法林岳之・石川温・石野純也・佐藤文彦のスマホ会議(仮)

通信キャリアのeSIMオンリー端末に対するアプローチは正解だったのか

 通信業界を中心に活躍するライター4人による「スマホ会議(仮)」。今回は通信キャリアの視点から、eSIM対応や新料金プランについて話し合っていきます。

eSIM対応で明暗が分かれた通信キャリア

関口
 iPhone 17シリーズで触れておきたいのは、eSIMオンリーになった点ですね。

石野氏
 AirがeSIM専用になるという噂は、発表前からありましたけどね。

石野氏

石川氏
 アメリカでは何年も前からeSIM専用になっていたので、いずれ日本でもそうなるとは思っていましたが、このタイミングになったのは驚きです。KDDIとソフトバンクはしっかりと準備をしていたようですが、povoユーザー、ソフトバンクユーザーにも、うまく移行できなかった人もいたみたいです。

石川氏

法林氏
 3社のnanoSIMからeSIMへの移行をやってみると、KDDIとソフトバンクは店舗でのトレーニングをしっかりとしたことはわかるけど、個人に対するフォローアップは足りない。ドコモは尚更足りないよね。

法林氏

石川氏
 だいぶ足りていませんよね。いまだに32桁のEIDを手入力するとか、あり得ないですよ。

法林氏
 あの方式はダメだよね。

石川氏
 一般のユーザーにあの作業を強いるのは、あり得ないですよ。

法林氏
 ドコモのeSIMはドコモオンラインショップで申し込みをすると、元々使っていた端末SMSが送られてくる。申し込み時には新しい端末のEIDを入れなければいけなくて、それを含めたSMSが送られてくる。SMSには新端末のEIDに紐づいた申し込み番号が記載されている。

 新しい端末にeSIMを登録するときは、QRコードを読み取るんだけど、これはeSIMプロファイルをダウンロードするための汎用のQRコード。それを読み込んだうえで、SMSに記載されている申し込み番号を入力すると、eSIMがダウンロードされるという流れ。

石野氏
 本来、QRコードの中に、申し込み番号の情報まで仕込めるはずですよね。

法林氏
 そうなんだけど、個別のQRコードを発行して、ユーザーがそれを紛失してしまうと困るから、EIDをあえてドコモに送らせている。

石野氏
 セキュリティ面を考慮しているという話もありますよね。

石川氏
 ドコモは最初からセキュリティ面が不安という理由でeSIMには否定的で、サービスを開始しても長らく休止状態でした。セキュリティのためという点は理解できるけど、日本でもiPhoneがeSIM専用になる可能性は見えていたので、もっと簡単に使える方法を作っておくべきでした。

 しかもSMSに依存すると、端末でトラブルが起きた時に詰んでしまう。他社の場合はMy auとか、キャリアが提供するアプリからもeSIMの情報を落とせるのに、ドコモはこういう準備をしていなかったから、いざiPhone 17シリーズが発売されたら、パンクしてしまった。

石野氏
 ただ、ほかのキャリアが提供しているアプリも、事前にログインしておかないと、先に前のプロファイルを消してしまった場合などに回線認証が必要で詰んでしまうケースがあります。

法林氏
 ドコモの不具合には、もう1つ裏事情があると思う。dアカウントのポイント共有グループの終了を延期していたけど、9月に入ってから再開している。これでdアカウントの紐付けがおかしくなっているんじゃないかな。ほかのライターで、副回線が勝手にeSIMに書き換えられたと言っている人もいたけど、これも関係していると思う。

 あと、今はもう修正されたけどauでは、回線切り替え時にMy auから申し込みをした後に、回線切り替え作業をホームページからオンラインでやらないといけない。ホームページでは、回線の切り替えという項目が見出しの中に埋もれてしまっているので、見落としてしまう。そのままeSIMをダウンロードしようとすると、申し込み中の回線があるからダウンロードできないと案内されてしまう。

