JP3685583B2 - シアン化合物分解菌 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フザリウム属に属する糸状菌で、シアン化合物、特にニッケルシアン錯体に対して顕著な分解活性を有する、新規な微生物及びその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、シアンをはじめカドミウム、鉛等の重金属による土壌・水質汚染が問題となっている。
従来から、このような土壌・水質汚染を微生物により分解除去しようとするバイオレメディエーションの多数の試みがなされている。しかしながら、シアン化合物は土壌および水中で金属イオンと安定なシアン錯体を形成して存在していることが多く、かかるシアン錯体を効率的に分解できる微生物は未だ見出されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、シアン化合物、とりわけシアン錯体に対して顕著な分解活性を有する微生物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、シアン錯体を分解できる微生物を日本各地の土壌を対象としてスクリーニングした結果、ニッケルシアン錯体をはじめ、遊離シアン、ニトリル類を含むシアン化合物に優れた分解性を発揮する新規糸状菌、フザリウム オキシスポルム N-10 株を分離することに成功し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、シアン化合物に対して分解活性を有する新菌株フザリウム オキシスポルムN-10株である。
また、本発明は、上記の菌株を用いてシアン化合物を分解することを特徴とするシアン化合物の処理方法である。
本発明者らは、シアン化合物に対して分解活性を有する新菌株フザリウム オキシスポルム N-10株を次のようにして分離した。
【0006】
まず、日本各地の土壌100 点を試料対象とし、0.5mM のニッケルシアン錯体を窒素源とし、0.25% のグルコースを炭素源とした合成無機培地(表1)を用い、その5ml を含むガラス試験管に土壌試料を懸濁して綿栓を施し、30℃で振盪培養を行った。約5日間の培養後、その一部を同組成の培養液に植菌してさらに5日間培養を行った。このような集積培養を5回程度繰り返した後、平板培地上でコロニーを形成させ、コロニーより目的とする菌を純粋単離した。
【0007】
単離した菌のニッケルシアン錯体の分解活性は、培養終了物中に残存する同錯体濃度を測定し、比較した。この分解率の比較により、最も分解率の高いフザリウム オキシスポルム N-10 株を選出した。
【0008】
【表1】
フザリウム オキシスポルム N-10 株の菌学的性質は以下の通りである。
〔1〕 培養的・形態的性質
(1) 生育速度(ポテトデキストロース寒天平板培地, 25℃, 4 日間) : コロニーの直径 44 〜46 mm
(2) 集落表面の色調(ポテトデキストロース寒天平板培地):白色〜赤色がかった白色
(3) 集落裏面の色調(ポテトデキストロース寒天平板培地):赤色がかった灰色
集落裏面の色調(カーネーションリーフ寒天平板培地):オレンジがかった白色〜白色
以下、(4) 〜(9) はカーネーションリーフ寒天平板培地上での性状を示す。
【0009】
(4) 集落裏面の形状、組織:集落形状は円形、表面は羊毛状、束状、周囲は全縁
(5) スポロドキア : 形成する
(6) 分生子形成細胞 : アンプル形のフィアライド 10 〜32×2 〜3 μm
(7) 大型分生子 : 湾曲した流線形, 隔壁3〜5個,21〜35×3 〜4 μm
(8) 小型分生子 : 豊富に形成, 楕円形〜円筒形, 直線状, 湾曲, 隔壁0〜1個,集塊状に形成,6〜12×2 〜4 μm
(9) 厚膜胞子 : 形成する(頂生、間生)
分生子形成細胞、および分生子の顕微鏡観察結果を図1に示す。
〔2〕 生理学的性質
(1) 最適生育条件 温度20〜30℃ pH6.5〜7.5
(2) 生育の範囲 温度15〜35℃ pH 5 〜8
以上の菌学的諸性質から、本菌株は、楕円形の小型分生子を形成し、厚膜胞子をよく形成するという点において、フザリウム オキシスポルムと同定した。また、ニッケルシアン錯体を窒素源として生育するものはいままでに知られていないことから、本菌株を、フザリウム オキシスポルムの新菌株として、フザリウム オキシスポルム N-10 株と命名した。
【0010】
本菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託番号FERM P-16160として寄託されている(寄託日平成9年3月27日)。
本菌株の培養には、通常の微生物の培養に使用される炭素源、窒素源、無機物を含む各種培地を使用することができる。炭素源としては、例えばグルコース、フラクトース、デンプン等の各種糖類、窒素源としては、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、各種アミノ酸等の有機窒素類、また硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の各種無機窒素である。炭素源、窒素源とも、単独または組合わせて用いられる。その他の無機物として、リン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、微量金属類等、必要に応じて添加する。
【0011】
本菌株は、シアン化合物による汚染土壌、工場廃液などの処理に使用することができる。
上記処理は、本菌株の菌体、菌体処理物、またそれらの固定化物で用いて行うことができる。菌体とは、本菌株を培地に培養し、その培養物の中から回収した菌体自体をいい、生細胞、凍結物、または凍結乾燥物のいずれでも良い。また、菌体処理物とは、菌体破砕物、または培養物(菌体、培養上清を含む)からの抽出物をいう。また、固定化物とは、該菌体または菌体処理物を担体等に固定化したものをいう。
【0012】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0013】
【実施例】
〔実施例1〕 フザリウム オキシスポルムN-10株によるシアン化合物の分解
(1) 高濃度ニッケルシアン錯体の分解
フザリウム オキシスポルムN-10株(以下、N-10株という)による高濃度ニッケルシアン錯体の分解を検討した。
【0014】
唯一の窒素源としてニッケルシアン錯体を0 から50mMの範囲で添加する以外は表1と同組成の合成無機培地でN-10株を30℃で振盪培養し、N-10株の菌体の生育と培養液中の残存基質量を経時的に測定した。生育は培養液の濁度の増加を610nm の吸光度の上昇として測定した。基質の分解は表2に示す条件下で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。結果を図2および3に示す。 N-10 株は20mM (約5000ppm)の高濃度においても速やかに生育し、10mMのニッケルシアン錯体を1週間の培養で分解した。
【0015】
【表2】
(2) 遊離シアンを窒素源とした生育
N-10株が遊離シアンを窒素源として生育できるか否かについて検討した。
【0016】
ニッケルシアン錯体の代わりに、窒素源としてシアン化カリウムを初発濃度を1mM で添加した合成無機培地(表1)にてN-10株を30℃で振盪培養し、48時間毎に1mM のシアン化カリウムを添加して菌体の生育を観察した。結果を図4に示す。N-10株は最終的に250ppmのシアン化カリウムの添加に同調して生育したことから、本菌が遊離シアンを窒素源として旺盛に生育でき、遊離シアン分解活性を有することが確認された。
【0017】
(3) ニトリル化合物を窒素源とした生育
N-10 株がニトリル化合物を窒素源として生育できるか否かについて検討した。
ニッケルシアン錯体の代わりに、窒素源としてニトリル化合物を0.2%になるように添加した合成無機培地(表1)にてN-10株を30℃で振盪培養し、菌株の生育を観察した。結果を図5に示す。N-10株はアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、サクシニトリルなどの脂肪族ニトリル、ベンゾニトリルなどの芳香族ニトリルを窒素源として生育できることが明らかとなった。
【0018】
また、遊離シアン(KCN)、ニッケルシアン錯体を窒素源とした結果も併せて図5に示す。
〔実施例2〕 N-10 株による金属シアン錯体分解代謝物の分析
(1) N-10 株の休止菌体を用いたニッケルシアン錯体と遊離シアンの分解
1mM のニッケルシアン錯体を含む合成無機培地(表1)で48時間生育させたN-10株を集菌した後、100mM のリン酸カリウム緩衝液(pH7.0) で洗菌した。休止菌体反応(1.0ml) は、10mMニッケルシアン錯体またはシアン化カリウム、100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 、N-10株休止菌体(湿重量:0.26mg) からなる反応液中で30℃で攪拌した。経時的に試料を採取し、反応生成物として推定されるホルムアミドはGC分析(表3)により、アンモニアはアンモニアテストワコーによる比色定量により、ギ酸はベーリンガー・マンハイム社のF−キットを用いた定量により、それぞれ測定した。
