第31撃:──静かな決意と、小さな再出発──
ロイのアイテムショップを出た一真と晶。昼過ぎの穏やかな陽光が、二人の背にやさしく降り注いでいた。
通りには、村人たちの活気ある声が飛び交い、小さな子どもがはしゃぎながら駆けていく。そんな光景をぼんやり眺めながら、晶が口を開いた。
「一真さん、これからどうするんですか?」
一真は少し考えてから答える。
「そうだな。必要な物もある程度は揃ったし……一先ず、帰らずの森の拠点に戻るか」
その言葉を聞いた晶は、ふっと表情を曇らせる。
「……」
「ん? 森へ帰るのは嫌か?」
一真が眉をひそめて問いかけると、晶はすぐにかぶりを振った。
「いえ……そうじゃないんです。ただ……」
言葉を選ぶように、ゆっくりと呟く。
「……クラスの皆のことが、気になって……。ボク、あんなふうにされたのに……でも、やっぱり……どこかで、無事でいてほしいって思ってしまって」
うつむいた晶の肩が、わずかに震えていた。
(この子は……自分を虐げた相手のことすら、心を痛められるのか。強いな)
一真は無言で、晶の頭に手を置いた。その大きくて温かい掌に、晶は目を閉じる。
「……とりあえず、動こう。残った金で食料品を補充しておきたい。マジックバッグがあるなら、保存の心配もないしな」
一真の言葉に、晶は顔を上げた。
「……はい、そうですね。栄養面も考えたら、野菜とかも必要ですもんね。果物も、補給になるし……」
「そういうことだ。肉や魚だけじゃ偏るからな。あとでロイに勧められた保存調味料も探してみるか」
そうして二人は、食材屋を探して歩き始めた。
陽の光が降り注ぐ広場の一角に、木造の屋根がかかった屋台風の食材店が並んでいた。呼び込みの声に混じって、野菜の新鮮な匂いや焼いた干し肉の香りが漂っている。
「いらっしゃい! 今日のリンゴは甘いよぉ! 蜜入りだ!」
「こっちは干しナス、保存も効くよ! そこのお兄さんたち、今ならまとめて少し負けとくよ!」
一真はそんな声を聞き流しながら、果物と野菜を吟味していく。
「トマト、玉ねぎ、じゃがいも……あとは根菜系も欲しいな。持ち歩くなら潰れにくいものがいい。キャベツもあるのか」
晶は真剣な表情で野菜を選び、時折マジックバッグの中身と照らし合わせる。
「果物はリンゴ、オレンジ……あ、干し柿もある。干物にしてある果実って、案外栄養価高いんですよ」
「ほう、物知りだな」
「えへへ、料理は好きなので」
「しかし、地球と同じ食材も多くあるんだな。レストランでのメニューを考えたら、地球とはまったく違うのかと思ったが」
「はい、そうですね。でも良かったです。これならいろんな料理が作れそう」
「そいつは楽しみだ。小麦粉も売っていたし、食用の油もあった。肉は…まあ、森で狩りでもすれば良いか」
そんなやり取りをしながら、必要な食材や調味料を一通りそろえた二人は、最後に焼きたてのパンを数個買い足し、満足げに店を後にした。
買い物を終え、村の門の方へと歩いていく。
一真がふと振り返り、村の広場を一望して言った。
「そう長くいたわけじゃないが……名残惜しく感じるな」
晶も同じように後ろを振り返り、優しい笑みを浮かべる。
「そうですね……また、ロイさんや、ビルさんたちに会いに来ましょうね。きっと、また」
「……ああ」
一真は静かに頷いた。
二人は振り返ることなく、まっすぐと村の門をくぐり抜ける。空にはまだ雲一つない快晴が広がっていた。
そして、道の向こうには、拠点へと続く深い森の緑が揺れている。
こうして二人は、新たな決意と、満たされた心を抱えながら、再び帰らずの森へと歩き始めた。
静かに、しかし確かに。未来へと繋がる一歩を踏み出すように──