石野氏
 僕も過去に何度もそれをやらかしたので、eSIMの再発行をしたら、すぐに切り替えのページに飛ぶように体に叩き込みました。

関口
 ベテラン中のベテランじゃないと乗り越えられないんですね(笑)。

法林氏
 それも結局、ホームページとか端末側のガイド、エラー時のメッセージの出し方なので、直していかないといけない。

石野氏
 そもそも、切り替えの作業は必要なのかという話ですよ。

法林氏
 危ないのは、切り替え作業をするということは、元の回線が使えなくなるということ。結構怖いことだから、案内の方法は気をつけないといけないはず。

石野氏
 自動的に新しい端末にプロファイルを送って、そっちが開通したら、旧端末の回線を切るといった仕組みにできないんですかね。

法林氏
 eSIM転送だと、転送が終わったら元の回線が圏外になる。そういう仕組みにしてほしいよね。結局、今nanoSIMを使っている人がeSIMに切り替えようと思ったら、先に元の端末内でeSIMに変更してから転送したほうが確実。キャリアのサービスを経由したほうが危ない。

石野氏
 eSIMクイック転送も、キャリアのサービスに問い合わせてはいるので、ドコモのサーバーが落ちていたら作業は滞ります。ただ、UIの設計として、iPhoneの転送機能を使ったほうが簡単ですよね。

 さっさと、それを全対応してくれという話ですよ。My auから切り替え作業をするとか、EIDを手入力するとか、色々と複雑になっているので、各社がバラバラに細々と改善するならクイック転送を全機種に対応して、iOSとAndroid OSのクロスプラットフォームに対応したほうが、ユーザーにも説明しやすいし失敗も少ないはずです。

法林氏
 クロスプラットフォーム(異なるプラットフォーム間の移行)も含め、環境が十分に整っていない段階で、iPhoneをeSIM専用で展開したのは疑問。キャリアが強い国ではeSIM専用になったけど、そうではない国ではまだ物理SIM対応モデルが続くからね。

石川氏
 ソフトバンクの寺尾さんに聞いたところ、クロスプラットフォームでeSIMをすんなり移行させるには、かなり多方面との調整が必要で大変らしい。ただ、アメリカでは実現できているので、日本も頑張らないといけない。

石野氏
 ソフトバンクで言えば、AndroidからiPhoneにeSIMを移し替えるたびに、手数料が発生する。

石川氏
 機種変更扱いになる。

法林氏
 最悪だよね。

佐藤
 結構悪どいですよね。

佐藤

石川氏
 自分は早めに気づいたので、Web手続きでの手数料が発生する8月10日以前に作業をしました。プラットフォームを跨ぐ時には、機種変更になってしまうので。

石野氏
 でも、プラットフォームを跨がない移行でも手数料が発生します。例えばGalaxyからPixelにeSIMの移行をして、データが移しきれなかったから一度GalaxyにeSIMを戻して、もう一回PixelにeSIMを移すと、3回移行したことになってそれぞれ3850円発生する。

関口
 せめてこの時間中の作業は、1回カウントとかにしてほしいですね。

石野氏
 駐車料金みたいな感じですね。

法林氏
 ソフトバンクが当面無料としたのは、eSIMの再発行だけ。

石野氏
 ソフトバンクの再発行は、同じ機種にeSIMを入れ直す作業だけを指しているので、別機種にeSIMを移行する作業は機種変更になります。

佐藤
 しかも、ホームページには明確に記載されていないんですよね。

石野氏
 そうなんですよ。煙に巻こうとしている。

佐藤
 複数のページの情報をかいつまんでいくと、なんとなく答えにたどり着きます。

法林氏
 同一機種内でnanoSIMからeSIMへの変更が無料なら、iPhoneユーザーはまず端末内でnanoSIMからeSIMに切り替えて、クイック転送を使うのが正解ってことだね。

