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JP4152001B2 - 歯科用磁性アタッチメントのキーパー - Google Patents
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JP4152001B2 - 歯科用磁性アタッチメントのキーパー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、歯科用磁性アタッチメントのキーパーに関するものである。さらに詳しくは、この発明は、全部床義歯及び部分床義歯等の可撤性義歯に用いる歯科用磁性アタッチメントのキーパーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
歯の欠損等が生じると、咀嚼等に支障が生じたり、発音が不良となったり、顔貌等の審美性が損なわれたり、ひいては、消化不良等の胃腸障害を始め、身体の健康に悪影響を及ぼしたりすることになる。歯の欠損等に対しては、義歯を装着することにより、咀嚼、発音機能を回復させることができ、顔貌等の審美性を改善させることができ、さらには、健康維持に資することができることになる。良好な咀嚼を行わせるには、義歯を安定した状態において装着・使用できるようにすることが肝要である。
【0003】
義歯は、維持装置によって残存歯に維持・安定するようになっている。部分床義歯の維持装置としては、クラスプ、アタッチメント、テレスコープ・クラウンに大別することができる。クラスプとは、残存歯に取付ける金属等からなる維持装置である。クラスプは、製造が比較的簡単であってしかも各種の形状を採用することができることから、症例に応じた製造ができ、汎用的であって広く使用されている。しかしながら、クラスプは、健全な残存歯の歯面に接触して使用されることから、歯の表面のエナメル質を傷つけることもあり、また、形態的に食渣を停滞させ易い。これは、日常的に歯面のブラッシングを行って取り除くことが必要であり、これを怠るとう蝕を発生させることになる。また、クラスプでは、残存歯に対する着力点が比較的高くなるため、咀嚼時等において、残存歯に過大な側方力や回転力が掛かることになり、残存歯の歯周組織の負担能力を越えると、歯周組織を損傷することになる。さらに、歯面を金属が覆うことになるため、審美的にも極めて不十分なものであり、患者が義歯を嫌がる最も大きな原因ともなっている。
【0004】
クラスプのような欠点のない維持装置としてアタッチメントとテレスコープ・クラウンが使用されている。アタッチメントとしては、例えば、雌部(フィメール)と雄部(メール)とで嵌合する滑動型アタッチメント、ボール・ソケット・ヒンジを有する蝶番型アタッチメント、ダルボ型として有名なジョイントタイプの関節型アタッチメント、ドルダーバー、アッカーマンと呼ばれる固定バー型アタッチメント等各種のものがある。また、テレスコープ・クラウンとしては、コーヌスクローネテレスコープが確立された技術として存在している。
【0005】
しかしながら、これらのアタッチメントは、その製作が複雑である。人の咀嚼時の咬合力は、平均すると78kgもあるといわれており、咀嚼時の咬合圧によってアタッチメント本体の破損や、アタッチメントを取り付ける残存歯の損傷に至り易い。また、テレスコープ・クラウンでは、内冠と外冠との適合精度がよい場合は維持装置として優れた性能を有しているが、良好な適合精度を確保するには熟練を要し、しかも、テレスコープ・クラウンを製造するための専用機器が必要となることから、高価となり一般的とはいい難い。そして、内冠と外冠との適合精度が悪いまま口腔内に装着されると、義歯の脱落を招くことになる。
近年、アタッチメントとして、図5に示すような磁石構造体(21)とキーパー(22)とからなる磁性アタッチメント(23)が開発され、急速に普及してきている。前記磁石構造体(21)は永久磁石を内臓したものであって、接合面(21a)を露出するようにして義歯床(24a)に埋設固定されており、支台歯(25)に埋設固定された根面板(26)に設けられた軟磁性材料からなるキーパー(22)の吸着面(22a)に前記接合面(21a)を磁気的に吸着させて固定するようになっている。磁石構造体(21)は、キーパー(22)に対し垂直方向には非常に強い磁力で吸引するが、キーパー(22)の表面とその接合面(21a)とに平行な力、すなわち、義歯(24)に側方力が働いたときは、比較的弱い力で離脱することになることから、側方力による支台歯(25)や歯根膜(27)への悪影響が少ない。また、キーパー(22)と磁石構造体(21)との接合構造は、方向性に関する制限が全くないことからテレスコープ・クラウンほどの高精度を要求されず、その製作が容易でもある。そして、磁性アタッチメント(23)は、義歯の着脱が簡便で取り扱いやすく、審美的にも極めて良好なものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
