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JP3578751B2 - 植物体の育成・再生用担体 - Google Patents
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JP3578751B2 - 植物体の育成・再生用担体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物体の育成あるいは再生に好適な高分子化合物担体に関し、より具体的には、育成あるいは再生した植物体に損傷を与えることなく、簡便に回収あるいは継代することを可能にする植物体育成あるいは再生用の担体、およびこれを利用する植物体の育成あるいは再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、目的とした形質を有する植物体の育成あるいは再生技術の開発が大きな注目を集めている。
【0003】
近年、葉、茎、根、花弁、葯(花粉)あるいは幼植物などの植物体を直接、育成する技術をはじめとして、これらの植物体からプロトプラストを単離し、該プロトプラストを培養しカルスあるいは毛状根を再生し育成する技術など多彩な技術が開発されている。特にプロトプラストの段階で遺伝子導入あるいは細胞融合などの技術を応用し、より目的に合った植物体の育成あるいは再生が行われている。更には、葉、茎、根、花弁、葯等の植物体組織に、遺伝子銃などで直接外来遺伝子を導入する新しい育種法も開発されている。
【0004】
これらの新しい育種法に共通する最も重要な点は、目的とする形質を獲得した植物体が効率良く、育成あるいは再生することが可能な培養法を確立することである。
【0005】
植物体の培養は、液体培養と、寒天などのゲルを用いた固体培養に大きく分けられる。液体培養は植物体を懸濁状態で培養するために、大量培養に適した方法であると同時に、容易に継代培養が可能であり、また植物体の分泌物生産を目的としたバイオリアクターに向いているなどの利点を有しているが、植物の種類によっては、液体培養が困難なものがある。
【0006】
一方、寒天(アガー)などを用いた固体培養法は、広範囲の植物種に適用が可能な方法であり特に変異体選抜に適した培養法であるが、以下に記すような大きな問題点を有している。
【0007】
1) 寒天培地で育成あるいは再生した植物体を、寒天フリーの状態で回収あるいは継代することが非常に困難である。
【0008】
2) 寒天培地で培養する場合に、栄養素の補給はゲルの外側から拡散によって行われるために、効率が非常に悪い。
【0009】
3) 寒天培地中に蓄積される老廃物の除去も拡散によって行われるため、非常に効率が悪い。特に植物体が自ら作るポリフェノールなどの生育阻害物質などの除去は、ほとんど不可能である。
【0010】
4) 植物体の産生する物質を生産することを目的としたバイオリアクター用の担体としては向いていない。
【0011】
上記した問題点は、従来の固体培養に用いられる寒天(アガー)などのゲルの物性に起因している。即ちアガーあるいはアガロースは、ゾルーゲル転移温度を有していて該転移温度より高い温度では溶解状態即ちゾル状態を示し、該転移温度より低い温度でゲル状態に変化する性質を有している。この性質を利用して、ゾルーゲル転移温度より高いゾル状態で植物体をアガー等に埋没し、温度を下げることによってゲル状に変化させ、固体培養が実施されてきた。
【0012】
しかしながら、寒天のゲルの融解温度は非常に高く、約90℃近辺である(山内愛造ら、高分子 One Point“機能性ゲル”P29、共立出版)ために、植物体を溶解状態の寒天に埋没する際に該植物体は熱的損傷を受ける。また、育成あるいは再生した植物体を寒天培地から回収あるいは継代する際に、温度をゾルーゲル転移温度より高い温度に上げ、寒天をゾル状態に変化させる必要があるが、その際にも植物体は高温にさらされ非常に大きな熱的損傷を受ける。
【0013】
したがって従来の固体培養では、温度変化によって寒天フリーの状態で回収あるいは継代することは極めて困難であった。一方、植物体に付着している寒天を機械的に取り除くことは、多くの手間を必要とするのみならず、脆弱な植物体の組織(特にカルス、毛状根)に損傷を与えてしまう恐れがあった。
【0014】
