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福島原発事故から15年 食品の放射能汚染を中心に | 原子力資料情報室(CNIC)   
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『原子力資料情報室通信』第621号(2026/3/1)より

本稿では東京電力福島第一原子力発電所事故で発生した環境放射能汚染を、食品影響とその対応を中心に振り返る。

原子炉から放出された放射性物質

原発の燃料であるウランが核分裂して生じた原子核の大きさはさまざまで、多種多様な放射性物質(核種)が発生する。また、原発の運転に伴ってプルトニウムなどのウランより重い原子核の放射性元素(超ウラン元素)、炉心構造物に使われる鉄などが放射化された物質も生み出される。
東京電力福島第一原発事故では炉心がメルトダウン、水素爆発が発生した。多くの人工放射性物質が風や海流に乗って日本のみならず世界に拡散した。広大な地域に人が住めないほどの汚染がもたらされたが、それでも放射性セシウムの8割程が太平洋に落下したと推定されている。
福島原発事故で放出された放射性核種の評価を図1にしめした。常温で気体のキセノン13(3半減期5日)に加えて、内部被ばくにかかわる重要な核種であるヨウ素131(半減期8日)やセシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30年)は沸点が低く容易に気体となって、大量に放出された。その際に比較的沸点が高いため大気に拡散しなかった核種も、核燃料を冷やすための冷却水に直接触れて溶けだし、一部はALPS処理汚染水とともに海洋に放出されている。図2に示したのは、航空機モニタリングで観測された、土壌に沈着した放射性セシウム濃度を示した地図である。広大な範囲が汚染されたことが分かる資料だが、放射性物質はこの地図に示された地域の土壌へ沈着するまでに、風に流されて移動しながら、人々に外部被ばくのみならず呼吸による内部被ばくももたらした。しかし、時々刻々と変化する大気汚染状況を記録するデータは少なく、詳しい初期被ばくの証拠は残っていない。なお、事故の初期には、そのほかの短寿命の放射性物質(テルル、テクネチウム、モリブデンなど)も環境から検出されたが、それらによる健康影響評価もほとんどされていない。

食品の汚染と出荷制限

農産物の放射能汚染が明らかになると、内部被ばくを抑制するため食品の「暫定規制値」が通知された。肉や野菜などの一般食品において放射性セシウムで500ベクレル、放射性ヨウ素で2,000ベクレル、そして、飲料水や牛乳においては放射性セシウムで200ベクレル、放射性ヨウ素で300ベクレルという基準だった。1年後の4月に「放射性セシウムの新基準値」へと改定された。これは放射性セシウム濃度で、一般食品が100ベクレル、乳児用食品と牛乳が50ベクレル、飲料水が10ベクレルというものだ。食品による被ばく限度は、暫定規制値では年5ミリシーベルト、新基準値では年1ミリシーベルトに制限され、現在も継続している。
通常は、原子力施設からの一般住民の被ばく限度は年1ミリシーベルト以下に制限されるが、ひとたび原発事故が発生すればそれが緩められてしまう。図2で示した通り、土壌の放射能汚染は東日本が中心だが、汚染のほとんどない西日本を含めて全国でこの緩められた規制値が適用された。

■ 農産物等
基準を超える汚染食品の流通を防ぐため、食品の種類と産地を指定して出荷制限や摂取制限がなされた。翌年3月29日までの約1年間で指示された制限は図3のとおりだ。農地の土壌汚染に関する情報が少ない初期には広域での制限がなされたが、汚染状況の実態が詳しく把握されるにつれて対象地域が細かく指定されるようになった。
対象食品数は年々減少しているが、現在まで出荷制限は続いている。現在(令和7年10月14日時点)は、福島原発周辺の帰還困難区域における農産物以外に、山菜や野生のキノコ、野生生物といった人間が管理できない一部の食品を中心に13県(福島、岩手、宮城、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、山梨、長野、静岡)に広がっている。
福島県は県内で生産される玄米の全量全袋検査を2012年から実施した。水田の土壌汚染の程度に応じた生産制限や、カリウム施肥によるセシウム吸収抑制対策などをおこない、5年間連続して基準値超えの玄米がないことを確認したのち、2020年産米から避難指示地域を除く地域で全数スクリーニング検査(25ベクレル以下を合格、超過分を精密検査)からモニタリング検査に移行した。2019年度は、検査数9,492,612袋のうち1キログラムあたり25~50ベクレルが4袋あったが、それ以外はスクリーニング検査をパスした。
牛肉も同様に2020年度に全頭検査からモニタリング検査へと移行したが、2024年度に1例が基準値(100ベクレル)を超過した。これは農家で隔離されていた古い稲わら(2011年4月収穫)を誤って牛に与えてしまったためで、流通はしていない。全頭検査を終了した後に、基準値超過が発生したことは重い事実だ。
厚生労働省のとりまとめによると、2024年度の米の放射能検査数は福島県の避難指示区域の74,182件と抽出検査分(17都県、福島県の避難指示区域等を除く)319件の全てで基準値以下(50ベクレル以下、検出せずを含む)だった。米以外の検査数は、麦が100件、野菜類が2,380件、果実が584件、豆類が101件、その他地域特産物が166件、きのこ・山菜類が9,726件だった。果実(柿)で1件、きのこ・山菜類で119件が50以上100ベクレル以下の範囲だった。100ベクレル超(基準値超過)はきのこ・山菜類のみで63件だった。
検出せずと50ベクレル以下が同じにまとめられているため、参考に柿の詳細結果を確認したところ、検査88件中、不検出は75件(検出限界は1.2~25ベクレル/kg)、10ベクレル未満が10件、10~25ベクレルが2件、上述の1件の50ベクレル超の実際は51ベクレル(福島県伊達市)だった。
野生鳥獣肉は、深刻な放射能汚染が続いている。2024年度の検査数8,034件のうち、検出は2,001件と1/4に迫る。100ベクレル以下は1,875件、100~500ベクレルが109件だった。500ベクレル以上の17件は全てイノシシだ。500~1,000ベクレルが8件、1,000~5,000ベクレルが8件、1件は14,000ベクレル(福島県飯館村)と非常に高い汚染だった。