磁石構造体は、義歯床に、例えば、金属接着性プライマー(例えば、GCメタルプライマーII)と常温重合レジン(例えば、GCユニファストII)によって接着されるが、キーパーは、通常、磁性ステンレス鋼からなり、鋳接法により金銀パラジウム合金等の歯科用合金からなる根面板の鋳造時に根面板と一体化される。このような鋳接法によって形成されたキーパー付き根面板は、支台歯への装着後の安定性に優れるものであるが、この鋳接操作は通常1,000℃程度の高温において行われることから、磁性ステンレス鋼からなるキーパー表面が容易に酸化され酸化被膜を形成することになる。
この酸化被覆のうち、キーパーの磁石構造体との吸着面に形成された酸化被膜は、酸浴、サンドブラスト処理、バフ研磨等によって除去することが可能であり、その後不動態被膜を形成することになるが、メーカーで作製された鏡面仕上げと同等な平面精度とするには熟練を要する上に困難なことであり、酸化被膜の不十分な除去では、キーパーの吸着面の面荒れを引き起こし、磁石構造体との密着性が不十分となって磁気回路を乱すことになり、磁気アタッチメントの維持力低下の一因ともなる。
【0007】
一方、歯科用合金との境界部に形成された酸化被膜の除去は不可能であり、キーパー付き根面板が口腔内に装着されると、口腔内環境下で唾液等による化学的作用を受けることになる。歯科用合金は、通常金銀パラジウム合金などの非腐食性合金が使用されていることから、口腔内環境下で根面板は唾液等による化学的作用を受けないものの、キーパーの酸化被膜は容易に崩壊し、ついには隙間腐食よるキーパーの破壊に至ることもある。この場合、キーパーが根面板と分離し脱落する可能性も生じるが、そこ迄進行しなくても、磁性アタッチメントの吸引力は大幅に減少することになる。
【0008】
磁性ステンレス鋼からなるキーパーは、鋳接時に冷やし金の作用をすることから、この部分の熱を放散しやすいためにキーパー辺縁で鋳造欠陥を引き起こしやすく、良好なキーパー付き根面板を得るには熟練を要する。そして、このような鋳接操作は、歯科技工操作としては余り一般的でないことから、鋳接操作ミスを起こしやすくトラブルの原因ともなりやすい。
【0009】
キーパーは磁性ステンレス鋼であることから、MRI(Magnetic Resonance Imaging)診断時に、その周囲の画像を乱すことが知られている。脳頭蓋内のMRI診断には口腔内のキーパーの影響は殆ど無いことが確認されてはおり、また、口腔内疾患で実際にMRI診断を必要とする場合は少ないものの、交通事故等による頭部損傷の場合等においてはMRI診断の為にキーパーの一時取り外しも必要となる可能性は否定できない。その様な場合、根面板からキーパーのみをエアタービンで削除し、MRI診断後、キーパーを金属接着性レジンを用いて根面板に再接着する方法が推奨されている。しかしながら、このような方法によるキーパーの取り外しは、口腔内でステンレス鋼を切削するため、術者と患者双方に大きな負担を強いるものであり好ましいものとはいえない。また、再接着によるキーパーと根面板との接着においては、再接着するキーパーの位置が当初のそれと必ずしも合致することにはならず、その様な状態でのキーパーの根面板への再接着によっては、キーパー吸着面と義歯床に埋設された磁石構造体の接合面との密着性が不十分な場合が発生する。このような場合、磁性アタッチメントの機能が半減することになる。
【0010】
また、磁性アタッチメント義歯は患者自身による着脱操作や清掃が極めて容易なことから、寝たきり老人等にとっても有用な義歯である。磁性アタッチメント義歯の製作は、通常の補綴物の製作に比較して容易であるとは云え、ベッドサイドでの治療のような条件下では、支台歯の形成、印象採得、支台歯へのキーパー付き根面板の合着等の操作は容易とはいえない。
【0011】