育成・再生後の寒天の除去には上記した問題点があるため、従来の固体培養法では、実際には、育成あるいは再生した植物体の土壌への移植が、植物体に寒天を付けたまま実施されてきた。しかしながらこの場合、寒天培地は栄養分を多く含むため、土壌中で細菌、カビなどが繁殖し易く植物体を腐らせてしまうという問題点が指摘されている。
【0015】
一方、植物体の分泌物の産生を目的としたバイオリアクターに於ては、ゲル状の寒天培地中からの分泌物の回収は、液体培養法と比較して格段に困難である。即ち、該分泌物を含有する寒天ゲルを溶解する際の高温加熱が、分泌物に著しい損傷を与えるからである。
【0016】
上記した寒天ゲルの問題点を軽減するために、アルギン酸ソーダーが植物体の育成あるいは再生用担体として用いられて来ている。即ち、アルギン酸ソーダーの水溶液中に植物体を埋没した後、該溶液を濃厚塩化カルシウム溶液に接触させることによって、アルギン酸ソーダーをゲル状態に変化せしめる方法である。
【0017】
アルギン酸カルシウムは毒性が少ないという長所はあるものの、上記方法には以下のような問題点がある。
【0018】
1) アルギン酸カルシウムゲル内で育成あるいは再生した植物体の回収あるいは継代の際に、アルギン酸カルシウムゲルを溶解する必要があり、その際に使用されるEDTA(エチレンジアミンテトラアセティックアシッド)などのカルシウムキレート剤は細胞、組織などに損傷を与える。
【0019】
2) アルギン酸カルシウムゲルは機械的強度が弱い。
【0020】
3) リン酸濃度の高い培地などでは、アルギン酸カルシウムゲルのカルシウムとリン酸が反応して、リン酸カルシウムの沈澱が形成され、培養が困難になると同時にゲルが脆弱になる。
【0021】
4) アルギン酸ソーダーのゲル化がカルシウムとのイオン交換反応により起るために、ゲルの表面から内部へとゲル化が進行し、ゲル内部に存在する植物体が均一なゲル化反応を阻害し不均一な構造を有するゲルが生成し易い。
【0022】
以上述べたように、従来、植物体の育成あるいは再生用として用いられてきたゲルには大きな問題点が未解決のまま残されている。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、育成あるいは再生した植物体を容易に回収あるいは継代することが可能な植物体の育成あるいは再生用担体、およびこれを用いる植物体の育成あるいは再生方法を提供することにある。
【0024】
本発明の他の目的は、植物体が産生する物質を生産するためのバイオリアクター用担体として好適な材料を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究の結果、従来の寒天などのゲルが有するゾルーゲル転移温度よりも著しく低い温度で、可逆的に液体状態とゲル状態との変換を可能にした高分子化合物を、植物体の育成および/又は再生用の担体として用いることが上述した問題点の解消に極めて効果的なことを見出した。
【0026】
本発明の植物体の育成又は再生用担体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、LCST(下限臨界共溶温度)を有する温度感応性高分子化合物を架橋してなる高分子化合物を含むことを特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、更に、LCSTを有する温度感応性高分子化合物を架橋してなる担体を、該LCSTより高い温度で所定の培地に分散させ、該分散液体中に植物体を混入し、前記LCSTより低く温度を下げることにより上記分散液体の流動性を減少させ、ゲル状態として上記植物体の育成又は再生を行う植物体の育成又は再生方法が提供される。
【0028】
本発明によれば、更に、LCSTを有する温度感応性高分子化合物を架橋してなる担体を、該LCSTより高い温度で所定の培地に分散させ、前記LCSTより低く温度を下げることにより、上記該分散液体の流動性を減少させてゲル状態とした後、該ゲルに植物体を乗せるか又は差し込むことにより、該植物体の育成又は再生を行う植物体の育成又は再生方法が提供される。
【0029】
本発明の担体は、LCSTを有する温度感応性高分子化合物が架橋してなる高分子化合物が水または培地中でLCSTより低い温度で吸水し膨潤し、LCSTより高い温度で脱水し収縮して体積が著しく変化する性質を利用したものである。
【0030】
