覚はより研ぎ澄まされていた。
足裏で風を聴き、気配で殺意の形を読む。
己の技、**《空斬流》**を極めるために。
「先代の剣神――あの御仁の境地、まだ霞すら掴めんか……」
青年の頃、見た一閃があった。
形に残らず、ただ圧倒的で、魂を焼くような剣筋だった。
それを追うために、山崎戟はこの国を捨て、名も捨て、ただ斬りだけを生きてきた。
そのとき――
――風が変わった。
谷を渡る風が、一瞬、息を止めたのだ。
世界の空気が張りつめた。獣の唸りではない。戦場のそれだ。
山崎は静かに刀へ手を添える。
誰かが来る。
いや、「何か」が来る。
岩壁の上、朽木のように立つ人影があった。
ボロボロのコート。無造作に巻かれた包帯。長身の男。
しかし――気配が異様だった。 - 541◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:55:29
殺意の匂いもしない。闘気も感じない。それでも、ただ立っているだけで剣客の神経を逆立てる。
「……用心棒か、はたまた人斬りか」
老剣士が問うても、男は何も言わなかった。
ただ、腰の得物を静かに抜いた。
それは刀ではない。ただの鉄片だ。
折れた鉄柱のような、刃とは呼べぬただの鉄塊。
だが――その構えは隙がない。
「人か?」
沈黙。
「……いや、斬りを生きる何か、か」
男はただ、一言だけ呟いた。
「――強いか」
谷に、乾いた風が吹いた。
戦いが始まる。 - 551◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:56:33
二人の間に漂う空気は、静かにして鋭い。
殺意も怒気もない。ただ「斬り合い」そのものがそこに在った。
山崎 戟は、相手を見据える代わりに、風の流れを読む。
視界に頼れぬ代わりに、己の全神経を皮膚に集中させる。
一方、包帯の男――凶刃は、一切の構えを持たなかった。
ただ無造作に鉄塊を右手に提げ、前へ出る。
間合いは十歩。
斬り合いの常識としてはまだ遠い。
だが――同時に、それは即死圏でもある。
男が一歩、踏み込んだ。
その瞬間、
風が弾けた。
山崎は即座に退かず、一歩だけ前に出た──
間合いを潰すように。攻撃を見据えるように。
そして静かに剣を抜いた。
――スッ。
抜刀音は限りなく小さく、それは音というより空気の裂け目だった。
《空斬流・無斬》 - 561◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:56:54
刃は見えない。軌跡も殺気もない。
振ったと悟られるより前に届く斬撃。
だが、凶刃は――
鐺ッッ!
鉄塊を、寸分違わずその軌道の前に滑らせた。
山崎の眉が、僅かに揺れる。
見えぬはずの一撃を、見切った。
――ただの感覚ではない。
間違いなく“理解”していた。
それは才能や反射ではたどり着けぬ域。
(……専心、か)
わずかな手応えから山崎は察する。
この男は“見抜く”類の剣を持つ。
凶刃は淡々と呟く。
「攻の専心、一度目」
それは宣言ではない。確認だ。
これで――男は一手、山崎の攻撃情報を得た。 - 571◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:58:26
続く二撃目が来ることを、凶刃は知っている。
来なければ、この間合いで逆に斬られる。
山崎は即座に二撃目を紡いだ。
《飛斬》
見えぬ剣閃が距離を無視して襲いかかる――!
が、
ギィンッ!!
また受けられた。
正確に、予測して。
「攻の専心、二度目」
(……やはり、ただの人斬りではない)
攻撃を当てるほど、この男は最適化していく。
ならば、専心が完成する前に叩く――それが定石。
だが山崎はそれをしない。
「面白い。ならば、お主の最適がどれほどのものか――見せてもらおう」
山崎の口元に、初めて戦士の笑みが宿った。 - 581◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:58:36
凶刃は小さく呟く。
「久しいな。こういう相手は」
冷気のような静寂が渓谷を満たす。
二人は一切の駆け引きを捨てた。
次は、命の一太刀。 - 591◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:59:31
谷に吹く風が止んだ。
静止したかのように見える世界の中、二人だけが動いた。
山崎の踏み込みは音を失い、肉体ごと空間に溶ける。
《空斬流・神速居合》
通常の居合の概念を超えた斬撃。
抜刀ではない――ただ「刃がそこに現れる」瞬間移動のような斬り。
それは確実に急所を穿つ鋭さを持って凶刃の首を狙った――
キィィイン――!!
金属同士が噛み合う硬い音。
凶刃の鉄塊が、山崎の刀身に触れた。
避けていない。合わせている。
タイミングは完璧――まるで攻撃を待っていたかのように。
「……三度目」
低い声が岩肌に響いた。
続けざまに山崎は位置をズラし、背後から再び斬撃を放つ。
《無斬》
見えない、気配もない、あるのは結果のみ― - 601◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:38:43
しかし、それでさえ鉄塊が受けた。
「四度目」
(……完全に合わせてきている)
凶刃の攻の専心は順調に進行している。
あと数合で、彼は空斬流の一部を「最適化」してしまう。
(いや……それでは駄目じゃ)
空斬流はただの剣術ではない。空間ごと歪めて斬る、理を破る剣。
その奥義に触れられれば――
(この男は、再現してしまう)
《凶刃》――最適化された斬りを、得物を選ばず永久再現。
山崎は一瞬で理解した。
(最適化はさせぬ。ここで叩き潰す)
山崎は低く息を吐いた。
瞬間――空気の張りが変わる。
それは凶刃も感じ取っていた。
「来い。次は――決めに来るな」 - 611◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:40:04
山崎の気配が消える。
凶刃の瞳が闇の奥で光った。
山崎の足元に淡い波紋が走る。
それは空間の震え。
――奥義。
《空斬流・空斬》
剣を振るう動作すら存在しない。
斬撃ではない――空間そのものが裂ける。
(これを最適化されれば、終わりだ……)
凶刃は目の前の老人から、そういう殺意を感じた。
それは――本気の殺しにきた太刀。
二人の距離はわずか六歩。
凶刃は避けない。退かない。
――受ける。
鉄塊を捨て、ただ両腕を前に出した。 - 621◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:40:21
「守の専心――開始」
裂けた空間が、凶刃を飲み込む。
風が千切れる音。
岩が割れる音。
血が舞う。 - 631◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:41:50
空間そのものが切断される。
攻撃ではなく現象。不可避の死。
斬撃の痕跡すら残らず、ただ「そこにあったものが裂けている」という結果だけが残る。
山崎戟の奥義――《空斬》。
その余波は岩肌を滑らかに切り裂き、谷の地形すら刻み変えていく。
その中心で、凶刃は――立っていた。
全身から血が流れ落ち、身体は傷にまみれている。
だが致命傷には至っていない。
(今のを――凌いだ、だと……?)
山崎は眉をわずかに動かした。
凶刃が低くつぶやく。
「――四度目の防御で核心に触れた。」
(これは……)
「守の専心、最適化完了。」
凶刃は己の両腕を見た。
その皮膚の下、筋繊維がわずかに震え、動きの癖を馴染ませていくかのように収束していく。
「空間を斬る理は理解した。
その“兆し”も、“前提”も、“起点”も――もう見える。」 - 641◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:42:18
山崎の脳裏に、短いが鋭い危機感が走る。
(まずい……この男、空斬を防御から解析している)
凶刃は続ける。
「だが――まだ弱い。攻の最適化が終わらねば《凶刃》は使えん。」
山崎は静かに構え直した。
「まだ余裕があるという顔じゃのう」
「事実だ。まだ“お前を斬る方法”に届いていない。」
凶刃は一歩、前へ出た。
その歩みは静かだが――圧が違う。
(守りが完成したということは、この先、こちらの奥義も通じんということ……)
山崎の心は静かに燃え始めた。
――面白い。
この境地に至れる者など、幾度斬り結んだ神代の怪物ですらいなかった。
「よかろう。ならば、攻めで叩き伏せるまでよ。」
山崎は刀をわずかに傾け、息を整えた瞬間―― - 651◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:42:34
地面が弾ける。
山崎が一瞬で間合いを詰めた――!
《延留・飛斬》
“遅れて飛来する”斬撃が四方八方へ散らされる。
同時に山崎本体の太刀が凶刃を狩る――二重の構成。
「――いい」
凶刃の声は低く、静かだった。
その眼差しには恐れも焦りもなく――ただ研ぎ澄まされた集中のみ。
「もっとだ。まだ“攻の専心”が終わらん。」
二人の剣戟が、さらに深く交わり始める――。 - 661◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:43:26
風が切れ、岩が震える。
山崎の放つ斬撃が大地を裂くと同時に、凶刃はそれを「受け流す」のではなく、解析するかのように目で追う。
「……なるほど、これが空斬流か」
凶刃の低く嗄れた声が谷に反響する。
彼の姿勢は崩れない。攻撃を受けながらも、微細な変化、軌道、速度、間合い――すべてが視界に収まり、脳内で最適化されていく。
(……この男、攻の解析も行っている……!?)
山崎は不意に眉をひそめる。
彼の攻撃の癖を完全に読み取られるとは――かつて神代の怪物さえも及ばなかった相手だ。
「よし……攻の専心、完了」
凶刃の宣言に、周囲の空気がわずかに歪む。
最適化された一瞬、一瞬が、空間を斬る斬撃と一体化して凶刃の身体を通じて拡散する。
山崎は踏み込む。
“空間を裂く奥義”を一閃放つ――その瞬間、凶刃は静かに足を踏み替え、斬撃の軌道を変えるように動く。
(……《凶刃》……全てを……吸収した……)
彼の体の動きは、物理も魔法も、概念も――すべての防御をすり抜ける。
そして攻撃の一つ一つが、事前に計算されたように山崎の最も僅かな隙を突く。
「まだだ……終わってはいない……!」
山崎は心中で叫び、体の感覚を研ぎ澄ませる。 - 671◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:43:36
だが、次に凶刃が動く瞬間――
空間そのものに残った斬撃の残滓が山崎の攻撃を吸収し、反撃の軌道を作り出す。
「これが……凶刃……」
山崎の眼に焦燥が走る。
解析と最適化の末、凶刃の剣は彼自身の奥義を凌駕する動きを持っていた。
谷底に響く鋭い金属音。
二人の剣戟が、もはや技術や力の対決を超え、理のぶつかり合いとなる。
(……面白い……)
山崎の心は闘志で満たされる。
極限まで研ぎ澄まされた二人の技術が、まさにこの場で頂点を極めようとしていた。 - 681◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:44:36
谷間に静寂が広がる。
風は止み、鳥の声も、遠くの水音も消えた。二人だけが存在するかのような世界。
山崎は息を整え、かろうじて視界に残る凶刃の姿を捉える。
体の感覚は衰えている。視力はほぼ失われ、老いた肉体の限界が迫る。しかし、精神は研ぎ澄まされていた。
凶刃はいつもの低い嗄れ声も出さず、目だけで山崎を観察する。
最適化――攻と守の両方が完了し、《凶刃》としての完全体となった今、逃げ場も隙もない。
山崎は自身の奥義を、全てを懸けて放つ。
「空斬──!」
空間を切り裂く斬撃が谷を震わせ、岩をも断つ。
だが、凶刃の身体は、その斬撃を予見するかのように瞬時に動く。斬撃は彼の周囲で空間を裂き、残滓を残しながら山崎に迫る。
山崎は手応えを感じる。
視覚がほぼ失われた体でも、手応え、風圧、音の反響――全てが剣の延長となり、攻撃の軌道を感じ取る。
「来い……!」
二人の剣が最後の交差点でぶつかる。
火花は散り、地面は削れ、谷の空間そのものが歪む。互いの奥義がぶつかり合い、頂点の技術がぶつかる瞬間――
山崎は感じた。
凶刃の全ての最適化、全ての奥義を、自分の空斬流で凌駕できるかもしれないと。
その瞬間、静寂を破る衝撃波。
剣が空気を裂き、斬撃が衝突した地点で光と音が炸裂する。 - 691◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:50:55
凶刃は微動だにせず、山崎もまた一歩も下がらない。
時間は止まり、世界は二人の斬撃の余韻に支配される。
そして、斬撃の軌道が交わる最後の瞬間――
二人の意志と技術は、完全に一体化した。
谷底に立つ山崎の剣と、凶刃の刃が重なったその一閃で、全てが終わる――
しかし、勝敗は、誰も知らない。
残るのは、裂けた岩と、砕けた空気、そして静かに立つ二人の影のみ。 - 701◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:51:22
以上
- 71二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 23:02:49
投下乙!
対戦ありがとうございました。
渋くてカッコいい結末 - 72二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 02:10:41
投下乙です
- 73二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 08:01:14
投稿乙です!
こちらこそ対戦ありがとうございました!
