【3行要約】
・マネジメントは「先輩の背中を見て学ぶ」時代から変化し、ロールモデル不在の現代では新たな学び方が必要とされています。
・伊藤羊一氏は「マネージャーは単なる管理者ではなく、チームをゴールに導く役割を担う、『なんとかする人』である」と指摘します。
・優れたマネージャーになるには、書籍や研修などからの知識習得と実践的アウトプット、そして自律的に学び続ける姿勢が不可欠です。
マネジメントの勉強が難しい理由
現代のマネジメントについて勉強することがなぜ難しいのか。その大きな要因として挙げられるのが、「ロールモデルの不在」です。
かつての日本の組織では、「習うより慣れろ」「先輩の背中を見ろ」といったかたちで、経験的にマネジメント手法が継承されてきました。しかし、現代は2つの意味でこの方法が通用しなくなっています。
1つは、ビジネス環境の複雑化です。IT技術の急速な進化や予測不能なリスクの増大により、過去の成功体験や前例が必ずしも通用しなくなりました。新たな課題に対して、過去のやり方では答えを見つけられない場面が増えています。
もう1つの要因は、世代間のギャップです。例えば、30代で新しくマネージャーになった人にとって、50代や60代の上司が生きてきた時代背景や価値観は大きく異なります。その背中を見て学ぼうとしても、そのまま自身のマネジメントに適用するのは困難です。
さらに、キャリアに対する考え方も大きく変化しました。かつては1つの会社でキャリアを終えるモデルが主流でしたが、現在は転職や副業など、キャリアの選択肢が多様化しています。部下はもはや理不尽に耐えて会社にしがみつく必要がなく、「このマネジメントスタイルにはついていけない」と感じれば、別の選択肢を容易に選べる時代です。
このような状況下で、マネージャーは過去のやり方を踏襲するのではなく、組織の外に学びを求めたり、新しいマネジメントの「型」を取り入れたりする柔軟な姿勢が不可欠となっています。
マネージャーに求められる役割
マネジメントという言葉を聞くと、多くの人が「管理」という言葉を連想するかもしれません。実際にマネージャーは「管理職」と訳されることが多く、その役割は部下の行動や業務進捗を管理することだと考えられがちです。
しかし、社会が大きく変化する中で、マネージャーに求められる役割も変わりつつあります。
現代のマネージャーは単に「管理する人」ではなく、「なんとかする人」であると捉え直すことが重要だと、Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長の伊藤羊一氏は語ります。これはマネジメント(manage)という言葉が持つ本来の意味に立ち返る考え方です。
この言葉には「管理する」という意味だけでなく、「なんとかする」「うまくやる」という意味も含まれています。つまりマネージャーとは、チームがゴールを達成するために、あらゆる手段を講じて「なんとかする」機能を持った存在なのです。この役割は役職の上下にかかわらず、チーム全員で取り組むべき課題であり、マネージャーだけが担うものではありません。
では、「なんとかする」とは具体的に何をすることなのでしょうか。その本質は、チームをゴールに導くことに集約されます。そのために必要な要素は「ゴール」「チーム」「導く」の3つだと伊藤羊一氏は語ります。
つまり、マネジメントとかリーダーシップには何が必要かというと、チームをゴールに導いていくためにやることを全部やるし、導くということが大事になるわけです。「チーム」と「ゴール」と「導く」、この3つしか要素としてはないんです。
それぞれがどういうことか、もうちょっと細かく言うとこうなります。ゴールに関しては「ゴール設定し、チームに共有する」ということです。この矢印の部分、いきなり課題だけ出して「ゴールはこれね」とやってもらうのではなくて、その時その時で、「プロセスを明確にして導いていく」ということが大事ですよね。これは当たり前ですよね。
そして、「チーム」は「チームの力を最大化する」ということ。これではさすがにちょっと雑なので、もうちょっとブレイクダウンします。どうしたらチームの力を最大化できるかというと、2つあると思っています。
