JP3758005B2 - セルロースドープの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維、フィルム等の成形性に優れ、且つ、安全性の高いセルロースドープの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルロースは分子間および分子内に強固な水素結合を有するため、その溶解にはビスコース法、銅アンモニア法が用いられてきた。しかし、これらの方法は二硫化炭素や重金属など健康および環境安全上好ましくない物質の使用が免れず、また、これらの回収に関する設備投資は膨大なものになっている。
【0003】
近年、これらの欠点を解消するために、セルロースの有機溶媒による溶解、成形が研究されている。例えば、特開昭53−70121号公報にはセルロースをDMSO/ホルムアルデヒド溶剤に溶解し、成形する方法が開示されている。しかしながら、この方法では重合体を溶剤に溶解した溶液(以下本発明ではドープとも言う)から直接成形体を得る際に、高沸点のDMSOを蒸発、回収する必要があり、その回収には高価で複雑な設備を要すると言う欠点、および気化した有機溶媒が作業者の健康を害する恐れがあるという大きな問題点を内在している。
【0004】
これらの問題点を解決するために特開平8−158148号公報は溶剤として古くから知られている濃厚塩水溶液の中から、比較的安価で工業的にも利用されているチオシアン酸塩水溶液によるセルロースドープおよびドープの調整方法について開示している。該公報ではチオシアン酸塩であって、古くからセルロースを溶解しないとされてきたチオシアン酸ナトリウム水溶液に、予め前処理により水和または無定形化したセルロースを分散し、加熱溶解する技術を開示している。該公報ではH.Erbring等(Kolloid Z.,84,24(1938))の方法に従い、加圧下で溶剤の沸騰を抑えながら150℃でのバージンパルプからのセルロースの溶解を試みている。その結果、該条件では数時間で透明な液体となるものの、高分子特有の粘凋な溶液ではなく、極めて低粘度の溶液が得られるにすぎなかった、とされている。即ち、かかる溶液は繊維、フィルム等の形成に供し得るものとは言えない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
チオシアン酸ナトリウム水溶液はアクリル繊維の製造プロセスで用いられる安全で化学的にも安定な優れた溶剤である。前述の特開平8−158148号公報開示の方法ではチオシアン酸ナトリウム水溶液を溶剤として使用するために、一旦、セルロースをセルロースの溶剤に溶解した後再生するとか、アルカリ金属の水酸化物の水溶液や液体アンモニア、アミン類等のセルロースの膨潤剤に浸漬するなどの前処理を必要としている。従って、工業的には、レーヨンの屑綿などの再利用には有効な方法であるが、バージンパルプを使用するには前処理設備が必須であり、また、前処理に伴う産業廃棄物の生成が避けられない等の問題点を有している。本発明の目的は、二硫化炭素や重金属あるいは高沸点有機溶剤などの作業者の健康阻害や環境汚染を起こすことが無い安全無害な溶剤を用い、しかもバージンパルプが使用できて特別の前処理も要せず、従って産業廃棄物の廃出等の無いセルロースドープの製造方法を供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる実状において本発明者らは上記の問題点あるいは課題を解決するため鋭意検討した結果、セルロースをチオシアン酸ナトリウム水溶液中に分散した後、該セルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液を所定温度にて濃縮することによりセルロースを溶解することができると言う知見を見出し本発明に至ったものである。すなわち、本発明は粘度平均重合度200以上のセルロースを、チオシアン酸ナトリウム濃度60重量%以下の水溶液中に分散した後、該セルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液から、該水溶液の温度を150℃以上にしてチオシアン酸ナトリウム濃度65重量%以上になるまで、水を留去することを特徴とするセルロースドープの製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
【発明の実施形態】
本願の方法では前述した特開平8−158148号公報の方法と異なり、高分子特有の粘凋な溶液を得ることができる。これは水が留去即ち蒸発して溶剤(チオシアン酸ナトリウム水溶液)が濃縮されていくにつれてチオシアン酸イオンが水和水を失うが、そこにセルロースが共存すると該イオンは失活することなく自由エネルギが増大(活性化)したチオシアン酸イオンとして作用する結果、セルロースの水素結合を切断し、その水酸基と結合するためと考えられる。つまり、チオシアン酸ナトリウム水溶液が水の留去により濃度が上昇していくという動的な過程がセルロースの溶解を引き起こしているものと考えている。
【0008】
一方、前述した公報記載の方法では加圧により沸騰を抑えている、つまり水の留去が無いため、チオシアン酸イオンの水和水の不足が起こらず、該チオシアン酸イオンの水和構造変化に伴う自由エネルギの増大が起こらないため、溶解に長時間を要し、その結果、セルロースの分解を伴うものと思われる。
【0009】
次に本発明に採用するセルロースの粘度平均重合度は少なくとも200以上である必要がある。粘度平均重合度が200未満の場合には力学特性に優れたセルロース成形体が得られない場合があり本発明の目的を達成できない。また、セルロースの粘度平均重合度は200以上1000以下にあることが好ましい。また、かかるセルロースの原料は針葉樹や広葉樹またはケナフなどの1年草からのものが好ましく、その形態としては叩解パルプ状や粉体状が推奨される。
【0010】
