JP4578221B2 - メラニン前駆体の製造方法 - Google Patents
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Description
また、ヤリイカの墨袋から抽出する方法も知られているが、ヤリイカの墨袋中のメラニンは溶解性が悪いとされている。
また、チロシンなどを原料として化学合成することも可能であるが、強力な酸化反応が必要であり、複雑でコスト高な技術を要する。チロシンを過酸化水素中で酸化させ、さらに重合反応を経てメラニンを合成する方法も知られているが、得られるメラニンは水に不溶であり、化粧品や染料などとして使用し難い。
図1に示すように、生体内において、メラニン色素は、メラニン生成酵素であるチロシナーゼが、基質であるチロシン又は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)の酸化を触媒することにより生成するドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸のようなモノマーが重合することにより生合成される。このようにして生成するメラニン色素は、皮膚や髪等のメラニン産生細胞内に小粒となって存在しており、水に不溶で、熱濃硫酸や強アルカリに可溶な高分子化合物であり、その構造は明らかになっていない。
しかし、チロシナーゼを用いて製造したメラニン色素は水に不溶であり、すみやかに沈殿する。繊維や皮革などの染料として利用する場合、不溶性の高分子色素は組織に浸透することができず、対象を染めることはできない。
従って、メラニンを染料などに利用するためには、これを染色対象中に浸透させるための工夫が必要になる。
(1) メラニンは水に溶け難い高分子であるため、例えば染料として用いる場合に対象物中に浸透させることが難しいが、重合体であるメラニンの構成モノマーの混合物(メラニン前駆体)の形で染料として用いれば、対象物品中に容易に浸透させることができる。さらに、染色対象物中で容易に重合させてメラニンを生成することができる。
(2) カテコールオキシダーゼはL-チロシン、D-チロシン、L-DOPA、D-DOPA及びこれらの類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の基質化合物に対する親和性は高いが、その酸化生成物であるドーパクロムに対しては親和性が低い。即ち、基質化合物に対して過剰量のカテコールオキシダーゼ活性を示す細胞又は過剰量のカテコールオキシダーゼ活性を示す酵素を作用させることより、酵素反応生成物であるドーパクロムの非酵素的な酸化が進行する前に基質化合物を急速に酵素酸化する事によりメラニン前駆体を効率的に蓄積させることができる。
(4) ドーパクロム溶液のpHを5〜7に調整し、この溶液を酸素の存在下で上記pHを維持しつつ保存する、あるいはpHを3〜5に調整しこの溶液を酸素非存在下で上記pHを維持しつつ保存する、あるいはpHを5〜10に調整し、この溶液を酸素非存在下で上記pHを維持しつつ保存することにより、効率よく5,6-ジヒドロキシインドールを生成させることができる。即ち、ドーパクロムは、自発的な脱炭酸によって5,6-ジヒドロキシインドールに変換されるが、本発明者は、ドーパクロムから5,6-ジヒドロキシインドールへの効率的な変換方法を見出した。
(5) ドーパクロム溶液に水溶性有機溶媒を添加して保存することにより、ドーパクロムが効率的に5,6-ジヒドロキシインドールに変換される。ただし、アミノエタノールのような塩基性を示す水溶性有機溶媒を用いた場合、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸に効率よく変換され、安定に保存できる。
(6) ドーパクロム溶液に塩を添加して保存することにより、効率よく、ドーパクロムが5,6-ジヒドロキシインドールに変換される。
(7) ドーパクロム溶液に2価銅イオンを添加して保存することにより、非酵素的に効率よく、ドーパクロムが5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸に変換される。
(8) ドーパクロム溶液に緩衝剤、特にリン酸緩衝剤を添加し、-80〜-0℃程度の低温で保存することにより、非酵素的に効率よく、ドーパクロムが5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸に変換される。
反応液からメラニン前駆体を回収する回収工程と
を含むメラニン前駆体の製造方法。
(a) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を本来発現させているプロモーターより高活性のプロモーターの下でこの遺伝子を発現させている。
(b) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を複数コピー有する。
(c) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異した遺伝子を有することにより高いカテコールオキシダーゼ活性を示す。
(d) チロシナーゼ活性化処理されることにより高いカテコールオキシダーゼ活性を示す。