石野氏
 でも、プラットフォームはまたげない。

石川氏
 一般の人は、そんなにプラットフォームを跨がないよ。行って戻ってとかしないでしょう。

石野氏
 でも、データの移行が全部できていなくて、一回戻るとかはありませんかね。

法林氏
 石川くんの言い分はよくわかるけど、気をつけないといけないのは使っている端末が壊れて、緊急的にほかの端末にeSIMを移そうと思った時に、移行先がAndroidだと手数料が発生する。予備の端末に、一時的にSIMを移し替えることはあり得るので、そこまでお金を取るのはどうなのかな。

石野氏
 ソフトバンクの場合、元々iPhoneとAndroidのSIMに互換性がないので、eSIMでもお金を取るというとんでもない理屈になっています。それはおかしいですよね。

法林氏
 SIMを統一するという公約も、まだ達成していないからね。宣言からもう3年近く経つのに。

石野氏
 KDDIは、au Starlink Direct専用プラン+に、契約変更できるようになりましたからね。

法林氏
 eSIMに関しては、KDDI、ソフトバンクが1年かけて準備してきたのはわかるし、ドコモの準備が足りていないと感じるね。

石野氏
 ただ、ドコモはオンラインなら無料で手続きできます。

法林氏
 KDDIに聞いたら、ショップのトレーニングにはかなり力を入れていたらしい。オンラインも含め、ユーザーへの周知の環境整備は足りない部分があるけど、店頭で機種変更をするならスムーズだったんじゃないかな。

石野氏
 店頭で機種変更する人が多いので、そこのトレーニングをしているのは正しいと思いますし、オンラインショップで購入したらプッシュで送られてくるので、手動でeSIMを移すケースはそもそも多くありません。Apple Storeで端末を買って、自分でSIMを移すパターンの手当がまだ足りていません。

法林氏
 あとは、これだけ3キャリアが苦労している中で、元々eSIMを推進している楽天モバイルは楽勝だったと。

石野氏
 楽天モバイルは簡単ですよね。簡単すぎて、セキュリティには問題がありましたが。

石川氏
 それはそれだよね。ドコモと楽天モバイルは対極で、セキュリティがガチガチのドコモと、緩すぎる楽天モバイルになっている。ただ、今回アップルがeSIM専用に舵を切ったので、ほかのAndroidも追従するでしょうし、端末の薄型化はもっと進んでいくかもしれません。

石野氏
 今回のiPhoneでよかったのは、eSIM専用にすることでバッテリーが大型化することをちゃんと打ち出しているところですね。

石川氏
 ただ、アップルはバッテリー容量を公表しないので、動画再生時間が2時間伸びるとかふわっとした表現しかできない。

石野氏
 せめて、1割増ですとか言えばいいのに。

法林氏
 SIMトレイがなくなって、動画再生時間が2時間伸びたところから、面積とバッテリー持続時間の割合を計算している人がいたけど、そんなに長い時間動画を見るのかという話だよ。

石野氏
 あと、標準モデルのiPhone 17は、バッテリー持続時間が変わっていないんですよね。空いたはずのSIMトレイのスペースはどこに行ったのかという疑問はあります。

関口
 eSIMに関しては、楽天モバイルとpovoはもう少し褒められてもいいのかもしれませんね。一方で、MVNOはMNOの対応に引きずられてしまいますね。

石川氏
 MVNOはかわいそうですよね。

石野氏
 なぜか、BIGLOBEはeSIMクイック転送に対応しているんですよね。

石川氏
 BIGLOBEはもはやKDDIのサブブランドみたいなものだからね。

法林氏
 IIJは自前の環境を持っているので、ほかとは違うと思うけどMVNO全般的にちょっとしんどいよね。IIJにほかのMVNOがついてくると思うので、IIJさん頑張ってねとしか言えない。