本発明に使用される溶剤であるチオシアン酸ナトリウム水溶液であるが、セルロースを分散する際の濃度は60重量%以下が必要である。上述したように、該水溶液の濃縮による濃度の上昇という動的過程が必要という観点からは低濃度水溶液が好ましいが、エネルギー経済の点からは高濃度がよい。従って、この濃度決定にあたっては、原料セルロースの粒度や重合度をも勘案して決めるべきである。該水溶液の濃度として60重量%を選んだ場合は、チオシアン酸ナトリウムの100℃における飽和溶解度が60重量%であるため、本発明方法の実施にあたってセルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液からの水の留去を開始する温度は100℃以上ということになる。勿論該分散液水溶液中のチオシアン酸ナトリウム濃度の低いものを採用すれば、この水留去開始温度は100℃より下げ得ることは言うまでもない。
【0011】
チオシアン酸ナトリウム水溶液に溶解するセルロースの下限量は使用するセルロースの重合度に依存するが、下限である重合度200のセルロースを使用する場合には、少なくとも2重量%以上のセルロースを溶解することが、製造されたセルロースドープからの成形物の物性やドープから成形物への変換能率等の面から好ましい。
【0012】
さて、本発明では予め60重量%以下に調整したチオシアン酸ナトリウム水溶液にセルロースを分散させてセルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液とする。この時のチオシアン酸ナトリウム水溶液の温度(水留去開始温度ではない)はその溶液の溶解温度以上でなければ、溶質が析出していて溶液とは言えないことから当然として、その溶液の沸点以下、120℃以下が好ましい。勿論本発明における水留去の為の必要温度150℃以上に最初からしておいても良いが、所定の濃度での分散を行なわせるのに蒸発を抑える特別な設備等を要し、有利とは言いがたい。従って通常は、所定の濃度のチオシアン酸ナトリウム水溶液の溶解温度より5から10℃高い温度においてセルロースを分散させる。
【0013】
分散液の作製方法としては所定濃度のチオシアン酸ナトリウム水溶液を調整したのち、これにセルロースを加えて、攪拌により均一に分散させることが好ましい。なお、セルロースを予め水に分散しておきこれに固形のチオシアン酸ナトリウムを加えることもできるが、チオシアン酸ナトリウムの濃度が均一になるまで時間を要するため好ましくない。
【0014】
かくして形成したセルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液は、水を留去して該分散液中のセルロースを除いた水溶液中のチオシアン酸ナトリウムの濃度が65重量%以上になるまで濃縮される。しかもこの濃縮過程において、温度としては150℃以上を経由する必要がある。従って濃縮は、上記分散液の温度即ち水留去開始温度が低ければ加熱昇温によって、分散液の温度が初めから高ければその温度を維持することによって行なうことになる。勿論それぞれの場合において、一旦昇温して降下させるとか後半は降温させるとかの実施形態を採ることも可能である。いずれにしても濃縮することと、濃縮の過程において150℃以上を履歴することが必要である。150℃以上に維持する時間としては5分間以上が好ましい。
【0015】
尚、この濃縮の際の系の圧力については限定は無い。常圧系において沸騰状態で水を蒸発させてもよいし、水の蒸気を系外に排出しつつ加圧系を維持して沸騰現象を抑えてもよいし、さらには減圧系として蒸発を促進させる手段もある。また、濃縮を所定のチオシアン酸ナトリウム水溶液の濃度になるよう制御する方法としては、蒸発により生じた水を凝縮せしめた凝縮水量を測定するとか、濃縮液の比重を測定するなどが好適に採用される。また、過度に濃縮するとチオシアン酸ナトリウムの溶解度を超えるため、チオシアン酸ナトリウムが析出する。この場合、成形に先立ち、水を加えてチオシアン酸ナトリウムの濃度を調整することによりチオシアン酸ナトリウムの析出を抑えた、繊維やフィルム等の成形に好適なドープを得ることができる。
【0016】
この過程を経ることによりセルロースは溶解し、粘凋なセルロースドープが形成される。また、この際攪拌を併用するとセルロースの溶解が速く、均一なドープとなるが、原料セルロースの粒度が大きいとか平均重合度が高い、セルロース濃度が高い場合に特に有効である。
【0017】
このようにして得られたセルロースドープは、そのまま繊維やフィルムに成形したり、成形温度によっては該ドープの温度低下により溶解状態にあったチオシアン酸ナトリウムの結晶が析出する場合があるため、上述と同様に水を加えてチオシアン酸ナトリウム水溶液濃度を該成形温度における飽和溶解度以下に調整してから行なうこともできる。これにより100℃まで冷却しても結晶の析出を抑えることが可能となる。該セルロースドープを100℃未満の温度にすると、流動性を失いゲル化する。このゲルは再度、100℃以上に加熱すると再び流動性を有するセルロースドープとなる。
【0018】
【作用】
セルロースのチオシアン酸ナトリウム水溶液に対する溶解機構の詳細は不明であるが、前述のとおりセルロースをチオシアン酸ナトリウム水溶液中に分散した後、該セルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液から、加熱と水の留去により溶剤を濃縮するとともにセルロースを溶解する方法であれば、高分子特有の粘凋な溶液を得ることができる。これはチオシアン酸イオンは一般に水素結合を阻害することが知られていることから、セルロースの分子間および分子内の水素結合を阻害し可溶化するものと思われる。それには水が蒸発し、溶剤が濃縮されることにより水和水を失い活性化したチオシアン酸イオンが特定の温度下において、セルロースの水素結合を切断し、その水酸基と結合するためと考えられる。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の理解を容易にするため実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。
【0020】
実施例 1