3. 1molのL-DOPAを基質として用いた場合のカテコールオキシダーゼ活性が、5×105U/mol以上である項1又は2に記載の方法。
4. カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドがチロシナーゼである項1、2又は3に記載の方法。
反応液からメラニン前駆体を回収する回収工程と
を含むメラニン前駆体の製造方法。
メラニン前駆体のうちインドール類には殺菌作用があるため、染色と同時に殺菌効果も期待できる。さらに、反応性が高いため有機物のみならずステンレスなどの金属も染色することが可能である。
また、反応条件を設定することにより、特定重合状態のメラニン(例えば平面的に重合したメラニン)になる組成のメラニン前駆体を製造することもできる。
基本的構成
本発明の第1のメラニン前駆体の製造方法は、反応液中に、チロシン、DOPA及びこれらの類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の基質化合物と、高いカテコールオキシダーゼ活性を示す細胞とを存在させた状態で、基質化合物を酸化してメラニン前駆体に変換する酸化工程と;反応液からメラニン前駆体を回収する工程とを含む方法である。
基質化合物の酸化工程
<カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチド>
カテコールオキシダーゼ活性とは、カテコールの酸化によるo-キノンの生成を触媒する活性である。カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチド(以下、「カテコールオキシダーゼ」と略称する)には、カテコールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、ジフェノールオキシダーゼ、o-ジフェノラーゼ、チロシナーゼ等と称されている酵素が含まれる。これらは、通常、モノフェノールオキシダーゼ活性を有する。このほかモノフェノールオキシダーゼは有していないが、ポリフェノールオキシダーゼ活性を有しているラッカーゼ、ペルオキシダーゼもカテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドに含まれる。カテコールオキシダーゼ中でも、L-DOPAに対して親和性が高いために天然型メラニン前駆体を効率よく製造できる点で、チロシナーゼを使用することが好ましい。
<細胞>
高いカテコールオキシダーゼ活性を示す細胞としては、以下の(a)、(b)、(c)又は/及び(d)の細胞を用いる。
(a) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を本来発現させているプロモーターより高活性のプロモーターの下でこの遺伝子を発現させている。
(b) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を複数コピー有する。
(c) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異した遺伝子を有することにより高いカテコールオキシダーゼ活性を示す。
(d) チロシナーゼ活性化処理されることにより高いカテコールオキシダーゼ活性を示す。
カテコールオキシダーゼ、特にチロシナーゼが活性を示すためには触媒活性中心に2価銅イオンが配位することが必要である。野生型細胞ではカテコールオキシダーゼの発現量が少ないため、その細胞内に存在する2価銅イオンの配位により十分活性を示すが、形質転換等によりカテコールオキシダーゼの発現量が向上している細胞では十分なカテコールオキシダーゼ活性が得られない場合がある。従って、上記(a)〜(d)のいずれの細胞を用いる場合も、細胞を予め2価銅イオンで処理することにより、カテコールオキシダーゼの触媒活性中心に2価銅イオンを配位させることが好ましい。具体的には、形質転換体を0.1〜2mM程度の例えば硫酸銅溶液に懸濁し、30〜40℃程度で0.5〜2時間程度静置することにより、細胞内のカテコールオキシダーゼに十分に2価銅イオンを配位させることができる。
また、上記(a)〜(d)のいずれの細胞を用いる場合も、カテコールオキシダーゼの中でもチロシナーゼ、特にアスペルギルス・オリゼ由来のチロシナーゼは、pH2.8〜3.2程度の酸性溶液で処理することにより、成熟化し、活性化する。従って、例えば、20〜200mM程度の酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH=3)に懸濁し、0〜40℃程度で0.5〜1時間程度静置することにより、カテコールオキシダーゼ活性を一層向上させることができる。
細胞が酵母の場合、L-DOPAを基質として用いた場合に、0.1 U/OD600以上、好ましくは0.5 U/OD600以上、さらに好ましくは1U/OD600以上のカテコールオキシダーゼ活性を有する細胞を用いることが好ましい。酵母以外の細胞の場合も同様のカテコールオキシダーゼ活性を有する細胞を用いればよい。細胞のカテコールオキシダーゼ活性の上限は特に限定されないが、通常5U/OD600程度である。
本発明において細胞のカテコールオキシダーゼ活性及び酵素のカテコールオキシダーゼ活性は実施例に記載の方法により測定される活性である。