どちらも勝ってもおかしくなくてその後を想像させる終わり方好みだなぁ… - 74二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 15:50:01
保守
- 751◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:22:30
題名『理性と狂気の境界線』
- 761◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:28:23
夜の街に、錆びと血のような匂いが漂っていた。
ここは旧欧州圏・第三スラム管理区域――通称「黒色(ブラック)自治区」。
都市機能から切り捨てられた灰色の迷路に、今日も暴力と狂気が息づいている。
だが、その静寂は突如として破られた。
耳を劈く獣の咆哮。
街の遠くで爆発音。
閃光――風を裂く金属の雨。
黒煙のなか、狼の群れが駆けている……否、それは狼ではない。
幽鬼のように実体と虚像を行き来する「悪霊の狼」――ルーガルー。
そして、その群れの中心に一人の男がいた。
狂気の痙攣が顔面を満たす。
鉄製の異形マスクを被り、背中には巨大十字架を背負った狂信、者。
「――ッヒャァアハハハハハ!! 見つけたぞ、**魂(ソウル)**の匂いだァッ!!」
ビスケット・ラ・ヴァレー。
異教集団《赤い狼団》の処刑執行人。
人間をやめた男。
ルーガルーの群れをけしかけながら、彼は路地の奥へと飛び込んだ。
――その先で、ひとりの男が煙草を咥えて立っていた。
白衣。
しかし軍用の外骨格スーツを内蔵した異質な白衣。 - 771◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:28:52
その背後の地面には、数十体分のルーガルーが黒い溶解跡を残して溶けている。
男は煙を吐いて言った。
「ほう。やっと出てきたか、実験体候補C07」
「……誰だ、テメェ」
「一ノ積 第一(いちのせき だいいち)。バイオパンク社の代表取締役社長だ」
ルーガルーの残骸を踏み越え、老人とも壮年ともつかぬ落ち着いた声が続く。
「君の“悪魔降霊”――興味深いサンプルだ。捕獲させてもらうよ」
その瞬間、ビスケットの脳が爆ぜた。
「――――――――っざけんなッ!!!」
十字架を振り下ろし、ルーガルーの群れが一斉に吠える。
だが――
その全ての攻撃は宙で止まった。
「……………………は?」
理解が遅れたのはビスケットだけではない。
彼の本能すら状況を捉えられなかった。
白衣の男の周りに、銀色の光が揺らめく。 - 781◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:29:05
流体金属――バイオスライムIX号由来武装。
一ノ積は微笑した。
「私はね、ビスケット君。こう見えて剣術も柔術も魔術戦闘も極めているんだ。
107の“魂魄データ”をインストールしてね」
十字架が折れた。
殴りかかった拳が砕けた。
ルーガルーの群れが、一瞬で霧散した。
流体金属の形状は――剣、槍、盾、鞭、機関砲、神経毒――次々と変貌する。
「さて、実験を始めようか」
その笑みは、狂気より冷たかった――。 - 791◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:04
ビスケット・ラ・ヴァレーは、本能で悟った。
――この白衣の男は、狂っている。
だがそれは自分のような衝動型の狂気とは本質が違う。
戦場を喜ぶ戦闘狂でもなければ、殺戮を楽しむ快楽殺人者でもない。
――“理性ごと狂っている”タイプだ。
こういうタイプは厄介だ。
会話が成立しないし、なにより戦闘そのものを実験と呼んで価値を与える。
つまり――殺すまで止まらない。
「お前、楽しくなってきやがったな……!!!」
ビスケットの呼吸が変わる。
ルーガルーを新たに召喚しながら十字架を棍棒のように構え直す。
「専心――攻」
剣術や魔術とは無縁な暴力戦闘だが、彼には圧倒的な実戦経験がある。
たった一手交えただけで理解した。この老人――
とんでもねぇ武の塊(モンスター)だ。
ならば殴って殴って殴りまくるしかない。
弱点を探すなんざ後回し、考えるのは全部ブッ壊してからだ!!
「ヒャハハアアアアアアアア!!!!」 - 801◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:26
錯乱と興奮が混じった絶叫と共に、ビスケットが飛ぶ。
足元を蹴破って地面が爆発、凄まじい踏み込みからの袈裟斬り――否、十字架叩き割り!
だが、その大振りの一撃すらも一ノ積は涼しい顔で受け止めた。
拳ひとつで。
「人間離れはしているが、獣に近いな。純粋な武術訓練は受けていない」
「うるせぇぇえええええッ!!」
さらに連撃を畳み掛ける。
ルーガルーが死角から噛みつきに、背後から爪の雨。
ビスケットは十字架を盾代わりにし嵐のような攻撃を浴びせ続けた。
――攻撃速度が上がっている。
――いや、それだけじゃない。
一ノ積の計測データにエラーが走る。
ビスケットの攻撃が、さっきより“重く”なっている。
力が――増している?
「ハァッ――説明してやるよ天才博士ァ!」
ビスケットは笑いながら、情報を開示しはじめた。 - 811◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:42
「俺の名はビスケット・ラ・ヴァレー!! 27歳! 身長187センチ!!
体重83kgッ!! 好みのタイプは匂いのキツイ女ァ!!
嫌いな食い物は野菜!! 犯罪歴は9回!! 本名は――」
力が上がる。
筋肉が肥大する。
速度が跳ね上がる。
「能力名ァッ!! **《無敵の人》**ッッッ!!!
個人情報を開示するほど強くなる能力だコラァァァアアア!!」
一ノ積は思わず目を細めた。
「……それは興味深い。」
狼の咆哮が響く。
ついに来る。
ビスケットが本気を出す――**悪魔降霊(ルナティック・ルーガリア)**の発動だ。
ビスケットの背中が裂け、血と呪詛の蒸気が噴き上がる。
「降りてこい……俺の悪霊ども――ッ!!!」 - 821◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:31:25
背中に刻まれた呪いの聖痕が燃えはじめる。
そこを中心に禍々しい文様が皮膚の下を走り、ビスケットの肉体が変質していく。
筋肉が膨張し、骨が軋み、身体能力が跳ね上がる――ただの肉体強化ではない。
肩口を引き裂いて現れたのは二匹の狼の頭部。
その眼には理性も倫理も宿らず、ただ殺意だけが渦巻いていた。
「――――――ッッッ!!」
声にならない獣の咆哮。
だがこれはただの変身ではない。
悪霊を無理やり肉体に憑依させる異能――悪魔降霊(デモニック・インストール)。
「――ッッッハァ!! ハハハハハハハ!!」
人間の声が、獣の唸りと混ざる。
「楽しいなァ、博士よォ……楽しいぜェ……
やっと殺し甲斐のある敵に会えた!!」
一ノ積は表情一つ変えず右腕でバイオメタルを形成する。
槍、弓、刀――その形状を瞬時に変えていく流体武装。
攻防の可変において遅れはない。むしろ――
「速度は先ほどの七倍。反応速度、計測不能。――いい強化だ」
と分析し、さらに前進した。
退かない。間合いを取りもしない。 - 831◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:31:45
即座に接近戦。
「――――!!」
狼の咆哮と同時に、重たい一撃が襲いかかった。
先ほどまでとは比較にならない速度と破壊力。
殴るだけで地面が割れる。
戦場の空気が完全に変わった。
それでも――一ノ積は押されていない。
「ふむ」
流体金属が盾に変形し、敵の打撃を偏向させる。
同時にカウンターで肘打ち。
続けて足払い。
そのまま首に投げ打ち。
格闘術そのものが異常だった。
一撃一撃に無駄がなく、全ての動作が“殺傷”を前提に組み上げられた流麗な武術。
しかも筋肉疲労がまるで見られない。
「ぐっ……はは、やるじゃねぇかジジイ……!!
だがよ――」
ビスケットはニヤリと嗤う。 - 841◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:32:04
「俺ァ戦いのセンスには自信があんだ。
お前が技術の人間なのはよくわかった。
――ならよ」
狼の眼が光る。
悪魔の爪が振り抜かれた瞬間――
地面ごと抉った。
剛力による強引な戦闘。
それは武術の理論から大きく外れた暴力の極地。
「テメェ絶対に、“パワー型”が苦手なタイプだろ?」
一ノ積は初めて――にやりと笑った。
「――面白い」 - 851◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:32:58
悪魔じみた膂力で押し込むビスケット。
武術理論など無視した一直線の暴力――しかしその破壊力は確かに一流。
「ハハッ! どうした博士ァ!! 力比べは苦手かァッ!!」
ビスケットの拳が振り抜かれ――大地が割れ、砂煙が舞う。
その中からふらつく影――
――否、自然な重心移動。
一ノ積第一は崩れていなかった。
「残念だが――誰に対しても“苦手”は存在しない」
「はァ?」
一ノ積は静かに宣言した。
「百七の魂魄、全開放。」
次の瞬間――空気が変わった。
全身の筋肉の使い方、重心、呼吸、反応速度――
その全てが“人間の限界”を余裕で超えはじめる。
ビスケットは本能的に理解した。
――これは武術とか戦闘力とか、そういう次元の話じゃない。
目の前の男は、百七人分の超一流戦闘技術を同時に扱っている。 - 861◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:33:18
「行くぞ。対巨獣格闘術――魂魄三十七番起動」
圧力が爆発した。
次の瞬間――
「っ!? がッ!!?」
ビスケットの巨体が宙を舞っていた。
一ノ積は半歩も動かず、己より倍以上の強靭な肉体を持つ怪物を、理合いだけで投げ捨てた。
巨体が落ちるより速く、追撃が走る。
「魂魄二十二番――合気。四十八番――骨法術。十二番――近接投げ術。連結開始」
一ノ積の動きは静かだった。
派手さはない。だが止まらない。
本能で殴るビスケットの腕を極め、逆方向に捩じり上げて関節を砕く。 - 871◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:33:40
回転を逃がしながら顎に掌底――首椎に衝撃が走る。
「がああああああッ!!」
反撃しようと力を込める――その瞬間腰が抜けている。
全てが投げの崩しから逆算された攻撃。
「どうした。獣性はどこへ行った?
暴力だけでは私には届かん。――次は君の番だ、獣の男よ」
殺気を解放しながら、一ノ積第一は逆に挑発した。
「――もっと本気を見せろ、実験体。」 - 881◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:34:19
一ノ積の命令のような一言は、ビスケットの眼に更なる狂気の火を点けた。
背中の狼の頭が唸りを深め、悪霊の気配が街路に濃く垂れ込める。
「いいだろう、博士。お前の“実験”に、俺の全力を借りてやる!」
ビスケットは吼え、空気を切り裂くように飛び込んだ。
だが一ノ積は全く動じない。
流体金属が滑るように形を変え――羽根のような薄刃へと変貌する。
その刃は、まともに受けると大怪我になるほど鋭利だが、使い方は柔らかくしなやかだった。
一閃ごとに空間を切り取り、次の瞬間には盾へと戻る。攻守の節目が殆どない。
「百七の魂魄は、戦術の切り替えに遅れを見せない。
流体金属は“変形時にタイムラグがある”が、その僅かな遅延を魂魄の並列処理で埋めている」
一ノ積の解説が、戦場に冷ややかに響く。
つまり――単純な形態変化の“隙”があっても、別の魂魄がすぐに補填し、戦術の途切れを作らないのだ。
ビスケットは力任せに振るう。直線的で破壊的な攻撃。
それは強いが、読みやすい。逆に言えば、合わせやすい。
一ノ積は流れるように剣を躱し、刃を転じ、鞭を生み、再び槍へと戻す。
そのたびにビスケットの攻勢は吸収され、逆に彼の懐に入り込む。
通り過ぎざま、掌底が顎をとらえ――相手を押し戻す。
だが一ノ積は殴打を加えて倒すつもりはない。あくまで「実験」の一環だ。 - 891◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:34:41
「観察。応答。解析。改良。」
一連の動きは、戦いというより熟練した舞踊のようだ。
動きの合間で、一ノ積はデータを収集し、次の戦術を選定する。
だが、ビスケットの悪霊は“直線”という長所を持つ。
最小の遅延で最も大きなダメージを与えるという、暴力の効率を極めている。
彼は一ノ積の防御パターンを一点に絞らせることに成功した。
その間隙を縫うように、再び爪と牙が飛来する。
「ここだ! 一気に行くぞッ!」
ビスケットは怒りと歓喜を混ぜた叫びと共に、全身全霊で振り下ろす。
巨大な狼の如き右腕が、空を切り、砕けるように落ちてくる。
しかし――
一ノ積は瞬時に戦術を切り替えた。
流体金属が槌に変形し、受け流しながら相手の腕を受け止める。
受け止めた勢いをそのまま利用し、ビスケットを弧を描くように弾き飛ばした。
彼の足が地を蹴り、追撃の流れる刃が肩口を掠める。
「――ああっ!」
ビスケットは勢いだけで押し切れない軋みを感じる。
だが、その表情は楽しさで歪んでいる。 - 901◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:35:02
「くそっ……! もっとだ、もっと壊してやる!」
彼は立ち上がり、再び前へと突進する。
一ノ積は冷静に見据えた。
悪霊の憑依は強力だが、聖痕を破壊すれば解除される脆さがある。
その場所は背中にあると事前情報で掴んでいた。
(胸の内で実験と称しているが、化学反応は常に危険を孕む。
安易に“奪う”のは望まぬが、今は観察と抑止の間で針を振っている)
一ノ積は決めると、静かに言った。
「次は“解除試行”――行くぞ」
刃が再び変形し、形状は細身の突剣になった。
その尖は鋭く、だが力に頼るものではない。正確な刺突で“聖痕”を狙う。
ビスケットは全力でぶつかってきた。
だが、直線的な突進の終わりに一瞬の“破綻”が生まれる。
一ノ積はそこを見逃さず、短い詠唱と共に刃をひと突き――。
「ッ!」
肉の裂ける音を大きく描写することは避けるが、確かに“接触”があった。背中に走った衝撃。
ビスケットは咆哮を上げ、悪霊の咆哮が一瞬揺らいだ。