初期の磁性アタッチメントにおいては、支台歯に嵌合孔を設け、該嵌合孔にキーパー下面に突出したピンを嵌合させ、歯科用アマルガムや常温重合レジン等を用いてキーパーを直接支台歯に接着固定する方法も行われている。歯科用アマルガムは、磁性ステンレス鋼からなるキーパーとの接着性が乏しいことから、これによるキーパーの支台歯への固定は困難である。磁性アタッチメントにおいては、口腔内で磁石構造体の接合面がキーパーの吸着面に密着することが必要であるが、歯科用アマルガムをキーパーの吸着面にまで盛って支台歯へのキーパーの接着を補強すると、磁石構造体とキーパーとの吸着力が損なわれ、磁性アタッチメントの機能が発揮できないことになる。また、キーパーと支台歯とを常温重合レジンによって接着させるには、キーパーをプライマー処理することが必要であるが、良好で均一なプライマー処理を安定して行うには熟練を要することから、臨床現場でのトラブルが多発しやすい傾向にある。
【0012】
この発明は、上記のような実情に鑑み鋭意研究の結果創案されたものであり、鋳接法によるキーパー付き根面板のようにキーパーの表面の酸化被膜の形成がなく、また、磁性ステンレス鋼本来の耐食性を損なうことがなく、キーパーの根面板への着脱が可能であって、長期間にわたる咀嚼等によってキーパーと根面板とが分離することがなく、MRI診断時等において根面板からのキーパーの取り外し、および、撮像後の再合着が容易な歯科用磁性アタッチメントのキーパーを提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明は磁性アタッチメントのキーパーを根面板に固定するのに、鋳接法に代え、レジンセメントまたは歯科用充填材を用いて根面板に固定するものである。そのため、この発明の歯科用磁性アタッチメントのキーパーは、磁石構造体との吸着面を除いたキーパーの表面に、少なくとも金属接着性ポリオレフィンを含む熱可塑性合成樹脂被覆が施されてなることを特徴とする。
【0014】
前記熱可塑性合成樹脂被覆は、アクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは歯科用充填材との接着性が良好なことから、根面板と前記キーパーの熱可塑性合成樹脂被覆との間に前記レジンセメントまたは歯科用充填材を用いるだけで、根面板に前記キーパーを容易かつ確実に接着することができる。しかも、接着に先立ち、サンドブラスト処理や、プライマー塗布等の処理を行わなくても良好な接着性を示し、しかも、長期間にわたる咀嚼等による口腔内での使用によってもキーパーと根面板との接着が劣化せず、キーパーと根面板とが分離することがない。そして、MRI診断時等において、根面板から前記キーパーを取り外すことが必要な場合には、根面板と前記キーパーの熱可塑性合成樹脂被覆との間のレジンセメントまたは歯科用充填材を破壊するだけでよく、また、撮像後、取り外したキーパーの根面板への再合着は、再度、レジンセメントまたは歯科用充填材を用いて容易に行うことが可能で、術者と患者の負担は小さいものである。
【0015】
キーパーとしては、磁性ステンレス鋼に例示される軟磁性金属材料を採用すればよく、メーカーで鏡面仕上げされた平面精度の良好なものをそのまま使用することができる。
【0016】
熱可塑性合成樹脂中の金属接着性ポリオレフィンによってキーパーに熱可塑性合成樹脂被覆が接着固定される。金属接着性ポリオレフィンとしては、超低密度ポリエチレンにカルボン酸がグラフト反応により導入されてなるものであることが好ましい。この金属接着性ポリオレフィンとキーパーとの接着機構ははっきりしていないが、グラフト反応により導入されたカルボン酸とキーパーの表面の不動態被膜や収着水分中の−OH基等と化学結合または水素結合を引き起こすことによるものと考えられる。
前記熱可塑性合成樹脂被覆はキーパーの磁石構造体との吸着面を除いた全ての面に設けることが好ましいが、これに限られるものではない。磁石構造体との吸着面を除いた面に前記熱可塑性合成樹脂被覆を設けるには、射出成型および圧縮成型を採用することができる。前記熱可塑性合成樹脂被覆はキーパーを根面板にアクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは歯科用充填材によって接着するに充分であればよいことから、その厚さは特に限定されるものではない。
【0017】