<プロモーター>
高活性プロモーターの使用により大量にカテコールオキシダーゼを産生させる場合には、プロモーターは、この遺伝子を本来発現させているプロモーターより高活性のプロモーターであればよく、特に限定されない。使用する宿主に合わせて適したプロモーターを使用すればよい。
<基質化合物>
基質化合物としては、チロシン、DOPA及びDOPA類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用する。チロシン、DOPA及びDOPA類縁体は、L体又はD体のいずれであってもよい。類縁体としては、ドーパミン(Dopamine)や、DOPA又はチロシンの低級(炭素数1〜4)アルキルエステル、およびα−低級(炭素数1〜4)アルキルDOPA、α−低級(炭素数1〜4)アルキルチロシン等を例示できる。中でも、天然型メラニン前駆体が得られる点で、L-チロシン又は/及びL-DOPAを用いることが好ましく、酵素に対する親和性の点でL-DOPAを用いることがより好ましい。
<反応>
反応開始時の基質の濃度は、通常10〜60mM程度とすることが好ましく、15〜25mM程度とすることがより好ましい。上記範囲であれば、十分量のメラニンを得ることができるとともに、メラニン生成量が増加し過ぎることによるメラニン前駆体の収率低下や未反応DOPAの残存が生じない。
組成の調整工程
前述したように、酸化工程終了後に反応液を放置するとドーパクロムから5,6-ジヒドロキシインドールや5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸が生じることなくメラニンが生成してしまう。これに対して、酸化工程終了後に、例えば遠心分離などの方法で反応液から細胞を除去した後、以下の処理を行うことにより、メラニン前駆体の組成を調整することができる。酸化反応終了後は、酸化を防止するため、反応液は酸素を遮断した状態とするのが望ましい。
(i)5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の比率が高い前駆体溶液の製造
<組成調整工程(A)>
カテコールオキシダーゼによる酸化工程終了後に、反応液に、通常0.1〜20mM程度、好ましくは5〜10mM程度の2価銅イオンを添加し、例えば10〜30分間程度保存することにより、メラニン前駆体中のドーパクロムの5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸への変換が促進される。
<組成調整工程(B)>
また、カテコールオキシダーゼによる酸化工程後に、反応産物であるメラニン前駆体を緩衝剤の存在下で、通常-80〜0℃程度、好ましくは-30〜-10℃程度で保存することができる。これによっても、メラニン前駆体中のドーパクロムの5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸への変換が促進される。
(ii)5,6-ジヒドロキシインドールの比率が高い前駆体溶液の製造
<組成調整工程(C)>
また、カテコールオキシダーゼによる酸化工程後に、反応産物であるメラニン前駆体を塩の存在下で保存することができる。これにより、メラニン前駆体中のドーパクロムの5,6-ジヒドロキシインドールへの変換が促進される。
<組成調整工程(D)>
カテコールオキシダーゼによる酸化工程後に、反応液のpHを5〜7程度に調整し、酸素存在下、即ち大気雰囲気中で反応液を保存することにより、メラニン前駆体中に含まれるドーパクロムの5,6-ジヒドロキシインドールへの変換が促進される。
<組成調整工程(E)>
また、カテコールオキシダーゼによる酸化工程後に、反応液に中性又は酸性の水溶性有機溶媒を添加して保存することによっても、メラニン前駆体中の5,6-ジヒドロキシインドールの比率を向上させることができる。
メラニン前駆体の回収工程
上記各工程の終了後に、メラニン前駆体を回収する。メラニン前駆体は、反応液中の細胞を例えば遠心分離などの手段で除去することにより回収できる。除去した細胞は、酸化工程用の容器に戻すことにより再利用することができる。なお、組成調整工程前に既に細胞を除去している場合は細胞除去は不要である。
メラニン前駆体の単品又は混合物は、そのまま、濃縮状態又は乾燥粉末状態などのいずれの形態でも保存することができる。
(I)第2のメラニン前駆体の製造方法
基本的構成
本発明の第2のメラニン前駆体の製造方法は、チロシン、DOPA及びこれらの類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の基質化合物に対して、カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素を、1molのL-DOPAを基質として用いた場合のカテコールオキシダーゼ活性が5×105U/mol以上となるようにして作用させることにより、基質化合物を酸化してメラニン前駆体に変換する酸化工程と;反応液からメラニン前駆体を回収する回収工程とを含む方法である。
基質化合物の酸化工程
<カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素>
カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素の種類は第1の製造方法と同様である。酵素の由来は特に限定されず、細菌、真菌、植物、動物などどのような生物に由来するものであってもよい。
この酵素は、そのまま反応液に添加して使用すればよい。また、固定化酵素とすることにより、反応液中の酵素の安定性が向上し、使用後は容易に反応系から分離することが可能となる。また、反応系にタンパク質が混入しないというメリットもある。酵素の固定化方法は特に限定されず公知の方法を採用できる。公知の固定化方法としては、例えば、固定化担体により酵素分子間を架橋する方法、アルギン酸ゲルのようなゲルに内包させる方法等が挙げられる。
酵素は、生物由来の夾雑物を含む粗標品でもよく、精製酵素でもよいが、固定化する場合は精製されたものであることが望ましい。
本発明では、基質に対して過剰量の酵素を作用させる。1molのL-DOPAを基質として用いた場合の活性は、通常5×105U/mol以上、好ましくは5×103U/mol以上となるようにすればよい。L-DOPA 1mol当たりのカテコールオキシダーゼ活性の上限は特に限定されないが、通常5×107U/mol程度もあれば十分である。
<基質化合物>
基質化合物については、第1の製造方法と同様である。
<反応>
基質の酸化反応及びメラニン前駆体の組成の調整方法は、第1の製造方法と同様である。
メラニン前駆体の回収工程
上記各工程の終了後に、メラニン前駆体を回収する。メラニン前駆体は、反応液中の酵素を例えば限外ろ過、ろ過、遠心分離などの手段で除去することにより回収できる。除去した酵素は、酸化工程用の容器に戻すことにより再利用することができる。なお、組成調整工程前に既に酵素を除去している場合は酵素除去は不要である。
メラニン前駆体の保存
メラニン前駆体の保存方法は、第1の製造方法の場合と同様である。
実施例
以下、本発明を実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<メラニン前駆体の各成分の定量方法>
各実施例では、Waters社製HPLC Alliance2695-2996を用いて、以下の条件でメラニン前駆体の各成分を検出及び定量した。
発明者らは鋭意研究の結果、麹菌Aspergillus oryzaeが米麹などの固体培養でmelBチロシナーゼ遺伝子を大量に発現することを見出した(特開2002-191366)。解析したmelB遺伝子のゲノム塩基配列を元に、常法により逆転写PCRを行いcDNAをクローニングした。
反応条件を詳述すれば、3μlのmRNA溶液(50ngのmRNAを含む)にキット添付のSMART IIIオリゴ溶液、CSD III/3' PCR primer溶液をそれぞれ1μlずつ添加し、72℃で2分間保持した後、氷上で2分間急冷した。遠心後、2μlの5×First Strand buffer、1μl のDTT(20mM)溶液、1μlのdNTP Mix (10mM)溶液、1μl のMMLV RTase溶液を添加し、42℃で1時間逆転写反応を行った。得られたcDNAライブラリーは引き続きmelB cDNAを特異的に増幅するためのテンプレートとして用いた。2μlのcDNAライブラリー溶液に80μlの滅菌蒸留水、10μlの10×Advantage 2 PCR buffer、2μl の50×dNTP mix溶液、2μl の5' PCR primer(melB開始コドンからの配列;5'-atgccctacc tcatcaccgg tatcccaaag-3';配列番号1)溶液、2μl のCSD III/3' PCR primer溶液、2μl の50×Advantage 2 polymerase mix溶液を添加した。パーキンエルマー社製サーマルサイクラーPE2400を用いて95℃で20秒間の後、95℃で5秒間及び68℃で6分間のサイクルを30回行い、反応を終了した。
得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、目的の約1.8Kbpのバンドのみが増幅されていることを確認した。また、塩基配列解析の結果、正常にイントロン配列が取り除かれていることも確認した。
実施例1によりcDNAをInvitrogen社製大腸菌用発現ベクターpET23b、日本国特許特開2003-265177公報記載の酵母Saccharomyces cerevisiae発現ベクター(SED1プロモーター使用)、日本国特許特開2001-224381公報記載の麹菌Aspergillus oryzae発現ベクター(sodMプロモーター使用)に発現可能な状態で接続することにより、各菌体内での大量発現に成功した。ここでは酵母における発現についてのみ詳細に述べる。
SED1プロモーターは発明者らの鋭意研究の結果、対数増殖期後半から特に非常に強く発現することを見出したものである。
<チロシナーゼの活性化処理>
実施例2により得られた組替え酵母は遠心分離によって菌体を回収し、次いで蒸留水で洗浄することにより培地成分をよく取り除いた。菌体を、菌体質量の約10倍程度の、2mMの硫酸銅を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁し4℃で一晩静置した。菌体を遠心分離により回収し、過剰な銅イオンを除去するため0.1MのEDTA溶液で洗浄した。
