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JP4079246B2 - ナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の安定化法 - Google Patents
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体(以下、これらを併せてナリンゲニンカルコン類という)の安定化法およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナリンゲニンカルコンを含むカルコン類はフラボノイドの中では唯一C環が開環した形になっており、生合成経路では最初に生成されるフラボノイドである。この反応はカルコン合成酵素によって行われ、それがフラボノイド合成の鍵酵素になっている。生合成経路では上ではマロン酸に由来するカルボニルが水酸基に変換するために、A環には3つの水酸基が1つの炭素を介して存在する構造になっている。この構造では、A環が回転しても、常に2位の炭素に近い位置に水酸基が来る事になる。このため、この形のカルコンは酸性から中性領域において、フラバノンに閉環する方向に平衡定数が傾いており、放置するとフラバノンに変換されてしまう特徴を持っている。カルコン類はフラボノイドの中でも最も黄色の強い色素であり、極大吸収波長は400nm付近である。ナリンゲニンカルコン類は多種の植物に存在している。例えば柑橘類、野菜類、などの数多くから検出することが可能である。またナリンゲニンカルコン類が示す生理活性も多岐に亘っており、例えば抗アレルギー活性、血小板凝集抑制能、抗腫瘍活性等があげられる。
【0003】
しかし、ナリンゲニンカルコン類は構造的に非常に不安定であり、pH、温度、及び溶解する溶液等の条件で容易に閉環もしくは分解するため、ナリンゲニンカルコン類が安定な条件を選択して抽出精製、合成を行うことは極めて困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このようなことから本発明の課題は、ナリンゲニンカルコン類の安定化法の提供であり、また安定的にナリンゲニンカルコン類を製造する方法の提供である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ナリンゲニンカルコン類含有水溶液にサイクロデキストリンを添加、混合することにより、溶液中のナリンゲニンカルコン類が、閉環してナリンゲニンに変わることなく、安定に維持できるという知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち本発明はナリンゲニンカルコン類含有水溶液にサイクロデキストリンを添加、混合することを特徴とするナリンゲニンカルコン類の安定化法およびその製造法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明におけるナリンゲニンカルコン(2'4'6'4−Tetrahydroxychalcone)は下記の構造式(1)に示される物質であり、またこれの構造式の一部が改変あるいは修飾されている誘導体である。
【0007】
【化1】
構造式(1):
Figure 0004079246
【0008】
ナリンゲニンカルコンの誘導体としては、例えば、薬理上許容される塩、エステルあるいはプロドラック等が挙げられる。
薬理上許容される塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)、これらの水酸化物または炭酸塩、アルカリ金属アルコキサイド(ナトリウムメトキサイド、カリウムt-プトキサイド等)との塩が挙げられる。また、塩としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸)や有機酸(マレイン酸、クエン酸、フマル酸等)を付加した酸付加塩、更にはアミンの付加塩、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。なお、上記の塩の水和物もここでいう塩に含まれる。
【0009】
エステルは、アルコールまたはカルボン酸とのエステル化反応で生じるエステルであれば特に限定されない。アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられ、またはカルボン酸としてはギ酸、酢酸、乳酸等が挙げられる。
【0010】
プロドラックとは、生体に投与された後にナリンゲニンカルコンに変化して、抗アレルギー剤としての作用を発現する化合物を意味する。安定性や吸収性の改善、副作用の低減等を目的としてプロドラック化されたナリンゲニンカルコンも本発明でいう誘導体に含まれる。
【0011】
このようなナリンゲニンカルコン類は水溶液中で非常に不安定な物質であり、特に濃縮等の加熱時に速やかに閉環、分解することが明らかとなっている。
したがって、本発明ではナリンゲニンカルコン類にサイクロデキストリンを添加、混合することにより、これの安定化を図るのである。
【0012】
本発明で用いられるサイクロデキストリンは、α−、β−、γ−サイクロデキストリン等その種類は問わないが、γ―サイクロデキストリンの効果が最も高く、好適に用いることができる。
【0013】
サイクロデキストリンの添加量は、ナリンゲニンカルコン類を含有する抽出物(固形物)に対して25%以上(重量比)である。
