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JP3698769B2 - 繊維染色法 - Google Patents
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は酵素を用いる繊維染色法、特にチロシナーゼを用いる繊維染色法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、繊維の染色に使用されている染料は酸性染料、塩基性染料、直接染料、建染染料、分散染料、反応性染料および蛍光染料等に大別される。繊維業界で広く使用されているこれらの染料のほとんどは化学合成品であるため、環境汚染やその廃液処理に多大の設備と経費を必要とするだけでなく、極端なpH、高温、高圧力の条件等の危険な作業環境のもとで染色しなければならず、繊維に損傷を与えるという問題がある。
【0003】
この問題の解決策の一つとして、特開平6−316874号公報ではペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、カタラーゼ等の酵素が含有する水性媒体、好ましくは該媒体に該酵素の基質が添加されたもの、に被処理綿を浸漬し、適切な処理を施して染色する綿染色法が開示されている。しかしながら、該公報によると酵素としてチロシナーゼは言及されておらず、また、被処理綿としては有色綿しか適用されていない。
【0004】
また、近年では特定の酵素とその基質を一定の条件下で混合しメラニン色素を生成させ、該メラニン色素を利用して染色しようとする試みがなされており、該メラニン色素の合成方法や染色用組成物が、エール・ジャーナル・オブ・バイオロジー・アンド・メディスン(46巻、500−507頁、1973年)、特開平3−77813号公報および特公平6−69945号公報で開示されている。
【0005】
エール・ジャーナル・オブ・バイオロジー・アンド・メディスン(46巻、500−507頁、1973年)では、酵素としてマッシュルームのチロシナーゼやマウスのメラノーマ(黒色腫)からの無細胞抽出液、基質としてL−ドーパを用いメラニン色素を酵素的に合成する方法が掲載されている。この方法で調製したメラニンの性質は同誌に報告されているが、メラニンの繊維への応用例および応用方法に関しては一切言及されていない。
【0006】
特開平3−77813号公報では、酵素としてチロシナーゼまたはラッカーゼ、基質としてチロシン等を含むモノフェノールまたはドーパ等を含むジフェノールを使用した毛髪染色用組成物が開示されているが、メラニン色素を一旦生成させた後でなければ染色工程に入ることはできないため、一連の工程は煩雑となってしまうという問題がある。また、メラニン色素が生成するまで6日間を要するという時間的な問題を生じている。
【0007】
特公平6−69945号公報では、ベータ−チロシナーゼ(チロシンフェノールリアーゼ)等の酵素、L−もしくはDL−セリンとピロカテコールまたはピルビン酸ナトリウムとピロカテコールと酢酸アンモニウムからなるメラニン前駆物質および芳香族アミンからなる毛髪染色用組成物が提供されている。この方法はメラニン生成過程中に取り込まれたアミンと毛髪タンパクのカルボキシル基とを結合させることにより、耐光堅牢度を向上させる点に特徴がある。しかしながら、チロシナーゼ(カテコールオキシダーゼ、モノフェノールモノオキゲナーゼ)によりチロシンまたはドーパ等のメラニン前駆体からメラニンを生成して染色させるための組成物に関しては一切言及されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は環境を汚染することなく、pH、温度および圧力等が穏和な条件で安全な作業環境にて繊維に物理的および化学的に損傷を与えずに、繊維を効率よく簡便に染色する新規な方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はさらに、染色後において耐光堅牢度の高い繊維を提供する繊維染色法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の実施の形態】
本発明はチロシナーゼおよびメラニン色素前駆体を含有する水溶液により繊維を処理することを特徴とする繊維染色法に関する。
【0011】
本発明の染色法により処理できる繊維としては、絹、麻、セルロース系再生繊維(レーヨン、キュプラなど)、セルロース系半合成繊維(アセテートなど)、精製セルロース系繊維(テンセル:コートル社(オーストリア国)商標)、羊毛および絹等からなる繊維、ならびにこれらと合成繊維との混紡品等を例示することができる。本発明においては未加工の繊維でも、糸、織物、編み物、不織布等の加工品でも染色することができる。特に、本発明では絹、レーヨン、キュプラ、テンセル等のセルロースを主成分とする繊維またはそれらの混紡品に好適に使用される。
【0012】
精練されていない繊維の加工品を処理する場合は、精練剤で前処理するか、または精練剤を酵素液中に添加して処理することが好ましい。精練剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等の通常の精練処理に用いられるものやペクチナーゼ、セルラーゼ、マセレーティング酵素、リパーゼ、プロテアーゼ等の酵素精練剤がいずれも好適に用いられる。
【0013】