 BIGLOBEだけじゃなくて、J:COMもクイック転送に対応しているね。KDDI傘下の会社なら対応していると。

石野氏
 IIJが怒りそうなラインナップですね。

石川氏
 eSIMはキャリアのものになっていますよね。

関口
 総務省にはこういう部分に突っ込んでほしいですね。

石川氏
 そういう点に気づくのは遅い。

佐藤
 SIMの話ではありませんが、ドコモは今回、iPhoneシリーズの予約が始まってから、約30分後に販売価格を出しましたがこれってありなんですか。

法林氏
 あれはダメだよね。去年もやっていたけど。

石川氏
 ドコモ社内でいっぱいハンコを押していると、21時を過ぎちゃうんでしょうね(笑)。

関口
 これを前例にしてほしくないですよ。

佐藤
 しかも、去年は5分遅れくらいだったのが、今回は30分も遅れていますからね。

石川氏
 もう予約終わっているタイミング。

関口
 ものを売るときに予約の後から値段を出して、思っていたよりも高いといったケースはあまりよくないですよね。

石野氏
 まあ、予約はキャンセルできるので、買わなければいいと言えば、その通りなんですけどね。

石川氏
 自分はドコモで予約しましたけど、21時前に画面が真っ白になった。

石野氏
 eSIMの前にオンラインショップが落ちるっていう。一方で、ソフトバンクの値付けには、鼻血が出そうになりましたね。価格が出るのがちょっと遅かったので、月1円にする方法を考えているんですよとか言っていたら、まさかAirまで月1円で出してくるとは。

 ソフトバンクは、端末を売ることに対してかなりアグレッシブですよね。テレビCMで、「毎年iPhoneを買い替えたい人には」ってアナウンスしていて、ずいぶん狭いところに訴求していくなと思いました。

法林氏
 ソフトバンクとしては、毎年買い替えてほしいんだろうね。

関口
 リテラシーが高い人、最新のiPhoneが欲しい人は、多少はいらっしゃるでしょうね。

石野氏
 いるとは思いますけど、テレビCMで訴求する内容なのかとびっくりしました。需要を盛り上げたいという心意気は立派ですよね。情報革命で人々を幸せにするというだけあるなと思いました。

石川氏
 それでいうと、auは相変わらず端末を売る気がないよね。1年で端末を買い替えられる仕組みがないので、auで端末を買う機会が全然なくなりました。

関口
 その割には、iPhone発売イベントは開催しましたね。

石川氏
 iPhone発売イベントも、あの場では誰も端末を購入しないので意味ないじゃないですか。まだApple Storeでは、実際に購入する人がいるからいいですけど。

法林氏
 あれはあくまで、発売記念イベントだから。

石川氏
 でも、カウントダウンは意味わからないじゃないですか。

法林氏
 その時間から出荷しますよっていうアピールだね。少なくとも、イベントをやったau Style UENOではあの時間には発売されていないけど。

石野氏
 ショップでやる必要はないですよね。

石川氏
 テレビといった報道機関に、すぐに端末の撮影をしたいという意向があったから、ショップでやったという話ですけど、うーん。

Apple Watchの5G対応から見えるアップルの強み

佐藤
 Apple Watchシリーズは、5G対応になりましたがこちらはいかがですか。

石川氏
 3キャリアがApple Watchで5Gにつながる写真が撮りたかったんですけど、ドコモが全然つながらない。どうやら信濃町ならつながるという話だったので、ぐるぐると街中を歩き回りましたけど、結局つながりませんでした。

 都内にドコモの5G SAエリアはもっとたくさんあるけど、Apple Watchの場合は信濃町しかない。いろいろな話を総合すると、n3で5G SAを構築していないとApple Watchではつながらないらしい。

石野氏
 1.7GHz帯ですね。いわゆる4Gからの転用バンドで、かつ5G SAでしかつながらないので、ドコモは弱い。

石川氏
 まあ、そもそもApple Watchが5Gにつながらないからといって、果たして困るのかという話ではあります。

法林氏
 本当は逆で、5Gでつながるけど、あまり電池は消耗しないという技術の話。

石野氏
 そもそも5Gにつなげにいくのが正しい行動なのかと言われると、そうではないんですけどね。

石川氏
 ほとんどの人が、iPhoneとつなげた状態で使いますからね。

法林氏
 Apple Watchが5Gにつながったとして、これが5G SAだってわかるようになっているの?

