概要
生産性も金も運も無いが、自由に生活してきた女が見つけた最高にふさわしい自分の居場所。
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- ★★★ Excellent!!!喪失と絶望の先にある景色とは
人生の底辺にいるアル中の詩人。
自分を突き放すような冷めた口調で語りつつも、何かを求めることを捨てきれず、がんじがらめの心の中でもがいているさまが、頭の中で鳴き続ける蝉と重なります。
人との出会いやかかわりや喪失の中で、彼女は何を見つけ、どんな出口にたどり着くでしょう。
人と繋がるとはどういうことか、失うとはどういうことか、考えさせられます。大事だったはずのものがある日突然消えてしまう恐怖。なにもかも終わらせたい願望。
でも失うことを恐れるあまり過去の写真に捉われては先の景色は見えないでしょう。龍の背中を登れる運命を授けられているのは、まだ進めるということです。この先の人生はきっと違った景色…続きを読む - ★★★ Excellent!!!言葉では表現できない、名前も付けられない
主人公カオルの視点で描かれているけれど、本当はもっと言葉にできないものが文字以外の場所でうごめいているのでしょう。もちろんこの作品以外の一人称視点でもいえることだし、現実の人でも今自分が考えていることを文字ではっきりと認識しているとは思えません。
そもそも喋っている時だって、言葉にできていそうで、本当は全くできていない。
名前すら付けられない、言葉にできない感情。そういうのって、お化けみたいだなあ。
読んでいて、自分のことを表現できない、というのが、実はすべての悩みの根源じゃないかと考えました。社会的なことのような気がしますが、寂しいとか、悲しいとかよりもずっと本能的のような気が…続きを読む - ★★★ Excellent!!!深い混沌と、その先にあるもの。
アルコール中毒を患い、自分自身の中の闇から出ることができず…寧ろ出ることをせずに、泥の中に座っているような主人公、田端カオル。この物語は、彼女がその重く粘りつく泥の中を彷徨う日々を描きます。
泥の中で出会う、やはり泥の中を彷徨うような人物達。それぞれの出会いと、その結末——重く沈み込んだカオルの目と脳を通して映し出される世界の色に、窒息するような苦しさを覚えます。
この作品の魅力は、時間の中を彷徨うカオルの心の動き、その苦しみや重さが、非常に繊細な美しさを持って描かれていることです。逃れることのできない気怠い哀しみが、高い表現力により放ち始める静謐な輝き。読み手は気づけばその魅力にずるず…続きを読む - ★★★ Excellent!!!一冊のハードカバー本を読んだ気分。
テーマは重く、内容は深い、そんな作品でした。
作者様はタグで「純文学のような、そうでないような」と悩んでおられますが、純文学作品だと思います。
ただ、純文学が苦手という方でも、抵抗なく読めると思います。
それは、ストーリー自体がとても魅力的で、かつ作者様の技量の高さから、読み始めると、次が気になって仕方なくなるからです。
そして読んでいく中で、タイトル「龍の背に乗れる場所」の意味が分かった時、この物語の本当の意味が分かります。
物語は、アルコール依存症の主人公・田端カオルを中心に、彼女と関わりがある人物が描かれていきます。
その中で、彼女の感性を刺激する出来事や、あるいはそうでない出来…続きを読む - ★★★ Excellent!!!堕落と絶望と美しさと。
別作品「フェアリーウェイト」を先に読んでいたのだが、こちらはまた一風変わった作品。
ぬかるみの中でもがき続ける主人公と、彼女に寄り添う奇天烈な人々。
決してキレイとは言えない泥沼のようなものを作者は芸術品に昇華させたと思う。
ところで15で悪魔といえばタロットカードだが、カードに象徴される執着の鎖を断ち切ったかのように、主人公のカオルは汚物と落伍の地獄を抜け出して光り輝く暖かな場所へと辿りつく。
エピローグに至る過程は「13 死神」そのものである。
あるいは鎖にしがみついていたから竜の背に乗れたのか。
いろいろ書きましたがとにかくこの一言が言いたかったのです。
「面白いのでぜひ読んで…続きを読む - ★★★ Excellent!!!クリアにするために
生きていれば何かしら心の中にわだかまるものが生じるときがある。煩悶することもあれば、モヤッとして落ち着かないだけで済む場合もある。
そのようなわだかまりが解決したり気持ちが晴れるとき、明確な何かが必要な場合もあれば、なんてことの無い些細な気づきであることもある。
カオルにとっての解決手段は死に繋がる行為だった。
生き残って良かったと率直に思う。
死んでしまえば解決したかどうかも気持ちが晴れたかどうかも実感できない。それでは救いがない。
生き残ったカオルが何かしらの幸せを感じることができた。
ああ、良かった。
その読後感は読者も感じることがあるだろうわだかまりの先に繋がっ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!無様に足掻く人間達を愛を持って描いた純文学作品
純文学とは何ぞや?
ブリタニカ国際大百科事典では「読者の娯楽的興味に媚 (こ) びるのではなく,作者の純粋な芸術意識によって書かれた文学というほどの意味」と定義されており、然らば文学における芸術性とは何ぞやという問いにぶつかる訳であるが、やはりそれは絵画や彫刻といった造形美を表現する芸術同様、魂を強く揺さぶられるかどうかというところに行き着くのでないかと思われる。その意味において、芸術とは必ずしも美しくなければいけないというものではないと言えるだろう。
今作は美しいか否かという基準にあてはめるべきものではない。無理矢理あてはめるとするならば、主人公カオルを始めとする登場人物の性格や言動は…続きを読む - ★★★ Excellent!!!絶望することができるのは、希望を持っている人だけ。
なんの希望もなく、なんの望みもない人に、絶望なんてない。
希望を持ち、望みを持ち、それが破れて初めて絶望する。その時人の感情は揺れ動くし、前や後ろ、右や左、上や下など、とにかくなにかしらどこかしらの方向へ進む。
持ち上げて落とす、とは少し違う。
変化に耐えられないで壊れてしまうこともあるかもしれないし、変化がいいことかどうかもわからないこともある。
龍の背中に何を見出すのか、見出すことが出来るのか、それは龍の背中に乗った本人にすらわからないのかもしれない。
……なにが言いたいのかというと、
とっても面白かったです!
ちょっとでも興味を持った方、ぜひ読んでみてください!