ところで、例えば、磁性アタッチメントを使用した部分床義歯において、咀嚼時に義歯にかかる咀嚼力による負荷圧力は、磁性アタッチメントを用いた維持装置のある部分では、支台歯の根面板を介し歯根膜組織に伝達され、歯根膜組織の圧受容器の求心性インパルスによって反射的にうまくコントロールされる。この時、歯根膜組織は、咀嚼力による垂直圧によって最大約100〜200μm圧入することになる。これに対し、粘膜支持される部分では、咀嚼力による負荷圧力が義歯床下粘膜組織を介して歯槽骨に及び、その負荷のかかった粘膜組織は多いときには約1000μmも圧縮される。この部分の負荷圧力のコントロールは粘膜内の痛覚受容器のインパルスによって行われるものと考えられ、負荷圧力に対する圧負担の限度は必ずしも無害の範囲に留まらない。このように、維持装置のある歯根膜組織の垂直的沈下量は義歯床下粘膜組織の約5分の1から約10分の1となり、支台歯と粘膜の両者が荷重を分担するいわゆる遊離端義歯の場合は支台歯の歯根膜と粘膜における適切な荷重配分が極めて重要で、かつ難しいものとなる。
【0018】
このように、歯根膜と粘膜とでは咀嚼力を受けたときの応答、すなわち、沈下量のオーダーが違うため、例えば、近心に維持装置がある遊離端義歯の近心部に咀嚼力が加わると、咀嚼力の大部分は維持装置を介して歯根膜に伝達され、咀嚼部位が維持装置から離れて遠心に向かうにつれて粘膜支持の度合が増し、ある程度の義歯床の沈下によって粘膜組織による支持力が生ずる。したがって、義歯床下粘膜組織はこの場合に全体にわたって均等な圧負担をしていないし、それだけに維持装置を介して支台歯の歯根膜に荷重負担が片寄ることになる。その結果、負担過荷重による歯周組織の破壊が起こったり、支台歯の歯根膜への有害なテコの作用が増し、貴重な支台歯を喪失する原因となり易い。
【0019】
この発明の歯科用磁性アタッチメントのキーパーを用いると、磁石構造体との吸着面を除いたキーパーの表面に施されてなる少なくとも金属接着性ポリオレフィンを含む熱可塑性合成樹脂被覆が衝撃吸収材として機能し、咀嚼等による咬合圧を緩衝することなり、キーパーの前記熱可塑性合成樹脂被覆が咀嚼力に対して歯根膜の沈下量を補うかたちで弾性変形し、全体として義歯床下粘膜組織と同等の沈下量にすることができ、咀嚼力による負荷圧力の偏在による支台歯や粘膜の破壊を防ぎ、支台歯の歯根膜へのテコ作用が及ぶのを軽減し、咬合のバランスを保ちつつ、咀嚼感も良好であって、長期間にわたる使用が可能ともなる。
このように、前記熱可塑性合成樹脂被覆によって、咬合圧を緩和させるようにする場合には、前記熱可塑性合成樹脂被覆の厚さを咬合圧を緩和させるに適した厚さとなるように設定すればよい。
【0020】
歯根膜は、粘弾性体であって、一般に107 〜108 dyne/cm2 (ミューレマンの研究によると3.9×108 dyne/cm2 、Ast,D.等の研究によると0.23〜0.43×108 dyne/cm2 )程度の弾性係数を有すると考えられており、前記した熱可塑性合成樹脂では、粘膜と同等の沈下量を得ることができない場合は、可塑剤を添加することも可能である。
【0021】
可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、エポキシ系、脂肪酸エステル系等の可塑剤が採用できる。フタル酸エステル系としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸n−オクチル、フタル酸n−デシル、フタル酸ジ−n−デシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ−n−ドデシル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジ2エチルヘキシル等が採用できる。脂肪族二塩基酸エステル系としては、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−n−デシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(メチルシクロヘキシル)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が採用できる。リン酸エステル系としては、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸2エチルヘキシル、リン酸2ジフェニル、リン酸トリクレジル等が採用できる。エポキシ系としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化トール油脂肪酸2エチルヘキシル等が採用できる。脂肪酸エステル系としては、ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、アセチル化リシノール酸メチル等が採用できる。その可塑剤の前記熱可塑性合成樹脂への添加量としては、60%以下であることが望ましい。可塑剤の添加量が60%を超えると、前記熱可塑性合成樹脂が塑性変形を起こし、衝撃吸収能力が劣化することから好ましくない。