石野氏
 5G SAしかつながらないので、5Gと表示されたらそれは5G SAということです。iPhoneと接続されていると5G表示は出ないので、あまり使う機会はありません。ドコモだと、信濃町でランニングするくらいですかね(笑)。

法林氏
 ただ、技術的な面で考えると、今後スマートウォッチとかIoT製品が5Gに対応していく中では、大事なことです。

関口
 iPhoneはAndroidと比べて、キャッチアップが遅いと言われがちですが、ウォッチでの5G対応は先でしたね。

石川氏
 通信関連はかなり先を行っていますよね。

石野氏
 eSIMもそうだし、5Gもそうですしね。

法林氏
 iPhoneのeSIM専用は早かったんじゃないかという話につながるけど、先に行き過ぎちゃうくらい踏み込んでいるよね。

石野氏
 自分たちでチップを作っているだけあります。

石川氏
 日本で4Gの展開が進んだのも、iPhoneが3キャリアで採用されたことでキャリア間での競争が加速したから。同じ端末が採用されることで競争が促進されるという意味では、アップルが通信業界で果たしている役割は大きいですよね。

石野氏
 ウルトラワイドバンドもそうですけど、アップルの無線関連のチャレンジは、マニアックで面白いですよね。

石川氏
 アップルとエリクソンの仲がいいから、通信関連の技術がどんどん導入されていく。5G SAが早く導入されているのが、KDDIとソフトバンクなのも、エリクソンが関係していると思います。

ワイモバイルの新料金プランはPayPayゴールドカードが鍵

関口
 料金プランとしては、ワイモバイルで「シンプル3」の提供が開始しました。

石川氏
 全然シンプルじゃない。

石野氏
 頑張ったなと思うのは、値上げになりきっていないというか、PayPayゴールドカードを持っていれば、値下げになるという仕掛けになっている。

石川氏
 ただ、ワイモバイルユーザーがゴールドカードを契約しているのかという疑問もある。ポイント獲得のためにゴールドカードを持っている人もいるだろうけど、無理やり感が出ている。

法林氏
 保護者がゴールドカードを持っていて、子供たちがワイモバイル回線を使うというケースもあるんじゃない?

石野氏
 ただ、シンプル3は、特に小容量の標準価格はかなり高くなりました。ソフトバンクとしても、小容量プランはあまりやりたくないんだろうなと。

法林氏
 携帯電話料金の割引は、光回線割、家族割がメインだからね。

石野氏
 結局、5GBとかの小容量プランで、価格を下げるとMNP用の弾(MNPで移行するための回線)にされてしまって、解約率も上がってしまう。キャリアとしては安くしたくないわけではないけど、安くするのであれば解約をしない担保がほしいので、全社、カード割とか光回線セット割をつける方向になっています。

法林氏
 2年縛りはよくないかもしれないけど、弾にされないくらいの縛りは、あったほうが健全かもね。

石野氏
 これでシンプル3 Sは、割引をつけないと3058円になるので弾にする人は減るはず。解約抑止の効果はあると思います。

法林氏
 割引をつけると最安で858円になる。結構大きい割引だね。

石川氏
 キャリアショップからすると、料金プランにカード割、回線割が入っていると、営業しやすいというメリットがある。結果として売り上げが立つので、キャリアビジネスとして考えると、こういう形になりますよね。