またナリンゲニンカルコン類を含む高濃度含水アルコール抽出液を濃縮していく場合には、アルコール濃度が20−40%の時期にサイクロデキストリンを添加すると、よりナリンゲニンカルコン類を安定的に濃縮することが可能となる。また、サイクロデキストリンの添加後、ナリンゲニンカルコンとサイクロデキストリンの物理的接触の機会を増加させる目的で、溶液を攪拌することが好ましい。
攪拌時間は30分以上行うことにより、サイクロデキストリンの添加量を減少させることが可能である。
以下、実験例により、ナリンゲニンカルコン類の安定性、サイクロデキストリン添加の効果等について説明する。
【0014】
【実験例】
実験例1<トマト抽出物の調製>
乾燥トマト搾汁滓20gをミキサーにて粉砕し、200mlの水を加え、60℃で加熱・還流しながら水洗浄を行ない、夾雑物を抽出除去した。次いで、抽出滓を回収し、溶剤として200mlの70%エタノールを加え、70℃で加熱しながら抽出した。得られた抽出溶液を濾過した後に、濾液を減圧下で濃縮し、さらに凍結乾燥を行ない、トマト抽出物粉末を得た。このようにして得られたトマト果皮抽出物にはナリンゲニンカルコンが3mg/g含まれていた。なお通常トマト抽出物中のナリンゲニンカルコンの含有量は1〜5mg/g程度である。
【0015】
次ぎに上記トマト果皮抽出物を20mg/mlになるように水に懸濁し、表1の加熱条件下でのトマト果皮抽出物中のナリンゲニンカルコン量をHPLCで定量した。加熱前(試験開始時)のナリンゲニンカルコンの量を100%として各加熱時間でのナリンゲニンカルコン残存率を表1に示す。
【0016】
【表1】
Figure 0004079246
【0017】
表1から明らかなようにトマト果皮抽出物中のナリンゲニンカルコンは水溶液中で速やかに閉環、分解され、特に加熱温度が高いほどその現象は顕著である。
【0018】
実験例2
実験例1で用いたと同じトマト果皮抽出物の水懸濁液(20mg/ml)にα−、β−、もしくはγ―サイクロデキストリンを20mg/mlとなるように加え、60℃の加熱状況下でのナリンゲニンカルコンの安定性を経時的に、実験例1と同様に確認した。結果を表2に示す。なお対照はサイクロデキストリンを添加しないものである。
【0019】
【表2】
Figure 0004079246
【0020】
表2に示したようにトマト果皮抽出物中に含まれるナリンゲニンカルコンは、サイクロデキストリンの添加により安定化し、特にγ−サイクロデキストリンはその効果が顕著である。
γ−サイクロデキストリンは8つのデキストリンで環状構造を形成しており、ナリンゲニンカルコンを包接するために最も適した環状内部容積を有していることに起因するものと推測される。トマト果皮抽出物と等量のγ−サイクロデキストリンを加えれば60℃の加熱においてもナリンゲニンカルコンの閉環、分解は見られなかった。
【0021】
実験例3
次ぎにトマト果皮抽出物中に含まれるナリンゲニンカルコンの安定化のために必要なサイクロデキストリンの必要最低量を検討した。
トマト果皮抽出物は実験例1と同様、20mg/mlになるように水に懸濁し、これにγ−サイクロデキストリンを20mg/ml、15mg/ml、10mg/ml添加し、加熱条件下(60℃)でナリンゲニンカルコンの安定性試験を行った。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
Figure 0004079246
【0023】
表3に示したようにγ−サイクロデキストリンの添加量をトマト果皮抽出物の3/4量以下にすると緩やかではあるがナリンゲニンカルコンの閉環、分解が確認された。この傾向は用量依存的に確認された。トマト果皮抽出物と等量以上のγ−サイクロデキストリンを添加することにより、60℃の加熱でもナリンゲニンカルコンは安定であることが確認された。
【0024】
実験例4
次ぎにγ−サイクロデキストリンの包接の条件を検討した。上記の検討ではトマト果皮抽出物の懸濁液にγ−サイクロデキストリンを添加し、直ちに加熱試験に供したが、加熱前に一定時間攪拌し、その後加熱(60℃)しナリンゲニンカルコンの安定化を確認した。結果を表4〜6に示す。
ナリンゲニンカルコンを包摂するためには、γ−サイクロデキストリンとの物理的な接触が必要であり、攪拌することにより物理的な接触の機会を増加させて安定化のために必要なγ−サイクロデキストリンの添加量を減少させることが可能かどうかを確認するための実験である。
【0025】
【表4】
γ−サイクロデキストリン10mg/ml添加
Figure 0004079246
【0026】
【表5】
γ−サイクロデキストリン5mg/ml添加
Figure 0004079246
【0027】
【表6】
γ−サイクロデキストリン2.5mg/ml添加
Figure 0004079246
【0028】
表4から6で示したようにトマト果皮抽出物とγ−サイクロデキストリンを単に添加、混合するよりも添加後、攪拌することにより物理的な接触の機会を増すことでナリンゲニンカルコンの安定化に必要な最低γ−サイクロデキストリン添加量は減少する事が明らかとなった。表4から6の結果から30分の攪拌と1時間の攪拌ではナリンゲニンカルコンの安定性変化がなかったため、30分以上攪拌すれば充分であると思われる。30分以上の攪拌を行った場合のナリンゲニンカルコン安定化のための最低γ−サイクロデキストリン添加量は5mg/mlであり、トマト果皮抽出物の1/4(25%)量になる。
【0029】
実験例5
トマト果皮抽出物を含水エタノール溶液に懸濁(20mg/ml)したときのナリンゲニンカルコンの安定性、及びγ−サイクロデキストリンの安定化の効果を実験例4と同様の方法で確認したところ、トマト果皮抽出物の60%エタノール溶液懸濁液では水溶液と比較すると加熱安定性を示す。しかし長時間の加熱では水溶液懸濁時同様閉環、分解が起こり、60℃の加熱条件下では24時間後には、ほぼ全量のナリンゲニンカルコンが閉環、分解されることがわかった。
