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2026.04.16
1月から放送がスタートしたアニメ『花ざかりの君たちへ』。本作のプロデュースに名を連ねるのが、アニプレックス(以下、ANX)とCrunchyroll(クランチロール)が共同出資によって設立したアニメプロデュース会社・HAYATEだ。
アニメ作品を作る側と届ける側。それぞれのノウハウと知見を持ち寄って、ひとつの集合体になったとき、そこにはどのようなシナジーが生まれるのだろうか。
HAYATE設立の背景と狙い、そして現在のアニメ業界において、新規のアニメプロデュース会社が何を標榜していくのか? 主要スタッフが語る。
目次
中山信宏
Nakayama Nobuhiro
HAYATE
山口貴也
Yamaguchi Takaya
HAYATE
株式会社HAYATEは、2025年3月にANXとCrunchyrollが共同出資で設立したアニメ作品のプロデュース会社だ。多くのアニメクリエイターやアニメ制作スタジオとのパートナーシップを通じて、ANXが長年培ってきたプロデュースノウハウと、ストリーミングサービスによって世界各地でアニメ、マンガ作品の視聴環境を構築したCrunchyrollが持つ、世界規模のマーケティング力や配信における知見。両者をかけあわせることで、良質なアニメ作品をプロデュースし、全世界のアニメファンに届けていくことを事業ドメインにしている。
――アニメ作品のプロデュースを手がける会社として、ANXとCrunchyrollが共同出資で設立したHAYATE。まずは、HAYATE設立の意図を教えてください。
中山:世界で日本のアニメ作品へのニーズが高まり続けるなか、アニメ作品を企画、製作するANXと、ストリーミングサービスで世界中のファンにアニメ作品を届けるCrunchyrollの両社が、ソニーというグループのなかで、どのようなシナジーを生み出せるのかと考えたときに、ひとつの答えになったのがHAYATEです。
会社設立時に発表したリリースにも記載してありますが、HAYATEの設立目的は“Crunchyroll向けに良質なアニメ作品を作り、世界に発信していくこと”。スターティングメンバーとしてANX、Crunchyrollの双方からスタッフが集い、HAYATE独自のグローバルな視点を持ちつつ、アニメ作品のプロデュースを行なうために設立されました。
ちなみに、私はANXから、山口さんはCrunchyrollから、それぞれ出向という形でHAYATEに在籍しています。
――ソニーグループ内のシナジーという話が挙がりましたが、ANXとCrunchyroll、両社の事業内容と関係性についても、改めて説明をお願いします。
中山:ANXは、アニメを中心とした映像、音楽作品の企画、製作、ゲームの企画、開発など、さまざまな領域でビジネスを展開する総合エンタテインメントカンパニーです。そのうえでANXは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)をヘッドクオーターとするソニーミュージックグループの一員で、SMEの100%子会社になります。
山口:Crunchyrollは、カリフォルニア州ロサンゼルスをはじめとした、世界各地に拠点を置くグローバル企業です。200以上の国と地域で、正規にライセンスされた世界最大級のアニメコレクションやマンガを、ストリーミングサービスを通じて複数の言語で提供するとともに、イベントやグッズ、ゲームなど、さまざまなチャンネルを使ってアニメのファンコミュニティを世界で生み出しています。
Crunchyrollが、現在の企業形態になるまでにいくつかの変遷を経ていますが、直近で言えば2021年8月にソニーグループがCrunchyrollを買収。現在は、米国法人のSony Pictures EntertainmentとANXの合弁会社になっています。
なので、ANXとCrunchyrollはともにソニーグループの一員でありつつ、ANXとは直接的な資本関係もあるということになります。
――アニメを作るANXとアニメを届けるCrunchyroll。視点を変えると、ライセンサーとライセンシーという立場にもなるわけですね。そのうえで、過去に掲載したインタビューでも話に挙がりましたが、ANXとCrunchyrollは、既に『俺だけレベルアップな件』(以下、俺レべ)などのタイトルで、製作協力を行なってきました。なぜ、改めてHAYATEという会社が必要になったのでしょうか。
