最終話まで読んでのレビューです。
自然を神と崇める信仰は古来より現在に至るまで脈々と伝わっています。
奈良の三輪山のように山そのものが神である、といったところで、本作も山が御神木が神そのものなのです。
これらは通常、人に恵みをもたらすもの、でもその反面ではどうでしょうか?
禁忌に触れた途端、悪意剥き出しに邪悪なものに豹変する。
本作はそこを巧みな文章力で描き出しています。
多くのレビューがついているのでその辺は割愛しますが、とにかくおぞましいホラー要素の中に、ミステリー要素が重なり、物語を巧みに組み上げています。
恐ろしい部分はとにかく恐ろしく、地獄絵図的な光景も繰り広げられます。
読むのを思わず止めてしまいそうになりながらも、気になって先に進んでしまう。きっとそういう経験が皆さんにもあるでしょう。
本作は間違いなくその一本に該当します。
もちろん、ホラーが苦手だという方には全く向かないデメリットもあるので、そこがホラーの持つ両極端な部分ではあります。
多くの謎が随所にちりばめられています。
時系列が飛んだりする読みにくさは少しぐらいありますが、上記含めてそれらを差し引いても、本作はぜひ読んでもらいたい、読むべきホラー作品に仕上がっています。
クオリティの非常に高い独特なホラー作品ともいえるでしょう。
昨今流行りのモキュメンタリーホラーもいいですが、ぜひともこういう作品に触れてもらいたいです。
ホラーファンなら必読です。ぜひ手に取ってください。
素晴らしい作品で、素晴らしいレビューもたくさんついていて、もう全部その通りで、これ以上なにも言うことはないくらいなのですが、どうしても一点、もう一声推したいところがございまして、僭越ながら筆を取らせて頂きました。
なんだそんなことか知ってるよと言われそうですが、私はこの作品の登場人物の作り込みにとっても惚れました。特に、楠と榊(ともう一人)がゾワゾワしてたまらなかったです。作者様は本当に御神木(であったもの)を削り出して彼らの輪郭を描いたのではないでしょうか。彼らの思考と行動には、理性なのか本能なのかそれとも感情なのか、理解できない(させない)、静かで確かな歪みがあって、それを説得力に変えているので、怖いのに目が離せなくなるような恐ろしいまでの魅力を感じました。家族を描きながら人間味を分離するのってとても大変だと思うのですが、それを見事にやっていて、そこが本作の序中盤の登場人物達とのコントラストになっている点もとても面白いです。この辺りの作り込みが本作でずっと鳴り響いている「こわさ」の一因になっているようにも思いました。人間をよく理解されておられるからこそ描ける複雑な恐怖を内包したホラー作品ではないでしょうか。たまらなかったです。ご馳走様でございました。
こちらはホラー作品となるのですが、それだけでは終わらない面白さに溢れています。
まず最初に感じた事は、言葉です。
文章を書く上で、選択すべき言葉は無限にあります。その言葉に対して、筆者様の並々ならぬ気迫、魂が込められていると私は思いました。
何かを伝える上で、どう表現するかと部分において、「熱い、とにかく熱い想い」がビリビリとそしてヒリヒリと伝わってくるのです。凄いです。
そして続いて思った事は、小説と言う形態ですが、すごく映像的だと思いました。
ここを正確にお伝えするのなら、言葉→文節→文と続く一連の流れというのは、脳内の認識に訴えるものです。
その過程において、重要なのは「テンポ」です。
この「テンポ」において、意図されておられるのかナチュラルなのかはわかりませんが、私には文が「映像作品におけるカット割り」の役目を的確に果たしておられると思いました。
ゆえに脳内において映像変換された想像が、具体性をもって任意に記憶してある映像場面を易々と思い浮かべる事が出来ます。
とてもスピード感のある演出の獲得にこちらの小説は成功しております。
以上の2点を踏まえた上で、多少の語弊を伴ないますが海外ホラー作品の様な設定の魅力と、ジャパニーズホラー作品の精神性の魅力が混在し炸裂しているのです。
お勧め致します。
迫力があります、これでもか、これでもかと、物語に引き込まれます。すごくお楽しみ頂けるエンターテインメント小説です。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
山と人は一体です。
山の恵みによって、ふもとの民は生きてゆくから。