したがって、例えば、本発明の担体の培地分散液中における担体と培地の量比、温度感応性高分子の架橋密度、および担体の大きさなどをコントロールすることにより、LCSTより低い温度では流動性が著しく低いゲル状態を、LCSTより高い温度では流動性の著しく高い液体状態を実現することができる。この液体状態とゲル状態との変換は、温度に対して可逆的である。また、上記の液体状態とゲル状態との変化温度は、上記LCSTによって決定される。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0032】
(液体ーゲル転移温度)本発明において、「液体状態」「ゲル状態」および「液体ーゲル転移温度」は以下のように定義される。この定義については文献(Polymer Journal ,18(5),411−416(1986))を参照することができる。
【0033】
担体の分散液体1mLを内径1cmの試験管に入れ、所定の温度(一定温度)とした水浴中で12時間保持する。この後、試験管の上下を逆にした場合に、担体の分散液体/空気の界面(メニスカス)が担体の分散液体の自重で変形した場合(担体の分散液体が流出した場合を含む)には、上記所定温度において担体の分散液体は「液体状態」であると定義する。一方、上記試験管の上下を逆にしても、上記した担体の分散液体/空気の界面(メニスカス)が担体の分散液体の自重で変形しない場合には、該担体の分散液体は、上記所定温度において「ゲル状態」であると定義する。
【0034】
一方、上記した「所定温度」を徐々に(例えば1℃きざみで)上昇させて、「ゲル状態」が「液体状態」に転移する温度を求めた場合、これによって求められる転移温度を「液体ーゲル転移温度」と定義する(この際、「所定温度」を1℃きざみで下降させ、「液体状態」が「ゲル状態」に転移する温度を求めてもよい)。
【0035】
本発明の担体においては、上記液体ーゲル転移温度は0℃より高く、60℃以下であることが好ましく、更には4℃以上50℃以下(特に4℃以上40℃以下)であることが、植物体の熱的損傷を防ぐ点から好ましい。このように好適な液体ーゲル転移温度を有する高分子化合物は、後述するような具体的な化合物の中から上記したスクリーニング方法(液体ーゲル転移温度測定法)に従って容易に選択することができる。
【0036】
本発明の植物体の育成又は再生方法においては、上記した液体ーゲル転移温度(a℃)を、植物体の育成あるいは再生時の温度(b℃)と、育成あるいは再生した植物体を回収あるいは継代する時の温度(c℃)との間に設定することが好ましい。すなわち上記した3種の温度a℃、b℃、およびc℃の間にはb<a<cの関係があることが好ましい。より具体的には、(a−b)は1〜40℃、更には2〜30℃であることが好ましく、また(c−a)は1〜40℃、更には2〜30℃であることが好ましい。
【0037】
本発明に用いられるLCSTを有する温度感応性高分子化合物は、水中あるいは培地中でLCSTより高い温度では水又は培地に不溶性であるが、LCSTより低い温度では可溶性に変化する性質を有している。
【0038】
温度感応性高分子化合物の状態変化は、水和と脱水和によるものとされている。このような現象については、Haskins,M .,et al., J. Macromol. Sci. Chem., A2( 8),1441,1968に、該高分子化合物のひとつであるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)を例に挙げて説明がなされている。PNIPAAmは水に対する溶解度温度係数が負の高分子化合物である。そして、低温においては、PNIPAAm分子と水分子との水素結合に依存する水和物(オキソニウムヒドロキシド)が生成している。しかし、これはLCSTより高い温度に上げることによって分解し、脱水和するため、結果としてPNIPAAm分子同士が凝集して沈殿するとされている。
【0039】
上記のLCSTを有する温度感応性高分子化合物に架橋構造を付与すると、水中あるいは培地中でLCSTより低い温度でも溶解することなく膨潤したゲル状態を保持するが、LCSTより高い温度にすると該高分子は水不溶性に変化するために、ゲルから水が分離し該架橋体の体積が著しく減少する。上述したように、本発明の植物体の育生・再生用担体および植物体の育生・再生方法は、架橋された温度感応性高分子化合物のこのような性質を利用している。
【0040】