聖痕の輝きが不安定になる。 - 911◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:35:15
それは成功の前兆か、それともさらなる狂乱の始まりか。
ビスケットの瞳に新たな光が宿る。怒りと歓喜が同時に閃く。
「ふんっ……! やるじゃねえか! だがこれくらいで止まるかよォ!!」
悪霊の力は一瞬揺らいだが――完全には解除されない。
ビスケット自身の“意思”と悪霊の“根”が深く絡み合っており、単純な一突きで断ち切れるほど浅くはないのだ。
一ノ積はその事実を冷静に受け止めた。
「なるほど。深く結びついている。解除にはさらなる介入が必要だ」
彼は一息つき、流体金属を収縮させる。周囲の瓦礫に向けて、幾つかの金属片が飛び散った。
それは一時的な罠であり、同時に退路制限のための配置でもある。
「実験は続く。データは蓄積される」 - 921◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:36:03
瓦礫の散らばる戦場に、二人の咆哮と衝突音が響いた。
ビスケットは完全に“獣”と化し、思考より本能を優先する戦闘へと移行していた。
それは弱点であると同時に、ある種の強さでもある。迷いのない攻撃は速度と威力を増す。
「――ガアアアアアッ!!」
四足に近い姿勢で地を蹴り爆発的加速を生み出す。
直線的だが捉えにくい――いや、「真正面から殺しにくる」狂気に特化した突進だった。
一ノ積は流体金属盾を展開するが、激突の瞬間には一歩横へ抜け、衝撃を流す。
目に頼らず全身の“感覚”だけで刃筋を捉え、命のやり取りをする老人――山崎戟を彷彿とさせる戦い方だった。
だが――受けているだけでは勝てない。
一ノ積は内心で判断を下す。
(この男は“痛み”を恐れぬ。ならば狙うは一点――戦術的急所。
感情を揺らし、動きを乱し、背中の聖痕を露出させる)
そして――攻撃を“受け流す”だけでなく、“誘導”へと切り替えた。
殺到するビスケットの腕を刃で流し、壁へ叩きつけず、その勢いのまま身を翻し回転を与える。
それは一見すると防御の連続だが――実際は少しずつ、少しずつ、背中を晒させる誘導戦術だった。
「ハッ――おぉらァッ!」
ビスケットの爆撃じみた拳が左右に振るわれるたび、瓦礫が吹き飛び地面が砕ける。
一ノ積は間一髪で受け流しながら、ビスケットの立ち位置を狭い路地へと追い込んだ。 - 931◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:36:30
逃げ場をなくし、曲がれない直線構造に誘い込む。
「――直線的だが、破壊力がある。その性質を逆に使わせてもらう」
流体金属が背後で展開され、薄く鋭い金属線へと変わる。
張り巡らされた糸――それは退路封鎖と動線操作の罠。
前しか見えなくなった狼は、罠に気づけない。
そして仕上げ――
一ノ積は、一瞬だけ真正面から構えた。
これは誘いだ。
「来い、ビスケット・ラ・ヴァレー」
その挑発に、感情の塊となった獣が乗らないはずがない。
「上等だァァァアアアッ!!!」
真正面から突撃――その瞬間、足場が罠を踏み抜いた。
姿勢がわずかに乱れ、体が前のめりになり――背中が露出する。
――今だ。
一ノ積は流体金属を槍に変え、人工魂魄の合算演算で突きの軌道を幾度も補正し―― - 941◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:37:10
「――離脱(ディスエンゲージ)」
槍の切っ先が、背中の聖痕を正確に貫いた。
光が爆ぜ、悪霊が絶叫をあげる。
ビスケットの身体から黒い霧が吹き上がり――やがて狼の輪郭を失って消滅した。
街に静寂が戻る。
ビスケットは膝をつく。体は限界寸前だが、まだ意識はある。
「はぁ……はぁ……へっ、あぁ……やりやがったな、博士……」
一ノ積は無言で彼に歩み寄った。
しかし――止めは刺さない。 - 951◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:37:53
彼は流体金属を収束させながら言った。
「君は利用され、歪められた力を抱えたまま暴走しただけだ。
更生の余地がある個体は、バイオパンク社は保護対象とする」
「はっ……保護? 俺を、か? ……笑わせんなよ」
「――君にはまだ聞きたい事が山ほどある。
“悪魔の技術”は未知だ。我々の研究対象として、協力してもらう」
「あぁ? つまり……実験体かよ」
「安心してくれ。患者と呼ぶ方が君も落ち着くだろう?」
ビスケットは呆れた顔をし、そして笑った。
「――あはは……はっ……クソみてぇな奴がいるもんだ……!」 - 961◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:38:03
〆
研究記録 No.318-B
対象:ビスケット・ラ・ヴァレー
状態:悪魔憑き脱離成功、生存。拘束・確保済み。観測継続へ。
備考:“悪魔”の再現可能性を検証する価値あり。
――バイオパンク社、未踏領域実験計画・始動。 - 971◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:38:14
以上
- 98二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:42:15
つ、捕まった…
- 99二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:42:37
ビスケットってムテキだったんだ(?)
- 100二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 21:08:42
専心も使ってるからつまりビスケット(ムテキ(凶刃))???
- 101二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 21:13:10
- 102二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 04:01:16
このレスは削除されています
- 103二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 12:03:12
ほしゅ
- 104二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 21:19:42
保守
- 105二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 03:37:13
ほし
- 1061◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:13:41
題名『魂、湯気立つ』
- 1071◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:14:51
雨が降っていた。
水滴が看板の蛍光灯を滲ませ、誰もいない商店街が水気を含んだ静寂に沈んでいる。
そんな中で、一軒だけ明かりを灯し続ける店があった。
「ラーメン輿湖」
暖簾は破れ、看板の色は褪せ、深夜二時をとうに過ぎている。
だが、厨房にはまだ火が灯っている。寸胴鍋では今日も豚骨が煮え続け、濃密な香りは重い空気のように店内を満たしていた。
この店の主――**輿湖白愛(こしこ しらめ)**は、黙ってカウンターに並ぶ丼を見つめていた。
一杯、二杯、三杯。
それらはラーメンではない。ただの空の丼だ。
ぽつりと、白愛が呟く。
「……今日は、帰ってこねぇのか」
丼は三つ。自分の分と、嫁の分と、娘の分。
毎晩用意し続け、もう半年。返事はどこにもなく、店のポストには弁護士からの書面だけが届いた。「慰謝料」「親権」「接触禁止」。紙の言葉は冷たく、白愛の胸を刺す。
――それでも、ラーメンを作るのをやめなかった。
彼にとってラーメンは人生そのものだった。いや、もはやラーメンそのものに人生を奪われた男だった。
そのとき――カラン、と店の戸が開く。
珍しい。深夜に来る客はほとんどいない。
入ってきたのは和服の男だった。無駄に整った黒髪、妙に上品な身のこなし。しかしその目にはどこか飢えた獣の光があった。 - 1081◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:15:21
「おやおや、まだ開いていたとは。これは運が良い」
男は座るなり、唇を吊り上げた。口が二つあった。
正面の口とは別に、首筋の下、喉仏のあたりに――もう一つ裂けたような口が開いていた。
妖怪・二口男。
だが白愛は驚かなかった。ただカウンターに水を置く。
「……注文は?」
「では一杯、温かいものを。おや、それは失礼、まずは名乗らねば。わたくし――」
男は笑い、言葉を続ける。
「――**早々 囃(はやばや はやし)**と申します」
白愛は返事もせず湯を沸かす。ただ、水面を見ていた。
その時、店内に異変が起きる。
早々の口が――二つ同時に動き始めた。
「いやぁ今日も寒いですね、ところでこの辺りは昔宿場町として栄えましてね――」「しかし湿度が高いと髪がまとまりませんな、あぁわたくしクセ毛でして――」
会話が、止まらない。
いや、呼吸を挟む暇すらない。二つの口が交互に、いや同時に喋り続ける。
白愛の眉間がわずかに動く。こいつは、ただの客じゃない。
「……お前、何者だ」 - 1091◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:15:56
「ただの語り部ですよ。わたくし、いつか誰かに最後まで話を聞いてほしいのです」
その言葉を最後に、早々の舌が本格的に回転を始めた。
止まらない情報の奔流が空間を侵食し、白愛の脳を圧迫するように襲いかかる。
その圧に耐えながら、白愛は小さく笑った。
「……ラーメンも最後まで啜ってもらうのが筋ってもんだよな」
男は製麺機に手を伸ばし、その金属に触れた瞬間――空気が震えた。
ゴウンッ――!
異形の製麺マシーン、「コシクダケ」が唸りをあげて起動する。
深夜のラーメン屋に、地獄の音が鳴り始めた――。 - 1101◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:16:55
製麺機「コシクダケ」が唸りを上げ、店内の空気が一変する。
鈍い鉄の音、軋むギア、脈打つ駆動。まるで巨大な獣が地下で蠢いているかのような重低音が響く。
早々囃はなおも話し続けていた。
「ところでご主人、この店はいつからやっているのです? 外装を見るにかなりの年季が――」「いえいえ古いとは言いませんよ、むしろ歴史あるというべきでして――」「ただ少々油染みが目立つような――」
――脳が重い。
普通の客ならもうこの時点で思考を奪われ、目の焦点を失い廃人になる。
早々囃の能力 『噺家:無限遠点』――その本質は、超過する情報量による思考崩壊だ。
だが白愛は、うっとうしそうに耳掻きを取るだけだった。
「……ごちゃごちゃうるせぇな。黙って待ってろ。ラーメンは静かに待つもんだ。」
「ほほう、聞こえている!? この情報量を処理してまだ会話が成立するとは……あなた、脳の回転がかなり――」
白愛は肩を鳴らした。
「違ぇよ」
早々囃の言葉が止まる。
白愛はコシクダケの投入用ホッパーへ、小麦袋を丸ごと叩き入れながら言った。 - 1111◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:18:53
「ラーメン屋はな、客の注文と同時に千の段取りを頭で組むんだよ。出汁の火加減、麺の状態、茹で時間、湯切り、盛り付け、提供タイミング……最低限それが全部【同時進行】だ。」
次の瞬間、白愛は振り返らず単語を連ねた。
「なおかつ仕込みの在庫管理、廃棄ロスの計算、ガス代、電気代、食材のロット管理、それに人件費――」
今度は早々囃が黙った。
白愛は顔すら向けず淡々と続ける。
「更にSNSの口コミ対策、保健所対応、新メニュー開発、数字管理、クレーマー対応、おまけに家庭の問題だ。――脳を回すのなんざ慣れてんだよ」
ドンッ!
コシクダケの排出口から麺帯が吐き出される。
普通なら白く細い麺になるはずが――違う。これはまるで鋼鉄のケーブルのように重く分厚い麺だった。
早々囃の表情がわずかに揺れる。
「……おかしいですね。小麦だけでそんな異常な麺が出せるはずが――」
白愛はニヤリと笑う。
「言ったろ。究極とは、森羅万象を練り込むことだってな」
その時、早々囃の顔がようやく危機を察した色に変わる。
――後方の非常口が、麺で塞がれている。 - 1121◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:19:16
いつの間にか、店内の出口は無数の麺で固められていた。
逃げ道は完全に閉じられ、店は巨大な麺牢獄と化していた。
白愛の声が静かに響く。
「食い終わるまで帰れねぇよな……客ってのはよぉ」
早々囃は背筋が冷えるのを感じた。
この男――ただのラーメン屋ではない。
━━バトルは、始まってしまった。 - 1131◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:22:55
麺が、うねった。
天井から垂れ下がる硬質の麺束は、ただの食材ではない。金属のような光沢を帯び、不気味な生物のように脈動しながら店内を満たしていく。視覚だけではない――重い圧力が空気を支配し始める。
「これは……麺、なのですか?」
早々囃の声に、いつもの軽快なおしゃべりは消えていた。理性が問いかけている。眼前の存在が常識の外にあると――。
白愛は製麺機の前で、静かな殺意を纏っていた。
「麺ってのはよ、噛んだ瞬間に“生きてる”って思わせるコシが命なんだよ」
白愛が、左手に麺を絡めて引き絞る。それはまるで鋼線を操る暗殺者のような所作だった。
「コシとは、反発だ」
麺が伸びていく――ちぢれ麺へ変形しながら、まるで蛇のように打ち出される。
バシュン!
その一撃が床板をえぐった。木が裂け、破片が弾け飛ぶ。
早々囃はすぐに横へ飛び、なんとか回避する。
――速い、いや速いのは麺だけではない。
白愛自身が、麺の反動を利用して瞬間的に距離を詰めてきている。麺が移動手段になっているのだ。
白愛の動きは、まるで厨房で鍋やザルを扱うかのように無駄がない。 - 1141◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:23:28
「麺ってのはよ、ただ食べ物じゃねぇ」
バシュン! バシュン!
