JP4086485B2 - 偏光無依存方向性結合器及びこれを用いた光回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信分野で用いられる光導波路の方向性結合器に関し、より詳細には、信号光の偏光状態に依存しない光結合率を有する方向性結合器に関する。
【0002】
【従来の技術】
インターネットを利用した動画像配信にみられるような大量のデータ送信を必要とするマルチメディア通信の発達は、通信トラフィックの増大を生むと同時に通信網に対する更なる大容量化、高速化、及び高機能化の要求を日増しに高めている。
【0003】
現在の光通信網では、光−電気変換と電気−光変換によって信号のスイッチング(経路切替)及びルーティング(経路設定)を行うための電子部品が使用されているが、今後は、光信号を電気信号に変換することなく、アクセス網を含む全ての通信網が結ばれる構造の光通信網へと発展させることが求められている。
【0004】
かかる光通信網を用いた通信システムを構築するために必要とされる光部品として、光合分波器、光分岐結合器、光スイッチ、光フィルタ等がある。
【0005】
これらの光部品の中にあって、導波路型光部品は、量産性や大規模化等の要求に答え得る光部品として期待されている。特に、シリコン基板上に形成される石英系ガラスで作製される光導波路は、低光損失であり、安定性が高く、更には光ファイバとの整合性にも優れるといった特長を有しており、実用的な光回路を構成するための最有力実現手段として注目されている。
【0006】
導波路型光部品を実用レベルで実現するためには、光導波路中を伝搬する信号光の偏光特性に依存することなく導波路型光素子として動作すること(偏光無依存性)が必要不可欠である。特に、光スイッチ、光フィルタのような光部品を実現するための基本素子である方向性結合器においては、上記偏光無依存性は、光部品としての損失偏光依存性(PDL)の低減及び消光比向上を達成するための重要な要素特性である。
【0007】
図10乃至図12は、従来型の方向性結合器を備えた光回路の構成例を示す模式図である。従来型の光回路は、例えば図10に示すように、互いに平行で、かつ近接して配置された2本の直線光導波路115及び116を有する光結合部121と、この光結合部121に結合された入力ポート111及び112と出力ポート113及び114とによって構成される。図11は、図10に示したA−A′線に沿う断面図であり、図12は、図10に示したB−B′線に沿う断面図である。
【0008】
光導波路115及び116は、シリコン基板101の表面に設けられた石英系ガラスのクラッド層102と、該クラッド層102の内部に設けられた石英系ガラスのコア部103とを有する。
【0009】
光結合部121では、互いに近接した2本の光導波路115及び116の中を信号光が伝搬するのに伴って信号光の導波モードが相互に結合され、一方の光導波路の光パワーが他方の光導波路へと徐々に移動し、再び元の導波路へと徐々に戻る。かかる光パワーの光導波路間での移動を方向性結合器の光結合といい、この現象を利用した光回路を用いることで光信号の合波又は分波を行う。
【0010】
光結合の割合は光結合率と呼ばれ、一方の光導波路から他方の光導波路へと移動する光パワーの割合を意味する。光結合率は、光結合部121の光導波路における導波路幅、導波路間隔、及び光結合部の長さ(結合長)によって決定される。具体的には、導波路幅及び導波路間隔が狭いほど光結合は強くなり、短い結合長の光結合部121でも高い光結合率が得られる。
【0011】
コア部103の断面形状は、シングルモード条件を満たす正規化周波数(V値)を基に伝搬損失を考慮して決定され、通常その縦横比を1.0:1.0〜1.0:1.5とする正方形或いは横長の長方形とされる。
【0012】
孤立光導波路の場合には、導波路の幅を変えることで複屈折の制御が可能である。例えば、アレイ導波路格子やマッハツェンダー干渉計を構成するアレイ導波路や干渉アーム導波路等では、導波路幅を変えて干渉特性における偏光依存性を制御した例が報告されている(Y. Inoue et al., OFC 2001 Technical Digest WB4-2) 。
【0013】
しかしながら、方向性結合器のように、2本の光導波路が互いに近接して配置された光回路の場合には、導波路のコア部における応力分布等が極めて複雑となるが、これらの影響を考慮した光回路の設計例は見当たらない。また、方向性結合器の光導波路の幅を変化させて干渉特性における波長依存性を制御した報告例はあるものの(A. Takagi et al., IEEE J. Quantum Electron, vol.28. no.4, pp.848-855)、偏光依存性の観点から光回路の設計検討がなされた報告例はない。
【0014】