また、前記熱可塑性合成樹脂に、助剤、安定化剤等を添加してもよい。
【0022】
前記熱可塑性合成樹脂としては金属接着性ポリオレフィン単独であっても、または、金属接着性ポリオレフィンを含むポリマーブレンドであってもよい。熱可塑性合成樹脂として、金属接着性ポリオレフィン単独の場合は、成型後の離型性を良好にするため、金型に離型剤を塗布することが好ましい。また、成型時のひけを防止するためには、成型速度を低くするようにすればよい。ポリマーブレンドからなるものを使用する場合、金属接着性ポリオレフィン以外の熱可塑性合成樹脂としては、高圧低密度ポリエチレン(HPLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の軟質ポリエチレン、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレンビニルアルコール共重合体(PVOH)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、エチレン系イオノマー等が採用できる。金属接着性ポリオレフィン以外のこれらの熱可塑性合成樹脂は、金属接着性ポリオレフィンに対し1種または2種以上をポリマーブレンドすることができる。ポリマーブレンドにおける熱可塑性合成樹脂の組合せは、金属接着性ポリオレフィンのキーパーとの接着性を疎外しないものであって、樹脂相互の相溶性、混和性を考慮し、弾性等の機械的特性、生体適合性、離型性、ひけ防止性等の成型加工性、製造コスト等を勘案の上決定する。その混合割合は、キーパーとの接着性が十分確保できる範囲を選定することが必要である。金属接着性ポリオレフィンと他の熱可塑性合成樹脂とをポリマーブレンドして使用する場合、金属接着性ポリオレフィンが熱可塑性合成樹脂100重量部中5.6重量部以上であることがキーパーとの十分な接着力を得る上で好ましい。金属接着性ポリオレフィンが熱可塑性合成樹脂100重量部中5.6重量部未満では、キーパーとの接着力が劣ることになり好ましくない。
【0023】
ポリマーブレンドとしては、金属接着性ポリオレフィン、EVA、軟質ポリオレフィンを組合せることが、キーパーとの接着性が十分であって、離型剤を使用しなくても成型が可能であり、成型加工性が良好であることから好ましい。この場合、ポリマーブレンドとしては、金属接着性ポリオレフィン5〜55重量部、EVA55〜25重量部、軟質ポリエチレン10〜35重量部の配合割合が適当である。金属接着性ポリオレフィンが5重量部未満では、キーパーとの接着力が不十分となって好ましくなく、55重量部を超えると、キーパーとの接着力は十分なものの成型時に離型剤を使用することが必要となってくる。この場合において、金属接着性ポリオレフィンが5重量部以上10重量部未満まではキーパーとの接着力が有りかつ離型性が特に良好であり、10重量部以上30重量部未満まではキーパーとの接着力が有り、離型性と成型加工性が特に良好であり、30重量部以上ではキーパーとの接着性、離型性、成型加工性のバランスを図ることができる。このうち、最も好ましい配合割合は、金属接着性ポリオレフィン30重量部、EVA45重量部、軟質ポリエチレン25重量部である。
【0024】
ポリマーブレンドには、溶融による物理ブレンド法、リアクティブプロセッシング法等各種の方法が採用できるが、溶融による物理ブレンド法が、均一な分散の点から好ましい。溶融による物理ブレンドにおいては、ブレンドする熱可塑性合成樹脂の軟化温度、溶融粘度等が接近している場合は、単軸スクリュー押出機等を用いるのが好ましく、軟化温度の差が大きく、溶融粘度も大きく異なる場合は、2軸スクリュー押出機を用いるのが好ましい。ポリマーブレンドされ押出機から押し出された材料は、ペレットの状態にして押出成型に供する。このようなポリマーブレンドによれば、高価な金属接着性ポリオレフィンの使用量を少なくすることができ、より安価な歯科用磁性アタッチメントのキーパーを提供することができることになる。
【0025】
