【3行要約】
・銀行・コンサル・起業などを経験した勝木健太氏は「業界は違えど必要なスキルの根幹は同じ」だと指摘します。
・同氏は「起業経験を経て会社員に戻ると無双できる」と語ります。
・ビジネスパーソンは会社員を続けながら副業や起業を経験し、集客視点を身につけることを提案します。
会社員としての「エリート」を目指していた20代
――勝木さんはこれまで、銀行やコンサル、監査法人、フリーランス、起業とキャリアの転換をされてこられました。20代の時はどんなキャリアを描いていらっしゃいましたか?
勝木健太氏(以下、勝木):20代は、会社員として、よりエリートになろうとしていましたね。年収が高いとか、より入社難易度が高そうな会社に転職しようとしていました。だから銀行から転職してコンサルに行ったり、就職難易度的な価値観で、上位のところに行きたいと考えていました。プラス、銀行はたぶん全職種・業種の中で最も堅いのですが、自分は堅いのは向いていないなという思いもありました。
安定もありつつ、もう少し柔らかい職種を探して、すごくもがきながらいろんな業種・職種を転々としました。でも周りには「もがいている感」を見せないようにがんばっていましたね。
私は2011年卒なのですが、当時って今みたいにAIやデジタルとか(を重視する流れ)じゃなかったんですよ。日本企業の海外売上比率を増やしていくのが、いわゆる日本の成長戦略だ、みたいな。なので「グローバル人材にならないといけない」という雰囲気がありました。
会社の査定でも「海外に行きたいですか?」というチェックシートがあって、「はい」って書かないと呼び出されるみたいな(笑)。2015年ぐらいからフィンテックとかの言葉ができて「日本の将来はデジタルにかかっている」となっていったんです。
そこからデジタル化、フィンテックの流れやビットコインとかブロックチェーンとかもあって、社会の方向性がガラっと変わっていった中で会社員をしていました。だからPwCでもフィンテックとかのプロジェクトを率先してやって、「フィンテックキャラ」になろうとしたり。
そのあと転職した監査法人のトーマツも、ブロックチェーンの専門部署があるから行こうと思ったんです。当時はブロックチェーンの専門性がある人という立ち位置でした。当時は、キャリアの中でファイナンスとかテクノロジーとか、専門性を磨こうと思っていましたね。
――会社の中で出世していくために、専門性を高めていこうと戦略的に転職されてきたんですね。
勝木:そうですね。たぶん書店に行っても「専門性が大事」という本が多かった気がします。今は「専門性が陳腐化する」みたいな話が多いですよね。私は社会人14年目くらいですが、10年以上やっていると変化の方向性でグローバル、デジタルとかすごく見えてくる気がします。今は変化がすごく激しい時代で、周りでも学生起業したものの「次にどうしたらいいんだろう?」みたいな人も多いんですね。
業界が違えど仕事の根幹は同じ
――勝木さんは異業種への転職も複数回されてきましたが、転職後に苦労しやすいポイントなどはありますか?