石野氏
 わかりにくいところで言うと、シンプル3 Lは、10分以内の国内通話無料が付いているけど、シンプル3 Mは付いていない。データ容量は5GBしか変わらないけど、値段が結構違う。

 全体的に、若干わかりにくくはなったけど、あまり値上げをしない代わりに縛りを少し強くした感じですね。

関口
 とにかく安く使いたいユーザーは、しっかりとMVNOに目を向けるべきということですかね。

石川氏
 キャリアはどんどん経済圏勝負に走っていて、色々なものを組み合わせることで安くなる。もっとシンプルに安くしたいのであれば、MVNOを選択するべき。棲み分けはできています。

関口
 選択肢が用意されているという意味では、正しい方向ですかね。

楽天モバイルは「値上げなし」をアピール

法林氏
 経済圏でいうと、楽天モバイルが「Rakuten最強U-NEXT」プラン開始の発表会で、モバイル以外の自社サービスを広く並べたのは、結構珍しかったね。

石川氏
 だんだん、普通のキャリアになってきましたね。

法林氏
 そうそう。当初、僕たちが予想していた経済圏競争をしていく仕組みがようやくできてきたのかな。はじめは、グループ内の別サービスをやっている人たちが、モバイルに見向きもしていなかったのが変わってきている。

石川氏
 ただ、「ネットワークで最強を目指す」という表現はどうなんだろう。先は長そう。

石野氏
 ネットワーク最強っていう表現は、ちょっと際どいところですよね。

石川氏
 そもそも周波数を持っていないから、厳しいよね。

法林氏
 今のままでは最終的に周波数帯域が足りなくなるのは、目に見えている。

石川氏
 プラチナバンドの整備もまだまだですからね。

石野氏
 5G SAもです。発表会では、値上げを匂わせといて、逆に値上げはしない宣言をしていましたね。

石川氏
 あんまり中身のない会見だったね。

法林氏
 だいぶ空振り感はあったね。

石川氏
 これくらいの会見で、三木谷会長が登壇してはいけないと思う。

関口
 ネットワークとしては、今後エリア構築していく予定の駅を発表したりしていました。

石野氏
 ネットワーク側では、最近ユーザー数が増えて都市部ではパケ詰まりが目立つようになってきています。新宿周辺とか、山手線内とか。東京メトロもまだ4割以上が整備しきれていなくて、全然つながらないので対策をしっかりしていかないと、安かろう悪かろうになってしまいます。

石川氏
 ユーザーが増えるのはハッピーでしょうけど、その分設備投資は嵩んでくるので、黒字化が見えてきたといっても、まだまだ厳しいと思います。

法林氏
 ユーザーは獲得できてきたけど、そのおかげで帯域は狭くなる。

石川氏
 ユーザーが平均30GB以上使っているとか、自慢にならない。

関口
 今回の発表会は、メッセージとして値上げはしないことと、電波改善を頑張るという主張だったのは、楽天モバイルとしても危機感を感じ始めているということなんですかね。

石野氏
 危機感はあると思います。遅い、つながらないと言われると、ユーザー獲得にも影響します。

法林氏
 楽天モバイルをサービス開始当初から使っている人からすると、格段に繋がるようになったと思うけどね。

石野氏
 つながるようになったけど、つながった後の速度面では最初の頃の快適さがない。

法林氏
 最初の頃はアンテナが立つ、立たないという競争だったのが、スピードの競争になってきている。結局、携帯電話サービスとしては契約してくれて、あまり使われない状態が一番嬉しいけど、そうはいかない。ほどほどに使ってもらって、安い料金を目指すとしても、平均30GBも使われていると大変だよね。

 Rakuten最強U-NEXTは、サッカーパック内の3試合分をピックアップして、無料で見られるようにしたりと、積極的に売りたいんだろうなとは思う。先行キャンペーンで、10万件の申し込みがあったというけど、本当はもっと売りたかったんじゃないかな。

