【五十七人目】 留守中に可愛い恋人は合鍵で部屋に入るが俺が元々、家にいれば彼女は入ってこない
彼女はいつも俺が留守の時に、合鍵を使って俺の部屋に入っている。
俺が帰ると、笑顔で迎えてくれる彼女は、奥さんのようだ。
しかし、そんな彼女に俺は不安なことがある。
それは彼女は、俺が元々家にいると、絶対に入って来ないんだ。
俺が今日は部屋にいるからおいでと言うと、今日は外でデートをしようと言ったり、忙しいと言ったり、私のお家においでと言ったり、俺の家に家主の俺が元々いると入っては来ない。
何か違いはあるのだろうか?
彼女に訊きたいが訊けない。
もしかしたら偶然なのかもしれないからだ。
だって彼女に合鍵を渡したのは一ヶ月前だから。
しかし、その一ヶ月で俺は、不安なことが出きてしまうなんて、女々しい男かもしれない。
でも、そう思うほど彼女は可愛く、俺にはもったいない女性なんだ。
そこで俺は考えた。
俺は家にいないことにして、クローゼットに隠れて彼女が何をしているのかを確認しよう。
最低なことをしようとしていることは分かっている。
でも、それほど彼女が、俺を選んでくれたことが未だに信じられないんだ。
俺は毎日、残業をして夜遅くに家に帰り、寝たらまた出勤して遅くまで残業しての繰り返しだった。
そんな俺に彼女から声を掛けてきた。
会社でも有名な美人社長秘書。
女性社員は、彼女は顔で選ばれたと言っている。
でも俺は知っていた。
彼女は努力して社長秘書になったんだと。
毎日、誰よりも早く出勤してコーヒーを作り、社長の机や椅子など綺麗に拭くんだ。
俺はたまたま早く出勤した時に、そんな彼女を見ていた。
しかし、そんな彼女を見ていたが、声を掛けることはしなかった。
俺は彼女の行動がいつまで続くのか気になり、たまに早く出勤していた。
「いつも朝早くからお疲れ様です」
彼女が俺に、彼女が作ったコーヒーをくれた。
俺の机の上に乗ったコーヒーは、すごく良い香りがしていたのを覚えている。
それから彼女とは朝だけではなく、見かけたら話すようになっていた。
それから彼女とお酒を飲みに行く約束をした。
彼女はお酒には強いようで、色んなお酒を飲んでいたが飲みすぎたのか、俺に悩みを話だした。
「私は女性社員に嫌われているの。社長秘書になりたくて必死に頑張ったのに。私の頑張りなんて誰も見てくれていないのね。私の見た目だけで判断されて悲しいわ」
彼女は悲しそうな顔をしてお酒を飲んだ。
強そうなお酒なのに、彼女は顔色一つ変えず、遠くを見ながら飲んでいた。
「俺は知っているから」
「えっ」
「俺は君の頑張りを知ってるよ。誰よりも早く出勤してコーヒーを作ったり、社長の机とか綺麗にしているのを知っているよ」
「あなたが知っているだけじゃダメなのよ。私は女性社員に本当の私を知ってほしいの」
「それなら君から話し掛ければいいじゃん?」
「えっ」
「君って、女性社員に話し掛けたことが、ないんじゃないのかな?」
「だって嫌われているから」
「嫌われていてもいいじゃん。知ってもらうことってまずは、話すことからだよ」
「そうね。そうよね。ありがとう」
彼女は嬉しそうに俺に笑顔を見せてくれた。
それから彼女は、女性社員に話し掛けたりして、彼女を嫌う人はほとんどいなくなった。
彼女はそれほど、同性にも異性にも魅力的な女性なんだ。
だから俺が彼女に告白して恋人になれたことが、俺には未だに信じられないんだ。
◇
「明日は少し早く帰るから六時くらいかな?」
「そう? それならあなたの家で待っているわね」
「うん」
同じ会社だから仕事と言ってもバレる。
だから親に呼び出されたと嘘をついた。
明日はクローゼットに隠れなければならない。
彼女には悪いと思っているが、これが最初で最後にするから。
そう自分に言い聞かせて、明日が来るのをソワソワしながら過ごした。
『ガチャッ』
ドアの鍵が開く音がした。
彼女が来たみたいだ。
彼女はお邪魔しますと言って入ってきた。
そして買ってきた食材を冷蔵庫の中にしまっている。
本当に俺の奥さんのような行動だ。
彼女は次に俺の部屋の掃除をしだした。
知らなかった。
今、思えば朝に脱ぎ捨てたパジャマが綺麗に畳まれていたかも。
何で気付かないんだ?