58重量%に調整し100℃に加熱したチオシアン酸ナトリウム水溶液に重合度600のセルロースを1〜5重量%になるように分散したのち、常圧下で150〜160℃まで加熱し濃縮溶解を試みたところ、表1に示す通りいずれも溶解状態は良好であった。なお、150℃では濃縮後の溶剤濃度は65重量%であった。また、フィルムに成形したが、良好な成形性が得られた。(No.1〜4)
【0021】
実施例 2
58〜65重量%に調整し、それぞれ所定の温度まで昇温したチオシアン酸ナトリウム水溶液に重合度300のセルロースを5重量%になるように分散したのち常圧下で濃縮溶解を試みた。結果を表1に示す。120℃以下の温度で分散し150℃まで加熱濃縮溶解したものは溶解状態、成形性とも良好なドープが得られたが、150℃まで昇温した65重量%チオシアン酸ナトリウム水溶液に該セルロースを分散したものについてはそのまま溶解操作を継続しても未溶解成分が浮遊し粘度のある液体にはならなかった。また、溶解温度が145℃のものは溶剤濃度が65重量%には及ばず、白濁したままであり溶解には至らなかった。(No.5〜9)
【0022】
実施例 3
58重量%に調整し100℃に加熱したチオシアン酸ナトリウム水溶液に重合度200のセルロースを1〜2重量%になるように分散したのち、常圧下で145〜150℃まで加熱し濃縮溶解を試みた。結果を表1に示す。溶解温度150℃では良好な溶解状態を示したが、145℃では白濁したままであった。また、フィルムに成形した際にセルロースの濃度が2重量%では成形性があったものの、1重量%では非常にもろいフィルムしか得られず、ドープの製造方法としては採用できるが成形性には劣る。(No.10〜12)
【0023】
実施例 4
58重量%に調整し100℃に加熱したチオシアン酸ナトリウム水溶液に重合度200のセルロースを2重量%になるように分散したのち、加圧下で150℃まで加熱し濃縮溶解を試みた。結果を表1に示す。結果は白濁したままであった。なお、濃縮後の溶剤濃度は63重量%であった。(No.13)
【0024】
【表1】
【0025】
【発明の効果】
以上述べたように、セルロースは分子間および分子内に強固な水素結合を有するため、二硫化炭素や重金属など健康および環境安全上好ましくない物質の使用が免れず、また、これらの回収に関する設備投資は膨大なものになっていた。
そこで比較的安価で工業的にも利用されているチオシアン酸ナトリウム水溶液を溶剤として予め水和または無定形化したセルロースを分散し、加熱溶解する方法が提案されていが、工業的には、前処理設備が必須であり、また、前処理に伴う産業廃棄物の生成が避けられない等の問題点を有していた。本発明ではセルロースをチオシアン酸ナトリウム水溶液中に分散した後、このセルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液を加熱、濃縮することによりセルロースを溶解することにより安全で安価なセルロースドープの製造方法を供するもので工業的意義の大なるものがある。かくして得られるドープは各種のセルロース成形体を製造するのに有用である。
Claims (1)
- 粘度平均重合度200以上のセルロースを、チオシアン酸ナトリウム濃度60重量%以下の水溶液中に分散した後、該セルロース分散チオシアン酸ナトリウム水溶液から、該水溶液の温度を150℃以上にしてチオシアン酸ナトリウム濃度65重量%以上になるまで、水を留去することを特徴とするセルロースドープの製造方法。
Priority Applications (1)
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|---|---|---|---|
| JP27381997A JP3758005B2 (ja) | 1997-09-19 | 1997-09-19 | セルロースドープの製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP27381997A JP3758005B2 (ja) | 1997-09-19 | 1997-09-19 | セルロースドープの製造方法 |
Publications (2)
| Publication Number | Publication Date |
|---|---|
| JPH11100711A JPH11100711A (ja) | 1999-04-13 |
| JP3758005B2 true JP3758005B2 (ja) | 2006-03-22 |
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| JP27381997A Expired - Fee Related JP3758005B2 (ja) | 1997-09-19 | 1997-09-19 | セルロースドープの製造方法 |
Country Status (1)
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| JP (1) | JP3758005B2 (ja) |
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| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| JP4565695B2 (ja) * | 2000-04-12 | 2010-10-20 | 旭化成せんい株式会社 | ポリケトン溶液の製造方法 |
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1997
- 1997-09-19 JP JP27381997A patent/JP3758005B2/ja not_active Expired - Fee Related
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| JPH11100711A (ja) | 1999-04-13 |
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