焼肉チェーン業界で快進撃を続ける「焼肉きんぐ」が、新宿に初出店。くら寿司、スシロー、しゃぶ葉といった「郊外で成長したチェーン」がしのぎを削る激戦区に、なぜあえて進出するのか?しかも、都心と郊外の価格差が小さく、他社に比べると割安で“利幅が小さい”のです。「焼肉きんぐ」が都心に儲からない店舗を出すことの「本当の狙い」とは何なのか。絶好調チェーン店の戦略を読み解きます。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
「コスパ」でも「おいしさ」でもない…
成功する飲食チェーンの“意外な共通点”
焼肉チェーンで日本では一番人気と言っていいでしょう。物語コーポレーションが運営する「焼肉きんぐ」の新しい展開が話題です。これまで郊外のロードサイドを中心とする店舗展開で成長してきたのですが、最近では都心型店舗に力を入れています。
2022年に浅草の六区に出店したのが東京の都心型では初めて。その後、池袋、中目黒、そして6月30日に新宿西口の大ガードに出店することになりました。
ロードサイドと比べて賃料が格段に高く、求人も激戦地で人手不足。来店客は多い一方で、店長の視点で見れば経営が難しいのが都心型店です。にもかかわらず郊外で成功している飲食チェーンが、最近つぎつぎと都心に進出しています。
焼肉きんぐが都心に進出する意味はどこにあるのか?私の地元である新宿を舞台に、飲食店ビジネスの戦略の観点から都心型店舗効果について解説したいと思います。
さて、最初に焼肉きんぐが焼肉チェーンの中でなぜ一番人気なのか?について簡単に解説しましょう。ネットでよく「人気の焼肉店のランキング調査」を行うことがありますが、最近の調査ではほぼどこでも1位が焼肉きんぐになっています。
2位以下のライバル店の名前を挙げますと、首都圏では「牛角」「安楽亭」が同じ客層をターゲットとしてガチンコの競合、「叙々苑」が高級層、「焼肉ライク」がおひとり様層に支持されています。
ではそれらの競合と焼肉きんぐはどう違うのでしょうか?焼肉チェーンは実は各社とも、ものすごい企業努力をしていて、なかなかいい商品を提供しています。たとえば好きな焼肉店の調査で2位になることが多い(若者調査では1位になることもある)牛角は、「肉がおいしい」という項目では顧客から高評価される傾向があります。
私も経済評論家としてなるべく違うチェーン店を幅広く利用しようとしているのでわかります。牛角は実際おいしいのです。でも結果的に私が頻繁に行くのは焼肉きんぐです。その理由は、「アンケート調査にはない項目」で群を抜いているからです。