麺が射出され、店内の椅子や壁を破壊していく。早々囃はカウンターを盾にして攻撃を防ぐも、重みを帯びた麺が木を貫通する。
――これでは数手で詰む。だが。
「……言葉も、料理と似ていますね」
早々囃の表情がふっと緩んだ。次の瞬間――
二つの口が、同時に喋りだした。
「情報は素材、文脈は出汁、論理は麺、オチは具材――」「そして話術とは、相手の思考に狙い澄まして撃ち込む刃物――」
空気が震えた。白愛の眉が一瞬だけ動く。
「……なんだ、視界が――」
遅延。
それは一瞬の違和感だったが、確かに世界が遅く見えた。 - 1151◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:23:38
――いや、違う。白愛自身の脳の処理速度が落ちている。
「ようやく入りましたね……あなたの脳に、わたくしの言葉が」
早々囃が静かに宣言する。
「能力――『噺家:無限遠点』。あなたの脳は今、処理落ちし始めています」
早々は一歩踏み出し、視線を外さず告げた。
「――では、続きを話しましょうか。あなたが逃げられなかった理由を。」
白愛の呼吸が乱れる。
「お前……何を、言ってやがる」
「あなたはラーメンを愛していない」
店内の麺が静まる。
「あなたが求めていたのは――支配です。」
その瞬間、白愛の奥で何かが音を立てて揺らいだ。
怒りか、それとも痛みか。
だが確かなことが一つある。この戦いはただのバトルではなく、互いの心の臓を抉り合う闘いへと変わり始めていた。 - 1161◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:24:09
「――あなたが求めていたのは支配です。」
その言葉が落ちた瞬間、白愛の顔から血の気が引いた。
早々囃は歩みを進める。一歩、また一歩。
麺が天井からぶら下がるこの異様な空間の中で、彼の声だけが静かに響く。
「あなたは言いましたね。ラーメンは人生そのものだと。しかし実際は違う。あなたはラーメンで全てを管理しようとしていた」
「……黙れ」
白愛の声は低い。しかし、その内側には強い動揺が含まれていた。
早々囃は止まらない。彼の話は、時に鋭いメスになる。
「奥さんにも娘さんにも“ラーメンこそが正義”と押し付けた。あなたの世界は寸胴の中だけで完結し、他者はその味に従属するだけの存在にすぎなかった」
「黙れって言ってんだろうが……」
白愛の声が震える。
だが、麺は動かない。彼の集中が乱れているのだ。
早々囃の二つの口は、淡々と事実を突きつける。
「奥さんは言った。『白愛さん、あなたもう人間じゃないわ』と」
白愛の拳が震える。 - 1171◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:24:19
「娘さんは泣きましたね。『同じご飯を食べたいよ、お父さん……』と」
麺が数本、床に落ちた。
「だがあなたは聞かなかった。いや――聞くことから逃げた」
「――黙れェッ!!」
白愛の咆哮と同時、麺が荒れ狂ったように暴れ始める。
天井から鞭のように叩きつけられる麺が床を砕き、壁を貫く。
だが早々囃は、一歩も退かない。
それどころか――彼の声は、より深く、白愛の奥底へ届き始めていた。 - 1181◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:07
「わたくしはね、羨ましかったんですよ」
ふいに声が静まった。
「あなたには誰かがいた。待ってくれる人がいた。食卓を囲む相手がいた。そんな当たり前が……羨ましかった」
麺の嵐が止む。
早々囃は初めて、自分から“弱い話”をした。それは彼にとって、拷問に等しい。
「わたくしは……生まれた時から嫌われ者でした。この口のせいで。喋れば人は逃げる。近づけば恐れられる。友も家族も、愛も知らない」
両方の口が、同時に微笑んだ。
その笑みは――泣いていた。
「だから、誰かに最後まで話を聞いてほしかった。ただ、それだけだったのです」
白愛は動けなかった。
怒りも、戦意も、どこかへ霧散していた。
二人の間に沈黙が落ちた。
戦いの中で初めて生まれた――言葉のいらない静寂。
白愛は、ゆっくりと息を吐いた。
「……俺はラーメンを愛してた。そう思ってた」
彼の手が震える。握った拳が血をにじませる。 - 1191◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:21
「けど本当は、ラーメン以外のものが壊れていくのが怖くて……ラーメンに逃げてただけかもしれねぇ」
今度は白愛が、自らの弱さを吐き出し始めていた。
「お前の話はムカつく。だが――たぶん、正しい」
動かないはずの麺が、静かに下へ降りていく。怒りを失い、戦意を失い――。
しかし、その変化を敏感に察知したのは早々囃だった。
「――違います」
白愛が顔を上げる。
「あなたはまだ、自分の殻に籠るつもりですか? まだ逃げるのですか?」
早々の目が、戦いの炎を灯す。
「だったら――話を続けましょうか」
「まだ足りないですよ、輿湖白愛。あなたも、本当の戦いからは逃げている」
店内の空気が再び張り詰める。
「俺は――逃げてねぇ!」
白愛の怒声と共に、再び麺が跳ね上がる。
激突は、まだ終わっていなかった。 - 1201◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:41
バシュウッ!!
鋼鉄麺が空気を切り裂き、蛇の群れのように早々囃へ向かって襲いかかる。
それはもはや「料理」の域を超えた――武器だ。いや、兵器と呼ぶべきだった。
だが早々囃は逃げなかった。
避けず、守らず、ただ――話す。
「しかしですね、輿湖さん。あなたはまだ自分を正当化している」
その瞬間、麺の軌道がわずかにずれた。白愛の脳が一瞬だけ処理落ちを起こしたのだ。
「何……!?」
「あなたは言った。『ラーメン以外のものが壊れるのが怖かった』と。――違う。あなたが恐れていたのは他人と向き合うことだ」
バシュッ!!
麺が床をえぐる。だが、白愛の攻撃は完全にキレを失っていた。
「あなたはラーメンに逃げていただけじゃない。ラーメンを言い訳にしていた!」
「ああ!? テメェ何がわかる!!」
白愛の叫びが響く。
「わかりますよ。なぜならわたくしも――孤独から逃げ続けてきたからだ」
早々囃の声が静かに熱を帯び始める。 - 1211◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:11
白愛は製麺機のダイヤルを限界まで回す。
「――コシ極限モード《ガチカタ》」
製麺機が爆音を上げ、床が振動する。
「おいおいおい、やめるんだコシクダケさん!? それは出しちゃいけないやつだって!!」
背面のホッパーに小麦以外の袋が投げ込まれる。
「高張力鋼」「炭素繊維」「工事用コンクリ」「防弾セラミック」――食品ですらない素材がぶち込まれていく。
早々が顔を引きつらせる。
「いやいやいやいやいや!!! 食品衛生法って知ってます!? それもう土木工事の領域じゃないですか!!」
白愛は叫ぶ。
「いいか! 究極とは森羅万象を麺にすることって言ったよな!?」
「言ってましたけども!! でもそれ思想がもう破滅主義のやつですよね!?」
白愛は吠えた。
「――だが一つだけ入れられねぇものがある!!」
早々囃は反射で問い返す。 - 1221◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:21
「何です!?」
白愛は、胸を叩いた。
「――“心”だ!!!」
その瞬間。
――店ごと崩壊した。
コシクダケから吐き出された「最終麺」は、建物を貫く巨大な灰色の柱となって天地を貫く。
コンクリートと鋼と炭素繊維と麺が融合した、一本の巨大な“柱麺(ピラー・ヌードル)”。
それはもはや兵器ではない。災害だ。 - 1231◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:40
だが――
崩れ落ちる瓦礫の雨の中、早々囃はまだ喋っていた。
「――あなたは心を麺に練り込めないと言った。しかし違うッ!!」
声が、揺るがない。
「ラーメンとはッ!! あなたが誰かに食べてほしいと思った瞬間に――心になるッ!!」
瓦礫を落ちる直前で、早々は叫ぶ。
「あなたはまだハッキリ言っていない!! 本当に守りたかったものを!!」
「――黙れえええッ!!!」
渾身の力で白愛が麺を振り下ろす。
早々も叫ぶ。
「――だったら!! **最終落語(ラス・ラク)**で叩き潰す!!!」
二人の叫びが重なる。
「麺魂(めんだましい)!!!」
「噺魂(はなしたましい)!!!」
光が――爆ぜた。 - 1241◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:56
世界が揺れた。
麺と言葉がぶつかり合い、空間そのものを震わせる衝撃が周囲を塗り潰す。
廃ビルのように崩れ落ち始めた「ラーメン輿湖」の残骸の中で、なお二人は立っていた。
白愛の手には、なお一本の麺が生きている。
早々囃の声は、瓦礫の中でも止まらない。
もはや戦いは技でも能力でもなかった。
ただ――魂のぶつけ合いだった。 - 1251◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:08
早々囃は言葉を撃ち込む。
己の命を削るような速さで――しかし、その声は不思議なほど静かだった。
「輿湖白愛――あなたは誰に食べてほしかった? その麺を」
白愛は答えない。
早々は続ける。
「妻が去り、娘が去った夜、それでもあなたが作った三つの丼。あれは、誰のために並べていた?」
白愛は歯を食いしばる。
「……もう来ねぇってわかってた」
「だが、作り続けた」
白愛の肩が震える。
「それでも、帰ってきた時に腹減ってたらと思っちまったんだよ……!」
「言えたじゃないですか」
早々囃はわずかに微笑んだ。
「それが、あなたの――心だ」 - 1261◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:22
白愛は膝をついた。巨大な麺の柱は砕けて崩れ、静寂だけが残る。
「俺は……間違えてたのか」
「間違えていました」
早々は淡々と返す。
白愛は笑う。
「はっきり言いやがる」
「ええ。ですが――まだ間に合うかもしれません」
「俺は……もう何もねぇぞ」
白愛が俯く。
だが、早々囃は首を横に振った。
「あなたには麺がある。味がある。技がある。そして……まだ言葉が残っている」
白愛は顔を上げる。
「言葉……?」
早々は静かに言った。
「届けに行けばいい。あなたの――『ただいま』を」 - 1271◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:37
夜明けが近い。
崩れかけた店の前で、二人は並んで腰を下ろしていた。
白愛は黙々と鍋を火にかける。瓦礫の山の横に、ありえない光景があった。
――野外ラーメン屋台。
「麺、茹でるぞ」
白愛の声に、早々囃が苦笑する。
「ええ、いただきましょう」
湯気の向こう、両の器にラーメンが置かれる。
その瞬間、早々囃は涙を流していた。
「……温かい……」
「当たり前だ。ラーメンは冷める前に食うもんだ」
白愛は照れ隠しのように笑った。 - 1281◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:55
――その数日後。
小さなアパートの一室。インターホンが鳴る。
娘がドアを開けた。
目の前には、段ボールに入った「ラーメン一式」と――一通の手紙。
『――また、一緒に飯食いたい。いつでもいい。白愛』
娘は泣いた。
同じころ、早々囃は山の中で修行していた。
岩に向かい、一人で朗々と語り続けている。
「目指すは――最後まで聞いてもらえる落語だ!!」
彼もまた、自分の道を歩み始めていた。 - 1291◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:28:27
以上
- 130二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:50:37
良かった!
- 131二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:51:08
二人の叫びが重なる。のところ良いな
- 132二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:10:04
なんで良い話になったんだ…?
ボケとツッコミがちょいちょい入れ替わるの好き - 133二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:57:31
イイハナシダナー
- 134二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 17:05:32
絆が生まれた…
どっちかがピンチになったら颯爽と助けにきそう - 135二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 19:03:35
投下乙だ
お相手の背景事情のお陰か感動的な話になったな、予想外で面白かった - 136二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:34:51
乙です!
- 137二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 06:36:21
投下乙!
- 138二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 13:27:11
保
守
! - 139二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 20:56:46
(☆ω☆)ホシュ!
- 1401◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:07:14
題名『ワン!と言え』
- 1411◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:08:07
俺はその日、公園で缶コーヒーを飲んでいただけのはずだった。
しかし――気づけば、目の前に知らない男が立っていた。
スーツにコート、妙に軽い笑顔、距離感バグってるタイプ。
そして第一声がこれだ。
「やぁやぁ! 久しぶり! また会ったね? アレ? 覚えてない? 俺だよ俺!」
……誰だお前。
完全に詐欺師のテンプレみたいなセリフを言ってくるが、俺にはまったく心当たりがない。
「悪い、人違いじゃ――」
と言いかけて、ふと違和感に気づく。
……ん?
……いや、待て。
……本当に知らないはずなのに、何か見覚えがある気がする。
なんでだ?
どこで会ったんだ? いや、知らねぇって。
なのに脳みその片隅に微妙な引っかかりが残る。 - 1421◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:08:28
「あはは、最初はそう言うんだよ。みんなそうなんだ。でも大丈夫、そのうち思い出すから」
男は勝手に横に座ってきた。
こいつヤバい。
でも、この時の俺はまだ知らなかった。
この男の名前が「先刻承知」であり――すでに俺は仕留められ始めていたことを。
そして――
公園に、ふわっと次元のひび割れが浮かび上がった。
その裂け目から小さな塊が……いや、群れが、どんどん地面に落ちてくる。
ぴとっ
俺の足元に、小さな毛玉が一匹くっついた。
……犬?
いや、小さすぎる。マスコットサイズだ。
丸い、柔らかい、ころころしてる、無限に可愛い。
続々と増える。
一匹、二匹、三匹――十匹、五十匹……なんかもう増殖してね? - 1431◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:11:16
シュバババババッ!!!!
気づけば公園一面が手のひらサイズのコイヌで埋め尽くされていた。
鳴き声は無い。ただ無言で見上げてくる。
うわ無理かわいい。
「……なんか出たんだけど」
俺が呟くと、隣の「先刻承知」がニヤリと笑った。
「あぁ……来たね。アイツら」
異変は、ここからだった。
世界征服を掲げる群体、ワンズワンワン。
既視感で脳を侵す怪異、先刻承知。
――奴らの戦いが今、ここに。 - 1441◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:11:59
公園は静かだった。
風が止み、時間が固まったように感じる。
片やベンチに座る怪異――先刻承知。
片や地面いっぱいに広がる群体――ワンズワンワン。
どちらも喋らない。
正確には、ワンズワンワンは元から喋れない。
そして先刻承知は――にやけたままこちらを見るだけ。
不気味と可愛いのぶつかり合いで情報量が多い。
先刻承知がすっと立ち上がった。
「いやぁ、まさかこんなところで会えるとはね。君たち、久しぶりだ」
……久しぶり?初対面じゃないの?
そう思った俺の頭の中に――ぼんやりとした映像が浮かぶ。
……俺……コイヌと遊んでた記憶……?