本発明に用いられるチロシナーゼは別にカテコールオキシダーゼ、モノフェノールモノオキシゲナーゼまたはフェノラーゼとも呼ばれている。チロシナーゼ酵素はメラニン色素前駆体であるチロシン、ドーパ、ドーパキノン、およびロイコドーパクロム等に作用しメラニン系色素を生成させる酵素である。マッシュルームや動物の皮膚細胞の抽出液、またはアスパージーラス属、ノイロスポーラ属、ストレプトマイセス属等の菌培養液より抽出されたチロシナーゼが好ましい。また、かかる酵素を1種類または2種類以上混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の染色法に使用するチロシナーゼの水溶液中での濃度は0.1〜10,000ユニット/mlとするのが好ましい、0.1ユニット/ml未満では効率よく染色することができず、10,000ユニット/mlを越えると染色の制御(色彩の濃淡、明暗等)が困難となるため好ましくない。ここで、1ユニットとはL−チロシンを基質として1分間に280nmの吸光度を0.001増加させる酵素量として定義される量である。例えば、市販マッシュルーム由来チロシナーゼの1ユニットは0.3μgである。
【0015】
メラニン色素前駆体としてはチロシン、ドーパ、ドーパキノンおよびロイコドーパクロム等のメラニン色素前駆体が使用され、これらメラニン色素前駆体の水溶液中での濃度は0.0001〜0.5重量%とするのが好ましい。0.0001重量%未満では効率よく染色できず、0.5重量%を越えること原料コストが嵩み経済的に不利である。
【0016】
また、水溶液のpHは3〜10に調整する。pH調整のため、水溶液としてリン酸緩衝液や酢酸緩衝液等の緩衝液を用いるとよい。
【0017】
本発明の染色法においては、かかる酵素およびメラニン色素前駆体を含む水溶液へ未加工または既加工の繊維を浸漬処理する。または、該繊維を酵素水溶液に浸漬させた後、メラニン色素前駆体水溶液に浸漬処理してもよく、逆の順序、即ち、メラニン色素前駆体水溶液に浸漬させた後、酵素水溶液に浸漬処理してもよい。好ましくは、酵素およびメラニン色素前駆体を含む水溶液へ浸漬処理することである。
【0018】
処理時間は酵素の力価や使用量およびメラニン色素前駆体の濃度により適宜調節すればよい。例えば、酵素の力価が高く、使用量の多い場合には短時間とし、力価が低く使用量の少ない場合には長時間とするが、通常は0.5〜24時間で十分な染色効果が得られ、好ましくは1〜4時間である。
【0019】
浸漬処理は10〜80℃の温度で行うことができ、特に20〜50℃が好ましい。この間、必要に応じて処理液の撹拌、振盪を行う。
【0020】
この後、好ましくは空気を吹き込むことにより、被処理繊維を空気とよく接触させる。これは、メラニン色素前駆体を完全にメラニン色素へ酸化させ、染めむらをなくしたり、繊維への色素の沈着を良くしたりするためである。
【0021】
このように、比較的短時間の温和な染色処理で十分な染色がなされる。また、温和な処理のため繊維に物理的および化学的な損傷を与えることもない。
【0022】
かかる穏和な条件下で安全な作業環境下にて浸漬処理を行った後は十分に水洗し、風乾させると、処理条件に応じて淡小麦色から黒褐色の天然色に染色された繊維が得られる。本発明により染色された繊維は手触りが柔らかく、風合いもよい。被処理繊維にはメラニン色素の紫外線遮断能も付与されている。また、廃液処理は合成染料を用いる染色法の場合に比べて、極めて簡単であり、作業衛生上の問題もほとんどない。
【0023】
【実施例】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。
【0024】
実施例1〜6および比較例1〜5
綿100%のトレーナー用生地(裏毛付き厚地ニット、3cm×3cm、0.3g:品番A52736:倉敷紡績(株)社製)をペクチナーゼPL(天野製薬(株)製)で酵素精練した後、マッシュルーム由来のチロシナーゼ(製品番号T−7755:シグマ・ケミカル・カンパニー社製)およびL−チロシンを表1に示す濃度(重量%)になるように溶解した20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)9mlへ浸漬し(浴比1:30)、100rpmで往復振盪させながら30℃で20時間処理した。
【0025】
また、比較例として、緩衝液にチロシナーゼおよび/またはL−チロシンを添加しなかった以外、上記実施例と同様にして、浸漬処理を行った。なお、比較例1では浸漬処理は行わなかった。
【0026】
処理後、これら綿織物を十分に水洗し、風乾させたのち、目視により色を判定し、さらに色彩色差計(CR−200型:ミノルタカメラ(株)社製)により上記綿織物のL値、a値およびb値を判定した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
Figure 0003698769
【0028】
表1から明らかなように、L個、a個およびb値について、実施例1〜6を比較例1と比較するとL−チロシンおよびチロシナーゼの添加量により様々な変化を示しているが、この測定結果は目視結果と一致する。比較例2〜5より綿織物ではL−チロシンまたはチロシナーゼのいずれかが欠けても染色効果は達成できないことが証明された。また、L−チロシン濃度およびチロシナーゼ濃度を高くすると色彩の明度は低下した。目視でも小麦色から黒褐色まできれいに染色できたことを確認した。なお、色彩および色調とL値、a値およびb値との関係は図1に示す通りである。