石野氏
 今の楽天モバイルの契約数を見ると、10万件でも十分だと思いますけどね。

石川氏
 新規契約者数ではなくて、既存ユーザーが切り替えると考えるとそこまでですよね。新規で10万件増えていれば、たいしたものですけど。

佐藤
 先行キャンペーンは、元々U-NEXTの契約をしていた人は加入できない仕組みでしたよね。

法林氏
 そうだね。だから、U-NEXTからすると、バンザイという感じなんだろうね。従来、楽天モバイルの契約をしている人が新たにU-NEXTに入って10万件ということ。楽天モバイルとしても、格段にARPUが上がるので嬉しいはず。

関口
 6月の発表と、9月の発表を見比べると、U-NEXTの契約者数はプラス7万件になっています。

法林氏
 残り3万件は、U-NEXTを一度解約して楽天モバイル側から契約した可能性もあるね。

関口
 あと、6月の段階では、独占契約ではないという話だったので、ほかのキャリアがU-NEXTと手を組んだ際に、果たして楽天モバイルは最強と言い続けられるのかは疑問ですね。

石川氏
 何を持って最強なんですかね。

石野氏
 そろそろ怒られそうですよね。

d NEOBANKはドコモ色が控えめに

佐藤
 ドコモが住信SBIネット銀行を連結子会社化するにあたって、サービスブランド「d NEOBANK」を開始しました。

石川氏
 一番よかったのは、案内に「dアカウントとの連携を強制するものではない」と記載されていたところ。ユーザーのことをわかっているというか、銀行の名前を変えるのではなく、まずはサービスブランドで行うと。

石野氏
 急に変えると、ハレーションが起こりますからね。

関口
 ただ、キャンペーンの恩恵を受けるためには、dアカウントが必要と。

石野氏
 名前に関しては、ちょっとわかりにくい部分もある。「〇〇 NEOBANK」が、全て「〇〇 d NEOBANK」になるのかと思ったら、そういうわけではない。ドコモ感があんまりないですよね。

石川氏
 ロゴも青いままだしね。

石野氏
 これを見た人が、ドコモ傘下の銀行だとわかるのかな。ドコモという名前がどこにもないじゃないですか。

法林氏
 ドコモの文化的には、直しながら変えていくだろうね。

石野氏
 auじぶん銀行とか、PayPay銀行と比べるとキャリアの銀行という印象は受けにくいですよね。PayPay銀行という名前に、ソフトバンク感があるのかと言われると微妙ですけど。

関口
 お手並み拝見という感じですかね。

石野氏
 BaaSのサービスもあるし、色々な兼ね合いを考えるとこういう名前になるんですかね。

石川氏
 BaaSをやっているところからすると、いきなりドコモ色を出されても困るでしょう。

石野氏
 でも、これだとd NEOBANK自体がBaaSの1個に見えませんか? ちょっと紛らわしい。

石川氏
 あと、アプリのアイコンが変わるのはちょっと嫌だな。

石野氏
 「d」押しですよね。というか、ドコモのアプリって、「d」を大きく描いたものが多くて、見分けがつきにくいですよね。

法林氏
 色分けはしているけど、わからなくなるよね。

石野氏
 dマガジンも、dポイントもほぼ同じですよ。可読性が悪いというか不親切ですよね。統一したら綺麗なのはわかりますけど、アプリのアイコンって綺麗なことが目的ではないので、もう少し工夫してほしい。これはグーグルのアプリにも言えることです。

佐藤
 グーグルもわかりにくいですよね。iOS 26で、Liquid Glassのクリアデザインにすると、もう何もわからなくなります。

石川氏
 それを楽しむんだよ(笑)。

衛星通信の先頭を走るKDDIのau Starlink Direct

佐藤
 8月の終わり頃には、au Starlink Directがデータ通信に対応しました。

法林氏
 対応アプリが続々登場という表現は、ちょっと微妙かもね。ネットワーク的な制限があるので、使えないアプリがあるのはわかるけど。

石野氏
 OS側で絞っているという話ですね。

法林氏
 どちらかというと、対応アプリよりは対応機種が引っかかったかな。SIMフリー端末の対応が全然ない。回線契約と端末は分離しているはずなんだから、SIMフリー機にも対応しないといけない。