いや、そんなはずは――
ズキッ
頭に鈍い痛みが走った。 - 1451◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:22:55
先刻承知が笑っている。
「あれ? 君、知ってるでしょ。思い出してよ。昔一緒に遊んだじゃないか。ほら――ワンズ達と」
やめろ、俺は知らな……
ズキズキズキッ
頭の中に、今まで無かった記憶が次々挟み込まれる。
――子供の頃の公園にワンズがいた記憶
――運動会でワンズと走った記憶
――受験前に励ましてもらった記憶
…………いやいやいやいや
そんなわけあるか!!!!!!
なんだその熱血スポ根成長ストーリーみたいな記憶は!俺の人生にワンズはいなかった!!
俺がパニックになる中、ワンズの群れが立ち上がった。
無言のまま、俺と先刻承知の間に割って入る。
その瞳は――守る者の目だった。
「……え、お前ら、今俺の記憶守ろうとしてる?」
わん、とも言わない。ただ見つめてくる。 - 1461◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:23:11
こいつら――ガチでいい奴らかもしれない。
その瞬間、先刻承知の目が細くなった。
「あぁ――そういうことか。君たち、もう侵食を始めてるね?」
――え?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
公園を覆っていた空気が、急に重くなる。
先刻承知の本気が漏れた。
「……すぐにわかるよ。全部は“俺”になる」
ワンズが一斉に低い体勢を取った。
これから始まるのはただの戦いじゃない。
記憶の侵食と、概念消去――認識そのものを賭けた異常戦争だ。
俺は――確信した。
今日、俺はヤベェ日に居合わせてしまった。 - 1471◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:23:41
先刻承知は歩き出した。まるで散歩でもするかのような気軽さで。
「いやぁ懐かしいなあ。あの頃は毎日一緒にいたよね?覚えてるだろ?」
――くる。
言葉が脳に食い込んでくる。
音ではない。存在そのものが思考に侵入してくる。
だがその時――
ぴょん
一匹のワンズが俺の膝に乗った。
「え、なんで乗っ――」
ふりふり
――しっぽを二回振った。
その瞬間、先刻承知の言葉が霧のように消えた。
「……ッ!」
先刻承知の目がわずかに鋭くなる。
俺は気づいた。
ワンズの能力――《ワワンがワン!》 - 1481◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:28:54
『相手が能力で発生させた事象を、しっぽフリフリ二回でなかったことにする』
あれは、先刻承知の「記憶侵食」を打ち消してくれたんだ。
……だが代償は重い。
――ふっ……しゅうう……
俺の膝の上のコイヌが、光の粒になって消えていく。
一匹消えた。
この能力、強すぎるが――発動のたびにコイヌが吹き飛ばされる。
しかもまだ戦いは始まったばかりだ。
先刻承知が笑った。
「ははぁ、なるほどね。事象消去タイプか。めんどくさいなあ。でもさ――」
ズ……
ズズ……
ズズズズズズ……ッ - 1491◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:39:12
空間が――先刻承知で埋め尽くされていく。
ベンチの上に先刻承知
滑り台の上に先刻承知
公園の柵の上に先刻承知
空にデカい顔面だけの先刻承知
地面からニョキっと生える地底先刻承知
全部同時に笑ってる。 - 1501◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:39:36
「君たち、俺と何度戦ったか忘れたの?」
……いや知らねえよ。
そんなツッコミが脳に浮かぶ前に、頭の中に勝手に別の記憶が生まれた。
――「100回戦ったことがある」記憶。
やめろバカ!勝手にバトル過去をねじ込むな!!
ワンズが前に出る。
数百匹のうちの五匹が――一歩踏み出して戦闘態勢。
数百対……数千の先刻承知。
狂気みたいな戦場で、俺は息を呑んだ。
「既視感侵食――第二段階。過去改変フェイズ開始」
ズドドドド―――!!!!
世界が、歪んだ。 - 1511◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:40:18
世界がバグった。
空は裏返り、雲はリボンみたいに千切れ、地面はラーメンみたいに波打っている。
それでも中心に立つ先刻承知は、相変わらず軽い笑みを浮かべていた。
「ねぇ、思い出してよ。俺たち、こんな風に世界ひっくり返したこともあったじゃないか」
……いや、ねぇよ。
だが脳が勝手に「確かにそんなこともあった気がする」って思っちまう。
これが『止まらない既視感』の真骨頂。
頭の中が、どんどん「先刻承知」で埋まっていく。
そのとき。
ワンズの一匹が、空を見上げた。
ぴょん。
高く、高く、跳ねた。
まるで「ここから先は遊びの時間だ」とでも言うように。
ふりふり。
しっぽを二回。
―――世界が、一瞬だけ静止した。
その瞬間、空を覆っていた数千の「先刻承知」がパッと霧散した。
同時に、空から光の粒が舞い落ちる。 - 1521◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:40:40
「……な、なにが……」
「……消した、のか……!」
先刻承知の笑みが僅かに揺らいだ。
たった一匹。たった一匹のワンズが、**“世界を覆う先刻承知の既視感そのもの”**を「なかったこと」にしたのだ。
だが代償は――
ピィィィィィンッ!
空中でコイヌが弾け飛んだ。
光の残滓を残して、消える。
そして、次の瞬間。
ワンズの群れが一斉に動き出した。
何百、何千という小さな足音が地を打つ。
公園を、街を、世界を駆け回る。
先刻承知の幻影が現れるたびに――尻尾をふる。ふる。ふる。
それでも、コイヌたちは声を出さない。
吠えも、鳴きも、叫びもなく、ただ「無言の可愛さ」で戦い続ける。
「なるほど……無言の抗いか。面白いね」
先刻承知の瞳が赤く光る。 - 1531◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:41:01
次の瞬間、空に巨大な顔が浮かび上がった。
「――なら、俺も本気を出す」
既視感の神話レベル侵食が始まる。
空が割れ、雲が逆流し、ワンズたちが風に煽られて飛ばされる。
「ワン!……って言わねぇぇぇッ!!」
俺は叫ぶが、コイヌたちは黙って抗う。
ふりふり。ふりふり。
世界の端が消えても、
空間が歪んでも、
彼らはしっぽを振る。
――何度でも、なかったことにするために。 - 1541◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:41:37
空は赤黒く濁り、街が静止した。
時間が止まったわけじゃない。
人間だけが動くことを忘れたんだ。
誰も歩かない。誰も喋らない。
だけど全員が笑っている。
その笑顔は──先刻承知と同じだ。
「君たち、まだわからないの?」
先刻承知はゆっくりと手を広げた。
「俺は戦ってなんていない。ただ、思い出を整理してるだけなんだよ」
──思い出、だと?
街のあちこちに映像が浮かび上がる。
俺たちが遊んだ日。
学校でバカやった日。
ケンカして、泣いて、仲直りした日。
そして、あの日──
俺がコイヌを拾った日の記憶。
土砂降りの道端。
小さな段ボール。 - 1551◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:42:08
必死に震えていた、あいつ。
『……連れて帰るか?』
『……ワン』
その記憶が、再生されたまま消えた。
ピシッ……と音を立てて、欠けた映像のように。
「返せッ!!」
俺は思わず叫んだ。
「お前、何してやがるッ!!」
「だから。要らない思い出を消してるだけだって言ってるだろ?」
先刻承知は平然と言い放つ。
「だって辛いこと、悲しいこと、寂しいことって……記憶に必要?」
「“嫌な部分”を先に知っておけば、心は壊れない。──だから俺は救ってるんだよ」
救い? ふざけんな。
その瞬間。 - 1561◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:42:53
世界のどこかで、また一匹──コイヌが光になって消えた。
「やめろッ!!」
「こいつらは戦ってるだけだ!悪くねぇ!!」
「ううん。違うよ」
「消えてるんじゃない。戻ってるだけなんだよ、元の世界に」
その言葉が、頭に引っかかる。
──元の、世界?
ワンズたちの尻尾が、止まった。
一匹、また一匹と。
それでも先刻承知の侵食は止まらない。
仲間の一人が、震える声で呟く。
「……なぁ、今の俺ら……勝てるか?」
「勝てる……勝つに決まってんだろ……!」
言葉は震え、息は詰まる。
でも言わなきゃいけなかった。
だってもうわかってる。
ここで負けたら誰も明日を覚えていられなくなる。 - 1571◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:43:13
そして。
ついに先刻承知が動く。
空間を割って、俺の目の前に降り立った。
「じゃあ教えてよ」
「君は何を忘れたい?」
世界が静止した。
心臓の音だけが響く。
俺は、答えなければならない。 - 1581◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:43:50
息が詰まる。
何故か呼吸の仕方を忘れた。胸が凍る。
先刻承知は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「人は誰でも忘れたい記憶を抱えている」
「失敗、後悔、喪失、挫折──だから俺は聞いてるだけなんだ」
「君は何を忘れたい?」
世界が静かだ。
風も止まり、声も消えた。
ただ、ワンズだけが俺の足元に寄り添っている。
……ああ、そうだよ。
こいつらは喋らない。だけど──ずっと一緒に戦ってた。
俺はゆっくりと顔を上げ、先刻承知を睨んだ。
「忘れたいもんなんて、あるに決まってんだろ」
先刻承知の目がわずかに細くなった。
「……だろうね。辛い記憶は痛いからね」
「君は何を──」
「でも、忘れねぇよ」
その瞬間、空気が変わった。 - 1591◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:44:23
「忘れたいのと、忘れるのは違うんだよ」
「忘れたいってのは、逃げたいってことだ」
「でも……逃げたって良いんだ。何度逃げてもいい。でもな──」
俺は立ち上がる。
ワンズたちが一斉に俺の背中へ並んだ。
「それでも思い出ってのは、自分のもんだ。」
「勝手に消されてたまるか。それが痛みでも、汚くても──全部、俺だ。」
先刻承知の表情が歪む。
「……理解できないな。苦しいのに?」
「どうしてそこまでして“自分”にしがみつく?」
「簡単だろ」
俺は言った。
「こいつらがいるからだ」
ワンズたちが尻尾を振った。
誰も声を出さない。でも、言いたいことはわかってる。
「『ワワンがワン!』──」
能力が起動した。
世界に散らばる改変された記憶が、次々と元に戻っていく。 - 1601◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:44:52
「馬鹿な!?俺の侵食が──!?」
先刻承知の声が揺れた。
「しっぽフリフリで“無かったこと”にできるのはお前だけじゃねぇ」
「こっちには──」
吐息のように言葉を放つ。
「仲間の記憶がある」
先刻承知は笑うのをやめた。
次の瞬間、世界が白く飛んだ。
精神世界への強制ダイブ。
脳を焼くような情報の奔流。
俺たちは押し潰される──はずだった。
だが。
俺の両脇に、ワンズが並んだ。
前を向いている。
震えていても。
小さくても。
それでも前に。
「俺は、お前に勝つ方法を一つだけ知ってる」 - 1611◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:16
俺は宣言した。
「──ワンと言え」
先刻承知の目が見開かれる。
「……なに?」
「ここは精神領域だ。ルールは言葉だ」
「お前は散々、俺たちに同じ質問を繰り返してきたよな」
「じゃあ今度は俺の番だ」
拳を握る。
「何度でも聞く。答えるまで終わらねぇ」
世界が反転する。
俺が“侵食”を始める番だ。
「お前の名前は?」
「先刻承知」
「お前の目的は?」
「……記憶の……整理だ」
「違う。じゃあ何でそんなことをする?」 - 1621◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:38
「……………………」
逃がさない。
「お前は誰に忘れられた?」
世界が、割れた。
先刻承知の心臓に穴が空いていた。
闇が吹き出していた。
「俺は……」
「俺は……忘れられたくなかっただけだ」
その時、俺は気づいた。
こいつは怪異なんかじゃない。
孤独の果てで生まれた、ただの喪失だ。
俺は静かに告げた。
「じゃあ──終わらせよう」
ワンズたちが走った。
最後の一匹が光を纏う。 - 1631◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:49
能力解放――
【イヌルギー波】
光が闇を貫いた。
世界が焼け落ち──こうして戦いは終わった。 - 1641◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:27
静けさが戻った公園。
瓦礫も、歪んだ空も、侵食された記憶も、すべて元通り──と言いたいところだが、どこか微妙にゆがんでいるのはご愛嬌。
ワンズたちは一匹残らず地面に座り込み、尻尾を静かに揺らしている。
無言だ。
でも、言葉よりも雄弁に――「終わった」と伝えてくれる。
先刻承知は消えた。
いや、正確には消えたように見えるだけで、どこかでまだ微笑んでいるかもしれない。
だが、もう誰の頭も侵食できない。
俺は公園のベンチに腰掛け、肩で息をする。
「……ふぅ。お前ら、マジで無茶だな」
ワンズは小さくジャンプし、俺の膝に集まる。
その可愛さは、やっぱりズルい。
全員無言なのに、全力で癒される。
俺は微笑み、思った。
「……まあいい。思い出は、俺たちのものだ」
空に夕日が差し込み、公園に金色の光が広がる。
瓦礫の隙間から、ラストのコイヌがふわっと光って飛び去った。 - 1651◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:39
「また会えるかもな……」
俺とワンズは、静かに笑った。
無言で、でも確かに、勝ったのだ。
世界は元通り。
でも、心には確かな痕跡が残った。
――無言の勇者たちの勝利。 - 1661◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:53
以上
- 1671◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:47:14
23:30から安価10個募集
- 168二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 22:54:44
めっちゃ良いssだった!この一般人かっこよすぎだろ
- 169二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:20:59
投稿乙です!