引用:マネジャーとは「管理する人」ではなく「なんとかする人」 今の時代のマネジメントに必要なたった3つの要素(ログミーBusiness)
マネジメントについて勉強するための具体的な方法
マネジメントスキルはセンスや感覚だけに頼るものではなく、体系的に学ぶことで誰でも習得し、向上させることが可能です。学習方法には、インプットとアウトプットの両側面からアプローチすることが効果的です。
まずインプット、つまり知識を習得する方法としては、書籍や研修、eラーニングなどが挙げられます。書籍はマネジメントの大家が記した古典から、最新の理論や実践的なノウハウを解説したものまで多岐にわたります。まずはマネジメントの基本原則や、コーチング、チームビルディングといったテーマに関する本から手に取るのが良いでしょう。
研修は、他の参加者とのディスカッションやロールプレイングを通じて、実践的なスキルを集中的に学ぶことができる場です。講師から直接フィードバックをもらえる点も大きなメリットと言えます。
近年ではeラーニングも有効な学習手段となっています。時間や場所を選ばずに自分のペースで学べるため、多忙なマネージャーでも取り組みやすいのが特徴です。体系的なコースを受講することで、マネジメントの全体像を効率的に把握できます。
しかし、インプットだけではスキルは身につきません。学んだ知識を実践で活用するアウトプットの機会を意識的に作ることが何よりも重要です。
清水:ビジネスパーソンの学びは、研修の開発の専門用語でいうと、Adult Learning、成人の学びです。大人の方が学ぶということですね。英語だと、EducationとLearningという違いなんですよ。
Educationは日本語でいうと「教育」です。教え育てる。Learningは「学習」なので、自ら学び習っていくという。この違いはやっぱり一番大きいわけですよね。
左側は、基本的に人の決めたカリキュラムに沿って学んでいくやり方なんですが、ビジネスパーソンの方は忙しいということもあって、やはり仕事で成果を出すところがメインになってきます。そこに向けて自ら目的や意義を設定していかないと、途中で挫折することがすぐに起きてしまうわけですよね。
どなたかが「これをやりなさい。あれをやりなさい」とお尻を叩いてくれることはほとんどありませんので、自分がいかに自律的にやっていけるかどうかが大きく変わってくるところかなと思います。
引用:マネージャーに求められるのは「What」を考える力 予測不能な時代を生き抜くための3つの成功因子(ログミーBusiness)
優れたリーダーに共通する「学び続ける姿勢」
マネジメントスキルは一度習得すれば終わりというものではありません。ビジネス環境は絶えず変化し、チームメンバーの価値観も多様化しています。このような状況で成果を出し続けるためには、マネージャー自身が常に学び続け、自らをアップデートしていく姿勢が不可欠です。
優れたリーダーや高いパフォーマンスを出す人々に共通しているのは、この「学び続ける姿勢」です。彼らは、自分の経験や成功体験に固執することなく、常に新しい知識や視点を貪欲に吸収しようとします。
その学び方は、単に本を読んだり研修に参加したりするだけにとどまりません。例えば、自分とはまったく異なる分野で活躍する一流の人々と積極的に交流し、そこから新たな発想や知見を得る。あるいは、日々の経験から学びを抽出し、言語化して自分の中に蓄積していく。こうした主体的な学習サイクルを回し続けています。
特に、経験から学ぶ「経験学習」のプロセスは重要です。何かを経験し、それを客観的に振り返り(反省)、そこから教訓や法則性を見出し(洞察)、次の行動に活かす。このサイクルを意識的に回すことで、日々の業務すべてが学びの機会となります。
マネージャーは教える立場であると同時に、誰よりも学び続ける学習者でなければなりません。部下は上司の背中を見て育ちます。マネージャーが自ら学び、挑戦し、変化し続ける姿を見せることこそが、チーム全体の成長を促す最も強力なリーダーシップとなるのです。