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長剣と銀貨 - 若獅子 四
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長剣と銀貨  作者: ビルボ
第三話 若獅子
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若獅子 四







 火花が飛び散るような眼光を、四十路に叩きつけた。

 一気に駆け寄って、四十路の一足一刀の間合いの外(アウトレンジ)ぎりぎりの所から、跳びかかって肩に木剣を振り下ろした。

 全身の()()を使っての打ち下ろし。

 ()()()に受ければ得物を取り落とす。よしんば受け切られて反撃されても、その頃には左に跳び退(すさ)って奴の手の届かない所にいる。

 そんな思惑が、一合で外された。

 四十路は下方に垂らした剣先を、左腕に乗せて支えるようにして、ハンスの重撃を受け流した。

 滑って流れたハンスの手を、四十路の左腕が抱え込む。

 ()()と思って左腕で顔をかばったが、攻撃がこない。

 不思議に思ったその瞬間に、木剣の切っ先に鳩尾(みぞおち)を小突かれ、思わず左腕を下げたと同時に、口元を突かれた。

 激痛のあまり、立っていられなかった。


 目の前に光が散らかるような数秒の後、気付けば仰向けに倒れていた。

 血が口の中に流れ込む。唇が切れている。

 傷口を舌で探ろうとすると、何か鋭いものが舌を切った。前歯がぐらつく。

 うつ伏せになり、四つん這いになる。指で前歯を触ると、ずるっと前歯が外れた。


「若!?」


 その時になって、部下に呼びかけられているのに気付いた。

 ウルリヒは、外柵のところから中に入れないでいた。弟子たちが、その前に立ちふさがっている。

 気付けば、四十路に見下ろされていた。


「折れたか? 差し歯の上手な職人を紹介してやろうか?」


 それが、ハンス・タルホッファーと大師(グロースマイスター)ヨハネス・リヒテナウアーの出会いだった。






 

 

 翌日の勤務中、ハンスは傭兵隊長(ホプトマン)エルハルト・ハレルに笑われた。


「なんだお前、リヒテナウアー先生に絡んだのか。馬鹿だなぁ」


 師の名を聞いたのは、その時だった。 


 勤務後、ハンスはヨハネスの道場の門を叩いた。

  

「昨日の先生は、いらっしゃいますかい?」

「物好きだな。歯抜けにされたばかりなのに」


 ヨハネスが呆れたように言うと、ハンスは肩をすくめた。


「よしてくだせぇ。あんなやられ方じゃ、意地も立てやせん。どうか、あっしに剣をお教えくだせぇませんか?」


 膝を突こうとするとするハンスを、ヨハネスは立たせた。


「だがお前さん、そうとう(つか)うだろう? 今さら、おれに習っても身になるまい」

「とんでもねぇことでございます。昨日の吊り構えには、まったく感服いたしやした。あんなふうに引き付けてお使いなさるたぁ、夢にも思いやせんでした。……それでいて、あれで腕、刃で斬っちまわねぇんで?」

「あれは、おれは弦楽器の弓(フィドル・ボウ)の構えと呼んでいるんだが、注意すべき事は……」






 この日から、ハンスはヨハネスの道場に通うようになった。

 それまでに身に付けた動きを封印して、一からヨハネスの教えを吸収しようとする。

 また、試し稽古(試合)でも、あえてその身体能力を抑え、文字通り、学んだ技の試しに専念した。

 その真摯な態度に、他の弟子たちも、ハンスに一目置くようになる。


 また、悪所通いをすっぱりやめて、道場に行かない日は、イタリア帰りの文人の私塾に通った。

 授業料は相応にかかったが、国元からの仕送りと傭兵収入があるハンスには問題ではなかった。

 これらの努力により、大司教の元で学んだラテン語・修辞学・哲学・占星術にさらに磨きをかけた。

 喜んだのは、傭兵隊長(ホプトマン)エルハルト・ハレルである。

 以降、タルホッファーはエルハルトに重用(ちょうよう)された。





 

 それから、五年が経過した一九三四年二月。

 部下のウルリヒが、本国からの指示を伝えてきた。


「ハンス・フォン・ヴィレンバッハが、領邦(ラント)平和裁判所と、ヴェストファーレン地方の秘密裁判所(フェーメ)に訴えました。御屋形様からは、至急帰国するようにとのご指示です」

「ありえねぇ……」


 ハンス・タルホッファーは、呆然と呟いた。





挿絵(By みてみん)

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