概要
少女・美咲は祖母の記憶を宿す“千代桜”を訪れ、そこに隠された「もうひとつの春」と出会う。
忘れられた恋、語られなかった想い。
そして、美咲自身の春もまた、やさしく咲き始める——。
別れと出会いの記憶を紡ぐ、やさしい百合SF短編。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!思い出は桜と共に
記憶とは時にすぐに忘れてしまったり、ふとした瞬間に失われてしまったりする曖昧なもの。
だからこそ私たちはそれを忘れないように記録に残し、形あるものに託していくのでしょう。
本作ではそんな美しい記憶をテーマに、詩的かつ繊細な筆致で物語が綴られていきます。
私たちの時代では記憶を写真として紙に焼き付けたり、デジタル機器に保存したりして形に残そうとします。
けれどこの作品では桜に記憶を託すという、なんとも情緒的で美しい設定がなされています。
ひとひらの花びらにかつての思いや風景が宿っているとしたら。
それはきっと写真やデータ以上に、心に残る記録なのかもしれません。
この…続きを読む - ★★★ Excellent!!!咲いたのは、想い出と、ふたりの春でした
風に舞う桜の下、語られなかった記憶がそっと咲いていた。
未来の世界では、人がこの世を去るとき、もっとも幸福だった記憶を桜の根元に刻むことができる。
「千代桜」は、美咲の祖母が残した、たったひとつの想い出。
春の日、美咲はその桜に触れ、誰も知らなかった『ひとつの恋』を知る。
刻まれていたのは、祖母と、ある少女の春。
語られなかった約束。交わされなかった言葉。
けれど、そこに確かに咲いていたやさしさが、美咲の心にそっと芽吹いていく。
やがて、美咲の隣に立つのは、彼女自身の誰かだった。
桜を見上げ、手をつなぎ、微笑み合うふたり。
それは、過去と未来がふれる瞬間。
そして、新しい春の、ほんのは…続きを読む - ★★★ Excellent!!!咲く花のように美しい思い出は、世代を越えて心を伝える
詩から始まった物語は、人物を鮮やかに描き出します。
美咲という名の少女は祖母の記憶を伝える〝千代桜〟の下へゆき、在りし日の祖母の記憶を垣間見ました。
桜の樹木へ記憶を遺す時代の物語です。
亡き人の幸せな記憶は、桜と共に後の誰かへと伝えられます。
祖母の遺した幸せな記憶とは、麻美という名前の少女との日々でした。
現実には結ばれることのなかった人。
だからこそ、祖母の心に残る人となったのでしょう。
今年の桜の季節は、千代の思いが世代を越えて孫である美咲へと伝わった春となりました。
祖母の思いを知った美咲の姿は、柚季という名前の少女ともに千代桜のある丘にありました。
美咲は彼女と祖母の思…続きを読む