一般的に、正方形若しくは横長長方形の断面形状を有する光導波路(方形光導波路)で構成した方向性結合器では、光結合特性が信号光の偏光状態に依存する結果となる。光結合の偏光依存性についての詳細は後述するが、主に2つの要因によって生じるものと解釈される。
【0015】
図6に示した一般的な方形光導波路の断面模式図において、光導波路31の中心を原点にとり、導波路幅を2a、導波路厚を2d、光導波路31と32の中心間距離をD、コアの屈折率をn1、クラッドの屈折率をn0としたとき、2本の光導波路31と32との間のモード結合定数xは次式で表すことができる(「光導波路の基礎」、岡本勝就著、コロナ社)。
【0016】
【数1】
【0017】
モード結合定数xは、TEモード、TMモードのいずれの場合にも上式で与えられるが、式中の定数rx、kxはTEモードとTMモードの場合で異なる値をもち、それぞれ次の関係式で表される。
【0018】
TEモードの場合、
【0019】
【数2】
【0020】
TMモードの場合、
【0021】
【数3】
【0022】
である。つまり、モード結合定数xが、TEモードとTMモードとで異なることに起因して、偏光依存性が生じる。
【0023】
更に、このような方形光導波路においては、クラッドとコアの熱膨張率の違いにより応力が生じ、TEモード及びTMモードのそれぞれの信号光が感じる実効的なn1及びn0が異なり、その結果、複屈折性を有することとなる。実際には光結合率の偏光依存性が生じる主要因はこの複屈折性によるものであり、光結合率が偏光に依存しないようにするためには、上記複屈折性を解消するか、若しくはその作用を打ち消すための方策が必要となる。しかしながら、複屈折性発現のメカニズムを詳細に解明するためには複雑な計算を必要とするため、光結合率の偏光無依存化を解析的手段により実行することは困難であった。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
光結合率が偏光依存性を持つ方向性結合器により構成される光回路では、以下のような問題が生じる。
【0025】
例えば、2つの方向性結合器からなるマッハツェンダー干渉計を多段に接続して構成されるラティスフィルターの応用例である利得等化器では、動作波長全域にわたって0.1dB以下の偏光依存損失が要求されている。例えば、5段接続の利得等化器の場合には、方向性結合器における光結合率の偏光依存性を0.2%以下に抑制する必要がある。ラティスフィルターの段数が増加するとともにこの許容範囲は狭くなるため、光結合率を偏光無依存化することが課題となる。
【0026】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、光結合率の偏光依存性が無い方向性結合器を提供することを目的とするものである。
【0027】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明の方向性結合器は、基板と、該基板上に互いに近接して配置された2本の光導波路とを有する方向性結合器であって、前記光導波路が、実効屈折率に複屈折が生じているコア部を有し、前記コア部の断面形状を方形とし、該方形を、光結合率の偏光依存性がなくなるような、前記基板の主面と平行な辺の長さが残余の辺の長さより短い方形としたことを特徴とする。
【0028】
かかる構成とすることにより、基板上に配置された光導波路で構成した方向性結合器において、導波路コアにおける複屈折性が解消され、光結合率の無偏光依存化を達成することができる。
【0029】
また、本発明の方向性結合器の光導波路は、SiO2を主成分とする石英系ガラスで構成することができる。
【0030】
好ましくは、かかる光導波路を、シリコン基板上に配置し、より好ましくは、かかる光導波路を火炎堆積法と反応性エッチング法の組み合わせで形成する。
【0031】
本発明の光回路は、上述した光導波路を備えることを特徴とし、好ましくは方向性結合器を構成する光導波路以外の光導波路のコア部の断面形状を方形とし、該方形のうち、基板の主面と平行な辺の長さが残余の辺の長さと等しいか、又は長いことを特徴とする。
【0032】
かかる構成とすることにより、偏光依存性のない光結合率を有する光回路を提供することが可能となる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳述する。
図1〜図3は、本発明の一実施形態である方向性結合器を備えた光回路の概略を示す模式図であり、図2及び図3は、図1中に示したA−A′線及びB−B′での断面図である。
【0034】