(温度感応性高分子化合物)本発明に好ましく使用することができる温度感応性高分子化合物としては、ポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリn−置換メタアクリルアミド誘導体およびこれらの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド、エーテル化メチルセルロース、ポリビニルアルコール部分酢化物などが挙げられる。本発明において特に好ましく用いられるものは、ポリN−置換アクリルアミド誘導体またはポリN−置換メタアクリルアミド誘導体またはこれらの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール部分酢化物である。
【0041】
本発明において好ましく用いられる高分子化合物を、以下にLCSTが低い順に列挙する。
【0042】
ポリ−N−アクリロイルピペリジン;ポリ−N−n−プロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド;ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド;ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド;ポリ−N−アクリロイルピロリジン;ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド;ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド;ポリ−N−エチルアクリルアミド上記の高分子は単独重合体(ホモポリマー)であっても、上記重合体を構成する単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。このような共重合体を構成する他の単量体としては、親水性単量体、疎水性単量体のいずれも用いることができる。
【0043】
上記親水性単量体としては、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、酸性基を有するアクリル酸、メタアクリル酸およびそれらの塩、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸など、並びに塩基性基を有するN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
一方、上記疎水性単量体としては、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアクリレート誘導体およびメタクリレート誘導体、N−n−ブチルメタアクリルアミドなどのN−置換アルキルメタアクリルアミド誘導体、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
一般的には、上記温度感応性高分子化合物に親水性単量体を共重合することによりLCSTは上昇し、疎水性単量体を共重合することによりLCSTは下降する。したがって、本発明の架橋構造を付与した温度感応性高分子化合物の分散液体の液体−ゲル転移温度は、親水性単量体を共重合した温度感応性高分子化合物を用いると上昇し、疎水性単量体を共重合した温度感応性高分子化合物を用いることにより下降する。したがって、共重合単量体成分を選択することによっても、本発明における液体−ゲル転移温度をコントロールすることができる。
【0046】
温度感応性高分子化合物に架橋構造(不可逆的な架橋構造)を付与する方法としては、該温度感応性高分子化合物を与えるべき単量体を重合する際に架橋構造を導入する方法と、単量体の重合終了後に架橋構造を導入する方法とがあるが、本発明ではいずれの方法も採用することができる。
【0047】
前者の方法は、一般的には、二官能性単量体(あるいは3以上の官能基を有する単量体)を共重合することによって行うことができる。例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチルジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの二官能性単量体を用いて行うことができる。
【0048】
後者の方法は、一般的には、光、電子線、γ線照射などにより分子間に架橋を形成することにより行うことができる。