■ 水道水
水道水も放射性物質に汚染された。事故の初期には福島県および近郊10都県(福島、宮城、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟)の水道水から放射性ヨウ素が検出された。成人の飲料水の暫定規制値である300ベクレルを超過し摂取制限されたのは福島県内の1か所だったが、5都県(福島県、茨城県、栃木県、千葉県、東京都)で乳児の飲用を規制する100ベクレルを超過し、乳児の摂取制限がされた(図4)。原発から200キロメートル以上離れた都心の水道が汚染されたことは社会に強い衝撃を与えた。放射性セシウムについても8都県(上記から神奈川、新潟を除く)の水道水から検出されたが、基準(暫定規制値200ベクレル)を超過する濃度のものは観測されなかった。
原子力規制庁は47都道府県の水道水中の放射性物質濃度を継続して調査している。現在、東北・関東地域でのみ水道水から1000分の1ベクレル程度の放射性セシウムが検出されており、西日本では不検出である(図5)。このことは一度汚染されてしまった環境は年月が経過しても元には戻せないこと、福島原発事故の汚染の影響が東日本を中心に、生活上選べない水道水というインフラにおいて広く継続していることを改めて気づかせる。

■ 水産物
福島原発事故では原子炉が破損し、高濃度放射能汚染水が意図せず海洋へ漏えいした。その後、さらなる高濃度汚染水の漏えいを防ぐために、比較的低濃度の汚染水を海洋へ意図的に放出するなどした。その結果、水産物が汚染され、初期には表層魚であるイカナゴやカタクチイワシの稚魚が汚染による出荷制限の対象となり、その後、出荷制限はヒラメなどの底層魚へと広がった。河川や湖沼などに生息する淡水魚からも基準値超えの汚染が検出された。
事故10年後以降の調査では、100ベクレル超のうち7件が淡水魚(イワナ、ヤマメ)であり、3件がクロソイだった(2025/12/16時点)。淡水魚は海水魚と比較し、汚染が継続する傾向がある。
2022年1月、福島県沖のクロソイから食品基準値を大きく上回る1,400ベクレルのセシウムが検出され、また、食用を前提としないが、2023年5月には福島第一原発の港湾内から18,000ベクレルのクロソイが確認された。

■ ALPS処理水海洋放出
東京電力は地元関係者や世界中からの反対に向き合わず、原発敷地内の保管場所が不足し廃炉作業に支障があるとして、2023年8月よりALPS処理汚染水の海洋放出を開始した。ALPS処理汚染水には、原理的に取り除けないトリチウム(三重水素)の他、浄化しきれなかった複数の放射性核種も含まれている。トリチウムは私たちの体の6割程度を占める水およびDNAに含まれうるため健康リスクが指摘されている。それだけでなくトリチウム以外の取り除ききれなかった核種のうち、残留濃度の高い炭素14(C-14)は、糖質、脂質、アミノ酸などに含まれる炭素に置き換わることができるため、体内への取り込みが特に懸念される。
2025年末までに放出された総量は133,321m3、トリチウム総量は約31.2兆ベクレルと発表されている。浄化しきれなかった核種の残留濃度と総放出量から、トリチウム以外の核種の総放出量を計算した(図6)。積算すると無視できない量となっている。これらは原発事故が起こらなければ海洋に廃棄されることのなかった核種である。今後、自然環境での振る舞いをきちんと調査する必要があると考える。
農産物においても水産物においても、人が生育環境を制御することのできる農水産物については、基準値を超える汚染は事故数年後からほとんど見られなくなった。また、米の全量全袋検査を実施することで基準値を超える米の流通を防ぐことができた。一方、汚染飼料の混入によって牛肉の汚染が発生するなど人によるミスが汚染をもたらす例もみられた。野生鳥獣肉や山菜キノコ類、天然の魚においては、年月が経過しても高濃度の汚染が散見される。人が介入できない森林や海洋の放射能汚染は実態が分からないことが多く、問題は継続している。

(谷村暢子)

※本稿の放射性物質濃度ベクレルは断りがない限り1キログラムあたり

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