本発明の歯科用磁性アタッチメントのキーパーを製造するには、前処理工程としてキーパーを脱脂し、表面を清浄することが好ましい。脱脂剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、非イオン性界面活性剤を使用することができる。とりわけ、エチルアルコールが望ましい。通常ステンレスの表面を清浄にするために用いられるトリクロルエチレン等の有害な有機溶媒は使用する必要がない。従って、製造に当たっては、キーパー表面を脱脂して清浄し、成型に供するだけでよいことから、作業も安全でかつ容易であり、製造コストを上昇させることがない。
また、成型温度、成型時間、成型圧力は、成型方法および使用する金属接着性ポリオレフィンおよび/またはポリマーブレンドする熱可塑性合成樹脂に依存するものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
図1は、この発明のキーパー(1)を使用した歯科用磁性アタッチメント(2)の一例を示し、キーパー(1)に磁石構造体(3)を磁気吸着させる直前の状態である。この例では、歯科用磁性アタッチメント(2)は下顎小臼歯に用いられたものとして示されている。
図1に示されるように、磁性ステンレス鋼からなるキーパー(1)は、少なくとも磁石構造体(3)との吸着面(1a)が鏡面仕上げされ、該吸着面(1a)を除いた面に、少なくとも金属接着性ポリオレフィンからなる熱可塑性合成樹脂被覆(4)が設けられている。そして、支台歯(5)に形成された根面板(6)の凹部に、アクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは歯科用充填材(図示せず)によって接着・固定されている。
【0027】
磁石構造体(3)は接合面(3a)を露出するようにして義歯床(7)に埋設され、アクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは常温重合レジン(図示せず)によって固定されており、義歯(8)の口腔内への装着は、磁石構造体(3)の接合面(3a)をキーパー(1)の吸着面(1a)に接合させ、磁石構造体(3)とキーパー(1)とを磁気的に吸着させて行えばよい。
【0028】
キーパー(1)と前記樹脂被覆(4)との接着は、樹脂被覆(4)が少なくとも金属接着性ポリオレフィンを含有することから、キーパー(1)の磁性ステンレス鋼の表面の不動態被膜や収着水分中の−OH基等と金属接着性ポリオレフィンのグラフト反応により導入されたカルボン酸と化学結合または水素結合を引き起こすことによるものと考えられる。
【0029】
そして、前記熱可塑性合成樹脂は、アクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは歯科用充填材との接着性が良好なことから、キーパー(1)に施した樹脂被覆(4)と根面板(6)との間に前記レジンセメントまたは歯科用充填材を用いるだけで、根面板(6)にキーパー(1)を容易かつ確実に接着・固定することができる。この操作は、通常の歯科治療操作に類似した操作によって行うことができることから熟練を要することがない。また、MRI診断時等において、根面板(6)からキーパー(1)を取り外すことが必要な場合には、キーパー(1)と樹脂被覆(4)との間の接着力が樹脂被覆(4)とレジンセメントまたは歯科用充填材との接着力より良好なことから、根面板(6)とキーパー(1)の熱可塑性樹脂の樹脂被覆(4)との間のレジンセメントまたは歯科用充填材を破壊するだけで、キーパー(1)と根面板(6)とを分離することができ、また、撮像後、取り外したキーパー(1)の根面板(6)への再合着は、再度、レジンセメントまたは歯科用充填材を用いて行えばよく、口腔内において容易に行うことができる。
【0030】
キーパー(1)としては、図1、図3に示された形状のものに限られず、図2、図4に示されるように断面台形の逆テーパ形状であってもよいものである。ここで使用される根面板(6)は、歯科用アマルガムまたは支台築造用コンポジットレジンを用いて歯科臨床操作に類似した操作によって支台歯(5)に形成させることができる利点がある。また、根面板(6)に歯科用アマルガムまたは支台築造用コンポジットレジンを用いる場合、根面板(6)としては、図1、図2に示されるような合釘(6a)を有するものに限られず、図3、図4に示されるように、短い突起(6b)を設けた根面板(6)を支台歯(5)に固定するようにしてもよいものである。なお、図2〜図4においては、図1と同一のものには同一番号を付し詳細な説明は省略する。
【0031】
【実施例】
次に実施例を示し、さらに詳しく説明する。
(実施例1)