勝木:コンサルだったらExcelやパワポをたくさん使いますけど、日本企業ではパワポやExcelを使わない人が多いですよね。日本のいわゆる大企業は、そういうのを社内システム化してくれているので、そうしたスキルの習得で苦労する方は多いかもしれません。
もちろん稟議とかでも、銀行とコンサルで文章の書き方が違うみたいに、実務スキルとかの表面的なフォーマットは違うんですけど。私が読者の方に伝えたいのは「業界によって必要になる実務スキルは違うけど、根本的にはほぼ一緒」だということです。それは言語能力と、どうやったら相手に伝わるかといった編集能力。
だから、成果物を出すという上では、銀行やコンサルでやっていることも、私が今やっている本の執筆や、タイトルとか見出し付けとかの編集作業なども、ある意味全部一緒ですね。

――なるほど。言語化能力は「業界や職種が変わっても使えるポータブルスキル」なんですね。
勝木:本当にそう思いますよ。YouTubeとかでも、サムネの文言やタイトルで、一発でわかるフレーズを作るのが大事ですよね。それと同じで、結局アウトプットで社内や社外を説得する時に、納得感を与えるための構造化と、体系化して言語化することが必要なんです。
その手段が、銀行だったらWord、コンサルだったらパワポ、YouTubeだったらサムネとか、概要欄とか。一見違うように見えて、根底にあるスキルは同じなんです。アウトプットは基本テキストと画像と動画です。
かつ、相手に「買います」とか「契約します」と言ってもらうために、「役に立つ」とか「おもしろい」とか、あとは意外性があるというか、ほかと違うとかをアピールする必要がある。結局、「相手の心をどう動かすか」というところが大事なんです。
みんな転職したら、「まったく別の世界で、すごく苦しみました」みたいな、ハードシングス系の話をされるじゃないですか。それはそのとおりなんですけど、究極的には一緒だと思ったほうが、キャリア的に実りがある。どこの会社に行ってもきっと、本当に深掘りすると完全に横展開できるスキルになるんですよね。
だからこれをわかっている人は、(例えば部下に)「とにかく目の前の仕事をやれ」って言うんですけど。ちゃんとその意味を説明してあげないと、今の若い人たちは、がんばって目の前の仕事を深掘りする意義がわからないと思いますね。
――部下としては「この会社でしか使えない業務じゃないか」と思ってしまいそうですよね。目の前の仕事を一生懸命やることで、どこに行っても使えるスキルが身につくということを、上司が伝えてあげるのが大事ですね。
一度起業して会社員に戻ると「無双できる」
――このあと、勝木さんはM&A後に事業売却され、売却先の上場企業で執行役員を経験されます。経営者を経て会社員に戻り、どんな気づきがありましたか?
勝木:はい。まず会社は、書類を作るとか会議をするとか報告したりとか、要は組織の中で機能する人材が出世していきます。でも自分で事業をやってみて思ったのは、特にスモールビジネスは「集客できるかどうか」がほぼすべてということです。

だから自分でYouTubeをやるとか、インスタのリールで濃いユーザーを集めるとかのスキルが大事なんですね。私の場合も「転職したい」と思っている人をSEOで集めて、ビズリーチさんとかリクルートさんに送って、その対価として一定の報酬をいただくというSEOアフィリエイトだったので。要は集客して送客することをしていました。
なので濃いユーザーを集客して心を動かして何かを買ってもらうっていう、この一連の流れをどれだけやれて、ある程度収益にできたか。これが、自分の中で大きかったんです。会社員はそういう視点をほぼ持たないので、どれだけ小さくてもいいから起業をやって、そのあとに会社員に戻ると、かなり価値が高くなると思うんですよね。
会社員は、そもそも会社そのものが集客をしてくれます。マーケティング部門の方々とかもけっこう潤沢な予算を使える。そうなると、「お金を使わずゼロからグロースさせていこう」と頭をひねることはせず、「まずは予算を使ってバッとCMしましょう」とか、ややマスマーケティング向けな感じになったりします。
あとあるあるなのは、予算が大きいと代理店もどんどん提案してくるので、結果的に代理店に丸投げになる。実は本当に手触り感があるかたちでゼロから事業を作ったことがない人が、会社員の中ではほとんどですね。
――なるほど。起業を経験することで「ゼロから集客する力」が身につき、社内で替えの効かない人になれるということですね。
勝木:そうなんですよ。フリーランスとかスモビジ(スモールビジネス)とか起業とかやってみて、そんなにうまくいかなくても、会社員に戻るとけっこう無双できる人はいますね。このキャリアパス、私はけっこうおすすめです。
一方で最近、会社員の方々も副業がOKになってきていていますよね。副業で自分でYouTubeチャンネルを作ったりして、会社員のままでもそういうセンスが身についてきている方もいますね。なので会社員をやりながら副業をやるのも、かなりおすすめです。