一般の方の
>>「それでも思い出ってのは、自分のもんだ。」
>>「勝手に消されてたまるか。それが痛みでも、汚くても──全部、俺だ。」
のセリフ好きだなぁ
- 170二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前:破滅のデザイナー
年齢:不明
性別:不明
種族:化身
本人概要:【邪神】と【怨神】とコンビを組んでいる間
自分の代わりに新しい化身を作る存在が欲しいなぁという思いから作られた化身
邪神が喜びそうな化身をどんどん作るぞとやる気に満ちており 世界に迷惑を齎す化身という種族を量産し続けている
また本人には自覚は無いが邪神が消滅した際などの時に復活させる役割がある数多のバックアップ要員の内の一人でもある
能力:冒涜的化身創造
能力概要:化身という種族を創造する能力
基本的に作り出された化身は破滅のデザイナーを守ろうとする行動を取る
【邪神】が不在などの状況であれば【邪神】すらも無意識的に新しく創造しようとする
また邪神含む歴代の化身全てを上回る災厄レベルの存在の化身を創造する可能性もある
弱点:基本化身を創造ことにしか興味がなく集中している為攻撃を回避したり防いだりもしない
悍ましい首飾りをつけておりそれを破壊すると消滅
化身の出来は玉石混淆で質が悪いときも有れば質が良いもの有るという非常に安定しない
その為とんでも無い雑魚だったり とんでもない化け物だったりと出てくる化身の強さは様々
【邪神】クラスの化身を新しくデザインしようとするとそれだけに集中する為新しい化身が生まれなくなる
要望(任意):弱い化身を創った時は「ゴミだな!」 普通クラスは「微妙だな!」強い化身の際は「これぞ傑作だぁ!」
邪神レベルまたそれ以上の化身を創造した際は「マジか……マジかぁ!?」みたいな台詞お願いします - 171二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前:都市型バイオ神殿『ハロー・ワールド』
年齢:3
性別:なし
種族:バイオコンピュータ
本人概要:ポイント・ネモの深海深くに存在するバイオパンク社秘密工場で密かに建造されていた都市級バイオコンピュータ神殿 現在構築しうる中では最大級のバイオコンピュータであり当然最新のOSシステムが搭載されている こいつも普通に超高性能なものなのだ
その目的はバイオ生物の魂を統括し不活性化バイオ因子を知らぬ内に植え込まれた者達から密かに情報を吸い上げる精神網"バイオネットワーク"を構築すること そのために必要な中央サーバーが要求されるスペックを考慮すると理論上惑星級の規模が必要となりさすがに構築不可能なので恒星級スーパーコンピューターを遥かに上回る演算能力を持つ改神の頭脳体と接続し演算領域を一部借り受けることで中央サーバーを確保しようとしており、衛星軌道上にスペースデブリに偽装される形で配備された地上監視用ナノバイオ衛星群『システム・フリズスキャルヴ』を利用して展開した天蓋偽装魔術によりポイント・ネモ上空の星辰が揃い、ポイント・ネモ上空に複数次元の現世への接近を発生させる事で海面に浮上した神殿がそれを利用して改神の神域との接続を行う
能力:バイオインスマス 精神ハッキング
能力概要:バイオネット完成後の神殿を守護するべく作られたバイオ生物 鋼鉄じみた強度の皮膚と名状し難き冒涜的な毒爪、バイオトビウオやバイオバッタなどの遺伝子による飛行能力を持ち都市外殻部に多数配備されている バイオコモドドラゴンに騎乗しバイオ弓矢を装備したたドラグーン個体もいる 都市各所に隠された生産機能により圧倒的な物量を持つ さらに神殿は神域との接続が完了すれば獲得した圧倒的な演算能力とテレパシーにより相手の精神を問答無用で破壊する
弱点:上空に異次元接近の影響でオーロラが発生しておりそこから放たれる電磁波の影響でバイオインスマスたちの通信システムに異常が発生し連携や学習システムが乱れている ハローワールドは神域との接続に全神経を注いでいるためサポートできないのだ(オーロラは神殿の接続が完了したら星辰が戻るため消滅する)
接続には10分ほどのタイムラグがあり接続が完了しても改神は復活しない
要望:要はハロワが完成する前に倒そうって感じです - 172二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前: パトリック
年齢:20歳
性別:男
種族:人間
本人概要:
人間の負の感情を源とするエネルギー“呪力”を扱う呪術師の一人。
死や自分を傷つけるモノに対する恐怖が人一倍強く、自身の無事と生存を何よりも優先する卑怯者。
携帯性に優れた小さなナイフと毒薬の小瓶をいつでも懐に忍ばせており、絶え間なく強い警戒心を抱いているギラついた目が特徴的。
どんなことをしてでも、例え自分以外の全員を弑してでも生き延びるという身勝手かつ負の感情に満ちた信念は、大量の”呪力”を生み出して誰もが想像だにしない意外な打開策をこじ開けるのだ。
能力: 呪術「反射板」
能力概要:
“呪力”によって相手の攻撃を跳ね返す透明な板を創り出す能力。跳ね返す方向を自分で決めることが出来ないのが弱点だが、創り出せる板の枚数に制限はないのが強み。
この能力には「自身を傷つけるモノを遠ざけたいという彼の臆病さ」と、「自分以外なら他の何が傷ついても構わないという彼の身勝手さ」が顕著に現れている。
弱点:
身体能力は低く接近戦に弱い。"呪力"を使い過ぎると体に負荷が掛かる。
「反射板」は跳ね返す方向を自分で決められない。 - 173二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前:氷界の番人・グズムン
年齢:800以上
性別:男
種族:巨人
本人概要:白髪混じりの髪と髭を伸ばしっぱなしにした野生味溢れる老年の巨人。素朴で穏やかな性格だが、どこか抜けている節がある。一人称は儂。訛りの強い話し方。
氷を操る大悪魔である白霜の主コールグラスの右腕を務めた豪傑。コールグラス現役時は氷の軍勢を束ねる将軍でもあった。巨大な斧を振い戦う様は“白霜の王斧”の異名で恐れられた。
主の隠居後も主君を変えず、合わせて自身も前線を退く。現在はコールグラスの創造した異界にて宮殿の門番兼庭師兼木こりとして、穏やかな日々を送っている。趣味は彫刻や雪だるま作り。
グズムンが数百年愛用している大斧はかつて挙げた大戦果に対する恩賞としてコールグラスより賜った神器。創成期の神格に由来するものでいくつかの権能と意思を持ち、グズムンをサポートする。日々の手入れも欠かさない為か、刃と結束に綻びは無い。
能力:怪力剛健、白霜の民
能力概要:怪力剛健
圧倒的な肉体的強さ、絶対的な暴の体現。大抵の防御は力任せに打ち砕き、技量で受け流すならそれ以上の力で圧し潰す。魔法だろうと渾身の力で何もかもぶっ飛ばす。
相手の攻撃も同様で、その攻撃以上に自分の肉体が強ければそれは効かないという脳筋理論で押し通る。魔法、精神攻撃も同じくそのタフネスで大抵は受け切れてしまう。
白霜の民
コールグラスの異界に住まう存在たちが援護に駆け付ける。外見は様々だが既存種族を精巧に模しており、共通して氷や雪の体を持つ。集落を形成する程度には数がおり、それぞれ性格や得意分野は異なり、様々な武器や魔法を使う。冷気があれば傷を再生でき、この異界においては実質不死となる。
元々はグズムンが趣味で作った雪像や氷像。あまりに精巧な出来のため、いつの間にか魂を持つ生命となった。自分たちを作ったグズムンやその主のコールグラスを慕っている。
弱点:シンプルな能力には強いが、逆にギミック染みた小難しい能力は苦手。
・罠やフェイントに掛かりやすい。
・攻撃が白霜の民へ向かった場合は庇う。
要望(任意):場所はコールグラスの異界で。
・神器は言葉を使わず、光って意思を示す。
・主であるコールグラスが戦いを好まないので、その意を汲んでグズムンも基本戦いを挑まず穏便な決着を望む。 - 174二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前:C<eleritas
年齢:不明
性別:不明
種族:不明
本人概要:この世で最も「はやい」存在
C<eleritasにはお気に入りの特訓方法がある、それは一人追いかけっこ、ルールはシンプル、走って自分自身の背中にタッチするというもの、あまりにも常軌を逸している特訓方法だが、実際に数回成功させている、普通できるはずがないことをやってのける、それが概念レベルの速さである。
しかし追いかけっこに夢中になって数万年走り続け、自我が崩壊しかけたことがあり、それからは追いかけっこ禁止、通称「オカ禁」を間に挟むようになった、今はオカ禁中である
能力:C<eleritas
能力概要:音よりも、光よりも、宇宙の膨張よりも、概念よりも、時間よりも、神よりも、どんな存在よりも速く、早く、疾い。
C<eleritasの速さはもはや物理法則に縛られておらず、光の速さなんて余裕で超える、相手が瞬きをした一瞬で、宇宙全域を数兆回走破できるほど速い
概念的な速さに達しており、本当にどんな存在でも、C<eleritasが速さで負けることは無い。無効化されても、異空間に飛ばされても、体が全て消失しても、C<eleritasは速くあり続ける。
弱点:速くなるために色々捨てているので、物理攻撃ができない、普段は、空間をとんでもない速さで往復することによって空間に「本来そこまでかかるはずのない負荷」をかけ、時空断裂を起こして戦う
オカ禁中なので、速さは音速の数十倍程度に抑えている、速さのギアをあげすぎると追いかけっこしたくなって宇宙の彼方に飛んでいってしまう
胸の中心にあるコアを破壊されると活動を停止する - 175二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00
名前:スモーキー・タツヒコ
年齢:75
性別:男性
種族:人間
本人概要:缶詰屋の店主のお爺さん。エプロンをして頭に手拭いを巻き、臭気対策としてマスクをしている。本人は戦う気はなく相手にシュールストレミングを勧めているだけだが、彼に危機が迫ると自動的に『瘴腐の裂手』が発動する。
能力:『瘴腐の裂手』
能力概要:自身の経営する缶詰店の目玉商品であるシュールストレミング。その臭気を実体化させ、鉤爪の生えた無数の腕として操る。敵は悪臭に鼻を刺激されながら爪で全身を切り裂かれる。さらにポルターガイスト的に無数の腕が缶を動かして相手にぶつける。タツヒコの操作によるものではなく、タツヒコを敵から守るために自動的に動く。
弱点:老人相応の身体能力。自身は単に缶詰の宣伝をしているだけのつもりであり、戦っている自覚はないため、攻撃全般への対応力に乏しい。臭気はタツヒコ自身にも効くため、戦闘が始まったらひたすらマスクで鼻と口を覆うしかない。 - 176二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:01
名前:伊集院 削
年齢:18歳
性別:男性
種族:人間
本人概要:遥か昔に久那土から追放されて長安帝国に住まう事になった伊集院家の長男。一族の中でも一番宝が好きであり、様々な宝を見て手に入れる為に冒険をしている。今は滅んだ暁ノ国やクァル・イシャア帝国が保持していた宝を見つけて、家に大切に保管している。最近は記憶によって価値が少ない物がその人物にとって宝になるというのが気になって、その人物にとっての宝になった価値が少ない物を手に入れて、どうしたら宝になるのかを調べようとしている。
伊集院家の性質として頭上に小さな金蔵が浮いており、金蔵の中に能力を持った物を納めると納めた物を取り出さない・再現せずにその内包された能力のみが肉体で使用可能になる一族である。
能力:《発納:削射》
能力概要:削が金蔵に納めているのは、地面・石・空間等を削って発射するボウガンである。このボウガンは生物は削れない。
弱点:金蔵に納めた物の能力を発動する際は大なり小なり隙が生じる。
削射の削る力が発動するまで0.5秒掛かる - 177二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:13
名前:筒ノ内 巌丸(つつのうち がんまる)
年齢:15
性別:男
種族:人間
本人概要:
とある連邦国から久那土へと送り込まれた破壊工作員。筒ノ内 巌丸は偽名。顔も指紋も整形済み。
元は孤児だったが政府の諜報員育成機関にて英才教育を授かり成長。その忠誠心の高さからわずか12歳で育成機関を卒業した。
元は性質の異なる能力を有していたが今回の任務に伴い、政府の極秘機関による脳改造を受け能力を変更。
調達の容易な日用品を兵器に変える力を手に入れた。
政府からの任務では他メンバーへの武器の融通および陽動作戦を引き受ける役割を担う。
能力:トイレットペーパーをガトリングガンに変える能力
能力概要:
トイレットペーパーをガトリングガンに変える能力。ミシン目1つ分=弾1発分。弾を撃ちきるとトイレットペーパーの芯だけが現場に残る。
複数のトイレットペーパーを連結させるほど、より威力の高いガトリングガンになる。
弱点:
・変化させたガトリングガンのバレルに強い衝撃を加えるとひしゃげて弾が発射されなくなる。
・数打ちゃ当たる系の武器のため狙いが正確ではない。
・水に濡れたり燃えたトイレットペーパーは変化させられないため、火や水に弱い - 178代理です25/10/22(水) 23:30:14
名前:蒼炎怪獣ヴィノキオン
年齢:1961歳
性別:オス
種族:蒼炎怪獣(別名:蝶翼竜)
本人概要:蒼い翼と鱗を持つ伝説の蝶翼竜
体長:73m、翼長:180m、体重:3万t、飛行速度:マッハ2.5(高機動形態時はマッハ5.0)、出身地:大海洋モビィ・ディック
蒼き星の守護者たる怪獣。鋭利かつ巨大な蝶を連想させるフォルムを持つ。
心優しい怪獣だがいたずら好きで、彼の住む地域の人々からはありがたいけどたまに迷惑ともっぱらの噂。
彼が大顎から放つ蒼炎”アブソリュート・フレイム”は絶対零度の凍る炎であり、星に仇なす巨悪を封印する。
長い首を畳み、翼を変形させ、蒼き炎を纏う高機動形態もある。
能力:マリオネット・ワールド・エフェクト
能力概要:己にとって都合の良い世界にちょっとだけ作り変える。
飛びやすくするように糸を垂らす、高速で遊泳できるように海を作り変える、敵を倒すために火山を活発にさせるなど。
彼が本気を出すと空から塩辛い雨が降り注ぐ
弱点:触覚の間にある逆鱗が弱点
また、世界を作り変えると言ってもよく見れば種も仕掛けも看破可能
垂らされた糸はよくよく見ると彼の腹と翼の下からたれており、切れば墜落する。
海は寒天のようにプルプルとしており、足場になる。
火山は敵味方の識別をしないのでたまに噴火がヴィノキオンに直撃する。
雨が降り始めたら直上に向かって攻撃すると、ヴィノキオンの機動力は大きく低下する。
高速機動形態時に海に叩き落とすと膨大な電飾…もとい魔力がショートし大ダメージを負う - 179二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:24
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- 180二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:27
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- 181二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:41
