小学校の教室を吹き抜ける初夏の風のように、懐かしくて、どこか胸がきゅっとなる物語。
最初のページをめくった瞬間から、教室のざわめきや、ランドセルの色、給食のコッペパンの匂いまでもが、鮮やかに心の中に広がっていきます。
大人になった今、こうした日常の一つひとつが、どれほど大切でかけがえのないものだったのかを、しみじみと思い出させてくれます。
登場する子どもたちは、みんな個性豊かで、どこか自分や昔の友達に重なるような親しみやすい子たち。
お調子者で騒がしい井上くん、ほっぺが焼きたてのホットケーキみたいな浅野くん、そしてその二人を見守る「ぼく」。
彼らの会話や仕草、ちょっとしたいたずらや作戦会議が、まるで自分もその輪の中にいるような気持ちにさせてくれます。
子どもたちの「事件」に対するまっすぐな姿勢。
ラブレターの謎を追いかけて、真剣に推理したり、作戦を立てたりする姿には、微笑ましさを感じます。
大人から見れば小さな出来事でも、子どもにとっては大冒険。
その一生懸命さや、友達を思う気持ちの強さが、物語全体にやさしい明りを灯します。
また用務員さんのゴッド丸や、明るいミチコ先生といった大人たちも、子どもたちの世界をそっと支え、見守ります。
泥団子や神砂、放課後の公園など、どれもが懐かしく、思い出の中の宝物のようです。
文章はとても読みやすく、子どもたちの目線に寄り添った表現が多くて、素直に物語の世界に入り込むことができます。
五感に訴えるような細やかな描写や、ユーモアのあるやりとりが印象的です。
短い言葉や、ふとした仕草に込められた気持ちが、静かに心に響いてきます。
この作品を読み終えた後、なぜか前向きな気持ちになれるのは、子どもたちがそれぞれのやり方で「大切なもの」をまっすぐに伝え合っているから。
子ども時代の自分や、今そばにいる大切な人たちのことを思い返して、もう一度大事にしたくなる、そんな物語でした。