キーパーの被覆として、超低密度ポリエチレンにカルボン酸がグラフト反応により導入されてなる金属接着性ポリオレフィン(商品名;アドマー グレードXE−070:三井石油化学工業(株)製)30重量部、EVA(商品名;EVAFLEX P−1407:三井デュポンケミカル(株)製)45重量部、軟質ポリエチレン(商品名;ULTZEX 20200J:三井石油化学工業(株)製)25重量部を、230℃、2時間30分間溶融して混練し、ポリマーブレンドとしたものを用いた。
キーパーとして、磁性ステンレス鋼(AUM20;SUS444相当:愛知製鋼(株)製)を使用した。
該キーパーの表面をエチルアルコールによって脱脂した後、金型内に設置し、成型温度180℃、成型時間10秒にて前記ポリマーブレンドを押出成型し、キーパーの吸着面は除いてポリマーブレンドで被覆した。被覆の厚さは0.3mmとした。
【0032】
得られたキーパーを、下顎小臼歯の残存歯根を支台歯とする3人の患者用の図1に示す形状の根面板にコンポジット系のレジンセメント(商品名;ビスタイトセメント:(株)トクソー製)によって接着・固定した。患者用の義歯としては、ネオジム−鉄−ボロン系の希土類磁石を磁性ステンレス鋼(AUM20;SUS444相当:愛知製鋼(株)製)で被覆した磁石構造体(商品名;マグフィットEX600:愛知製鋼(株)製)を用い、通常の義歯作成方法に従って部分床義歯をそれぞれ作成した。
【0033】
これをそれぞれ3人の患者に装着し、3ヶ月間臨床使用した。咬合状態はいずれも良好であり、根面板からのキーパーの脱落も認められなかった。
【0034】
また、得られたキーパーにおけるポリマーブレンド被覆の接着性は、以下のようにして接着界面の破壊の状態を目視にて観察することにより評価した。
すなわち、前記したキーパーを被覆しているのと同一素材である磁性ステンレス鋼板(SUS444、サイズ;25mm×175mm×2mm)の表面をエチルアルコールによって脱脂した後、金型内に設置し、片面に上記ポリマーブレンドを180℃、成型時間10秒にて押出成型し、得られたものを試料とした。ポリマーブレンドの厚みは、1.2mmとした。試料は5個作製し、ペンチで被覆層を引き剥がして、その界面の破壊の状態が、被覆層の凝集破壊、部分的な凝集破壊、界面剥離の3つのどれに当たるかを評価したところ、4例が凝集破壊、1例が部分的な凝集破壊であった。
【0035】
(実施例2)
被覆として、実施例1の金属接着性ポリオレフィンを単独使用した。
キーパーとして実施例1と同一の磁性ステンレス鋼を使用し、該キーパーの表面をエチルアルコールによって脱脂した後、金型内に設置し、成型温度180℃、成型時間20秒にて前記金属接着性ポリオレフィンを押出成型し、キーパーの吸着面は除いて金属接着性ポリオレフィンで被覆した。被覆の厚さは0.3mmである。なお、成型に先立ち、金型内にフッ素系ノンシリコンタイプ離型剤を塗布した。
【0036】
得られたキーパーを、下顎小臼歯の残存歯根を支台歯とする3人の患者用の図1に示す形状の根面板にコンポジット系のレジンセメント(商品名;パナビアEX:クラレ(株)製)によって接着・固定した。患者用の義歯としては、ネオジム−鉄−ボロン系の希土類磁石を磁性ステンレス鋼(AUM20;SUS444相当:愛知製鋼(株)製)で被覆した磁石構造体(商品名;マグフィットEX600:愛知製鋼(株)製)を用い、通常の義歯作成方法に従って部分床義歯をそれぞれ作成した。
【0037】
これをそれぞれ3人の患者に装着し、3ヶ月間臨床使用した。咬合状態はいずれも良好であり、根面板からのキーパーの脱落も認められなかった。
【0038】
また、得られたキーパーにおけるポリマー被覆の接着性は、実施例1と同様の方法で評価した。試料は、実施例1で用いたのと同一の磁性ステンレス鋼板の表面をエチルアルコールによって脱脂した後、金型内に設置し、片面に上記金属接着性ポリオレフィンを180℃、成型時間20秒にて押出成型したものを用いた。磁性ステンレス鋼のサイズは実施例1と同一とした。金属接着性ポリオレフィンの厚みは、1.2mmとした。結果は、5例とも凝集破壊であった。
【0039】
【発明の効果】
この発明は、以上詳しく説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