【0029】
実施例7〜12および比較例6〜10
酵素精練した綿織物の代わりに洗絨処理後の平織りの毛織物(品番G3525:倉敷紡績(株)社製)を用いた以外、実施例1〜6と同様にして、浸漬処理した。
【0030】
また、比較例として、緩衝液にチロシナーゼおよび/またはL−チロシンを添加しなかった以外、実施例7〜12と同様にして、浸漬処理を行った。なお、比較例6では浸漬処理は行わなかった。
【0031】
処理後、これら毛織物を十分に水洗し、風乾させたのち、実施例1〜6と同様にして、目視により色彩を判別し、L値、a値およびb値を判定した。結果を表2に示す。表2から明らかなように、毛織物においても絹織物においてと同様に、小麦色から黒褐色まできれいに染色された。
【0032】
【表2】
Figure 0003698769
【0033】
実施例13〜14および比較例11〜13
酵素精練した綿織物の代わりにレーヨン100%の筒縫い生地(品番KZ5698:東洋紡(株)社製)を用いたことと、処理時間を3時間にしたこと以外、実施例1〜6と同様にして、浸漬処理した。
【0034】
また、比較例として、緩衝液にチロシナーゼおよび/またはL−チロシンを添加しなかった以外、実施例13〜14と同様にして、浸漬処理を行った。なお、比較例11では浸漬処理は行わなかった。
【0035】
処理後、これらレーヨン生地を十分に水洗し、風乾させたのち、実施例1〜6と同様にして、目視により色彩を判別し、L値、a値およびb値を測定した。結果を表3に示す。表3から明らかなように、レーヨン生地においても綿織物においてと同様に、小麦色から黒褐色まできれいに染色された。
【0036】
【表3】
Figure 0003698769
【0037】
実施例15〜16および比較例14〜16
酵素精練した綿織物の代わりに綿/レーヨン(経糸:綿、横糸:レーヨン)の筒縫い生地(品番FZ3311:東洋紡(株)社製)を用いたことと、処理時間を3時間にしたこと以外、実施例1〜6と同様にして、浸漬処理した。
【0038】
また、比較例として、緩衝液にチロシナーゼおよび/またはL−チロシンを添加しなかった以外、実施例15〜16と同様にして、浸漬処理を行った。なお、比較例14では浸漬処理は行わなかった。
【0039】
処理後、これら綿/レーヨン生地を十分に水洗し、風乾させたのち、実施例1〜6と同様にして、目視により色彩を判別し、L値、a値およびb値を測定した。結果を表4に示す。表4から明らかなように、綿/レーヨン生地においても綿織物においてと同様に、小麦色から黒褐色まできれいに染色された。
【0040】
【表4】
Figure 0003698769
【0041】
実施例17
第1剤
・L−チロシン 0.05g
・酢酸アンモニウム 0.04g
第1剤として上記材料に精製水を加えて100ml(pH7.0)とし、水溶液を調製した。
第2剤
第2剤としてマッシュルーム50gを裁断し、これに20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)200mlを加え、4℃で18時間撹拌した後、不溶物を濾別しチロシナーゼ抽出液130mlを調製した。この抽出液のチロシナーゼ活性は1500ユニット/mlであった。
【0042】
精練漂白した綿100%のトレーナー用生地(裏毛付き厚地ニット、15cm×20cm、10g:品番A52736:倉敷紡績(株)社製)を上記第1剤に浸漬し、室温で15分間放置して十分生地内に浸透させた。その後、上記第2剤の酵素液50mlを加え、30℃で5時間放置した後、湯で洗浄し未反応のチロシン等を洗い流し乾燥させた。目視により色彩を判別すると焦げ茶色であり、実施例1〜6と同様にして、L値、a値およびb値を判定したところ順に30.13、2.13および5.10であった。
【0043】
メラニン色素前駆体水溶液に浸漬させた後、酵素水溶液に浸漬処理しても染色可能であることがわかった。
【0044】
【発明の効果】
本発明による染色法を採用することにより、環境を汚染することなく、pH、温度および圧力等が穏和な条件で安全な作業環境にて、繊維を効率よく簡便に染色することができる。また、淡小麦色から黒褐色の天然色に染まった。手触りが柔らかく風合いもよい繊維を得ることができる。さらに、該繊維にはメラニン色素の紫外線遮断能も付与されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 色彩および色調とL値、a値およびb値との関係を示す。

Claims (4)

  1. チロシナーゼおよびメラニン色素前駆体を含有する水溶液によりセルロース系繊維を処理することを特徴とする繊維染色法。
  2. チロシナーゼがマッシュルーム、アスペルギルス属、ノイロスポーラ属、ストレプトマイセス属の菌または動物由来の酵素であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. メラニン色素前駆体がチロシン、ドーパ、ドーパキノンおよびロイコドーパクロムから選ばれる請求項1記載の方法。
  4. チロシナーゼおよびメラニン色素前駆体を含有することを特徴とするセルロース系繊維染色用組成物。
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