【0049】
また、後者の方法は、例えば、温度感応性高分子化合物中の官能基(例えば、アミノ基)と結合し得る官能基(例えば、イソシアネート基)を分子内に複数個有する多官能性分子を架橋剤として用いて、温度感応性高分子化合物を架橋させることにより行うことができる。
【0050】
本発明担体の水中における体積変化の割合(倍率)は、LCSTより高い温度における収縮時の体積を1として、LCSTより低い植物体育成あるいは再生時の温度における平衡膨澗体積が1.1〜1000、さらには5〜100となることが好ましい。ここで平衡膨澗体積とは、本発明担体を過剰量の水中に所定温度(一定温度)で少なくとも3日以上浸し、膨澗が平衡に達した後の体積をいう(これについては、例えば文献、T. Tanaka, et al., Phys. Rev. Lett. 55,2455(1985) を参照することができる)。
【0051】
上述したような本発明担体の温度に依存した体積変化の割合は、通常、その架橋構造、特に架橋密度に依存し、一般に架橋密度が低い方が体積変化が大きくなる傾向がある。その架橋密度は、前者の方法では、例えば、二官能性単量体の共重合比を変えることで、後者の方法では、例えば、光、電子線、γ線などの照射量を変えることで任意に制御することが可能である。
【0052】
本発明において望ましい架橋密度の範囲は、全単量体に対する分岐点のモル比で、約0.2mol%〜約10mol%、更には約0.5mol%〜約4mol%であることが好ましい。前者の方法で架橋構造を導入する場合、二官能性単量体の全単量体(該二官能性単量体自体をも含む)に対する共重合重量比は、約0.3質量%(wt%)〜約3質量%(wt%)(更には約0.5質量%(wt%)〜約1.5質量%(wt%))の範囲であることが好ましい。
【0053】
本発明において、架橋密度が上記した約0.2mol%〜約10mol%の範囲を上回る場合には、本発明担体の温度に依存した体積変化の割合が小さくなるため、明瞭な液体−ゲル転移が生起しにくくなる。一方、架橋密度がこの範囲を下回る場合には、本発明担体の機械的強度が弱くなり、その分散液がゲル状態において植物体を保持するための十分な強度を維持しにくくなる。
【0054】
上述したような架橋密度(全単量体に対する分岐点のモル比)は、例えば、13C−NMR(核磁気共鳴吸収)測定またはIR(赤外吸収スペクトル)測定または元素分析によって定量することが可能である。
【0055】
本発明の担体の形状は、育成・再生する植物体の種類、大きさによって適宜、選択することができ、該担体は、例えば、粒子状、マイクロビーズ、繊維状、フレーク状、スポンジ状、膜状、板状など種々の形状をとることが可能である。吸水による膨潤を効率的に行う点からは、担体の形状は表面積の大きな形状であることが好ましく、より具体的には例えば、粒子状および/又はマイクロビーズ状であることが好ましい。
【0056】
本発明の担体の大きさは、育成・再生する植物体の種類、大きさによって適宜、選択することが可能である。該担体が粒子状又はマイクロビーズ状の形状を有する場合、水系分散液中収縮時、すなわち該担体を構成する温度感応性高分子化合物のLCSTより高い温度において、0.1μm〜1cm(更には1μm〜1mm)の範囲の粒径を有することが好ましい。
【0057】
本発明の担体の成型においては、通常の高分子化合物の成型法を用いることが可能である。
【0058】
特に、担体の形状がマイクロビーズ状あるいは粒子状の場合には、乳化重合法、懸濁重合法、沈澱重合法などの手段が好ましく用いられる。温度感応性高分子化合物に架橋構造を付与する方法としては、上記したように、単量体を重合する際に二官能性単量体を用いて架橋する方法;あるいは重合が終了し、形状が付与された後に光、電子線、γ線照射などにより架橋する方法等を用いることが可能である。
【0059】
特に、マイクロビーズ状の架橋された温度感応性高分子化合物を、水溶性単量体および水溶性二官能性単量体から合成する場合、逆相懸濁重合法が好適に用いられる。
【0060】