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中山:理由はいくつかあって。まずは、アニメのビジネスモデルの変化です。僕らがアニメ業界に入ったときはTV放送を軸にしながら、DVD、Blu-rayのパッケージ商品がよく売れていた時代でしたが、近年のアニメビジネスの主戦場は配信です。
さらに、配信が軸になっていくことで、マーケットは国内だけでなく海外にまで広がりました。そうなるとやはり、どんな作品を作るかというマーケティングであったり、それぞれの地域に合わせたローカライズだったりが必要になってきます。
北米やアジアといったANXのブランチがある地域は別としても、世界中の詳細なマーケティング情報をすべて揃えるのはなかなか難しい。その点、Crunchyrollは世界でどんな作品が注目され、見られているかの情報を豊富に持っているわけですね。
そのうえで、ご指摘いただいた通り、ANXとCrunchyrollはライセンサーとライセンシーという関係でもあって、話せること、話せないことがあります。なので、そこにはお互い立ち入らず、それ以外のノウハウを持ち合いながら、Crunchyroll向けに世界中のアニメファンから支持されるような、良質なアニメ作品をHAYATE独自で生み出し、世界に発信していこうということになりました。
山口:実はCrunchyrollにもアニメを企画、製作するチームがあって、今回、HAYATEに合流しているのは、私も含めて全員そのチームのメンバーなります。
――それは、『俺レべ』に携わったチームになるのでしょうか。
山口:いえ、『俺レべ』とは違うチームです。過去に携わった作品でいうとWEBTOONのアニメ化作品で『神之塔 -Tower of God- 』や『喧嘩独学』、北米で生まれたオンライン小説『最強の王様、二度目の人生は何をする?』などが挙げられます。
――独自にアニメの企画、製作の実績があるなかで、HAYATEを設立するCrunchyrollサイドの目線というのは、どこに向けられているのですか。
山口:Crunchyrollでは、アニメの製作についてふたつのチームがありました。ひとつは今もCrunchyroll内にある出資を主体としたチームで、海外でも注目される作品に出資を行ない、主にその作品の海外窓口を担当するというビジネスを展開しています。
そしてもうひとつのHAYATEに合流したチームは、アニメ作品の企画、製作を行なっていて、自分たちで原作を探し、アニメ化の企画を提案。製作委員会の中核の1社として、ANXと同様にアニメ製作のゼロイチを行なっていました。今回、HAYATEができたことで、製作幹事としてプロジェクトもリードすることができるようになりました。
――製作幹事は、アニメ作品の製作委員会において幹事となる会社が務める役割ですね。製作幹事は、具体的にどのようなことを行なうのでしょうか。
中山:これはケースバイケースで、それぞれの製作委員会によって役割が異なるのを前提にご説明しますが、アニメ作品を製作するとき、そのビジネスの全責任を負うのが製作幹事の役割です。原作、権利元との契約、クリエイター、制作スタジオの選定から、委員会を組織してリスクとメリットの配分を行なう。場合によっては、宣伝を行なうこともありますね。
――HAYATEとして製作幹事機能を持つことで、具体的にどういったところに変化が現われるのでしょうか。
山口:ビジネス面で言えば、ビジネスの最大化を中心的に推進できるということと、クリエイティブ面においては、製作の初期段階で作品の方向性のかじ取りと決定ができるということですね。例えば、キャラクターデザインにGOを出したり。
当然、幹事会社の意見が、なんでも通るわけではありません。特に作品のクオリティという点においては、監督の手腕や脚本の妙、アニメ制作スタジオのクリエイティビティなどは、我々がタッチできない部分ですが、例えば、“この表現で行くと欧米では好ましく思われない”というのを、幹事会社が言うのと、非幹事会社が言うのとでは、意味が異なってきます。
これまでは、Crunchyrollが長年培ってきたノウハウや知見をアウトプットするのが場合によっては難しかったわけですが、HAYATEという出口ができたことで存分にいかせるようになりました。
――ほかにHAYATEを設立したメリットはありますか。
中山:ANXとは違う顔であるというのは、今後、強みにしていかなくてはいけないことだと思っています。どういうことかというと、特に原作がある作品では、その権利元と、メーカーとしてのANXの立場が、どうしても噛み合わせが悪くなるときがあるんですね。しかし、いい作品、ヒットの可能性がある作品を自分たちが企画できるのに、それを理由に諦めるのはもったいない。