(編集部注:10月15日にGalaxyをはじめ、SIMフリー版の対応が発表された)

石野氏
 そういう意味では、auの庭という感じはありますね。

石川氏
 結局、KDDIが世界の先頭を走ったので、自分たちでアプリを揃えないといけない。これからT-Mobileがサービスを開始したら、アメリカ系のアプリも増えてくるはずなので待ちですかね。

石野氏
 OS共通のAPIを叩けばいいだけなので、そんなに難しいことではない。KDDI側からは、アプリ開発者に向けて、ユーザーの期待値をコントロールしてねというアドバイスも出ています。衛星通信中と表示しておかないと速度に不満が出てきますし、アプリによっては、通信がタイムアウトすると表示が消えるものがあるので、長めに時間を取りましょうといったアドバイスが書かれています。

 現在は積極的にコンテンツを開拓している段階。限られた帯域でアプリを作って、ユーザーに提供していく形は、フィーチャーフォン時代みたいで面白いなと思っていたら、松田社長がiPhoneの発売イベントで、同じことを言っていましたね。

関口
 衛星通信が安心、安全という領域から、データ通信に対応することで、一歩前に進んだ気がしますね。

石野氏
 軽量ブラウザとか出て欲しいですね。

石川氏
 衛星絡みでいうと、楽天モバイルの衛星通信は、サービス当初は24時間常にはつながらないかもしれないと言っていましたね。

石野氏
 ちょっとずつ後退していますよね。

石川氏
 衛星の数が少ないからね。

法林氏
 衛星が頭上にないタイミングではつながらない。

石川氏
 最初から指摘していた通りですよね。やっぱり、ある程度衛星の数がないと、継続的なサービスができない。Starlinkは、あれだけ衛星数があるのに、データ通信の速度は相当絞らないといけないことを考えると、本当にASTで動画視聴、ビデオ通話ができるのかなと疑ってしまいます。

 ただ、三木谷さんも技術的な話ができるようになってきたので、相当前向きに取り組んでいるんだなとは思いました。

関口
 しばらくは、Starlink一強という感じですかね。

法林氏
 来年の話はあるけど、現実的に衛星数を考えると、まだまだアドバンテージは続くかな。

石野氏
 そもそも、Starlinkがすでに何年サービスをやっているのかという話ですから。

石川氏
 それに、衛星は儲かりませんから、何社も参入したところで共倒れするだけです。KDDIも、今のサービスでお金は取れないですよ。あくまでプロモーションです。

石野氏
 専用プランも無料期間ですしね。有料になったタイミングで、どれだけユーザーが残るのか。

石川氏
 体感できる人は限られているしね。

法林氏
 船舶とか、特定業種の人へのニーズはあるけどね。

石野氏
 ただ、UQ mobileとセットで550円になるなら、1GB増えるし持っとこうかなという考え方はわかる。でも、他キャリアの人が1650円とか払って契約するかと言われると、ちょっと高いですよね。

法林氏
 キャリアが絡むサービスは、縄張り感が強くて、その垣根を超えているのはPayPayくらい。Starlinkもそこまで持っていかないといけない。場合によっては、KDDIがドコモとかMVNOに対して、OEMするぐらいでもいい。今の縄張り感は変えていかないと厳しいと思う。

石川氏
 あまり変わらないでしょうね。auじぶん銀行がじぶん銀行になって、またauじぶん銀行になったように、キャリアとしては自社サービスだとアピールしたいでしょうし、ユーザーが他キャリアのサービスを使うという発想には、なかなかなりにくいでしょうし。