<チロシナーゼ活性測定>
菌体のチロシナーゼ活性の測定は次のようにして行った。すなわち、回収した菌体の一部を水に懸濁し、その0.1mlに対して30℃に保温しておいた10mM L-DOPA(0.005Nの塩酸に溶解)0.8ml及び1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)0.1mlを添加し、30℃で5分間反応させた後、15,000rpmで30秒間遠心分離を行うことにより菌体を取り除き、DOPAの吸収極大波長である475nmにおける吸光度を測定した。菌体の懸濁量は、実験の便宜上、反応の後の反応液の475nmにおける吸光度が0.1〜0.3に収まるように調整した。
本発明において、チロシナーゼ活性の1Uは1mlのDOPA溶液を30℃で5分間反応させた場合の475nmにおける吸光度を1増加させる活性とし、反応に用いた菌体の密度(600nmにおける吸光度)で除したものを菌体のチロシナーゼ活性とした。
このようにして測定した各形質転換株のうち最もチロシナーゼ活性の高い酵母(チロシナーゼ活性:1.9〜4.4 U/OD600)を、YPD培地を用いて定常期まで培養し、実施例4以下に用いた。
実施例3により得られた酵母の形質転換体を用いて、L-DOPAを基質としてメラニン前駆体であるドーパクロムの蓄積反応を行った。なお、同様の反応は組換え大腸菌体、組換え麹菌体でも可能であるが、ここでは特に酵母を用いた反応について記載する。
5Lの反応槽で2Lの反応溶液の反応を行う場合、7.9gのL-DOPAを0.03N H2SO4 500mlに溶解させ、2N KOHを用いてこの溶液のpHをmelBチロシナーゼの至適pHであるpH5.5に調整した。このL-DOPA溶液に、反応液1Lあたり菌体の活性値が1.35×105U/Lとなる量の組換え酵母菌体(実施例3により得られたもの)を、バッチ式反応槽に投入し、反応を開始した。
反応温度は最適温度の25℃となるように、冷水及びヒーターにより温度調節を行った。
反応開始直後は酸化反応により生じる水素イオンの受容体として大量の酸素が必要であるため、通気量及び攪拌速度を最大とした。また、反応初期はpHが低下するため、2N KOHを滴下することによってpHを5.5に調節した。ドーパクロムは化学的に酸化される。その際は逆にpHが上昇するため0.3NのH2SO4を滴下してpHを5.5に調節した。pHの調節はオンラインモニターにより自動的に行った。
このようにして、40分間反応を行った。
反応液中の通気量及び撹拌速度の推移を図3に示す。また、反応液のpH及び酸素濃度(OD)の推移を図4に示す。また、反応液のpHを5.5に維持するために添加した2N KOH溶液及び0.3N H2SO4溶液の累積添加量を図5に示す。
反応経過観察
反応中に適宜サンプリングを行い、急速に-80℃で凍結させて保存した。保存サンプルは反応終了後、上述した方法でドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールを定量した。反応液中のL-DOPA濃度及びメラニン前駆体濃度の推移を図6に示す。
この反応条件では5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸の生成はほとんど無く、無視できる程度であるため、得られる前駆体濃度はドーパクロム濃度と5,6-ジヒドロキシインドール濃度との合計である。
なお、メラニン前駆体濃度の経時的変化と、記録しておいた酸素濃度及びpH維持のための酸、アルカリ添加量の経時的変化などを照合し、反応終了の判断基準を設定した。なお、L-DOPAを検出限界以下にするために、事前に決定した条件よりも長めに反応を行った。
実施例4により得たメラニン前駆体溶液は、強固な細胞壁を有する酵母細胞を用いているため、メラニン前駆体溶液中に存在する菌体の破片や菌体から流出したタンパク質は存在しない又は殆ど存在しないと考えられる。しかし、本品を食品や医薬品として用いる場合、タンパク質が含まれていないことが望ましいため、限外ろ過によりタンパク質除去を行った。
反応により得られるメラニン前駆体濃度を高くするために、当初の基質(L-DOPA)濃度を高くすると、反応後に得られるメラニン前駆体溶液中にL-DOPAが検出される。逆に実施例4で用いたような比較的低濃度のL-DOPAを用いると高濃度のメラニン前駆体溶液が得られない。
従って、実施例5により除タンパクしたメラニン前駆体溶液を以下のようにして濃縮した。濃縮には、海水から純水を製造するのに用いられるクロスフロー型逆浸透濃縮装置(日東電工マテックス社製)を用いた。この装置は、概略構成を図7に示すように、メラニン前駆体溶液を入れた密閉タンクと逆浸透濃縮モジュールNTR7410-HG-S4Fとの間で溶液を循環させるものであり、逆浸透濃縮モジュールにより生成する純水は、このモジュールから透過水タンクに導かれる。純水の生成に伴い、タンク内にメラニン前駆体が濃縮される。循環はポンプにより圧力2Mpaで行った。
この結果、約30分間の操作により50Lのメラニン前駆体溶液が約30Lに濃縮された。濃縮中の溶液を経時的にサンプリングし、HPLCにより、メラニン前駆体中の5,6-ジヒドロインドール濃度を測定した。濃縮によりメラニン前駆体透過液中にはメラニンは殆ど生成しておらず、メラニン前駆体(5,6-ジヒドロインドール濃度で代表される)の回収率は85%以上であった。濃縮による溶液中の5,6-ジヒドロインドール濃度の推移を図8に示す。