このような逆相懸濁重合法においては、分散媒としては、単量体及び生成高分子を溶解しない有機溶媒を用いることが好ましく、例えば、ヘキサン等の飽和炭化水素が好ましく用いられる。また、懸濁助剤として界面活性剤(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤)を上記有機溶媒と共に用いても良い。得られるマイクロビーズの粒径は、添加する界面活性剤の種類、量、あるいは攪拌速度などにより制御することが可能である。重合開始剤としては、水溶性開始剤、非水溶性開始剤のいずれも使用し得る。重合生成物を効率的に回収する点からは、重合を上記温度感応性高分子化合物のLCSTより低い温度で行うことが望ましいので、レドックス開始剤系などの低温開始剤が好ましく用いられる。
【0061】
本発明の担体を繊維状、フレーク状、スポンジ状、粒子状などに成型する場合は、例えば、LCSTより低い温度に冷却された温度感応性高分子化合物の水溶液を、口金を用いてLCSTより高い温度の水中あるいは水を混合しない有機溶媒中に押し出すことによって実施できる。このような成型方法を用いる場合は、架橋構造の付与は、成型終了時に光、電子線、γ線照射などを用いることにより実施できる。
【0062】
本発明の担体を板状、膜状に成型する場合には、例えば、上記温度感応性高分子化合物を有機溶媒あるいはLCSTより低い温度の水に溶解し、ソルベントキャスティング法により実施することができる。このような成型方法を用いる場合も、架橋構造の付与は光、電子線、γ線照射などを用いることによって実施できる。
【0063】
更には、上述した種々の成型方法によって得られた各種の形状の担体を機械的な方法などで破砕し、所望の大きさの担体に成型することも可能である。
【0064】
(培地)本発明においては、上述したような高分子化合物を含む担体と組み合わせて用いるべき培地ないし培養液として、寒天を実質的に含まない公知の(植物体の育成および/又は再生用)培地ないし培養液を特に制限なく使用することができる。
【0065】
本発明において、上記架橋構造を有する温度感応性高分子化合物からなる担体の植物体培養用培地中の分散濃度は、該植物体の種類および形状によって適宜選択することが可能であるが、通常、0.1〜30質量%(wt%)、更には1〜10質量%(wt%)の濃度が好ましく用いられる。
【0066】
(植物体の育成・再生方法)
上記した高分子化合物担体を用いて植物体を育成あるいは再生する方法の好ましい一例を以下に記載する。
【0067】
先づ上述したような高分子化合物担体を所望の培地中に、該高分子化合物担体分散液の液体ーゲル転移温度より高い温度で均一に分散する。次に、該高分子化合物担体の培地分散液中に、葉、茎、根、花弁、葯(花粉)、幼植物などからなる植物体、あるいは上記植物体から再生したカルス、毛状根あるいはプロトプラストなどからなる植物体を混合分散させる。次に、該植物体分散溶液の温度を、上記液体ーゲル転移点温度より低い温度に設定することにより、所望の形状のゲル状体を作製し、該植物体の育成あるいは再生を行うことができる。
【0068】
一方、該ゲル中で育成あるいは再生した植物体の回収あるいは継代は、温度を上記液体ーゲル転移温度より高い温度に上げ、該ゲルを再び液化することによって容易に実施することができる。
【0069】
特に、本発明の高分子化合物担体の植物体の育生・再生方法への応用の効果的なものは、植物体の発根過程への応用である。
【0070】
より具体的には、例えば、本発明の高分子化合物担体を所望の培地中に、該高分子化合物担体の液体−ゲル転移温度より高い温度で均一に分散させた後、温度を該液体−ゲル転移温度より低くすることによって、架橋高分子の吸水・膨潤に基づき均一にゲル化させる。該ゲル上には、葉、茎、根、花弁、葯(花粉)、幼植物などからなる植物体をのせ、あるいはさし込み、該ゲル状態を維持した状態で培養し、ゲル中に発根させる。発根した該植物体を該ゲルから回収あるいは継代する際に、温度を液体−ゲル転移温度より高く上げることによって架橋高分子の脱水・収縮に基づき上記ゲルを液化し、収縮した該担体の分散液から容易にかつ無傷で発根植物体を分離することができる。ここに、本発明の高分子化合物担体においては、上述したように液体−ゲル転移温度を適宜コントロール可能なことが、上記した従来の寒天ゲルに比較して重要な特徴となる。
【0071】
更に、LCSTより高い温度では、上記高分子化合物は脱水・収縮状態にあるため、該高分子からなる担体を含む培地分散液の粘度は、実質的には培地の粘度と同等である。この特性は、植物体の回収、継代を容易にするばかりでなく、該回収、継代時の培地の洗浄除去を簡便にし、しかも該回収、継代が植物体に与える損傷も全くない。
【0072】