【0019】
【表3】
10mM(2500ppm)のニッケルシアン錯体の分解に伴い、ホルムアミド、ギ酸、およびアンモニアが生成された(図6)。N-10株休止菌体は、24時間で1200ppm のニッケルシアン錯体を分解する高性能分解菌であった。一方、N-10株の10mM(600ppm)のシアン化カリウムからのホルミアミドへの分解活性は極めて高く、菌体との反応によりシアン化カリウムは瞬時に変換された。変換されたホルムアミドの減少に伴い、ギ酸およびアンモニアが生成された(図7)。以上のように、高い毒性を有する遊離型シアンに対してもN-10株休止菌体は、24時間で600ppmのシアンを完全にギ酸とアンモニアに分解する高性能菌であった。
【0020】
(2) N-10 株細胞から調製した無細胞抽出液を用いたニッケルシアン錯体と遊離シアンの分解
1mM のニッケルシアン錯体を含む合成無機培地(表1)で48時間生育させたN-10株を集菌し、菌体を100mM のリン酸カリウム緩衝液(pH7.0) で洗菌した。1gの洗浄菌体に対し、1.5gの海砂と2ml の100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0, 1mM 2-メルカプトエタノールを含む) を添加して、氷冷しつつ乳鉢中で破砕した。得られた破砕液の1000rpm 遠心分離上清を無細胞抽出液とした。酵素反応(1.0ml) は、10mMニッケルシアン錯体またはシアン化カリウム、100mM リン酸緩衝液(pH7.0)、無細胞抽出液(1.4mg protein) からなる反応液中で30℃で行った。経時的に試料を採取し、反応生成物として推定されるホルムアミド、アンモニア、ギ酸をそれぞれ(1) と同様にして定量分析した。
【0021】
10mM(2500ppm) のニッケルシアン錯体の分解に伴い、ホルムアミド、ギ酸、およびアンモニアが生成された(図8)。シアン化カリウムの場合では、10mM(600 ppm) のシアン化カリウムからのホルムアミドへの分解活性は極めて高く、シアン化カリウムは瞬時に変換された。変換されたホルムアミドの減少に伴い、ギ酸およびアンモニアが生成された(図9)。
【0022】
【発明の効果】
本発明によって提供される微生物は、シアン化合物に対して顕著な分解活性を有するため、この微生物を種々の方法で培養し、種々の形態で利用することにより、シアン化合物がもたらす土壌・水質汚染の微生物による効率的な分解除去が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 N-10株の分生子形成細胞(写真1)、および分生子(写真2)の顕微鏡写真である。
【図2】 高濃度ニッケルシアン錯体を窒素源としたN-10株の生育を示す図である。
【図3】 N-10株による高濃度ニッケルシアン錯体の分解を示す図である。
【図4】 シアン化カリウムを窒素源としたN-10株の生育を示す図である。
【図5】 各種ニトリル化合物を窒素源としたN-10株の生育を示す図である。
【図6】 N-10株の休止菌体による10mMニッケルシアン錯体の分解を示す図である。
【図7】 N-10株の休止菌体による10mMシアン化カリウムの分解を示す図である。
【図8】 N-10株の無細胞抽出液による10mMニッケルシアン錯体の分解を示す図である。
【図9】 N-10株の無細胞抽出液による10mMシアン化カリウムの分解を示す図である。
Claims (3)
- シアン錯体に対して分解活性を有する新菌株フザリウム オキシスポルム(Fusarium oxysporum) N-10株。
- 請求項1記載の菌株を用いてシアン錯体を分解することを特徴とするシアン錯体の処理方法。
- 菌株の菌体、菌体処理物、またはそれらの固定化物を用いることを特徴とする請求項2記載のシアン錯体の処理方法。
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| JP07862097A JP3685583B2 (ja) | 1997-03-28 | 1997-03-28 | シアン化合物分解菌 |
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