この発明の歯科用磁性アタッチメントのキーパーは、磁石構造体との吸着面を除いたキーパーの表面に、少なくとも金属接着性ポリオレフィンを含む熱可塑性合成樹脂被覆が施されてなるもので、前記熱可塑性合成樹脂被覆は、アクリル系またはコンポジット系のレジンセメントまたは歯科用充填材との接着性が良好なことから、根面板と前記キーパーの熱可塑性合成樹脂被覆との間に前記レジンセメントまたは歯科用充填材を用いるだけで、根面板に前記キーパーを容易かつ確実に接着することができる。この操作は、通常の歯科臨床操作に類似した操作によって行うことができることから熟練を要することがない。しかも、接着に先立ち、サンドブラスト処理や、プライマー塗布等の処理を必要としないで、良好な接着性を示し、しかも、長期間にわたる咀嚼等による口腔内での使用によってもキーパーと根面板との接着が劣化せず、キーパーと根面板とが分離することがない。そして、MRI診断時等において、根面板から前記キーパーを取り外すことが必要な場合には、根面板と前記キーパーの熱可塑性合成樹脂被覆との間のレジンセメントまたは歯科用充填材を破壊するだけでよく、また、撮像後、取り外したキーパーの根面板への再合着は、再度、レジンセメントまたは歯科用充填材を用いて容易に行うことが可能で、術者にとって有用であり、寝たきり老人等を含め広範囲の患者にとっても負担は小さいものである。このように、キーパーは繰り返し使用することができることから、鋳接したキーパーをエアタービンによって根面板から削除するようなことがなく、安価となる。また、取り外したキーパーの根面板への再合着により、取り外し前と同様な状態に容易にでき、キーパーの吸着面と義歯床に埋設された磁石構造体の接合面との密着性に支障を生じないことから、咬合を繰り返すことによる義歯床からの磁石構造体の脱落の恐れがない。
キーパーと根面板との一体化は従来の鋳接法によらないことから、キーパーが磁性ステンレス鋼の場合、キーパー表面に酸化被膜が形成されない。よって、キーパーの磁石構造体との吸着面の面荒れが生ずることがなく、磁石構造体との密着性が充分で磁気アタッチメントの維持力の低下が生じたり、口腔内での使用によりキーパーと根面板との間での酸化被膜の隙間腐食が生じたりすることがないので、キーパーと根面板との隙間腐食による脱落を引き起こす恐れがない。また、キーパーと根面板との一体化を従来の鋳接法によらないことから、キーパーは側面の維持棒を必要せず術式の大幅な簡略化が可能となり、また、製造コストを抑えることが可能となる。そして、印象採得、蝋型採得、セメント合着等といった鋳接法に基づく多くの臨床・技工操作が不要となり、キーパー、および、キーパーの根面板への装着、再装着のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のキーパーを使用した歯科用磁性アタッチメントを用いた義歯の説明図である。
【図2】この発明の他のキーパーを使用した歯科用磁性アタッチメントを用いた義歯の説明図である。
【図3】この発明のさらに他のキーパーを使用した歯科用磁性アタッチメントを用いた義歯の説明図である。
【図4】この発明のさらに他のキーパーを使用した歯科用磁性アタッチメントを用いた義歯の説明図である。
【図5】従来の歯科用磁性アタッチメントを用いた義歯の説明図である。
【符号の説明】
1 キーパー
2 磁性アタッチメント
3 磁石構造体
4 被覆
5 支台歯
6 根面板
7 義歯床
8 義歯

Claims (4)

  1. 永久磁石を備えた磁石構造体に磁気的に吸着する歯科用磁性アタッチメントのキーパーにおいて、
    磁石構造体との吸着面を除いた前記キーパーの表面に、少なくとも金属接着性ポリオレフィンを含む熱可塑性合成樹脂被覆が成型により施されてなり、
    前記金属接着性ポリオレフィンは、超低密度ポリエチレンにカルボン酸がグラフト反応により導入されてなるものであることを特徴とする歯科用磁性アタッチメントのキーパー。
  2. 前記金属接着性ポリオレフィンを含む熱可塑性合成樹脂被覆がレジンセメントまたは歯科用充填材を用いて根面板の凹部に接着・固定されるようになっていることを特徴とする請求項1記載の歯科用磁性アタッチメントのキーパー。
  3. 金属接着性ポリオレフィンが熱可塑性合成樹脂100重量部中5.6〜100重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用磁性アタッチメントのキーパー。
  4. 前記熱可塑性合成樹脂が、金属接着性ポリオレフィン5〜55重量部、EVA55〜25重量部、軟質ポリエチレン10〜35重量部のポリマーブレンドからなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用磁性アタッチメントのキーパー。
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