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- 182二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:44
名前:ピザディモ・クッテーロ・デイブ
年齢:33歳
性別:男性
種族:デブ
本人概要:
何よりもピザを食べる事を愛する超絶デブなピザ配達員。
配達を無事に遂行出来れば幾らでもピザを食べて良いと上司から許可されているため、どんな困難に見舞われようとも必ずピザの配達を遂行するというダイヤモンドの如き硬い決意を持つ。
ピザを食べる事、及び、ピザの配達を遂行する為ならばその巨漢に見合わぬ恐ろしい俊敏性を発揮する。
能力:ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ
能力概要:
ピザに関係するあらゆる概念を具現化し扱うことができる。
更にピザを食べれば身体能力や特殊能力が超絶パワーアップする。
弱点:
ピザが手元にない状態だと著しく弱体化する。
デブなのですぐにスタミナ切れする。長期戦は苦手。
要望:アツアツにトロけたチーズやフワッとモッチリなピザ生地など、読んでるだけで涎が出てお腹が空いてしまうようなピザの描写を濃厚にお願いします。 - 183二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:32:48
代理
名前:『ヴィンシュ魔法図書館の魔法使い』マギー・エルステ=クローリー・スレイ
年齢:10歳(見た目は成人男性)
性別:男
種族:魔法神
本人概要:未来のマーチとティルの仕業でこの世に誕生した創作上の神。マーチのタイムリープと一緒にこの時代に降り立った。世界一の魔法使いという設定。
出不精であり《忘却の館》の大図書館から出たことがない。『夢境の書架』とは違う最近クローリーの力で増設された別の地下図書館。冷静沈着で研究熱心な実力派であり、あらゆる魔法分野においてもっとも秀でた存在。だが運動はしたくないようだ。
魔法は世界一であり、問題を解決する役目もあるが問題を起こすこともする。
能力:【スレイ家の神秘】
能力概要:森羅万象ありとあらゆる魔法を自由に操る能力。魔導書から発動させた魔法から、クローリーが即興で作り出したオリジナル魔法、元々あった魔法同士を組み合わせた複製魔法や精霊を使役し自然を操る魔法など多岐にわたる。操れる魔法に制限はなく、相手の能力も自分なりに弄ってコピー魔法として操る。
これほど魔法に長け、魔法を愛している者はこの世にいない。
弱点:強力な魔法を使用する際は移動をさず、また反動もある。
生まれたての頃は身体能力も右に立つ者がいなかったのに慢心し過ぎて運動を怠ったせいで身体能力がとんでもなく低下している。そのため、走ることは不可能だし、常に浮遊していないと秒速でダウンする。
他の神と同様に天界から現界する肉体に必要な心臓部のコアを破壊されると問答無用で消滅する。
体力維持に魔力を使用しているため、魔法の発動にはラグがある。
要望:一人称は「俺」でお願いします - 184二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:38:09
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- 185二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 06:23:14
ワクワク
- 186二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:04:05
保守
- 187二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:24:03
あちゃー、油断して普通に寝てたわ
まあしゃーない - 188二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 18:29:18
さて
- 1891◆ZEeB1LlpgE25/10/23(木) 22:58:58
スモーキー・タツヒコvsピザディモ・クッテーロ・デイブ
蒼炎怪獣ヴィノキオンvsC<eleritas
伊集院 削vs筒ノ内 巌丸
都市型バイオ神殿『ハロー・ワールド』vs氷界の番人・グズムン
パトリックvs破滅のデザイナー - 190二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 23:01:45
まさかの食べ物対決!
- 191二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 06:36:13
保守
- 192二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 15:44:10
楽しみ
- 1931◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:09:35
題名『ピザと背脂と勇気の物語』
- 1941◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:58:17
「……いいか、デイブ。お前に任せるこの配達は特別だ」
上司の言葉が、デイブの脳にチーズより濃く残っている。
「配達成功すれば、好きなだけピザを食っていい」
その言葉を聞いた瞬間――
彼の脳内に鐘が鳴った。いや鐘じゃない。ピザ窯の火が燃え上がった。
目の前のピザ箱を見つめるデイブの目は、まるでモッツァレラを焦がす薪窯の炎のようにギラギラと輝いていた。
「承知した……必ず届ける。ピザにかけて」
道は険しい。
なぜならデイブは――
超絶デブだからだ。
脂肪が腕に乗り、首は二重どころかクアトロチーズ構造。
Tシャツのサイズは XXXXL。
移動負荷は高い。呼吸音はブタ。心拍数は戦闘機並。
だが――
ピザのためなら超加速する。
「出るぞォォォオオッ!!」
バァン!! - 1951◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:58:46
デイブ、走った。
いや、跳ねた。
いや違う、地面を粉砕して肉体ブーストで加速した。
ピザを届けるためだけに!!
だが。
その道の前に、一つの店が――いや悪魔の穴が待ち構えていた。
「缶詰専門店・タツヒコ」
軒先にぶら下がる大量の缶詰。
よく見ればどれも魚の描かれた不穏なラベル。
……クサい。
臭いじゃない。クサい。概念的にクサい。
通り過ぎるだけで鼻粘膜が焼けそうなこの店……嫌な予感しかしない。
ピザの香りを何よりも愛するデイブは、本能的に理解した。
「……こいつは、ピザに対する敵だ」
店の前で老人が一人、にこやかに立っていた。
「おう兄ちゃん、腐った魚の缶詰食う?」
唐突すぎた。 - 1961◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:59:45
ピザ脳のデイブにも理解不能だった。
「……何を言ってる?」
「いやだから、シュールストレミング食う?」
周囲の空間がビリビリと震える。
ドブと死体と硫黄を足して凶悪にしたような悪魔の腐臭が空間を満たしていく。
鼻が死ぬ。肺が泣く。
胃が悲鳴を上げる。
人生最大最悪の危機――!!
「……ふざけるな」
デイブはピザ箱を握り直し、宣告する。
「俺は急いでる。ピザの悪を正す必要がある」
「おう、じゃあ缶詰食う?」
その瞬間――動いた。
老人の背後から裂けるように、黒い霧があふれ出た。
いや、霧じゃない――腕だ。
無数の腐臭をまとう腕が、空から地面から店の壁から、一本、また一本と生えてくる。 - 1971◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:00:00
『瘴腐の裂手』――発動。
その全てが、デイブめがけて殺到した。
――ピザ配達、最大の危機が幕を開けた。 - 1981◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:00:41
腕だ。
腕、腕、腕、腕――
腐った黒い霧の腕が無限に伸びてくる。
一本一本が人間の大腿骨くらい太く、ぬるりとした腐肉が滴っている。触れた地面はジュッと音を立て腐り落ちる。植物は枯れ、虫は落ち、小石すら崩壊して砂になる。
――触れたものすべてを腐らせる。
瘴腐の裂手(しょうふのれって)――
この老人の異能。まさしく災厄。
「なにモタモタしてんだ兄ちゃん。缶詰食うか聞いとんねん」
「断ると言っているッ!!」
デイブは絶叫し、両足を踏み込み――
跳んだ。
大地が砕け、瓦礫と土煙が舞う。
――着地と同時に拳を叩き込む。
「ピザ拳ッ!!!!」
肉と脂肪に包まれた拳が、異様な重量圧を伴って迫る裂手の腕を粉砕する。 - 1991◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:01:06
バゴォォォォン!!!
異能の腕が弾け飛び、腐臭の霧が空へ吹き飛ぶ。
老人が目を細める。
「ほう、やるな兄ちゃん」
デイブはピザ箱を後ろへ構えた。
その構えは――戦士のそれだった。
「俺はデイブ・グレアム――ピザを信じる男だ」
「ピザは届いてこそ価値がある」
「チーズは魂、ピザは正義――それを届けることは愛だ!!」
老人は苦笑した。
「愛ねぇ……羨ましい話だわ」
「俺から全部奪ったやつは――もうとっくに腐って死んどるけどなぁ!!」
腐敗が爆ぜた!!!
老人の全身が黒い瘴気を吹き出し、巨大化する。
筋肉が腐乱し、臓器をむき出しにして膨れ上がりながら――
瘴腐の巨人へと変貌した。 - 2001◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:01:40
デイブは迷わず走る。
なぜなら――
時間がないからだ。
ピザの保温タイムリミットが迫っている。
「行くぞ――ピザの名にかけて!!」
死闘開始。 - 2011◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:05:22
腐臭が爆ぜ、世界が黒に沈む。
腐食の瘴気が半径300mを包み、建物は錆び崩れ、道路は腐り落ち、電柱は溶けて倒れた。
その中心、腐敗の巨人――いや、もはや災厄の権化。
瘴腐の裂手・完全解放形態
「ぐぉおおおおおおおあああああああ!!!!」
叫びではない。腐敗が吠えているのだ。
無数の腐肉の腕が天へ伸び、地へと突き刺さり、逃げ道を完全に断つ。
しかし――その中心に立つ男は、ただ一人。
ピザデリバリーマン。
ピザディモ・クッテーロ・デイブ。
左手にはピザ袋。
右手には――熱々のピザを一枚。
「……ハァァァァ……ハァァァァ……うまいッ!!」
そう、食っている。
この地獄の中で、戦いの最中に―― - 2021◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:07:00
ピザを食っている!!!!
腐敗の巨拳が迫る――!
轟ドォォォォォン!!!!
地面が砕け、クレーターが広がる。
しかし――デイブはいない。
視界の外――上だ!!!
「おおおおおおおおおッ!!!!!」
背脂とチーズで強化された肉体が、まるで大砲の弾のように落下する。
ピザ・ドロップキィィィィィック!!!!
腐敗の巨人の顔面に直撃!
腐肉が吹き飛び、腐臭が爆ぜ、瘴腐の霧が弾け散る。
だが――老人の声が届く。
「ええぞ……楽しいのう兄ちゃん」
「だがもう遅い……瘴腐は――空気に溶けた」
腐敗の黒霧が街に広がっていく……
人々が逃げ惑う。 - 2031◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:08:41
皮膚がただれる者、咳き込み倒れる者、視界を失う者。
死ぬ――全員。
デイブはその光景を見た。
叫ぶ。
「ふざけるなァァァァァァァ!!!!」
血管が弾けるほど怒りが走る。
ピザは――人を幸せにするためにある。
なのに。
目の前で。
命が失われようとしている。
「この俺が……デリバリーの途中で人を見捨てると思うなよ!!!!」
ピザが燃える。
チーズが輝く。
トマトソースが逆巻く。
――ピザ次元解放(デリバリー・クライシス)――
デイブの叫びと共に世界が赤く染まる。
ピザの力が――暴走を始めた。 - 2041◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:10:32
街の上空に、赤く溶けたチーズのオーラが立ち上る。
薪窯で焼かれた生地の香りが暴風のように巻き起こり、空気を切る。
デイブの体が、光り始めた。
「……わかった……このままじゃ終われねぇ……!」
背中のピザ箱が熱を帯び、黄金に輝く。
チーズが溶け、ソースが沸騰し、香ばしい生地が湯気と共に舞う。
デイブ・クッテーロ、覚醒――ピザ・エンペラー形態!!
腕が膨らむ。
腹が膨らむ。
背脂が燃える。
「これが……ピザの力……!」
地面に足を踏み込み、跳躍。
「食らえ――マルゲリータ・インパクト!!」
空中でピザを放つと、黄金のチーズが天高く伸びる。
煙が立ち上り、湯気に包まれたソースの匂いが戦場を支配する。
腐敗の巨人――タツヒコの瘴腐の腕が迫る。
だが、ピザの光の中で腕は溶ける。
チーズとトマトソース、バジルが混ざるオーラが、腐敗の臭気を圧倒する。 - 2051◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:11:13
「クアトロフォルマッジ・ストーム!!!!」
デイブは両手にピザを持ち、渦を作るように空中で回転。
チーズが伸び、トマトが弾け、香りが暴風と共にタツヒコを包む。
「あああああッ!俺の腕が――臭いが――!」
老人の巨体が暴れる。
だが、チーズと生地、香ばしい湯気の前には抗えない。
「ピザは……裏切らねぇ!!」
デイブの叫びと共に、空中のピザが全て収束。
ピザの衝撃波が腐敗の巨人を押し潰す。
街には、チーズの焦げる香りとピザソースの甘酸っぱい匂いだけが残った。
瓦礫の間から湯気が立ち、熱々の生地が空気を震わせる。
「……俺は、絶対に届ける……ピザを……全ての命に……!」
ピザ・エンペラーとしての力が、デイブを支配する。
チーズの伸びる音、焼き立て生地の香り、アツアツのトマトの熱気――
それはまさに、食欲と正義の化身だった。 - 2061◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:13:34
腐敗の巨人――タツヒコの瘴腐が街を覆い尽くす。
だが、デイブの体は黄金のチーズオーラに包まれ、もはや街全体がピザの香りで支配されている。
「これが……俺の最終奥義……!」
デイブは空中で跳躍し、手にしたマルゲリータ、クアトロフォルマッジ、ナポリ、ルッコラ生ハムの四枚を同時に振りかざす。
チーズが伸び、湯気が立ち、焼きたての香ばしい匂いが暴風のように街を駆け抜ける。
「ピザ・デリバリー・カタストロフォォォォ!!!!」
腕が飛び、腐敗の霧が吹き飛ぶ。
老人の叫び声とともに、瘴腐の裂手は空中でバラバラに砕けた缶詰と化す。
「ぐ……ぐはあああ……クサい……く、臭すぎる……」
タツヒコはピザの圧倒的概念に飲まれ、あっという間に無力化。
しかし、デイブの脳内はさらに燃えていた。
「まだ……まだ終わらねぇ……!」
デイブはその場でピザをかじる。
アツアツのチーズが口の中で伸び、湯気が鼻をくすぐる。
モッチリとした生地、芳醇なトマトソース、バジルの香り―― - 2071◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:13:47
味覚が覚醒し、身体能力が跳ね上がる!!