従来、発根過程終了後の植物体を寒天ゲルから分離する際の操作が、その後の植物体の育成率の著しい低下の大きな原因であったが、本発明の高分子化合物担体はこのような問題点を完全に解消することができる。
【0073】
また、上記ゲル培地中に不足した栄養素の補給、あるいは育成あるいは再生を妨害するような老廃物の除去も、上記した方法により古いゲルを液化し、除去した後、植物体を新しい培地に移植することにより実施可能である。本発明においては、このようにして容易にゲル培養を続行することができる。
【0074】
また、本発明の高分子化合物担体は、植物体を上記の方法で育成・再生し、回収または継代した後に、LCSTより高い温度で、担体の分散液体から該担体を(遠心分離などの方法によって)容易に回収し、洗浄し再使用することも可能である。
【0075】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は特許請求の範囲の項の記載により定まるものであり、以下の実施例により制限を受けるものではない。
【0076】
実施例1
(マイクロビーズ状担体の合成)
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)15g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(Bis)0.1g、および過硫酸アンモニウム0.1gを蒸留水100mlに溶解した。この水溶液を、ヘキサン1000mlにソルビタンモノオレエート(SPAN80、関東化学(株)製)10gを溶解した液中に加え、窒素気流下で激しく攪拌、懸濁させた後、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン3mlを加えて、室温で4時間重合させた。
【0077】
水相を分離後、ヘキサン500mlで3回洗浄した。次いで、蒸留水1000mlを加えて4℃に冷却した後、40℃に加温してマイクロビーズ状担体を収縮させ、上清を捨てた。この水洗操作を3回繰り返した後、真空乾燥して本発明のマイクロビーズ状担体(A)を得た。
【0078】
Bis0.4gを用いる以外は上記と全く同様の操作で、本発明のマイクロビーズ状担体(B)を得た。
【0079】
蒸留水中における担体(A)および(B)の直径を光学顕微鏡下、種々の温度で測定し、得られた結果を図1のグラフに示した。また、これらの直径を、マイクロビーズ収縮時の体積を1とした体積の変化割合(倍率)に換算して、図2のグラフに示した。表1には、上記図1および図2に対応するデータを示した。
【0080】
【表1】
Figure 0003578751
【0081】
(担体分散液の調整)
上記で得た乾燥担体(A)5gを、ムラシゲースクーグ植物培地(MS培地;コスモ・バイオ(株)製)100mlに40℃で分散させた。この分散液を徐々に冷却すると、約31℃で流動性を失い、ゲル化した。このゲル状態のものを徐々に加温すると、約32℃で再び流動性のある分散液に戻った。
【0082】
実施例2
カーネーションの側芽組織を切り出し、洗剤と水道水で洗浄した後、70%エタノール水溶液に30秒間浸漬し、1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に7分間浸漬することによって滅菌した後、滅菌蒸留水によって数回、洗浄した。このようにして得られた側芽組織を外植体として、寒天0.8%含有のMS培地上に植え、2週間培養しシユートを形成させた後、該シユートを節ごとに切断した。
【0083】
次いで、実施例1で作製した本発明のマイクロビーズ状担体(A)5gを、37℃で、1−ナフタリン酢酸を0.1mg/l、シュクロースを10g/lの濃度で含有する100mlのMS培地に分散させた。該分散培地をオートクレーブ(121℃、20分間)処理することによって滅菌した。
【0084】
上記で得た担体(A)分散培地は37℃では液体状態であったが、温度を約23℃に下げることによって完全なゲル状態となった。このようにして担体(A)分散培地を完全なゲル状態とした後、該ゲル上に、上記節ごとに切断されたカーネーションのシュートを挿芽し、約23℃で3週間培養したところ、培養3週間後には該ゲル内に発根が認められた。
【0085】