彼女にちゃんと、お礼を言わなければいけないな。
彼女は掃除をしている時、楽しそうにしていた。
「あっ、これって私があげたやつだ」
彼女はそう言って、床に落ちていたキーホルダーを拾いあげた。
それは彼女と水族館に行った時に、彼女がお揃いで買ったイルカのキーホルダーだった。
俺は使い道が分からなくて、机の上に置いていたはず。
いつの間にか落ちたのだろう。
すると彼女は、ポケットから色違いのイルカのキーホルダーを出した。
俺は青で彼女はピンクのイルカだ。
そのイルカのキーホルダーを彼女は交換していた。
俺の机の上には、ピンクのイルカのキーホルダーが置いてある。
「これで彼といつでも一緒だね。私の代わりのイルカさん」
彼女はそう言って笑っている。
なんて可愛いんだ。
今すぐ抱き締めたい。
でもまだ我慢をする。
まだ彼女の行動を見ていたかった。
「あっ、もう、こんな時間なの? ご飯を作らなきゃ」
彼女はキッチンに立ち、料理をし始めた。
良い匂いが俺の鼻にも届く。
彼女は鼻歌を歌っている。
やっぱり彼女は可愛い。
ごはんができたようで、彼女は彼女専用の座椅子に座り俺の帰りを待っているようだ。
「まだかな? どんな顔をして迎えようかな? やっぱり笑顔だよね」
ん?
どんな顔?
そんなの考えなくても自然にすればいいのに。
「寂しかったよって言うのもいいかな? でも甘えているようで、私にはちょっと違うかな?」
彼女は俺に見せる顔や言葉を、考えている。
もしかして、いつもこんなことを考えているのか?
そんなの必要ないのに。
「もう彼は気付いたかな? 私が彼が家に元々いるときは入っていないことを、、、」
おっ。
俺が知りたかったこと?
「彼がどんな顔をして、部屋のドアから出てくるのか分かんなくて、私もどんな顔をすればいいのか分からないからなんて言えないよ」
彼女はさっきの、青のイルカのキーホルダーに話し掛けていた。
彼女は考え過ぎだ。
いいんだよ。
どんな顔でも。
俺は君がいれば嬉しいんだから。
俺は座っている彼女の後ろから、彼女を抱き締めていた。
「キャッ」
彼女は驚いている。
でも俺は離さない。
「俺はどんな君でも好きだよ」
「えっ」
「俺は君の全てが好きなんだ。君だってそうでしょう?」
「うん。大好きよ」
「それならどんな顔でもいいと思わないか?」
「うん。でも」
「それでも嫌なら俺と一緒に住む?」
「えっ」
彼女は驚き、後ろにいた俺の方に体ごと向ける。
「俺と同棲する?」
「しない」
「えっ」
「あっ、違うの一緒に住むのは!旦那さんになる人だって決めてるの」
驚いた。
同棲を断られてショックを受ける所だったよ。
まぁ、彼女がそう言うなら。
「俺のお嫁さんになってくれる?」
「はい。喜んで」
彼女は嬉しそうに笑っていた。
◇◇
彼女にクローゼットの中に隠れていたことを言うと、これが最初で最後にしてよと言っていた。
当たり前だ。
もう、彼女に対して心配ごとは消えたから。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、政略結婚をさせられた主人公は、美人な結婚相手に会った時に、今日が初めて会ったんじゃないと言われた彼の物語。
彼と違い結婚相手は政略結婚ではなく、ちゃんと恋愛結婚をしていたという。