ここで、光導波路11〜16は、シリコン基板1と、その一方の主面1A上に配置された石英系ガラスによるクラッド層2とコア部3とを有する。厚さ1mm、直径4インチのシリコン基板1上に、火炎中でSiCl4やGeCl4などの原料ガスと燃料のCH4やH2及び酸素ガスとを反応させる、いわゆる火炎加水分解反応によって石英系ガラス膜を堆積させてから、このガラス膜に反応性イオンエッチングを施して光導波路11〜16を形成した。
【0035】
光回路を、方向性結合器21と、入力導波路11及び12と、出力導波路13及び14とから構成する。方向性結合器21は、その光導波路幅に対応して無偏光の信号光に対する光結合率が3dBとなるように結合長を設定しておく。本実施形態では、光回路全体にわたって光導波路幅を4〜7μmとした。かかる方向性結合器を備えた光回路が配置されたチップを、ダイシングによって切り出し、入出力導波路11、12及び13、14にシングルモード光ファイバーを結合した。
【0036】
図4〜図7は、上述の石英系光導波路を用いた方向性結合器の作製プロセスを説明する図である。すなわち、シリコン基板1を用意し(図4)、シリコン基板1の一方の主面1A上に、石英系ガラスからなる下部クラッド層2Aとコア層3Aとを火炎堆積法により形成した後(図5)、後に導波路コア部3となる部分のみを残し、コア層3Aのうち残余の部分を反応性イオンエッチングにより選択的に除去する(図6)。最後に、石英系ガラスからなる上部クラッド層2Bを火炎堆積法によって下部クラッド層2Aの上に堆積させて、コア部3を上部クラッド層2Bで覆う(図7)。このように、本発明の石英系光導波路はSiCl4やGeCl4などの原料ガスの火炎加水分解反応を利用した石英系ガラス膜の堆積技術と反応性イオンエッチングとの組み合わせにより作製される。この実施形態では、コア部3の厚さを4.5μmと定め、コア部3とクラッド層2に用いられる石英系ガラスの比屈折率の差を1.5%となるように設定した。
【0037】
図8は、光導波路幅、すなわちシリコン基板1の主面1Aと平行な方向の幅(コア幅)を変化させて構成した方向性結合器について、TEモード及びTMモードの光結合率を測定し、両光結合率の差を3dB結合付近での偏光依存性と定義して、偏光依存性の光導波路幅依存性を求めた結果である。
【0038】
光導波路幅が狭くなり、コア断面形状が縦長となるに従って偏光依存性は低下し、本実施例の場合には、光導波路幅が約3.5μmの場合に信号光の偏光状態に依存しない光結合率を有する方向性結合器が得られた。即ち、本発明方向性結合器においては、コアの厚さ4.5μmに対し、1.0:0.7のアスペクト比(縦横比)の光導波路において、光結合率が信号光の偏光状態に依存しない方向性結合器が実現できた。コア部の機械的強度を確保する等の実用的な観点から、コア部の断面形状のアスペクト比(縦横比)を1.0:0.4〜1.0:0.8に定めることが好ましい。ここで、横方向とは、シリコン基板1の主面1Aと平行な方向を意味し、縦方向とは、この主面1Aと直交する、シリコン基板1の厚さ方向を意味する。
【0039】
図9は、偏光依存性の光導波路幅依存性を理論的に解析した結果である。ここで、コア3の厚さを一定にし、コア幅を変化させて3dB結合付近での結合率偏光依存性を求めた。具体的には、近接して構成された2つの導波路コア3と3、及びこれら2つのコア3と3との間のギャップにおける応力分布を有限要素法によって求め、それを元に屈折率分布を単純化して構成した方向性結合器モデルを作成し、ビーム伝搬法によって結合率の偏光依存性を計算した。
【0040】
図9によれば、導波路幅、すなわちコア幅を狭くし、コア断面形状が縦長になるに従って、TM偏光優勢からTE偏光優勢へと変化し光結合率の偏光依存性が減少していることが確認された。
【0041】
図8に示した実験結果と図9に示した理論計算結果とを比較すると、共に、偏光依存性は導波路幅が狭くなるにつれて減少するという傾向が認められた。図9に示した計算結果は、本発明方向性結合器の偏光依存性に対する導波路幅の効果についての定性的な裏付けとなっている。なお、計算結果と測定結果との間には偏光依存性の値に差異が認められるが、これは計算に用いたモデルが非常に単純化されたものであることが原因である。
【0042】
上述した実施形態においては、コアの厚さ4.5μm、比屈折率差1.5%の光導波路を用いた方向性結合器の例を示したが、本発明はこの例に限られるものではなく、これ以外のコアの厚さ及び比屈折率差の光導波路においても、コア断面形状を縦長にすることによって同様の効果が得られることは確認済みである。
【0043】
また、上述の実施形態では、光回路全体を一定幅の光導波路により構成した光回路の例について説明したが、光回路素子によっては光結合部21以外の光導波路におけるコア部のアスペクト比が他の比、例えば正方形或いは横長の構造としてもよいことは勿論である。かかる場合には、本発明方向性結合器の部分の光導波路の断面形状のみを縦長にし、光回路の残余の光導波路の部分のコア部のアスペクト比を所望の値としてもよい。またその際には、光損失低減の観点からコア形状の変換部分にテーパー形状の構造を有する光導波路を用いるのが好ましい。
