描線眼鏡　または師匠の異常な情熱

冒頭から引き込まれました。
線を描いて戦う。まさに漫画のような世界観に圧倒されます。

主人公、登場人物それぞれに共感できる箇所があり、SFといいつつ青春ドラマを見ている感じにもなります。


また、主人公たちが日常生活をちゃんと送り、締め切りに追われる仕事をしていたり、ちらちらと現実にある名前を出すことで別世界のことではなく、『すぐ近くにあるかも知れない現実』と思えてしまうのも没入感が高いポイントかも知れません。

熱いSF作品を読みたいという方にぜひおすすめしたい作品です。

創作と科学、日常と戦いを鮮やかに描いた青春バトルSF。
漫画家を志す少年と天才少女が、迷いながらも真っ直ぐに進む姿がたまらなく魅力的です。
魔を人の感情や社会の歪みと結びつける描写にも、人間的な奥行きを感じました。

「想像力は、世界を斬る。」という言葉の通り、描くことの意味と力がまっすぐに伝わってくる作品だと思います。

さらに、KAGRAやカミオカンデといった実在の施設が登場し、重力波やダークマター、ニュートリノなど現代物理学のテーマがファンタジーの枠を越えてリアルな臨場感がありました。
科学好きの私にはとても嬉しい要素で、科学的な裏付けと想像力が組み合わさる展開にワクワクしました。

「線を描く」。単純に見えて、とても奥が深い行為です。
線を描くことで、その空間には無かった意味が生まれます。
どんな意味を持たせるかは創造力の為せる業であり、
どんな意味を見出すかは、想像力がものを言います。

想像力が視えざるものを捉え、創造力で視えざるものを斬る。
そんな哲学的構造をバトルシーンに落としこんだ傑作です。

そして、本作のすごいところは
そんな深いテーマに触れていながら、ちゃんと熱くて、ちゃんと青春。
そして、ちゃんと楽しくて面白い！

緊迫するシーンから、和気あいあいと和やかなロードトリップまで
楽しみどころ満載の作品です。

視方次第で色々な側面を見せる。
読者の世界の…続きを読む

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（463文字）

眼鏡とは、近視や遠視といった不自由を矯正し、現実を正しく映し出すために人へ与えられたものです。
そして人間にとって見ているものこそが現実であり、世界の全てでもある。

本作は、そんな眼鏡を題材にしたSF作品です。
量子力学的な観測したものが現実になるという考え方を踏まえ、眼鏡によって現実の裏側に潜む“魔”を視認し、さらに想像した武器を具現化して戦う斬新な異能バトルが描かれています。

眼鏡がただの道具ではなく、新たな可能性を切り開く武器となる瞬間。
現実と非現実の境界を鮮やかに描く物語、ぜひご覧ください。

GYAKさんの『描線眼鏡　または師匠の異常な情熱』第1話から第10話まで拝読しました。確かに緻密な構成で、一度流れに乗ると引き込まれる面白さがあります。

まず魅力的なのは、「描線眼鏡」という特殊な道具を軸に展開される、美術と観察眼の物語性です。単なる便利アイテムではなく、そこに宿る師匠の情熱や哲学が丁寧に描かれており、読み手に“線を描くこと”の奥深さを感じさせます。

師匠と弟子（語り手）のやり取りは、単なる師弟関係以上の緊張感と愛情が入り混じっていて印象的です。師匠の言葉や行動は一見偏屈ですが、その裏にある「本物の眼を持たせたい」という熱意が伝わってきます。弟子側も反発しながら少しずつ影…続きを読む

眼鏡がアイデンティティな作品はいくつもある。
眼鏡が社会との接合を示す作品もまたいくつもある。

しかし、眼鏡がSFそのものに直結する作品はどこまであるだろうか。
強いて言えば古典SF名作映画『ゼイリブ』か？（サングラスとコンタクトレンズ）
あちらが社会批評性の強い作品であったのに対して、本作は思索・哲学に寄せている。
異能やバトルという要素に目を奪われがちだが、想像力・創造力という人間の特権的能力の限界に挑む異色のSFでもある。

さあ、眼鏡をかけてバトルに挑む準備はできたかな？

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（496文字）

本作は異能バトルの骨格を借りつつ、「見る／見られる」「残す／失う」といった抽象的なテーマを、物語の呼吸に見事に同化させています。

切れのいいアクションで興奮を高めたと思えば、一行の凪が差し込まれる。その絶妙な「間」が読み手の感覚をリセットし、滑らかに核心へ誘っていく……余白で語る巧さが光ります！

また舞台の実在感にも妥協がなく、現実との地続きを感じさせるディテールの数々には毎度唸らされます。
特にロードトリップ編の数話は、本作の到達点。
憎悪・継承・積み重ねといった異なるモチーフが一本の「線」に束ねられていく瞬間は圧巻でした。

描く行為に迷いを抱えるすべての創作者に薦めたい作品です。