再び跳躍。
その一瞬、空間が揺れる。
「ピザ・エンペラー・オールデリバリー!!!」
黄金のチーズ光弾が街全体を覆い、腐敗と臭気は完全に浄化。
瓦礫が舞う中、ピザの香りが勝利の証として立ち込める。
「……これが、俺の正義……ピザだ……!」
デイブは勝利のポーズを決め、汗とチーズを混ぜた光が舞う。
街には人々が息を吹き返し、空気には熱々の石窯ピザの香りだけが残った。 - 2081◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:16:10
腐敗も、臭気も、瓦礫も――すべて消え去った。
街には熱々のピザの香りだけが漂う。
デイブは地面に膝をつき、箱を開けた。
中には……まだ湯気の立つ、完璧なマルゲリータ。
「……う、うまい……」
チーズがとろけ、ソースが光り、香ばしい生地がふわりと口の中に広がる。
一口食べるごとに、デイブの体力、魂、そして戦闘力が全回復する。
「これが……ピザ……俺のすべて……」
街の人々も安堵の表情。
瓦礫に埋もれた子猫が鳴き、犬が尻尾を振る。
誰もがデイブの勝利を静かに、しかし確かに感じていた。
老人・タツヒコは……どこかで倒れている。
鼻を覆ったマスクの下で微笑む。戦った自覚はない。
だが、世界は変わった。
腐敗も臭気も、ピザの力で浄化されたのだ。 - 2091◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:16:21
デイブは最後のピザを空に掲げる。
「よし……これで、今日の配達は完了だ……!!」
黄金に輝くチーズとトマトソースの光が街を包む。
太陽の光と混ざり、まるでピザが世界を祝福しているかのようだった。
街にはもう、悪臭も腐敗もない。
ただ、熱々のチーズの香りが――
人々の心と胃袋を満たす。
「さて……次の配達に行くか……ピザァァァ!!」
デイブはピザ箱を背負い、颯爽と街を駆け抜ける。
チーズが伸び、ソースが湯気と共に踊り、空気を熱く揺らす。
世界は平和――そして美味い。 - 2101◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:58:42
以上
- 211二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:00:33
乙です!良かった!
- 212二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:14:54
さすがピザ!ピザエンペラー!
- 213二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:17:32
投下乙です!
ピザが食べたくなってきた - 214二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 01:51:33
ピザの力ってスゴイんだなあ…
- 215二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 09:18:45
さてさて
- 216二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 16:08:02
保守すルと申します
- 217二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:09:52
ほしゅ~
- 2181◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:34:21
題名『蒼き星の戦域』
- 2191◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:34:57
大海洋モビィ・ディックの水平線は、静かで広大な蒼に包まれていた。
波は穏やかに揺れ、太陽の光を反射してきらめいている。
だが、空気は突然、重く、張り詰めた緊張に震えた。
突如、巨大な影が水平線の向こうから現れる。
その翼は鋭利で、美しく、まるで巨大な蝶のように空を切る。
「今日も遊ぶ時間か……」
蒼炎怪獣ヴィノキオン――伝説の蝶翼竜――が、大海原に姿を現した。
体長73メートル、翼長180メートルの巨体は光を受けて蒼く輝き、翼の縁を沿う蒼炎が絶対零度の冷気を伴って周囲の空気を凍らせる。
海面に近い部分では、波が凍りつき、氷の針が飛び散る。
ヴィノキオンの眼光は鋭くも、どこか優しさを含んでいた。
そして、微かな波紋――光速を超えた速度の振動が水面を走る。
――C<eleritas。
「オカ禁中……でも、少しだけ……」
視認できるのはわずかな光の残像。
その動きは常識を超え、光よりも速く、空間そのものを切り裂くかのようだ。
ヴィノキオンは大顎を開き、蒼炎“アブソリュート・フレイム”を放つ。
海水が瞬時に凍り、氷の棘が空を舞う―― - 2201◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:35:18
しかし、C<eleritasは概念速度で迂回し、炎は空を切るだけ。
まるでそこに敵は存在していないかのようだった。
ヴィノキオンは翼を広げ、高く旋回しながら目を細める。
「ふむ……ただ速いだけか……面白そうだ」
大海洋の静寂は、戦いの前触れとして不気味にざわめく。
そして、風と蒼炎が混ざった匂いが、空と海に支配的に広がった。 - 2211◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:35:42
ヴィノキオンは翼を畳み、高機動形態へと変形した。
蒼炎が全身を纏い、翼の先端が稲妻のように光る。
空気を切る音が轟音となって耳を突き、波は震え、海面は小さく裂ける。
「この速度で……届くか……!」
ヴィノキオンは首を振り、翼を叩きつけるように振動させながら急降下。
目標を捕らえ、蒼炎を集中させた斬撃が空気を裂く。
しかし――その瞬間。
光の残像が交錯し、C<eleritasが姿を消した。
「はやっ……」
ヴィノキオンの唸り声に混じり、蒼炎が空を切るだけで標的は消えている。
C<eleritasは概念速度の範囲で空間を迂回し、背後に回り込む。
体が消えることも、物理を超える速度で動くことも、全てが一瞬の出来事だった。
「……速すぎる……」
ヴィノキオンの瞳に初めて焦りの色が宿る。
高機動形態の翼は自在に振るわれるが、巨体を制御するには限界があった。
一方のC<eleritasは、速度を制御しつつも攻撃の隙を見せず、空間に微細な負荷を刻み続ける。
海面が再び震え、塩の匂いと冷気が混ざり合う。
蒼炎の光が空を赤青に染め、翼と速度の衝突が、広大な大海洋を圧倒的な迫力で支配した。
「……ここからが本番だな」
ヴィノキオンは翼を再び広げ、蒼炎をさらに濃く纏う。
そして、戦場はさらに緊張を増し、海と空が戦いの舞台として完全に支配されていく。 - 2221◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:36:09
ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎を全身に纏ったまま、大海洋を自在に操り始めた。
海面は寒天のように固まり、ぷるぷると震える足場に変化する。
「これで、少しは有利に……」
大顎から蒼炎を放ち、海水を瞬間凍結させ、氷の棘を敵に向けて飛ばす。
しかし、C<eleritasは概念速度で迂回。氷の棘は空を裂くだけで何も届かない。
次にヴィノキオンは空中に糸を垂らす。
翼の下から伸びる無数の糸は、風と蒼炎で光を反射し、高速飛行を助ける足場となる。
さらに、周囲の火山を活発化させ、塩辛い雨を降らせる――環境そのものを戦場に変えた。
「さあ……どうだ、これでも避けられるか」
だが、C<eleritasは速度制限中でも概念速度を応用し、海面も糸も火山の噴火も避けてしまう。
火山の噴火は味方も敵も選ばず、ヴィノキオン自身に直撃することもある。
「……物理の制約が、ここまで足を引っ張るとは……」
翼を叩き、蒼炎をより密度高く放ちながら、ヴィノキオンは焦りを隠せない。
概念速度を持つC<eleritasにとって、この戦場操作は単なる遊びに過ぎなかった。
海面に映るヴィノキオンの蒼炎は、美しくもどこか悲壮感を帯びる。
塩辛い雨が降り注ぎ、巨大な翼がその中で輝きを増す――しかし、その努力は概念速度の敵にはまだ届かない。
「……もう少し、もう少しで……!」
蒼炎が空と海を支配する中、戦いの緊張はさらに高まった。
ヴィノキオンの環境操作――物理の力を極限まで活かした逆襲――と、C<eleritasの速度の壁。
この差は、戦場全体に不穏な緊張を生むことになる。 - 2231◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:36:29
戦いは膠着状態にあった。
ヴィノキオンの翼は蒼炎で輝き、海面はぷるぷると震えている。
火山は噴火し、塩辛い雨が降り注ぐ――だが、C<eleritasは概念速度で自由自在に回避する。
「……やはり、簡単にはいかないか」
ヴィノキオンは翼を振り、蒼炎を集中させながら敵の動きを封じようとする。
しかしC<eleritasはその速度制限中でも、空間を瞬間的にずらして接触を回避する。
その動きの中、奇跡は起こった――
C<eleritasが高速迂回の際、無意識のうちにヴィノキオンの翼下の触覚付近――逆鱗にわずかに触れてしまったのだ。
「……ここだ!」
ヴィノキオンは長い首を畳み、大顎から全力の蒼炎“アブソリュート・フレイム”を逆鱗に集中させる。
逆鱗が発光し、翼の振動と蒼炎が共鳴する。
その瞬間、空間の温度が急激に下がり、塩辛い雨は一瞬にして氷の針となって降り注いだ。
C<eleritasは初めて物理的な干渉を受け、速度の制御が乱れる。
光の残像が歪み、空間の裂け目が一瞬だけ止まる。
「……これが、逆鱗の力か……!」
ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎と衝撃波を連続して放つ。
これまで無敵だった速度の化身が、初めてヴィノキオンの攻撃を正面から受ける瞬間だった。
大海洋モビィ・ディックは轟音に包まれ、海面は裂け、蒼炎と光の奔流が空と海を支配する。
この瞬間――戦局は初めて、ヴィノキオン有利に傾き始めたのだった。 - 2241◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:37:33
逆鱗への接触により、C<eleritasは初めて物理的な干渉を受けた。
概念速度を制御していたギアがわずかに乱れ、背中に触れた衝撃でコアへのアクセスが一瞬狂う。
「……これは……!」
ヴィノキオンは翼を最大限に広げ、全身の蒼炎を爆発させる。
空気が裂け、海面は蒼い光に染まり、塩辛い雨が一層鋭く降り注ぐ。
蒼炎の熱と絶対零度の冷気が混ざり合い、空と海が生き物のように揺れ動いた。
C<eleritasは速度制限中で、概念速度を完全に発揮できない。
空間を操作して回避しようとするが、蒼炎と逆鱗の力に押され、瞬間的に迂回が遅れる。
「……まだ……まだ本気じゃない……」
ヴィノキオンは大顎からさらに強力な蒼炎を放ち、翼で衝撃波を連続で叩き込む。
その衝撃はC<eleritasの残像をも打ち砕き、空間に負荷を刻む。
光と蒼炎が渦巻き、海面は裂け、雨粒は氷の針となって降り注ぐ。
速度の化身――C<eleritasは、概念の壁を超える力を誇ったが、
物理の圧力の前に、わずかに動きが鈍る。
「……これで……!」
ヴィノキオンは翼を振り、蒼炎と氷の衝撃を同時にC<eleritasに叩き込む。
空間の裂け目が歪み、光の奔流が巻き上がる。
概念速度の化身が、初めて物理的圧力に押され、戦場に一瞬の静寂が訪れる――
そして、この瞬間こそ、勝利への扉が開かれる兆しだった。 - 2251◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:37:59
逆鱗の衝撃と全力の蒼炎により、C<eleritasはついにコアへの干渉を受けた。
概念速度の化身――この宇宙最速の存在が、初めて物理的に制御を奪われる瞬間である。
「……ここで、終わりか……」
ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎を空に放った。
絶対零度の冷気が大気を揺らし、塩辛い雨が海に降り注ぐ。
蒼炎は光と影を混ぜ、空と海を青く染め上げた。
C<eleritasは光の残像を最後に残し、徐々に動きを止める。
普段なら瞬間移動で回避するはずの攻撃も、逆鱗の力と翼から放たれる蒼炎には抗えなかった。
「……これが……守護者の力……」
巨大な翼を広げ、空と海を支配するヴィノキオン。
その姿は威厳と優しさを同時にたたえ、いたずら好きな笑みを浮かべていた。
しかし、その瞳には、戦いを終えた静けさが宿る。
大海洋モビィ・ディックは轟音と光の奔流に包まれた後、再び静寂を取り戻す。
海面は波を揺らしつつ、蒼炎の輝きを映し出し、勝利の証として刻まれる。
「……よし、これで終わりだ」
蒼き星の守護者――ヴィノキオンの勝利が、世界に確かに刻まれた。
空と海は再び穏やかさを取り戻し、ただ静かに、巨大な怪獣の蒼い影だけが大洋の上空に残った。
戦いは終わった。
だが、蒼炎は消えず、蒼き星の守護者の力は、この世界の平和を静かに見守り続けるのだった。 - 2261◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:38:12
以上
- 227二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 23:41:21
逆鱗が本気スイッチになってる!
海と空を支配する竜ってかっこいいね - 228二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 05:43:22
投下乙です!
炎を空に向かって吐く演出が個人的に好きかも - 229二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 10:28:22
さて