でもその心臓たる山が怪異であったらどうなるのでしょう。
巨大な包摂体は怒張した赤い瘤こぶを所々漲みなぎらせ、脈打つ赤い管が底部一点へと集中していく(本文)。
「光が当たると、花びらの色が目まぐるしくグラデーションする野花」など。
鈴哭山の描写です。
山頂部において闇堕ちした神の山は、映画「エイリアン」のような直接殴ってくるスリルがあります。
とにかく「何でこんなのを思いつくのだろう」というセンスで、
多くの人がすずなりを「本格ホラー」と評するのは「自分にこれほど怖いものは書けない」と察知するからです。
けれども振り切れているストレンジさはある意味好みなところで、花びらの色が目まぐるしくグラデーションする野花は、怖い反面、実際に見てみたいなと思いました。
一方、人里に降りると、鈴哭山のために村ぐるみで何かをやっている因習の「普通の顔をした人間の怖さ」へ性質が変わってゆきます。
山の怖さと、里の怖さが、緩急ついて一つのテーマで連結している。ヒトコワ部分も見所満載です。
「キャラクターが魅力」
人間造形もすごくユニークです。ホラーらしく一癖ある。
誰が主人公でも物語になるくらい濃いです。
あまりネタバレしないよう「梢さん」だけ。
梢さん。献血センターで血を抜き取ってるアイドル看護師。にこにこして男性に人気しながら、内心とある女性に興味がある。
ソレさんと玲奈、由貴と美嘉、珠鈴と楓。珠鈴と榊。どの関係にも、それを主人公とした短編小説のような「あっ」という驚きがあります。
そのヒトコワ的に癖のある登場人物が、御神木を中心に、ヒューマンドラマのようなものを形成します。
なんていうんだろう。みんな誰かを怖くするために生まれたんじゃなくて、あるように生きた結果、怖くなってしまっている人たちだから、人間ドラマと感じるのかも。
他人って結局わからないよねって怖さを「理解出来ない」と切り捨てたらホラーで、もう一歩踏み込んだら人間ドラマなのかな。御神木自身も含めて。
珠鈴さん、2つ目の願いは呪縛だね
純粋にホラー作品として必要な恐怖を緻密な情報開示と生々しい描写で表現されていてクオリティの高さを窺えます。
それに加え、時系列を組み替えて巧みに物語としても魅せる作品です。
次々と追加されていく謎にワクワクしますし、スリル満点の展開に心が削られます。
過去と現在がどう繋がるのか。御神木の存在が人に与える影響とは?読んで確かめて欲しいです。
登場人物への感情移入もさせてくれる作品で、人間ドラマとしても優秀でした。
だからこそ恐怖もしっかりと伝わってきますし、読む手が止まらないのだと思います。
ただ怖いで終わらず人間を主張してくれる、記憶に残る作品です。
是非、鈴哭山に登りましょう。後悔しますよ。
あ、やばいな……と思うのに、心を囚われ、目が離せない。
逃げなきゃと思うのに、これからどうなるのか気になってしまう。
そんな魅力がこの作品にはあります。
序盤から恐ろしい悪夢を見る夫婦や、取り返しのつかない愚行を行ってしまった大学生が出てきて、もうそれだけでガクブルなのに、「まだあるよぅ……」と言わんばかりに物語は進みます。
とある村のとある病院、そこでの人間関係。心霊スポットでネタ稼ぎをしようとやってきたYouTuber……。
作者さま、どれだけお話の引き出しを持ってるんでしょうか?
そして、この作品の特筆すべき点は、年表がついていること。
「?????」と伏字にされていた部分が読み進めるにつれ、徐々に明らかになっていきます。
つまり、初めから計算され、構成を練りに練って書かれた意欲的な作品だということです。
湿度の高い夜のようなこの作品、ご一読をおすすめします。
ただし、神木の闇に囚われないよう、気をつけて……。
描写一つ一つが実に生々しさに満ちており、ジトッとした不快感を伴って纏わりつき……かと思えば、急激な怪の暴をもって惨たらしく襲ってきます。
特に、音。
ありがちなオノマトペ的な音とはまた違った、耳に引っかかり残る音が要所要所に出てくるため、より一層不気味な不快感が付きまとってきます。
これらの表現力がまた実に心から余裕を奪っていきます。
サブタイトルの雰囲気も良く、何となくSIRENのような印象が感じられるのも中々ポイント高いです。
想像力たくましい方や、寝る前の人はあまり読まない方がよいでしょう。
暫く暗闇の中に何かを見出してしまうようになっても知りませんよ。