なので、HAYATEとしては、独自に権利元と取り組み、他メーカーの方々ともアニメ作品の企画提案を行なっていきます。つまりHAYATEがプロデュースする作品には、必ずしもANXが参加していなくてもいいということ。これは既に社外の方々にもご説明しています。
――コンペチター(競合他社)の境界線を飛び越えて作品を企画し、Crunchyrollを通して世界にも発信していけるのが、HAYATEの強みであるということですね。
中山:はい。ANXは、自社でA-1 PicturesやCloverWorksといった実績のあるアニメ制作スタジオを持っていますが、両社以外の外部のスタジオの皆さんとも、さまざまな作品でご一緒させていただいています。それは、監督や脚本家、音楽作家といったクリエイターの方々も同様です。
私も含め、HAYATEに参加したANXのプロデューサー陣は、そういった外部のクリエイターの方々ともコネクションがあるので、これをいかしつつHAYATE独自の企画を展開していきたいと考えています。
――Crunchyroll視点での強みということでは、どのようなことが挙げられますか。
山口:Crunchyrollは海外の企業なので、これまでは作品のプロデューサーなど現場を動かしている方たちと直接、話をする機会がそこまで多くなかったんですね。組織上、どうしても海外事業部や海外担当チームの方たちが間に入ることが多かったので。でも、HAYATEなら直接対話をして、直接協業ができる。そこがひとつの武器になると思っています。
それと、Crunchyrollのストリーミングサービスで扱うコンテンツがアニメ、マンガに特化しているという点も強みになると考えていて。Crunchyrollは、良質なアニメ、マンガ作品を世界中のファンに届けるために、権利元やクリエイターの方々に寄り添うビジネスモデルを展開するようにしています。
各社とのお取引で、多くの場合、レベニューシェアを導入しているのもそれが理由。ビジネス的な構造が、パートナー企業の皆さんと長期的にヒットを生み出していくためのものになっているので、そこが強みだと思っています。業界の方々とともに成長し、全世界でのヒットを生み出していく。そのビジョンは、HAYATEにも継承されています。
中山:今、山口さんが話したことはすごく大事なことだと僕は感じていて。例えば、Crunchyrollのマーケティングとノウハウをとことん注入した作品が、日本以外の地域でヒットし、成功を収めたとします。ビジネスとしても最大化できたので、これで万事OKですよね! というのは肌感としてちょっと違うなと思うんです。
ビジネスは大事。それは間違いないんですが、作品はクリエイターの方たちが心血を注いで生み出すもの。それに対する敬意だったり、感謝だったりが伝わらない構造でヒットが生まれても、それは継続の力にはならないと思うんです。
また、現在のアニメ作品のヒットにおいて、マンガ、小説、ゲームなどの原作人気が重要な要素になっていますが、原作があるアニメ作品の場合、原作のファンの想いを裏切るようなこと、ファンの心に響かないような作品を作ってしまったら、それこそ先がなくなってしまう。
HAYATEとしては、海外で当たればいいという考え方だけではなく、ANXのノウハウで国内のケアもしっかり行ないながら、クリエイターの方々にはクリエイティブに専念していただき、ファンの方々に喜んでいただける作品を生み出していくというのを理想としています。
――そんなHAYATEがプロデュースを手がける作品の第1弾が、アニメ『花ざかりの君たちへ』。1月からオンエアがスタートしましたが、こちらはどんな経緯でHAYATEプロデュース作品になったのでしょうか。
中山:『花ざかりの君たちへ』(白泉社刊)の原作は、中条比紗也先生のマンガ作品で、海外でもめちゃくちゃ人気があります。Crunchyrollからも“アニメ化はどうですか?”と提案が来ていて、以前からANX内で企画を進めていたんです。
――『花ざかりの君たちへ』は国内だけでなく海外でもTVドラマ化されていて、特にアジア圏で人気でした。ということは、本作もアジア圏でのヒットを見込んで動いていたということでしょうか。
山口:いえ、主に欧米でのヒットを見込んで、ですね。今、1990年代から2000年代に生まれた日本の少女マンガが欧米で非常に人気が高いんです。それでいくつかアニメ化の企画が持ち上がり、今回選ばれた作品が『花ざかりの君たちへ』でした。