【0044】
以上では、平面光導波路を用い、かつ光導波路としてシリコン基板上に形成した石英系ガラスの単一モード光導波路によって実現した光回路について本発明を説明してきたが、これは平面光導波路が集積性に優れ、大規模回路化や作製費用の低コスト化に優れるためであり、更には低損失で安定であり、かつ石英系光ファイバーとの整合性に優れているためである。しかしながら、本発明はこれらの組み合わせにのみ限定されるものではない。この場合には光結合率の偏光依存性が、クラッドとコアの熱膨張率差に起因する複屈折性により生じる。本発明は、クラッドとコアの熱膨張率差に起因して複屈折性を発現する他の材料の組み合わせの場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、2本の光導波路が互いに近接して配置された方向性結合器において、これらの光導波路のコア断面形状を縦長にすることにより、コアにおける複屈折性の作用を打ち消し、以って、光結合率の無偏光依存化を実現できる。
【0046】
本発明は、方向性結合器における光結合率の偏光無依存化を要求する光回路を実用化する上できわめて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態である方向性結合器を備えた光回路の概略を説明する模式図である。
【図2】図1のA−A′線に沿う断面図である。
【図3】図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図4】本発明の光導波路の作製工程を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の光導波路の作製工程を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の光導波路の作製工程を示す模式的断面図である。
【図7】本発明の光導波路の作製工程を示す模式的断面図である。
【図8】本発明の光回路が備える方向性結合器の光結合率の偏光依存性を説明するグラフである。
【図9】本発明の光回路が備える方向性結合器の光結合率の偏光依存性を、単純化したモデルに基づいて解析した結果である。
【図10】従来の方向性結合器を備えた光回路の概略を説明する模式図である。
【図11】図10のA−A′線に沿う断面図である。
【図12】図10のB−B′線に沿う断面図である。
【図13】一般的な方形光導波路を有する方向性結合器のモード結合定数を算出するための計算モデルの模式図である。
【符号の説明】
1 シリコン基板
1A シリコン基板の主面
2 クラッド層
2A 下部クラッド層
2B 上部クラッド層
3 コア部
3A 導波路コア層
11 入力導波路
12 入力導波路
13 出力導波路
14 出力導波路
15 方向性結合器部導波路
16 方向性結合器部導波路
21 方向性結合器
31 導波路
32 導波路
101 シリコン基板
102 クラッド層
103 コア部
111 入力導波路
112 入力導波路
113 出力導波路
114 出力導波路
115 方向性結合器部導波路
116 方向性結合器部導波路
121 方向性結合器
Claims (6)
- 基板と、該基板上に互いに近接して配置された2本の光導波路とを有する方向性結合器であって、前記光導波路が、実効屈折率に複屈折が生じているコア部を有し、前記コア部の断面形状を方形とし、該方形を、光結合率の偏光依存性がなくなるような、前記基板の主面と平行な辺の長さが残余の辺の長さより短い方形としたことを特徴とする方向性結合器。
- 前記光導波路がSiO2を主成分とする石英系ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の方向性結合器。
- 前記基板がシリコン基板であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の方向性結合器。
- 前記光導波路は火炎堆積法と反応性エッチング法の組み合わせにより形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方向性結合器。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性結合器を備えたことを特徴とする光回路。
- 前記方向性結合器を構成する光導波路以外の光導波路のコア部の断面形状を方形とし、該方形のうち前記基板の主面と平行な辺の長さが残余の辺の長さと等しいか、又は長いことを特徴とする請求項5に記載の光回路。
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