次に、トマト抽出物のエタノール溶液懸濁液(20mg/ml)中におけるγ−サイクロデキストリンの効果を60℃の加熱条件で確認した。結果を表7に示す。
【0030】
【表7】
γ−サイクロデキストリン10mg/ml添加、攪拌1時間、60℃加熱
Figure 0004079246
【0031】
表7で示した様に、トマト果皮抽出物中のナリンゲニンカルコンは0〜10%程度の低濃度アルコールか、もしくは50%以上の高アルコール濃度のγ−サイクロデキストリン懸濁液中において安定であることが示された。サイクロデキストリンは環状構造の中にエタノールを包接することが知られており、含水エタノール溶液の場合は大過剰量のエタノールがγ−サイクロデキストリンに包接されてしまい、包接されるナリンゲニンカルコンの量が減少し、閉環、分解が促進するのではないかと思われる。また高濃度エタノール溶液中ではナリンゲニンカルコンは比較的安定に存在するため、加熱条件下でも閉環、分解が促進されないのではないかと推測される。
よって、植物果皮等から含水エタノール溶液でナリンゲニンカルコン及びその誘導体を抽出し、抽出液を濃縮する場合にはエタノール抽出液に安定化剤であるγ−サイクロデキストリンを加えるのではなく、ナリンゲニンカルコン及びその誘導体が閉環、分解されない程度の低温で濃縮し、エタノールを留去した後にγ−サイクロデキストリンを加えて高温で濃縮すること方法が工業的に有利な方法であると考えられる。
以下に実施例を示す。
【0032】
【実施例】
実施例1
トマトジュース製造時に副生したトマト果皮を乾燥させた、乾燥トマト果皮100kgを1200リットルの熱水(60℃)で2時間攪拌洗浄をおこない、スクリュープレスにて圧搾を行った。得られた圧搾残滓に終濃度が70%になるようにエタノールを加えて50℃で14時間抽出をおこなった。品温を一定にするために継続的な攪拌をおこないながら抽出をおこなった。再度スクリュープレスにより圧搾し搾汁液を約1000リットル得た。1000リットルの70%エタノールを液温が50℃になるように調節しながら減圧濃縮をおこなった。3時間かけ200リットルまで濃縮した時点でγ−サイクロデキストリン1.5kgを添加して1時間攪拌をおこなった。この際のエタノール濃度は25%であった。その後再度濃縮し、最終的には100リットルまで濃縮をおこなった。得られた濃縮液に3kgのデキストリンを賦形剤として添加してスプレードライをおこない7.5kgのトマト果皮抽出物を得た。この抽出物には2mg/gの濃度でナリンゲニンカルコンが含まれており、理論値で80%以上の残存率を示している。通常γ−サイクロデキストリンを加えないで濃縮を行うと全量に近いナリンゲニンカルコンが閉環、分解されることからγ−サイクロデキストリンの効果によりナリンゲニンカルコンが安定化したと考えられる。
【0033】
【発明の効果】
ナリンゲニンカルコン及びその誘導体は種々の整理活性を有する有用な物質であるが、熱やpHによる安定性が極めて低く安定的に製造するのが困難な物質であった。本発明では安定化剤としてサイクロデキストリン、特にγ−サイクロデキストリンを添加する事で安定的にナリンゲニンカルコン及びその誘導体を製造することが可能となった。

Claims (7)

  1. ナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体含有水溶液にサイクロデキストリンを添加、混合することを特徴とするナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の安定化法。
  2. 植物体から抽出したナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体含有抽出液を濃縮する際に、該抽出液にサイクロデキストリンを添加し濃縮することを特徴とするナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の製造法。
  3. サイクロデキストリンがγ−サイクロデキストリンである請求項1記載のナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の安定化法
  4. サイクロデキストリンがγ−サイクロデキストリンである請求項2記載のナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の製造法。
  5. サイクロデキストリンの添加量がナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体含有抽出物(固形物)に対し25%(重量比)である請求項1記載のナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の安定化法
  6. サイクロデキストリンの添加量がナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体含有抽出物(固形物)に対し25%(重量比)である請求項2記載のナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の製造法。
  7. サイクロデキストリンを添加し攪拌した後、濃縮する請求項2記載のナリンゲニンカルコン及び/またはその誘導体の製造法。
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