式神・直刃と、炎の異能に悩む少女・未散が織り成す、戦国時代を舞台としたファンタジー作品です。
この作品を読むと、圧倒的なまでの赤が印象に残ります。作品内で何度も炸裂する血の赤、作品内で人々を脅かす人喰い虫を燃やす炎の赤。そして激しい熱を帯びているかのような直刃と未散の関係性も、色で例えるとするならば赤であると思います。圧倒的な赤! それぞれの赤から、においまで立ちのぼってきそうな重厚な描写も魅力です。
直刃視点と未散視点を交互に展開しながら進む物語を通し、二人は人喰い虫の謎に立ち向かってゆきます。全四十二話、濃厚な展開に満ち満ちた素晴らしい作品です。
是非読んでみてください。読後、あなたの脳裏にも、鮮烈な赤が焼きつくと思います。
近江国に現れた人食い虫による事件を機に、織田家に仕える式神・直刃と、異能を用いる家系と深く関わっている少女・未散が協力し、事件解決を目指す伝奇物語。式神であるが故に活動限界がある直刃と、己を焼き尽くしかねない炎の異能に悩まされる未散が、互いを拠り所とし合う共存の物語や、とある因縁と呪縛を断ち切る物語も展開されています。
直刃と未散はダブル主人公を務めており、事件を追う傍ら、互いに影響されながら変化していきます。どちらもあと数年の命だったところ、生に執着せざるを得ないような出会いを経て延命する……そんな重みがありつつ、時に可愛らしさが覗く関係性がお好きな方は、二人まとめて好きになってしまうはず。使命のためなら自傷してでも事を成し遂げる懸命な未散と、お上の指示はきちんと聞くけど強く惹かれた相手のために散る覚悟はある直刃。頑張り屋さんな二人の姿は主人公然としていて好感が持てます。
事件を追う二人の近くには、他にも多くの人が登場します。人食い虫の事件に巻き込まれるも生き残った使用人のあやめと、事件が起きた片古家に嫁いでいた万由。未散が名代を務める波分家の細波と真木。直刃の同僚でもある祐成。宣教師のルチアーノと、彼の護衛と通訳を務めるサルヴァトーレ。いずれも良いキャラをしており、直刃や未散とどう関わるかも見所です。
織田、波分家、南蛮の複数勢力が調査解決を試みる人食い虫の事件の真相とは。直刃と未散を始め、事件に関わった者たちはどんな結末に辿り着くのか。真火を以って浄化し、明らかにし、新生させる。灰として終わるもの、生まれ変わるものの姿と共に、ぜひ見届けてください。