次に、上記発根した植物体を順化のため培養器から回収するために、該発根植物体の培養器の温度を約37℃に上げたところ、ただちに上記マイクロビーズ状担体の体積が減少して、分散培地はゲル状態から液体に変化し、該発根植物体を容易に培養器外に取り出すことができた。上記の回収工程に於て、根に付着した担体(A)は容易に水洗いによって除去が可能であり、また根などの損傷は全く認められず、作業も非常に容易であった。
【0086】
比較例1
通常の方法で、寒天を8g/l、1−ナフタリン酢酸を0.1mg/l、およびシュクロースを10g/lの濃度で含有するMS培地を作製し、オートクレーブ処理によって滅菌を行った。次いで、該培地を約23℃に冷却しゲル化させた後、該ゲル上に、実施例2で用いた節ごとに切断されたカーネーションのシュートを挿芽し、約23℃で実施例2と同様の方法で3週間培養した。培養3週間後にゲル内に発根が認められた。
【0087】
上記発根植物体をゲルから分離するために、ゲルが付着した状態で該植物体を培養器から取り出し、常法に従って水中で機械的に振盪したが、毛状の根に付着したゲルは除去することが困難であり、手によって該ゲルを除去する操作で毛状の根がちぎれてしまった。また手による洗浄は、非常に繁雑であった。
【0088】
実施例3
4〜5月生育したタバコ(Nicotina glutinosa)の茎を4〜5cmに切り、洗剤と水道水で洗浄した後、70%エタノール水溶液に30秒間浸漬し、1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に7分間浸漬することによって滅菌した後、滅菌蒸留水によって数回洗浄した。
【0089】
次に、滅菌したカミソリで上記の茎を5mm程度に切断し、該切片に約3mmの径のコルクボーラーをさして髄組織を採取し、該髄組織を更に2〜3mm程度に切断した、以上の操作はすべて無菌操作によって行った。
【0090】
次いで実施例1で作製した本発明のマイクロビーズ状の担体(A)5gを、37℃で、100mlの寒天を含まないタバコの細胞培養用培地(平井篤志ら、生物化学実験法16,“植物細胞育種入門”p15(1969),学会出版センター)中に分散し、オートクレーブ処理することによって滅菌した。
【0091】
上記マイクロビーズ状担体を含有する培地中に、37℃で、上記の方法で得られた数個の髄組織切片を分散させた後に、温度を約23℃に下げて該培地を完全にゲル化させることにより該髄組織をゲル中に包埋し、1000〜3000ルックスの人工照射条件下に15日間培養したところ、それぞれの髄組織切片から良好なカルスの形成が認められた。
【0092】
次に、ゲル中に形成されたカルスを回収するために、該ゲルを約3分間、37℃に昇温することによってゲルを溶解した後、ゆるやかに遠心することによって上記カルスを単離した。更に0.5Mマンニトール液を加え再懸濁した後、遠心することによって、上記担体(A)を完全に除去したタバコのカルスを回収することができた。
【0093】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、ゲル中への植物体の包埋およびゲルからの植物体の回収等が、例えば植物体の生理的温度範囲内の温度変化によって、簡便に且つ植物体に全く損傷を与えることなく実施することができる。したがって本発明によれば、従来の寒天などを用いたゲル培養法の問題点を完全に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマイクロビーズ状担体の温度依存粒径変化の一例を示すグラフである。
【図2】本発明のマイクロビーズ状担体の温度依存体積変化の一例を示すグラフである。

Claims (4)

  1. LCST(下限臨界共溶温度)を有する温度感応性高分子化合物を不可逆的に架橋してなる高分子化合物を含む植物体の育成又は再生用担体であって、且つ、
    前記LCSTより低温に下げることにより、水中への分散液体としての流動性が減少することを特徴とする植物体の育成又は再生用担体。
  2. 前記LCSTが0℃より高く60℃以下である請求項1記載の植物体の育成又は再生用担体。
  3. 粒子状、マイクロビーズ状、繊維状、フレーク状、スポンジ状、膜状、又は板状の形状を有する請求項1記載の植物体の育成又は再生用担体。
  4. 0.1μm〜1cmの範囲の大きさを有する請求項1記載の植物体の育成又は再生用担体。
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