このようにして得られた濃縮後の溶液を-80℃での凍結保存が可能であった。また、濃縮液を超高純度窒素ガスで置換後アンプルに封入し、40℃で保存したところ、図9に示すように、1年間安定に保存できた。
製造したメラニン前駆体は粉末化することもできる。実施例6により得られたメラニン前駆体溶液をヤマト科学社製のスプレードライ・パルビスGB22を用いて粉末化した。
実施例5により除タンパクされたメラニン前駆体溶液(主にドーパクロムを含む)について5つのサンプルを作り、それぞれpHを2、4、6、8及び10に調整し、全てのサンプルをマイクロチューブに封入することにより容器内に酸素が存在しない状態とし、40℃で2時間保存した。
保存後の各サンプル中に含まれる5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸濃度及び5,6-ジヒドロキシインドール濃度をHPLCを用いて測定した。
実施例5により除タンパクすることにより得られたメラニン前駆体溶液(ドーパクロムを主に含む)にエタノールを、全量に対して50容量%になるように添加し、室温で2時間保存した。同様にして、前駆体溶液の全量に対して50容量%になるように、アセトン及び水をそれぞれ加え、室温で2時間保存した。保存後の各溶液中のドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸及び5,6-ジヒドロキシインドールの各濃度をHPLCで測定した。
また、エタノール又はアセトンを添加して保存することにより、同量の水を添加して保存する場合に較べて5,6-ジヒドロキシインドールの収量が多くなることが分かる。
実施例5により除タンパクすることにより得られたメラニン前駆体溶液(ドーパクロムを主に含む)に、1Mリン酸緩衝液を添加することにより、メラニン前駆体を含むpH6.0の0.1Mリン酸緩衝液とした。この前駆体溶液を−20℃程度で7日間保存し、経時的にサンプリングして、HPLCで、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸を定量した。
結果を図13に示す。図13から、酸成分としてリン酸を含むリン酸緩衝液中で低温保存することにより、ドーパクロムが効率よく5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸に変換されたことが分かる。なお前述したように、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の280nmにおけるピークエリアから算出した濃度は実際の濃度より低くなるため、実際には、ドーパクロムの殆ど全てが5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸に変換されていると考えられる。
実施例5により除タンパクすることにより得られたメラニン前駆体溶液(ドーパクロムを主に含む)に、最終濃度2.5%になるように塩化ナトリウム及びアスコルビン酸ナトリウム溶液をそれぞれ添加し、室温で45分間静置した。
結果を図14に示す。図14から明らかなように、メラニン前駆体に塩を添加することによりドーパクロムの5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸への変換が促進されたことが分かる。特にアスコルビン酸ナトリウムを添加した場合、その酸化防止作用が相乗効果をもたらし、著量の5,6-ジヒドロキシインドールが蓄積することが分かる。
実施例5により除タンパクすることにより得られたメラニン前駆体溶液(ドーパクロムを主に含む)に最終1mMとなるように硫酸銅を添加して、室温で15分間静置した。
Claims (18)
- 反応液中に、チロシン、DOPA、ドーパミン(Dopamine)、DOPA又はチロシンの低級(炭素数1〜4)アルキルエステル、α−低級(炭素数1〜4)アルキルDOPA、及びα−低級(炭素数1〜4)アルキルチロシンからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質化合物と、以下の(a)、(b)、及び(c)の1以上の要因で高いカテコールオキシダーゼ活性を示す細胞とを存在させ、酸素通気下、1molのL-DOPAを基質として用いた場合のカテコールオキシダーゼ活性が、5×105U/mol以上である状態で、基質化合物を酸化してメラニン前駆体に変換し、次いで反応液への酸素供給を遮断した状態とする酸化工程と、
反応液からメラニン前駆体を回収する回収工程と
を含むメラニン前駆体の製造方法:
(a) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を本来発現させているプロモーターより高活性のプロモーターの下でこの遺伝子を発現させている。
(b) カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を複数コピー有する。