中山:『花ざかりの君たちへ』は、本作のプロデューサーを務めているANXの山田(温美)さんが、“ぜひ、担当したい”と手を挙げて、山田さんの主導で展開してきました。
ただ、制作スタジオのシグナル・エムディとのつなぎを自分がサポートしたり、Crunchyroll配信によって欧米でのヒットも目指した作品だったりしたことから、プロデュースとしてHAYATEをクレジットしています。
それは、現在、HAYATEのラインナップに入っている『帰還者の魔法は特別です 第2期』も同様で、この作品の1期のプロデューサーを僕が担当したので、その流れで2期からHAYATEで扱うことになっています。
――ANXで企画がスタートし、移行した作品もあるということですね。
中山:はい。なので、そういう意味では、これまでお話ししてきたHAYATEの事業ドメインを100%反映した作品が出てくるのは、まだもう少し先になります。
――先ほど山口さんが話していた、「今、1990年代から2000年代に生まれた日本の少女マンガが欧米で非常に人気が高い」というマーケティングも興味深いです。
山口:音楽のサブスクリプションでも、“その楽曲が生まれた年代は関係ない、出会ったその日がリリース日”というのは、よく言われると思いますが、アニメやマンガでも同様の現象が起きています。
出会った原作の連載が終了していたとしても、当たり前ですが作品の魅力が衰えることはない。ユーザーにとっては“いつ作品が生まれたのかが大事なのではなく、いつ作品と出会ったのかが大事”ということですね。
中山:『花ざかりの君たちへ』は皆さんが知る作品ですが、ほかにも今ほど情報が拡散されない時代に生まれた、いわゆる隠れた名作はたくさんあって、そういう作品を新たにアニメ化したり、リバイバルさせたりという動きも活発になっています。HAYATEとしてもアンテナを最大限広げて、良質なアニメ作品をひとつでも多く生み出していきたいですね。
――そういったマーケティングの視点が、まさにHAYATE設立の意義ということですね。
山口:そうですね。ただ、こういった情報は業界内で共有されていますし、今だと海外の現地企業から「このマンガがバズってる! アニメ化したら?」と、ダイレクトに情報が来ることもあります。国内の各メーカーも世界規模のマーケティングは行なっているので、我々ものんきに構えている場合ではないんです。
中山:山口さんの言う通りで、どんなに有益な情報があっても、それをいかせないと意味がない。『花ざかりの君たちへ』で言えば、欧米で原作が人気であるという情報がありつつ、それを実際、形にしているのはプロデューサーの山田さんの熱量であり、その熱量を受けてスタッフが動き、クリエイターの方々がアニメ作品にしてくださる。
昨今、海外も含め、アニメらしきものを作れる環境とか、テクノロジーはどんどん発達しているんですが、それで満足されては困るというか……。やはり、真のアニメクリエイターと言われる人たちが心血を注いで生み出したものに、どれほどの価値が宿るのかということ。“人の心を動かす作品は、人の手によって生まれる”ということだと思います。
――最後に、今後のHAYATEのビジョンを教えてください。
中山:世界的に見てパッケージビジネスが厳しくなり、アニメの制作費も高騰しているなかで、海外展開はひとつの方法論だと考えています。Crunchyrollは北米、南米、欧州、アジアをはじめとした世界各地へ展開できる重要なプラットフォームなので、そこに向けて作品を作っていくということは大変ですけど、すごいことが起こり得る可能性があると思っています。
山口:まずは日本も含めて、世界で評価される事例をいち早く作らなければいけないと思っています。このインタビューで、どれだけ我々の取り組みを子細にお話ししたところで、実績を見せなければ皆さんに納得していただけないですし、本当の意味でHAYATEという会社を理解していただくことはできない。そのためのアクションを行なっていきます。
中山:シンプルに“Crunchyroll向けの作品を作るという選択肢が増えた”と考えていただけるとわかりやすいと思います。日本の“アニメイズム”みたいなマインドが、もっと世界に広がっていくと、また違った世界が見えてくると思うので、HAYATEがその一助になれるように頑張っていきたいですね。
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
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