(c) 2価銅イオンを配位させる処理、又はpH2.8〜3.2の酸性溶液での処理を施すことにより高いカテコールオキシダーゼ活性を示す。 - L-DOPAを基質として用いた場合の細胞のカテコールオキシダーゼ活性が0.1U/OD600以上である請求項1に記載の方法。
- カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドがチロシナーゼである請求項1又は2に記載の方法。
- チロシナーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌、ニューロスポラ(Neurospora)属糸状菌、リゾムコール(Rhizomucor)属糸状菌、トリコデルマ(Tricoderma)属糸状菌、ペニシリウム(Penicillium)属糸状菌からなる群より選ばれる糸状菌のチロシナーゼである請求項3に記載の方法。
- チロシナーゼが、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のmelBチロシナーゼ遺伝子、melDチロシナーゼ遺伝子又はmelOチロシナーゼ遺伝子にコードされるポリペプチドである請求項4に記載の方法。
- 細胞が大腸菌(Escherichia coli)、酵母及び糸状菌からなる群より選ばれる微生物細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を2価銅イオンの存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(A)を含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を、緩衝剤の存在下で-80〜0℃保存することによりその組成を調整する組成調整工程(B)を含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を塩の存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(C)を含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程において得られるメラニン前駆体を、酸素非存在下pH3〜5、酸素非存在下pH5〜10、又は酸素非存在下pH5〜7に維持した状態で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(D)を含む請求項1〜6及び9のいずれかに記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を、水溶性有機溶媒の存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(E)を含む請求項1〜6、9及び10のいずれかに記載の方法。
- チロシン、DOPA、ドーパミン(Dopamine)、DOPA又はチロシンの低級(炭素数1〜4)アルキルエステル、α−低級(炭素数1〜4)アルキルDOPA、及びα−低級(炭素数1〜4)アルキルチロシンからなる群より選ばれる少なくとも1種の基質化合物に対して、カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素を、酸素通気下、1molのL-DOPAを基質として用いた場合のカテコールオキシダーゼ活性が5×105U/mol以上となるようにして作用させることにより、基質化合物を酸化してメラニン前駆体に変換し、次いで反応液への酸素供給を遮断した状態とする酸化工程と、
反応液からメラニン前駆体を回収する回収工程と
を含むメラニン前駆体の製造方法。 - カテコールオキシダーゼ活性を有するポリペプチドがチロシナーゼである請求項12に記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を2価銅イオンの存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(A)を含む請求項12又は13に記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を、緩衝剤の存在下で-80〜0℃保存することによりその組成を調整する組成調整工程(B)を含む請求項12、13又は14に記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を塩の存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(C)を含む請求項12又は13に記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程において得られるメラニン前駆体を、酸素非存在下pH3〜5、酸素非存在下pH5〜10、又は酸素非存在下pH5〜7に維持した状態で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(D)を含む請求項12、13又は16に記載の方法。
- さらに、酸化工程と回収工程との間に、酸化工程により得られるメラニン前駆体を、水溶性有機溶媒の存在下で保存することによりその組成を調整する組成調整工程(E)を含む請求項12、13、16又は17に記載の方法。
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